わたしの名前はビリーヴ。フォース『ビルドリバイバル』に所属するELダイバー…………らしい。
わたしには記憶がない。覚えているのは少しの情報と、あの微かな意識の中垣間見た、『二本角の黒いガンプラ』の姿だけ。それに加え、ビルドリバイバルの人達はみんなわたしのことをよく覚えているらしい。
特に、あのレイメイって人。あの人とはリアルで会った初めての人で、わたしと共同生活を行っている。とはいえ、ほとんどこのGBNで暮らしているらしいんだけど。
「…………今日もいないんだ」
彼女と出会ったのは、わたしが記憶を失ってから初めてこのGBNに来たときに案内してもらった1度きり。今日も昨日も一昨日も、ビルドリバイバルの基地だっていうここにはいない。リアルでも会話はしてくれない。ただ、わたしを見る度に辛そうな目をしてベッドの中に入っている。
「…………」
「…………」
そして、ここにはもう2人、コネコとカスミがいる。あと、カグラとアノマロカリスというのがいるらしいが、最近はレイメイと同様に席を外しているそうだ。
「ねぇ。2人とも」
「っ……、な、なに?」
「ど、どうしたのです? ビリーヴ先輩」
「レイメイ、どこ?」
「さ、さぁ! オレには皆目検討も……」
「み、ミートゥー……なのです」
「…………そっか。じゃあ、今日も自分で探してみるね」
わたしには記憶がないから、彼らのことも全く知らない。だけど、彼らはわたしのことを、わたしが忘れた分も覚えているのだろう。それには、ただ申し訳なさを感じている。
色んなダイバーが集まる場所、セントラルディメンション。いつもここでレイメイの情報を集めてる。会話を聞いたり、会話したり。色々。耳をすませば、色んな声が澄んで聞こえる。
「おい、聞いたか? ヴァルガの……」
「あぁ聞いた聞いた、ものすごい速さのビットで無差別にぶっ殺すんだと……」
「おっかねー……。やっぱあんなとこ近付くべきじゃねぇな……」
「ヴァルガ…………」
ハードコアディメンション:ヴァルガ。なぜか覚えている場所だ。そこが一体どんな場所なのかはあんまり覚えていないけど、危険だというのは身体が経験している気がする。
ビットをものすごい速さで、無差別に…………まだ、情報が足りない。
「なぁ、流石にもうやめようって……」
「いやいや、ビリーヴ先輩機体持ってないんだから絡まれたとき危ないのです!」
あのコソコソしてる2人は何も知らないし。
本当、レイメイはどこにいるんだろう。そう問いかけても、わたしの中のわたしは何も答えてくれない。答えるための情報が、頭からごっそりと抜け落ちているから。
じゃあもう、なりふり構ってられない。わ…………わらだっけ? にすがるような思いで、ヴァルガに行こう。でも一応、危険だし。
「ねぇ、2人とも」
「ひゃうわっ!?」
「なんでわかった!?」
わたしが呼ぶやいなや、ものすごい勢いで2人が飛び出してくる。ひそひそ話してて、それで隠れてるつもりだったんだ。
「コソコソしてるのバレバレだったよ。すとーかー」
「ストっ……!?」
「どどどどこで覚えてきたのです!?」
どこって、わたしの頭の中にあった数少ない情報だけど。まぁいいや。
「連れてってよ、ヴァルガ。そこでレイメイ探すから」
「はぁ!?」
「あ、あんなところに!?」
この2人さっきから驚いてばっかりだな。
「ものすごい速さのビットを操って無差別にぶっ殺すガンプラ……もしかしたら、ガンダムシルヴィーかもしれない」
リアルで度々見ている、白い装甲と黒いクリアパーツ、たくさんのビットで構成されたガンプラ。ビットがあるのと、なんとなく速そうって思ったから候補にあげてみた。
「とは言ったって、ヴァルガは無法地帯の危険領域だ。エクバで猿叫上げてるような連中が集まる魑魅魍魎のカオスフィールドだぞ」
「散々な言い様なのです……」
「エクバとかちみもうりょうとかよくわかんない。とにかくわたしはレイメイに会いたいの」
「……言っとくぞ。オレ達ダイバーは耐久値ってのが設定されてて、それがゼロになると一時的にリタイアになる。でもお前らELダイバーは違う。耐久値がゼロになったら死ぬ、永遠の孤独ってやつだ」
「…………」
死ぬ、か。今のわたしの頭の中にはない言葉だ。永遠の孤独……孤独がわかんないけど、注意してるってことは嫌なことが永遠に続くのだろう。
だとしても、わたしは。
「構わない。レイメイに会えるなら、それくらいの危険は大丈夫」
「大丈夫って……一歩間違えたら死ぬのですよ!?」
「間違えそうになったら止めてよ。あなた達の方がよっぽど詳しいでしょ」
「そら止めるつもりだけど……」
「じゃあいいじゃん。連れてってよ」
わたしの望みに素直に頷けられないのか、2人は難しい顔で思案し始める。そんなに難しいことなのかな、それ。
「…………ほんとに、行くつもりなのです?」
「うん。1週間ぐらいここにいるけどレイメイの情報は出てこない、だったらもうジリ貧でしょ」
「
「そこは頑張ってほしい」
「え……」
「わたしは行きたい。死ぬとかどうとかよくわかんないものに悩まされるくらいなら、わたしは進むよ」
わたしの決意を聞いた2人はお互い見合わせて、カスミの方がこっちを向く。
「……死ぬリスクをそんな理由で乗り越えるのなんてお前くらいだぞ」
「いいじゃん、それで」
「私達の根負け、なのです」
2人ともわかってくれたみたい。よし、ヴァルガに行こう。
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吹き荒れる風、一面の砂漠、そして散りばめられた残骸。
ハードコアディメンション:ヴァルガは、どうやらわたしの想像よりは安全っぽかった。てっきりいるだけで耐久値が減るようなところかと思ってたから。
「うぅ、まさか待ち伏せスナイパーとかいう輩がいるとは思わなかったのです……」
「思ってないものを警戒する必要があるんだ、ここは」
「子慣れてるね」
どうやらカスミは度々ここに来てはストレスを発散していたらしい。最近は忙しくてあんまり来れてないみたいだけど。
「にしてもヴァルガで人探しとか普通に正気を疑うぞビリーヴ」
「そんなこといいから下ろして」
「死ぬからやめとけ」
「わかった。やめる」
死ぬんだったら仕方ない。上空の情報は降りた方がわかりやすいと思ったんだけどな。
「じゃあ、ガンプラの手のひらに乗せてよ」
「オレの両手がお留守になるんですけど……」
「乗せて」
「うぐ…………コネコ、前に出てくれない?」
「いやそこは断って欲しいのです!?」
「だめだよ。前にコネコのガンプラが来たら見えないでしょ」
「いやそこはコネコに探させたらいいでしょ」
「そっか。じゃあコネコ、前に出て」
「味方が、味方がいないのです!」
そういうことで、後ろをカスミ、横と下をわたし、前と上をコネコが見るフォーメーションを組む。
「ていうか、カスミさんはどうやって後ろ見るのです? メインカメラは前にあるんじゃ」
「首を人間じゃありえない方向に持ってってる。これで噂が人違いでしただったら本気でキレるからな」
「わかってる。風強いから、前見ないでね」
「うるさい」
なんとなく気にするのは、無意識的な行動なのかな。見えてるかどうかもわかんないのに。
横にも後ろにも、ガンプラらしいものは見えない。というか、変に静かな気がする。
「それにしても、人っ子一人いないのです」
「とりわけヤバいのがいるか、徹夜してる連中が全員病院に行ったか……は流石にないか」
「とりわけやばい…………レイメイのことかも。すっごく強いんでしょ?」
「ああ、1回戦ったがあと少しでやられるところだった。五体不満足だったし」
「腕1本持ってくなんて、やっぱりレイメイ先輩は凄いのです」
また知らない話。その時、記憶を失う前のわたしはいたのかな。
「…………ハッ、正面方向から敵、多めに来てるのです!!」
「バラエティ常連の定食屋ってとこか!」
「ばらえてぃ……?」
何やら聞き覚えのない単語が出てきたけど、まぁいいや。それよりわたし、結構危ない。
「ファンネル……大気圏内で使えてくれ!」
「私がなんとか引きつけるのです!」
カスミのガンプラの後ろの羽みたいなものが展開し、両腕のシールドが分離して飛び立つ。そしてコネコのガンプラが背負っていた大きな大砲を持って前にビームを放つ。
「っっ…………! わたし、いると邪魔じゃない!?」
「そう思ってんなら乗り込めよ!」
「やだ! 見づらい!」
「確認取ってから我がまま言うのは意地悪過ぎだろ……! クソッ、ファンネルに仕事させるから容赦無く盾にして構わん!」
「いや、あれ元々盾なのです!!」
カスミが飛ばしたシールドからもビームが放たれ、遠くに小さい爆発が起こる。
「機影確認…………な、何のMSなのです!?」
「こいつら、ゼクアインにミラージュフレームにアマクサ!? ドッッッマイナーな機体持ってきやがって!!」
「全部知らないガンプラだ……」
全身真っ青でずんぐりむっくりなガンプラ、白と紫で所々に爪のようなものがあるガンプラ、銀色で目がバッテンのガンプラ。コネコは知らないけどカスミは知ってるみたい。
『おお? ありゃ師範代じゃねーか!』
『漁夫って来たわけかー?』
「なんかゴタゴタ言ってるのです」
「全く聞き取れん、ミノフスキー粒子でも撒かれてんのか?」
何やら言っている様子だけど、わたし達の方じゃ何も聞こえない。
「つーか機影少なくない? 多数引っかかってあの威嚇射撃、落とすつもりもねぇし落とされても数機だろ」
「おかしいのです……」
2人が遠くの方を見ているけど、先に何がいるかはわからない。攻撃されて下がっちゃったのかな。
と思っていたら、警戒してなかった3機のガンプラに接近される。
「あ、やべ」
『師範代助けてくださ〜い!』
『あいつらおっかねぇんですよ〜!』
3機のうち、白紫と銀色の方が話しかけてくる。どうやら助けを求めているようだ。
「ん? どうしたんだよ」
『俺らの仲間みんなやられちまったんすよ。今は攻撃受けて後退してますけど、そのうち戻ってきますよ。あの
『アイツラ、キケン』
「マスダイバー、なのです……?」
銀色の方が説明し、続いて青色の方が片言で危険度を伝えてくれた。マスダイバーというのがよくわからないけど、どうやら危険なダイバーらしい。
「フェイクデカールもう普及してるのか……。ネトゲの宿命だな」
『ところで師範代、その掌の女の子はなんですか?』
「あぁ……機体も無いのにヴァルガで人探ししてる馬鹿野郎だよ」
馬鹿野郎…………って、わたしのこと? なんかちょっと気に食わないんだけど。
「わかったらさっさと避難しろアホビリーヴ。ミラージュフレームとアマクサ、お前らスクラッチ組だろ。よく出来てる」
『あ、アザッス!』
『師範代に褒められるなんて……!』
「そんなの作れるやつらがやばいやばい言ってんだから流石に避難しろ。わかったか」
「むぅ……」
確かに死なないためにはそうするしかないよね。馬鹿とかアホとか言われるのは嫌だし、ここはカスミのガンプラの中に逃げるしか──
「危ないのですッ!!」
『うおおっ!!?』
『アイツラ、戻ッテキタ!!』
突如降り掛かってきた攻撃をコネコが必死に受け止める。カスミのシールドもあってか防ぐことは出来たけど、攻撃を受けたってことはつまり。
『さぁ行くよ、お前たち!!』
砂煙からやってきたのは、緑色の鈍重なガンプラ。その背後には、おびただしい数のガンプラが何機も浮かんでいた。
「ルブリスウルにガンヴォルヴァだと……!?」
「い、一体何機いるのです……!?」
『不味い! あいつら、一機一機にフェイクデカールが貼られてんすよ!! まともにやり合ってもかないっこない!』
「だからって──」
『アブナイッ!!』
立ち向かおうとしたコネコを青色のガンプラが庇い、撃墜される。その風圧が激しくかかり、目の前が見えなくなる。
『ドラッツェーっ!!』
「ゼクアインなのにダイバーネームがドラッツェ……? って、困惑してる場合じゃないのです!!」
『強化されたフェイクデカールの力、見せてあげるよッ!』
「ぅあッ…………!!?」
なに、何この痛み。痛い。痛い。痛い!! 頭に、キリキリとした音が鳴り響いて、かき乱すみたいに乱雑に…………痛みが……!
「があっ、ッ……!!」
『そっその子、いきなり苦しみ出したんすけど!?』
「良心痛むならお前らも戦え!! お前はさっさとコクピット入れ!!」
「うぐ、ひっ…………!」
「ったく、こんなこったろうと思ったから連れてきたくなかったのに……!」
痛い、痛い、痛いことしか考えられない。辛い、苦しい、たすけて。誰か、助けて……!
「たす、け──」
誰かもわからず助けを求めた、その時。わたしの横を、赤い光が通った気がした。
『うわあっ! な、なんすか!?』
『いっぱい来てる!!』
その光はどんどんと量を増し、やがてその光を放っている白い箱、緑の剣が姿を現す。
「あ、あのビットは!?」
『来たかい、噂の『マスダイバー狩り』!!』
涙で滲み、おぼろげな視界の中見えた白いガンプラ。あれは、あのシルエットは。
「ガン、ダム……シルヴィー……!」
「…………なんで、ここにいるの。ビリーヴ……!!」
その声。あの日以来初めて聞いた、とても馴染みのある声。
その悲痛な叫びに、わたしの心のざわめきは加速した。
次回、フェイクデカールVSマスダイバー狩り! ビリーヴとレイメイの行方は……。
キャラ解説
ビリーヴ(メモリー消失後)
フォース『ビルドリバイバル』に所属するELダイバー。
リアルへのサルベージの最中にメモリーデータが消失し、実質的な記憶喪失に陥ってしまった。これが原因でレイメイ、カグラはフォースネストに顔を出さなくなってしまい、ビルドリバイバルは存続の危機となってしまう。
レイメイへの底無しの愛情が失われた影響か、記憶を失う前よりも知識欲が凄まじいことになっており、自分の知りたいものを知るための余念がない。なお、記憶を失う前に身につけた知識の一部は引き継がれており、本質的な部分は変わってないと思われる。
モビルドール形態は存在自体を知らないので使用しない。