英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第四十六話 幼き筆頭

 幽霊騒動の解決とその犯人の捕縛のために一時的に共闘を結ぶことになったエド達と《鉄機隊》の三隊士。

 道中で現れる騎士に化けた夢魔達を撃退していきながら、城の最上階へと一同は向かっていた。

 

「螺旋撃!」

 

 身体全体を捻らせて放つエドの斬撃に彼と相対していた夢魔達は吹き飛ばされる。

 エドはすぐに足を強く踏み、追撃をかける。

 その隙を見逃さなかった騎士の一人が彼の背後を捉え、その背中に剣を突き刺そうとする。

 

「やぁっ!」

 

 すると、突然、騎士は胴体を前に出して身体でくの字を作り出して前に倒れる。倒れた騎士の背後には剣を水平に持つオランピアがいた。

 彼女は自身の低い背丈と、暗殺者時代に身に着けた隠密を駆使して、騎士の背後を取ってその背中を斬ったのだ。

 そして、背中からの奇襲に騎士はバランスを崩してしまい、うつ伏せに倒れてしまった。

 

「イシュタンティ!」

 

 その好機を逃さなかったオランピアは即座に自身の相棒に指示を出す。

 イシュタンティは倒れた騎士に向かって伸ばした爪を突き刺す。

 放たれた突きは騎士の鎧を貫き、騎士の懐に風穴を開ける。

 貫かれた騎士は夢魔へと姿を戻していき、そのまま消滅していった。

 

「ハッ!」

 

 一方で、デュバリィ達《鉄機隊》は三人の騎士を相手にしていた。

 デュバリィが振るう高速の剣撃に彼女と対峙していた騎士は剣を上空に弾き出される。

 

「アイネス!」

「承知!」

 

 デュバリィはその場から後ろに引き、代わりにアイネスが前へ出る。

 がら空きになった騎士の懐に目掛けて、ハルバードの渾身の一撃を振るう。

 

「ハァッ!」

 

 ハルバードは騎士の鎧を砕き、そのまま騎士の身体を二つに裂いて消滅させる。

 残った騎士二人は鎧を鳴らしながらアイネスの死角を突き、彼女に剣を振るう。

 

 ――ヒュンッ!!

 

 風を切る音が走る。

 離れた場所で弓を構えたエンネアが騎士達に向かって矢を放っていた。

 放たれた矢は騎士達の兜を貫き、一体は倒れる間もなく消滅する。

 しかし、もう一体は矢が首に突き刺さり身体を揺らしていたが、一撃では消滅しきれなかった。

 だが――、

 

「そこっ!」

 

 瞬きの間にデュバリィが刃を振るい、止めを刺す。

 騎士は今度こそ消滅し、辺りは静寂に包まれた。

 

「お疲れ様」

 

 自分が相手していた騎士をすでに倒していたエドは全員に励ましの声を上げる。

 

「ふんっ! この程度、チョロいものですわ!」

 

 大したことないと言わんばかりに鼻を鳴らすデュバリィ。しかし、途切れ途切れに息が途切れており、若干の疲れが出ているのが見てとれた。

 エドは他の三人にも視線を配る。

 アイネスとエンネアは余力が残った表情を見せているが、騎士達の連戦で疲れが溜まっているようだった。

 オランピアは胸に手を置いて息を整えており、この中で一番疲弊していた。

 

(まぁ、無理もないな……)

 

 化けているとはいえ、エド達が相手にしているのは《獅子戦役》で戦い抜いた伝説の騎士団《鉄騎隊》。生前より力は劣っているが、戦争で戦い続けた彼らの連携と対応力の速さは尋常じゃない。

 しかも、先に進めば進むほど、その実力も増しており、騎士達を相手に実力を伸ばしつつある彼女達も苦戦を強いられている。

 

「少しここらで休むぞ」

 

 疲れを取るため、休息を提案するエド。四人は休息を取りたかったからか、特に反論することなく彼の提案に黙って従うのであった。

 

「ふぅ……」

「お疲れ様です。デュバリィさん」

 

 近くにある階段に行儀よく座って息を整えるデュバリィの隣にオランピアはそっと腰をかける。

 

「えぇ。お疲れ様です。彼のところに行かなくてよろしいですの?」

「あ、はい。今はその……、デュバリィさんとお話ししたいなと思いまして……」

「そうですの……」

 

 それを最後に二人の間から会話がなくなった。

 咄嗟に思いついたことだからか、オランピアは何か話そうと考えるも何も浮かばず、静かな時間だけが過ぎ去っていった。

 

「あなたですね。自分からお話ししたいと言っておきながら、何もないですの?」

「ご、ごめんなさい」

 

 オランピアの様子に気づいたデュバリィは呆れた表情で彼女を見ていた。居心地の悪さを感じてしまい、オランピアが俯く中、デュバリィはため息をついて視線をエドの方へと向ける。

 

「……彼はすごいですわね」

「え?」

「あの若さであの実力。そして、あの頭の切れ。《剣聖》と言われても納得してしまいますわ」

 

 自分と年が近い彼の圧倒的な実力を何度も目の当たりにしたデュバリィは素直にすごいと思うと、同時にうらやましいとさえ思ってしまう。

 強い羨望が籠もったその目は壁際で座り込むエドをじっと捉えていた。

 

「気づいていますか? 彼、私達が戦いやすくするように真っ先に敵の数を減らしたり、分散したりといろいろ立ち回っているのですよ」

「そうなのですか?」

「えぇ。私達のために休息をとったつもりではありますけど、おそらくこのメンツでは彼が一番疲弊していますわ」

 

 デュバリィの言葉に目を丸くして、オランピアもエドの方に視線を向ける。

 彼女の目からは目を閉じてその場でじっと座り込んでいるようにしか見えず、疲れているようには見えなかった。

 だが、デュバリィの言う通り、エドは態度こそ見せないもののかなり疲労していた。

 階層が上がるごとに敵が化けている《鉄騎隊》の実力は徐々に強くなっている。

 エドの実力なら倒せないというわけではないが、さすがに連戦が続くと体力も落ちるというもの。

 さらに、共につれている彼女達の実力を上げるために、彼女達がギリギリで勝てるように相手の戦力を削り、分散するなど単純に敵を倒すことよりも難しい作業を毎回していたのだ。

 

「正直、彼のおっしゃった通り、あなた達がいなければ、私達がここまで来れることは叶いませんでしたわ。感謝はしていますが、同時に少し嫉妬を覚えてしまいます」

「嫉妬ですか?」

「本来なら、筆頭である私が考えなければならないのに、それを難なくこなせる彼がすごく羨ましいです」

 

 デュバリィはそこで一息ついて、天井を見上げて話を続ける。

 

「マスターから《鉄機隊》の筆頭として指名された時は嬉しさで涙が止まりませんでしたわ。あの方に認められたと、ようやくあの方のお役に立てる時が来たと、あの時の私は本気でそう思っていました。ですが、筆頭になってしばらく経って、自分の未熟さを嫌というほど思い知らされたことがたくさんありましたわ」

 

 天井を見上げた顔を今度は下へと落とし、年期が経った石の階段をじっと見つめる。

 

「マスターはなぜ私を筆頭として指名したのか、そう考えることが増えるようになりましたわ。正直に申し上げますと、私達三人の実力はほぼ互角で、誰が筆頭になってもおかしくなかったですわ」

「え、そうなのですか?」

「えぇ。戦闘スタイルなどは当然違いますから、それぞれの得意領分も違いますが、総合的には拮抗していると言ってもいいです。だからこそ思ってしまうのです。私ではなく、彼女達の方が筆頭に向いているのではないかと」

 

 デュバリィは顔を上げて、何かを話し合っているアイネス達に視線を送った。

 

「私は三人の中で一番年下ですし、アイネスのように何かを即断できる決断力を持ち合わせてはいません。エンネアのようにどんなことにも落ち着いて対処できる冷静さが足りません。あの二人に勝っているのがあるとすれば、私が誰よりも先にあの方に最初に拾われて、長くあの方の下にいたということだけ。マスターの決定に文句は言うつもりなどまったくありませんが、あの二人を差し置いて、なぜ私を筆頭にしたのか。それだけはどうしてもわかりませんわ」

 

 デュバリィの独白にオランピアは最後まで耳を傾けていた。

 彼女が抱いている劣等感に対して何と答えればいいのか、どう答えればいいのかわからない。

 

「……私はデュバリィさんがリーダーでいいと思います」

 

 だから、オランピアは自分が思っていることをそのままぶつけることにした。

 

「それはどうしてですの?」

「えっと、大半は勘のようなものですが、私はデュバリィさんみたいな人がリーダーならばいいなと思いました」

 

 それからオランピアは自分が彼女に対して、思っていることを素直に語り始める。

 

「デュバリィさんは、少し天然というか、抜けているというべきなのか、そういうところはありますけど……」

「ちょっと! あなた、私のことを貶してますの?!」

「でも、私に助言をしてくれたあの時の姿は素敵だなと思いました」

 

 彼女の発言にデュバリィは一瞬、言葉を失い、彼女を凝視する。

 

「あの時、私が悩んでいることをあなたは気づいてくれました。その場で会っただけで特に親しいわけでもないのに、私の悩みをあなたは真剣に考えて答えてくれました。どんな相手にも怖じけずに、真面目に、真っ直ぐに答えてくれるあなたはとても素敵だなと思いました」

「それはあの時も言いましたが、助けてくれた恩を返しただけですわ」

「そういうところがあなたの良いところなんだと思います。だから、デュバリィさんはリーダーとしてではなく、デュバリィさんとしてどうしたいのか考えればいいのだと思います」

「私として、ですか……」

「はい。リーダーとしてこうするべきだとかではなく、あなたがどうしたいのかをお二人に伝えればいいと思います。そして、三人で考えて進めばいいと思います。一人で全てできることなんてできません。できないのなら、わからないのなら他の人に素直に協力を求めるのも大事だと思います」

 

 オランピアはクロスベルでの夜のことを思い出す。あの時、自分がこれからどうやって生きていくのかを一人で考えなくてはならないと思っていた時、ヨルグが自分に助言をしてくれた。

 一人で考えて、それでわからないことがあれば、周りに頼ればいい。それが言葉を伝えることができる自分達の特権だと。

 

「デュバリィさんにはそれができると思います。敵にも、味方にも、誰とでも正面から渡り合えるあなただから、マスターさんもあなたをリーダーにしたんじゃないのかと思います。多くの人と関わり、これからもっと成長できると信じているのだと思います」

 

 デュバリィはオランピアの語りを最後まで黙って聞いていた。彼女の言葉をしっかり聞くように。

 

「す、すみません。なんだか偉そうなことを言ってしまいました」

「いいえ。そんなことありませんわ」

 

 珍しく長く語ったことに恥ずかしく思ったのか、オランピアはすぐ謝罪をするが、デュバリィはそれに首を横に振る。

 

「少し、自分を見つめ直すことができましたわ。筆頭としてではなく、私としてですか……。私よりもまだ小さいのに、すごいですわね」

「い、いいえ。私一人ではここまで来ることなんてできませんでした。エドさんが……、あの人が傍で見守ってくれたから、私はここまで成長できたんだと思います」

「随分、彼を慕ってますわね。もしかして、好きなのですか? 彼が」

「え……、えぇ~~!」

 

 デュバリィの発言に理解が追い付かなかったが、理解した一瞬の内に顔を真っ赤にするオランピア。なぜかその言葉に胸の鼓動が激しく高鳴る。

 

「そ、そんなのじゃありません! エ、エドさんは恩人で、すごく頼りになる人で、一緒にいたいって思えるような人で、好きとかそういうんじゃ……、う、うぅ~~」

 

 好きという気持ちをいまだわからない十二歳の少女は頭が混乱して、呂律が回らず、いつもより早口になっていた。

 

「…………私、エドさんのことが、好き……なんでしょうか?」

「いや、私に聞かれてもわかりませんわよ!」

 

 そんな二人の和やかな雰囲気をうっすら目を開けて、遠くから見ていたエドは口角を上げる。遠くにいたから、どんな会話をしているのかわからないが、二人の様子を見て、心配はないと安心するのだった。

 

「どうやら、吹っ切れたようだな」

「そうね。あの子には感謝しなきゃね」

 

 すると、エドの下にアイネスとエンネアがいまだギャーギャー騒いでいる二人を微笑ましく眺めながら近づいてきた。

 

「お前達でアドバイスをしても良かったんじゃないのか? あの子との付き合いは長いんだろう?」

「あの子、どこか私達に劣等感のようなものを抱いていたから、言ったら逆効果になると思ってね」

「それにこれはあいつが自分で気づくべきものだ。我々が口を出して言うことではないと思ったのだ」

 

 二人はゆとりができたデュバリィの表情を見て、安心したかのように口元が緩んだ。

 

「彼女が筆頭であることにお前らはどう思っているんだ? 素質はあるかもしれないが、成長するまで代わりにやることもできたと思うんだが」

「マスターがお決めになったことだ。それを私達が異議を唱えることはない。あの方は我々をよく見ておられる。代行を立てずにあいつを筆頭に指名したのも、成長するために必要な試練なのだろう。それを邪魔立てするのはあいつ自身も望んでいない」

「それにあの子はあの子なりに必死に頑張っているわ。どうすればいいのか、何をすればいいのか、あの子なりに必死に考えて、少しでも早く一人前になろうと努力しているわ。ああいうのを見ると、むしろ応援したくなるわ」

「……何というか、年下の妹を見守る姉と言うより、娘の成長を見守る親みたいだな」

 

 そんな二人にエドはどこか呆れた表情で思わず感想を述べてしまう。

 

「あら、それじゃあ私が母親で、アイネスが父親かしら?」

「デュバリィが娘か……。とんだお転婆な娘ができたものだ」

 

 そんな冗談を言い返して、笑う二人にエドもつられて笑ってしまう。

 

「でも残念。私はあなたと同じ十八歳よ。まだ大人にもなっていないわ」

「私はデュバリィと同じ十七だ。まだ親を名乗れる年ではないな」

「そうなのか?」

「えぇ。それと、女性に年齢の話はご法度よ。結構、気にする人もいるからね」

 

 そう言って、子を躾ける母親のように優しく微笑むエンネアにエドは本当に同い年なのかと疑問に思ってしまう。

 

「ん? 何で俺が十八だってわかったんだ。名前は言ったが、年までは言ってないはずだが……」

「あぁ、それ。そうね。強いて言うなら……女の勘、かしら」

「は?」

 

 予想外の返答にエドは素っ頓狂な声を上げてしまう。その反応が面白かったのか、口元を抑えて笑うエンネアはすぐに訂正する。

 

「冗談よ。あなたの手配書きを一度見たことがあってね。かなり印象的だったから覚えていただけよ」

「あ、そうですか」

 

 自分が指名手配されていることを思い出したエド。最近は指名手配で狙われたり、追われるようなことがなかったから、彼自身すっかりそのことを忘れてしまっていたのだ。

 

「さて、そろそろ手助けしましょうか。あの子、何だか大変そうだし」

 

 エンネアはオランピア達の方を目を向けてそう呟く。見れば、オランピアの質問に慌てふためく様子で必死に彼女の問答を躱し続けるデュバリィがいた。

 

「そうだな。身体の疲れもとれたし、そろそろ出発するか」

 

 エドの提案に二人は賛同して、そのままオランピア達がいる方へと歩き出すのであった。




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