夜の過ごし方を探して 作:ナナシ
――――翌日
わたしたちは昨日と同じファミレスに来ていた。一応、席をある程度入口から近い場所にして何となく誰が来たのかがわかるような場所に座っている。
一応、張り込みのようなもの……のはずなのだけど。
「瑞希、そのポテトもう少し奥にどかしてくれない?」
「さっきからずっと構図で悩んでばっかりじゃん、早く食べなよー」
「……絵名、その構図だとイチゴが映らない」
さっきからみんなはこの調子だ。なんというか、謎を解き明かすようなものなのにこうも緊張感がなくていいのだろうか……。
そうは思うけれど、変に気負ってもいい方向に進まないのも事実。……今の時間は客足も少ないし、別に何となく気を遣う程度でいいのかもしれない。
軽めの料理を頼んだけれど、これならいつも通りラーメンを頼んでもよかったかもしれない。
「――暁山瑞希?」
ちょうど頼んだパスタを口に入れようとしていた時だった、そんな声が聞こえたのは。
声のする方を見れば、そこには目をすべて覆うほどに前髪を伸ばしている男の人がいた。
ちょうど店員さんに案内されているところだったようだが、この席で立ち止まって名前を呼んだということもあってか店員さんが新しい椅子を運んでいる。
「……ちょっと瑞希、知り合いなの?」
「いやぁ、どうだったかなぁ……」
……絵名と瑞希が小声で会話をしている。多分、反応からしてほぼ知らないと言っていい相手らしい。
男の人の方は、店員さんの好意を断れなかったらしくおずおずと椅子に座って縮こまっている。
「あ、えー。やー、すみません、なんだか空気を壊しちゃって……」
「いえいえ、そう気に病まなくても大丈夫ですよ」
頭を掻きながらも謝罪する男の人にまふゆが優等生然として答える。
男の人はまふゆの方を見て、改めてわたしたちを見まわす。知っている顔は当然のようになかったようで、どこか助けを求めるように天を仰ぐ。
……なんというか、なんとなく
「あー、えっと……。自分、神山高校1年で……暁山瑞希、さんを屋上とかで見かけてた……んですよね」
"それで、気になって"と頻繁に頭を下げながら彼は声をかけた理由を説明する。
なんでも自分は放課後や昼休みに時折屋上で眠っているのだとか。"こんななんで、声はかけたことないんすけど"と小さな声で捕捉が入る。
「……そういえば冬弥くんのクラスを見たときに時々いたような、居なかったような」
「あ、ですです。自分、青柳冬弥と同じで1-Bなんで」
「……で、誰?」
ほぼほぼ初対面らしいことが分かったからか、絵名がバッサリと前準備を切り捨てて単刀直入に質問を飛ばす。
……本当に直球だが、全員同じ質問を切り出そうとしていたためか特にたしなめるような意見などは出ない。
「あ、忘れてましたね……。すいません。自分、夜部叶っていいます」
「――!」
あるいは、とは思っていた。しかし随分と
しかし、目の前にいるのがあの異質な"鏡のセカイ"の主……。良くも悪くも、結びつかないものだ。
「あの、自分の顔に何か……?」
ペタペタと自分の顔を触る夜部さんは、その様子からしてわたしたちがセカイにいたことは知らないのだろう。
あのセカイのミクは、聞かれたことには素直に答えていた。けれど最低限以上の情報を出すことはなかった。
そのスタンスはセカイの主相手にも変えないものだったのだろう。だから、わたしたちのことを知らないのかもしれない。
「……それで、夜部くんはどうしてここに?」
「あぁ。昨日の……昼過ぎくらい、ですかね。急にポテトが食べたくなって、調べてみたらこの店が出てきたんで」
瑞希の質問への回答は明確だった。昨日の昼過ぎ。瑞希がポテトをあの"鏡のセカイ"で映し出したのもそれくらいの時間だったはずだ。
やはりというか、あのセカイで起こした望みの反映にはセカイの主にすら干渉をしている、ということなのだろう。予想した通り、あのセカイは酷く軽い。
「あ、それと昨日、知り合い? 協力者? に言われたんですよ。ここに来たら侵入……えっと、待ち人? みたいな人に会えるーって」
「侵入って、和やかじゃないわね……」
絵名が呆れたように呟く。けれど、要領を得ない後半の説明によってはっきりと確信する。少なくともこの人が"鏡のセカイ"に入れることは確定だろう。
あのミクは警戒心の類は見えなかった気がすることを思えば、きっと侵入というのは夜部さんとしては無断でセカイに入ったから警戒されている故の言葉。
「……『Untitled』って知ってる?」
「へぇ……」
瑞希からの質問に夜部さんの様子がガラリと変わる。
なんとなく自信なさげだったのが、攻撃的に。声も随分と低くなっている。目は剣呑に細められ、睨みつけられる。
「……ッ」
絵名がその変化に息を飲む。……方向性は少し違うかもしれないが、まふゆと同じタイプなのだろう。
まふゆが優等生であろうとしたように、彼はどこにでもいるような誰かになろうしていたのかもしれない。
「じゃあ君たちがそうなんだ」
彼はゆるりと笑ってその言葉を口にした。
「"強欲なセカイ"へ、ごあんなーい」
浮遊感が、私たちを包み込む。
Tips
"夜部叶"
鏡のセカイの主。
神山高校1年B組に通う男子高校生。
可も不可もない成績だが、ただ頼まれたことは基本的に引き受けてくれるらしい。
"夜部叶と鏡の初音ミク"
初音ミクが彼を主と呼ぶように、一種の主従関係ができている。
非人道的ではないかつ、主にとって必要だと思ったことであれば、鏡の初音ミクは実行する。