まさか、ここまでやり続けるとは思わなかったなぁ~。
それではご覧ください。
魔獣の追跡を何とか振り切り、目的地へと向かうエドたち。
道が徐々に狭くなっていき、車での移動ができなくなった四人は車を降りて、徒歩で向かうことになった。
道に詳しいラカンがランプに灯りをつけて、先導してエドたちを案内する。
「ここからの道は暗く険しい。私から離れないように気をつけてくれ」
「二人とも。俺が殿に着く。俺の"眼"なら、はぐれていても迷わず合流できる」
男二人の進言でラカン、オランピア、セリス、そして、エドという順で暗い道を慎重に進む。
ラカンとエドは持ち前の勘と眼の良さを駆使して周辺を注意深く見回す。どこからくるかわからない魔獣の襲撃を警戒していたのだ。
「……っ」
「おい……どうした、ちび助」
「いえ、気のせいだと思うのですが、風がいつも感じているものよりもすごく冷たいような……」
身体をさすり身震いするオランピア。
確かに寒さは感じるが、それは今が夜で、山岳地帯にいるから寒いのは当たり前のことだとセリスは訝しげな目でオランピアを見つめていた。
「オランピア君。どうやら、君の感性が高い方のようだな」
「え?」
「その寒気は私も感じている。この寒気は《石切り場》からくるものだ」
「……何があるんだ、この先には?」
エドの問いかけにラカンは躊躇っているのか、口を開かず沈黙する。
静寂に包まれた空気がエドたちに緊張感を募らせていた。
「……先祖から伝わる伝承によれば、あの遺跡には悪しき
「精霊?」
「我らノルドの民は古くからの精霊信仰が色濃く残っている。あの場所には闇に落ち、悪しき心を宿した精霊が住み着いており、中に入ったら最後、生きて出てきた者は誰もいない」
「そんなところにシーダちゃんが……」
オランピアの呟きにラカンは重々しく頷く。
平静を装っているが、そんな場所に娘が連れ去られたことに焦りを隠せずにいた。
「……着いたぞ」
ラカンは足を止めて、ランプを前に掲げる。
そこにあったのは石で作られた巨大な遺跡。
年季が入っているのか、積み立てられた石には所々ひびが入っており、至る所に苔のようなものが付いていた。
山深くに隠れていた謎の遺跡。夜に吹く風がエドたちの肌を刺激し、遺跡から伝わる薄気味悪さが膨れ上がってくる。
「ここが《石切り場》……」
「でけぇな。これじゃあどこにいるのかもわかんねぇな」
「シーダ……」
それぞれが遺跡を前でぼそりとつぶやく中、遺跡を凝視するエドだけは言葉を失っていた。
エドがこの場所に来たのは初めてだ。だが、この遺跡には見覚えがあったのだ。
「ここは……、夢にあった?」
それは二回目に見た夢。
青年が長い放浪の旅の末にたどり着いた遺跡。
その遺跡と目の前にそびえ立つ遺跡が非常に酷似していた。
「エドさん?」
「っ! あ、あぁ。どうした、オランピア」
その場で固まっていたエドを心配したのか、彼の身体を揺らして呼びかけるオランピア。
エドは我に返り、悟られないようにオランピアの声に応える。
「大丈夫ですか? どこかぼーっとしていたようですが?」
「おいエド。大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。心配かけてすまねぇ。……それよりも、この遺跡に誰か入っているようだ」
「何?!」
ラカンは目を開き、オランピアたちも瞠目する。
エドは《魔眼》を開いて、地面に膝を着ける。
そこには魔獣の足跡が入り口に向かって続いていたが、その中に靴の跡のようなものが紛れ込んでいた。
「数は二人。足跡もまだ新しいな」
「偶然……なわけねぇか」
「今回の騒動を引き起こした犯人かもしれねぇな」
エドたちは遺跡を睨む。遺跡の重苦しさに当てられていた彼らの戸惑いはいつの間にか消えていた。
「そうとわかれば、こんな所で留まっているわけにはいかねぇな」
「はい。犯人を捕まえて、この騒動を終わらせましょう」
「シーダ。今から助けに行く!」
「そんじゃ、行くぞ!」
四人はそれぞれ武器を構えて、遺跡へと向かう。その歩みには淀みはなく、力強い足取りで進んで行った。
そんな四人の後ろ姿を遠くから眺める影の存在に気づくことなく……。
~~~~~~~
《石切り場》の内部は外の雰囲気とは違って、穏やかなものだった。
小さな水溜まりがこぼれ落ち、静かに流れ落ちる滝ができていた。
音も岩の密度が高いからか、周りに反響しない。
魔獣を警戒していたエドたちだったが、その気配はどこにもなかった。
「……なぁ、本当にここから出てきた奴はいなかったのか?」
中に入って、それなりに時間が経った。セリスはしびれを切らしてしまったのか、先頭で明かりを照らすラカンを問い詰める。
これといったアクシデントはおろか魔獣も出てこないことから、外でラカンが言っていた遺跡の話が彼女の中では胡散臭くなってきたのだ。
「最後に確認したのは、今から百年少し前。真夏の日にフードを深く被った者だったらしい」
「真夏にフード? いくら山に囲まれてるからって熱くねぇか?」
「うむ。さらに言うと、その者は日が沈んだ夜に目撃されたらしい」
「されたって……、村には立ち寄っていかなかったのですか?」
「あぁ。遠くからその者の姿を見ていたらしく、気づいた時にはその姿は消えていたようだ」
あまりに信憑性のない内容に疑いの目を向けるセリスとオランピア。その内容を語るラカンも正直、その内容を信じ切っていない様子だった。
(……まただ。あの夢に似ている)
一方、自身が見た夢に疑念を抱いていたエドは、その内容が夢の内容と酷似していたことに顔がこわばる。
ここまでくれば、あの夢はただの空想や幻などではない。
ラカンの話が事実ならば、あれは過去に在った本当の出来事だったのだろう。
だが、それだと様々な疑問が残ってしまう。
あの青年と彼に纏わりついている声はいったい何者なのか。
どうして、青年は老人の姿から若返ったのか。
どうして、青年はこの地を目指していたのか。
そして、どうして、その出来事を夢という形で自分は見るようになったのか。
答えがまったく見えない迷宮に取り残されたエドは、必死に解き明かそうと深く考え込んでしまう。
「……全員、止まれ」
「ラカンさん?」
ラカンは口に指を添え、その後、添えた指を広げて耳に手を当てる。
三人はラカンの動きをまねて、同じく先の道に耳を傾ける。
「……い、…………のか!」
「……さい……、……ス……はこ……ら」
かすかに聞こえる会話。
その声に四人の緊張感が一気に跳ね上がる。
「どうやら、追いついたみてぇだな」
「うむ。早速、仕掛けるか」
セリスとラカンは武器を持つ手の力を強くする。
一方で、エドとオランピアは目を大きく開いていた。
「エドさん……、この声は……」
「あぁ。間違いないな」
黄金に染まった目を細め、先にいるであろう声の主を睨みつけるエド。
聞き覚えのある声だった。そして、見覚えのある姿だった。
エドは踏み込もうとしたセリスたちよりも先に前に出る。
「エド!」
突然のことに声を上げてしまったセリス。
その声に反応する件の二人。
自分の姿に驚いているのを隙に、エドは二人組の片割れ――ミント髪の男に向かって刃を振るった。
~~~~~~~
時間は少し遡る。
少し広い空間に足を踏み入れた二人組は辺りを見回して、何かを探していた。
「クソッ! どこにいやがるんだよ!!」
だが、目的のものが見つからなかったのか、赤髪の男は地面に転がる石を勢いよく蹴る。
悪態をつくその姿に、もう一人のミント髪の男は呆れ果てていた。
「そんなことしたって、意味ないよ。ほら、先に進むよ」
「うるせぇ! わかってんだよ!」
赤髪の男はそう言って、奥の方へと歩を進める。ミント髪の男は肩を落としてその後ろをついて行く。
「おい、本当にこの場所で間違いないんだよな!」
「うるさいなぁ。ボスが言うにはここで間違いないはずだから」
「
食いつくように迫る赤髪の男にミント髪の男は鬱陶しそうに距離を取る。
「ちょっと、確かに僕にはそういう趣味はあるけど、君はタイプじゃないんだから、近づかないでくれる」
「んなこと知るか! 俺はなあいつより強くならなきゃいけねぇんだ! こんなところで無駄な時間を過ごしている暇なんかねぇんだよ!」
「はいはい、わかってますよ。まったく、彼に負けたのがそんなに悔しいの?」
「負けてなんかねぇ! 俺があいつに負けるなんてありえねぇ、あっちゃいけねぇんだ!」
「いやいや、君、リベールで彼に負けてんじゃん。しかもボコボコに。悔しいのは仕方ないけど、現実を受け止めるのも大事だよ~~」
「っ!! テメェ!!」
ミント髪の男の言葉が癪に障ったのか、胸倉を掴む赤髪の男。
それに対して、ミント髪の男は飄々とした顔の眉間を徐々にしかめる。
「エド!」
だが、自分たちのではない声に反応し、ミント髪の男はすぐに思考を切り替える。
胸倉を掴んでいた赤髪の男の手を引きはがし、そのまま後ろに押す。
振り向きざまに懐を漁り、血のように染まった異形のナイフを取り出した。
――ガキンッ!!
強い金属音が高鳴った。
ミント髪の男に急接近したエドが勢いよく剣を振り下ろしたのだ。
だが、振り向くと同時にナイフを前にかざし、ミント髪の男は振り下ろした剣を受け止めたのだ。
「アハッ! また会ったね。エド君♪」
「あぁ、久しぶりだな。メルキオル!」
クロスベルで出会った《庭園》の幹部、メルキオルは嬉しそうに口角を上げてエドを見つめる。
狂気に満ちた笑みと眼。最初に会った時と何も変わっていなかった。
エドは剣を持った両手に力を込めて、メルキオルを押し返す。
後ろに飛ばされたメルキオルは空中で一回転して、地面に着地する。
「エドさん!」
エドが来た方向からオランピアたちが遅れて駆け寄ってきた。
「やっほ~、オランピア。クロスベル以来だね」
「……そうですね。お久しぶりです、メルキオル」
小太刀を構えて、正面から自分を見据える、かつての同僚の姿にメルキオルは目を少し丸くする。
「へぇ~、てっきり、怯え腰になって彼に隠れると思っていたけど」
「いつまでも、彼に守られるつもりはありません」
「変わったね~。君のおかげになるのかな、エド君?」
「答える義理はねぇな」
つれないなぁ、とメルキオルは残念そうに呟くが、その顔は相変わらず笑みを保ったままだった。
「そんなことより、まさか、こんなところで再会することになるとはな。 ――遊撃士、グラン」
エドは尻餅をついて目を凝らす赤髪の男――グランを睨みつける。
リベールでかち合って、その後、行方をくらましていたのだが、エドはまさかこんな場所で出会うなど夢にも思わなかった。
暗がりの中で目を凝らしていたグランだったが、エドの姿を認識するや否や、その顔は先程のメルキオルの時よりも赤く、憤怒に染まりだす。
「エドワード・スヴェルト!! 何で、テメェがここにいやがるっ!」
「それはこっちのセリフだ。《庭園》と何かかかわりがあるとは思っていたが、まさか幹部と共に行動しているとはな」
「僕としては、めんどくさいんだけどね」
「おい、あの見るからにムカつく奴はまさか……」
「はい。《庭園》の《管理人》。《棘》のメルキオルです」
セリスがメルキオルの態度に苛立ちを募らせる中、彼女の声に異常に反応する者がいた。
「セ、セリス! 何でお前がここに?!」
それはグランだった。
彼は先ほどまでの怒りが嘘のように消え去り、まるで再会の喜びに打ちひしがれているかのように極上の笑みを浮かび上げた。
「あぁ? …………
「知り合いじゃないのか?」
セリスの意外な反応にエドは思わず驚きの表情をしてしまう。
リベールで会った時、グランから彼女の名が出ていたことから、顔見知りだとエドは思っていたのだ。
「知らねぇよ。あんなパクリ野郎。教会でも見たことがねぇな」
だが、セリスは迷うことなく、初対面だと言い切る。
一方でグランはセリスの反応より、エドと行動していることに猛反発し始める。
「セリス! 何でそんな奴といるんだよ! そいつは人殺しだ。一緒にいると殺されるぞ!」
「気安く呼ぶんじゃねぇ! それにエドはそんなことなんかしてねぇ!! ふざけたことをほざいているとブッ飛ばすぞ!!」
エドを貶める発言に怒りをあらわにするセリス。その強烈な威圧にグランは一歩、後ろに引いてしまう。
「ん~。なんか面白そうな展開だけど、そこまでにしてくれないかな」
メルキオルはグランの前へと移動し、エドたちの前に立ちはだかった。
「ほら、ここは僕が何とかするから。君はとっとと先に行きなよ」
「ま、待て! まだ、話は終わって……」
グランがメルキオルに食いかかろうと迫るが、彼の喉元にメルキオルはナイフを突き刺す。
「勘違いしないでよ。僕が君と行動してるのはボスの指示だから。それがなきゃ君みたいな小物、今すぐここでぶち殺したいくらいだよ」
「っ?!」
「僕たちがここに来た目的を忘れないでよ。わかったら、早く行ってよ。邪魔だから」
メルキオルの本気の殺気に顔を青ざめるグランはその後、まるで逃げるかのように奥の方へと走っていった。
やれやれ、とメルキオルはため息をこぼして、改めてエドたちの方に視線を向ける。
「さて、待たせちゃったね」
「どういうことだ。仲間じゃなねぇのかよ?」
「仲間? 冗談言わないでよおチビさん。あんなの《庭園》じゃ使い物にならないよ。よくて、自爆特攻させるくらいしか役立たないね」
「チ……っ! んだと、テメェ!!」
自身のコンプレックスをストレートに突きつけられ、ガチギレするセリス。
エドはセリスの肩を掴み、後ろに引かせる。
「お前らがここにいる理由は何だ。ノルドの魔獣騒動はお前達の仕業か?」
「魔獣? そういえば、ゾンビみたいな魔獣が徘徊していたけど、そいつらのこと?」
メルキオルは首を傾げて、逆に質問してきた。その様子は本当に知らないようだった。
「この遺跡の中にいた魔獣はお前がやったのか?」
「そうだよ。あいつの警護をボスに頼まれちゃってさ。我儘すぎて嫌になっちゃうよ」
「警護? 何が目的であいつはここに来たんだ?」
「さあ? ただボスがここならば今よりも強くなれる何かがあるってあいつを唆してね。君に敗れたことがそうとう悔しかったみたいだよ」
「力? まさか、この地に眠る悪しき精霊のことか」
「さぁ、そこまでは知らないよ。興味もないしね。今、僕が興味あるのは君だからね、エド君♪」
ラカンの追究を無視し、メルキオルはエドをねっとりとした目で見つめてきた。
「こんなところで再会するとはねぇ。特にゲームをする予定はなかったんだけど。僕たちって、もしかして、そういう運命で繋がっちゃったりしてねぇ~」
「気持ち悪いこと言ってんな。俺にお前みたいなアブノーマルな趣味はない」
「あら、残念。やっぱり、君はそこのおチビさんがタイプかな? 付き合ってたみたいだし」
「む……」
メルキオルの指摘にオランピアは無意識に顔をしかめる。
その反応を見たメルキオルは面白そうに笑っていた口角をさらに上げる。
「それとも、オランピアのような子がタイプなのかな? あれからず~と一緒にいるみたいだし」
「あぁ?」
「お前ら、落ち着け。相手のペースにのまれるな」
今度はセリスが青筋を浮かべて、メルキオルを睨みつける。
こちらを揶揄っている様子にエドは二人を落ち着かせようとなだめる。
「悪いが、お前と付き合ってる時間はねぇんだ。こっちは人命がかかってるんでな」
「つれないなぁ~。もうちょっと付き合ってよ。久しぶりの再会なんだからさ」
「お断りだ!」
刹那、一足で距離を縮めたエドはメルキオルに刃を振るう。
バックステップして、刃を躱すメルキオルは懐から何かを取り出し、エドに向かって放り投げる。
放たれたのは小さな鉄球。メルキオルが所有する爆弾の《古代遺物》だった。
「ほいっと!」
「緋空斬!」
迫りくる爆風に炎の斬撃をぶつける。
二人の間に煙が立ち、お互いの姿が見えなくなる。
《魔眼》でメルキオルを捉えようとするが、煙の向こうから突如、ナイフが飛んできた。
身体を横に捻り、ナイフを躱すエド。
――バキンッ!
すると、何かが壊れる音と同時に視界が真っ黒に染まる。
突然のことに、エドはオランピアたちが立っているであろう後ろに視線を向ける。
「何があった!」
「すまん! ランプを壊された!」
暗くなったのはそれが原因だった。
遺跡内を照らしていた唯一の光が奪われた。
お互いの姿を確認することができず、うかつに動くことができない。
「っ!」
だが、《魔眼》でオランピアたちの姿を確認したエドは思わず瞠目する。
オランピアに接近していたメルキオルがナイフをかまえて、彼女を突き立てようとしていたのだ。
「させるか!」
――ガキンッ!
二人の間に入り、メルキオルの奇襲を受け止めるエド。
メルキオルは追撃をおこなわず、後ろに引いて闇の中に消える。
「エドさん!」
「離れるな! あの野郎、どうやって俺たちの位置を!」
暗くて何も見えないのは、あっちも同じはずだった。
だが、メルキオルは迷いなくオランピアを狙ってきた。
「僕はアリオッチや《皇帝》とは違って、生粋の暗殺者だよ」
暗闇の中に響き渡る声。
エドたちは背中合わせになって周囲を警戒する。
「生まれた頃から、殺しの技術を徹底的に叩き込まれた。君たちが今まで戦ってきた半端者と一緒にしないでくれよ。この程度の暗闇、僕には何の障害にもならない」
やられた、とエドは歯ぎしりする。
あの時のナイフは最初からランプを狙っていたことにエドは遅まきながら気づいてしまった。
「ここは僕の
暗闇に隠れた暗殺者はニヤッと不気味な笑みを作ってエドたちに襲い掛かるのだった。
七か月間、誤字・脱字の報告を毎日してくださりありがとうございます!
感想・評価の方もお待ちしておりますので、次回の話もお楽しみください!