ズボラなお姉ちゃんと世話焼きカレン   作:あーふぁ

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2.カレンの気遣いと世話焼きは美少女のような

 トレーナーというのはウマ娘の指導をするのが主な仕事だ。

 走り、踊り、歌を教えることを1人で全部やる人もいれば、サブトレーナーを雇って分業体制の人も。

 私はというと1人で全部をやっている。

 これは担当ウマ娘がカレンだけだからで、私が自分の勉強や練習に時間を取れるからできることだ。

 最も今まで強い運動はそれほどせず、消極的にしか鍛えていない。まぁ、ある程度の時間は踊って振り付けを見せることはできるけど。

 でも4日前に、少し走っただけでひどい筋肉痛になったのはショックだったので今日からは学園の外を走るようにしている。

 

 私は走るのはウマ娘たちが勉学に励んでいる午前。

 晴天でがんがん日焼けするほどの強い日差しの中、1人で走ってきて今はトレーナー室で涼んでいる。

 エアコンを25度に設定し、着ていたジャージは部屋の隅に脱ぎっぱなし。

 つまりは下着姿ということだ。

 下は普通だが、上は今日のために昨日買ってきたばかりのランニング用のスポーツブラ。

 ダンス練習の時よりも強くフィットする感じだから、走る時に胸が揺れなくて実に安心する。

 私の胸のサイズはカレンより2ほど大きい85で、クーパー靭帯が切れて垂れないようにブラには店員さんと相談しながら気をつけて選んだ甲斐はあった。

 

 そんなブラに感心しているから、というわけでもないけど。上下とも服を脱いでいるのには別に理由がある。

 まぁ……単に体が暑いからということだけど。

 普段から気楽なジャージ姿でいることが多いものの、こういう姿で過ごすのはまた一味違う開放感があっていい。

 いつも履いているスニーカーじゃなく、サンダルというのも気楽になれるポイントのひとつだ。人に会う時はとても見せられないから、そういうときはきちんとした服に着替えるけど。

 そうして開放感たっぷりな私はソファに座ると、エアコンで涼しくなっていく部屋の空気を感じながらノートPCをテーブルに置いて事務仕事を始める。

 でも、それからあまり時間が経たないうちに軽いノックの音が部屋に響く。

 

「どうぞー」

 

 私が扉の方を見てから返事をするとドアが開く。

 暑くてむわっとした空気と共に、購買で買ったサンドウィッチを4つ両腕で抱えるように持った半袖制服姿のカレンが気分良く部屋に入ってきた。

 

「ご飯を食べにき…………」

「いらっしゃい、カレン。……そこで固まってどうしたの?」

「どうしたの、じゃないよ! なんで下着姿なの!? 服を着てよ!! 痴女なの? 私はこんなお姉ちゃんに育てた覚えはないんだけど!?」

 

 カレンは慌てた様子でドアを閉めて鍵をかけると、左右の耳をぶんぶんと勢いよく動かしながら怒った様子で私の真横へとやってきた。

 

「誰が来るかもわからない部屋で鍵も閉めずに何をしているの!?」

「何ってランニングしてきて暑いから涼んできただけなんだけど」

「ズボラでめんどくさがりなお姉ちゃんが走ってきたのは偉いと思うけど!

 でもその格好では女というのを捨てすぎだとカレンは強く思うの! 男の人が来たらどうするつもりだったの?」

「どうするって、来たら待ってもらえばいいし。誰かに会う予定はないし、来てもノックしてから入るだろうから大丈夫」

「大丈夫じゃない! 鍵が開いていればノックしないで入ってくる人もいるでしょ!? 簡単に肌を見せるもんじゃないよ!!」

 

 来た時から大声で叫んでいるカレンは荒く息をついている。

 私はそこまで問題になるものかと考え、少し考えてから問題に気づいた。

 

「言われるとまずいかもね、それは」

「でしょ? カレンが言いたいことをわかってくれて嬉しいよ……」

「私の下着姿なんて見たら気分悪くなるし、男の人はしたくもないセクハラをしちゃったことになるからね」

「ちっがああああああう!!」

 

 カレンは尻尾をぶんぶんと勢いよく振り回し、床をダンダンと強く叩きつけるように踏みしめた。

 私に対して怒った姿は見ることがないから、こういうのもかわいいなぁと微笑みながら見ているとテーブルに勢いよくサンドウィッチを置いたカレンは2度深呼吸をする。

 

「我ながらよく分析できていたと思うんだけど」

「全然できてないから。ほら、早く服を着てよ。このままだとお姉ちゃんのことを露出癖のあるトレーナーだとウマッターで言っちゃいそうだよ……」

 

 やっとのことで落ち着いたカレンはどことなくあきれた様子でこっちを見てきて、私はそれに強い不満を感じる。

 時と場所を選んで楽に過ごしているだけなのに、そこまで言う必要があるのかが疑問だ。

 私の体や顔なんか見ても欲情する男の人なんてそうはいないだろうし。

 今もノーメイクですっぴん状態だし、鍛えられていない体は見ても楽しくないと思うのに。

 

 ぐぬぬ、と不満たっぷりな表情でカレンを見つめていると、ひどく大きなため息をついたカレンは部屋の棚に置いてある私用の新しいジャージを手に取って持ってくる。

 カレンに怒られはしたけど、鍵をかけた状況ではこのまま下着姿でいてもいいような。

 そんな考えが表情に出たのか、カレンは耳を絞りにらんできたので怖くなって慌ててジャージを着ていく。

 

「お姉ちゃんはもっと羞恥心を持って欲しいなぁ……。飾らない素朴な姿や性格は魅力ではあるんだけど」

「カレンがそういうなら、下着姿にはならないようにするよ」

「下着姿だけじゃなく、露出が多い服もダメだからね」

「そういうおしゃれな服は持ってないから安心して!」

「なんでそんな自信満々におしゃれに興味がないってアピールするの!? カレン、時々お姉ちゃんのことがわかんなくなるよ」

 

 私は元気よく言うと、カレンは叫んでから頭に手を当てて深いため息をつく。

 まったく解せない。

 カレンの言うとおりにしたのに、私のファッションセンスに苦情とは。

 女を捨てている私でも服には気を使っている。

 トレーナーとして人前で出るときに着るスーツと、普段使いのジャージは品質がいいのを使っているというのに。

 靴も同じようにいいものを。

 

 まぁ、それ以外の服は安物しか買ってないけど。見せたい人もいないし。

 お金をかけるのならカレンが使うものにお金をかけたい。

 外部に依頼してのダンスやボーカルのレッスン。ライヴに使う化粧品関連の物なんかを。

 他にもレース以外で使うワコールのいい下着を買い(下着姿を見せてくれたときは美しすぎて鼻血がでた)他には口紅はイヴサン・ローランのを。

 高級品過ぎると年齢に合わないことも会うため、カレンのような子に合うものを店員さんと一緒に時間をかけて見定めたことも。

 そういうことを思いだしていたらカレンは勢いよく私のすぐ隣へと座ってきた。

 

「ところでお姉ちゃんは今日のご飯、何を食べるの? 前に頼んだ出前や時々やっている自炊?」

「今日のお昼は栄養的にいいものを持ってきたんだ」

「おぉー! 普段からズボラで羞恥心がなくて女を捨てているお姉ちゃんが今だけは立派に見えるよ!?」

「カレン、今日はずいぶん私に失礼じゃない?」

「……お姉ちゃんは自分がいつも何をしているか考えるといいよ?」

 

 と言われたものの。

 私は自分の担当ウマ娘のことを1番に大事にしているだけだ。

 大事な合コンをやっている時や学園の男性たちと話をしているときに、カレンが電話や遊びに行こうと誘ってきた時はそっちを優先する。

 結婚を前提とした彼氏はすごく欲しいけど、カレンに惚れている私からすれば大体のお願いことは聞いてしまう。

 うん、きちんと考えても私はカレンのために考え、行動していると再認識できた。

 私にとってカレンのことを考えるのは当たり前のことである。トレーナーとウマ娘という関係ではなく、親友以上恋人未満に近い感情を向けているような感じ。

 

「カレンのことしか考えていないけど?」

「えっと……あのね? そんな当たり前のように答えてくれるのはすごく嬉しいけど、もっと自分のことを考えてよ」

 

 ほんのちょっとだけ嬉しそうに耳をぴこぴこと動かしながら微笑んでくれたけど、それはすぐに終わる。

 カレンはため息をつきながらスカートのポケットからスマホを取り出すと、何かを調べ始めた。

 時間がかかりそうなのを見て、私は立ち上がると机へと歩いていく。

 その引き出しから万能的である栄養補助食品、カロリーメイトの箱をひとつ持ってカレンの隣へと戻る。

 そして箱から個別包装しているのを開けようとすると強い視線を感じた。

 そんな視線を出しているカレンの表情を見ると、実にファンの皆様へとお見せできないようなものだった。

 まるでカカオ99%のすっごく苦くて甘味のかけらさえもないチョコを口の中に入れた時と同じ表情をしている。

 それは私に向けていて、まるでダメな大人を見るかのような感じ。

 

 なんでそんな目で見てくるの?

 私はただ、ショートブレッドな物を食べるだけなんだけど。

 

「えっと、どうかした?」

「お姉ちゃん、それ置いて」

「お昼を食べたいんだけど」

「いいから」

 

 言われたとおりに渋々テーブルの上へ置くと、カレンはスマホを置いてからトマトサンドを手に取る。

 真剣な様子で包装をしっかり取ると、トマトサンドを私の口元へと持ってきた。

 

「えーと……?」

「あーんして」

「なんで?」

「あーん」

 

 笑みを浮かべているけど、笑っていないカレンが怖くて小さく口を開ける。

 するとやや力づくで私の口に入れられ、パンと久々に食べた新鮮なトマトの味がした。

 ソースがからんでいて、コンビニで食べたものよりもすっきりと高級感のある味。

 トレセン学園の食事はウマ娘たちがよく食べるため、大量に用意されているだけでなく、素材の品質からこだわっているために結構おいしい。

 学園の職員の中には家に冷蔵庫を置かず、3食ともこっちで食べるほどにおいしい。

 

 だが、しかし。

 私の口は朝からカロリーメイトのぱさぱさした感触を求めていたのに。

 あの小麦粉の力強さを感じる味が欲しかったのに、こうも上品なのは変な感じだ。

 でもそれよりも他に思うべき感想がある。それは美少女に食べさせてもらうことだ。

 これはいったいどんなプレイなんだ。

 あ、お金はいくら払えばいいんです? 毎日お願いしたいんですけど、年契約だとおいくらですか? という言葉に出してはいけない煩悩の気持ちでいっぱいだ。

 

 だってしょうがないじゃない。

 自分の担当ウマ娘がこういうふうに私の世話を焼いてくれるんだから。

 前の耳かきに続いてむらむらとした変な気分になる。

 カレンといれば誰だってこうなるだろうし、私だって今そうなっている。

 カレンは世界一かわいいよ! と自宅のアパートで時々叫ぶくらいだ。隣の人に壁ドンを何度されようともね!

 

 そんな状況のせいか、カレンに対して愛おしい気持ちが心の底からあふれてくる。

 もうとてもとってもかわいく感じて!

 そういう妙な気分になりかけながらも、カレンが持ってサンドウィッチを3つほど食べてしまった。

 

 鳥のヒナのように餌付けされ続けたのは大人として少し悲しい気持ちがある。

 私はいつだってカレンの手のひらで転がされている気がするから、時々はカレンがあっと驚くようなことをしてみたい。

 なんてことを満腹なお腹で考えながら隣を見ると、私にご飯を食べさせ終えたカレンはスマホを操作して調べものをしていた。

 うきうきとした様子で言う独り言は「お姉ちゃんの服装と化粧はどれにしようかなぁ。写真映えするなら……」と。

 それは私にとって嫌な気がした言葉。これは私を写真に撮り、ウマッターへ投稿するに違いない。

 以前からカレンは私と一緒に写ったのを投稿したがっていたけど、私が認めたのはレース場の時だけ。

 そういう時はスーツをしっかり来て化粧もきちんとしているから。

 

 そうじゃない時は嫌。私がズボラなところを知られたくない。そんなのを公表したら『カレンチャンのトレーナーは』苦情がたくさん来るに違いない。

 カレンのためだから、と一時期ずっとしっかりしていたことがあったけど、精神を著しく悪くしてすぐにやめた。

 ひとまずカレンの隣にいるのを避けるため、持ってきたカロリーメイトの箱を持って机に行き、引き出しにしまう。

 そしてカレンのところへ戻ろうとした時、ソファに座っているカレンの無防備な姿を見て……私はひらめいた。

 

 今なら負けっぱなしの私が、カレンに勝てるかもしれない方法を!

 目につくのはキューティクルが綺麗な髪にある、ウマ耳に着けている真っ黒で光沢のある耳カバーだ。

 私は自然な様子でカレンの背後へ近づくと、座っているカレンに後ろから勢いよく抱き着く。

 そして「こんなところにおいしそうなものがー」と棒読みのセリフを口にしながら、耳カバーの上からカレンの耳を優しく3度甘噛みした。

 

「んにゃっ!?」

 

 変な声を出し、びっくりして体が跳ねるカレンを押さえ、布越しに耳の根元をはむはむとやり始める。

 

「あ、お姉ちゃ……それは……あっ♡」

 

 このイタズラはわずかな時間だけだったのに、カレンが甘い声を出して私のほうが逆に驚いてしまう。

 なんかイケナイことをしている気分になったので慌ててカレンから離れると、すぐにカレンは勢いよく立ち上がる。

 両手でそれぞれの耳を押さえ、顔を赤くして恥ずかしそうな顔でする上目遣いはやめて欲しい。

 惚れそうになるから。カレンとなら結婚していいかもと思ってしまうし! まだ走っていたいから結婚はできない?

 よし、婚約しましょう、婚約! と暴走しかけながらも怒った表情になりつつあるカレンを見ると気持ちは急速に冷えていった。

 

「なんかごめんね? カレンの後ろ姿がかわいかったから……」

「もうっ! せっかくお姉ちゃんを想って考えていたのに邪魔するなんて!」

 

 しばらくカレンは私をにらんで威嚇してくるも、その姿はかわいいし、耳が後ろに絞られていないから本気で怒っていないのはわかった。

 

「お姉ちゃんのことなんてもう知らない知らない知らないっ! 今日中にお姉ちゃん改造計画を作り上げるから覚悟してよね! それと今日の晩御飯は私と一緒にカフェに行ってもらうから!」

 

 カレンは恥ずかしがって叫ぶように言うと、早足でドアへと行き、部屋を出ようとする。

 自分で鍵をかけたことを忘れのか、少しのあいだガチャガチャとドアノブを回していたがすぐに気づき、一瞬恥ずかしそうにしながら私をにらんでから勢いよくドアを閉めて部屋を出ていった。

 

 ……ひさしぶりにカレンに勝ったけど、申し訳なさでいっぱいだ。

 おわびとして放課後までに高級品なケーキを複数個買ってこようと、カレンが出ていったドアを見つめてためいきをつく。

 自分の行動がやりすぎたと反省はするけど、怒った顔もかわいくて写真撮りたかったなぁなんて思ってしまった。

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