ガンダムビルドダイバーズ:BR   作:レイメイミナ

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小泉アマネ大活躍回


第37話「Q&A 飯綱ヒカリとフェイクデカールについて」feet.A

 とあるマンションの3階は、そこそこの高さがある。一面に並ぶドアの内1つの前に立って、すぐ横のインターホンを鳴らす。

 

「はーい、えっと、どちら様で?」

 

 出てきたのは少しだけほうれい線の入っている40歳程度の中年女性。ここの住人だろう。

 彼女に向かって俺は嘘の笑顔を貼り付け、名刺を持って自らの名義を名乗る。

 

「はじめまして、小泉探偵事務所の小泉です。飯綱ヒカリさんは、ここにおりますでしょうか」

「ヒカリ? ヒカリは私の娘ですが、何かあったんですか?」

「娘さんだったんですね。はい、ヒカリさんがサイバー犯罪に巻き込まれたという話を聞いたので、少しだけ話がしたいと思いまして」

「そうなんですね、どうぞ上がってください」

 

『サイバー犯罪』というワードを見るなり彼女は表情を暗くして、躊躇いなく俺を家に上げてくれた。

 俺の目的は、飯綱ヒカリと直接コンタクトを取ること。娘はいないようで、広い室内はがらんとしていた。

 

「探偵さんなんてはじめてですよ。お茶しかありませんが、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 ヒカリの母が椅子に座るよう促されたので、それに従って席につく。彼女は麦茶を注いでから俺の対面になるように座り、俺にそれを差し出した。

 

「まずはじめにお伺いしますが、奥様は娘さんが犯罪に巻き込まれていることについてご存知でしたか?」

「いえまったく、今回が初耳です。私は夫と共働きなのであまり娘と話す機会がなく、完全に失念していました」

「なるほど」

 

 適当に相槌を打って、次の質問に切り替える。

 

「次に、あまり聞くのはやぶさかなのですが、娘さんはお幾つになるのでしょうか?」

「今年で15になります。受験を控えている時期です」

「受験、ですか」

 

 やはり飯綱ヒカリはフェイクデカールのことを他言無用にしてるらしい。とはいえこれで確定したのは、スタルは飯綱ヒカリではないということ。スタルの声は完全に成人男性で加工している様子もない。対してヒカリは15歳の受験生で、この母親の娘。関連性はあるにしても別人であることはわかった。

 ここから飯綱ヒカリがカモフラージュ用の偽名で本人とは全く関係が無いか、それとも飯綱ヒカリは奴の尖兵なのかを問い詰める。

 

「まさか、そんな時期なのに巻き込まれてしまうなんて」

「私としても遺憾です。これから大変なのに、酷い話ですよね」

「娘は、一体どんなことに巻き込まれているのですか?」

「ヒカリさんはネット上の犯罪集団の一員になってしまっている可能性があるんです。本人に自覚がないにしても、どこかの拍子に個人情報が抜かれていたり、クレジットを不正使用されたりしているかもしれません」

「そんな…………!?」

 

 俺が提示した可能性の話にヒカリの母は驚愕した。どうやら本当に何も知らないみたいだ。

 

「私の調べです。より確実にするために、娘さんとお話したいのですが……」

「あの、お聞きしますけど、教育委員会などは何をしているのでしょうか?」

「さぁ、今回の件には気付いていないかもしれませんね。何せインターネット上のことなので、委員会だけでは追い切れない。私は警察と提携して、娘さんの調査をしているんです」

「なるほど……。では娘のことをできる限り話した方がいいですね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 麦茶を1口含んでから、彼女は話し始めた。

 

「娘は……ヒカリは、とてもしっかりした子です。礼儀正しく、真面目で、色んな人から慕われています。書道では段位を取るほどですし、ガンプラ? というものでも、素人目からでもすごい作品を作っています」

「ガンプラ…………?」

 

 これは、一概に無関係とも言えなくなってきた。

 

「私はよくわかりませんが……娘は熱心に取り組んでいますよ。何かお気にさわりましたか?」

「いえ、友人がよくその話をしてくれるので」

 

 言うべきか。いや、これを言えば恐らくヒカリはガンプラを止められるだろう。それは、やっていいことなんだろうか。

 …………こんなことで悩むとか、俺も案外人を捨てちゃいねぇな。

 

ガチャッ

 

「っ…………」

「あ、ヒカリが帰ってきたみたいですね」

 

 リビングのドアが開き、セーラー服に身を包んだ少女が入ってくる。

 青と白を基調としたオーソドックスな制服、髪は真っ黒なショートボブで、前髪によって隠れた右目が辛うじて見える。

 

「ただいま…………その人は?」

「おかえりなさい、ヒカリ。ちょっと大事な話があるから、座りなさい」

 

 威圧しないようできるだけ優しく促す。飯綱ヒカリと思しき少女は母の隣の椅子に座り、俺の方をじっと見つめた。

 そして、口元を見て何かを思い出したかのように顔色が悪くなる。母親はそれに気付いていない。

 

「お母さん、話って……?」

「…………、ヒカリ、正直に話して頂戴。ヒカリがどんなことに巻き込まれていても、お母さんはあなたの味方よ」

「…………え……?」

「言いづらいならいくらでも待つわ。だから、お願い」

 

 不利益を考えていない、本気で心配している声色。

 不安を仰がないように、できるだけ優しく接している態度。

 家族って、こういうものなのか。ロクな両親から生まれてない俺は、驚きを隠し切ることが出来なかったと思う。

 

「…………どうして、そんなこと知ってるの」

「こちらの人に聞いたわ。ヒカリが危ないことに巻き込まれているかもしれないって。私としては、何もないと思いたいけれど」

「そう…………なんだ」

 

 ヒカリは深く俯き、仄暗い顔をして顔を上げた。

 

「お母さんには、話したくない。心配かけたくないのもあるけど、私が話さない方がいいと思ったから。もしお母さんが巻き込まれたら、嫌だよ」

「……そう、わかったわ。寝室の方に行ってます。話が終わったら言ってね、ヒカリ」

「うん」

 

 俺の方に会釈をしてから立ち上がり、リビングから出ていった。

 俺はヒカリの方に向き直り、彼女に対して一言。

 

「スタル」

「ッ…………!」

「この言葉に聞き覚えは?」

 

 ヒカリは小さく肩を震わせながら答える。

 

「…………マスダイバーの、リーダー」

「やっぱあいつが主導か。ま、これでお前がマスダイバー陣営に組してるのはわかったな」

 

 俺は取り繕うことも無くヒカリに対し直球を投げ付ける。

 

「答えろ。スタルのこととフェイクデカールのこと、全部だ」

「……住所、誰から聞いたんですか」

「それくらい秒で特定できるさ。別にお前をどうこうするつもりはない」

「あなた……あの時の、私を締め付けた」

「ん? ああ……」

 

 なるほど、そういうことか。

 スタルは自分の思っていたよりずっと外道のようだった。

 

「……? どうか、したんですか?」

「いや、お前スタルから『俺のことを詮索するやつが現れたら自分の本名を答えろ』って言われてたんだな」

「まぁ……はい、そうなりますね」

 

 ヒカリの顔はずっと暗く、辛気臭い印象のままだった。

 

「それにしても、あんだけのことされた割には随分平気そうだな」

「平気なわけ…………いえ、マスダイバーの人達と対面した時に比べたら。びっくりはしましたけど」

「そうか。じゃあ話を戻す。スタルとフェイクデカールの正体、その両方を答えろ。お前が知らないことは後から調べるから知ってることだけでいい」

 

 ヒカリは俯いて答えるのを躊躇っていたが、やがて観念したように口を開いた。

 

「………………スタルとは、ネットの掲示板で出会いました。ネットではよくあるGPDに心を捕らわれた人達の巣窟……みたいなところです」

「んなとこに書き込むってことはお前もそっち側ってことだろ?」

「…………昔見たGPDの世界大会、あの熱狂が忘れられなくて。私にとってガンプラバトルは手に汗握るスポーツだったんです。決して今のGBNのような、コントローラーを握るゲームじゃない」

「確かに所詮は情報のやり取りでしかないGBNに、お前の望んでる理想は押し付けられねぇわな」

「…………意外ですね。てっきり否定してくるものかと」

「するつもりもねぇよ、一理あるしな。だが見かけは何も変わっちゃいない。子供騙しと言やそれまでだが、逆に言えば騙されるほど童心に還れる素敵なゲームってことだよ」

「一理、ありますね」

 

 特に意思が揺らいでる様子は無い。だがスタルに対しては少し思うところがありそうだ。

 

「……で? スタルと会ってそっからは?」

「まだ幼かった私は彼の言うことを信じ込み、3年前にマスダイバーとしてブレイクデカールを使用していました。GBNの脆弱性とGPDの優位性を知らしめるために」

「だがそれは失敗した。今こうしてお前らが動いてんのがその証拠だ」

 

 俺の言葉にヒカリは控えめに頷き、話を続ける。

 

「皆さんの言う、第1次有志連合戦。あれによってマスダイバーは大敗を決し、その後配布された修正パッチによってブレイクデカールは根絶されました。スタルは相当ショックだったらしく、3年間何も連絡してきませんでした」

「その3年間何してたかは聞くまでもない、か」

「はい、スタルは3年で修正パッチを乗り越えたブレイクデカール、フェイクデカールを完成させてチートゲーマーに完成品のガンプラと共に売り付けました。彼らは単純だったんです、大物ブランドのゲームを破壊するという一大イベントにどんどん食い付いていって…………」

「新生マスダイバー軍団が誕生した。お祭り事に参加すんのは人の性だな」

 

 にしてもこいつ、3年前ってまだ小学生だろ? それでチート使ってゲームやってたとか、親に同情せざるを得ないな。

 

「私に声がかかったのはついこの前のことです。中学生という立場から声を上げることで、運営に打撃を与えられるかもしれないという打算で」

「つまりお前は、汚ぇおっさん共のピーピー嘆く声を世界に発信する電波塔…………つまりマスダイバーにとってのアイドルってことか」

「どうとでも言ってください」

 

 ヒカリは自嘲混じりに笑った。

 自分のワガママを通すために中学生すら使うとか、イカれてんだろスタル。

 

「……まぁいい、状況はよくわかった。その様子じゃスタルも顔を明かしてないわけだし、これ以上は話しても無駄だな」

「あんまり、お役に立てなくてすみません」

「んなこたねぇよ。情報の繋がりはお前が思ってるよりも根深く、強い。よく覚えておけ」

「…………はい」

 

 麦茶が注がれているコップを仰ぎ、その中身を飲み干す。そうしてからヒカリは俺に対して呟いた。

 

「…………私は、どうすればいいんでしょう」

「は?」

「騙し騙しでやって来て、マスダイバーとかって嫌われるの、すごく嫌で…………なのにみんなはやれって言うんです。私はマスダイバーとして、戦わなきゃいけない」

「…………」

「これは私が望んでるガンプラバトルじゃない。スタルにそう言っても、我慢しろとか必要なことだとかばかりで………………もう、私はどうしていけばいいかわかんないんです」

「だったらもう寝返ってGBNのダイバーになればいいだろ」

「それは………………そうなんですけど、」

「…………ハァ、めんどくせぇプライドだな」

「わかってます。わかってますけど…………!」

 

 俺は立ち上がり、ヒカリを見下ろす。彼女は突然のことに少し怯えてる様子で、目がすくんでいた。

 

「本ッ当にめんどくせぇ。だったらお前は黙ってスタルに従ってろ」

「え…………?」

「その根性をスタル諸共ぶっ潰してやるよ。そうすりゃ気も晴れんだろ」

「ッ…………!」

「ま、俺の言う通りこっちに寝返ってもいいけどな。どうするかはお前次第だ」

「私、次第…………」

「話はこれで終わり。覚えとけよ、お前は何をしてもされても法が守ってるってことをな」

「っ…………、わかり、ました」

 

 その言葉を最後に俺と飯綱ヒカリの話は終わった。

 

────────────────────

 

「本日はありがとうございました」

「いえいえ、いきなり押しかけてきてすみませんでした」

 

 ヒカリの母の感謝をお世辞で返し、玄関のドアノブを握る。

 

「引き続き調査を続けます。学校の方にも今回のことを話しておくので、どうかご理解の程を」

「はい、よろしくお願いします」

「それでは、娘さんが安心して受験に臨めるよう務めてまいりますので、これからもどうか娘さんにとって自慢の母親であり続けてください」

「はい。本当に、本日はありがとうございました!」

 

 ニコニコした笑顔に見送られながら外に出て、廊下の端にある階段を下った。

 そして、マンションの入口付近で立ち止まり、スマホに送られた複数枚の写真を睨みつける。

 

(これでお前が未成年に絡んでいる証拠を掴んだぞ、スタル。お前が社会的に死ぬのはもう時間の問題だ)

 

 俺が仕掛けた(カメラ)が捉えたのは、複数人の成人男性と飯綱ヒカリが公園で話している様子。その中で、黒フードを被った男はとある紙をヒカリに差し出している。

 

(フェイクデカールか……? マスダイバーだが持ってなかったとか、いやもしかしたら)

 

 既存のフェイクデカールを超える強化版…………だとしたら相当不味い。第3次のようなDDoS攻撃に加えてあれ以上の負荷をかけられたら、今度こそGBNは終わる。

 早急にカツラギに、依頼人(トリ)に報告しなければ。

 

(……まぁいい、なんにせよスタルは絶対に潰す。あいつは俺の地雷を踏んだ、カグラの地雷もだ。そして…………全GBNユーザー5000万を敵に回した。あらゆるゲームで1番冷めるのはチーターの存在だ。気に入ってるゲームをぶっ壊されそうになったツケは、払ってもらう)

 

 写真を仕舞い、俺は事務所に向かって歩き出した。

 後ろをつけてくる人影に、気づかないフリをしながら。

 




力に囚われたものほど、その恐ろしさに気付かない。

キャラ&設定解説ver.3

スタル
マスダイバーのリーダー。
GBNを偽物の世界、ELダイバーをバグだと言い放ち、GPDこそが至高だと唱える狂人。その執念は凄まじく、フェイクデカールと完成品のガンプラをチートゲーマーに売り付け仲間にした上、GBNの運営を脅す為に海外のハッカーを雇うほど。
その素性は謎に包まれ、アマネとクロート、運営が腕を上げて捜索しているが、未だその尻尾は掴めていない。

飯綱ヒカリ
一般的な女子中学生であるが、同時にマスダイバーのブロパガンダを担う存在。
かつてはスタルと共にマスダイバーとして戦い、3年後の現在に再び立ち上がった。………………という評価を下されマスダイバー陣営からは半ばアイドルのように慕われているが、本人は今のマスダイバー、そしてフェイクデカールの在り方に疑問を呈している。
黒い髪をショートボブ程度の長さに抑え、前髪が右目にかかるほど長い。右目は他の人からは辛うじて見える程度。

フェイクデカール
スタルがブレイクデカールを元に制作した違法ツール。
ブレイクデカールのGBNのサーバーをハッキングして証拠を隠滅する機能オミットし、代わりにブレイクブーストによる過剰なまでの強化によりサーバーへ強い負荷を与える代物へと成り代わった。
また、ブレイクデカールの根幹ともいえるハッキング機能をオミットしたことで運営が持つ修正パッチをすり抜ける性質があり、カツラギらエンジニア達からは根本的にブレイクデカールとは違うガワだけの別物という扱いを受けている。
これに対し、アンシュ=シバ・ツカサはノーコメントの体勢。

chapter.2完結!この段階で一番好きなキャラクターは?

  • レイメイ/紅月ミナ
  • ビリーヴ
  • コネコ/小南ネコ
  • カスミ/霧雨クロート
  • カグラ
  • アノマロカリス
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