どこまでも続く荒野の谷。
その下で、戦い続ける2つの影があった。
「ッ……、オラァ!!」
白い天使、ハシュマルから放たれた光を避け、プルーマを発生させる尾翼にシールドをぶつける灰色の騎士、スカルライダー。
「もう1枚も剥いだ! もう雑魚は出せねぇぞ手羽先野郎!!」
その言葉と共に大剣を振りかぶり、ハシュマルに突撃しようとするスカルライダー。
しかし、その動きは突然停止した。まるで、”時間が止まった”かのように。
「ッ……!? はっ、ラッッッグ……!! ぐあッ!?」
停止するスカルライダーをハシュマルのテイルブレードが弾き飛ばす。すぐ横にあった崖に衝突し、スカルライダーに大ダメージが付与される。
「…………チッ、クソがァッ!!!」
スカルライダーのHADESが起動。ツインアイを覆うバイザーが赤く光り、機体から悪魔の笑い声のようなノイズ音が放たれる。
体勢を立て直し、今度こそはと大剣を持って突貫するスカルライダー。
その戦いは、熾烈なものであった。
『Record:0, 2, 27, 655』
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プレイヤー毎に存在する専用のコンテナ。その中にはアカウントに登録されている機体が眠り、その中で傷を負っている機体は修理中の表示がされている。
私は今、自分のフォースメンバーであるアノマロカリス先輩のコンテナに来ていた。
「2分27秒…………あのラグが無ければ記録更新出来たのに……」
「何ブツブツしてるのです?」
「うおおびっくりしたぁ!?」
アノマロ先輩のダイバールックはシルバーカラーのハロ。後ろから声をかけたら、ありえないくらい跳ね上がって距離を取った。
「んだよコネコかよ……」
「なんか落ち込んでる様子だったのです。何かあったのです?」
「……GBNって、機体がダメージ食らう度にここで修理するだろ。ミッション毎に待ちぼうけ食らうから苦手なんだよ、このシステム」
「まぁそこは、リアルに寄ったシステムだから仕方ないのです……」
どうやら何かのミッション帰りで休憩中だったらしい。あのカスミさんが自信作とまで言って誇るほどのスカルライダーがあんなに損傷するなんて、一体どれほど過酷なミッションだったのだろう。
「……で、こんなとこまで来て何の用だ?」
「あ、そうだったのです」
そうだ、今はそんなことよりも。
「カスミさんがどこにいるか、教えて欲しい……のです。フォースネストにいなくて……」
「…………いや、チャットで直接聞けばいいだろ」
「いや、直接聞くのはその……」
なんか恥ずかしいし……。
「…………はぁ、めんどくさ。あいつならどうせカフェテリアとかでなんか食ってんだろ」
「カフェテリア……、ありがとうなのです」
「どうも」
やはり幼馴染故、親友がどこに行くかの傾向ぐらいは把握していたらしい。好都合だ。
私はアノマロ先輩の言う通り、カフェテリアの屋外スペースまで向かった。
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カフェテリアに向かうと、そこにはホットドッグを頬張りながら、ウィンドウと睨めっこをしているカスミさんの姿があった。
か、カッコいい…………。
「カスミさ──」
声をかけて呼びかけようとした時、その肩に突然手が置かれ、上げようとした手は掴まれ下に下ろされた。
「貴女、カスミ様を馴れ馴れしく呼ぼうなんて図々しいのよ?」
「え、え?」
「貴女カスミ様とどんな関係? ふざけたことを言うなら今ここでギルティだけど?」
なになになにこわいこわいこわいのです!?
ネットには関わっちゃいけないタイプの人間がちらほらいると言うけど、まさかこの女性そういう人…………!?
「いや、あの私……カスミさんのフォースメン──」
「カスミ”様”よ!!」
「ひぃっ!?」
駄目だこの人、本当に関わっちゃいけない人だ…………!
「貴女はカスミ様のファンとしてなって無さすぎる。来なさい、今から徹底的に叩き直してあげるわ」
「た、たすけ……」
両手首を掴まれ、逃げられなくなる。
目が滲んで、恐怖から震える声で助けを求めると、その女性の手首が掴まれた。
「ちょっと、オレのフォースメンバーに何してんの」
「えっ、か、カスミさん……?」
「カスミ様……!? ど、どうして」
「どうしてって、その子が助けて欲しそうだったから」
女性の手首を掴んだ相手は、カスミさんだった。
顔、近い。GBNだけど、凄い整ってて本当にカッコいい。
「とりあえず、手離してよ。オレも離すからさ」
「ひ、ひゃい……」
オロオロと女性が私の手首から手を離し、それを見たカスミさんの掴んでいた女性の手首を離す。
「あんまり問題起こして欲しくないんだ。この子まだ初心者で、GBNでトラブルが起きてもう来ないってなったら寂しいから。だから穏便にしよ?」
「わ、わかりました…………」
優しい天使のような笑顔に女性は震えながら返事をして、ゆっくりとその場を去った。「カッコよすぎる……」とブツブツ言いながら。
「あ、ありがとうなのです」
「うん、オレもコネコに実害無くて良かった」
カスミさんは立ち上がってから、無言で私に手招きをしてから自分の席へと戻る。『来い』ってことなのだろうか。
確かに、わざわざここに来たってことはカスミさんに用事があるってことだし。
私はカスミさんの後をつけて、カスミさんと対面の席に座る。
「呼ぼうとしてたの聞こえてたよ」
「えっ!? そうなのです!?」
「オレ耳いいから。地獄耳」
初耳だ。そっか、そういうの知れるのも一緒のフォースの仲間だからか……へぇ…………。
「最初はコネコに用事があるのかなってしばらく様子見てたけど、なんかやばそうだったから助けた。すぐに助けに行った方が良かったよね、ごめん」
「あっ謝らなくていいのです! 私もネットリテラシーをよくわかってなかったのです……」
あの女性がそういう問題なのかどうかはさておき。
「そう? ……あ、なんか食べる? 奢るよ」
「え、いいのです?」
「うん。個人的な反省というか、お詫びも含めてだけど」
有り難いけど、憧れの人に奢ってもらうのは少し気が引ける……。
「じゃ、じゃあ紅茶で……」
「紅茶と……何か食べたら?」
「え!? そんな、悪いのです……」
「遠慮しないでよ。好きな食べ物ぐらい知っときたい。婚約者なわけだし」
「……!」
婚約者。
そう、私達は婚約者。
婚約者だから、私にこんな優しくしてくれるのかな。だとしたらそれはなんか、嫌な気がする。
────人生生きづらそうだなと思った。
(……どの口が、言うんですか)
あなたの方が、よっぽど何かに縛られて苦しそうなのに。
「……じゃあ、カスミさんと同じものを」
「わかった。ホットドッグね」
カスミさんがメニューからホットドッグを選択し、料金を払って購入する。すぐに配膳用のハロが接続されたロボットがホットドッグを届けに来た。
ホットドッグを受け取り、先のソーセージがはみ出ているところから頬張る。スパイスの効いたソーセージとケチャップ、マスタードの味、それらを中和するレタスの味が口の中で広がった。
「ん〜! 美味しいのです!」
「そう? ならよかった」
家ではこういう食べ物ってあまり出てこないし、外食も許されてないから、なんだか新鮮だ。それに出してくれたカスミさんの笑顔は、すごく眩しい。
「それで、どうしてオレに会いに来たの?」
「…………えっと、どうして返事を保留にしたのかなって……思って」
この前聞けなかったこと、どうして私の母の人となりを知るために、返事を保留にしたのか。
どうして、そんなことを知りたいのか。それが聞きたい。
「……前にも言ったよ。コネコのお母さんの人物像が知りたいからって」
「それは、そうなのです。でも……なんでそれが知りたいのかが気になるのです」
「あ、そっちか」
カスミさんは私の聞きたいことを汲み取ってから、目を細めて難しそうな顔で思考する。
しばらくして、ようやく口を開いた。
「ごめん、なんだけど…………コネコのお母さんって、いわゆる毒親じゃん」
「毒親……」
確かに、その節はあるかもしれない。
いや、そう思ってしまう時点で私の母は毒親なのかもしれない。
「オレの親じゃないけど、毒親って他にも知ってるから。だからその……コネコが親を吹っ切れるように手伝ってあげたいと思った。ただのお節介だけど」
「…………」
親を吹っ切れたら、自分の力で生きれるようになれば、確かにそれは、縛り付けられた私にとって幸福なことだろう。
なのに、どうしてだろう。
彼の崇高とも言えるような思いが、何処か言われたままにやっているかのように思えてしまうのは。
彼は、カスミさんは、本当にそう思ってくれているのだろうか。
「それ、は……カスミさんが本当にしたいこと、なのです、か?」
「へ……?」
「私にはどこか、他人行儀というかなんというか……受動的にやっているような気がするのです」
「受動的、受動的か……」
私の言葉を受け取り、オウム返しのように呟く。
「あ、えと……ごめんなさいなのです、悲しませるつもりなんかなくて……」
「んーん、何となくそういう気はしてるから。昔からそういう感じだよ、オレは」
本心なのに……と横を向くカスミさんは、何処か遠い過去を見ているようで、一体過去に何があったのか考えるだけで悪寒がしてくる。
彼は、いや彼らは、過去に何があって……今ここにいるのか。
「なんというか、カスミさんこそ何かに縛られているような気がするのです。でもそれは、自ら付けた鎖というか……」
「自ら付けた鎖…………あながち間違いでも無い」
「だったら、どうして自分を──」
「オレのことはいいよ。今こうして楽しくGBNで遊べてるんだし」
「っ……」
「縛られててもその中で自由を効かせればそれでいい、でもコネコはその自由がいつ奪われるのかわからない。だから、奪われる心配がないようにしたいって、思ってる」
そういうことじゃない。
カスミさんの厚意も、優しさも全部嬉しいけど、私が求めているのはそういうことじゃないんだ。
私は、私はあなたの本当の”心”が知りたい。
────でも、それを口に出せない。
言いたくない訳じゃないし、寧ろそう言いたいのに、何故か言葉にできない。
私は、それを口にして、もし自分のことをなんとも思っていなかったらと思うと、尻込みしてしまう。
私は、この『ビルドリバイバル』という中ででも、カスミさんの特別でありたい。
そういう思いの正体がどういうものなのか、それについては今は深く考えない。だけど、今は。
「…………私は」
「……?」
「私は、それだけじゃ駄目だと思うのです。例え自分だけが幸せになっても、その下で不幸を被ってる人がいるなら幸せを分けてあげたい。その人の不幸を受け持ってあげたい。一方的に幸せにすることも、してもらうのも違う……お互いの不幸も幸福も全部分かち合う。私にとって夫婦って、そういう事だと思うのです!」
「コネコ……」
「どうせ結婚するなら! 私はっ、あなたの辛いことも苦しみも全部知りたい! それを教えてくれるまで、私は結婚する気はありません!」
感情のまま、言葉の整合性すらも無視して自分の本音をぶちまける。カスミさんへの想いは隠して。
「カスミさんが私を縛り付けるものを取り払ってくれるなら! 私は、カスミさんが自分を縛らなきゃいけない理由を無くしたい! それを、受け入れて欲しいのです!!」
本心を全部言ってから、ログアウトボタンを押して意識を現実空間に引き戻す。
直前に見えたカスミさんの表情は、なんとも言えない程に悲しみに満ちていた。
「私が絶対に、カスミさんの本当の心を取り戻してみせる…………!」
オールマイトストライクと向かい合わせ、その決意を固める。
カスミさんは、恐らく過去のショックが原因で異常に利他的な性格になったんだと感じる。だけど本人はその自覚が無いし、ちゃんと自分のやりたいことをやってると思っているから、自分も周りもその違いに気づけていない。
(あの2人も、気付いてないのかな)
気付いているなら2人の力を借りたいし、気付いていないならそれでいい。
とにかく今は、あの人の本当の『本音』を引き出したい。その決意の元、親の定めた予備校へと行く準備を始めた。
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「自分で、自分を…………」
心当たりはある。
中学から、ずっとそうしてきた。だからもう自分の心を縛り付けるのは、癖になってしまっている。
「だってそれが”みんなの求める俺”だから……」
仕方ないじゃないか。
そう言えば、きっとコネコはまた怒るだろう。そうだ、オレは臆病な人間だ。誰かにして欲しいと言われなければ絶対に動けない、そんなビビりで臆病な根性無し。
だって、オレが自分の意思でやろうとしたことは、全部裏目に出た。
弟との仲も、あの事故も、親友と寄りを戻そうとした時だって、全部が裏目に出て悪い結果に転がった。
今はこうしてなんとかやっていけてるけど、いつまた、オレが絶望の底に叩き落とされるようなことが起きるのか、それが怖くて堪らない。
だからオレは、他人に言われたことだけをしようとした。
「………………いや」
待てよ。
だったらどうして、『毒親を吹っ切れさせる』なんて言い出したんだ?
コネコに、幸せになってもらいたいから? 何となく嫌いだから? それともアマネの親とコネコの親を重ねて見てるから?
…………全部、”能動的”だ。思い付く理由の全てが、オレが望んで動こうとしていることに他ならなかった。
「どうして、なんでオレはまた過ちを繰り返そうと……?」
まさか、オレがコネコを…………?
どうしてなのか、今のオレには皆目見当が付かなかった。
求めるもの、求められるもの。そのすれ違い。
放置されたホットドッグくんに幸あれ
chapter.1完結!この段階で一番好きなキャラクターは?
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レイメイ/アカツキノ ミナ
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ビリーヴ
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コネコ/コナミ ネコ
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カスミ
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カグラ
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アノマロカリス