ズボラなお姉ちゃんと世話焼きカレン   作:あーふぁ

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4.カレンの親愛度と私

 私の私服姿の写真をカレンのウマスタに流して1か月。

 普段はテレビや雑誌のインタビュー記事にちらっとしか出ないのに、今では知名度が上がってしまっている。

 別に悪いことではないが、トレーナーとは裏方で目立つ必要性はないと思っている。

 それに知名度が上がってもいい男は寄ってこないし。目立つ女性は好きじゃない男性というは一定数はいるものだから。

 私にとってはカレンが喜ぶ以外はメリットが薄いと思ったものの、これがきっかけでカレンのファンと交流ができた。

 

 それというのも先輩の手伝いで学園近くの中学校でスーツをしっかり着込んだ私が講演会をしたとき、カレンのファンという女の子たちと話をした。

 カレンのいいところはウマスタでのかわいい写真だけでなく、チャンネルでの生放送によるコスメ紹介や化粧の仕方、ピアノ演奏が好評とのこと。それだけでなく練習風景も努力する姿がいいとのこと。

 私はカレンの活動に対してはそんなに干渉をしたくなく、軽くチェックをしたが思っていた以上に熱心なファンの子がいるらしい。

 30人以上の女の子たちに囲まれてるのは初めてだ。その子たちはみんながカレンに恋焦がれているような表情と声をしている。

 こういう子たちを見ると、カレンは多くの人にあこがれをあげているんだなぁと嬉しくなる。

 

 講演会では緊張したけど、カレンのファンたちと交流できて新鮮な気分で私は学園に戻ってきた。

 今は午後3時を少しすぎたとこ。

 9月の熱い日差しに照らされながら走っているウマ娘とあいさつをし、私のトレーナー室へと戻ってきた。

 ドアの鍵は開いていて、部屋の中は誰もいないが冷房が効いている。

 今日は私が練習を見れないから自主練して、とここの部屋の鍵を渡したけど使ってくれているようだ。

 

 持っていたカバンを自分の机へ置くと、ソファーの前にあるテーブルにはカレン専用のマグカップが置いてあるのに気付く。

 マグカップの中にあるカフェオレはまだ残っているからカレンはさっきまでここにいたらしい。カレンの香りがまだあるし、食べる予定だったらしい個包装のクッキーがお皿に盛られている。

 今日のカレンは自主練だからメニューをやってさえいれば、自由に休んで走ればいいから別にいいんだけど。

 講演後でカレンのことをたくさんお話したから、その分カレンに会いたくなってなんかさびしいなと思ってしまう。

 普段から私を見ると目を輝かせて話をしてくるにぎやかさがある分、エアコンの音しかしない今が静かすぎる。

 まぁ今は静かな時間を過ごそう。講演で今日は疲れたし。

 

 私はスーツの上着を脱ぐでシャツのボタンを2つ外してからソファーに座り、部屋の涼しい空気をあじわう。

 ここに来るまでに流れた汗をポケットに入れていたハンカチで拭くが、あまりすっきりしない。

 汗拭きシートを使おうと思ったけど、それが入っているのはカバンの中。

 もうソファーに座ってしまったから、また立ち上がるのは面倒だ。私の疲れた体はもっと休めと要求しているから、あとにしよう。

 

「あ゙~……つかれたぁ」

 

 段々と体が冷えてきて心が落ち着いてきたが、いまだカレンが戻ってくる様子はない。

 カレンのことだから、長時間いなくなるときは片付けると思ったんだけどなぁ。

 ランニングにでも行ったかな。そうなるとまだまだ帰ってこないだろう。

 帰ってきたら、汗拭きシートを取ってもらおうと思っていたのに。

 

 ……まだカレンが帰ってこなさそうだなぁ。

 それならテーブルの上に置かれているクッキーは食べても大丈夫よね。

 だるい体を動かしてクッキーが盛られている皿へと手を伸ばす。

 クッキーは色とりどりでプレーンのを手に取り、袋をやぶく。

 

 そして口の中に入れると、ほのかに甘い砂糖と奥深い小麦の味を感じる。

 甘すぎず適度に食べ続けられる味はとてもいい。

 1枚目をゆっくりとかんで味わってしまう。

 食べ終わったときには自然とほっぺたがゆるんで笑顔になってしまう。

 こんな無防備に食べている姿なんてカレンには見せられない。

 

 大人としてトレーナーとして威厳が欲しい私はこういう姿を見せたくないし、見せたらカレンがなんか積極的に構ってきそう。

 前みたいに私の写真を撮って『写真をウマッターに載せるね!』なんてことを言いそうだし。

 最近はウマチューブのカレンが作ったチャンネルに生放送でやろうなんて言われているから、気をつけないといけない。

 基本的にカレンがやりたいことやカレンにとってのいいことなら頑張るんだけど、下手に私を映すと悪評がつきそうで怖い。

 たとえば、カレンはかわいいのに女トレーナーはぱっとしないとか、そういうのを。

 

 カレンが言うには、トレーナーの私には興味が多いと聞くけど。

 単にテレビや雑誌で出る機会が少ないだけだと思う。前にカレンがG3のキーンランドカップを出たときにはインタビューはやったんだけど。

 カレン的にはあのときの10倍は出て欲しいと言うけど、今日やった講演の手伝いでファンの子たちとふれあったからそれでいいって許して欲しい。

 ファンの子たちと話すのは初めてといってもよく、意外と楽しかった。

 私のカレンが人気なんだ! って改めて認識できて。

 

 カレンが好きなところで歌と言ってくれたのも嬉しい。

 ウマッターやウマスタで人気があると調べれば、歌がいいという割合は少ないから。

 思い返すと気分がよくなった私は、Make debut!の曲を歌い始める。

 その途端、部屋からガタン! と大きな音が鳴る。

 

 慌てて周囲を見ると特に異常はない。トレセン学園で多い霊障?

 幽霊関係で困ったときはマンハッタンカフェのトレーナーに聞け、とトレーナーたちの間では共通認識になっている彼に聞いたほうがいいかな。

 ひとまず立ち上がって部屋をうろうろ歩くと、なんだか衣擦れの音が聞こえる。

 音の発信源を探り、私は部屋の隅に置いてある掃除用具を入れてあるロッカーの前に来る。

 この中から気配がしたので、小さく息をついたあとにそっと扉を開ける。

 

「えっと……おかえり、お姉ちゃん」

 

 そこにはジャージ姿で汗をかいていないカレンがいた。焦った表情はかわいらしいけど、そっと閉めて誰もいなかったことにする。

 私の行動や歌声なんかは誰にも見られていない。そうじゃなければメだから、カレンは外で練習をしていると思いこむにしよう。

 そう心に決めて離れると勢いよくカレンは扉を開けてきた。

 

「ちょっとお姉ちゃん!? カレンのことを無視しないでよ!」

「こっそり私を見ていたほうが悪いと思うんだけどなぁ。さっきのは忘れてくれると嬉しいんだけど」

「かわいかったよ、お姉ちゃん♪」

 

 恥ずかしい私の記憶を持ったカレンを封印しようと、私はさっきと同じように閉めようとするも力を入れて抵抗してくる。

 お互い無言で力の入れあいをするけど、やっぱりウマ娘であるカレンが強く、掃除用具入れのロッカーから出てくる。

 

「それで隠れていた理由は言ってくれるの?」

「お姉ちゃんの声が聞こえてきたから、隠れなきゃと思ったの。それというのもね、前にお姉ちゃんが1人でお菓子を食べていたときに見た笑顔が素敵だったから。

 私といるときはそんなの見せてくれないし」

「あぁ、だからロッカーに入っていたってことね」

「そう。そのおかげでお姉ちゃんのお菓子を食べたときのふんわりとした笑顔、優しい歌声を聞けて嬉しかったなぁ。それじゃあカレンは戻るから」

 

 そう満足げに言ってロッカーへと戻っていくカレン。

 いやいやいや、なんでそうなるの。

 1人で落ち着いたときしかゆるんだ顔をしないとはいえ、カレンから見られていると知ったらもう同じことは無理なんだけど。

 

「待ってカレン。なんでそうなるのカレン」

 

 ロッカーに入ったカレンにあきれてしまい、とめるのをあきらめて私は冷蔵庫に行って冷たい缶コーヒーを取り出す。

 そのあとは置いてあるバッグからスマホを手に取るとソファーに戻って飲み始める。

 ロッカーからはスリットからじっと見つめられる視線が気になるも無視することに。

 冷たいコーヒーを楽しみながらスマホでウマッターの閲覧をし始めると、ガタンと大きくロッカーの音が鳴る。

 

「そうだ、お姉ちゃん。言い忘れていたけど、今週末はここでカレンチャンネルの生配信をするから!」

「おっけー、使う時間帯だけ言ってくれればいなくなるから」

「お姉ちゃんもカレンと一緒に出てみない? ファンの人と交流できて楽しいよ! 嫌なコメントはNGワードである程度ははずせるし、何かあったらカバーするから!」

「私が出てカレンのイメージが悪くなると嫌だから。前にアップしたウマッターでの写真は珍しいから高評価だっただけだと思うの。カレンという輝く存在に私は影からささえるだけで十分」

 

 みんなウマ娘が見たいのにトレーナーが出すぎるのは嫌だと思うんだ。

 それにカレンの体調や練習風景の写真は私のアカウントでやっているから、レースファンの人たちが必要な情報はたりているはず。

 

「……ねぇ、お姉ちゃん。本音ではどう思っているの?」

「めんどくさい。きっちりした服を着るの大変。化粧をしたくない」

「うわぁ、大人の女性なのにめんどくさがりだ。お姉ちゃんは学園にいるときはいつもノーメイクだよねぇ」

「頑張らなくていいとこは頑張りたくないの。それでもスキンケアはしっかりやってるのよ?」

 

 ロッカー越しでもカレンの表情がダメな大人だ、なんていうのをしてそうなのがわかる。

 大人をやるというのは疲れる。だからする必要がないときはしないほうがいいと思う。

 化粧をつけて落としてケアして、というのは結構な時間と労力がかかる。生まれ変わるのなら男性のほうが楽に生きられそうと思えるほどに。

 

 私に返事をすることなく静かになったカレンにちょっとだけ悪いことをした気がする。

 今日の講演会時にトレーナーである私にも目を輝かせてくれる子がいた。だから今度はネット越しにファンの人と直接ふれあってみるのはいいかもしれない」

 

「カレン、あとで生放送をやる時間と進行表のデータをちょうだいね」

 

 そう言った途端、勢いよくロッカーが開かれてレースのスタートダッシュ並みにカレンが飛び出てきた。

 ソファーに座ってくる私の後ろにやってくると、後ろから抱き着いてきて私のほっぺたにほおずりをしてくる。

 

「ありがとう、お姉ちゃん! 大好きっ! 結婚しよ?」

「はいはい。カレンが大人になっても好きでいてくれたらね」

「ほんと!? 嘘つかないでよね、もう決まったからね忘れないからね!!」

 

 ちょくちょく言われることがある『結婚しよ』というカレンの言葉をかわすために言ったことだけど、すごい勢いにちょっとひいてしまう。

 私は男の人と結婚する予定だから、カレンとはそういうのはない予定って言っているのに。そもそもとしてカレンと16歳差あるんだけど、そんなにおばさんがいいものかね。

 まぁ、カレンが卒業して私もフリーだったら同居するのは楽しそうで、一緒に暮らすのはありかなと思っている。

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