英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第九十一話 脱走

 突如、鳴り響いた爆発音。

 赤い火花と激震は、エデン村の周囲を見張っていた《庭園》の者たちは誰もがその方角に視線を向けた。

 自分たちの任務は《金》の管理人であるオランピアの監視。彼女が脱走するものなら、これを生きたまま拘束する。

 そして、今、爆発が起きたのは彼女が監禁されている家。彼女が死ねば、任務は失敗。待ち受けるのは、自分たちの死。

 それを本能で語る刺客たちは、一斉に爆発した場所へと向かって行った。

 

「引っかかったみたいだな」

「そうだね」

 

 爆発地であるエルピス邸へと向かう刺客たちの後ろ姿を見ていたイクスとヨルダは、茂みの中からこっそりと顔を出す。

 今、彼らは村の入り口前で停泊していた黒い飛行艇の近くで身を潜めていた。

 

「しっかし、まさか今日が新月の日だったなんてな」

「そうだね。私もてっきりまだ一日あると思ってた」

 

 イクスたちは上を見上げ、月のない夜空を見ながら、そんなことを呟く。

 

「メルキオルの性格なら、このくらいのことは普通にする。彼の言葉はあまり信用しない方がいいよ」

 

 夜空を見上げる二人に向かって声をかけるオランピアは飛行艇の中から出てきた。

 彼女の手には、愛用の小太刀と戦術オーブメントが握られていた。

 

「どうやら、上手くいったみたいだね」

「あぁ。あの変態野郎もさすがにくたばっただろう」

 

 イクスの声はすごく弾んでいた。メルキオルを倒したことに喜びを隠せないようだ。その隣にいるヨルダも声には出さないものの、その表情には笑みを浮かんでいた。

 

「気を抜かないで。あれで倒せたなんて思わない方がいい」

「え? いや、あの爆発じゃ、さすがにあいつも……」

「生きてる。あの程度でやられる程、《庭園》の幹部はあまくない」

 

 幹部時代からメルキオルと長い付き合いをしているオランピアは、彼の恐ろしさをイクスたち以上に知っていた。

 どこまでも狂った狂気じみた性格も厄介だが、一度殺すと決めた相手をどこまでも追いかけて殺そうとする、往生際の悪さが一番厄介だ。

 あの程度の爆発でくたばるなど、オランピアにはまったく想像がつかなかった。

 

「目的のものは手に入れた。すぐにここから離れよう」

 

 オランピアは二人を先導して飛行艇から離れる。放心していたイクスたちは慌てて彼女の後ろを付いていく。

 

「なぁ、本当に良かったのか?」

「? 何が」

 

 移動するさなか、イクスは気になっていたことをオランピアに尋ねる。隣で走るヨルダも同じだったのか、彼の代わりに答えた。

 

「家、燃やしてよかったの? あそこはお姉ちゃんの家だったんじゃ……」

 

 その問いかけにオランピアは少し顔を下に落とす。

 エルピス邸の爆発。それを考えたのは、他ならぬオランピアだった。

 《庭園》が村とその周辺を展開して、見張っている中、彼らを掻い潜って抜け出すのは困難を極める。

 彼らを掻い潜るには、彼らの視線を一カ所に集めるしかなかった。

 そのための爆発だ。

 爆発が起きれば、誰もがそこに視線が集まる。

 ましてや、爆心地は生け贄として選ばれたオランピアが住んでいる監禁場所だ。

 何か異常がないのか、と何人かは確認するためにその場へ向かうはずだ。

 見張りの数を減らすにはこれしかなかった。だが、逃げるためとはいえ、自分が暮らしていた家を吹き飛ばしたことにオランピアが何とも思わなかったことはない。

 かつて両親と共に過ごした、思い出がたくさん積もった家。

 両親からもらった自分の部屋も、舞を両親に披露するために使った庭も、両親のために描いた絵も全て火の中に沈んでいった。

 

「……大丈夫」

 

 オランピアは俯いた顔を上げる。

 目に涙を溜め込みながらも、彼女の足は止まることはなかった。

 

「生きるって。自分で決めたから」

 

 彼女が選んだのは生きる未来。

 エドと大切な人たちと共に生き続ける未来のため、思い出が集まった(過去)を前に進むための火の薪にすることを選んだ。

 

(お父さん……、お母さん……、いってきます)

 

 オランピアは決して後ろを振り返らずにただ、ひたすらに前へと走る。

 後ろから付いてくる二人に気を配りながら、彼女は村の外へと出ていくのであった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 一方、村から外れた祭壇前では、

 

「………………」

 

 両手を前で組んでいた《庭園の主》は底が見えない大穴の前で、祈りを捧げるかのようにその場で膝を着いていた。

 

「おい、今の爆発」

 

 そんな《庭園の主》の後ろ。石柱にもたれかかり、彼の護衛を務めていたアリオッチは、遠くから聞こえた爆発音に耳を傾けていた。

 

「ありゃあ、オランピアが泊まっていた場所だぞ」

「だろうな」

「だろうなって、気にならないのか?」

 

 《庭園の主》は構えを崩さないまま、アリオッチと疑問に答える。

 

「問題ない。彼女なら無事だ。今頃、この村を出ようと抗っているのだろう」

「ほっといていいのか? 大事な生け贄なんだろう?」

「心配はない。すでに《皇帝》が動いている。……気になるのなら、行ってもいいのだぞ」

 

 最後の言葉に眉を密かに引いたアリオッチは、じっと《庭園の主》を見据える。

 

「私は見ての通り、儀式の準備で手が離せない。だが、終わるまでここに誰かが来ることはない。護衛は不要だ。君の好きなようにすればいい」

「……そうか。なら、お言葉に甘えさせてもらうぜ」

 

 アリオッチは身体を起こし、武器である斧槍を肩に担いで、その場から離れる。

 

「そういや、一つ聞いていなかったな」

「何かね」

 

 アリオッチは踵を返して、再び《庭園の主》の方に振り向く。何かを見定めるかのようにじっと見つめて、ゆっくりと口を開く。

 

「アンタ、結局のところ、何がやりたいんだ?」

 

 《庭園の主》はその問いに沈黙する。

 フードを深く被り、後ろ姿しか見えないから、アリオッチは彼の表情を読み取ることはできない。

 だが、その姿は触れるだけで崩れてしまいそうなほど脆そうなものだった。

 

「そうだね。別に教団の再興も魔王の復活も、これといって興味はない。この儀式もあくまで目的のための過程にすぎない。……私が望むのは"再会"。ただそれだけだよ」

 

 最後を力強く答える《庭園の主》。その様子を見て、アリオッチは確信する。

 

 再会。おそらく、これが今にも崩れてしまいそうな身体を支えているものなのだろう。

 

「そうか……。邪魔して悪かったな」

 

 答えに満足したのか、アリオッチは軽い笑みを浮かべて、その場から立ち去った。

 祭壇で一人っきりになった《庭園の主》は、そっと顔を上げる。

 視線の先にあるのは、底がまったく見えない巨大な大穴。

 先の見えない真っ暗な光景を彼はじっと見つめていた。

 

「……もうすぐだ」

 

 何かを待ち焦がれるような声を出す《庭園の主》はその後、再び顔を俯かせて、祈りを再開するのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 エデン村から少し離れた森林地帯。

 祭壇前の森とは逆方向に広がっているその森は暗闇に隠れてしまい、その広さが掴みとれない。そんな森の中を、オランピアたちはひたすら駆け足で抜けようとしていた。

 

「なぁっ、俺たちっ、どこに向かってるんだ?」

 

 道中、イクスは息を整えながら、前を走り続けるオランピアに確認を取る。

 それに対して、オランピアは振り返らずに周囲に目を配りながら答える。

 

「この先には大きな川があるの。ここは川の上流の位置にあるから、川に飛び込んで下流方面に逃げられるわ」

「詳しいんだね」

「昔、お父さんと一緒に来ていたから」

 

 懐かしむように呟くオランピアだったが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「ここを抜ければ川に着く」

「よしっ!」

「うんっ!」

 

 三人はさらに足を速めて、森の奥に出ようとする。

 

「! 止まって!」

 

 しかし、オランピアはその場に急に立ち止まる。イクスたち前に手を出して、二人を無理やり制止する。

 

「おい! いきなりどうしたん……」

 

 ――ヒュン!

 

 イクスがオランピアを問い詰めようとしたその時、数本のナイフがオランピアたちの前を横に通り過ぎた。ナイフはそのまま木に深く突き刺さった。

 

「い、今のって?」

 

 ナイフが飛んできたことに唖然とするヨルダ。オランピアがいなければ、今頃、自分の頭に刺さっていただろう。

 

「今のを勘付くか。どうやらまだ勘は鈍ってないようだな」

 

 川の方面から突如出てきた男の声。

 近づいてくるその声の方に視線を向けたオランピアの顔は少し歪む。

 

「《皇帝》……っ」

 

 黄金の鎧を纏った《庭園》の幹部、《皇帝》がオランピアたちの前に立ちはだかった。

 

「だが、浅はかだな。川に落ちて下流に逃げ込むなど、想定済みだ」

 

 《皇帝》が手を挙げた瞬間、木の影から黒ずくめの男たちがナイフやマチェットを取り出して出てきた。突然、現れた《庭園》の刺客たちは、オランピアを逃がさないように四方を取り囲んだ。

 

「ふん。その二人を味方に付けて、逃走を図るとはな。メルキオルめ、躾がなっていないな」

「くっ……」

「……」

 

 《皇帝》に殺気を向けられ、萎縮してしまうイクスたちだが、そんな彼らの前にオランピアが立つ。

 

「この二人に手出しはさせません」

 

 小太刀を抜き、腰を低くして構えるオランピア。その様子を見ていた《皇帝》は鼻で笑う。

 

「この状況で貴様に何ができる?」

「やってみせます。そして、必ず生きて帰ります!」

 

 密かに隠し持っていたオーブメントをかざし、アーツを放つ。彼女の周囲に赤い蝶々が舞う。

 

「フレアバタフライ!」

 

 炎を纏った蝶たちは周囲に飛び回り、火をばらまく。

 火は次々と周りの木々に点火し続け、数分も経たずに周囲の景色が赤く染め上がる。

 

「貴様、正気か?!」

 

 山火事を引き起こしたことに驚愕を禁じ得ない《皇帝》。しかし、その様子など目もくれずにオランピアは次の行動に移る。

 

「二人とも、来て!」

「! 捕らえろ!」

 

 オランピアの合図にイクスたちは動きだす。それを見た《皇帝》は刺客たちに指示を出す。

 

 ――八葉一刀流 肆の舞

 

 オランピアは迫り来る刺客たちと交差する。

 すれ違いざまに一人斬り、すぐに別の刺客に近づいて剣を振るう。

 防御の構えを取る刺客たちだが、それさえ斬り捨て、次々と刺客たちを倒していく。

 

斬々舞(きりきりまい)!」

 

 気づいた時には、敵は全て斬り伏せられ、オランピアの周囲に倒れ込んでいた。

 

「お姉ちゃん!」

 

 その間にヨルダたちはオランピアと合流。それを確認したオランピアが次の行動に移そうとするが、

 

「うっ」

「うわ!」

「きゃっ!」

 

 上から押さえつけられたような感覚に、三人は一斉に膝を着ける。

 

「チェックメイトだ。諦めろ」

 

 遠くから重力操作でオランピアたちを拘束した《皇帝》は杖を向けて近づいてきた。

 

「さて、まずはガキ二人を……」

 

 《皇帝》はイクスたちを始末しようとするが、拘束していたオランピアたちの身体はまるで霞のように崩れていく。

 

「?! 幻の類いか!」

 

 正体を瞬時に見抜いた《皇帝》。

 拘束される直前、オランピアが生み出した陽炎。

 拘束していたオランピアたちの姿は消えてなくなり、代わりにあったのは、缶状の物体とその近くに捨てられたピン。

 

「っしまっ……」

 

 それの正体を理解した時には、もう遅い。

 缶は炸裂し、辺り一帯に強烈な光と音を広げていった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 燃えさかる森から少し離れた草原。

 夜の光に照らされず、暗く広がるその空間はまるで時が止まっているかのように静まりかえっていた。

 しかし、突然、草原の一部が揺れだし、盛り上がるようにぬっと何かが地面の中から出てきた。

 黒一色に染まっていたそれは、形を崩していき、その中を露呈する。

 

「……上手くいった?」

「うん。上手くいった」

 

 中から出てきたのは、先程まで森の中にいたオランピアたち三人。

 彼女たちを覆っていた黒い物体は、ヨルダの影の中に入っていき姿を消した。

 

「初めてだったけど、影の中を移動って、結構、便利ね」

「うん。ちょっと疲れるけどすいすい進むから、移動も楽」

 

 ヨルダの異能。自身の影を物質化し、あらゆる形状に変えることができる能力。

 また、対象を影の中に呑み込むことができ、影の中から別の場所に移動することも可能だ。

 

「このまま茂みに隠れて、逃げるよ」

「身長が低いことに感謝だな」

 

 長らく放置していたからか、地面から生えている草々はオランピアたちの背丈を超えており、彼女たちの姿を見事に覆い尽くしていた。

 

「さすがにここまで追ってこれないだろ」

「うん。お姉ちゃんが山を燃やしたから、たぶん皆そっちに行ったと思う」

 

 イクスたちは勝ち誇ったかのように頬を緩ませる。

 脱走の際に川から逃げるのを《庭園》が考えていないわけがない。

 オランピアの目的は川ではなく、道中で通る草原の方だった。

 山火事という目立つ行為をすることで敵を誘導し、その隙にもう一つの脱走路で村を出る予定だったのだ。

 家の爆発と山火事。二つのイレギュラーで敵側は今、混乱している状況だ。

 特に、幹部二人がそれに巻き込まれており、統率がとれていない。

 そして残ったアリオッチは、イクスたちの話によれば《庭園の主》の護衛で祭壇から動くことはないようだ。

 逃げるのなら、今が絶好の好機。

 

「今がチャンスだよ。このまま外に逃げるよ!」

 

 ようやく希望を見出した三人は、村から遠ざかろうと全速力でその場から立ち去ろうと足を踏み出す。

 ――そんな時だった。

 

「っ! 伏せて!」

 

 オランピアは咄嗟に二人を地面に抑えて、身を低くする。

 

 

 ――斬っ!

 

 

 すると、頭上に巨大な何かが通り過ぎた。

 伸びきった草々は次々と伐採されていく。

 気づいた時には、辺り一帯の草は全て刈り尽くされてしまった。

 

「な、なんだよ今の」

「かまいたち?」

「いえ、今のは……」

 

 オランピアはかすかにだが、謎の飛来物の姿を見ることができた。

 彼女が見たのは、獅子の頭が掘られていた巨大な斧槍。

 つまり、それは……

 

「見つけたぜ、オランピア、そしてガキんちょども」

 

 背後から自分たちを呼ぶ声に三人は一斉に後ろへ振り向く。

 

「アリオッチ!」

 

 先程飛ばした斧槍を肩に乗せながら、アリオッチは三人を見つめる。その姿にイクスは動揺する。

 

「な、なんでここにいるんだよ! お前、リーダーの護衛をしてたんじゃ……」

「そのボスに不要だって言われてな。祭壇を抜け出したら、なんだか面白いことになってんじゃねぇか」

 

 アリオッチはニヤッと笑みを浮かべながら、そのまま話を続ける。

 

「爆発と山火事。想定外の出来事を二回連続に引き起こすことで現場をかきまわし、さらには幹部二人を巻き込んで、統率をとれなくする。その隙にもう一つの逃走路を使って、現場から離れるってところか。いい作戦だったが、俺が降りてくることを考えなかったのは、致命的だったな」

「くっ……」

 

 悔しそうにオランピアはアリオッチを睨む。イクスたちは作戦が失敗したとわかり、顔を青ざめる。

 

「さて、オランピア。俺と一緒に来てもらうぜ。そっちの二人は残念だが、ここで死んでもらう」

「させません!」

 

 アリオッチが足を強く踏もうとした瞬間、オランピアは咄嗟にイクスたちの前に立つ。

 

「二人はここから逃げて。彼は私が相手をするから」

「! お姉ちゃんは!」

「私は隙を見て、逃げるから。後で合流しよう」

「嘘だ……。あんた、自分だけ残るつもりだろう!」

 

 イクスたちはオランピアの行動の意図を瞬時に理解した。

 イクスの言うとおり、オランピアはここに残るつもりだった。

 敵の狙いはあくまでも生け贄である自分自身。自分が新月の日が終わる夜明けまで逃げ切れば、相手の計画は破綻する。

 だから、自分を囮にして、敵の注意を自分に向けさせれば、その隙に二人を逃がすことができると。

 

「大丈夫。私は死なないから」

 

 オランピアは二人に向けて優しく笑みを向ける。自分なら大丈夫だと、その笑みには諦観の様子はない。

 

「私は諦めないよ。たとえ、どんなに高い壁が立ちはだかったって、私は絶対に諦めない。生きるって決めたから」

 

 オランピアは決意したのだ。ここから逃げると。三人で逃げると。生きて、もう一度エドに再会すると。

 だから、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。

 

「あの時も言ったよ。私を信じて。……さぁ、行って!」

 

 オランピアはそれを最後にアリオッチの方に向かう。ヨルダは遠くに行ってしまうオランピアに手を伸ばすが、もう届かない。そして、イクスは決心し、ヨルダの腕を強く掴んでオランピアから背を向ける。

 

「私が相手します。あの子たちの元には行かせません!」

「……そうか」

 

 アリオッチはオランピアのやり取りを静観し、残念そうに首を振る。

 そっと手を挙げた瞬間、茂みの中から、刺客の暗殺者たちがぞろぞろと姿を現す。

 

「残念だったな。俺一人で来たわけじゃないんだ。あいつらのことは諦めるんだな」

「いいえ。一人も通さなければいいだけの話です。ここで全員、止めてみせます!」

 

 自分で言いながら無茶な話だと、オランピアは内心でそう感じている。

 たった一人で数十人の相手をするなど不可能だ。

 それでも諦めるわけにはいかない。

 三人で逃げようと自分から彼らに行ったのだ。

 だから、自分があの二人を守らなければならない。

 

 ――彼が《庭園》から自分を守ってくれたように。

 

「いい啖呵だぜ、お嬢ちゃん」

 

 そんなことを考えていた束の間。

 聞き覚えのない、新たな声にその場にいた全員が動きを止める。

 何事かと思ったその瞬間、オランピアの背後に巨大な影が上空に跳ぶ。

 

「これでもくらいな!」

 

 影は手に持った巨大な何かをアリオッチたちに向ける。

 すると、先から火が吹き、次々と刺客たちを打ち抜いていく。

 

「っ……、銃か!」

「おまけだ!」

 

 影は腕を大きく上に振りかぶる。

 

「ギルガメス・……」

「! オブリヴィオン・……」

 

 受け止めるな。

 

 アリオッチの勘がそう囁いた。

 斧槍を水平に持ち、上空に浮かぶ影に狙いを定める。投槍の構えだ。

 影は剣を振り下ろすと同時にアリオッチたちに向かって急降下。

 アリオッチは向かってくる影に向かって、全力で斧槍をぶん投げた。

 

「ブレイカーーーー!!」

「ビーーーースト!!」

 

 剣と斧槍が激突する。

 激突した瞬間、そこを中心に強烈な爆風が周囲を吹き飛ばす。

 

「ぐっ、うぅぅ……」

 

 咄嗟に小太刀を地面に突き刺し、吹き飛ばされないように地面に張り付くオランピア。

 対する刺客たちは、強風に煽られ、上空に投げ飛ばされる。

 アリオッチはその場から動くことなく、ただ上空を見つめる。

 

「……ウォオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 いまだ暴風を巻き起こしている、力と力の拮抗。

 そんな中で突如、轟く雄叫び。

 影が咆哮を上げた瞬間、黒いオーラが影を包み、斧槍を押し返した。

 影はそのまま一直線にアリオッチに向かう。

 

「チッ!」

 

 アリオッチは後ろに跳ぶ。

 影が地面とぶつかり、激震と共に二度目の爆風を引き起こす。

 アリオッチは両腕を前で交差するように組み、その場で耐える。

 爆風はすぐに鳴り止み、その場に残っていたのは、オランピアとアリオッチ、そして巨大なクレーターを生み出した謎の影。

 

「今のを耐えちまうか。あんちゃん、なかなかやるじゃねぇか」

 

 影はクレーターから登ってきて、その姿を見せる。

 アリオッチに負けないくらいの巨体。

 黒いジャケットを身に纏い、飄々とした雰囲気を醸し出す髭を生やした大男。

 肩には巨大な大剣、バスターグレイブを担ぎ、ニヤッとアリオッチに笑みを見せる。

 

「てめぇは……」

 

 アリオッチは男の姿に息を飲む。

 その姿から、彼が猟兵であることはすぐにわかった。

 だか、アリオッチが驚いたのは、そこじゃない。

 

 ここで話を折るが、猟兵の話をしよう。

 オランピアが龍來で出会った猟兵団《斑鳩》は大陸東部最強の名を持つ猟兵団だった。

 では、大陸西部最強の猟兵団はいったいどこなのだろうか。

 その問いに対して、《斑鳩》を含んだ数多の猟兵団は二つの団を挙げる。

 

 その異名の通り、闘いの神の如く、圧倒的な力で数多の敵、数多の戦場を蹂躙する男。

 《赤の戦鬼》、《血染め》、《赤い死神》。

 彼らが染める赤い髪と同じく、戦場を火と血で染め上げる、闘いの化身。

 《闘神》バルデル・オルランドが率いる《赤い星座》。

 

 そして、闘神と互角に渡り合えるもう一人の最強。

 《火喰い鳥》、《罠使い》、《破壊獣》、そして、《西風の妖精》。

 名のある猟兵たちを率いり、多くの猟兵団からも信頼を集めている猟兵団。

 《闘神》に並ぶ実力と、商売敵である同僚たちからも慕われるその姿から、いつしか皆から"王"と呼ばれるようになった男。

 

「そんじゃ、いっちょ、始めるとするか」

 

 《猟兵王》ルトガー・クラウゼル。

 

 風切り鳥の紋章を掲げる猟兵団。《西風の旅団》の団長が戦場に舞い降りた。




 後、一週間で大晦日。
 このお話を投稿して、もうすぐ一年になっちゃっうのか……。

 改めて、誤字・脱字の報告いつもありがとうございます!
 感想・評価の方もお待ちしております!
 次回もお楽しみください!
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