英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第八十一話 誘拐

 話がある言われとオランピアに呼ばれたエドは旧道場の前で待ち続けていた。

 腕を組み、その場に立ち尽くす彼は、彼女が来るのを目を瞑って待っていた。

 

「……おかしい」

 

 そっと開けたエドの目は疑念と困惑に入り混じっていた。

 

「約束の時間の五分前。あいつならもう来てもおかしくないはずだ」

 

 オランピアの性格を理解しているエドはいまだ彼女の姿が見えないことに不審を抱く。

 

「……嫌な予感がする」

 

 何かトラブルに巻き込まれたのではないか、と表情が険しくなる。

 居ても立ってもいられなかったエドは《魔眼》を開き、宿の方へと視線を向ける。

 そこで見た光景にエドは表情が固まった。

 

 宿から離れたところに止まる不審な車。その運転席と助手席に座っているミント髪と紫髪の見覚えのある男たち。

 そして、その車に乗り込む双子の兄妹とその二人に抱え込まれた白髪の少女。

 

 

 ――プツン

 

 

 この時、エドの中の何かが外れた。

 

 

 ~~~~~

 

 

「ごくろうさま~。いや~上手くいってなによりだよ」

 

 運転席のハンドルにもたれかかっていたミント髪の青年、メルキオルは後部席に乗りこんだ双子を褒めていた。

 一方で、褒められた双子は嬉しそうな表情は見せず、顔を下にして彼から目を背けていた。

 

「おい。今更だが、こんなガキをわざわざ連れて行く必要があったのか?」

 

 三人のやり取りを横目で見ていたアリオッチは、暗く落ち込んでいる双子を見て、メルキオルに声をかける。それに対して、メルキオルは面白そうに笑い上げる。

 

「これは教育だよ。この子たちは去年、教団のロッジの跡地付近で偶然、見つけてね。面白い能力を持っていたから、育てようって思ったんだよ」

「それで、今回のとその教育に何か関係があるのか?」

「まぁ、最初は誰かを殺させようと思っていたけど、心がまだ脆くてね。いざ、やっちゃうと心が崩壊しちゃうから、まずはこういった地道なことから少しずつさせようって思ったんだよ。そうやって悪事を積み上げていって戻れなくして、最後は誰かをブスッとね。ハハハ、最高でしょ?」

「……あぁ。いい趣味してるよ」

 

 少し皮肉めいて言うアリオッチにメルキオルは再び笑い上げる。

 

「さて、そろそろ合流地点に行きますか。彼女も無事、こっちに戻ってきたしね」

 

 メルキオルはもたれていた身体を起こし、バックミラーからいまだに眠り続けるオランピアを見つめ、笑口角を上げる。

 

「しっかり、見てるんだよ。もし、変なことをしたら……、わかってるよね?」

「「っ!」」

「ハハハ! うんうん。それでよろしい」

 

 恐怖に染まった顔に満足したのか、メルキオルは車にエンジンをかける。

 

「さて、そろそろ出発……、っ!!」

「この殺気は……」

 

 アクセルを踏もうとした瞬間、押し潰そうと身体に重くのしかかる殺気にメルキオルの表情が険しくなる。

 一方でアリオッチはその殺気に心当たりがあったのか、思いふけながらも、気配を探る。

 

「……上か!」

「上?」

 

 ――ガンッ!!

 

 ボンネットの上に何かが落ち、車が前に傾く。

 メルキオルたちは前屈みになり、手を前につける。

 

「何が……、なっ!」

 

 メルキオルは前を向き、フロントガラス越しにボンネットの方に視線を移す。

 そこには鬼の険相で自分たちに顔を向ける黒髪に金色の眼を睨みつける男の姿がいた。

 

「うっそでしょ!」

「いつの間に!」

 

 エドの予想外の登場に驚愕を禁じ得ないメルキオルたち。

 一方でエドは見開いた眼で中を探り、オランピアの姿を確認する。

 

「……(ギロッ)」

「「ひっ!」」

 

 彼女の隣で座っていた双子はエドの殺気がギラつく眼に睨まれ、声を上げてしまう。

 それを無視し、エドは腰から剣を抜く。

 切っ先をメルキオルの方に向けて、剣を手にそえる。

 

「メルキオル!」

「グッ!」

 

 突き刺そうとわかり、ナイフを取り出そうとするが、その前にエドの方が動く。

 剣を持った手を前に突き出し、剣をメルキオルへと刺しにいく。

 

「がっ!」

 

 エドが突如、声を上げて横に跳ぶ。

 エドは身体を丸め、地面に転がって受け身を取った。

 立ち上がったエドは剣を構え、車に視線を向ける。

 エドが先程まで立っていたところには、顔をフードで深く被った黒ずくめの男。

 

「てめぇは!」

「レグラム以来だな、《黒金の剣聖》」

 

 ボンネットを降りて、車に背を向けた《庭園の主》は拳を構えて、エドと向き合う。

 

「おい、ボス。そいつを見張ってたんじゃなかったのかよ」

「あぁ。ここに来ないように見張っていたんだが、目を離した瞬間、その場から消えてしまってね。気づいたら、車の上にいた」

「あぁ? おい、おい、そいつは瞬間移動でもしたっていうのか?」

「そういうことだろう。まぁ、それはともかく、ここは私が引き受けよう。メルキオル、先に行きたまえ」

「アイアイサー♪ それじゃあね、エド君♪」

 

 今度こそアクセルを踏み、その場から離脱するメルキオル。

 エドはすぐさま、メルキオルを追おうとするが、《庭園の主》がこれを阻む。

 

「っ! 邪魔だ!」

「どかしたいのなら、どかしてみたまえ。……君にできるのならね」

 

 エドは剣を持ち直し、《庭園の主》と相対する。

 

(あいつの目的は時間稼ぎ。時間を長くかければ、奴らに追いつかなくなる。倒すのではなく、あいつの後ろを突破する!)

 

 エドはその場でステップを踏みながら、《庭園の主》に接近する。

 右、左と交互にステップを連続で繰り返す。

 エドの身体が徐々にぶれだしていき、気づけば五人のエドが近づいてきた。

 

「分け身か……」

 

 《庭園の主》はその場から動かず、エドたちが来るのを待つ。

 エドは《魔眼》越しに《庭園の主》を見つめ、その動きを注視する。

 そして、距離が縮まり、後数歩の位置でエドが仕掛ける。

 

「「「「「散!」」」」」

 

 お互いに距離を取って、散開する。

 五人のエドが一斉に加速して、《庭園の主》を突き抜ける。

 だが――、

 

「捕らえた」

「なっ!」

 

 《庭園の主》はバラバラに散らばった中から一人の腕を掴んだ。

 別方向に散らばっていた四人のエドたちは残像となって消えていった。

 

「その程度で抜けられると思ったか?」

 

 《庭園の主》は掴んだエドの腕を引っ張り、そのまま反対の手で彼の頬を殴る。

 そのまま、高速のジョブを顔に何回も打つ《庭園の主》。

 最後は掴んだ腕を放してその場でジャンプし、両足蹴りを食らわした。

 

「ガッ!」

 

 後ろに跳ばされたエドは受け身を取ることができず、地面に叩きつけられる。

 身体中からくる激痛に耐え、エドは剣を杖にして、何とか立ち上がる。

 蹴った勢いで後ろに跳び、空中で一回転する《庭園の主》は地面に降り立ち、身体を起こす。

 

「諦めろ。君では私を抜けない」

「くそっ!」

 

 どのように抜ければいいのかを考えるエドだが、同時に時間が経っていくことに焦りを隠すことができない。

 その時――、

 

「砕け散れ!」

「むっ!」

 

 突如、上から轟いた声。

 垂直に落ちてくるグンターはその圧倒的巨体から放たれる拳を《庭園の主》へと振り下ろす。

 しかし、《庭園の主》は難なくそれを躱す。

 一度距離を取った《庭園の主》は接近しようと、足を強く地面に踏み込もうとするが何かが引っかかる。

 何事かと《庭園の主》は自分の足元を見る。そこには足が氷で固められ、その場に固定されていたのだ。

 

「セリスさん!」

「オウ!」

 

 聞き覚えのない男の声にセリスが呼応する。

 赤い《聖痕》を背に炎の砲撃を《庭園の主》に放つ。

 動けない《庭園の主》は息を大きく吸い込み、姿勢を正す。そして――、

 

「カァッッ!!」

 

 炎が当たる直前、大声を発する《庭園の主》。炎は声から発する音圧と衝突しかき消される。

 

「嘘だろ……、今のは先生の」

「先生と同じ《崑崙流》の使い手。情報通りではありますが、これほどとは」

 

 相手の力を打ち消し、同時に自身を強化するハウリングブースト。

 自分たちの師と同じ技を使う《庭園の主》にセリスと応援として来た《守護騎士》リオン・バルタザールは唖然としていた。

 

「エド! 無事か!」

「じっちゃん! 俺は無事だが、オランピアが」

「あぁ? あのチビ助がどうしたんだ」

「……奴らに連れ去られた」

「何?!」

 

 エドから出た内容に瞠目するグンターたち。《庭園の主》を睨み続けるエドはそのまま言葉を続ける。

 

「車を使って《イシュガル山脈》に向かっている。急がねぇとあいつが危ねぇ!」

「そうか。ならば、エド。お主は先に行け。こやつの相手は我々が受け持つ」

 

 グンターを中心にセリスとリオンが左右に立つ。

 

「頼みます!」

「うむ。セリス、リオン! エドのフォローだ」

「オウ!」

「わかりました」

 

 エドを守るように三人が《庭園の主》に向かう。

 セリスとリオンが左右に分かれ、同時に法剣を放つ。

 横から来る法剣を《庭園の主》は身体を捻るだけで躱す。

 そこにグンターが接近し、《庭園の主》と接敵する。

 

「ハァッ!」

「フンッ!」

 

 《庭園の主》はグンターの豪腕の拳を横に流す。

 流した瞬間、懐に入った彼は腕を振り上げて、グンターに打つ。

 しかし、グンターは腕を強く掴んで、彼を拘束する。

 片手を封じられた《庭園の主》はもう片方の腕を構えるが、その前にグンターによって拘束される。

 

「行け、エド!」

 

 両腕を拘束したグンターはすぐさま、エドに声をかける。

 グンターの後ろに付いていたエドは、最大速度で二人の横を突き抜ける。

 

「させん!」

「ぐっ!」

 

 《庭園の主》は両腕を拘束された状態のまま、グンターに両足を放つ。

 突然の不意打ちに、手を離してしまうグンター。

 《庭園の主》はグンターを踏み台にして跳躍。

 高く跳んだ《庭園の主》は必死に走るエドの背中に向かって拳を振り上げる。

 

「むっ!」

「がっ!」

 

 振り上げた拳を横に払う《庭園の主》。

 すると、何もないところから男の声が出てきた。

 《庭園の主》は地面に降り立ち、今度は後ろに蹴りを放つ。

 

「ぐっ!」

 

 またしても男の声。そして、《庭園の主》は正面から迫ってくる何かを掴む。

 

「が、ぁああ!」

 

 掴んだ何かは苦しそうな声を上げて、姿を現す。

 黒の拳法着と赤と白のお面をつけた男。その姿に《庭園の主》は心当たりがあった。

 

「《黒月》の凶手か……。まさか、介入してくるとはな」

「あなたほどの大物が現れたのですから、当然です」

 

 後ろを振り向くと、ツァオが眼鏡の縁を持ち上げて、《庭園の主》を観察する。

 

「凶手の気配に感づくとは恐れ入ります。ですが、この人数を相手にどれだけ保てるでしょうか」

 

 ツァオが指を鳴らすと、茂みから何十の影が出てくる。

 ルウ家に仕える凶手を含めた《黒月》の構成員。全員が構えを取り、《庭園の主》を睨む。

 

「フッ、数を増やせば、私に勝てると思っているのか?」

「なら、俺も加勢させてもらうぜ」

 

 そこに新たな声が介入。グンターに負けない巨体を持った、A級遊撃士、ジン・ヴァセックだった。

 

「《泰斗》、《月華》、そして、《崑崙》。東方三大拳法の使い手が集結か」

「あぁ。あいつの後は追わせないぜ」

 

 ジンは後ろに目をやり、遠くに行くエドの姿を確認する。

 すぐに視線を戻したジンは拳を構え、それに合わせて、周りも武器を構える。

 

「……いいだろう。少し遊んでやろう」

「皆の者! 油断せずに行くのだ!」

 

 グンターの激昂を合図に街での死闘が始まるのであった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 険しい山道を猛スピードで進む黒い車。

 それを運転しているメルキオルは何度もバックミラーに視線を向け、追っ手が来ないか確認をしていた。

 

「合流地点への道は合ってんのか?」

「うん。もしものための別ルートもあるから、問題なく行けるよ」

「そうかよ。にしても、追ってこねぇな」

「追われないように、こんな時間に攻めたからね。まぁ、彼が暴れたせいで結局、バレちゃったけど」

「チッ、つまんねぇな。こっちは暴れてぇってのによ」

「まぁ、まぁ。そこは我慢しなよ。そう遠くない内に暴れてもらうんだから」

 

 アリオッチをなだめるメルキオルだったが、再びバックミラーに視線を戻すと、目が少しだけ丸くなる。

 

「あ~、前言撤回。今すぐ、暴れてもらおうか」

「あぁ?」

「追ってきたよ」

 

 アリオッチは身体を回して、後方を見る。

 そこからは黒いリムジンが猛スピードで近づいてきた。

 

「追いつきました!」

「どうやら、間に合ったみたいだね」

 

 リムジンを運転するナージェと助手席に座るシェリドが、メルキオルが運転する黒い車を捕捉する。

 

「オランピア、待ってろ!」

 

 そして、後部席にはエドが険しい顔立ちで車を睨んでいた。

 山へ向かっていたエドはツァオの連絡で追ってきたシェリドたちと合流。

 すぐさま、リムジンに乗り込んだエドは《魔眼》を使って、暗い山道を通り抜けて、メルキオルの車へと追いついたのだ。

 

「さて、これからどうする?」

「まずは、あの車の横について乗り込みます」

「危険過ぎはしないか?」

「危険なのは百も承知。でも、オランピアを助けるにはそれしかない」

「……わかった。乗り込む際は僕が援護する。ナージェ」

「はっ!」

 

 ナージェはアクセルを踏み、車をさらに加速させ、前方の車との距離を少しずつ縮める。

 

 

 ――パァン!!

 

 

 すると、前の車の天井部が吹き飛び、そのままリムジンに襲いかかる。

 ナージェはハンドルを切り、ギリギリの距離でそれを躱す。

 

「何なのだ、いったい?」

「あいつの仕業ですよ」

 

 天井部が吹き飛んだことに驚くシェリドを余所にエドは前の車を睨む。

 前の車から巨体の男が立ち上がる。巨大な斧槍と黄金の甲冑を纏った男、アリオッチだった。

 

「アリオッチ……」

「あれがイスカ最後の男か」

「ただ目を合わせただけでこの威圧。情報通り、只者ではありませんね」

 

 三人がそれぞれ警戒する中、立ち上がったアリオッチが動き出す。

 片手で斧を持ち上げて、身体の後ろに持っていく。

 その姿を見たエドはすぐさまナージェに声をかける。

 

「横に切れ!」

 

 ナージェは咄嗟にハンドルを切り、横にずれる。

 それと同時に真横に何かが通り過ぎていった。

 アリオッチが放り投げた斧は回転しながら地面を抉っていき、まるでブーメランのように彼の手に収まった。

 

「まずいな。これでは迂闊に近づけない」

「ですが、このままでは逃げられてしまいます」

 

 そう言っている間にアリオッチは斧を何度も投げていき、少しずつ車の距離が離れていく。

 するとシェリドは何かを思いついたのか、エドの方に顔を向ける。

 

「エドワード君。君ならあの斧を何とかできるかい?」

「え? できなくはないですが、ここでは剣を振れませんよ」

「そうか。ならば、振れるスペースさえあれば、いいんだね」

「何を言って……」

「エドワード君。アリオッチ同様、この車の上を斬ってかまわない。応戦してくれ」

「え?!」

「何、心配するな。弁償なんて求めないから。妹の友人の危機なんだ。このくらいは目を瞑るさ」

 

 爽やかな笑みを向けるシェリドにエドは口を開けてしまう。

 

 一方、アリオッチの方は、

 

「チッ、また外しちまったか」

 

 何度目かわからない投擲を行い、全て躱されていることに舌打ちするアリオッチ。だが、その表情は笑っており、本人は楽しそうだった。

 

「それじゃあ、次へと……あん?」

 

 

 ――ドンッ!

 

 

 アリオッチが投げる構えをした直後、追ってきたリムジンの天井部が吹き飛ぶ。

 そして、そこからエドが立ち上がり、自分たちに殺気を向けてくる。

 

「ハハハ! そうこなくっちゃな!」

 

 全力で斧を放り投げるアリオッチ。対してエドは正面からアリオッチの斧を弾き返す。

 離れていた車との距離が少しずつ近づいてくる。

 そして、ついに――

 

「やっと追いついたぜ!」

「ハハハハハ、待ちくたびれたぜ!」

 

 前の車にようやく追いつき、横に並びながら、速度を維持していた。

 

「オランピアを返してもらうぞ!」

「ハッ! やれるもんなら……、やってみやがれ!!」

「ハァアアアア!!」

 

 ガァアン、と金属の衝突音を狼煙に車上での戦いが始まった。

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