幽霊騒動を解決するために《ローエングリン城》へと向かったエドとオランピアは、そこで結社《身喰らう蛇》に所属する《鉄機隊》の三隊士と出会う。
彼女達の目的を聞こうとしたエド達だったが、突如現れた謎の騎士達の襲撃にあい、そのまま戦闘に入った。
《鉄機隊》の三人が悪戦苦闘する中、エド達が介入したことで謎の騎士達を見事に撃退。
一瞬の内に騎士達を倒したエドの実力に瞠目していた三人であったが、その後、お互いの素性と目的を教え合っていた。
「この城で不審な人影を見た?」
「あぁ。普段、出入りしないこの城に今月の頭くらいから不審な人影が何度も出入りしているという情報を掴んでな。その調査のために我ら《鉄機隊》が出向いたのだ」
アイネス達からの情報を聞き、エドは手を顎に当てて深く考え込む。
件の幽霊騒動が起き始めたのも今月の始め。奇しくも不審な人物が現れた時期と重なっていた。
「ここ一週間、私達なりに調査を続けていたのだけれど、手がかりはなし。街の人があの城に忍び込んだり、別の所から入ってきたところも見かけなかったの」
「ですが、今日になって、その人影が突然現れたんですの」
エンネアが事の詳細を説明していたが、途中でデュバリィが横から入り、そのまま話を続ける。
「私達はその者を捕らえるべく、この城に来ました。そしたら、あの騎士甲冑の連中が現れて、いきなり襲いかかってきやがったんですの。最初の方はそんなに苦戦はしなかったのですが……」
「敵の数とその連携に見事、打ち負かされたと……」
「うぐ……」
エドが述べた結論に呻き声を上げるデュバリィ。事実であるゆえに何も言い返すことができない。
「さっき人影が現れたって言っていたが、特徴はわかるか?」
「確か、鎧を着た大男だったわ」
「巨大な斧槍を持った、紫髪の男だった」
不審人物の特徴を聞いたエドは隣で一緒に聞いていたオランピアと視線を合わせる。
「エドさん、もしかして……」
「あぁ。あいつだな」
エドとオランピアの頭に浮かんだのは、飢えた獣のような目で獰猛に笑う武人のような男。
今回の騒動がエド達を狙う組織――《庭園》の仕業であることが確定した。
「心当たりがあるのか?」
「まあな。そいつが今回の幽霊騒動の犯人で間違いないだろう。……それで、お前達はこれからどうするんだ?」
「もちろん、その者をとっ捕まえにいきますわよ。かつて、マスターの居城であったこの場所で悪行を起こそうとする蛮行。私達《鉄機隊》が見過ごすわけにはいきませんわ!」
「でも、例の騎士達に苦戦して全然進めていないんだろう。それをどうするのかって聞いてるんだ」
「う……、そ、それは……」
エドからの指摘に再び言葉を詰まらせるデュバリィ。
エドの言う通り、今回の犯人を捕らえるには道中で現れる、騎士達を撃退しなくてはならない。だが、彼女達はそんな彼らに苦戦しており、先に進むことができずにいたのだ。
「あの騎士達はそもそも何者なのだ? この城であれほどの手練れの騎士達がいるという話は聞いたことがない」
「そうね。見た感じ、霊的な類いだと思うけど。それがこの城にさまよっているなんて話も聞いたことがないわね」
結社最強の武人である《鋼の聖女》の下で研鑽を積んでいた自分達が苦戦を強いられた謎の騎士達の正体にアイネスとエンネアは疑念を抱いていた。
「あの騎士達の正体については見当がついている」
だが、その疑念はすぐに解かれた。彼女達と対峙している一人の剣聖によって。
「わ、わかったんですの?!」
「あぁ。このレグラムに滞在して、いろんな話を聞いたからな。そっからの情報と今回の騒動を照らし合わせれば、答えは出てくる」
エドは一旦、言葉を区切って、深刻な表情を浮かべながらデュバリィ達に騎士達の正体を告げる。
「あいつらは《鉄騎隊》だ」
「《鉄騎隊》だと?」
「そうだ。二百五十年前の《獅子戦役》で《獅子心皇帝》と《槍の聖女》と共に戦った、あの《鉄騎隊》だ」
エドの口から告げられた騎士達の正体に全員が目を丸くする。
「ここに来る前にラウラ嬢……、アルゼイド家の令嬢が言っていたんだ。この城にはいまだ成仏できていない《鉄騎隊》の隊士達の魂がさまよっているってな。そして、今回の騒動である幽霊は悪魔の眷属である夢魔達が化けたものだ」
「まさか、街で出会った幽霊と同じ、夢魔達が化けているのですか?」
オランピアの咄嗟に思い浮かんだことにエドはうなずく。
「夢魔は人の記憶や魂を読み取って、それを元に姿を化ける魔物だ。今回の場合は街と違って、この城にさまよっている《鉄騎隊》の魂から読み取って、彼らの姿に化けたんだろう」
「でも、街の幽霊のようにこちらを誘うだけで彼らみたいに戦う力はなかったはずです。同じ夢魔なのにここまで力の差があるのはどうしてですか?」
「たぶん、主である悪魔との距離が近いからだろうな」
エドは一度、目を閉じて頭上を見上げる。《魔眼》を解放した目は天井の壁を越えて、城の最上階に佇む異様な存在を捉える。その存在はクロスベルとリベールで出会った悪魔と同じ気配を漂わせていた。
「眷属である夢魔達は主である悪魔との距離が近ければ近いほど、その力を強くしていく。街ではただ姿を化けることしかできないようだったが、ここまで距離が近ければ、化けた者の力を使って戦うこともできるんだろう」
エドの解説を静かに聞いていたデュバリィ達は息を呑んでいた。
自分達が相手をしていたのが、歴史に語り継がれし伝説の騎士団だったのだ。自分達が苦戦するのも無理もない話だ。
「もっとも、完璧に再現されているのかって言われたら違うな」
「あ、あれで未完成なんですの?!」
「あぁ。記憶と魂を読み取って、その者の実戦の経験や仲間との連携力は再現できているようだが、本人の素の実力がまだ完璧に再現されていない。実力と連携に差があったのはそれが理由だろう」
戦いにおいて連携力を高めるには仲間達と共に多くの実戦を積み上げていく必要がある。実戦を積めば、それだけ実力も上がるので、実力が連携力よりも劣っているということはまずありえないのだ。
「ですが、それを聞いて安心しましたわ。生前の実力が発揮できていないのなら、まだ勝機がこちらにあるというもの。この戦いで私達も実力を上げれば、こちらに敗北などありませんわ!」
「そう上手くはいかねぇだろ」
「ど、どういう意味ですの?!」
「さっき言っただろう。夢魔達は主である悪魔との距離が近いほど、その実力を上げていくって。今回の騒動を解決するには、正にその悪魔を倒さなくちゃいけないんだ。それは必然的に悪魔との距離を縮めるということだ。つまり……」
「《鉄騎隊》の騎士達の再現も高くなる。先に進めば進むほど、騎士達も強くなっていくということね」
エンネアはエドが懸念していることを言い当てる。その答えに先程まで意気込んでいたデュバリィが縮こまってしまう。
「どのくらい再現性が高くなっていくのかはわからないが、一番距離が遠いこの場でさえ苦戦しているようなら、たぶんこの先に進むのはかなり厳しい。仮に頂上に着いたとしても、悪魔を退治することも犯人を捕まえることもできないだろう」
「そ、それは……」
「そこで一つ提案なんだが、ここは共闘といかないか」
エドから出された提案にデュバリィ達は一斉に彼の方を向く。
「俺達の目的は奇しくも同じだ。この騒動の犯人を捕まえること。捕まえた後にこっちで預かるのか、そっちに渡すのかは今は置いておくとして、頂上を目指すにはそれなりの戦力が必要になる。このまま時間が経てば、ヴィクター卿や鉄道憲兵隊が後から来る予定ではあるが、それはお前達としては都合が悪いんだろう?」
「……その通りだ」
「だから、俺達で手を組んで頂上を目指す。どのくらい強くなっていくのかはわからない以上、別れて行動するのは危険だ。お互いにまだ知らないから戦う時は、俺とお前達のチームで別れて戦うことになるが、戦力を一ヶ所に集中すれば、相手をする敵の数も分散できるし、まずい時にはお互いにカバーし合うこともできる」
エドは三人、特にデュバリィに視線を向ける。
「これが俺の意見だがどうする?」
「え、わ、私ですの?!」
「俺の見間違いじゃなければ、お前がこの中のリーダーなんだろう? リーダーとしての意見を聞きたい」
「そ、それは……」
デュバリィは突然の指名に戸惑ってしまい、返答ができずにあたふたしてしまう。
「デュバリィ。私は彼の案に賛成よ」
「エ、エンネア……」
それを見かねたのか、エンネアは賛同の意思に見せてデュバリィに助言を送る。
「彼の言う通り、私達だけで頂上へ目指すのは無理だわ。ならば、この場で一番の実力を持つ彼と共闘して進んだ方がより安全だわ。それに彼の実力を見たでしょ? 彼ならば、この先に出て来る騎士達相手にも後れを取ることなんてないわ」
「そ、そうですが……」
「デュバリィ。私も賛成だ」
エンネアの意見に賛同はできるが、まだ躊躇いの様子を見せるデュバリィに今度は諦観していたアイネスが口を挟む。
「アイネスも?!」
「今の我々では彼ら相手に実力不足だ。強くなるにしてもそれで敗北してしまえば何の意味もない。マスターのために今、何が最善なのかそれをよく考えるんだ」
「マ、マスターのために、ですか……」
年上二人からの助言にデュバリィは深く考え込む。
しばらく、呻き声を出して葛藤する時間が続くが、やがてため息をついて首を縦に振った。
「わかりましたわ。あなたの提案に乗ります。ですが! 我々の邪魔をしたら承知しませんわよ!」
「ふっ、肝に銘じておこう」
素直じゃない彼女の態度が面白いのか、エドはかすかに笑みを浮かべて承諾するのだった。
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一方、エド達が《ローエングリン城》に向かった後のレグラムでは、
「ハァアアアア!!」
――斬っ!!
ヴィクターが放つ大剣の一撃は、群がった夢魔達をひとまとめに切り裂く。
「そこだっ!」
――ダンッ!
ミハイルの正確無比の連続射撃は、近づいてくる夢魔達を一撃で仕留めていた。
いつも以上の実力を引き出していた男達の猛攻に、夢魔達は恐ろしい速度でその数を減らしていった。
「……むっ?」
次の夢魔へと攻めようと剣を構えるヴィクターであったが、周辺の変化に気づき、動きを止める。
「アーヴィング殿。霧が……」
「っ?! 薄くなっている?」
先程までは相手の顔を認識するのも困難なくらいの深い霧が徐々に薄まっていた。
今ではヴィクターは少し離れた位置に立っているミハイルの居場所を認識できるほどだ。
それと同時に周辺で群がっていた夢魔達も霧の中へと消えていき、霧が完全に消えた時には、その姿を消していた。
「……退けたのか?」
「少なくとも今のところは、だがな……」
二人は周辺の警戒を緩めずに目を配るが、特に何かしらの変化は見当たらなかった。
ひとまず、脅威を一時的に退けたとわかり、二人はようやく警戒を解く。
「ミハイル義兄さん……」
「クレア、怪我はないか?」
「は、はい……」
ミハイルに守られていたクレアは彼にそっと近づいて、遠慮がちに声をかける。
ミハイルは義兄としてクレアの無事に一息つくが、すぐに気を引き締めて上官としてクレアに指示を出す。
「リーヴェルト少尉。脅威は去ったが、次が来る可能性がある。今のうちに住民と観光客達の避難誘導を行うぞ」
「っ! イエス・サー」
「ラウラ。リーヴェルト殿と共に屋敷へ行きなさい。後は我々で対処する」
「父上……」
ヴィクターは心配させないとラウラの頭に手を置き、そっと優しく撫でる。
「子爵閣下!」
すると、エベル街道方面から駆ける足音が近づいてきた。
視線を向けると、額に汗を流して全力で走ってくるトヴァルの姿があった。
その後ろには幽霊騒動の調査に向かっていたアルゼイド流の門弟達が遅れてきた。
「トヴァル殿、そなたも無事だったか」
「えぇ。遅れてすみません。例の幽霊達に足止めされてしまいまして……」
「そうか……。街の方は問題ない。先の幽霊達は我々で対処した。トヴァル殿、次に備えて皆の避難誘導を手伝ってほしい」
「えぇ、お任せください。……ところで、あいつらは?」
トヴァルはエド達の姿が見えないことに気づき、首を動かして辺りを見回して彼らを探していた。
「スヴェルト達は今、《ローエングリン城》に向かっている」
「あの城に? そいつはどうして?」
「この騒動の主犯、《庭園》の者がそこに潜伏しているらしい。エド達は先行として先に向かわせた。避難誘導が終わり次第、我々も城へ向かう」
「そういうことですか。了解! その時はお供しますよ」
状況の確認をしたトヴァルは早速、住民達の避難誘導をしようと街の方へと向かう。
「おい。今、エドって言ったか?」
だが、それは彼らの後を追いかけてきた一人のシスターに止められた。
「え? ……あっ!」
トヴァルは後ろを振り向き、セリスの姿を捉えると自分達のやりとりを思い出し、自分の失態に声を上げてしまう。
「い、いや……、今のは……」
「エドって、エドワード・スヴェルトか。そこの軍人はさっきスヴェルトって言ってたよな」
「そいつは……」
「オルテシア卿。そなたの言う通り、エドワード・スヴェルトのことで間違いない」
「ちょ?! 子爵閣下!」
あっさりと事実を認めたヴィクターにトヴァルは動転する。
「彼は今、この街の人達を守る為に戦っている。オルテシア卿、彼を捕らえるのは少し待っていただけないか?」
「……戦っているのか? あいつが……」
先程とは打って変わって、静かにエドのことを聞くセリス。その表情はとても気遣わしいものだった。
「あいつなら戦ってるだろうな。今回だけじゃない。ここに来てから遊撃士の仕事を手伝ってくれてな。街の人達を何度も助けている。あいつが言うには『約束だから』ってな」
「約束?」
「あぁ。『困っている奴がいたら、絶対に助けろ』ってよ」
「!」
「あれ、お前さんとのだろう? あいつは今もその約束を守ろうと戦っている。だから、手伝ってくれねぇか?」
トヴァルの訴えにセリスはその場で黙り込む。手を胸に当てて悲しげに、だけど、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「……アタシの仕事は幽霊騒動の解決だ。あいつが戦っている以前にアタシは星杯の騎士としてアタシの役目を果たさなきゃならねぇ」
思いふける時間が終わり、セリスはヴィクター達に振り向く。そこには使命を全うしようとする騎士がいた。
「これからどうするんだ?」
「まずは、住民の安全を確認する。それが無事と判断したら、現場へ向かう」
「アルゼイド子爵。住民の安全確認は我々、鉄道憲兵隊が受け持つ」
「アーヴィング殿?」
「事態は急を有する。こちらは我々が責任を持って対処する。貴方はスヴェルトの救援へと向かってくれ」
「わかった。そなたに感謝を」
その後、ミハイルはクレア、ラウラ、そしてトヴァルと一緒に来た門弟達と共に避難誘導をするため、その場から立ち去った。
「さて、我々は城へと向かおう。トヴァル殿、オルテシア卿、道中よろしく頼む」
「合点だ!」
「あぁ、いいぜ」
その場に残ったヴィクター、トヴァル、セリスはそのまま湖港に続く道へと足を向ける。
(エド……、今度はアタシがお前を守ってみせる!)
懐かしき大切な人との再会。そして、自分で決めた誓いを胸にセリスは強い足取りで彼がいる城へと突き進むのであった。
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