英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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何とか連日で出せました。


第七話 ローゼンベルク工房

「ローゼンベルク工房?」

 

 目的地の名を聞き、オランピアは首を傾げた。

 

「住宅街にそんなところがあるのですか?」

「住宅街にはねえよ。マインツ山道の道中にある工房だ」

 

 マインツ山道は住宅街を抜けた先にあり、山道を越えれば鉱山町マインツがある。

 だが、エドの話を聞いた感じだと、鉱山町内にある工房でもないらしい。

 

「あの、どうしてマインツ山道に? 武器ならば中央広場の方でも買えるはずですが……」

「無理だ。俺ならともかく、お前の武器を買うとなると街中の店はほとんどだめだ。警察か遊撃士に通報されちまう」

 

 オランピアはまだ十二歳の女の子だ。元暗殺者という特殊な過去を持っていようと知らない人からすれば、まだ日曜学校に通っているだろう小さな子供だ。そんな子供に武器を持たせるなど普通に考えれば大問題にしかなりえない。エドが裏組織の人間だと判断されて通報されてしまう。

 

「だから、別のところで武器を調達しようと思う」

「マインツ山道にそんな所があるのですか?」

「そうだ。マインツトンネルの道とは別にもう一つ道があってな、そこに工房がある」

 

 そう言い、エドは住宅街へ向かった。オランピアは戸惑いながらも黙ってエドに付いて行った。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 住宅街から街を出て、マインツ山道へ向かう中オランピアは再び足を止めた。

 

「エドさん。ちょっといいですか」

「ん? 今度はなんだ」

 

 オランピアはある方向に指を差し、エドは差された方向に目を向けた。

 

「あそこに階段があるのですが、あの先には何があるのですか?」

 

 どうやらオランピアは、階段の先に何があるのか気になっていたようだ。

 

「あ~、その先には教会があるんだ」

「教会ですか?」

「あぁ。クロスベル大聖堂。クロスベルにある教会はここだけだ」

「教会……。そういえばエドさん聞きたいことがあるのですが……」

「なんだ?」

「イシュタンティ。私が持っていた《古代遺物》はどうしたのですか?」

 

 七耀教会では《古代遺物》を「早すぎた女神の贈り物」と定義しており、教会は回収・管理をしている。

 

「あぁ。それならここにある」

 

 エドは自身が持っているごつごつに詰った袋を見せた。

 

「その中にですか? 工房に行く前に教会には行かないのですか?」

「教会が回収するのは、まだ力が残っている《古代遺物》だけだ。力を持っていないこいつは対象外だ」

 

 エドは袋を持ち直し、山道の方に足を運んだ。

 

「それに、こいつはお前のためにも必要なものだからな」

「あ、待ってください!」

 

 急に進みだしたエドに置いて行かれないようにオランピアは少し駆け足で追いかけた。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 マインツ山道は必要最低限の整備がされていないからか道が入り組んでおり、かなりの距離を歩いていたが特に問題なく進んでいた。

 道中で見かけた大きな河や岩壁の上から見下ろす絶景など、街では見られない大自然にオランピアはキョロキョロと辺りを見渡していた。

 導力灯のおかげで魔獣に襲われることはなかったが、別の問題が発生した。

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 オランピアは頭を下げ、足元を見ながらゆっくりと歩いていた。

 マインツ山道に入ってからすでに一時間が経過していた。険しい山道に十二歳の少女の体力は限界を迎えていた。

 

「大丈夫か? 少し休憩でもするか?」

「い、いえ……、大丈夫です……」

 

 恩人に迷惑をかけたくないのか意地を張るオランピア。それを見透かしたのかエドはため息をしてオランピアに近づいた。

 

「失礼」

「きゃっ!」

 

 すると、エドはオランピアを抱えた。

 

「エ、エドさん! 何を……」

「まだ子供なんだから、無理するな」

「で、ですが……」

「一人旅し続けたせいか、いつものペースで進んじまった。お前のことを考慮していなかった俺のミスだ。責任もって運んでやるよ」

「それでも、この格好はっ!」

 

 エドはオランピアの背中と膝に腕を回し、両手で持ち上げていた。いわゆる、お姫様抱っこだ。

 

「仕方ねえだろう。背中はすでに先客がいるんだからな」

 

 そう言って、背中にある袋を見せつける。

 

「だから、我慢しろ。それじゃあ、行くぞ」

「うぅぅ……」

 

 オランピアは顔を少し赤くしながら、エドを睨んだ。しかし、エドは特に気にすることなく山道を歩き始めた。

 魔獣に道が阻まれるような事態はなく、順調に山道を進み続けた。やがてエドはマインツトンネル前にあるバス停に着いた。

 

「あの道の先に工房がある」

 

 エドの視線の先を見ると、階段がありそれが長く続いていた。

 エドは階段方面に足を運ぶ。

 階段を上り終えると急な坂道が続いており、先が見えないその景色にオランピアは少し顔を青ざめた。

 坂道を上り続ける中、オランピアは気になっていたことをエドに聞いた。

 

「エドさん。どうして、このようなところに工房があるのですか?」

 

 魔獣を寄せ付けない導力灯があるとはいえ、魔獣が襲い掛かって来ないとは限らない。

 さらには、険しい山道がここまで続けば行きたいという気持ちを失せてしまう。

 商売の観点から考えると、山の中より、街の中に工房を建てるのが普通だ。

 

「ああ、それはただの工房じゃないからだよ」

「え?」

「ちょっとやばい奴らが後ろに付いていてな。主にそっちの方で売っている。今は知らないけどな……」

 

 どこか意味深な内容を告げるエドはそのまま黙り込み、前を見る。

 

「見えてきたぞ」

 

 エドの声にオランピアは反応し、顔を前へ向ける。そこには築何十年を思わせる古びた屋敷が建っていた。

 

「あれが……」

「あぁ。あれが俺達の目的地のローゼンベルク工房だ」

 

 エドはそのまま鉄格子で作られた門の前まで足を運び、オランピアを降ろした。

 

「門が閉まっていますが、留守なのでしょうか?」

「いや、違う。ちょっと待ってくれ」

 

 エドはオランピアの前に出て、屋敷に向かって大声で叫んだ。

 

「おやっさん! エドだ! 頼みたいことがあって来た! ここを開けてくれ!」

 

 山奥で反響するエドの声。反響が止みしばらく周りが静かになった。

 しばらくすると、屋敷の扉が開き、そこから小さな何かが出てきた。

 

「あれは……人形?」

 

 中から出てきたのは、一瞬人間と間違えてしまうくらい精巧に作られた人形だった。人形は独りでに歩き出して門の前に止まった。すると、鉄格子の門が開いた。

『中は入り組んでいるから、その子に付いてくるがいい』

 屋敷の方から男の声が聞こえた。どこにあるかわからないがマイク越しで聞こえる年配の男性だと思える声。エドとオランピアは屋敷の中に入ろうとする人形の後を付いて行った。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 屋敷の中に入って数分が経つ。声の主の言った通り中は迷路のように入り組んでおり、迷子になったら二度と外には出られないだろう。二人は迷子にならないよう人形の後ろを黙って付いて行った。

 やがて、人形は一つの扉の前に止まり、振り返って二人を見上げていた。

 

「ここか」

 

 エドは扉のドアに手をかけ中に入っていった。オランピアもエドの後ろに付きそのまま中に入った。

 

「久しぶりじゃな。エド」

 

 中に入るとそこには口元を白い髭で覆っていた年配の男性が、二人を待っていた。

 

「久しぶりだな、おやっさん」

「おやっさんはやめい」

 

 おやっさんと呼ばれた男性はエドを見て軽く息を吐き、オランピアの方に目を向けた。

 

「それでお前さんは?」

「あ、はい。オランピアと言います。えっと、おやっさん?」

 

 オランピアは男性の名前がわからず、とりあえずエドに合わせた。

 

「違う。儂はヨルグ。ここの工房長をしておる」

 

 男性――ヨルグ・ローゼンベルクは自己紹介をし、再びエドに視線を向けた。

「それでエド。久しぶりに来たと思えば、こんな子供を連れて何の用じゃ? 頼みたいことがあると言っておったが」

「あぁ。話せば長くなるんだけど、ちょっと待ってくれないか」

 

 エドはヨルグとの対話を中断し、オランピアに顔を向けた。

「オランピア、いいか?」

 

 説明するにはオランピアのことを話さなければならない。話していいのか、オランピアに確認した。

 

「はい。大丈夫です」

 

 オランピアはエドの意図を理解し、首を縦に振った。エドはオランピアの同意を得て、ヨルグにこれまでの経緯を説明した。

 

 オランピアが暗殺組織《庭園》に所属していたこと。

 人形の《古代遺物》で感情を奪われていたこと。

 オランピアの命を狙おうと《庭園》の幹部が襲ってきたこと。

 そして、自分達二人が《庭園》に狙われる羽目になってしまったこと。

 

 ヨルグはエドの説明を最後まで静かに聞き、ため息をついた。

 

「どんだ災難じゃな」

「まったくだ」

 

 ヨルグの感想にエドも同意した。ヨルグは眉間に皺を寄せて何かを考えていた。

 

「それにしても、《庭園》か……」

「知っているのか?」

 

 エドはまるで知っているかのように反応するヨルグを見て、聞き返した。

 

「いや、聞いたことがないな」

「二年前から存在しているようだけど、結社の方でも聞いたことがないのか」

 

 エドの疑問にヨルグは静かに頷いた。

 

「あの、エドさん。結社というのは?」

 

 オランピアは二人の話に付いていけず、エドに説明を求めた。

 

「結社《身喰らう蛇》。大陸で暗躍している謎の組織。俺が分かっているのは、盟主(グランドマスター)を中心に最高幹部の使徒と実行部隊の執行者がいるということ。《十三工房》ていうここを含んだいくつかの工房が集まったネットワークがあって、高度な技術力を持っているということくらいだ」

 

 エドは結社のことをオランピアに説明し、その場で息を吐いた。

 

「あんたの弟子の《博士》だっけか? そいつから何か聞き出せないか? 仮にも使徒の一人なんだろ?」

「フン。ノバルティスの馬鹿など知ったことか」

 

 ヨルグはかつての弟子を思い出したせいか不機嫌そうな顔を浮かばせた。

 

「ゴホン! さて、事情は大体わかったが儂に頼みたいこととは何じゃ。聞いた限り役に立てそうにないのじゃが……」

 

 ヨルグは話を戻し、エドの頼みを聞いてきた。

 

「単刀直入に言うと、オランピアの武器を作ってほしい」

「武器じゃと? 儂は人形師であって武器職人ではない」

「わかっている。俺が頼みたいのは、これを使って戦闘用の人形を作ってほしいんだ」

 

 エドは肩にかけていた大きい袋を近くのテーブルに置き中身を開けた。

 

「!? それは……」

 

 オランピアは袋を見て、目を見開いた。エドは袋の中にあるものをテーブルの上に出した。そこには《古代遺物》イシュタンティがバラバラの状態で置かれた。

 

「これは?」

「さっき話した、天使型人形の《古代遺物》イシュタンティだ。こいつを使って、新しい人形を作ってほしい」

 

 エドはオランピアの戦力を上げるため、使い慣れている武器を使った方がいいと判断した。そして、戦闘用の人形を作れる知人として最初に思い浮かんだのは、ヨルグ・ローゼンベルクだったのだ。

 ヨルグはバラバラになったイシュタンティを見た後、エドを睨みつけた。

 

「おぬし、こんな小さな子供を戦わせる気か?」

「おやっさんが嫌がるのは分かっている。俺だって本当ならしたくない。だが、《庭園》の奴と対峙したから分かる。奴らは絶対に俺達の前に現れる」

 

 湖畔であったメルキオルの狂気に直接触れたエドは、必ずまた現れると確信をもって断言した。

 

「この子には力が必要だ。相手を倒すためじゃない。誰かを、そして自分を"守る力"が」

「"守る力"……」

 

 そう呟いたオランピアは、ヨルグに頼みこんでいるエドをじっと見ていた。

 一方でヨルグはエドをずっと睨んだまま、何も発しなかった。やがてヨルグは息を吐き、イシュタンティが置いてあるテーブルに近づいた。

 

「……損傷がひどいのは頭だけ。それ以外は翼が1つ斬られ、胴体は真っ二つか…… これなら明日までにはできるじゃろう」

「! おやっさん。じゃあ!」

「おぬしの言う通り、確かにその子には身を守る手段が必要じゃろう」

 

 ヨルグはエドの頼みを聞き入れ、オランピアの武器を作ることにした。

 

「おやっさん…… ありがとな」

「気にするな。おぬしにはレンのことで世話になったからな。その借りを返すだけじゃ」

 

 ヨルグはそう言いながら、近くの人形達を使い、イシュタンティを部屋の奥へと運び出した。

 

「これで、お前の武器は何とかなったな。って、大丈夫か?」

「はい……」

 

 オランピアが頭を下げて黙っていたことに気づいたエドは、彼女に声をかけた。オランピアはどこか上の空の様子だった。

 

「おぬしら、今日はここに泊まっていけ」

「え? いいのかよ、おやっさん」

「もう日が暮れとるし、明日にはできるからの。またここに来るのも面倒じゃろう」

 

 ヨルグはそう言い部屋の奥に入っていった。どうやらここに泊まるのは決まりのようだ。

 

「はぁ、仕方ない。ただ泊まるのもあれだ。夕飯を持っていくか。えっと、キッチンは……」

 

 エドは夕飯を作るため、周りを見渡しキッチンを探していた。

 一方でオランピアはその場でまだ黙り込んでいた。

 

(私にできるのでしょうか? そんなことが……)

 

『この子には力が必要だ。相手を倒すためじゃない。誰かをそして自分を"守る力"が』

 

 オランピアは先ほど言ったエドの発言が頭の中から離れなかった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 辺りが静まり返った夜、オリンピアは布団を被ったまま眠れずにいた。

 彼女は現在、ソファをベットにして横倒れになって寝ようとしていたが、一睡もできず閉じていた瞼を開いた。

 向かい側のソファで座りながら眠っているエドの姿を確認し安堵の息を吐いた。

 だが、このままでは眠れないオランピアはソファから起き上がった。

 

「眠れぬのか?」

「っ!?」

 

 突然の声に驚き、顔を上げるとそこにはヨルグがコップを片手にオランピアを見ていた。

 

「あの、どうしてここに?」

「少し休憩じゃ。年じゃからの」

 

 ヨルグは近くの椅子に座り、コップの中のコーヒーを一口飲む。

 

「それでどうしたんじゃ? さっき、そやつを見てどこかほっとしたようじゃが……」

「それは……」

 

 オランピアは何か言おうと口を開いたが、言葉が出ず下を向いた。

 しばらくして、再び口を開いた。

「今日過ごした一日はとても楽しかったです。村の外に出たことがなかったので、何もかもが初めてでまるで夢のようでした」

 オランピアは今日のことを振り返っていた。《庭園》の一員として暗殺稼業をしていた時は、どこへ行っても何も感じることはなかった。

 

 一面に広がる湖を見た。

 街から響き渡る音楽を聴いた。

 食べ物を口にした。

 

 だが、心が動くことはなかった。

 しかし、今日は全く違った。

 

 エルム湖をボートの上から見た時、その広さに開いた口が塞がらなかった。

 アルカンシェルから聞こえてきた音楽を聴いた時、胸が踊った。

 モルジュで出来立ての温かいパンを食べた時は、思わず頬が緩んだ。

 

 今日だけでどれだけ心が動いたかわからないほど、オランピアはとても楽しんでいたのだ。

 

「でも、考えてしまうのです。本当にこれは夢で、目が覚めた時、昨日の私に戻ってしまうのではないのかと……」

 

 オランピアはそう言い、足を折り曲げ膝の上に頭を置いた。

 

「それだけじゃありません。エドさんがヨルグさんに言ったことが今でも忘れられないのです。"守る力"。エドさんはそう言ってましたが、私が誰かを守ることなんて本当にできるのしょうか」

 

 オランピアは、胸から掬い上げくる感情に体を震わせた。

 

「怖いんです。今感じているこの気持ちが。一生抱えこまなくてはいけないのかと思うと、とても怖くてどうしたらいいのかわからないんです」

「……それが"生きる"ということじゃ」

「え……?」

「生きていれば、楽しいことばかりだけではない。不安や恐怖といった、楽しくないことも経験する。そして、次にそれが来た時の為に自分に何ができるのかを考え、楽しいことを増やしていくのじゃ」

「……」

「おぬしはまだ若い。これから多くのことを経験するじゃろう。不安と思うこともたくさん経験する。じゃが、今のおぬしは一人ではないじゃろう」

 

 ヨルグはぐっすり眠っているエドを一瞥して、オランピアに優しく説いた。

 

「まずは自分にできることが何かを考える。それでもわからなかったら周りを頼るのじゃ。それは言葉を発することができない人形にはない人間の特権じゃ」

 

 ヨルグは席を立ち、再び作業をするため部屋の奥へと戻っていった。オランピアはその場でしばらく考え込み、毛布を持ってエドに近づいた。

 

「エドさん…… 失礼します」

 

 オランピアは眠っているエドの膝に頭を置き、毛布を被って目を閉じた。

 

「温かい……」

 

 頭から伝わる固いけど安心させてくれるその温かさに、オランピアはようやく眠りにつくのであった。




 次回、第8話「新たな力」
 お楽しみください!
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