あーさー目が覚めてー、真ぁっ先にぃおーもーいーうーかーぶー…。
「作業場行きたくねぇ…」
「ん、おはようハジメ」
「おーう、おはようさん【ユエ】」
昨日の惨事を夢に見て憂鬱な気持ちで愚痴りながら目を覚ますと、同じ布団で寝ていた専用式神の【ユエ】が挨拶してきたので、こちらからも返しつつ観念して起きる事にした。
彼女の見た目は『ありふれた職業で世界最強』に出て来るメインヒロインである彼女そっくりであり、こうなったのもただ単に式神製造部が『南雲ハジメにそっくりなんだったら式神は当然ユエでしょう!!』という理由でこうなったのだとか…いや知らんがな。
まぁ、俺自身も専用式神については『装備も豊富に用意されている人型』である事と『サポート寄りの後衛型』と『作業用に省エネモード搭載してくれ』としか言っていなかったので全部当て嵌まると言えばそうなのだが…。
「むぅ…」
「どうした? 昨日の今日でなんか問題でも起きたか?」
「別に家の中なんだし、【名前】で読んで欲しい」
「…昨日の今日で情緒発展し過ぎじゃね?」
起動したの昨日の夕方だぞ? 借りてる部屋に戻ってからずっと細かく調整し続けたり【房中術】スキルで繋がり続けていたけれど、ここまで効果あるものなんだろうか?
…後【房中術】は『気の交わり』をメインに添えるのなら別に肉体的に交わらない緩い方法もあるので早とちりしない様に、会ってその場で即合体とか盛った猿じゃ無いんだぞいい加減にしろ。
…いやこれ誰に向かっての文句だよ。
「いや一応『名前隠し』の意味も込めて呼んでるんだが?」
「今ここに居るのは私とハジメの二人だけ、だから大丈夫」
ごねるユエだが残念、それだけではダメなのである。
「折角ショタオジに【姓名偽装】掛けてもらったのに、普段から本名で呼んでたら効果が無くなるだろ…」
「駄目…?」
「少なくとも俺の掛けた【情報隠蔽】は外れかねないから駄目だな」
「…ハジメのケチ」
ケチなんじゃなくてちゃんと安全を確保しているだけなんだよなぁ…。
まぁ、実際の所はショタオジがそういった外からの干渉はカットされる様に仕込みを入れてあるので問題無いのだが、正直そんな事をする輩が他にも碌な事をしない訳が無いので、俺の仕掛けた【情報隠蔽】を抜けずに諦めるのならば慈悲として放置、もしも【情報隠蔽】を抜いてしまってもショタオジの【姓名偽装】は抜けないであろうから、そこで騙されて何かしらやらかしてきた奴が居れば本命の破魔・呪詛属性の即死魔法(貫通仕様)がカウンターとして襲い掛かる様になっているのだ。
…が、そうなると不満が出て来るのは折角の名前を呼んでもらえないユエである。
「………………」
見てくる…ユエがめっちゃジト目で見てくる…いやこれマジで何かしら対応取らないと拗ねられるヤツか?
「…分かった、今日の仕事が終わったら自室に何かしらの処置しておくからそれまでは我慢してくれ」
「ん、分かった…それまで我慢する」
どうやら許された模様…正直ここまで身近に女性が居た経験が無いから、どう対処したら良いのか完全に手探りなんだよなぁ…。
ってか【会話】スキル入れてる筈なのに、なんでこんな無口キャラなんだ? 別に好みじゃないという訳でもないが、式神のコアの個性とかなんだろうか?
…もしかして俺の認識が反映されているとか? でもありふれのユエって結構愉快な性格していた気が…うぅん?
「まぁ、別に今考える事でもないか…」
「んぅ? ハジメ、何かあったの?」
「いや、ただ単に過ぎた事考えてただけだからどうでも良い事だ、それよりも朝飯食いに行くか…」
「分かった、それじゃあ着替える」
そういうが早いが、俺の目の前で寝巻きを脱いで着替え始めるユエのあまりの行動の速さに思わず固まってしまい、直ぐ後に再起動して頭を抱えてどうすれば良いのか丸で分からない現状に対する頭痛を堪える俺…。
「ハジメ? 急に頭を抱えてどうしたの?」
「いや、昨日の今日で矢鱈と成長していると思ってたのに、羞恥心が欠片も感じられない行動してるのを見て何とも言えない気持ちになってるだけだ…」
「羞恥心? それならしっかりある」
「なら男の前で服脱ぎ出すのは辞めろや」
そう言って叱ると、ユエはまるでそんな事を俺が言うだなんて想像さえしていなかったかの様に、目を見開いて驚いていた。
「え、本当に?」
「いや本当も何も出会って数日も経ってない男女がそこ迄の間柄になるとか、緊急事態やそれこそそういう水商売や強姦魔なんかの関係位だろうか…まぁ、ガイア連合の専用式神に関しては元からそういった目的で作ってる奴が多く居るのは事実だけどな」
そう説明する俺に対して、ユエは我が意を得たりと言わんばかりに深く頷いた。
「うん、それだと思ってた」
「それ?」
「私は『そういう目的』を求められているものだと思ってた」
「いやなんでやねん…」
思わずツッコミを入れてしまったが、それに対して返された答えは余りにも俺自身の自業自得だった事を教えられる内容だった。
「だって私は最初にハジメから【房中術】のスキルを追加されたから」
「うん?」
「【房中術】のスキルは『そういう事』を目的に良く入れられるスキル…昨日のハジメも私を抱き締めながら確認がてらの解説中にそう呟いてた、だからハジメも私の自我が出来たら『そういう事』したいから昨日ずっと『健全な【房中術】スキル』を使ってたんだと思ってた…」
「oh…」
これは状況証拠だけ見れば、確実にこれから酷い事する気満々な強姦魔の所業ですね間違いない…完全に俺が悪いんじゃねぇーか!?
いやちょっと待ってくれ、俺は昨日部屋に戻った時は既に夕方だったから鍛錬用の異界に行く時間が無く、仕方がないから【房中術】で少しでもユエのレベリングをしようとしただけなんだよ…。
そしてその事をしっかり誤解無き様ユエに説明した結果…。
「…ハジメのエッチ」
「いやさっき俺がした説明聞いてましたっ!?」
なんか最早理不尽の領域である…ってかもしかしてこれ俺の事からかってないっすかね?
「おいこらちょっと? なんか微妙に口元笑ってませんかねぇ?」
「ん、きっとハジメの気のせい…私は真面目に抗議している」
そう言いながらもどんどんニヤけていってませんかねユエさんや。
ちくしょう…確実に好感持ってくれる様に雁字搦めにされてる相手とか、逆に引け目感じるからそこら辺の縛りをかなりゆるっゆるにしておいた結果が、こうやって遊ばれる事になるとか選択ミスったのかねぇ…?
「でも、正直な所を言うと、私はちょっとがっかりしている」
「がっかりしている? 何をだよ?」
「折角【房中術】スキルを入れてくれたのにハジメが私に手を出さない事」
「……………は?」
え〜…う〜んと? えぇ…?
「いやなんでさ?」
「私達式神は主人、つまり私の場合はハジメの為だけに造られた存在、ハジメはそういった拘束をするのが嫌でその縛りをかなり緩めたけれど、大前提として私はハジメの為に存在しているから、ハジメに求められる事がとても嬉しい」
「ふむ、成る程?」
俺達人間とは違い造られた存在だからこそ感じる思いを一切の澱みも無くスラスラと告げていくそんなユエの姿には、俺自身がそういった事を禁ずる縛りを解除してあるからこその真摯さを印象付けた。
「私達式神は主人が居なければ存在意義が無く、言い換えれば求められれば求められる程に満たされるし、逆に遠ざけられればその分死んでしまいたくなる程苦しくなってしまうもの、だからこそハジメが【房中術】のスキルを私に付与した事が分かった時、私はハジメに求められているんだって、凄く嬉しく感じた」
「自我に目覚めたばかりだろうに、良くもまぁここまで育ったな…」
そんな真摯に想いを語るユエの姿に少しばかり心を動かされ、もう少し対応を変えるべきかなと俺自身も考え始めていた…。
「だからこそ私はハジメと【房中術】がしたいし【房中術】で【房中術】な【房中術】に【房中術】な事も凄くしたい!!」
「直前の雰囲気返してくれませんかねぇ!?」
「という訳で【房中術】!! しようっ!!」
「ふざけんな馬鹿野郎!!」
まぁ、当の本人によって秒で考え直しましたけどね!?
流石に朝からそんな爛れた生活やってられる訳が無いので力づくで仕事に向かう事にした…なんで朝からこんなに疲れなきゃならんのだ…。
こんな感じで専用式神の【ユエ】さんとなります、見た目はモロ『ありふれ』の彼女ですね…という事は本名はというと…?
本編中書いた通りこの主人公、ユエに対して掛けられているセーフティー殆ど外している大馬鹿野郎ですが、複写術式で倫理観とかも備えさせてあるのでそれ程問題は無い筈だったのです。
…まぁ、起動して初手に緩いとはいえ長時間に渡る【房中術】によるレベリングなんか行ったせいで頭の中ドピンクの淫乱式神になっちまいましたがね!!(つまりは結局の所自業自得)
因みに名前隠しわしようとした原因はショタオジとの会話でそういった危険性を聞かされたからだったりしますが、当のショタオジもここまで慎重になる奴は初めてだったのでちょっと困惑していたりします。
…まぁ、主人公の能力の事考えたら、当人もその近くに居る式神も警戒しておいて損は無いんですけどね?
作品コード:148-6177-1