ぼちぼちあげるので、よろしく
第1話「知りたい症候群」feet.B
ふわり、ふわりと、何かが浮かび上がってくる。
それに手を伸ばそうとしたけど、掴めなくて。ただ、宙を舞う手が目に映った。
なぜ、ここにいるのか。ここは一体、どこなのか。皆目検討もつかない。わからない。
わからない。
知りたい。
わたしを、知りたい。
知らない、わたしを。
「ん………………」
目を覚ますと、そこは真っ青だった。
青い、なんだろう。上にある青いものは一体、なんなのか。
当たり前であったはずの知識すら、わたしの中のどこを探しても存在しない。
知りたい。
「知りたい……」
夢と同じように、手を伸ばす。
だが、また夢と同じように、宙を舞うだけ。どうやら想像よりずっと遠く、大きいものらしい。あの青い何かは。
てっきり目の前にあるのだから、すぐそこにあるものかと思った。
あの青い何かを掴むのは諦めて、周囲を見渡す。
茶色く、分厚い棒に緑の薄い何かが何枚も取り付けられている。あれはなんだろうか。
知りたい。
何も知らない、わたしは。
直上の青い何かも、わたしを囲む茶色い棒も。
そして、わたしのことも。
知りたいと、ただ願う。
何も知らないわたしは、ただ知ろうということしか出来ない。無力だ。
知りたいものを知ろうとしても、その力がわたしには存在しない。
そもそもわたしはなぜ立ち上がらないのだろう。立てばもう少しよく見えるはずだ。もしかしたら、青い何かにも届くかもしれない。
そう思って立ち上がり、もう一度手を伸ばした。3度目の…………なにかだ。
「っ、つかめ、ない……!」
結果は勿論ダメだった。あれはなんなんだろうか。一体どれほどの高さにあるのだろうか。
きっとあざ笑ってるに違いない。こんな滑稽な姿、面白くてわたしだって笑ってしまう。
2度、青い何かを掴むのを諦める。そして今度は、真下を見下ろす。
これまた茶色く、でこぼことしたものに、緑色の細長いものが飛び出ている。
なるほど、これが青いのと同じ景色か。
ついに1つ、知ることができた。知ればもう、興味は薄れる。
立ち上がった視点から、もう一度周囲を見渡す。特に変わった景色はないみたい…………いや。
あった。ではなく、いた。
「お、エンカった」
「えんかった……?」
茶色い棒に寄りかかっている、赤色の髪をした誰かに会った。そしたら、突然謎の言葉を発してきた。
別に、言葉が違うとかじゃない。なんというか、その並びがわからない。
「さっきから変なことばっかしてたけど……君、もしかして『ELダイバー』ってやつ?」
「える、だいばー…………」
まただ。また知らない言葉だ。
えるだいばーという謎の言葉を、自分なりに考えてみる。
だが、わたしの中にはその言葉をたったの1文字として理解できるほどの知識がなかった。まさしく、えるだいばーのえの字も知らない。
「んー……とりあえず名前。名前聞いていい?」
「なまえ……?」
「もしかして、名前もわかんない感じ…………?」
そう言ってその人の顔に水が垂れる。水? 水ってなんだろうか。なんであの透明のぬるぬるしたアレを、水と呼んだのか。いや、あの透明でぬるぬるしたアレは、水なのだろう。知っているならそれでいい。
話を戻して、なまえ。なまえとはなんだろうか。
なまえの意味は、わからない。なまえはなまえだとしか。
だがしかし、なまえに準ずる言葉を、わたしは知っていた。
「え、と…………わたしのなまえは……『ビリーヴ』、だったはず」
ビリーヴ。それがわたしの『なまえ』のはずだ。
「ビリーヴ…………信じるって意味だっけ」
ビリーヴとは、そういう意味だったのか。また1つ、わたしは知った。今度はもっと、確かなものを。
「……うん、キレイないい名前」
「…………」
褒められている、ということなのだろうか。
きれいという言葉がまた新たに出てきた。なんとなく、なんとなく響きがいいので、褒めているのだろう。わからないけど。
「あぁ…………私の名前だよね」
「…………ん」
なんとなく、首を縦に振る。これが同意とか、肯定のサインだということも、なぜか知っていた。
別にこの人のなまえを知ったところで……という感じだが、知るに越したことはないので、一応聞いてみる。
「私は『レイメイ』。GBNを飛び回る自由人でーす」
「じーびーえぬ?」
知らない言葉、これで何度目だろうか。
改めて考えてもわたしは知らないものがあまりにも多すぎる。そのせいか、この人を困らせている気がする。
「あぁ…………この世界のことね」
「この世界……」
「そう、この世界。ここはGBN、『ガンプラバトルネクサスオンライン』っていう世界」
「そうなんだ……」
がんぷら、ばとる…………覚えきれない。だが、ここがじーびーえぬという世界だということはわかった。大きな進展だ。
いや、大きな進展なのだろうか。この人はわたしにとって重大な真実をさも当然かのように、周知の事実だと言わんばかりに、さっと説明した。
もしかしたら事態は想像を遥かに凌ぐ深刻な状態なのではないか。その、わたしの頭の、状態が。
「ELダイバーとか初めて会ったけど、最初こんな感じなんだ…………へぇ」
「…………」
「あぁごめんごめん。そんな睨まないでよ」
わたしを動物のように扱ってきたので、睨んだ。動物がなんなのかわからないけど、とにかく腹が立った。とにかく。
「えっと、ビリーヴちゃん。何か聞きたいことある? 私で良かったらなんでも教えてあげるよ」
教えられる範囲内で、だけど。と付け加えられたが、今のわたしにとってこの人は万物を知る偉大な人だ。その人からあらゆる情報を抜き出せるなんて、これほど都合のいいことはないだろう。
「じゃあ…………あの上にある青いのは、なに?」
「え?」
まず、最初に見たものを問いかけてみた。ぱっと思いついたのがそれだった。掴めていないのが悔しいからだろうか。
だというのに、この人は何やら本当に困ったような顔をしている。もしかして、この人もあの青いのを知らないんじゃ…………。
「いや、普通に空ですけど……? え、もしかして違う? 上に青いのとか………いや、空しかないよね……」
「そら、そらって言うんだ」
撤回、知っていた。どうやらわたしがあまりにも知らないので困惑していたみたいだ。それもどうかと思うけど。
とはいえ、空か。空から見た視点も、空というなまえも知った。どうだ、空。いつか掴んでやるからな。
「じゃあ、あの茶色い棒は?」
「ぼ、棒かぁ…………木だよ。木を説明するのは……これまたむつかしい」
「き、っていうんだ」
レイメイ、と名乗ったこの人や、わたしのビリーヴというなまえよりも、空や木はとても質素で味気ないなまえをしている。そういえば、レイメイってなんだろう。
「レイメイって、どういう意味?」
「私の名前? うーんと、夜明け、って意味」
「よあけ?」
知らないものを知ろうとしたら、また知らないものが出てきた。これをなんと言うのか、これもまた知らない。
「夜明けっていうのは、真っ黒な空が青く染まって、世界が明るくなること。それに因んで、私自身に夜明けを来させよう、っていう感じで、レイメイ」
「へぇ…………なんか、立派だね」
「立派……か。そんな風に言われたことないな。ありがと」
言ってることはまだよくわからないけど、すごく前向きで、真っ直ぐななまえだというのはわかった。
こんなに立派で、なんでも知ってて、こういう人がわたしの初めて会った相手なんて。とても、とても、とても嬉しい。
この人ともっと一緒にいたいな。
「……あ、あの!」
「お、おう。どした?」
「GBNのこと、もっと教えて!」
この人からもっと教えてもらえば、それだけ一緒に居れる。自分のことながら、すごく賢い選択だと思う。
「あと、それと、レイメイのこと、もっと知りたい!」
「え、えぇ…………?」
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「えーと、ここがセントラル・ディメンション。初めてGBNに来る人はみんなここに来るんだ」
「へぇ……始まりの場所、みたいな?」
「まぁ、そんなもん」
レイメイに案内されて、色々な場所に来ている。
近い順に紹介されていき、このGBNが、どれだけ多くの人がいる世界なのかを知った。そしてわたしの予想通り、わたしは、あまりにもこの世界を知らなかった。
まず、GBNでは「ガンプラ」と呼ばれる小さい人型のおもちゃをすきゃん?して、この世界に投影させ、人が掌に乗るくらいの大きなサイズになるらしい。わたしはそういうのを持っていないみたいだけど。
そして、ここGBNにいる人は、ほとんどが別の世界の住人らしい。レイメイはその世界のことを「リアル」と呼んでいた。
「ま、君と同じELダイバーもちゃんといるよ。100人弱くらい」
「……ふつうのダイバーさんは、何人いるの?」
「何人……? ん〜、意識したことはないなぁ。ちょっと待ってね」
レイメイはそう言ってから、青く平べったい四角形のものを突然出した。
「な、なにそれっ」
「なにそれって、ウィンドウ? 板? まぁそんな感じのやつ」
な、なんかふんわりしてる。
これじゃあわたしの知りたい欲が満たされない。わたしはこのGBNと、そしてレイメイの全部を知りたがっているのに。
「お、あった。えーっとねぇ、GBNのダイバーはざっと3000万人ぐらい」
「それって、どれくらい?」
「大体今いるELダイバーの30万倍。多分もっとあると思うけど」
なんというか、大きすぎて逆に理解できない。スケールが、大きい。
そんな比率じゃ、わたしと同じ境遇の人を見つけるのはとても難しいだろう。せっかく同じ人を見つけるチャンスだったのに。
「むぅ…………」
「安心しなよ。ELダイバーは自由気ままな人もいれば、どっかに固まってる人もいるから。というか普通のダイバーもそんな感じだよ」
「そうなんだ」
「私は自由気ままタイプだけどね。ビリーヴはどっちかな?」
そう首を傾けながらわたしに問いかけてくる。
その瞳が、あまりに……わからない。どう表現するのか、わたしはまだ知らない。
知りたい。
知るために、わたしは。
「……レイメイと一緒にいる」
「……そか」
この人の傍にいたい。
「見つけたぞ、レイメイとかいうダイバー」
そう思ったのも束の間、突然わたし達の前に屈強な男達が現れた。
右の人は肩に銀色の先端が尖っているものがついてて、顔全体が黒い何かで覆われている。左の人は、顔に色んな色が塗られていて、髪が立っている。中心の人は、他の2人よりも一回り大きくて、頭がふわふわしていて、目元が黒いもので隠れている。
「あぁ? 誰」
「この間は俺の子分をよく可愛がってくれたじゃねぇか」
「…………あぁ、あのモヒカンか。性懲り無かったから身体に叩き込んであげただけだよ」
今までのレイメイからは考えられないような、低い声で3人組に話しかける。なんか、ちくちくした空気。
「てめぇ、あいつのザク作るのにどれぐらいかかってると……!」
「知らないよそんなの。というかそれ関係無くない? 金かけてりゃ偉いの?」
笑い混じりに放たれる言葉は相手の怒りを誘う。これをなんというのか。
「うちのフォースに手を出したツケ、払ってもらおうか」
「……バトル? ワンツーマンなら受けるよ。ダメなら強引な勧誘ってことで運営にチクっちゃうけど」
「あ、アニキ……!」
「怖気付くな、相手は女だ。いいぜ、それで乗ってやる。折角だからこの俺が直々に相手してやるよ」
「アニキが直々に……!?」
「いいねぇその意気。私は心の弱い人をいたぶって強い気になってる人に現実を見せつけるのが大好きなんだ」
「女が……よく言うじゃないか」
なんか、よくわからないけど、これすっごくやばいんじゃ……!?
不安で震える手を、レイメイがそっと握ってくれた。この感覚、すごく安心する。
「安心して。君に危害は行かないから」
「で、でもレイメイが……」
「私なら大丈夫。こいつらに負けるほど、私の『シルヴィー』はヤワじゃない」
シルヴィー。それが多分、レイメイのガンプラだ。
「フリーバトル申請承諾、っと」
「その面には涙が似合うって教えてやるぜ?」
「そのパーマもボリューム上げてあげるよ」
「減らず口を叩いていられるのも、今のうちだ!」
2人が会話をしていると、突然目の前の景色が別のものに変わった。さっきの白い空間とは別物の、薄暗くて狭い部屋。
そこに鎮座している、白い巨人。
「これが、シルヴィー……」
「そ、私の愛機。一緒に乗ろ?」
その差し伸べられた手を、わたしは掴む。
知らないものは怖い。空の吸い込まれるような青色は、実際怖かった。でも。
この人となら、それも乗り越えられる。怖いものを『知って』、怖いものじゃなくする。
この人とならそれができる。そう思ったから。
知らないが知りたい、知りたい症候群の少女。
次回はバトル回!
キャラ設定:
ビリーヴ
ダイバー達の知識欲から生まれたELダイバー。
そのため、人よりも「知りたい」という欲が強い。
生まれたばかりなので、知らないものが多い。
容姿は透き通る銀髪のロングをハーフアップで、アメジストの瞳を持つ。服装は白いドレスに白いコート、とにかく白い。