それでは、ご覧ください。
「アンタ、すげぇな……」
目の前で堂々とこちらを見据えてくる男にアリオッチはそう評価する。
《猟兵王》ルトガー・クラウゼル。
有無を言わせない威厳に満ちた姿。
そこにいるだけで委縮してしまいそうな圧倒的な畏怖と存在感。
斧槍を握る手がわずかに震えている。
それに気づいたアリオッチはニヤッと口角を上げる。
「かつて仕えていたあの方を思い出すぜ。猟兵の世界でアンタみたいな大物がいるなんてな」
まだ、《庭園》に入る前。すでに滅んでしまった故郷のことを思い出すアリオッチ。皇を守護する騎士として、何度も顔を合わせたことはあるが、その皇にも負けない重圧に武者震いが止まらない。
「俺もアンタみてぇな男に出会えるなんて思わなかったぜ。バルデルのことを思い出しちまうよ」
一方で、ルトガーはアリオッチを見て、自身の宿敵を思い出していた。
自分の団と双璧を為す、赤いサソリを掲げた猟兵団。その団長が自分に向ける獰猛な殺気。それを思い出させるアリオッチの殺気にルトガーも口角を上げてしまう。
「猟兵のアンタが何の用だ? 俺はアンタの後ろにいる奴に用があるんだが」
「何の用かって、そんなもん、仕事に決まってんだろ」
ルトガーは後ろを振り向き、自分を見上げているオランピアを見る。彼女は何が起きているのかわからず、呆然と立ち尽くしていた。
「確認するが、お前さんがオランピア・エルピスか?」
「は、はい……」
「そうか。見た感じ無事なようだし、間に合ったみてぇだな」
「えっと、それはどういう……」
「俺たちはお前さんを助けに来たんだよ」
「ど、どうして私を?」
状況が追いつけず、オランピアは混乱してしまう。
猟兵との縁はあるが、彼らが龍來で会った《斑鳩》の者ではないことはすぐにわかる。そして、それ以外の猟兵とはこれといって交流はない。
では、いったい誰が?
「知り合いのじいさんに頼まれちまってな。他の団の奴らにも手を貸してもらって、手当たり次第、お前さんを探し回ってたんだよ」
「知り合いのおじいさん?」
「あぁ。古い知り合いでな。今じゃ《剣聖》の師匠で有名だ」
「そ、それって!」
オランピアの脳裏には黒髪の青年の姿がよぎる。
「さて、嬢ちゃんは下がってな。お前さんが逝っちまったら、こっちも困るんでな」
「あ、あの! でしたら、一つお願いがあります!」
オランピアはアリオッチの方に向かおうとするルトガーを止める。
何かあるのかと、少し目を見開きながら、ルトガーはオランピアの顔をじっと見つめる。
「い、今さっき、双子の兄妹がここを離れていきました。できれば、その子たちを保護してもらえませんか!」
オランピアはこの場から離れたイクスたちを保護するようにとルトガーに懇願する。
それに対して、ルトガーは頭をかきながらも真剣な顔つきでオランピアに尋ねる。
「別にそれは構わねぇが。嬢ちゃん、金はあるのか?」
「え、お金、ですか?」
「あぁ。俺たちは猟兵だ。猟兵に依頼するのなら、それなりに金は払わなきゃいけねぇ。俺たちは遊撃士じゃねぇからな」
遊撃士は民間人の安全を第一とする慈善団体。彼らならその信念に基づき、イクスたちを無償で保護してくれるだろう。
だが、猟兵は違う。彼らは金を第一として動く。
戦争代理人をするにしても、遊撃士のような慈善活動をするにしても、彼らは金を払わなければ動かない。
今のオランピアには手持ちのお金など当然、持っていない。ゆえに、彼女がどれだけ頼もうと猟兵の彼らが彼女の依頼を受けないだろう。
「……今は何もありません」
それでもオランピアは必死にお願いする。
自分を信じてくれた二人を守りたい、助けたい。その一心を込めて。
「後でしっかりお支払いします! 何年経とうとも、あなたが要求する額を必ず払います! だから、お願いします! あの子たちを助けてください!」
魂が籠もった叫びが草原に響き渡る。
自分の顔から目を離さずにじっと見つめてくる少女の姿を、ルトガーは黙って見下ろしていた。
「…………くっ」
沈黙していたルトガーは、ふと口元を少し上げる。そして――、
「くはははははははは!!」
豪快に笑った。
「いいね! 嬢ちゃんのその意気、気に入ったぜ。いいだろう、その依頼を受けてやる。報酬は後払いで構わねぇぜ」
「あ、ありがとうございます!」
依頼を引き受けてくれたことに、頭を下げるオランピア。
その姿にルトガーは笑みをこぼした後、アリオッチの方に視線を向ける。
「それじゃあ、こっちの仕事を押っ始めるとするか!」
ルトガーは腕を勢い良く上げる。すると――、
――ズタタタタタタタタタッッ!!
遠くから、火花が飛び散り、オランピアたちの横を銃弾が通り過ぎる。
銃弾は《庭園》の刺客たちを次々と打ち抜いていき、一人、また一人と倒れていく。
「――フンッ!」
アリオッチは銃弾を弾きながら、斧槍を地面に叩きつける。
叩きつけられた地面から砂塵が飛び散り、アリオッチたちの姿を隠す。
標的を捉えることができなくなったからか、銃弾の嵐が止まった。
「レオ!」
「
ルトガーは即座に指示を出す。
茂みからサングラスをつけた筋肉質な大男が出てくる。
腕には巨大なマシンガンドレットが付いており、大男は砂塵に向かって、大振りに振るう。
「ウォオオオオオオ!!」
空気の壁を貫く音がオランピアの耳を震わす。
大振りから生じた強風が砂塵に向かっていく。
風にぶつかった砂塵は吹き飛んでいき、そこに隠れていたアリオッチたちが姿を捉える。
「迎撃準備! 頭は俺が仕留める! ……アイーダ!」
「ゼノ! 第一小隊を連れて右を狙え! 第二小隊はレオと合流して、左に向かえ! 第三小隊はこの場に留まり、後方から援護する!」
『
猟兵たちが各々の武器を構えて突撃する。それに呼応するかのように《庭園》の刺客たちも正面から迎え撃った。
「ほらほら! 足元に注意やで!」
独特な口調で相手を翻弄する《罠使い》ゼノは指を鳴らす。
すると、刺客たちの足元が突如、爆発し、周囲が火に包まれる。
「ハハ! こんな場所じゃ、罠なんか見えへんやろ!」
アリオッチに刈られ、膝くらいまでしかない草を隠れ蓑にして、爆弾を設置していたゼノ。
その姿に他の団員からヤジが飛ぶ。
「おい! ゼノ! 俺たちがいるのを忘れてねぇよな!」
「下手したら、俺たちが吹き飛ぶぞ!」
「安心せぇ! 場所は全部、把握しとる。ウチの指示通りにいけば問題あらへん!」
「くそ! 当たったら、化けて出てやるからな!」
そんなやり取りがありながらも、高度な連携で敵を減らしていく第一小隊。
一方、もう片方の第二小隊では、
「ハァアアアアアアア!!」
ドンっと音を鳴らして、刺客たちが空に舞う。
レオこと《破壊獣》レオニダスの圧倒的な力に、襲いかかってくる刺客たちが次々と吹き飛んでいく。
「隊長を援護しろ! 漏らした敵を迎撃する!」
『了解!』
レオが単独で敵をなぎ倒していき、一撃で倒れなかった相手や、上手く躱した相手を打ち倒すと、レオを主体とした戦法をとっていた。
「援護部隊はそのまま続行! 前衛をフォローしつつ、負傷者を回収しろ!」
『
「フィー! 来な!」
「ん」
改造したライフルで敵を撃ちながら指示を出す女性――《火喰い鳥》アイーダの下に銀髪の少女が近寄る。
「アイーダ、呼んだ?」
「あぁ。アタシらは一度、戦線を離脱する。さっき逃げたガキ二人を保護するよ!」
「
「無茶すんじゃないよ」
少女――フィー・クラウゼルは一度頷いて、姿を消す。軽快な身のこなしをする彼女は恐るべき速さで戦線から離れていった。
「ドラァアアアアア!!」
「オリャアアアアア!!」
中心で二人の大男が激突する。
ルトガーとアリオッチはお互いの獲物を振り回し、激しい戦いを繰り広げる。
「どうした! さっきの威勢はどこにいった!」
「ちっ!」
ルトガーの押し切りにアリオッチは必死に抵抗する。
正直に言えば、全力で殺し合いたいが、オランピアをすぐにでも祭壇に連れて行かなければならない。だからといって、全力で戦えば、オランピアにも被害が及びかねない。
全力を出せずにいるアリオッチは、徐々に焦りを見出す。
(メルキオルたちは、まだか!)
今、こちらに向かっているであろうメルキオルたちの到着を待ち続けるアリオッチ。
しかし、アリオッチはまだ、気づいていなかった。
この草原地帯だけでなく、他の場所でも激しい戦闘が繰り広げていることを。
~~~~~
火が激しく燃える森。
そこを難なく抜け出した《皇帝》はアリオッチの下へ向かおうとするが、予想外の足止めをくらっていた。
「落ちろ!」
複数の重力場を生み出し、それを前方に向かって放ち続ける。
「させるかよ!」
重力場が向かっていく方向に金髪の男――トヴァル・ランドナーがスタンロッドを前に突き出す。
すると、巨大な岩が地面から盛り上がり、向かってくる重力場を次々と塞いでいく。
「やはり速いな!」
トヴァルが放つアーツの速さに舌打ちする《皇帝》。そんな隙に――
「もらったわ!」
後方から紫電が走る。
突如現れた女性の剣が《皇帝》の後ろ姿を捉える。
しかし、《皇帝》はすぐに振り向き、杖で受け止めた。
「まだまだ!」
女性は杖に足をかけて、後ろに跳躍。
すると、もう片方の手に持った大型拳銃を《皇帝》に放つ。
「甘い!」
重力場を自身の前に生成。
放たれた弾丸は重力場の中に入り、その軌道が停止する。
「ふん!」
生み出した重力場を女性に向けて投げつけるが、紫電が飛び散ると同時に女性の姿が消える。
「そちらの方も速いな」
《皇帝》は後ろに振り返き、下に視線を向ける。
そこには先程の女性とトヴァルが並び立っていた。
「サラ、無事か!」
「大丈夫よ、トヴァル。この程度、何てことないわ」
サラと呼ばれた赤髪の女性は銃口を《皇帝》に向けて、出方を探る。
一方で、《皇帝》はサラの名を聞き、どこか納得した表情を見せる。
「なるほど。貴様がそうか。《北の猟兵》の《紫電》よ」
「"元"猟兵よ。今は遊撃士のサラ・バレスタインよ」
エレボニア帝国の北に位置するノーザンブリア自治州。
そこで活動している猟兵団《北の猟兵》に所属していた、英雄バレスタイン大佐の養女。
猟兵をやめてから、帝国の遊撃士協会の門を叩き、最年少でA級の座を勝ち取った。
猟兵時代から続く彼女の異名は……
「《紫電》のバレスタイン。最年少でA級に昇格した遊撃士の正体が元猟兵とは笑える話だな」
「余計なお世話よ。いちいち勘にさわる奴ね」
「サラ、挑発に乗るなよ」
「わかってるわよ。そこまで間抜けじゃないわ」
サラは《皇帝》の挑発を軽く受け流し、全身にバチバチと雷を鳴らす。
「遊撃士がここまで辿り着くとは正直、思わなかった。どうやってこの場所を見つけた?」
「簡単よ。各地の遊撃士協会に協力してもらって、探し回っただけよ」
「ま、さすがにそれだけじゃ足りねぇから、猟兵の力も借りたんだけどな」
「ふん。商売敵の猟兵にまで協力を仰いだか?」
「そこらの猟兵なら断られるけど、《猟兵王》のおじさまがなら話は別よ」
「……っ、なるほど、《猟兵王》の人脈か」
《猟兵王》の名を聞き、顔を歪ませる《皇帝》。
数多くの猟兵団とコネクションを持っているルトガーの力があれば、確かに猟兵の力を借りるのは可能だ。それほどの信頼と実力が彼にはあるのだ。
「今頃、オランピアは《猟兵王》が保護してるだろうよ」
「新月が沈んで、朝日が昇れば、あんたらがやろうとしている儀式も頓挫するわ。それまで相手になってもらうわよ!」
強く地面を蹴り、サラは《皇帝》に向かって突進。トヴァルはアーツを放って、サラの援護に入る。
「ちっ、リベールの時といい、なぜ、あの娘に」
オランピアを助けようとするサラたちの心情を理解できないまま、《皇帝》はサラたちと交戦するのであった。
~~~~~
爆発が起きたエルピス邸がある廃村地。
そこでも激しい戦いが繰り広げていた。
「シャッ!」
運良く爆発から逃れたメルキオルは真紅のナイフを振るい、敵対する相手を刻もうとする。
「ふっ!」
しかし、メルキオルと相対する男はその攻撃を躱し、懐に潜り込む。
「はっ!」
腹に目掛けて拳打を放つ。しかし、メルキオルは後ろに下がり、直撃を避ける。
「吹き飛んじゃいな!」
懐から爆弾を取り寄せ、男に向かって放り投げる。
すぐさま指を鳴らして爆発させるが、男は軽やかな動きで爆発を次々と避けていく。
「ふぅ、危ない危ない」
「ワジ。油断するな」
清々しそうに呟く男に向かってスキンヘアの男が注意する。
「星杯の騎士が来てるなんてね。オランピアといい、とことんこっちの計画を狂わせてくれるね」
「僕がこんなにも早く着いたのは、たまたまここの近くを巡回していたからだ。適当にぶらぶらしていたんだけど、まさか大当たりを引くなんてね」
「ワジ」
「わかっているよ、アッパス」
ワジと呼ばれた中性的な顔を持った男は、拳を握り、オーラを放つ。
背中には青金色の刻印が浮き出て、ワジの腕が禍々しい大きな腕に変貌する。
「《蒼の聖典》ワジ・ヘミスフィア。星杯の《守護騎士》か」
その力を目にし、メルキオルはワジの正体を見破る。それに対し、ワジは挑発的な笑みを浮かせ、足腰を強くする。
「それじゃあ、第二ラウンドといくか」
「アハッ! 最終ラウンドの間違いじゃないの!」
ドンと音を鳴らし、両者が互いの獲物をぶつけるのであった。
~~~~~
村から外れた祭壇。
そこで儀式の準備をしていた《庭園の主》は地面に付いていた片膝を持ち上げながら、組んでいた両手を解く。
「これで準備は整った」
儀式の準備を終えた《庭園の主》は後ろに振り向き、村の方に視線を送る。
「どうやら、余計な邪魔が入っているようだな」
遠くから聞こえる激しい爆音。
それが三カ所からそれぞれ轟いており、《庭園の主》の耳を刺激する。
「まぁ、
そう言って、《庭園の主》は一番遠くから聞こえた爆音の方角に向かって歩を進める。
草原地帯。アリオッチが戦っている場所だ。
「さて、オランピアを回収するとするか」
そこにオランピアがいると確信を持って《庭園の主》は祭壇から離れようとする。
「ちょっと待ちな」
しかし、そこに新たな乱入者が入る。
「……君は」
《庭園の主》は声がした方に視線を移す。
森の中から出てきた一人の男。
真紅のコートを羽織った気怠そうな雰囲気をした男。
眼鏡越しにギラつく視線をこちらに向けてくる男の姿に《庭園の主》は目を見開く。
「ったく、ようやく見つけたぜ。いろいろと歩き回って、足が棒になっちまうところだったぜ」
「まさか、君がこのタイミングで出てくるか。これは
《庭園の主》は珍しく、重苦しそうな声でそう呟く。それに対して男は静かに笑い出す。
「てめぇだろ。リベールでレーヴェの阿呆を倒した奴っていうのは。会いたかったぜ」
「私としては、このタイミングで会いたくはなかったよ。《劫炎》のマクバーン」
結社《身喰らう蛇》、執行者NO.Ⅰ《劫炎》のマクバーン。
《鋼の聖女》にも匹敵すると噂される結社最強の執行者だ。
「んなこと言うなよ。こっちは楽しみにしてたんだぜ。……久しぶりに本気でやれる相手を見つけたんだからな!」
マクバーンはその場で腕を振るう。
すると、腕から炎が現れ、《庭園の主》に向かっていく。
《庭園の主》は焦ることなく、拳を後ろに引き、腰を捻る。
「ハッ!」
突き出される正拳。そこから放たれた風圧は迫り来る炎を霧散させた。
「へっ、やるじゃねぇか」
軽くしのいだ《庭園の主》を見て、嬉しそうに言うマクバーン。
「それにこの感じ……。ハッ! まさか、俺と同類だったとはな。最高じゃねぇか!!」
マクバーンの全身から炎が溢れ出す。禍々しい赤黒い炎は勢いを増していき、徐々にマクバーンを覆いつくす。
「期待以上だ。テメェになら、全力を出してもよさそうだな!!」
包まれた炎は周囲に弾け飛び、マクバーンが姿を現す。だが、その姿は驚くほど変わっていた。
青みがかっていた髪は金髪に変色し、眼は金色に染まり、結膜は黒く染まっていた。
「さぁ、テメェも全部出しな! そんで楽しく狂い踊ろうじゃねぇか!!」
「君に付き合っている暇はないのだが……」
《庭園の主》はそう言いながらも拳を握り、構えを取る。
「邪魔をするのなら、排除する」
瞬間、彼の足元にあった草木が枯れ始める。彼から放たれる黒いオーラが触れた植物を徐々に死滅していく。
「クク……、そうこなくっちゃな」
マクバーンは呼応するように両手から炎を出す。同時に彼の周囲にある草木は燃え始め、一瞬で焦土と化した。
「んじゃあ、行くぜ!!」
「来い!」
マクバーンは炎を放ち、《庭園の主》はそれを正面から向かい合った。
~~~~~
同じ時刻、遠き地で激闘が繰り広げている中、森の中で星空を見上げる老人と女性。
「老師。もう刻限だよ」
「わかっておる。じゃが、もう少し待て」
女性――シズナは老人――ユンを見るが、彼は星を見上げたまま、何かを待っていた。
「もう戦いは始まっている。今から行っても、もう間に合わないよ」
「そこは向かった彼らを信じるとしよう。儂にはまだ、やることがあるのでの」
「……彼は今どうなの?」
シズナはこの場にいない彼――エドのことを師匠に尋ねる。
「安心せい。あやつなら大丈夫じゃ。それに……」
ユンが言葉を止め、後ろに振り向く。
じゃり……
森の奥から何かを踏むような音が鳴る。
「今、来たみたいじゃ」
音が近づいていき、奥から件の彼、エドが姿を現す。
「……エド?」
シズナは彼の姿を見て、珍しく戸惑いを見せる。
今のエドの姿は正直、ボロボロだった。
髪は傷み、ボサボサになっており、服も所々破れていた。
だが、こちらをじっと見てくる目と彼が纏っている雰囲気が今までと全く違う。
ほんの一瞬、別人だと見間違えるシズナであった。
「答えは見つかったか?」
「……はい」
ユンの問いにエドは静かに答える。
そうか、とユンは一度だけ頷き、目を鋭くする。
「それでは、最後の試しといこう」
ユンはエドに向かって、何かを投げつける。
エドはそれをキャッチし、視線を落としてそれを見る。
「木刀? でも、あれは……」
エドが手にしたのは、ただの木刀。だが、シズナはその木刀に不信感を抱く。
ただの木刀ではあるが、かなり痛んでおり、もはや使い物にならない程だった。
おそらく、一回でも振れば、簡単に砕けてしまう。
「その剣で、儂を斬ってみせよ」
ユンはもう片方の手に持っていたものを抜く。
穢れを知らない純白の太刀。妖刀「雪花」を引き抜いた。
「せ、老師?!」
本気か、とシズナは瞠目する。
それに対して、ユンは無言のままエドに切っ先を向ける。
一方でエドは木刀を一瞥した後、両手で持ち直して、切っ先をユンに向ける。
「どこからでも来るがいい」
ゴウッ! とユンを中心に風圧が飛ぶ。
隣にいたシズナは、風圧に身体が押される。
「……行きます」
それに対して、エドも同等の風圧を放つ。両者の風圧が激突し、打ち消された。
「「っ!!」」
ドン、とエドとユンが真正面から突っ込む。
二人は剣を上段に持ち上げる。
正面からの真向斬り。
二人は一撃で仕留めようと力を込める。
二人の刃が同時に振り下ろされた。
そして――
英雄伝説外伝 金の軌跡を投稿して、一年が過ぎました。
ここまで続くとは正直、自分でも思ってもいませんでした。
誤字・脱字の報告をしてくれて、本当にありがとうございます!
感想・評価をしてくれた人にも感謝です!
完結するまで頑張っていきますので、今年もよろしくお願いします!