まだ、プライベートが忙しいので、まだ不定期ですが、ちょくちょく出していきます。
それでは第五章です。
オリジナル要素がいろいろ飛んできますがご覧ください!
第八十三話 囚われ
チャリン…… チャリン……
星空から降ってくる白い雪。
外は肌寒く、時々、吹いてくる風は身体を萎縮させる。
白一色に広がる地に星とは違う灯りがあった。
何百年前からあったのか、苔や罅が所々ありながら、その形を堂々と保っている古い祭壇。
その広間を囲うように篝火が灯り、その中心にいるのは一人の女性。
白と赤を基調した巫女服を身に纏い、淀みない足取りで舞い続けていた。
手に持った神楽鈴を振るたびに、静寂に広がっている空気に美しい音色が響き渡る。
「お父さん、お父さん」
「うん? どうしたんだい、オランピア」
祭壇から離れ、女性の舞いを見守っていたのは幼い白髪の少女。
頭巾とマフラーを付けた少女は自分を抱えている父親の顔を見る。
「どうして、お母さんはこんな寒い時でも月がない日にここで舞を踊っているの?」
「それはね、ここに眠っている悪い奴を起こさないようにするためだよ」
「悪い奴?」
「そう。大昔、ゼムリア大陸にたくさんの悪さをしていた奴がいたんだ。そのせいでたくさんの人たちが苦しんで、そいつを倒そうとしたんだけど、そいつはあまりにも強すぎて誰も倒すことができなかったんだ」
「じゃあ、今もその悪い奴は生きているの?」
「いいや、ある時、一人の青年がたった一人でその悪い奴と立ち向かったんだ。彼は女神様が送った天使様の力を借りて、その悪い奴を倒し、ここに閉じ込めることができたんだ。だけど、その結果、青年は女神様の下へと逝ってしまったんだ」
父親は祭壇で今も踊り続ける女性、自身の妻を見続ける。今も舞い続ける彼女の姿に父の目が釘付けになっていた。
「悪い奴が消えて平和を取り戻した。だけど、その悪い奴がいつ起きてくるかわからない。特に月のない日はそいつの力がより大きくなり、ここから抜け出すのかもしれない。それを危惧した一人の少女が自分たちを救ってくれた青年と天使様に対する感謝と悪い奴が目覚めませんようにと祈りを込めて、踊ったんだ。それが今、お母さんが踊っている舞なんだ」
少女は父から目を離して、彼と同じく母の舞う姿を見続ける。
腰まで届いた自分と同じ白い髪が彼女の動きに合わせて、横になびく。
足を踏む音はなく、地面をなぞるように水平に動く。
雪が降り続ける中、蝶のように踊り続けるその姿はとても幻想的なものだった。
「オランピア。この舞は多くの人々の想いが集まり、交わってできたものなんだ。あの舞は過去から今へとたくさんの人たちの想いが繋ぎ続けた大切なものなんだ。だから、いつか君もあの舞を踊ることになる」
「私も?」
「あぁ。どんなことがあってもあの舞だけは必ず後生に残さなきゃいけないんだ。無理強いをしてごめんな」
「ううん。そんなことない。私、踊ってみたい!」
少女は目を輝かせて母の舞を魅入る。
その華麗な美しさに一種の憧憬を抱くのだった。
「私もお母さんのように舞ってみたい!」
「……そうか。安心した」
安心したように微笑む父は娘と一緒に母が舞い終わるまでずっと見守り続けるのであった。
~~~~~
「ん……」
揺れる振動に白髪の少女、オランピア・エルピスはゆっくりと瞼を開ける。
いまだ頭が朦朧とする中、オランピアは身体を起こして、辺りを見渡す。
どこかの倉庫なのか、鉄製の壁に囲まれた狭い一室。
荷物のような類いは何一つなく、空き部屋となっていた場所にいた。
(……あれはまだ村にいた頃の。私が舞を踊りたいと思った記憶)
オランピアは先程まで見ていた夢を思い出す。
夢とはいえ、もう見ることができない母の舞を見られて、どこか嬉しそうに口を緩ませる。
「何、笑ってんだよ」
「え?」
どこか呆れたような声にオランピアは朦朧としていた意識が目覚める。
声がした方に顔を向けると、そこには青い髪に紫のメッシュが入った一人の少年がジト目でこちらを見ていた。
オランピアはその少年に見覚えがあった。龍來の温泉宿で出会った双子の兄だった。
「あなたは……」
「お姉ちゃん、自分の状況が今、わかってるの?」
呆然とするオランピアを見て、兄の隣で膝を丸めた、紫髪に青のメッシュをした妹が同じく呆れた視線を向けていた。
「どうしてここに? それにここは……」
「最後に何があったのか、覚えてないの?」
「こんなのが《庭園》の元幹部だったなんてな」
「どうして《庭園》を? それに最後って……」
オランピアは眠る前の事を思い出そうと顔を下に向ける。
「たしか……、エドさんと待ち合わせをして、エントランスに行って……」
少しずつ鮮明に思い出していくオランピア。
エントランスで妹と鉢合わせをして、そのまま別れようとしたその時、黒い手のようなものが自分を襲いかかったのだ。
「お、目が覚めたみたいだね」
「っっ!!?」
自分の名を呼ぶ声にオランピアの身体はまるで石にように固まってしまう。
おそるおそる声がした方に振り向くと、そこには見慣れたミント髪の青年がこちらを見ていた。
「メルキオル!」
「ヤッホー。ノルド以来だね、オランピア」
相変わらずの満面な笑みでオランピアに挨拶を交わすメルキオルだったが、当のオランピアは彼の登場に動揺を隠せなかった。
「ど、どうして、あなたがここに?」
「おや、わかんない? 落ち着いてゆっくり考えようよ。このくらい、よく考えればすぐにわかるでしょ?」
まるで自分を試すかのような物言いをしてくるメルキオルにオランピアは心を落ち着かせて、冷静に考える。
「……まさか、その子たちは……」
「ピンポーン♪ 大正解~~!」
オランピアの口を挟み、メルキオルは兄妹の後ろに回り、彼らの背中に腕を回す。
「この子たちはね、去年、僕の庭に入ってきた新人。すでに跡地になっていた教団のロッジを探し回っていた時に見つけてね。今、僕が懇切丁寧に教えてるんだよ」
「ぐぅ……」
「ひっ……」
自分に近づけてくるメルキオルの表情に兄妹は固まってしまう。
至近距離から見つめてくる彼が浮かべるのは、無邪気な笑顔。だが、それとは裏腹に眼の奥に潜むのは、どす黒い狂気の渦。
その狂気の恐ろしさに二人は彼から視線を逸らしてしまう。
「おいおい、まだ小せぇんだから、あんま怖がらせんなよ」
「まったく、貴様のその性格は本当に世話が焼ける」
メルキオルに続き、新たな声が入ってくる。
「よっ、元気にしてたか、オランピア」
手を上げて挨拶してくるのは、巨大な斧槍を背負った大男、アリオッチ。
「……ふん」
オランピアを見て、すぐさま不機嫌そうに顔色を変える男、《皇帝》。
「アリオッチ……、《皇帝》……」
《錆》のアリオッチ。
《剣》の《皇帝》。
《棘》のメルキオル。
そして、《金》のオランピア。
数ヶ月ぶりに《庭園》の四幹部がこの場に集った。
自分が絶体絶命の状況に陥ったことにようやく気づいたオランピアの顔は徐々に青く染まる。
「あぁ、心配しないでよ、オランピア。僕たちは君を殺そうとはしないから」
「……え?」
「本当だったら、すぐに殺してたんだろうが、あいにくとボスからのオーダーなんでな。今はお前を生かしているっていうだけの話だ」
「……我はいまだに納得していないがな」
その後、《皇帝》は何も言わず、部屋の壁に背中を預けて、腕を組む。
目を閉じている彼の姿は、後は勝手にやれと則しているようだった。
「やれやれだね~。それじゃあ、オランピア。今の状況を簡単に説明しようか」
メルキオルはその場で胡座をかき、オランピアと目線を合わせる。
彼からにじみ出てくる殺気に怯みながらも、今の状況を理解するため、オランピアは必死に耐えて、彼の話を聞く。
「僕たちは今、ボスの指示である場所に向かっている。次の新月の日にその場所でとある儀式が行われる。だけど、その儀式には条件付き生け贄が必要みたいでね。条件を満たさなきゃ、その儀式は成立しないんだよ。……そして、その条件に満たしているのがオランピア。君だけなんだよ」
「私が、ですか」
「そう。だから《庭園》は急遽、方針を変更。君を殺すのではなく、その儀式の生け贄として、君を捕らえることになったんだよ。……ま、生け贄だから結局、死ぬことには変わりないけどね」
メルキオルの説明に少しずつ状況を理解し始めるオランピア。
今まで殺しに来ていた《庭園》がなぜ、自分を生かしているのかわからなかったが、自分が彼らにとって、替えがきかないものなのだと理解する。
だが、一つだけ疑問点があった。
「……どうして、私だけなんですか?」
メルキオルは言った。生け贄の条件に当てはまっているのは自分だけだと。つまり、それは他の人にはない何かが自分にはあり、それが生け贄の条件だとわかった。問題はその条件とは何なのかということだ。
「さぁ? それは僕たちも知らないよ。これを言い出したのはボスだからね。そのことを知っているのはボスだけだよ。まったく、部下にも教えないなんて、僕らって信用ないのかね~~」
「……あの男は何者なのですか? どうして、あなたは彼に従っているのですか?」
《庭園》にいた頃、メルキオルの性格を何度も目の当たりにしてきたオランピアは彼が《庭園の主》に従う理由がわからなかった。
彼は好みの相手なら従順に従うだろうが、そうでない者に対しては、大抵は彼の気分次第で変わる。
ある者は即座に殺し、ある者は散々弄んで最後に殺す。
少なくとも、オランピアの目には彼が《庭園の主》に好意を抱いているようには見えなかった。
「う~~ん、そうだね。強いて言うなら一目惚れかな」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまうオランピア。そんな彼女を置き去りにメルキオルは話を続ける。
「彼の目を見た時にときめいちゃったんだよ。彼の目はすごくグチャグチャだったんだ。だけど、僕には、彼のその濁った目がとても綺麗に見えたんだよ!」
その時を思い出したのか、メルキオルは頬を赤らめる。気づけば、彼の口は速くなる。
「だから、興味が湧いたんだよ。彼がこの先、何をしようとしているのかってね。それをした結果、彼がどんな最後を迎えるのか、気になって気になって仕方がないんだよ!」
渦巻くような狂気の目をオランピアに向け、獰猛に笑うメルキオル。
その姿に見慣れていたオランピアは特に怖気づくことはなかったが、彼の得体の知れなさに改めて戦慄するしかなかった。そして、彼女の近くにいた兄妹は興奮して見開く彼の目を目の当たりにし、あまりの恐怖に息が荒くなっていた。
その時、ドアが開き、誰かが入ってくる。
顔が人形のように動かない男は近くにいたアリオッチに何かを報告する。
「おい。ボスから連絡があるってよ」
「あら、そう。それじゃあ、僕たちはここらでお暇させてもらうよ。オランピア、目的地に着くまで、ここでじっくり待つんだよ。別に逃げてもいいけど、丸腰の今の君じゃあ、すぐに捕まるだろうけどね」
その言葉にハッとオランピアは自分の懐を漁る。
彼の言うとおり、武器である小太刀とオーブメントがどこにも見当たらなかった。
「それと、念のため、その子たちに監視してもらうから、余計なことをしないことが身のためだよ」
「くっ……」
悔しそうに歯を食いしばるオランピアにメルキオルは被虐的な笑みを浮かべてしまう。
彼はオランピアを一瞥した後、監視として残す兄妹に視線を変える。
「ちゃんと見張るんだよ。わかったかな?」
「「…………はい」」
「うん。うん。素直でいい子だね~~。それじゃあね~、オランピア♪」
それを最後にメルキオルはアリオッチたちをつれて、部屋から一斉に出て行く。
部屋は再び、静寂に包まれ、先程までの張り詰めていた空気は一瞬で消え去った。
「はぁ……、はぁ……」
「おい、大丈夫か?」
妹が手を床に付いて息を整える。緊張感のあまり、身体の疲れが一気にきたのだろう。
気にかけている兄の方も、汗が出ており、水滴が床に落ちていた。
「………………」
オランピアはそっと足を曲げて、膝を両腕で包み込む。
彼女は一度、周りを見回す。
黒い鉄で作られた部屋。まるで牢獄だ。
折り曲げた膝に顔を埋める。
やがて小さな呻き声がこぼれる。
ひどく弱々しい声に兄妹は声がした方に顔を向ける。
膝を抱えたオランピアは身体を震わして、嗚咽していた。
「エドさん……」
目に涙を溜めながら、最愛の彼の名を呼ぶ。
困ったとき、ピンチになったときに必ず助けてくれた、黒髪の彼。
もしも、彼がこの場にいたら、必ず助けてくれるだろう。
だが、彼は今、ここにはいない。
彼のかわりになる人も当然いない。
正真正銘、一人になってしまったことにどうしようもない恐怖と絶望感がオランピアを襲うのであった。
~~~~~
龍來のはずれにある下流が流れている自然地帯。
整備がされていないその場所では数多くの動物が餌を食べたり、同族と遊んだりなど、それぞれの時間を過ごしていた。
そんな自然が溢れている場所に一人の男が倒れていた。
黒い髪にボロボロの黒いコートを着た青年、エドワード・スヴェルトだった。
彼は身体だけでなく、服までも濡れており、下半身を川に浸かりながら、うつ伏せで倒れていた。
――じゃり
地面を踏む音が鳴り、動物たちは音がした方に一斉に振り向く。
倒れているエドに向かって、ゆっくりと近づいてくる一人の男。
男はエドの前で立ち止まり、傷だらけになっている彼をじっと見つめるのだった。
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