『今後の事で話がある。横浜ベースに集合』
カスミからの招集があった。場所は横浜ベース、どうやら今後のフォース活動について話がしたいらしい。
私は今、その横浜ベースに行くために電車に揺られている。心中穏やかでは無いまま。
有志連合戦から2日。シルヴィー・光の結晶体と黒いネオ・ジオングの対決がDDoS攻撃によって弱っていたサーバーにトドメを指し、結果的にサーバー復旧の為の緊急メンテナンスを行うことになってしまった。それは今も終わっていない。
横浜ベースに着くと、その辺りのベンチに既に来ていたネコと、もう1人の金髪の青年が話をしていた。
「……だから保留だって」
「終わりはしたから返事くれてもいいのです」
「だぁから──」
「あの…………カスミで、合ってるよね?」
「…………あ、来たのです……」
「えっと、ハイ、カスミ改めクロートです……」
気まっっっず。
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招集をかけたメンバーは全員揃ったので、とりあえずカフェでゆっくりしようという話になった。カグラとアノマロカリスは忙しくて来れなかったらしい。
(……だったらビリーヴも来れたらよかったのに)
「ビリーヴが気になるか?」
「うぇっ」
両手で持っていたお茶を危うく零しそうになり、慌ててバランスを取る。ふぅ、良かった。
「……仕方ないですよね、恋人の生死がわからないんだから」
「通信も使えなくて、ビリーヴがどうなってるか運営に問い合わせても忙しくって誰も対応してくれない。何よりまだELバースセンターに届け出だしてないし……」
「いや出せよそれは。後見人だろ」
「だって手続き面倒くさそうだしそんな時間割くくらいならビリーヴと一緒にいたいなーって……」
「重症なのです…………」
重症なのは否定しない。ホントに隙あらばビリーヴのこと考えてるし。
だから、ビリーヴに会えてない時間が堪らなく寂しい。虚無感すら覚えてしまう。
「……まぁ、ビリーヴが心配だっていうのはオレ達も同じだから。同じフォースの仲間だし」
「うん。でもさ…………それで不安が消えるわけじゃない。みんなの心配とかそんなの関係無くて、ビリーヴはデータの塵みたいになって消えてるかもしれない」
絶対にないともあるとも言い切れないこと。だとしても、事態は悪い方向に進んでるんじゃないかと妄想してしまう。
「……今は思いっきり不安がってたらいい。もし消えてても、覚悟は出来るだろうから」
「ッ、クロートさ──」
「でも、オレはそんなことを前提にして話したい訳じゃない。希望なんてクソ喰らえとか思って生きてきたけど、簡単に捨てられるほど歳を重ねてる訳でもない。オレは生きてる方に全ベットしてこれからの予定を立てる。2人がどっちにベットするかは2人次第だ」
「っ…………!」
その眼差しは、真っ直ぐに未来を見ていた。私の後ろめたさすらも透視して、それを掻き消すような瞳だった。
カスミは、クロートはこんなにも信じているのに。もっと親密な私が信じてあげなくて…………何が恋人だ。
「…………わかった。私も信じてみる。裏切られることにはもう慣れてるから」
「先輩……! 私も、ビリーヴ先輩は絶対に生きてるって信じるのです!」
「…………そうか」
3人の心持ちが一致した後、話はすぐに今後の事になった。話が長くなるから軽食を奢ると言ってきたので、無難にポテトを頼んだ。ネコはホットドッグ。
「────って、感じだけど」
話の内容としては、これからも一定の活動は続けていくということらしい。これからフェイクデカールの使用者が増えていく中でも、ビビらず全力で遊ぶつもりなんだとか。私とネコもそれには賛成。寧ろネコは「チーター倒して経験値ゲットなのです!」とか息巻いてる。
加えてアノマロからの伝言で、『シルヴィーのスコア6はしばらく封印してくれ』とのこと。私もおいそれとは使いたく無いし、承諾した。それについてカグラから私とビリーヴの仲について不安の声が上がってたけど、私達なら大丈夫という旨を伝えたら、クロートはなら安心だと言ってくれた。
「質問! 具体的に復帰後は何するのです?」
「うん。うちは基本的にメンバーが各々やりたいことやってたまに集まるってスタンスだけど、折角6人いるんだしみんなで出来るミッションとかがしたいと思ってる」
「みんな……か、一匹狼気取ってた頃の私は何処へやら」
「みんなで出来るミッションといえば…………あ、バトランダムミッションとかなのです!」
「お、いいねそれ。タイミング図って参加するか」
バトランダムミッション。フォースミッションの1つで、ランダムに決められたフォースと、ランダムに決められたルールで戦う対戦ミッション。文字通りランダムなので、新参がベテランに当たったり、逆に同じくらいのフォースと当たったりなどのスリルがあるのがウリだ。
「……チャンピオンには当たりませんように」
「ほとんどのフォースがまず最初に祈ることじゃん」
「当たったら神の罰とでも思って突っ込むしかないのです」
「しかないね…………」
というように話していって小一時間。お互いが注文した料理もなくなっていったところで、今日は解散ということになった。ネコとクロートはガンダムベースで少しだけガンプラを買うつもりで残ったから(流石金持ちはコンビニ感覚でプラモ買えるんだ)私は帰ろうとした。が。
「あ、レイメ……アカツキも残ってくれ」
「…………解散の意味は?」
「……さぁ」
解散だというのに何故か呼び止められた。金持ちってなんでこう図太いかなぁ!?
「おぉ! カスタムパーツがこんなに再販してるのです!」
「ジムスナII……! いや待て積みプラにあった気が…………、あれMGだったか……?」
ということで2人がガンプラの箱に目を輝かせているところを、私はただ眺めている。私もなんか買おうかな……と財布の中身を見て諦めた。高校生なのに新発売と再販のものを数箱買ってギブアップとはなんと情けな…………いや、ビルダーの金銭感覚が狂ってるだけだこれ。
「2人とも、生殺しっていう言葉を知ってますか」
「そんなに羨ましいなら自分も買えばいいのです」
「うんうん」
「これだから金持ちは…………!!」
2人とも「じゃあ買えば?」って顔でまじまじと見てくるのが腹立たしくて仕方ない。こんな時はあれだ、そう。楽しい事を思い出してムカムカを鎮めよう。
えーっと、あ。確かビリーヴと会って間もない頃、ビリーヴずっと『ン』を『ソ』みたいに書いてて練習付き合ったっけ。あれ、確かに紛らわしいからなぁ…………。
そんな日々が、終わってるかもしれないんだ。
「あ…………」
「え、ミナ先輩!?」
あれ、なんでだ。楽しい事思い出してたはずなのになんで涙? あれ、あれ、止まんない。え、どうして?
「え、えと、そんなに困窮してるのです……!?」
「あえと、ちがくて、これはその…………」
「アカツキ」
涙が止まらない私を、クロートは優しく辛い目で見ていた。
「…………ちょっと休むのです?」
「ごめん、ありがとね」
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フリースペースで休むこと数分、時計の針はもう3時終わりを回っていた。11月も半ばで日が沈むことも多くなってきたし、そろそろ帰らないとなのにな。
あと、さり気なく水を自販機で買っておいてくれたクロートの彼氏力はヤバい。ビリーヴという心に決めた人がいなかったら詰んでいた。
「えっと先輩、落ち着いたのです?」
「うん。こっちこそ折角の横浜ベースなのに、気を遣わせちゃってごめんね」
「全然、気にしてないのです。寧ろ先輩があんなに思い詰めてるなんてわからなかった私の方が謝りたいのです……」
自分が色々と台無しにしてしまった。こんな向かい風な状況だからこそ、これから先のことに胸を膨らませていなければいけないのに。
「ふぅー買った買った買ってしまった…………。アカツキ、具合はどう?」
「大丈夫……まだちょっと、あれだけど」
「無理しなくていい。オレも同じような経験あったから、その気持ちはわかるよ」
「…………今言うのもなんだけどさ、クロートって本当に23歳なんだよね?」
「うん。先月から23だけど」
「全然見えないんだけど……。見た目じゃなくて態度の重みがなんというか……、一体どんな人生送ってきたの……?」
「…………教えません」
なぜ拗ねる。
(口尖らせてるクロートさんちょっと可愛いのです…………)
「コホン……。実は言い忘れてたことがあった」
「言い忘れてたこと? え、そんなのあったのに解散しようとしたの?」
「直前に気付いて呼び止めた。一通り買い終わってから話すつもりだったけど、まさかあれだけ精神的に来てたとは思わなくて……ごめん」
「いやほんとにもういいから……」
それより直前で気付いた件についてもっと詳しく。こいつって割と天然寄りの性格なのか…………? いやよくよく考えれば、かなり天然だったかもしれない。
「これは、本当は本人の前で話すべきだと思ったんだけど」
「……うん」
「でもやっぱりアカツキの、レイメイの方に言っておくのがいいかなって思って」
「えっと、ビリーヴのこと……?」
「ああ、もし生きていればその…………ビリーヴを、
「…………え?」
ビリーヴを、こっちに。現実空間に。
それはつまり、ビリーヴが、この世界に来るということで。
「クロートさん、先輩はお母さんの説得をしないといけないって……」
「うん。だから今日のうちに話しておいてほしい」
「…………ど、どうして? サルベージしなくても──」
「もし今回助かっていたとしても、また今回みたいな事が起きた時に助かる保証がないからだ」
「ッ……!」
「……だから、1度データの全てをこちらに引き連れる。オレ達と同じにすればサーバーがダウンしてもサーバーの外にいるビリーヴは安心の筈だ」
「な、なるほど……」
「今回は時間が無くて避けられなかった。さっきは生きてる方に全ベットとかクサいこと言ったけど、オレも不安を拭えてるわけじゃない。ただ、生きてる希望を諦めないために、これからも生き続ける希望を潰えさないために、ビリーヴをリアルに引き上げたい。これを決めるのは、後見人のお前と、ビリーヴだ」
希望を潰えさないために、クロートはそこまで考えていてくれたんだ。それなのに私は。
…………ダメだ、気が付くとすぐにネガティブな方向に行ってしまう。そうだ、クロートは私とビリーヴの為にそこまで考えてくれたんだ。だったら私も、それに全力で応えてやるべきだ。
「……うん、GBNが復旧したらビリーヴに相談してみる。提案してくれてありがとう」
「クロートさん……! 先輩達のことをそんなに……!」
「うん。いい返事が返ってくるだろうなって思って、持ってきた」
「…………持ってきた?」
何を?
「そう。ビリーヴのモビルドール」
「…………えぇぇぇぇっ!!!?」
え、え!? もう作ったの!? あまりにも早くない!? だって昨日の今日だよ!?
モビルドールを取り出すため、クロートは自分のリュックの中身をガサゴソと捜索し始める。え、マジで? ホントに持ってきたの? 作ってる途中とかならともかく、完成品を?
「ま、待ってくださいなのです! ビルドデカールは!?」
「は、まだだけど。見た目は完成してるからあとは外付けで貼るだけだよ」
「そ、そんな猛スピードで作れるなんて……」
「瞬間硬化パテは偉大なり」
「いやそんな話じゃないから!?」
1日でビリーヴの身体になるモビルドール作るって相当だよ!? モビルドールって普通はELバースセンターが作るらしくてそれで大体1週間ぐらい待つらしいんだけど、その7日分の労力が全部1日で浪費されてるんだよ! どうなってるの!?
「オレは石橋をド突いてから渡るタイプだから」
「だからそんな話じゃないのです!!」
「見よ、これが1日クオリティのモビルドール、ビリーヴだぁ! どんどん酷評しろ!」
あ、酷評される前提なのね。
それで、置かれた細身で小柄、それでいて華奢な白いガンプラの姿は、まさしくビリーヴの特徴を表しているといえる。
…………表向きはな???
「す、すごい……! 1日でこんなクオリティのものを……!!」
「まぁベースガンプラじゃないんだけど」
「身も蓋もないのです!?」
「なんなら1日しか経ってないから塗料の乾き甘いし…………1日でモビルドールなんて作れるわけないんだなって痛感した」
「作った人が言うと説得力ガタ落ちなのです……」
現在はミッション時に使うMS形態のものだろう。髪は直線的ながら上手く特徴を捉えていて、隙がない。服装も完璧に再現されている。制作時間も合わせ、誰もがこれを傑作と呼ぶだろう。
だが私は違った。
「…………違う」
「え?」
「全然違うっ!!!」
本当に違う、これをビリーヴの現実空間の姿などと認めたくは無い。
「違う? い、いや……だって本物と遜色ない出来のものを1日で用意したのですよ?」
「こんなものをビリーヴの器にしてたまるかぁ!!」
「こんなもの!?」
「見た目も服も完璧、どうせ中身も高性能なんだろうけど!! 違う違う違う、ビリーヴの身体はそんな『ただのガンプラ』で務められるわけが無い!!」
「これの為に1枚絵描いたのに!?」
「描いてこのザマか貴様ァッ!!」
「ちょ、ミナ先輩ご乱心なのです!?」
ということで散々キレた末に、色々とアドバイスを貰いながらも私が作ることになった。見てろ三流共、私が最高のビリーヴの身体を作ってやるからな……!
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そして、翌日正午。
この日は多くの人が喜びに満ちたことだろう。GBNのサーバーが復旧し、人々がまたあの夢の世界を旅できるようになったのだから。
「……待っててね、ビリーヴ……!!」
GBN復旧! フェイクデカールとの戦いはまだ終わらない!