それではご覧ください。
最初に先陣を切ったのはデュバリィだった。
盾を捨てて身軽になり、《星洸陣》の効力で動きが最初の時よりも数倍に速くなった彼女の姿は、残像となってシオンの視界から姿を消す。
それに目を見開くシオンだったが、すぐに平常心を取り戻し、正眼の構えのままその場でじっと佇む。
「……フンッ!」
シオンは後ろに振る向き、剣を振るう。
すると、ガキンッ、という音を立ててシオンの背後に現れたデュバリィの剣を難なく防ぐ。
「まだまだですわ!」
デュバリィは一歩に引いて、再び姿を消す。
シオンはその場から一歩も動かず、どこから現れるかわからないデュバリィの攻撃を何度も防ぐ。
シオンの死角を何度も突いてくるデュバリィ。その動きは徐々に加速していき、もはや常人では捉えられない速度で縦横無尽に動いていた。
「……グッ!」
何十にも及ぶせめぎ合い。
攻撃を受け止め続けていたシオンが初めてデュバリィの動きに反応が遅れる。
彼女の攻撃を何とか防いだものの体勢を崩し、少し後ろに倒れがちになる。
「アイネス!」
「承知!」
好機を掴んだデュバリィは待機していたアイネスを呼ぶ。
ちょうどシオンの後ろの位置にいたアイネスは地面を強く蹴り、シオンに跳び込む。
鍔迫り合いになっているデュバリィの剣を強引に弾き飛ばし、すぐ様後ろに振り向いて迎撃に入るシオン。
「ん!」
しかし、シオンはその場で膝を崩してしまう。シオンは足下に視線を降ろすと、そこには数本の矢が自分の足を突き刺していた。すぐに視線をアイネスの方に戻すと、その後ろにはエンネアが彼女の身体を隠れ蓑にして弓を構えていた。
「今よ!」
「決めなさい、アイネス!」
「うぉおおおおおおお!!」
ハルバードを水平に持ち、シオンに目掛けて横からのフルスイング。
その場を動けないシオンは大剣を地面に突き刺し、盾のように前に構える。
――ドォオオン!!
金属同士の強い衝撃音が反響する。
シオンは大剣を両手で支え、力を込められない足でその場で踏ん張り、アイネスの一撃を必死に耐える。
アイネスはハルバードを持つ両手にさらに力を乗せて、大剣を押し続ける。
そして――、
「あぁあああああああ!!」
――ガァン!
地面に突き刺されていた大剣が引き抜かれ、シオンと共に後ろに吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたシオンはそのまま壁に激突し、辺りは砂埃が舞い散る。
「ふんっ! やってやりましたわ!!」
吹き飛ばされたシオンの姿にデュバリィは鼻を鳴らして胸を張る。その姿にエンネアはどこか呆れ気味だった。
「やったのはアイネスでしょ。どうしてあなたが胸を張るの?」
「ぜ、全員で掴み取った一撃ですわ! 文句でもありますの?!」
「お前達、気を抜くな」
小競り合いが起きそうなところでアイネスが二人を止める。
アイネスはシオンがいる前方を見据えたまま、武器を構える。
視界を遮るように舞い続ける砂埃の中から、人影が現れる。
その人影――シオンは特に疲労した様子を見せないまま、その場に堂々と立っていた。
「あ、あれで無傷ですの!?」
「まぁ、元々は化けた姿ですものね」
よく見ると、エンネアが刺した矢の痕跡もなかった。エンネアの言うとおり、姿を化かしている存在だから、傷ついた身体を戻すなど造作もないのだろう。
「こうなったら、再生できなくなるまでぶっ飛ばしてやりますわ!」
「我らの攻撃は通じている。このまま押し通すぞ!」
「援護するわ!」
すぐに陣形を取り直して、再び構える《鉄機隊》。その姿にシオンは口角を上げる。
「見せてみろ。我ら《鉄騎隊》から脈々と受け継いてきた、そなたら《鉄機隊》の力を!」
シオンは再び大剣を両手に構えて、デュバリィ達に襲いかかる。
一方、デュバリィ達と離れた場所で戦っているエド達はアリオッチを相手に苦戦していた。
「裏疾風!」
高速でアリオッチの後ろまで移動したエドはすれ違いざまに無数の斬撃を彼に放つ。
アリオッチの身体はその斬撃による切り傷が作られるが、すぐに塞がる。
「――斬!!」
アリオッチに向かって振り返り、彼の背後から強烈な斬撃を放つエド。
だが、その一撃はアリオッチがすぐに後ろへと振り向くと同時に振るわれた斧槍にぶつかりかき消される。
「それじゃあ、俺は倒せないぜ」
最後に頬についていた傷口が塞がり、無傷の状態で立つアリオッチは不敵な笑みをこぼす。
「どうした、《黒金の剣聖》。お前さんの実力はこんなもんじゃねぇだろ?」
もっと楽しませろと言わんばかりにアリオッチはエドに向かって挑発をする。それに対して、エドはくってかかるような素振りは見せず、何とアリオッチのように不敵な笑みを彼に向けてきた。
「お前、なんでさっきの攻撃を防いだんだ?」
「……あ?」
「その再生能力があれば、別に防ぐ必要もなかったんじゃねぇのか?」
アリオッチの鎧は超速再生能力を有している《古代遺物》。どんな傷だろうと一瞬のうちに治すことができ、彼を不死身の怪物へと変貌させた代物。
だが、エドの最後に放った一撃に対して、彼は攻撃をくらわないようにと反射的に動いたかのようにエドは見えた。
「別に。敵の攻撃を防ぐのは、戦いじゃ当然。ただの戦闘本能ってやつだよ」
「違うんじゃねぇのか? お前はあの時、どうしてもあの一撃をくらうわけにはいかなかった。まだ、身体を治している最中だったから」
エドの指摘にアリオッチは笑みを消し、エドの方をじっと見つめる。
「お前のその鎧は確かに脅威だが決して無敵じゃない。おそらく、お前は身体を治す時、行動が抑制される。もしくは、再生するのにも限界があるんじゃないのか?」
エドは自身の攻撃を防がれた時、アリオッチの動きにかすかな違和感を覚えた。
まるで災害のように暴れ回っていた時の彼の動きに比べて、わずかに先程の動きは少しだけ鈍いとエドは感じた。
斬り合っていた時には、傷口ができてもすぐには再生せずに、間合いをとった時に再生を始めた。
そして、最初に彼の腹に与えた渾身の一撃に対する再生は他の再生と比べて少し時間がかかっていた。
エドはアリオッチとの打ち合いの中で、彼が持つ《古代遺物》の特性を観察、分析していたのだ。
「……それで? もし、そうだとしたらどうするんだ?」
アリオッチはエドの推察に特に何も言わず、これからどうするのかを問いかける。その声はわずかに弾んでおり、彼は今の状況をとても楽しんでいるようだった。
「もし、俺の推測が正しいのなら、やることなんか決まっている」
エドは剣の切っ先をアリオッチに向ける。
「再生不能になるくらいの一撃をお前にぶつけてやるよ」
「おもしれぇな!」
エドの答えにアリオッチは極上の笑みを作る。彼は肩に担いでいた斧槍を両手で水平に持ち、毅然とした構えでエドに向かって殺気を放つ。
「だったら、見せてもらおうか! てめぇの全力をよ!」
「あぁ。見せてやるよ……。俺達の力をな!」
「何?」
「オーロラウィング!」
「!?」
横から向かってくる閃光にアリオッチはすぐさま斧槍で防ぐ。
斧槍の持ち手部分にはイシュタンティの伸びた爪が受け止められていた。
かなりの速度での突進だったからか、アリオッチはその場から少し後ろに引いていた。
「螺旋撃!」
「ん!」
背中からくる熱にアリオッチは顔をしかめる。
後ろに視線を向けると、そこには刃を振るうオランピアの姿があった。
「そういえば、お前さんもいたな、オランピア!」
アリオッチはイシュタンティを弾き返し、オランピアの方に斧槍を振るう。
オランピアは低い身体を活かして斧槍の下を掻い潜って、すれ違いざまに彼の脇腹に剣を通す。
「ちぃ!」
後ろに移動したオランピアを追って捕らえようと手を伸ばすが、アリオッチの視界からオランピアの姿が突如消えた。
「何?!」
驚くと同時に、再び自身の腹から熱を感じた。
オランピアが再びアリオッチの脇腹を通り、去り際に腹を斬ったのだ。
アリオッチはオランピアを捕らえようとするが、その度にオランピアを見失っては傷が増える。
(……落ち着いて。彼の動きをよく見て)
オランピアは自分の目の前に立つアリオッチを見上げ、彼の動きを見逃さないようにじっと捉える。
アリオッチが再び自分に手を伸ばしにきた。
(……今!)
オランピアはその場で急に足を止める。
そして、彼を軸にして旋回し、彼の手を躱す。
「はぁっ!」
そして、がら空きになっている彼の横腹に向かって剣を振るう。
(ぐっ……、動きが読めねぇっ!)
再び、痛みが走ったことにアリオッチは内心焦りだす。
オランピアが自分を捕らえようとするタイミングに合わせて動いていることはすでに理解していたアリオッチだったが、彼女の動きが掴めない。
右に行ったと思えば、左に。
左に行くと見せかけて、本当に左に。
変則的に動く彼女を捕らえられず、かといって武器を捨てて両手で対応すれば、外で待機しているエドに反撃を許してしまう。アリオッチは防戦一方の状態になっていた。
(……私なりの八葉一刀流。お母さんから教えてもらった舞とエドさんから教えてもらった技。それらを私なりに組み合わせて作り上げた、私だけの八葉……)
――八葉一刀流 一の舞
「流転円舞!」
回り続けるオランピアの斬撃はアリオッチの身体を何度も切り刻み、気づいた時には彼の身体には十を超える傷ができていた。
「ハハハハ!! やるじゃねぇか、オランピア!」
思いがけない元同僚の成長にアリオッチは歓喜を覚える。
アリオッチは当初、エドと彼女が操るイシュタンティのみに警戒しており、オランピアに対してはそこまで警戒はしていなかった。
だが、蓋を開ければ、そんな彼女に自分は一方的にやられている。
新たな強敵を前にアリオッチはニッと口角を上げる。
「いいね……。いいじゃねぇか、てめぇら! もっと楽しませろ! 俺の中にある"乾き"を満たしてみせろ!」
「オランピア!」
「はい!」
エド達はそれぞれ武器を構え、正面から迫ってくる獣を待ち構える。
視点を戻し、再びデュバリィの方では、
「気づいたか?」
「えぇ。彼の動き……」
「少し鈍くなっているわね」
シオン相手に互角に渡り合っているデュバリィ達は彼の動きの変化に気づく。
常人を超える彼の動きは時間が経つ度に鈍くなり、徐々にデュバリィ達の攻撃が通じるようになったのだ。
デュバリィ達はそれに疑念を抱いて警戒するが、その答えは簡単だった。
アリオッチと対峙しているオランピアの動きは彼女が持つ退魔の舞と八葉一刀流を重ね合わせたものだ。
アレンジしているとはいえ、彼女は戦いながら舞を踊っているのだ。
そして、元々は夢魔という"魔"の身体を持ち、悪魔を身体の中に飼っているシオンには、その舞の効果は絶大だった。
舞の効力により、シオンの力が少しずつ弱まっていき、その動きが鈍足になっていったのだ。
「よくわかりませんが、今が好機! ここで一気にしとめますわよ!」
「承知!」
「ええ!」
デュバリィのかけ声に全員が動き出す。
エンネアは上空に高く跳び上がり、頭上からシオンに向かって弓を引く。
「くらいなさい!」
放たれた矢は光の雨となって、シオンの周りへと降り注ぐ。
本来なら簡単に掻い潜れるシオンであったが、力が弱まった今の状態ではその場で耐えることしかできなかった。
降り続ける矢の雨へと跳び込み、アイネスはシオンに近づく。
どこに降ってくるのかがわかっているのか、アイネスは上を向かずにシオンから視線を外さず真っ直ぐに進む。
近づいてくるアイネスの存在に気づいたシオンは大剣をアイネスに向けて迎え撃つ。
「「ハァッ!」」
ガンッ、という音が響く。
両者の武器がぶつかり合い、断ち切ろうと力を押しつける。
「おおおおおお!!」
「はぁああああ!!」
咆哮と言ってもいい雄叫びを上げて、さらに力を上げる両者。
だが、まだ力が残っていたのか、徐々にアイネスが後ろに押される。
「させないわ!」
それをさらに後ろで見ていたエンネアが二人の方へと矢を放つ。
だが、エンネアとシオンの間にはアイネスがおり、このままでは矢がアイネスに当たる。
「……そこよ!」
すると、矢がまるで再び分裂する。分裂した矢はアイネスの横を通り過ぎ、回り込むようにシオンの身体を突き刺す。
「吹き……飛べ!」
押し寄せてくる力が弱まるのを感じ、絶好の機会を得たアイネスは力をさらに強めて、ハルバードを上へと振り上げる。
シオンの身体は大剣と共に上空に投げ飛ばされる。
その様子を離れたところで見ていたデュバリィが動き出す。
無意識に剣を力一杯握りしめる。走り続ける足が徐々に速くなっていく。
(……二人が作ってくれた千載一遇のチャンス! これで終わりにしますわ!)
「行っきますわよー!!」
己を鼓舞して、さらに加速するデュバリィの身体がブレる。
ブレた身体は横に広がり、気づけば三人のデュバリィが走っていた。
「「「うぉおおおおおおおおお!!」」」
シオンに迫る三つの白き閃光が彼を切り刻む。
姿を捕らえることができず、上空に投げ飛ばされているシオンはただ大剣を前に構えて、身体を丸めることしかできない。
三人に分裂したデュバリィは個々に分かれて、全方向からシオンを攻めて続け、彼を切り裂く。
――カキンッ!
そして、盾にしていた大剣がさらに上空へと飛ばされる。
「これで決めます!」
シオンの前に現れたデュバリィは自身の剣に力を込める。
すると剣は白銀の光を放つ。
彼女の主に対する揺るぎない忠誠。
彼女の友を信じる真っ直ぐな想い。
それを体現するかのような汚れなき光。
「……見事」
その光を目の当たりにしたシオンは賞賛する。
自分達の主が見出した新たな騎士。
自分達の後に続く新たな《鉄騎隊》。
そんな彼女達を最大限に称えていた。
そして――、
「プリズム・キャリバー!!」
一人で飛び立とうとしていた雛鳥だった騎士は友の力を借り、最強の騎士に至高の一閃を与えた。
一方、アリオッチとの激戦を繰り広げていたエド達は、
「イシュタンティ!」
オランピアの後に続き、イシュタンティは爪を伸ばして共にアリオッチを攻める。
再生する隙を与えないよう挟み撃ちにして攻撃し、その腕を決して緩めなかった。
「ラァアアアア!!」
アリオッチは斧槍を横に振り回し、オランピア達を後ろに跳ばす。
オランピアが後ろに行くと同時に、今度はエドが近づく。
(お前の技、借りるぜ!)
思い浮かべるのは、同門にしてライバルの少女。
彼女が持つ流派の技の一つ。
「ふっ!」
足を強く蹴り、一気に加速するエド。
アリオッチの脇腹に一閃。
一度離れたエドはすぐに方向転換して、再びアリオッチに接近。
繰り返し放たれる斬撃がエドとアリオッチを置き去りにして囲うように飛び回る。
広範囲に動き敵を殲滅する疾風では決め手にかける。
あいつが使う一カ所に集中して高速の斬撃を連続で放つ技。
その名も――、
「九十九颯!!」
斬撃の嵐をアリオッチの周りに残して、エドは嵐の外に出る。
エドは剣を高く上に持ち上げて、《魔眼》を開き、アリオッチを捉える。
――八葉一刀流 肆の型
「三の太刀」
闘気を剣に収束し、圧縮する。
圧縮された闘気は剣を鳴らし、力を増大していく。
「天牙!」
振り下ろすと同時に放たれた極大の斬撃がアリオッチを襲う。
それに気づいたアリオッチは躱すのを諦め、斧槍を前に構える。
「ぐぅおおおおおおおお!!」
押し寄せてくる斬撃を足で踏ん張り耐えるアリオッチ。
「惜しかったな! 俺を仕留めるには後一手、足りねぇな!」
斬撃を受け止めているアリオッチが笑みを浮かべでいる中、彼の身体が少しずつ治っていく。
それと同時に、受け止めていた斬撃が少しずつ押し返されている。
彼が完治すれば、斬撃は打ち消されるだろう。
そして、
「……お願いします!!」
最後の一手が間に合った。
「任せるがいい」
エドの横を通り過ぎる一つの影。
影は両手で持っているものを構え、アリオッチに向かう。
「! てめぇは!」
「くらうがよい」
影が持つのは、《鉄騎隊》副長が持つ宝剣《ガランシャール》。
その大剣を持った影――ヴィクター・S・アルゼイドはアリオッチを押している斬撃に向かって、奥義を放つ。
「絶技・洸凰剣!!」
眩い黄金の斬撃はエドの斬撃に上乗せされ、アリオッチを吹き飛ばす。
「トヴァル殿!」
「了解!」
ヴィクターは後方に待機していたトヴァルに声をかける。
トヴァルはオーブメントを構え、愛用のスタンロッドを吹き飛ばされたアリオッチの方にアーツを放つ。
「くらえ!」
すると、アリオッチの周辺に冷気が生まれる。
斬撃によるダメージでその場から動けないアリオッチは、その冷気に身体の自由を奪われる。
「後は任せた!」
「応!」
次に聞こえた声にエドの思考が止まった。
それは聞き覚えのある懐かしい声。
その正体を確かめようとするが、自分の横を通り過ぎる後ろ姿を見て、その必要もなくなる。
(……やっぱり、お前だったのか)
赤い紋様を乗せた小さな背中。
その手には炎を灯した赤い大きな法剣。
そして、真紅に輝く鮮やか髪の女性――セリス・オルテシアであった。
~~~~~~~~~~~~~
二年前のあの日。アタシ達の運命は大きく変わった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「もう少しだ、エド! あと少し」
全身血まみれになっていたあいつの腕を引っ張り、森の中を駆け抜ける。
そこはアタシが迷子になった時、あいつがアタシを見つけてくれた場所。
あの時とは逆で、今度はアタシがあいつを引っ張っていた。
「セリス……、もういい」
「あ?」
あいつが突然、その場で止まる。
引っ張っていた手を離され、真剣な目つきでアタシを見つめていた。
「何してんだ! 早くここから離れるぞ!」
「あぁ。だけど、それは俺だけだ」
「え……」
あいつの言ったことが一瞬、わからなく立ち尽くすアタシを抜き、森の奥へと進もうとするエド。
「お前は戻れ。そして、今日、俺とお前は会わなかったことにしてくれ」
「な、何言ってんだ?」
「このままだと、お前も共犯として追われる立場になる。お前はここで引くんだ」
「ふ、ふざけんな!」
エドの言い分につい反発してしまうアタシ。
「そんなの納得できるわけねぇだろ! 何で……」
「頼む、セリス。黙って言うことを聞いてくれ」
「…………いやだ」
その時、アタシの中を巡っていたのは恐怖心。
もし、ここでついて行かなきゃ、もうあいつとは会えなくなる。
あいつの実力なら大丈夫なのはわかってはいるものの、どうしてかそんなことが頭の中をよぎってしまう。
「いやだ、絶対いやだ! エド! お前が何て言ってもアタシは……」
――チャキッ!
言葉を続けようとしたが、それはできなかった。
アタシの目の前でエドは剣を抜き、それをアタシの方に向けていた。
「エド……、何でだ……」
アタシの最後の言葉にあいつは何も言わなかった。
ただ、とても苦しそうに、泣きそうな顔でアタシを見つめていた。
そこから先のことは覚えていなかった。
気づいた時にはベッドの上で寝ていて、アタシの見舞いに来ていたバルクホルン先生からその後のことを聞かされた。
シモン先生を殺したのがエドだということ。
エドが指名手配犯にされたこと。
そして、教会から外法認定されたこと。
どれもこれも嘘だと思いたかった。
自分が一番守りたかった人を守ることができず、何のために騎士になったのかわからなくなった。
でもその時、先生はアタシの心情に気づいたのか、アタシに向かって言ってきた。
「おぬしは諦めるのか?」
「え?」
「私も総長もあやつが犯人だと思っておらぬ。我々は独自であやつの無実を何とか証明するつもりだ。セリスよ。おぬしはどうする。ただ泣きわめくだけで、今も助けを求めている彼を見捨てるのか?」
「アタシは……」
~~~~~~~~~~~~
レグラムに着き、あいつがここに訪れていると聞いた時、アタシは嬉しさと一緒にどうしてと疑問を抱く。
どうして、アタシに会おうとしなかったのか。
それを考えようとしたが、その答えはすぐにわかった。
あの時、あいつが苦しそうな顔でアタシに刃を向けてきた。
それが答えだ。
あいつ自身もアタシのことを大切に想っている。
だから、アタシ達は想いが通じ合い、お互いに惹かれたんだ。
もしも、自分のためとわかっているけど、巻き込みたくないためにその人を傷つけてしまったらどう思う。
あいつのことだ。自分には会う資格がないだとか、自分は嫌われているだとか思っているんだろう。
ふざけるな。
アタシがお前のことを嫌いになるわけがねぇ。
本当はわかっていた。
あの時、お前の言うことを聞かずに駄々をこねたのは、アタシのわがまま。
お前を困らせないようにしたのに、結局、困らせちまった。
あれはわがままを押しつけようとしたアタシのせいだ。
だから、お前がそんなふうに思い詰める必要はねぇ。
たとえ、お前がアタシを傷つけたとしても、
たとえ、どんだけ酷い言葉をあびせたとしても、
アタシの中にある
「我が深淵にて震えし赫灼の刻印よ――」
前を見ると、ずっと会いたかったあいつの後ろ姿。
だけど、アタシはそれよりも前に出た。
「暗き魔を喰らう――」
前方にいるのは巨大な斧槍を持った甲冑の大男。
ランドナーが言うには、あいつの事件にも深く関わっているらしい。
なら、アタシのやることは決まっている。
「炎の顎となれ!」
あいつを守るため。あいつを助けるため。
あいつに振りかかる火の粉を全て薙ぎ払う!
「フィアンマ・ミズガルド!」
それは聖なる炎。
そして敵対者を飲み干す巨大な大蛇。
炎に包まれた大蛇は前方に佇むアリオッチに向かう
大蛇の口は大きく開かれ、不死身の怪物をそのまま飲み干すのであった。
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