英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第五十話 邂逅

 膝を着き、徐々に体が薄くなっていくシオン・アルゼイド。

 騎士の最後を見届けようと《鉄機隊》の三隊士は、彼の傍に近づく。

 

「……そなたらの覚悟、そして強さ。確かに届いたぞ」

「あなた、身体が……」

「そなたの一撃が私の中にいた悪魔をも斬ったのだ。私が消えるのも当然だ」

 

 シオンは儚げに笑っていたが、どこか安心した表情をしていた。

 

「あなたは何がしたかったんですの? 悪魔の力を借りてまで、この世に何の未練があったんですの?」

「無論、あの方を救うためだ」

 

 毅然とした顔で自分達を見つめるシオンに三人は息を吞む。

 

「あの戦いで亡くなったあの方が半年後、何の前触れもなく蘇った。なぜ蘇ったのかはわからない。だが、晩年を迎え、あの方と再会した時、あの方がとても思い詰めた表情をしていた。何か大きな宿命に巻き込まれたのだと私は漠然とだが感じた。この世に降りた時、あの方の気配を感じた。何百年経った今もあの方はその宿命に縛られている。だから、私はあの方に仕える騎士としてあの方をお救いしなければならない」

 

 シオンはそう言って、いったん言葉を区切り、再び笑みを浮かべる。

 

「だが、私の出る幕はなさそうだな。あの方は本当に良き騎士を育てたな」

「それは……」

「最後にそなたらの名を聞かせほしい。名は?」

「……アイネスという」

「エンネアです」

「デュバリィと申します」

「……そうか」

 

 シオンは一度俯き、何かを考え込む。

 

「……《神速》のデュバリィ」

「え?」

「《魔弓》のエンネア」

「それは……」

「《剛毅》のアイネス」

「……」

 

 三人の反応にシオンは頷き、眠るように目を瞑る。

 

「私からの贈り物だ。あの方を頼む……」

 

 その言葉を最後にシオンはこの世から消え去った。

 

「えっと……、今のは」

「我々を認めてくれた、ということだな」

「そういうことでしょうね」

 

 シオンの最後を見届けた三人はそれぞれ顔を見合わせる。

 

「ま、まぁ、ありがたくいただきますわ! ……少しかっこいいですし」

「ん? どうした、デュバリィ」

「な、何でもありませんわ!」

 

 顔を赤くしてそっぽ向くデュバリィにアイネスとエンネアは首を傾げる。

 

「そ、それより! スヴェルトのところに向かいますわよ! 今頃、私達の助力を求めているでしょう!」

「いいえ。その必要はなさそうよ」

「……え?」

 

 デュバリィはエド達の方に振り向くと、そこには壁にもたれているアリオッチを囲うエド達がいた。

 そこには援軍として、ヴィクター、トヴァル、セリスが集っていた。

 

「ひ、《光の剣匠》!」

「遊撃士に、あれは星杯の騎士か……」

「どうやら、ここは退いた方がいいわね」

 

 全員がアリオッチの方に意識を向いており、デュバリィ達を見ていない。

 やむを得ない事態だったとはいえ、接触を避けていた彼女達にとっては千載一遇のチャンスだった。

 

「二人とも退きますわよ。気づかれないようにとっととこの場から……」

 

「答えろ! お前達《庭園》は、《D∴G教団》は悪魔を呼び起こして何をしようとしている!」

 

 アリオッチを問い詰めているエドの怒声が部屋に響く。

 三人は撤退することを忘れて、エドの方に振り向く。

 聞き慣れた、そして、二度と聞くことはないと思っていた教団の名を耳にしてしまったからだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 時間は少し巻き戻る。

 

 アリオッチが炎の大蛇に飲み込まれ、視界いっぱいに赤い光景が広がっていた。

 その光景をしばし眺めていたが、その中の二人が視線を外してお互いの顔を見つめ合う。

 

「……エド」

「セリス」

 

 泣きそうな、だけどどこか嬉しそうな表情を浮かべる両者。

 言いたいことがたくさんあったはずが、込み上げる気持ちに上手く口を開けないセリス。

 エドはその様子をただ黙って、じっと見つめていた。

 

「エドさん……」

 

 今まで見たことがない彼の顔を見て、胸に手を置くオランピア。

 彼が大切な人と再会できたことは悦ばしいことなのに、なぜか胸を締め付けるような痛みを感じる。

 

「おたくら、色々あると思うが、今はこっちの方に意識してくれよ」

 

 トヴァルの声に見つめ合っていた二人は我に返って、すぐに視線を前に戻す。

 セリスが放った炎が少しずつ鎮火していく。

 鎮火し、炎が消えたその場所には、壁にもたれかかっているアリオッチの姿があった。

 

「……やるねぇ~。さすがに堪えたぜ」

 

 上半身を動かすアリオッチだったが、下半身が思うように動かすことができず、立ち上がることができなかった。

 

「おい、おい……、あれだけくらったっていうのに何であんなに元気なんだ?」

 

 エド、ヴィクター、セリスの一撃を一遍に受けたのにもかかわらず、呑気な声で立ち上がろうとするアリオッチにトヴァルは動揺する。

 

「あいつの《古代遺物》の力だ。超速再生能力を持った鎧。生半可な攻撃じゃあいつは倒せない」

 

 そう言って、エドは倒れているアリオッチを観察して、口角を上げる。

 

「もっとも、すぐには起き上がれなさそうだな」

 

 アリオッチの身体にはいまだ傷が残っており、治りもいつもより遅い。

 エドの推察通り、彼が纏う《古代遺物》が持つ再生能力の限度を超えたのだろう。

 

「あぁ。今回のゲームもお前さんの勝ちだ。なかなか楽しませてもらったぜ」

「そうかよ」

「やれやれ。《風の剣聖》らとも殺り合ったが、だいぶ腕が鈍ってんな」

「はっ、言い訳かよ。でけぇ図体しているくせに、なっさけねぇ奴だな」

「ハハハ……、確かにな」

 

 負けたというのに今もなお笑い続けるアリオッチ。その様子を見ていたエドは前に出る。

 

「……そんなに久しぶりだったのか?」

「あ?」

「自分と互角に渡り合える強者とやり合うのは久しぶりだったのか?」

 

 妙な質問をするエドをオランピア達は奇怪な目でエドを見つめる。

 

「何が言いてぇ」

「いや、鈍った身体であのアリオスさんと《不動》相手に互角に渡り合ったっていうからな。お前の全盛期はあの二人以上。少なくともユン老師に並ぶくらい強かったんだろうな。だが、そんな奴がいることを俺は老師から聞いたことがない。たぶんだが、お前が全盛期で最後に強者と戦ったのは老師が生きていない遥か昔。…………少なくとも百年くらい前じゃないのか?」

「……は?」

 

 エドの発言に素っ頓狂な声を上げてしまうトヴァル。他の者も声こそ出さなかったが、目を見開いていた。

 

「ここに来る前、オランピアから聞いたんだよ。お前は東の《イスカ都市同盟》付近でさまよっていたところを《庭園》にスカウトされたってな。実はあそこには一つの噂、というより都市伝説のような話があるんだ」

「都市伝説?」

「あぁ。それに出会った者は誰も生き残ることができず、そこに残るのは惨たらしい死体の山。一切の目撃者も残さないで、ただ鏖殺の限りを尽くす《姿無き厄災(インビジブルテンペスト)》。今から百年以上も続いている伝説だ」

「ひゃ、百年!」

 

 予想外の年数にトヴァルは驚愕してしまう。

 

「こいつの鎧は超速再生能力を持った《古代遺物》。その能力があれば百年くらい長生きできたっておかしくない。そして、《姿無き厄災》は今から二年前を境にその姿を見せなくなった」

「二年前って」

「そうだ。《庭園》が結成した年だ」

「なるほど。時期的に重なるというわけか」

 

 エドの推察にヴィクターは納得して頷く。

 

「ククク……、驚いたな。そこまで見抜いちまうか。"観の目"だったか? 便利なもんを持っているな」

「では、そなたはやはり……」

「あぁ。そいつの言っていることは間違っていねぇぜ。その都市伝説の正体は俺。今から百三十年くらい前に滅んだ《イスカ神聖皇国》がまだあった時代に生まれた者だ」

「何だと!?」

 

 アリオッチからの驚愕の真実に誰もが度肝を抜かれているのをよそに、当のアリオッチは自身の武器に目を移す。

 

「こいつは《羅睺(らごう)の牙》っていう俺の一族が代々受け継いだモンでな。こいつの力で今も俺はこうして長く生き続けている」

「《羅睺》……。老師から聞いたことがある《イスカ神聖皇国》には《皇》に仕えていたとされる《九曜衆》という守護者がいたという。その内一つの名が《羅睺衆》」

「あぁ。俺はそこに属する守護戦士だった」

「そんなお前がなんで《庭園》に……、いや、それは今はどうでもいいことだ」

 

 エドは気持ちを切り替えて、剣の切っ先をアリオッチに向ける。

 

「いくつか聞きたいことがある。言っとくが拒否権なんかねぇぞ」

「別にいいぜ。勝者はお前さんだ。その強さに敬意を表して質問に答えてやるよ」

 

 潔いアリオッチにエドは眉を潜ませるが、すぐに気持ちを切り替えてアリオッチに質問する。

 

「それじゃあ、まずは一つ目。オランピアからお前達《庭園》が壊滅した二つの組織が合流して結成された組織だと聞いている。……その壊滅した組織の一つは、三年前に壊滅した最悪の教団、《D∴G教団》で間違いないか」

「なんだ。そこまでわかっていたのか。……いや、元実験体だったお前さんがいるんだ。バレてもおかしくはねぇか」

「っ! てめぇ!!」

 

 アリオッチの物言いに怒りの表情を見せたセリスだったが、エドが片手を彼女の前に出して止める。

 

「もう一つの組織。おそらくメルキオルが所属していたと思う暗殺組織だが、お前は知っているか?」

「あぁ。《月光木馬團(げっこうもくばだん)》。中世から続いていた組織だったらしいが、蛇の連中と全面戦争して壊滅したらしいぜ」

「蛇?」

「結社か……」

 

 意外な接点に驚くエド達だったが、今は少しでも情報を多く手に入れようと次の質問に移る。

 

「二つ目。お前達はこのゲームを通して、何をしようとしている」

 

 その質問に対して、アリオッチはピクッ、と眉が揺れる。

 それをエドは見逃さなかった。

 

「お前達は今回の事件を含めた三つの事件で悪魔をこの世に顕現させた。最初は悪魔を使って俺達を葬ろうとしたんだろうと思っていたが、それは違うと俺は考えた」

「……理由は?」

「クロスベルでのお前の発言とリベールでの《皇帝》の発言だ」

 

『聖典に記されている《七十七の悪魔》の一柱か……。ま、一応ボスからのオーダーはこれで完了か』

『こちらとしてはリーダーから送られた最低限の命令を果たせたから好都合だがな』

 

「お前達の発言に共通していることは二つ。一つはお前らのボス、おそらく《庭園》のリーダーの指示でおこなっていたということ。もう一つはお前達は悪魔を使うのが目的ではなく、悪魔をこの世に呼び起こすのが目的だったということ」

 

 エドの顔が険しくなり、剣を握っている手が強く握りしめられる。

 

「答えろ! お前達《庭園》は、《D∴G教団》は悪魔を呼び起こして何をしようとしている!」

 

 声を張り上げて、アリオッチに迫るエド。

 その目には教団に対する激しい怒りが募っていた。

 自分を、母を、何の罪もない多くの子供達を犠牲にした邪悪な教団。

 壊滅したと思われた組織が別の形で再び動き出した。

 あの時の地獄を生き続けていたエドにとっては、かの教団の存在はとても許容できるものではなかった。

 

「エド……」

「エドさん……」

 

 そんなエドの様子を心配そうに見つめるセリスとオランピア。

 

「……わっかんねぇな」

「何だと?」

 

 そして、アリオッチから出てきた回答にエドは眉をしかめる。その様子を見たアリオッチは淡々と話を続ける。

 

「お前さんの言う通り、俺達はボスの命令で悪魔を呼んだ。だけど、どうして悪魔を呼ぶのかは何にも聞かされていねぇ。メルキオルや《皇帝》も同様だ」

「問い詰めなかったのか?」

「無理だな。俺達が束になっても傷一つ付けられねぇからな。無理に聞けば、やられるのはこっちだ」

 

 話の内容にエドとオランピアは目を大きく見開いた。

 《庭園》の三幹部の実力を知っているエド達は、その三人を相手に無傷で勝つという《庭園》のリーダーの実力に驚くのと同時に、本当のことなのかと信じることができなかったのだ。

 

「……何者なんだ、お前らのリーダーは?」

「元々は教団の幹部司祭をしていた奴だ。それ以外は知らねぇ」

「知らない?」

「あぁ。名前も知らなぇし、顔もいつも黒いフードを深く被っている奴だから、どんな面なのかまったく知らねぇ」

「てめぇ、そんな嘘がまかり通るとでも思ってんのか?」

 

 あまりにいい加減な回答にセリスは剣を抜いて、アリオッチに向ける。

 

「本当のことを言いやがれ。幹部のてめぇがリーダーの素性を知らないわけがねぇだろ」

「嘘はついてねぇよ。そんなに疑うんだったら、確かめればいいじゃねぇか」

「? どういう意味だ」

 

 どうやって確かめるんだ、と問う前にアリオッチが肩を震わして、軽く笑いだす。

 

「そのままの意味だよ。お前達の目で直接確かめればいいだろう?

 

 

 

 

 

 

 ……今、お前さんらの後ろに立ってるからよ」

「何?!」

 

 全員が一斉に後ろに振り向く。

 視線の先には入り口の前でぽつんと誰かが立っていた。

 その者は、足首まである黒いコートで身を包み、コートについてある黒いフードを深く被っていた。

 

「いつの間に!?」

「まったく、気配を感じなかった」

 

 気配を読み取れなかったことにエドとヴィクターは突如、現れた謎の人物に警戒を隠せない。

 

「アリオッチ。少しおしゃべりが過ぎるぞ」

「いいじゃねぇか。勝者の特権だ。いずれ知られちまうんだから、話したっていいだろ」

「やれやれ、あいかわらずだな君は」

「それはお互い様だろう。わざわざ助けに来てくれたのか? ……ボス」

 

 友人のように気楽に話す二人を交互に見るエド達は、彼らの会話からコートの人物の正体を掴む。

 

「まさか、あいつが……」

「《庭園》のリーダー、か……」

 

 予想外の登場に誰もがその場で固まってしまう。そんな彼らを一瞥して深々とお辞儀をする。

 

「お初にお目にかかる。《光の剣匠》殿。遊撃士に星杯の騎士。そして……、《黒金の剣聖》と《金》の管理人よ」

「お前が……、《庭園》のリーダーなのか」

「いかにも。名は明かせないから、そうだな……、《庭園の主(ガーデンマスター)》と名乗っておこう」

「ガーデン……マスター……」

 

 《庭園の主》と自ら名乗るその者は、誰にも寄せ付けない不気味な雰囲気を纏わせて、エド達のことをじっと見つめるのであった。

 




 《庭園の主》は黎Ⅱの彼ではありません。オリキャラです。
 イメージとしてはK〇Ⅱの13人の組織が着ているあれです。

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