英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
 ストーリーの進め方などで試行錯誤しておりました。
 ここからは週一のペースで投稿し、最終話まで進んでみせます。

 それではご覧ください。


終章 その瞳が映る先へ……
第九十八話 抗う者たち


 《庭園》からオランピアを見事に救出したエドたち。しかし、千年以上前に封印された悪魔の力が解き放たれ、《汎魔化》が大陸全土に広がる事態に陥っていた。

 

「事態は我々が思っていた以上に最悪なものとなっている」

 

 エデン村での戦いから一週間。メルカバ一号機のブリッジで星杯騎士団総長――アイン・セルナートの重苦しい声が嫌に響く。彼女の周りをエド、オランピア、グンター、セリス、リオンが取り囲むように集まり、全員が彼女の話に耳を傾けていた。

 

「現在、霊脈が今までにない勢いで活性化し、その力が大陸全土に広がっている。その霊脈から今までになかった力が観測された。霊脈は現在進行形で汚染が続いている。大陸で起きている《汎魔化》は、これが原因であると判明した」

「汚染?」

「あぁ。あの村の大穴から純度の高い悪魔の力が溢れ出して、霊脈を少しずつ歪めていった。そして、その汚染された霊脈から、悪魔が次々と発生し、被害が少しずつ拡大している」

「ジン殿の話では、遊撃士協会が総力を持って被害の拡大を防いでいるようだが、そう長くは続かないだろうな」

「そうだ。今も汚染が広がり、最終的には大陸全土へと広がる。そうなれば、もはや我々では手が付けられない。各地で悪魔が魔獣の如く溢れ出し、そして、不完全になっていた封印は完全に解かれ、かの悪魔は復活する。そうなれば、どうなるのか……、説明する必要もないだろう」

 

 人類の滅亡。

 

 言外にアインはそう強く主張しているのがわかる。あまりのスケールに一同は息を飲んでしまった。

 

「サターン。お師匠さんが言ってあの悪魔と実際に対面しているから断言できる。あいつは俺たちのことを、そこらへんの石ころ程度にしか見ていねぇ。俺たちが滅ぼうがどうなろうが、あいつは気にもしねぇだろうな」

「そうですね。まるで子供のように笑い、楽しみ、はしゃぎながら、悪事を軽々とこなす。そんな印象がありました」

 

 女神の加護を持ってしても滅ぼすことができなかった、七十八柱目の悪魔。サターンと自ら名乗った悪魔のことを思い出し、エドとオランピアは顔を強ばらせる。

 

「あれから一週間経ち、その間、何の進展もなかったが、つい先日、ようやくこの事態を収束する光明が見えた」

「ま、マジか?!」

「あぁ。本国に報告へ行ったヘミスフィア卿の情報を元にライサンダー卿が調べてくれた。この情報は遊撃士協会のみならず、協力者全員に行き渡っている。そして、カシウス卿がこの状況を打破する作戦を作り上げた」

「教団のロッジ制圧作戦時にも陣頭指揮を取っていたっていうカシウス師兄の作戦ならば、問題なくいくでしょうね。問題があるとすれば……」

「《庭園》の幹部と《庭園の主》シモン枢機卿か……」

 

 《庭園の主》の正体を知ったエドを含めた教会一同に重い沈黙が走る。

 

 シモン・グレラス。

 二年前、エドの冤罪事件の被害者として、この世を去ったはずの男。エドの祖父、オーバ・スヴェルトの同門であり、エドとセリスにとっては日曜学校の先生でもあった男だ。

 

「シモン先生が生きていたことには驚いたけど、それ以上に驚いたものがあったな」

「エドの《魔眼》だな」

 

 そして、エドと同じ《魔眼》を宿した者でもある。

 

「《庭園》は元々《D∴G教団》と《月光木馬團》が合わさった組織。シモン枢機卿が《魔眼》を宿していると言うことは、必然的にある一つの推論が出てきますね」

「シモンが教団の残党だった、ということか」

 

 顔を険しくし、俯きながらグンターはそう断言した。元々、《魔眼》はエドの父が率いた教団ロッジで行われた儀式によって生まれたもの。それを宿しているシモンはなんらかの形でエドの父、もしくは教団と密接な繋がりがあることが断言できる。自分の弟子が教団に所属していたことにグンターはショックを隠せないようだ。

 

「シモン先生はエドと同じような実験を行って、《魔眼》を手に入れたのか?」

「もしくは、《古代遺物》の《魔眼》を自分に移植したのでしょうか? 聞いた話でしかありませんが、あのような狂気の実験を好きでやろうとする者なんていませんよ」

 

 セリスの指摘に対して、リオンは別の可能性を考える。たしかに宿せるかどうかわからずに苦痛を伴う儀式を何度も繰り返すより、元である《古代遺物》を移植すれば、儀式をおこなわないで簡単に手に入ることができる。

 

「いや、たぶんそれも違うと思う」

「エド?」

「あの眼は《古代遺物》じゃない。それよりももっと強力なものだ」

「《古代遺物》よりも強力なものですか? そんなもの今まで聞いたことがありませんよ?」

「今の時代はないだろうな。だが、《大崩壊》前の古代ゼムリア文明時代ならばありえる話だ」

「というと?」

「そもそも《古代遺物》というのは古代ゼムリア人によって生み出され、現在の技術では解析ができない代物の総称だ。だから、今の技術では《古代遺物》を複製することはできず、俺の眼のような劣化品を作るのが限界なんだ」

「それがどうしたってんだよ」

「古代ゼムリア人はどうやって《古代遺物》を作ったんだと思う」

「! そいつは……」

「何かを作る際、必ずきっかけのようなものがあるはずだ」

 

 こんなものがあればいい。あんなものがほしい。こうなりたい。ああはなりたくない。

 人は強烈な何かを見れば、それに魅了されて、「欲しい」という願望が芽生える。

 そして、どんなに願っても手に入らないと悟った時、人はその力を欲するために自分の手で作り上げようとするのだ。

 

「そして、俺はシモン先生以外に《魔眼》を持っている奴に会った」

「サターンか」

「あいつは言っていた。私の眼だって。そして、ある男にそれを宿したとも言っていた。おそらく、その宿した男ってのがシモン先生だ。つまり、あの人の眼は《古代遺物》の原型ともいうべきものだと思う」

「《古代遺物》の《魔眼》は過去、現在、未来を見通すことができる。だが、シモンは見るだけに留まらず、それに干渉する力を持っていた。エドの言っていることはあながち、デタラメではないかもしれん」

 

 シモンが戦いの際に見せた未来改変能力。あれは《古代遺物》の《魔眼》をはるかに超えた力を持っていた。エドの推論はあながち否定できないものだった。

 

「……《原初(オリジン)》」

「《原初》?」

「総長、それは……」

「エドの言葉を借りるなら、《古代遺物》の原型となった代物だ。元々《古代遺物》は希少種ゆえに数が少ない。その原型でもある《原初》は当然、《古代遺物》よりも少ない代物だ。七耀教会は設立以来、《原初》を探していたが、《大崩壊》時に絶滅してしまったのか、それを見つけたものは誰もいない。教会の間では一種の伝説として語り尽くされているものだ」

「その伝説が今の時代に現れたってことか」

 

 伝説という言葉が全員の耳に反響する。自分たちが相対する敵の大きさを理解したのか、エドたちの緊張感は一気に跳ね上がった。

 

「だが、放っておくわけにはいかん。相手が伝説だろうが、なんだろうが、我々は戦わなければならん」

「そうですね。俺たちはやれることを全力でやるだけです」

「その通りだ。でなければ世界が終わってしまうからな。では、作戦内容を伝える」

 

 アインはクルーに合図を送り、天井からモニターを下ろす。

 モニターを開くとゼムリア大陸の地図が大きく広がっており、赤い点滅が四カ所に散らばっていた。

 

「作戦内容は同時制圧。今、表示されている四カ所を同時に侵攻し、そこにある力の源を発見し、奪取する」

「この四カ所は?」

「霊脈が集中的に集まる場所。東方では竜穴と呼ばれる場所だ」

「四カ所の竜穴を確保した後は?」

「七耀教会が作った特別な礼装を用いて、汚染された霊脈を浄化させる」

「浄化……」

「礼装によって清められた霊脈をあの大穴に押し返して、悪魔の力を弱体化させる。最後は大穴で待機している数十人の高位司祭が、綻んでしまった封印を修復する」

「それで上手くいくんですか?」

「わからない。だが、現状ではこれが一番の有効手だ」

「タイムリミットは?」

「早くても三日といったところだ」

「早くても? それは伸びるかもしれないってことですか?」

「あぁ。汚染の速度だが、一定の速度で進んでいないのだ。遅くなったり、止まったりすることがしばしばある。逆に速度が速くなったことはない。最高速度を見積ると、三日で大陸中に行き渡るという結果になった」

「遅くなっている原因はわからんのか?」

「それも調査中だが、おそらく、何かしらの妨害をくらっているのだろう。それが汚染の速度を減速させていると考えている」

「妨害……」

 

 オランピアはふとエドに視線を向ける。その視線に気づき、エドは彼女を見て、コクッと頷いた。

 

「エド、何か心当たりがあるのか?」

「ある。というか、俺たちがサターンのいた、あの空間から脱出できた理由にもなるからな」

「それで、いったい何が妨害しているのですか?」

「結社だ。最強の執行者、《劫炎》のマクバーンがサターンと戦っているからだと思う」

 

 エドは白い空間で起きたことを簡単に説明する。

 

 イシュタンティと融合し、天使化したオランピアと共にサターンと対峙していたエド。

 何とか脱出しようと隙を覗っていたところ、イシュタンティが作った空間の亀裂が再び開いたのだ。

 そこから現れたのが、魔剣アングバールを手に炎を全身に纏わせた男。執行者NOⅠ《劫炎》のマクバーンだったのだ。

 彼が言うには、地上で《庭園の主》と戦っていた際、大穴に落とされて、エドたちと同じく白い空間に辿り着いたそうだ。何かないかと散策していたところ、異様な力を感じ取り、魔剣を使って空間を破り、エドたちと合流したとのことだ。

 

「その後、《劫炎》がサターンを抑えている隙に俺とオランピアは再び開いた空間の亀裂から出て行って、何とか地上に戻ったってわけだ」

「《劫炎》。結社最強の《鋼》にも匹敵すると噂される執行者。その者がサターンを抑えておるから、進行に支障が出ていると?」

「あぁ。今のサターンは肉体を持っていない。力を放出して、無理矢理、身体を維持している状態で戦っているんだ。女神の加護を退ける実力があったとしても、その状態で全力を出して戦うことはできない。進行が遅くなっているということは、《劫炎》に押されているという何よりの証拠だ」

「なるほど。それは朗報だな。今回の作戦は我々、七耀教会のみならず、遊撃士、猟兵、そして結社の人間も参加する。各勢力がそれぞれの竜穴を確保する手筈となっている」

「では、我々も竜穴確保のために動くのでしょうか?」

「いや、それは私だけで行く。お前たちは待機だ」

「な、なんでだよ!」

 

 作戦の不参加を命じられたセリスは納得がいかず、アインに食い下がる。アインはそれを手で制して、話を進める。

 

「お前たちが待機するのは、奴がどこに現れるかわからないからだ」

「奴?」

「シモンだ。奴の未来改変に対抗できるのは、今のところエドとオランピアの二人だけだ。奴が現れた場所にお前たちを向かわせる手筈となっている」

「ですが、到着する前に全滅する恐れがあるのでは?」

「その心配はない。竜穴の確保に向かうのは各勢力の中でも腕よりの実力者たちが向かう。私もこちら側に参加する」

 

 七耀教会、遊撃士協会、猟兵団、そして、結社《身喰らう蛇》。

 各勢力の最高戦力が竜穴確保の現場指揮を取ることになっている。万が一、シモンが現れても彼らが相手をし、エドたちが来るまでの時間を稼ぐという作戦だ。

 

「まぁ、私としてはお前たちが来る前に倒すつもりではいるんだがな」

「……お師匠さんなら、マジでやれそうだな」

 

 アインの実力は知っているエドは彼女の不敵な笑みに顔を引きつらせる。

 

「さて、必要な連絡事項は以上だ。作戦決行は二日後。明日は休息と準備にとりかかれ」

 

 それを最後にブリッジに集まっていた一同は解散した。ブリッジから離れてこれからの予定を考えるエドにグンターが声をかける。

 

「エドよ」

「ん? 何だよ、じっちゃん」

「少し時間をくれぬか? お主らに渡したいものがあるのだ」

「これといった予定はねぇから、別にいいけど。お主ら?」

「うむ。オランピアにも声をかけるつもりだ。すまぬが、先に工房の方に行ってもらえぬか?」

「? あぁ、わかった」

 

 エドの返事に頷き、グンターはオランピアを探しに戻った。

 渡したいものってなんだ?

 そんな疑問を抱きながら、エドはグンターの言われたとおり、工房の方へと向かうのであった。




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