ダーリン・イン・ザ・ストラトス   作:とりマヨつくね

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すいません、某ウィルスにかかって投稿が遅れました。
まだ体力も完全復活というわけではありませんが、のんびりと待ってくださるとありがたいです。



彼女の涙

「俺とヒロが一緒になれないってどういうことだよ!」

 全ての授業を終えて迎えた放課後、職員室にて少年の声が木霊した。

 声の主は一夏。俺と一夏は真那に話したいことがあると言われ、職員室に集められていた。 

 その要件というのが部屋割りだ。

 IS学園は全寮制の学校であり、生徒たちは学園内にある寮で共同生活をすることになっている。

 今までだったら面倒だと思う人間がいるかもしれないが、問題はなかった。

 だが今年は違う。今年は二人も男子がいる。

 IS学園の生徒達は基本的には女子校と同じで男に飢えていている。

 そんな魔窟に男一人で入ってみろ、考えるだけでもゾッとしそうだ。

「どうにか……できなかったんですか」

 俺が恐る恐る聞いてみると、真那は申し訳なさそうに指をツンツンと突きながら言った。

「その……片空くんが入学が決まった時点で、織斑君の部屋割りが決まってしまっていて……だから、どちらかが女子生徒と相部屋になってしまうんですが……どうしますか?」

 うーん、これは困ったことになった。

 例えどんな理由があったとしても、一つ屋根の下で男女で生活するのはいささかどうかと思う。

 

「そこについては一夏、ヒロ……お前達を信用している。お前達ならそう言った問題を起こさないとな」

 

 織斑先生はプライベートの時のように、親しい口調で俺と一夏に言う。

 そこまで言われてしまったら、言い返すことができない。

「はあ〜わかったよ。千冬姉にそこまで言われたら仕方ねえよ」

「俺もそれで構いません」

 一夏は溜息をつきながら了承し、ヒロも同じように答える。

 しかし話はまだやるべきことがある。 

「……それで、ヒロ。部屋割りの話に戻るんだが、どうやって決めるか?」

「う〜ん、ここは俺が行くよ。オルコットさんとの模擬戦もあるから、あまり一夏に負荷をかけたくないしね」

「いや、それだったら心配しなくてもいいぜ。本を静かに読むには一人になる時間がいるだろう?」

「いやいや、それこそ心配する必要はないさ。それに一夏は顔が整ってるんだから、狙っている女の子は多いと思うよ」

「お前が言えた義理じゃないだろう。お前だって他から見たらいい方の部類だろうし、俺より力がないお前だと何かあった時にどうしようもなくなるぞ……」

「昔はそうだったかもしれないけど、今は違う。そもそも一夏が女子と話す時に、かなり緊張していたから変わろうとしてるだけだよ? 人の親切は素直に受け取った方がいい」

「お前こそ、無理はする必要はないぜ」

「そっちこそ……」

 

 ヒロがそう言ったところで、二人の間で数秒の静寂が流れた。

 それを側から見ていた真那はひどく困惑させながら、千冬に耳打ちする。 

 

「一体、何をしているのでしょうか……? 喧嘩しているのに、譲り合ってるのですが……」

「織斑も、片空も、おかしなところで意地を張るから時たまこんな風にくだらない喧嘩をするのだ。山田君も、今のうちに慣れておくといい」

「は、はあ……」 

 

 もう見慣れて飽きたと言わんばかりに、千冬が解説すると真那は曖昧に答える。

 そしてガンマンの早撃ちの如く酷くピリついた空気の中、一夏は告げる。

 

「……どうやら、お互いに譲れなさそうだな」

「そうだな……だったら昔からある方法で決めようか」

 そう言ってヒロは握り拳を一夏の前に差し出す。それを見て一夏は「ああ……」と納得して、ヒロ同様に握り拳を前に出した。

「「最初は〜グ〜じゃん・けん・ぽん!」

「ここか」

 ヒロは、渡されたキーに書かれた部屋に立っていた。

 ちなみにじゃんけんの結果は一夏が勝ち、個室をもらうことになった。

 罪悪感はあるが、あの一夏なら同居人ともうまくやっていけるだろう。

 気持ちを切り替え、ドアへと目を向ける。

 

「確か、荷物とかはもう置かれているんだっけ。まあ、部屋に入ればわかることか」

 渡されたキーを使用してドアのロックを解除して、ヒロは部屋の中に入った。

 

「おお……」

 ヒロは思わず声を漏らした。

 内装はモダンな家具が一式揃っており、高級ビジネスホテルの部屋のようだ。

 部屋を見回すと、近くに二つの段ボールが並べて置いてあった。

 束さんの元で色々準備している間に、両親達がまとめて置いてくれていたのである。

 

「荷物の確認をするか」

 ヒロは制服の上着を椅子にかけ、カチューシャこと待機形態のISを机に置くと段ボールの中にあるものを次々と出して整理する。

 それから十数分が経過した頃。

「ああ〜疲れた……」

 一つ目の段ボールの整理を終えたところで、ベットの上に大の字になって寝転がる。

 入学初日から授業やアクシデントがあったためか、今日は異様に疲労感を感じる。

 本当ならこのまま眠ってしまいたかったが、今日中に荷物の整理は終わらせておきたい。

 ヒロはベットから起き上がり、二つ目の段ボールを開いた。

 一つ目の段ボールは服や歯ブラシといった日用品がメインに入っていたが、こちらは図鑑や本といった娯楽用品が入っていた。

 幸い、この部屋にはかなり大きめの本棚があるおかけで散らかる心配はなさそうだ。

 

「さて、そうと決まれば中身を全部取り出すか」 

 ヒロは上から順番に手に取って、次々と本棚をしまっているとあるものが目に映った。

 段ボールの一番底にあった、赤い二本の角が生えた綺麗な女性が描かれた絵本。

 本のタイトルは『まものと王子様』。あらすじを簡潔にまとめるとこうだ。

 あるまものの姫が王子に一目惚れし、魔女に頼んで人間にしてもらい結ばれた。だがそんな幸せは長く続かず、姫は魔法の副作用で王子を殺さなければ理性のない怪物になってしまう状況になるが結局は王子を殺すことができず、最後に王子にキスをして彼の元を離れてしまった。

 そんな、悲しい話。

 ちまたでは、人魚姫のパクリだのなんだの言われているが、彼は小さい頃から何度も何度も読み返していた。

 それぐらいお気に入りの絵本だ。

 

「まったく……もう子供じゃないんだから、わざわざ入れなくてもいいのに」

 

 そう呟きながら優しく絵本の表紙をなぞった。

 その時、カチューシャ型のISが同調するかのように淡い光を帯びているとも知らず。

 

 

 同時刻の第三アリーナにて、とめどなく銃声が轟く。

 ドーム状のフィールドの中心でセシリアは蒼天の装甲を身に纏い、主武装である『スターライトⅢ』を構えていた。トリガーを引きしぼり、次々と出現する的を射抜いた。

 まるで何かに怒りをぶつけるように、何度も何度も人差し指に力を込める。

 放たれる青白く輝くビームの弾丸が、最後に出現した標的に当たると同時にあたりにビー! と仮装射撃訓練の終了を知らせるブザーの音が鳴り響いた。

 パーフェクトで仮想射撃演習をクリアしたセシリアだが、その顔に浮かぶのは笑顔ではない。

 スコープから目を離し軽く息をつくと、装甲が光り輝き徐々に収縮して青いイヤリングの形になった。 

 装甲がなくなりISスーツだけになったセシリアは、星が照らす夜空を見上げながら今朝のことを思い返す。

 あの空色の瞳を持った少年の、周囲のことばかりを気にして自分のことを卑下するような表情を。

 まるであの男のように───。 

 不意に湧き上がる憤怒の感情を抑えるために下唇を噛む。

 

(お母様、わたくしは───男などには決して負けません。必ず、勝ってみせます……オルコット家の当主として、お母様の娘として……)

 

 暫くの間、目を閉じて夜風を感じていたが、やがて顔を上げる。

 そこには先ほどの怒りは完全に消え、覚悟と自信に満ちたいつものセシリア・オルコットの顔だった。

 

 

 ────そして迎えたクラス代表決定戦当日。

 第二アリーナAピットにて、ISスーツを身を包んだヒロの姿があった。

 そのデザインは黒を基調とし、胸にはプロテクターをついた

 赤兎重工お手製の試験型ISスーツ、束命名【ステイメンスーツ】だ。 

 なんでも従来のISスーツの倍以上のIS一体化可能なんだとか。

 相変わらずすごいものを作るな、と感心していると。

 

「ISのことについて教えてくれっつったよなぁ!?」

「だからそれに関してはすまないと言っているだろう!」

 

 突如、ピットから聞き覚えのある男女の声が聞こえきた。その方向へと目を向けると、ヒロと同じようにISスーツを身に纏った一夏と箒が軽い口喧嘩をしていた。

 どうやら一夏は箒にISの操縦法を指南してもらおうとしたようだが、結局はできていないようだ。

  無論、このクラス代表決定戦では一夏もライバルだ。

 だが、いくらなんでもこれは色々と可哀想としか言えない。

 そうこうしていると、カタパルトの点検が終わった千冬と真那が戻ってきた。

 

「何をしている。織斑は専用機の調整を────」

「織斑先生、提案があります。俺と一夏の模擬戦の順序を入れ替えてもらえませんか」

「ふむ……理由を言ってみろ」

 

 千冬の問いにヒロは頷くと説明を始める。

 

「俺の予想ですが、一夏の機体にはフィッティングも、パーソナライズも行なっていませんよね? そんな状態で戦わせるのはフェアとは言い難いし、きっとオルコットさんも認めないと思います。それに対して、俺の機体はいつでも戦えます。是非とも、俺の意見を承諾させてもらえないでしょうか」

 

 ヒロの説明を聞いて千冬は少し思案した後、首を縦に振る。

 

「良かろう。本部には私から伝えておこう。……丁度いい、今ここでISを展開してみろ」

「わかりました。少し離れてください」

 

 そう言うと、千冬、一夏、箒、真那は数歩程度の間隔を空ける。

 それを確認したヒロは瞼閉じ、意識を集中させ────その名を呼んだ。

 

「【ストレリチア】」

 

 ISが淡い光を放ち、その光は彼の全身を包んで形を変化させてゆく。

 

「おお……!」

「これは……」

 

 やがて発光は収まり、一夏と箒が感嘆の声を漏らした。

 そこに立っていたのは、一言で言い表すのならば純白の乙女。

 全身を装甲で包むフルスキンタイプのでありながら、全体的に女性的なフォルムを持ち、節々に騎士のような装甲と青い一本角が特徴的な機体である。

 最後にのっぺらぼうだった顔面部に、アニメ風の顔がホログラムで映し出される。

 

「まあ……及第点といったところだな。これからもっと早く展開できるように日々の鍛錬を怠るなよ」

「それでは片空くん、そのままカタパルトに移動してください」

「は、はい!」

 

 真那の指示にしたがって、ストレリチアをカタパルトを移動させる。

 

「ヒロ!」

 

 カタパルトの射出される前に、一夏に呼び止められる。

 

「順番を変えてもらって悪いな。それと……絶対勝てよ!」

「ああ、任せて」

 

 ストレリチアのコンソールにコンディションOKが表示され、いつでも出撃できるようになった。

 ヒロは小さくかがみ、勢いよく外の世界へその翼を広げた。

 




次回『決闘』
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