英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第九十四話 封印されし者

「始まりは三年前。まだ、《庭園》が発足されていない頃だった」

 

 双方が睨み合いを続ける中、《庭園の主》はひとりでにそう語り始める。当時のことを思い出しているのか、星空を見上げていた。

 

「私は初仕事として、幹部である四人にとある二人の暗殺を依頼した。その二人は《庭園》と私の正体に勘付き、二人で調べていたのでね。他の者に報告される前に始末することにしたのだ」

 

 《庭園の主》は見上げていた顔を戻して、相対するルトガーたちに、より正確には教会陣営のワジたちに視線を送る。

 

「一人は七耀教会の巡回神父。《爆拳》オーバ・スヴェルト」

「オーバ殿だと!」

「そして、もう一人はその娘のアルマ・スヴェルトだ」

「アルマ先生が……」

 

 出てきた名前に反応を示すワジとアッパス。

 アッパスはグンターの数ある弟子の中の一人であり、兄弟子であるオーバとも交流がある。師であるグンターと同様に尊敬の念を抱いていたため、彼の死の真相に驚きを隠すことができなかった。

 そして、ワジは四年前、九歳だった彼は七耀教会に入った時、彼の教育係としてアルマが担当になった経緯があった。ワジにとっては最初の先生であったため、それなりに好意を寄せていた。

 

「私は教会の情報をリークして、その情報を下にメルキオルたちは二人の暗殺に取り計らった」

「最初の任務にしてはいきなりの難易度だったからね。今でもよ~く覚えてるよ」

 

 メルキオルは笑みを浮かべながら、《庭園の主》の話に入る。

 

「《爆拳》のオーバはかなりの手練れだからね。さすがに一人で対応するのは難しかった。逆に娘さんの方は、戦闘経験がない一般人。だから、《爆拳》を僕たち三人が相手して、娘さんの方をオランピアに任せる形にした。結果は大成功。君たち教会に気づかれることなく、見事、暗殺をしてのけたっていうわけ」

「貴様っ!」

「挑発だ。闇雲に突っ込むと返り討ちにあうぞ」

 

 普段は落ち着いた姿勢を崩さなかったアッパスが声を荒げる。今にも突っ込みそうなところをルトガーが制止した。

 

「それより、スヴェルトってたしか……」

「あぁ。エドの姓。つまり、エドのお袋さんとおじいさんってことだな」

 

 一方、サラとトヴァルは被害者二人の姓名を聞き、エドの身内であることに気づく。

 メルキオルの話では、エドの母はオランピアによって殺されたということだった。それは、つまり……

 

「母親を殺された男と母親を殺した女。くくく……、そんな二人が行動を共にするなど、傑作だとは思わないか?」

「何がおかしいのよ! そんなの二人とも気づいていないだけで……」

「いや、少なくともエドワード・スヴェルトは気づいていたぞ。オランピアが自分の母を殺した女だとな」

「なんだと?」

 

 《皇帝》の言葉に耳を疑ってしまうトヴァル。見開いた目は《皇帝》の姿をじっと捉えていた。

 

「私も最初はお互いに知らないと思っていたが、龍來でのあの男の反応を見て、知っているのだと気づいたんだよ。母を殺したのがあの女だと知りながら、それを当の本人には教えずに自分の側に置き続けているなど。はたして、あの男はいったい何を考えているのだろうな」

「……それについては、今は置いとこうぜ。結局、その問題は当事者の二人が解決することだ。部外者の俺たちがどうこう言うことじゃねぇだろう」

 

 ルトガーは話を止めて、バスターグレイヴを《庭園の主》に向ける。身体から漏れ出ていた黒いオーラが異様な威圧感を放ち、《庭園》の面々に容赦なくぶつける。

 

「俺の仕事はあの嬢ちゃんの救出だ。嬢ちゃんを狙うお前らを排除して、安全を確保する。嬢ちゃんの過去に何があったのかは、俺には関係のねぇ話だ」

「猟兵風情が……。金に縋り付く蛮人がずいぶんと偉そうに」

「金に縋り付くか……。まぁ、間違っちゃいねぇが、そいつは少し違うな」

「なに?」

「俺たちは別に金がほしいって訳じゃねぇんだよ。まぁ、あることに越したことはないが……。たかが少しの端金だけでも俺たちは代理戦争を引き受ける。そこで血と肉と闘争を何度でも繰り返す、死ぬまでな。それが俺たち猟兵だ。俺たちはそういう生き方しかできねぇただの人でなしなんだよ」

 

 ルトガーの姿に《皇帝》は思わず、息を飲んでしまう。

 笑っているのだ。皮肉を言った猟兵の男は、この状況をどこか楽しんでいるかのように、自分の人生に悔いなんてないと言わんばかりに笑っていたのだ。纏っているオーラがただでさえ巨体な彼の姿をより大きく見せていた。

 

「なるほど。『王』の名は伊達ではないようだな」

「あぁ。もし、生き方が違えば、それこそ一国の王になってたかもな」

 

 かつて自国の王に仕えていたアリオッチは《庭園の主》の言葉に同意する。

 

「さてと、おしゃべりはこのくらいにして、続きといこうじゃねぇか」

「ふふふ……、君たちで私たちの相手が務まるかな?」

 

 ドンッと音が鳴る。

 同時に飛び込んだルトガーと《庭園の主》が激突した。

 それを合図に他の者たちもそれぞれ動き出し、再び戦いの火蓋が切られた。

 

 

 ~~~~~

 

 

 夢を見ていた。

 まだ《庭園》が立ち上がる前。最初に受け持った暗殺の依頼。

 

『母さん!!』

 

 ターゲットの女性を仕留めた私はその場から撤退を始めていた。

 教会のステンドグラスを叩き割り、外へ逃げようとしたその時、後ろから男の声が聞こえた。

 

『母さん! おい、しっかりしてくれ!』

 

 ターゲットの息子なのか、血まみれに倒れていた女性を抱きかかえながら、必死に声をかけていた。

 

『っ! 待て! 待ちやがれ、この野郎!!』

 

 少年は女性を抱えながら激昂し、私に向かって大声を張り上げた。

 私は振り向いて、その少年を見る。

 彼女と同じ黒い髪。手には太刀が握られており、黄金に輝く瞳はこちらを射殺そうと睨んでいた。

 

『……イシュタンティ』

 

 だが、私はそんな彼を無視して、その場から離脱した。彼の相手をすれば、後に来るであろう増援によって離脱が困難になる。姿を見られたが、距離もあり、私自身はイシュタンティに隠れていたから、彼が私の姿を見ることはできない。彼を殺さなくても、今後の任務に何ら支障はない。

 

『――――! ―――――!!』

 

 少年はまだ吼え続ける。だが、距離は徐々に離れていき、次第に何を言っているのか聞き取れなくなった。

 彼はなぜ、あそこまで叫び続ける? 

 

『……どうでもいい』

 

 私は思考を切り捨てて、合流地点へと向かう。

 彼が再び、私の前に現れることはないだろう。顔も名前も知らない私を大陸全土から探しあてることなど不可能だ。

 

 そう、不可能のはずだった。

 

『お前は……』

 

 クロスベルの暗い森の中。私は彼と再び出会った。小さかった少年は青年へと成長していた。だが、あれから三年も経ち、私は彼のことをまったく覚えていなかった。

 

『君と彼の関係だよ。君たちはクロスベルのあの日よりもずっと以前に一度、会っているのだよ』

 

 そして、かつて所属していた組織のリーダーから告げられた、嘘偽りのない真実。それを聞き、私は全てを思い出した。

 そして、私を支えていたものが、ポッキリとへし折られてしまったのだ。

 

 

 ~~~~~

 

 

「ん……」

 

 うつ伏せに倒れていたオランピアはゆっくりと瞼を開ける。両手をついて、上半身を起こした彼女は顔を上げて、周囲を見渡す。

 

「ここは……?」

 

 周囲に広がるのは白い世界。空も地も全てが白一色。境界線の境がまったくわからない。

 風もなく、音もなく、匂いもない。何一つ存在しない虚無の空間だった。

 

「ここは、どこ?」

「起きたのか?」

「っ?!」

 

 突然の声にオランピアは後ろを振り向く。そこにいるのは、自分が予想したとおりの人物だった。

 

「エド……さん……」

 

 ボロボロの黒いコートとボサボサの黒い髪をしたエドは彼女の姿に息を吐き、すぐに視線を周りに移す。そんな彼の姿を見て、オランピアは数分前までのことを思い出す。

 

「しっかし、どこなんだろうな、ここ?」

「あの……エドさん」

「ん? あぁ、ここがどこかってのは、俺にもわからねぇぞ。あのでかい穴に落ちて、お前の手を掴んだ瞬間、いきなり光ってな。気づいたら、ここにいたんだ」

「いや……その……」

「脱出する手立ては今のところねぇが、行きがあるなら、当然、帰りの方法だってあるはずだ。とりあえず、周囲を探索して、元の場所に戻る方法を……」

「そうじゃありません!!」

 

 勝手に喋り出すエドをオランピアは怒鳴りつける。エドは口を止めて、再び彼女に視線を戻す。

 

「どうして、どうして私を助けようとしたのですか!」

「どうしてって……」

「私、言いましたよね。私はあなたのお母さんを殺したんです!!」

 

 二度目の言葉にオランピアは涙をこぼす。胸が張り裂けそうな痛みに、彼女は気持ちを抑えることができなかった。

 

「私には、あなたに助けてもらう資格なんてありません! むしろ、あなたに殺されたっておかしくないのですよ! それなのに、どうして、命を投げ捨ててまで私を助けようとするのですか!」

「投げ捨てるって……、俺たち、まだ死んでねぇぞ」

 

 青ざめたり、怒ったり、泣いたりと、表情を何回も変える少女の姿にエドは呆れたように呟く。

 

『言うんだったら、早めに言うことを薦めるよ。女の子は繊細だからね。長引けば、その分、彼女は深く傷つくよ』

 

 龍來で出会った、好敵手の言葉を思い出す。まだバレないだろうと思っていたが、まさか、こんなにも早くバレてしまうとは予想だにしなかった。

 

「オランピア、落ち着いて聞いてくれ。俺は……」

 

 

 

 

 ユルサネェ……

 

 ゾクッと二人の背筋が凍り付いた。

 二人しかいない空間から突然、聞こえてきた新たな声。

 恨み、悲しみ、憎しみ、怒り。

 それら全てを混ぜ合わせたかのような声は空間一帯に響き渡る。

 

 ユルサネェ…… ゼッタイニ、ユルサネェゾ……

 

「誰だ!」

 

 未だ姿が見えない謎の声に向かって、エドは声を張り上げる。

 すると、それに呼応するかのように黒い靄が突然、現れる。

 

『ヨクモ……、ヨクモ……カアサンヲ……』

 

「お前は……」

 

 黒い靄は少しずつ形を作っていき、その姿を現す。

 その姿にエドは目を丸くする。

 

 白いコートに白い髪をした十代後半の青年。

 手には白い太刀が握られており、こちらを睨みつける目は黄金の光を放っていた。

 だが、それ以上にエドが驚愕したのは、

 

「……俺?」

 

 その青年の容姿は、まるで鏡を見ているかのようにエドの顔と瓜二つだった。

 エドの姿をしたその男は黄金の眼をオランピアに向けながら、ゆっくりと歩を進める。

 

『カアサンノカタキ……、テメェダケハユルサネェ……』

「ぁ……」

『コロシテヤル……、テメェダケハゼッタイニコロシテヤル!!』

 

 エド(?)から放たれる強烈な殺気にオランピアは呆然とする。

 彼は自分を殺すつもりだ。

 そうわかっていながら、オランピアはこれといって抵抗する素振りを見せなかった。むしろ、そのまま目を瞑り、その時が来るのを待っているかのようにその場から動かない。

 

『シ、ネェエエエエエエエエ!!』

 

 獣の如く、突進してくるエド(?)。抜かれた白い刃はオランピアに容赦なく振り下ろされた。

 

 

 ――ドガッ!!

 

 

『ガァアア!』

「……え?」

 

 しかし、白い刃が彼女を斬り裂くことはなかった。割り込んできたエドの拳がエド(?)の腹にめり込み、彼を吹き飛ばした。息を吐き出すエド(?)の声にオランピアは目を開き、エドの行動に目を疑う。

 

『グゥゥ……、テメェ、ナニヲ?!』

「テメェが死ね」

 

 ――斬!!

 

 言及しようとしたエド(?)をエドの刃が切り捨てる。斬られたエド(?)は形を崩し、そのまま消えていった。

 

「人の顔を使って、好き放題言ってんじゃねぇっての」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らし、()()()()()()()()()()()()を収めるエド。だが、その目はいまだ鋭く、周辺に目を配らせていた。

 

「おい。とっとと出てこいよ。まだいるんだろ?」

『……テメェ、ドウイウツモリダ!』

 

 すると、先程、斬られたはずのエド(?)がまた姿を現した。今度は自分を斬ったエドに睨みつく。殺気の衝撃でエドの頬に傷が走る。

 

『ソイツハ、オレタチノカアサンヲ、コロシタンダゾ! ナゼ、ソノオンナヲカバウ!』

「俺の、だ。お前の母さんじゃねぇだろ」

 

 現れたエド(?)を再び切り捨てる。しかし、またどこからか、再びエド(?)が出てくる。

 

『ナ、ナゼ……』

「……つい数時間前なら、お前の誘いに乗っていたかもしれねぇな」

 

 だが――、

 

「俺はもう迷わない」

 

 エドはエド(?)の正面に立ち、開かれた《魔眼》を向ける。

 

「その化けの皮を剝いでやる」

 

 ――無想破斬

 

 刹那、エド(?)の身体がバラバラに引き裂かれた。ほんの一瞬の出来事にエド(?)は何もわからないまま消滅した。

 

「くだらない芝居はそのくらいにしとけ。俺の心を揺さぶるのが目的なのか、オランピアの心をへし折るのが目的なのかは知らねぇが、俺の前でそんなことはさせねぇぞ」

 

 何もない空間へと睨みつけるエド。それに対して反応はなく、辺りは静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――フフ

 

 

「っ?!!」

 

 オランピアは両腕を抱えて、縮こまる。一瞬、聞こえた笑い声。その声にオランピアは息を荒げる。

 一方、エドは目を細めて前を見据える。手に持った剣を強く握りしめ、口を強く噛み締める。

 

 

 ――アハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!

 

 

 反響する幼い笑い声。しかし、その声はどこまでも穢らわしく、どこまでも恐ろしい。楽しそうに笑っているにもかかわらず、エドたちはその笑い声に対して、強烈な寒気を感じていた。

 

『あーぁ、バレちゃったか』

 

 男にも、女のようにも聞こえる声。その声に合わせて、エドたちの前に現れた黒い何か。そこに何かがいるのはわかるが、エドたちはその姿を認識できない。まるでそれを見てはならないと、エドたちには黒い靄のようにしか見えなかった。

 

「……何者だ?」

『私?……フフフ、私は■■■■■■■■』

「……え?」

「あぁ、やっぱりだめか。私の名前が聞き取れないんだろ? そうだね、サターンと一応、名乗っておこう」

「サターン……。お前は何者だ」

「私? ……そうだね。君たち風に言えば、『悪魔』ということになるかな」

「悪魔だと?」

 

 エドは今までの旅で出会った悪魔たちを思い出していた。よくよく気配を探れば、確かに悪魔の気配に似通うところはある。だが、今まで会った悪魔とは何かが違う。

 

「それにしても、名前も名乗らせないなんて、空の女神(エイドス)もひどいことをするね」

「待て、エイドスだと? お前、その発言。まるで女神に会ったことがあるみたいな言い方だな?」

「そりゃあそうだよ。私は千年以上前から、ここに閉じ込められていたからね。彼女は私を滅ぼそうとしたんだよ。自分の加護を一人の人間に与えてね。でも、女神の力を持ってしても、私を滅ぼすことはできなかった。精々、一緒に奈落の底へと落ちて封印するのが精一杯だったんだよ」

 

 エドは目を丸くしながら、サターンの話に耳を傾けていた。

 千年以上前といえば、《大崩壊》が起きる前の時代。話が本当なら、目の前の悪魔は古代ゼムリア文明がまだ発展していた時代に封印されていたということになる。そんな話、教会にいた頃から今まで聞いたことがなかった。

 

「でも、その封印もようやく解かれる! なんたって贄となる鍵と器を用意してくれたんだから!」

「鍵と器?」

「そう、他ならぬ君たち二人だよ」

 

 黒い靄は徐々に形を作り、やがて全身真っ黒の人型に化ける。サターンは黒い指を二人に指しながら、高笑いする。

 

「私をここから出るための鍵。それは天使と契約した少女の魂」

「え……」

「そして、私の器となる存在。それは私の眼を宿した者」

「お前の眼だと?」

「そう、この眼のことだよ!」

 

 全身黒ずくめの顔から眼が現れる。

 

 黄金に輝く美しい瞳。

 

 見間違えるはずがなかった。その眼はまぎれもなく……

 

「《魔眼》!」

「《魔眼》? へぇ、今じゃそう呼ばれているの? かっこいいね!」

 

 気に入ったのか、サターンは子供のようにはしゃぎだす。

 

「あの男に宿したんだけど、まぁ問題ない。劣化品だろうと、私の眼であることには変わりはないんだからね!」

「……気になることがたくさん出てきたが、とりあえず、お前が俺の身体を乗っ取ろうとしているのはわかった。……それで、ここから抜け出して、何をするつもりなんだ?」

「何をするか? そうだね……、いきなり言われると思いつかないな~~。……とりあえず、憂さ晴らしに一万くらいは殺して回ろうか!」

「なっ……」

 

 何の躊躇いもなく、サターンはそんなことを言い切る。その姿にエドは言葉を失ってしまう。

 

「その後は、国に行って、ゲームをしようかな! そうだな……、最後の一人になるまで殺し合うってのはどうかな! そして、生き残った最後の一人は景品として、私が直々に殺してあげよう!」

「え……、は……?」

「そしたら次は戦争だ! あの手この手で憎しみ合わせて、私はそれを高見から見物する。そして、最後の時に、私が全部仕組んだことだとぶちまけて、皆殺しにしよう!」

「何を……何を言っているのですか?」

 

 オランピアは話が付いていけず、放心してしまう。

 サターンが口にする内容が理解できなかった。いや、理解したくなかった。

 あんなにも無邪気に何の躊躇いもなく、おぞましいことを語るサターンにオランピアは震えが止まらなかった。

 

「というわけで、君の身体をもらうよ。あぁ、できれば、抵抗してほしいなぁ。君の絶望に染まった顔を見たいからね」

 

 サターンは手に黒い靄を集める。黒い靄は一本の剣へと変わり、サターンの手に収まる。

 エドはオランピアの前に立ち、剣を抜く。

 

「エ、エドさん……」

「オランピア、お前は下がっていろ」

「アハッ! それじゃあ、遊ぼうか。精々、無様に足掻いてよね!」

 

 《魔眼》を大きく開いた悪魔は、エドに向かって飛び込む。

 エドは剣を正面に構え、悪魔の刃を受け止めた。

 

 

 ~~~~~

 

 

 エドたちが戦いを始めた、ちょうどその頃。

 

「まもなく、目的地に到着します」

「そうか。……周囲の警戒を怠るな。何か異変に気づいたら、すぐに報告しろ」

「イエス・キャプテン」

 

 メルカバ一号機。星杯騎士団総長、アイン・セルナートが指揮する飛行艇が、エドたちがいるエデン村付近に到着していた。

 アインの他にも、セリス、リオン、そして、グンターの三人も同乗しており、各々が真剣な顔つきでアインの周りに集まっていた。

 

「もう儀式が始まっていてもおかしくありません。間に合うのでしょうか」

「正直、危ういところだが、異変がないところを見るに、まだ、儀式が始まっていない可能性がある」

「エド……」

 

 リオンとグンターが話し合っている中、セリスはいまだに会えないエドを思い、胸に手を置く。

 

「! 総長! 北西の方角で戦闘があります」

「状況は?」

「遠いので、断言はできませんが、かなり激しい戦闘が繰り広げられています」

「エドか?」

「もしくは、ユン殿が送った助っ人かもしれんな」

 

 グンターがアインに視線を送り、それに気づいたアインはコクッと頷く。

 

「進路を北西に変更! 現地に向かい、我々も介入する!」

「セリス、リオン。いつでも出られる準備をするぞ。おそらく、奴らのリーダーもそこにいるはずだ」

「《庭園の主》、ですか……」

「今度こそ、ぶっ倒してやる!」

 

 メルカバ内で戦の準備が始めるセリスたち。

 だが、その時――

 

 

 ――ビュンッ!!

 

 

 メルカバの横を黄色い閃光が通り過ぎる。

 閃光は勢いそのままメルカバを抜き、気づけば姿が見えなくなっていた。

 

「……今のは?」

「後ろから来たようですが、敵の攻撃でしょうか?」

 

 セリスとリオンは敵の襲撃だと考えるが、アインとグンターは目を細めて、閃光が向かった先に視線を送る。

 ほんの一瞬だったが、二人には見えていた。

 黄色い光を纏いながら猛スピードで進んでいった、六つの翼を広げる天使の姿を。

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