英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第七十九話 白銀

 源泉地で始まった、灼熱の中での死闘。

 悪魔アスタルテは得意とする魔術を用いて、オランピアたちを襲う。

 呪文のような言葉を呟き、周辺の風を収束させる。

 集まった風は竜巻へと変貌し、熱風を周囲にばらまく。

 さらにアスタルテはその竜巻に火を放つ。

 竜巻は火を吸い込み、炎を纏わせる。

 

「おいおい! シャレにならねぇぞ!」

「セリスさん! どうにかできますか!」

「無茶言うな! アタシでもあれは無理だ!」

 

 炎の竜巻を前に焦るオランピアたち。

 迫り来る災害をどのように退けるか考える中、シズナが一人で前に突っ込む。

 

「シズナさん!」

「おい、やめろ!」

 

 オランピアとジンが制止を呼びかけるが、シズナは足を止めない。

 抜いた剣を水平に構え、炎の竜巻の前で回転する。

 

「凍てつく風よ……」

 

 回転するシズナを中心に冷気が生まれる。

 回転の速度が徐々に上がり、冷気の量も増えていく。

 やがて、小さな雪の嵐へと化したシズナはそのまま炎の竜巻と衝突する。

 

「嵐雪!!」

 

 衝突した瞬間、炎の竜巻が消し飛んだ。

 押されるだろうと思っていた雪の嵐が圧倒的質量のある炎の竜巻を吹き飛ばしたのだ。

 その光景にオランピアたちは目を丸くする。

 

「い、今のは?」

「あれが姫の剣。黒神一刀流でござる」

「マジかよ……。エドにも引けを取らねぇぞ」

 

 誰もが呆然とする中、悪魔が吼える。

 自身の大技を止められたことに激昂する。

 だが、彼らの前にそれは致命的な隙だった。

 

「ガラ空きだぞ!」

 

 いつの間にか、アスタルテの懐に潜り込んだジンが強烈な拳を放つ。

 ズシッ、と重い音が鳴り、悪魔の身体が後ろに折り曲がる。

 ジンはさらにそこに蹴りを打ち込む。

 肘打ち、膝打ち、跳び上がってからの連続の足蹴り。

 容赦ない技の応酬に耐えきれず、悪魔は後ろに吹き飛んだ。

 

「……すごい」

 

 ジンの実力にオランピアはそっと呟く。

 彼が使う技はクロスベルで出会った遊撃士、リンと同じ泰斗流であったが、彼女よりも精錬された技のキレにオランピアは脱帽する。

 

「ボサッとすんな、チビ助!」

「我々も姫たちの助力に参るぞ!」

「あ……、はい!」

 

 立ち尽くしていることに気づいたオランピアは剣を抜き、先に走ったセリスとクロガネを追い、悪魔へと立ち向かった。

 

 一方、一騎打ちとなったエドと《皇帝》はオランピアたちから距離を取り、激戦を繰り広げる。

 

「降り注げ!」

 

 重力で浮かせた無数の岩をエドに向かって振り落とす《皇帝》。

 大気の熱気を纏に当たった岩は炎を纏って、エドへと向かう。その姿はまさに隕石だった。

 

「ハァッ!!」

 

 だが、エドは迫り来る炎の岩を一太刀で斬り捨てる。

 その後も躱す、斬るなどを繰り返し、《皇帝》に近づくが、その距離はなかなか縮まらない。

 

「どうした。私を斬るのではないのか? 刃がまったく届いていないのだが?」

「言ってろ。すぐにそのニヤけた面を叩っ切ってやる」

「フン。貴様にできるのか? 仲間と距離を取って、わざわざ一対一で戦うとは、我が貴様の仲間にちょっかいをかけないようにするためか? ……それとも、私がつい口を滑らせても、あいつにそれを聞き取られないようにするためか?」

 

 口角を上げながら、相対する《皇帝》を無視し、エドは再び走り出す。

 次々と来る障害を何度も退けて、その距離を少しずつ狭める。

 《皇帝》は淡い光を放つ杖を振り下ろす。

 すると、エドが地面に足を付けた瞬間、地面が上に盛り上がった。

 突然のことにバランスを崩してしまうエド。その隙を《皇帝》は見過ごさない。

 杖を地面に叩きつけ、盛り上がった地面をさらに盛り上がらせる。

 足場を崩してしまったエドは空中に投げ飛ばされた。

 即座に身体を捻って、体勢を立て直したエドは、周りに飛び散っていた岩の一つに足を付ける。

 それを見た《皇帝》は一つの岩を、エドが立つ岩へと放つ。

 エドはすぐさま、その場から跳び上がる。

 二つの岩が激突し、その破片が周囲に散っていく。

 跳んだエドは別の岩に乗り移り、すぐに別の岩へと乗り移る。

 《皇帝》はエドの動きを観察し、周囲の岩に別の岩を当て続ける。

 乗り移る岩がなくなったことで身動きができなくなるエド。それを観た《皇帝》は一際、大きな岩をエドにぶつける。

 

「緋空斬!」

 

 エドはすかさず炎の斬撃を放ち、迫り来る岩を斬る。斬撃はそのまま《皇帝》へと向かっていく。

 しかし、《皇帝》は落ち着いた表情で杖を前に掲げる。

 すると、斬撃は何かに阻まれ、跳ね返される。

 向かってくる自身の刃をエドは一振りで難なくなぎ払う。

 地面に着地したエドは剣を両手に持ち、《皇帝》を見据える。

 

「重力だけが我の能力だと思うな。応用してその逆の力を使うことなど我には造作もないことだ」

「逆……、斥力か」

 

 斬撃を跳ね返した原理を即座に理解するエド。

 《皇帝》は再び、重力を操作し、周囲の岩を宙に浮かせる。

 

「貴様に敗れた我は、貴様の戦いを徹底的に観察した。確かに貴様の剣は厄介だ。その気になれば、万物全てを断ち切るその刃は相対する者を畏怖するには十分の力だ。だが、それは当たればの話だ。当たらぬように距離を取って戦えば、何の問題もない」

「逆に言えば、当たれば、お前は負けるって意味だ。だったら、お前の策を全て斬り伏せて、お前を斬ればいいだけだ」

「減らず口を……。ならばやって見せるがいい。《黒金の剣聖》!」

 

 《皇帝》は杖をエドに向け、岩を一斉に射出する。

 エドは正面から《皇帝》へと突っ込み、彼を断ち切らんために真っ直ぐ進むのであった。

 

 場所を戻し、再びオランピアたちの戦いに戻る。

 アスタルテと一戦することになったオランピアたちは巧みな連携を用いて、アスタルテを翻弄する。

 アスタルテは川の近くに止まり、川に向かって手を差し伸べる。

 すると、川の水がアスタルテの手の中に吸い込まれるように集まっていく。

 集まった水は一つの球体となり、アスタルテはオランピアたちに球体を投げる。

 アスタルテから離れた球体は形を保つことができなくなったのか、大きな津波へと形をなして、オランピアたちを襲う。

 

「全員、下がれ!」

 

 ジンが全員を後ろに下がらせ、正面からくる津波に一人で立ち向かう。

 摂氏百度を越えた大津波。飲み込まれれば、火傷程度ではすまされない。

 

「コォオオオオ……」

 

 ジンは丹田に力を込め、闘気で自身を包み込む。

 全身から溢れる闘気を両手の拳に集中する。

 徐々に迫ってくる大津波にジンは動かない。

 大津波の影がジンたちを覆い、飲み込もうとするその瞬間、ジンが放つ。

 

「泰山羅漢掌!!」

 

 放たれた二つの正拳。闘気を集中して放たれた大技は大津波に直撃する。

 ぶつかった大津波は縦に割られ、ジンたちの横を通り過ぎた。

 

「今だ!」

 

 ジンの合図にまずはクロガネが前に出る。

 忍として鍛え上げられた身のこなしで瞬時に悪魔に近づき、その頭上へと跳ぶ。

 

「取った!」

 

 クロガネはクナイを取り出し、悪魔へと放つ。

 クナイは悪魔の後ろにいき、地面に写る影に突き刺さる。

 

「影縛りの術!」

 

 自身の身体が突如として動かなくなったことに戸惑うアスタルテ。

 その悪魔に近づく、二つの小さな影。

 

「オランピア。行くよ!」

「はい!」

 

 シズナとオランピアは剣を構え、悪魔を斬る。

 すれ違いざまに斬った二人はすぐに向きを変えて、再び斬りかかる。

 

「九十九颯!」

「舞疾風!」

 

 縦横無尽に放たれる剣の嵐に、身体を刻まれる悪魔は悲鳴を上げる。

 

「セリスさん!」

「やっちゃいな!」

 

 二人はアスタルテから距離を取り、セリスに声をかける。

 離れた場所で赤い《聖痕》を出したセリスは手を前にかざし、悪魔に狙いを定める。

 

「丸焼きになりやがれ!」

 

 手から放たれた強大な火炎が悪魔を飲み込む。

 炎の中に包まれた悪魔は苦痛に悶えながら、身体を大きく揺らしていた。

 

「やりました?」

「あぁ、たぶんこれで……」

 

 セリスは炎の中でもがく悪魔に視線を移す。

 悪魔は身体を蝕む痛みを堪えながら、オランピアたちを視界に入れ、目を光らせる。

 

「! まずい、全員、離れろ!」

 

 セリスは顔色を変え、全員に指示を送る。

 すると目の前に巨大な目が現れ、その眼を開く。瞬間、セリスたちはその場に膝を着いてしまう。

 

「な、なんだ!」

「身体が……動かないっ!」

 

 必死に立ち上がろうとするジンとオランピアだったが、押し寄せてくる重みに身動きがとれない。

 

「これは……金縛りの類いか!」

「ははは……、これは参ったね」

 

 シズナたちも何とか抗おうとするが、立ち上がることができずにいた。

 

「油断した……。《深淵》のアスタルテの切り札、魔眼か!」

 

 エドが持つ《魔眼》とは違う、悪魔が持つ魔の眼。相手の身体を金縛りで封じ込める。アスタルテがもっとも得意とする切り札。

 炎が収まり、全身に火傷を負ったアスタルテは斧を持ち直し、少しずつオランピアたちに近づいていく。

 

「く……クソッ、動けん!」

「動け! クソッ!!」

 

 何とか立ち上がろうと足掻くセリスたちだったが、悪魔の強力な力に押さえつけられ動くことができない。

 

「《黒金の剣聖》、どうする? このままではお仲間がなぶり殺しにされるぞ」

 

 一方、その光景を遠くで見ていた《皇帝》は笑みを浮かべながら、エドに杖を向ける。

 

「もっとも、行かせないがな!」

 

 岩の柱を作り、進路を塞ごうとする《皇帝》。

 しかし、エドはオランピアたちの方には行かず、そのまま《皇帝》に斬りかかる。

 

「チッ!」

 

 ――ガキンッ!!

 

 予想外の行動に対応が遅れた《皇帝》はエドの接近を許してしまった。

 エドは逃がさないと連撃を放ち、《皇帝》を追い詰める。

 

「クッ! 貴様、正気か! このままではお前の仲間はやられるぞ!」

「やられねぇよ」

 

 エドは剣で杖を押していき、動揺を隠せない《皇帝》を追い詰める。

 

「そういえば、リベールでお前、オランピアたちに言ってたみたいだな」

「何?」

 

 エドは顔を上げ、不敵な笑みを作り、言い放つ。

 

「奥の手は最後まで取っておくものだってな」

 

 エドたちが鍔迫り合いをしている中、オランピアたちの方でも事態が動く。

 斧のリーチまで近づいた悪魔はオランピアたちに向かって斧を振りかざそうと腕を持ち上げる。

 

「マズい!」

「うごけぇえええ!!」

「……っ!」

 

 悪魔が動けないオランピアたちに斧を振り下ろす。

 

 だが、その時――、

 

 ――ヒュン!

 

 悪魔の前に何かが通り過ぎる。

 突然のことに悪魔は通り過ぎた何かを眼に写す。

 そこにあったのは、紅のキスマークが付いた一枚のカード。

 

「もらった~~!!」

 

 すると、背後から迫る声に悪魔はすぐさま後ろに振り返る。

 近づいてくるのは幻夜にかける黒い猫。

 

「グリムナイトワルツ!!」

 

 上空からの跳び蹴りに悪魔は顔面を直撃する。

 集中力が途切れたことでオランピアたちを拘束する魔眼の力が解かれた。

 

「あれは……」

「か、怪盗、グリムキャッツ!」

 

 カルバード共和国を騒がせる怪盗の登場に驚愕するオランピアたち。

 そして、それは遠くから見ていた《皇帝》も同様だった。

 

「グリムキャッツだとっ! なぜ、奴がここに!」

「俺が頼んだんだよ。最悪の事態を回避するための奥の手としてな」

 

 《イシュガル山脈》へと向かう直前、準備を終えたエドはすぐにエントランスへは向かわず、ドミニクの下へと訪れた。

 協力に二つ返事で答えてくれたドミニクに、エドはセリスが作ったものと同じ礼装を作り、それを彼女に渡していたのだ。

 

「貴様っ!」

「おいおい、六体一とは確かに言ったけど、六人で来たなんて一言も言ってないぞ。早とちりしたお前の失態だよ、間抜け」

 

 見事に騙された《皇帝》にさらに煽りをかけるエド。

 《皇帝》はさらに怒りを覚えるが、すぐに鎮めた。

 

「確かに六人だと想定した我のミスは認めよう。だが、たかが怪盗一人増えたところで何になる。再び、魔眼を開けばそれで終わりだ」

「そんなことにはならねぇよ。お前はあいつを舐めすぎだ」

「何?」

「一本取られたところを俺に見られちまったんだ。ここらで挽回するぜ、あいつは」

 

 エドは横目で悪魔と相対するオランピアたちを、剣を鞘に収める銀髪のライバルを見る。

 その視線に気づいたのか、シズナはエドに視線を返す。

 

「やれやれ、この程度の術にかかるなんて、私もまだまだ修行不足だね」

 

 シズナはそう愚痴りながら、オランピアたちの先頭に立つ。その目はいままでの陽気な気配はなく、研ぎ澄まされた刀のように冷たかった。

 

「舐められたままなのはお断りだ。……一撃で片付けてさせてもらうよ」

 

 低い声で放ったシズナはゆっくりと上半身を下に下ろす。腰をひね、鞘を身体の後ろへと持っていき、前足を曲げる。

 

「月夜に舞い……、我が太刀は虚にして実……」

 

 猛暑の中でも感じるかすかな寒気。それがシズナから放たれていることに気づき、誰もが息を飲んだ。

 悪魔もそれを感じ取り、雄叫びを上げる。

 それは敵への怒りからくるものなのか、はたまた敵に対して恐怖を覚えてしまったのか。

 だが、そんなことを考える必要はなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「零月一閃」

 

 考える前にすべてが終わってしまったのだから。

 

 

 ――キンッ

 

 

 割れた。

 いつ振られたのかわからない刃が鞘に収まった瞬間、悪魔は武器と共に身体を二つにされた。

 自分に何が起きたのかわからないまま、悪魔は上げていた雄叫びを止め、静かに消滅していった。

 

「ば、バカな……」

 

 あまりにも一瞬の出来事に《皇帝》は開いた口を塞げなかった。いや、《皇帝》だけではない。それを間近で見ていたオランピアたちも言葉を失っていた。

 有言実行。

 シズナは言葉通り、たった一振りで悪魔を見事に撃退してしまったのだ。

 

「な、何者だ、貴様……」

「私? ん~、何者って言われてもね~」

 

 《皇帝》が声を震わしながら尋ねるのに対し、シズナはどう名乗ればいいのか、と頭を捻らせる。

 それを見かねたクロガネが彼女に近づき、そっと耳打ちをする。

 その内容に満足したのか、シズナは堂々と名乗り上げる。

 

「侍衆《斑鳩》所属にして、黒神一刀流奥義皆伝。《白銀の剣聖》、シズナ・レム・ミスルギだ。よろしくね」

「け、剣聖だとっ!」

 

 まだ小娘と言ってもいい女の正体が剣聖だと知り、ここ一番の驚愕を露わにする《皇帝》。

 

「やっぱり、至っていたか」

 

 エドは予想していたのか、特に驚く様子はなかった。

 

「さて、悪魔がいなくなったからか、少し涼しくなったな。どうやら上手くいったみたいだな」

 

 エドは気を取り直して《皇帝》と向き合い、剣を構える。

 

「今度は逃がさねぇぞ。お前らのリーダーや目的。知っていることを洗いざらい吐いてもらうぞ」

「……フンッ、残念だが、それは叶わぬ願いだ。ここは潔く退かせてもらうぞ」

 

 落ち着きを取り戻した《皇帝》は杖を上げ、《古代遺物》の力を引き出す。

 すると、地面が激しく揺れだし、地割れが発生する。

 

「くっ、テメェ!」

「それではさらばだ。次の機会にまた会おう。……生き残れたらな」

 

 大地崩壊。

 

 無数の地割れが大地を壊し、エドたちは空中に投げ飛ばされる。

 

「おわぁ~~!」

「ぐっ!」

「いかん!」

「お、落ちる、落~~ち~~る~~!!」

「っ! イシュタンティ!」

 

 オランピアに呼ばれたイシュタンティは彼女を乗せ、近くにいる者を次々と回収する。

 セリス、ジン、クロガネ、グリムキャッツと続き、次はエドへと手を伸ばす。

 エドも手を伸ばし、掴もうとするが空ぶってしまう。

 

「エドさん!」

「エド!」

 

 オランピアとセリスが悲鳴を上げる。

 そのまま下へと垂直に落下するエドは何かないかと周囲を探る。その時、正面から迫ってくる存在に気づき、顔を向ける。

 

「シズナ!」

「しっかり捕まってなよ!」

「むぐっ!」

 

 正面から抱きつかれ、顔を胸に押しつけられるエド。

 シズナは片手でエドの身体を引き寄せ、もう片方の手を唇にやる。

 

 ピィーーーーーー!

 

 口笛が大気を揺らす。それを合図に複数の黒い影がシズナたちへと迫る。

 クロガネと同じくみっしぃのお面をつけた《斑鳩》の忍たち。

 シズナを取り囲むように集まった忍びたちは大きめのバックを背負いながら、同じバックをシズナの背中につけようと用意する。

 空中に滑空する中、複数人で装着させた忍びたちはすぐにその場から離れる。

 シズナはバックに付いたひもを引っ張る。

 

 ――バンッ!

 

 バックから飛び出してきたのはパラシュートだった。 

 傘のように開かれた布は下から来る空気を受け止め、落下速度を落としていった。

 

「ふぅ……、何とか間に合ったねぇ」

「~~! ~~!」

「おや? おっと、忘れてた」

「ブハッ!」

 

 エドは胸に押さえつけられた顔を上げ、新鮮な空気を吸い込む。

 頭に血管が上りそうな感覚に襲われるが、気合いで押さえ込む。

 

「いきなり、何しやがる!」

「いや~、ごめんよ。咄嗟だったからついね」

「全力で胸に押し付けやがって! もう少しで窒息するところだったんだぞ!」

「まぁ、まぁ。こんな美人の胸に顔を埋められたんだ。役得だって思っときなよ」

「この野郎~~!」

 

 いまだ顔に残る柔らかい感触が離れられないエド。

 顔を真っ赤にする彼の反応を面白そうに見ていたが、近づいてくる存在に気づき、苦笑いを浮かべる。

 

「あ~、でも、ちょっとやりすぎちゃったかな」

「あ?」

「後ろ、後ろ」

 

 シズナに則されて、後ろを振り向くエド。

 そこには恐ろしい険相でこちらを睨む二人の少女がイシュタンティに乗って近づいてきた。

 

「ま、頑張りたまえよ。我がライバルよ」

「お前のせいだからな!」

 

 エドの嘆きはむなしくも空の彼方へと消えていった。 

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