英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第六十三話 《月光木馬團》

 シーダ救出のため、《石切り場》へと足を踏み入れたエドたち。

 そこで《庭園》の幹部であるメルキオルと偶然、再会を果たし、そのまま一戦を交えることになった。

 

「ヒャァ!」

 

 血で染めたような真っ赤なナイフを首筋に目掛けて振るうメルキオル。その動きに躊躇いはなく、本気で相手を殺す勢いだった。

 

「ふっ!」

 

 対して、彼と打ち合っているエドは太刀ではない両刃の剣でナイフを受け止め、鍔迫り合いの状態になる。

 だが、メルキオルは押し切ろうとする素振りは見せず、すぐに後ろへと下がる。

 それに気づいたエドは視界から消える彼を追おうとするが、それを見計らったメルキオルが指を鳴らす。

 エドは追うのをやめて後退する。すると、先程までエドが立っていた場所が突如、爆発した。

 メルキオルは後退すると同時に地面に爆弾を落としていたのだ。

 爆風による砂塵が収まり、視界が晴れていくと、メルキオルの姿は暗闇の中へと消え去っていた。

 

「また隠れやがったか」

「くそっ! こんだけ暗いとどこにいるのか全然わかんねぇぜ」

 

 エドたちは背中合わせになって、周囲へと視線を満遍なく動かす。

 だが、視界に広がるのは黒一色の景色。

 ランプを壊され、暗闇に取り残されたエドたちの視界は完全に殺されていた。

 

「エド! お前の眼であの野郎は見つかんねぇのか!」

 

 唯一、頼れるのは、見えないものを見ることができるエドの《魔眼》のみ。

 言われるまでもなく、エドは《魔眼》をすでに解放しており、暗闇の中に紛れるメルキオルをずっと探していた。

 

「……だめだ。全然見つからない」

「はぁ! なんで見つかんねぇんだ!」

「たぶんだが、俺の視界に入らないように動いてんだろう」

 

 暗闇の中でも見ることができるエドの《魔眼》の力は確かに強力だが、その範囲は彼の視界の範囲のみ。

 目に映らない死角に動いてしまえば、その力は何の意味も持たない。

 その事実にセリスとオランピアは苦虫を噛み潰したかのように顔を歪ませる。

 生粋の暗殺者であるメルキオルはこの暗闇の中でもエドたちの姿が見えるのに対し、自分たちは姿を見ることができず、見えるようにするための手段がない。

 状況は完全にメルキオルの方に傾いていた。

 

「君たち、ここは私に任せてくれ」

「ラカンさん?」

「奴は私が引きずり出す。姿を現した瞬間を決して見逃すな」

 

 ラカンは目を瞑りながら肩の力を少し抜く。

 彼の周囲が静寂に静まり、エドたちもその空気に言葉が出ない。

 ラカンはその後も目を瞑ったまま、その場から動かない。

 今、襲われれば対応に遅れてやられてしまう。

 それを承知の上でラカンはその状態をずっと維持し続けていた。

 その様子を暗闇に紛れて探っていたメルキオルはラカンの突然の行動に訝しげな表情を見せるも、すぐに興味をなくした。

 

(ま、どんな策があるかは知らないけど、僕を探し当てることなんか無理だけどね)

 

 そう結論づけたメルキオルは、再び襲撃しようと場所を移す。

 息づかい、足音、気配。それらをすべて消し、相手に自分の位置を悟られないように動くメルキオル。

 元々《庭園》の前身である《月光木馬團》の暗殺者だったメルキオル。

 暗殺に必要な技術を完璧に習得し、《木馬團》にいた頃は一度も暗殺に失敗したことはなかった。

 周りの者からは天才と称されるほど、彼の実力は非常に高いものだった。

 ゆえにメルキオルは自身の隠形に絶対的な自信があった。

 気づくわけがない。気づいたとしてもその前に自分にやられて終わるのが常だった。

 メルキオルは無駄だと、ラカンの行動を密かにあざ笑っていた。

 

(ん……?)

 

 ラカンがふっと目を開け動き始めたことに気づいたメルキオルは再び、彼を注視する。

 何をするのかと様子を窺おうとするが、直後、彼の槍から放たれた衝撃波がメルキオルに向かって飛んできた。

 

「うっそでしょ!?」

 

 思わず、声を上げてしまうメルキオルはすぐにその場から離脱。

 衝撃波はそのまま壁に激突し、クレーターを作り出す。

 間一髪で躱したことにほっと息をするメルキオルだったが、肌を刺激する殺気にすぐに視線を前に移す。

 すると、黄金の眼で睨みつけるエドが急接近してきた。

 上段からの振り下ろしにメルキオルは横にステップする。

 剣は地面をたたき割り、地割れのように地面にひびを付ける。

 

「ふっ!」

「おっと!」

 

 体勢を立て直したメルキオルに目掛けて、ラカンの一突きが迫る。

 メルキオルは咄嗟にナイフで軌道をそらすが、ラカンは槍をすぐに引き、今度は連続の突きを放つ。

 メルキオルは襲いかかってくる突きを弾き、弾き、弾き続ける。

 その隙を突いて、エドはメルキオルの背後に目掛けて跳んでくる。

 

「くっ!」

 

 メルキオルはその場から離れようと、その場で高く跳躍する。

 同時にエドたちに爆弾を放り投げ、指を鳴らす。

 鳴らすと同時に起爆した爆弾。

 エドとラカンはすぐに後退し、爆風を躱す。

 メルキオルはそのまま後退し、再び暗闇へと姿を消した。

 

「また、隠れやがったか!」

「なかなかに機転が利くな」

 

 エドたちがそう悪態をつく中、猛攻を退けたメルキオルは内心ヒヤッとしていた。

 

(あの男、僕の居場所を完璧に捉えていた)

 

 メルキオルはラカンの第六感とも言うべき勘の良さに舌を巻いていた。

 ラカンはノルドで培った感性である「風」を読み取り、メルキオルの位置を見抜いたのだ。

 エド以外の想定外の戦力にメルキオルは動揺するが、すぐに頭を振り、息を整える。

 感情的になれば、暗殺の成功率が愕然と下がる。故に暗殺者は常に心を殺し、冷徹でなければならない。

 平常心を取り戻したメルキオルはエドとラカンに気づかれないように注意しながら、岩壁から彼らを覗き込む。

 彼らの立ち位置などを把握したメルキオルの口元は軽く上がった。

 メルキオルは指を鳴らして、暗闇の中に音を響かせる。

 

「ぬっ!」

「おわっ!」

 

 すると、エドとラカンの足下近くで突如、爆発が起きた。

 何が起きたのか、エドは《魔眼》で正体を探るが、見た瞬間に息を詰まらせた。

 足下には爆弾がいたるところに散乱しており、足場がほとんどない状態になっていた。

 戦いの最中にメルキオルがばらまいたのだろう。

 

「爆弾だ! 全員、足下に気をつけろ!」

 

 即座に注意を呼びかけるが、それを嘲笑うかのように次々と爆弾が炸裂する。

 ラカンは爆発する際のかすかな振動を感じ取って、ギリギリの距離で躱していた。

 一方、エドはある方向で目が留まり、すぐさま地面を蹴る。

 向かった先にいるのは、暗闇で身動きがとれないセリスとオランピアの姿があった。

 彼が通った道は爆発を繰り返し、エドに追いつこうと徐々に迫っていく。

 

「掴まれ!」

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

 エドは走りながら、セリスとオランピアを自身の両脇に抱え込む。

 爆弾が散乱する中で身動きができない二人はメルキオルにとっては格好の的だった。

 そう判断したエドは反撃を捨て、二人の救助に取りかかった。

 突然のことに顔を赤くする二人だったが、耳を貫く勢いの爆音に落ち着きを取り戻す。

 

「エド! どうすんだ、この状況!」

「悔しいが一度退くぞ! この場所じゃ、俺たちがあまりにも不利だ!」

 

 暗殺者の恐ろしさを実感したエドは、暗闇の中では彼には勝てないと判断した。

 一刻も早く、シーダを助けなければならないが、死んでしまっては元も子もない。

 

「逃がさないよ!」

 

 頭上から聞こえた暗殺者の声にエドは視線を上に向ける。

 そこにはメルキオルが放った爆弾が雨のように降り注いでいた。

 

「しまった!」

「これでジ・エンドだよ!」

 

 完全に逃げ場を失ったエドはその場で立ち尽くしてしまう。

 メルキオルは止めを刺そうと、指を鳴らそうとする。

 

 ところが――、

 

 

 ――キィンッ!!

 

 

 何かが張るような音と同時に爆弾が空中で爆発した。

 爆発した高度は高く、爆風はエドたちに届くことはなかった。

 

「な、何が起こってんだ?!」

「エドさん」

「今のは、車の時と同じ……」

 

 魔獣に囲まれたときと同じ現象を前にエドは呆然としていた。

 だが、《魔眼》を開いていたエドは何が起きていたのか、すぐにわかった。

 爆弾が地面へと落ちていくその時、細い糸のようなものが前を通り、爆弾はそれに両断されたのだ。

 

「嘘……、今のって……」

 

 一方、メルキオルは目の前で起きた現象に珍しく目を大きく開いていた。

 その目には驚愕と一緒に既視感が募っていた。

 かすかに生まれた隙。

 それを彼女は一切、見過ごさなかった。

 ぬっ、と暗闇に紛れて彼の背後をとる一つの影。

 メルキオルは遅れて反応して、後ろに振り向く。

 振り向いた先にあるのは、一本の紫紺のダガー。

 躱そうとするメルキオルだったが、ダガーは彼の頬を深く抉る。

 赤い鮮血が飛び散り、後ろに飛ばされたメルキオルは空中で体勢を立て直し、危うげなく地面へと着地する。

 

「お前は……」

「エド様。皆様もご無事で何よりです」

 

 突然、現れた影の正体にエドは目を開く。オランピアたちも姿が見えなかったが、影から発せられた声でその正体を見抜いた。

 

「もしかして、シャロンさん?」

「はい。その通りですよ。オランピア様」

 

 影はエドたちの下へと近づき、何かを前にかざす。

 かざした何かは、突如、光を放って周囲を照らす。

 新たなランプを手に持った影――シャロン・クルーガーは優しく微笑んで、エドたちにランプを渡した。

 

「どうぞ。ラインフォルト社製の導力ランプです」

「い、いや。そんなことより、何でアンタがここにいやがるんだ?」

「魔獣除けにもなりますので、今後もぜひ我が社のランプをお使いください」

「話聞けよ!」

 

 一介のメイドがこの場に現れたことに不信感を抱けないセリスはシャロンを問い詰める。

 だが、シャロンは表情を崩さずに、そのまま宣伝を行い、セリスを無視していた。

 

「アハハハハハ!! ハ~ハハハハハハ!!」

 

 混乱が募る中、けたたましい笑い声が響き渡る。

 笑い声がする方に振り向くと、そこにはお腹を抱えて爆笑するメルキオルがいた。

 

「ハハハ! まさか、こんなところで会うなんて夢にも思わなかったな!」

 

 メルキオルはシャロンに獰猛な笑みを見せつけ笑い続ける。その表情は驚喜に満ちており、向けられたシャロンは、ただじっとメルキオルを見つめていた。

 

「組織が壊滅して以来だから、七年ぶりか~。元気にしてた? クルーガー先輩♪」

「先輩?」

「シャロンさんが?」

 

 メルキオルから出た意外な言葉に、シャロンの方へと視線を集めるエドたち。

 シャロンも観念したのか、やれやれと言わんばかりにため息をこぼす。

 

「シャロン? へぇ~、今はそう呼ばれてるんだ。いい名前だね、シャロン先輩♪」

「気安く、その名で呼ばないでください」

 

 今までにないシャロンの冷たい対応にオランピアは混乱するが、エドは目を鋭くして、シャロンを問い詰める。

 

「シャロンさん。あなたは《庭園》……、いや、もしかして《木馬》の?」

「そうだよ。彼女はね、僕がかつて所属していた《月光木馬團》の暗殺者。組織壊滅後、結社に取り込まれて《執行者》になったんだってね」

「そちらの方は休業中です。今の私はラインフォルト家に仕えるただのメイドです」

 

 それと、とシャロンは一度、言葉を区切り、話を続ける。

 

「女性のプライベートを軽々しく口にするものではありませんよ。その多弁な舌を引き裂かれたいのですか、メルキオル」

 

 色を感じさせない能面の表情。

 細めながらメルキオルを見つめる冷たい視線。

 そして、その目から放たれる静かな殺気。

 笑顔を絶やさなかったメイドの本性にエドたちは思わず息を飲み込んでしまう。

 

「先輩も変わったね。昔は何度絡んでも無視する一方だったのにさ」

「そういうあなたは変わりませんね。己の快楽のため、楽しく、狂おしく人を殺し続ける。そんなあなたが、今では《庭園》の幹部ですか」

「まあね。組織を立ち上げたのは成り行きだったけど結構、楽しくやってるよ。《破戒》のあの人が教団の生き残りを連れてきて、『後は好きにしろ』っていうから、好きにさせてもらったけど、組織を運営するのも案外、悪くないものだよ」

「はぁ……、やはり彼が発足者でしたか」

 

 さらっと《庭園》誕生の秘話を暴露するメルキオルに対してシャロンは予想していたのか、二度目のため息をこぼした。

 

「それで? 先輩はどうしてここに来たんだい? まさか、わざわざ僕に会いに来てくれたのかい? いや~、先輩に愛されてて嬉しいな~」

「ご冗談はほどほどに。私がここに来たのはエド様たちをサポートするためです」

「俺たちの?」

「はい。あの村には私が仕えている大旦那様がいらっしゃいます。あの方の安全を確保するため、ご助力に参りました」

 

 シャロンはエドたちの前に立ち、メルキオルと相対する。

 手には彼の頬を抉った紫紺のダガーと爆弾を両断させた鋼糸が収まっていた。

 

「彼の相手は私がします。エド様たちは先を行ってください」

「……信じていいんだな」

 

 かつてメルキオルと同じ組織にいた暗殺者。

 そして、今は結社の《執行者》。

 《鋼の聖女》との共闘があるとは言え、まだ信用できていなかったエドは真っ直ぐとシャロンの目を見つめていた。

 

「はい。私の愛と献身の対象であるラインフォルトの方々に誓って」

「……わかった。ここは任せる」

 

 シャロンの真剣な視線にエドは沈黙の末、首を縦に振る。

 エドはオランピアたちを引き連れて、奥の方へと駆けて行った。

 その様子をメルキオルは黙って見送った。隙を見せれば、一瞬で刈られる。本能で感じ取ったメルキオルはそのままシャロンと向き合った。

 向かいあう元《木馬》の暗殺者。

 お互いに異形の得物を手に持ち、静かに構えた。

 

「ここからは私がお相手します。……お覚悟を」

「フフフ……、先輩と殺り合うのも久しぶりだな~。それじゃあ、楽しく殺し合おうか!」

 

 二つの剣閃が重なり、音が鳴る。

 鳴り響く音が次第に止んでいき、静かな殺し合いが始まった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 シャロンにメルキオルを任せたエドたちは遅れた分を取り戻すため、駆け足で奥へと進んでいった。

 

「まさか、あのメイドが結社の《執行者》だったとはな」

「しかも、メルキオルと同じ元《木馬》の暗殺者。道理で殺気が似ていたわけだ」

「聞いた話ですと、《破戒》という方が《庭園》を作ったみたいですけど」

 

 エドたちは走りながら、先程の暗殺者同士の対話を思い出していた。

 

「《破戒》……。ヨルグのおやっさんから聞いた話だと、《鋼の聖女》と同じく、結社の最高幹部、《使徒》の一人がそう呼ばれていたな」

「そんじゃあ、《庭園》と《結社》は繋がってるってことか?」

「聖女殿と対立していたし、聞いた感じだと、《破戒》の独断っていう可能性が高いな」

 

 気になることが増え、後でシャロンに聞こうと密かに決めるエド。

 そのためにもシーダを助け、魔獣騒動を解決するためにエドたちは奥の暗闇へと突き進む。

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 突然の絶叫が遺跡内に鳴り響く。

 悲鳴とも言える男の雄叫びに四人の足が止まってしまった。

 

「今のは!」

「あの遊撃士の声だ!」

 

 ただ事ではないと察したエドは、止めた足を蹴る。

 足を速め、奥の道へと走るエドたち。

 やがて、最奥にたどり着いたエドたちがそこで見た光景は――、

 

「や、やめろ! 痛いっ、痛いから離せぇええ!!」

 

 件の魔獣に腕を噛まれ、そのまま引きずられてボロボロになっているグランの姿。

 

「っ! シーダ!」

 

 その奥で地面に寝転がっている、シーダの姿。

 

「あ、あれは……」

 

 そして、何よりも一番に目を引いたのは奥で壁を背に倒れ込む一人の男。

 男の腕や足、そして、胸には岩でできた杭のようなものが刺されており、身動きがとれない状態になっていた。

 

「う、うう……」

「! 生きてんのか?!」

 

 死んでいてもおかしくない状態で身体を動かす男の姿にセリスは瞠目する。

 男は目をゆっくりと開け、エドたちの姿を見て、目を見開く。

 

「ひ、人? ど、どうして、こんな所に人が?!」

「お前は……」

 

 エドは男の姿を見て言葉を失う。

 なぜなら、その男は夢に出てきた青年と瓜二つだったからだ。

 

「だ、大丈夫ですか?!」

「っ! 来るな!」

 

 心配するオランピアは男を助けようと近づこうとするが、男は大声を上げて、彼女を拒絶する。

 すると、男の声に反応し、グランの周りにうろついていた魔獣がオランピアの前に立ち塞がった。

 その様子を見ていたエドたちは一つの確証を得る。

 

「村を襲った魔獣はお前の仕業だったのか?!」

「お、襲った? ど、どういうことだ?」

「しらばっくれるな! テメェが魔獣をけしかけて村を襲って、そのガキを連れ去ったんだろ!」

 

 シーダに指を指して吼えるセリスに男はようやく、シーダの存在に気づく。

 ひどく混乱していた男だったが、何かに気づき、顔を強くしかめる。

 

「まさか、あいつが! 俺の知らないところでどうやって?!」

「あぁ! 何言ってやがるんだ!」

「待て、セリス! まずはシーダちゃんを助けるのが先だ!」

 

 男に突っかかるセリスを抑えるエド。

 エドはオランピアとラカンに目配りして、同時に仕掛ける。

 

「緋空斬!」

「はぁ!」

 

 エドとラカンが先手を仕掛ける。

 炎の斬撃と風の突きが魔獣を一掃する。

 エドたちとシーダの間に道が開いた。

 

「イシュタンティ!」

 

 その隙にオランピアはイシュタンティを送る。

 イシュタンティは一直線に空いた道突き進み、シーダの元へとたどり着く。

 シーダを抱えたイシュタンティは翼を広げ、オランピアたちの方へと戻っていった。

 

「シーダ!」

 

 イシュタンティはシーダをラカンへと引き渡した。

 両腕に眠る娘の姿にラカンはほっと息をこぼす。

 

「ったく、余計な手間をかけさせやがって」

「ぐっ……!」

 

 一方、エドは嫌そうな顔をしながら、魔獣に襲われていたグランを回収していた。

 グランはエドに助けられたのが気に入らなかったのか、憎々しげに睨みつけていた。

 

「さて、後はあいつだな……」

 

 エドはそんなグランを無視して、岩に磔になった男と再び向き合う。

 

「お前が俺に夢を見せているのか?」

「ゆ、夢?」

「ここ最近、お前に関する夢をずっと見続けていたんだよ」

 

 エドは今まで見てきた夢の内容を語り始める。

 男はその内容に驚きを隠せずにいた。

 その反応に夢の内容が過去にあった本当の出来事だとエドは確信する。

 オランピアたちも今回のことと共通していることが多いことに気づき、男から目が離せないでいた。

 

「お前はいったい、何者なんだ? 人間じゃなかったのか?」

「お、俺は……」

 

 エドの問いかけに男は言葉を濁す。自分が何者なのか、はっきりと言えない様子だった。

 

「吸血鬼じゃよ」

 

 その時、エドたちの後ろから声が届いた。

 後ろを振り向くと、丸い球体が上へと飛んでいき、強烈な赤い光を放つ。

 光は辺りを照らしていき、遺跡内の景色が露わになっていく。

 

「まさか、まだ生き残りがいたとはの……、全滅したとおもっていたのじゃが」

「あなたは……」

 

 姿を現したその人物にオランピアは声を上げる。

 金色の長髪を腰まで下ろし、八重歯をニヤッと見せて笑う少女。

 手には純銀で作られた法剣とアンティークな柄が特徴的な少し古いボウガンがあった。

 

「ロゼさん!」

「また会ったの、オランピア」

 

 ロゼはオランピアに挨拶を交わした後、視線を男の方に向けて前に出る。

 

「さて、初めましてじゃな、最後の吸血鬼。お主に恨みはないが、ここで仕留めさせて……もら、う……」

 

 ロゼは髪をなびかせて男に近づくが、男の顔を見るなり、歩みを止めて、言葉を失ってしまう。

 彼女の緋色の目はひどく揺れ動き、信じられないと言わんばかりに顔色を変える。

 

「そ、そんな、お、お主は……」

 

 エドは動揺を隠しきれないロゼに眉をひそませながら窺う。

 そして、彼女の揺れる目を見た瞬間。

 

「ぐっ!」

「エド!」

「エドさん!」

 

 両目を押さえ、その場に蹲りだすエドにオランピアたちが近づく。

 エドは目を閉じて、襲いかかる激痛に耐える。

 視界が黒に染まっている中、ノイズのようなものが走り、何かが映りこむ。

 

 そこはどこかの港。景色が少しずつ明るくなり、海の方から白い朝日が顔を出していた。

 

「――それでは、私はこれで」

 

 妙齢の女性が小さく会釈する。

 彼女の前には別の女性を背負った軍服の男性。夢で出てきたあの男性だった。

 

「そうか……、次はどこに行くんだ?」

「わかりません」

 

 男の問いに女は小さく首を振り、背を向ける。

 その背はとても寂しく、迷子でさ迷い続ける子供のように小さく見えた。

 

「全部終わったら……また、来るといい」

「えっ」

 

 その姿に何を思ったのか男は女にそう応える。

 女は足を止め、目を丸くして男の方に振り向いた。

 

「俺はここで待っている」

「――はい――!」

 

 湧き上がる嬉しさを隠すこともせず、女は背中に昇る太陽のように微笑んだ。

 その後、女は陽光の中へと歩きだし、振り返ることはなかった。

 

「――朝は必ず来る。きっと、君にも――」

 

 女が真っ白な朝日の中に消えて行くのを、男は最後まで、静かに見送っていた。

 

 そこで映像が途切れた。

 

「っ! 今のは?!」

 

 意識を取り戻したエドは先程の映像に戸惑いを示す。

 今度は夢ではないことにも驚いたが、エドはそこに出てきた二人の男女に注目する。

 男の方は壁に張り付いている男性。映像に映っていた時よりも年は取っていたが、間違いなく同じ男だった。

 そして、もう一人の女の方は突如現れた少女、ロゼに瓜二つだった。

 彼を心配するオランピアたちの様子など目もくれず、ロゼはゆっくりと男の方へと再び歩きだす。

 ゆっくりとした足取りで、壊れてしまわないようにそっと手を差し伸べる。

 男もロゼの姿に目を丸くし、震えた口を動かし、彼女の名を呼ぶ。

 

「ロゼ……。君、なのか?」

「……アル。どうして、お主が……」

 

 喜び、悲しみ、そして、困惑。

 あらゆる感情が入り混じった二人の顔は、ひどくつらそうな顔を浮かばせていた。




 念のために告げよう。
 夢に出てきた人は軌跡シリーズにも出ています。
 軌跡ファンなら誰かわかるはずだ!
 次回も楽しみにしてください!!
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