「よぉ! 俺の名はカザミ、人呼んでジャスティスナイト! 今日はな──」
「お兄さん」
「どわあああっ!!?」
カメラに向かって話しかけてる人が突き出していた肘を指でトントン叩くと、その人がものすごい勢いで後ろに退いた。
「え、何、女の子……!?」
「お兄さん、恋愛についてどう思う?」
「……はい?」
「恋愛について、どう思う? 教えて」
「えーっと……お、お兄さん今配信中だから! 後にしてくれないかなぁー……?」
「教えて」
「………………も、もう少しだけ待っててくれな──」
「教えて」
「こ、この子人の話を聞かねぇー…………!」
奇抜な格好をしたお兄さんは、カメラの表示を切ってから観念したように話し始めた。
「あぁー、恋愛ねー…………なんつーか、その、青春、的な? 笑いあり涙ありの甘酸っぱい感じっつーか……そんなだろ。多分」
「投げたね」
「うぐっ…………! 仕方ねぇだろ俺そういうの経験ねぇし!」
青春、笑いあり涙ありの甘酸っぱい感じ…………なんだか的を得ない。意見候補としては弱い気がするし、それに……。
「どれもやってる気がする…………」
「な、なんだよほんと……」
「じゃあね」
「え?」
お兄さんに軽く会釈? をしてから立ち去る。使い方合ってるかなこれ。
「な、なんだったんだよ…………」
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最近、考えてることがある。
レイメイについて、わたしは何も知らない。それはわたしが記憶喪失であるからに他ならないんだけど、それはそれとしてレイメイはリアルでもGBNでも自分のことをあんまり話したがらない。
だけど、自分が追い詰められている時や心が弱っている時は、独白のように話してくれることがある。ヴァルガの……レイメイのお父さんの話もそうだったと思う。
(なんというか、ちぐはぐだな)
多分、記憶を失う前のわたしだったら気付かなかっただろうレイメイの欠点。こういうのを、恋に盲目だとか言うらしい。カグラが言っていた。
フォースネストに帰ると、カスミが銀色の何かに対して話しかけていた。流行ってるのかな、ものに話しかけるの。
「カスミ」
「うおお!? び、ビリーヴか……」
「わたしってそんなに影薄い?」
「いや、影薄いっていうか色素が薄いっていうか…………」
「いや、音がねぇだけだろ」
「それだ」
「喋った?」
銀色の物体から突然声がしたので驚いた。どうやらダイバールックとやらの1つだったらしい。
「それ、なに?」
「モノ扱いですってよアノマロさん」
「学生時代に比べりゃマシ」
「…………その人、誰?」
「配慮した……」
わたしの言い直しに少し驚愕してから、カスミは引きつったように紹介してくれた。
「えっと、こいつはアノマロカリス。しばらく来れてなかったメンバーの最後の1人」
「アノマロカリスだ。見た感じマジでメモリー飛んでるらしいな」
見た感じ口に見える曲線のラインは動く様子はない。代わりに、一語一語話す度に瞳が赤く光っている。
それにしても、この人はあんまり心配してない……?
「…………ショック、じゃないの?」
「あ? 別に他の連中は乗り越えてんだろ。だったら今更おんおん泣いてもしゃーねぇだろうが」
「あー、アノマロは妹が記憶喪失だからちょっと慣れてんのか」
「ま、そんなとこだ」
「へぇー……」
なんというかどういう人なのかがわかりやすい。カスミみたいな掴みどころの無さや、カグラみたいな壁の高さを感じない、コネコにも似た真っ直ぐな感じ。まん丸の見た目だけどよくわかる気がする。
「なんというか……アノマロカリスとは接しやすいね」
「珍し。こいつすぐ毒言うから嫌われまくってんのに」
「あ? お前も風評ボロカスじゃねぇか」
「ほら」
「ううん、まっすぐ言ってくれる分わかりやすい気がするから。そこは助かる」
「…………」
わたしの言うことにカスミは懐疑的な様子で、ジトリとアノマロカリスを凝視している。対してアノマロカリスも「なんだよ」と言いたげに睨み返している。
「…………これがねぇ」
「失礼な野郎だなぁ。お前もなんか言ってやれよ」
「え、わたし? うーん…………人を疑うのはよくない、とか?」
「疑問を呈すな」
「だって難しいもん」
「ハァ………………まぁいいや」
ため息のような声を発したあと、アノマロカリスによって話が切り替わる。
「今日来たのにはお前に用があるからだ、ビリーヴ」
「わたしに用? それってなに?」
「メモリーが飛んだ時、言い換えればお前が目覚めた時だ。その時、お前には何らかのイメージが見えていたはず。それが知りたい」
「イメージ…………」
思い当たるものはある。おそらくあの黒いガンプラのことだろう。でも、なんでこんなこと聞きたいんだろう。
知りたい。とはいえ、わたしが答えれば済む話。じゃあせっかくだし、交換条件っていうの、やってみよう。
「うん。見えたよ。でも教えてほしいなら、わたしの相談にも乗って欲しい」
「わかった。先に済ませられる俺の方を先に頼む」
「…………交換条件って、躊躇するものじゃないの?」
「いや内容に寄るから。そこまで俺が不利なわけでもねぇし」
「そっか。じゃあ答えるね」
覚えていることだけ、できる限りのことを2人に話した。
そう、あれはわたしが目覚めた直後の頃。わたしは気付いたら色んな情報が飛び交う空間にいて、何も覚えてない状態でそういう海の中に放り出されていた。
『ここ、は……。わたしは、誰だっけ。あれ? 思い出せない。なにか、大切なものがあったはずなのに、思い出せない…………』
その思い出すことが出来ない引っかかりがもどかしくて、なんだか悔しくて、苦しかった。
そしてわたしは、あれを見た。あの、黒いガンプラのシルエットを。
長い刀と巨大なハンマー……メイスを携えた、全身が曲線と直線のラインで引き締まった無駄のないデザイン。その中で特に異彩を放っていたのは、薄らと見える牙が侵食しているような恐ろしい顔と深紅の瞳。頭に生えている、曲がりくねった2本の巨大な角。
目覚めてから得た知識から考えるに、あれは悪魔のようだと、鬼のようだと形容できる。
『…………誰。あなたは、誰? ねぇ、何なの? 教えて、教えてよ。ねぇ──!!』
ゆっくりと、そのシルエットが消えていくのを最後に、わたしの意識は現実世界の方に移っていった。
これが、わたしの目覚めた時の記憶。あれは、わたしの記憶を食べた悪魔の幻影のようなものだったのだろう。
一通り話したあと、2人は考え込むように黙ってしまった。それから少し時間が経って、最初に声をかけたのはカスミ。
「太刀とメイス背負った曲線と直線の混ざった機体…………もしかしてガンダムタイプか?」
「かは、わかんないけど、少なくとも目は2つで、なんとなくこの前見たルブリスだとかに似てる気がする」
「となるとガンダムだよな…………。牙が侵食してるってことはマーク5とかスペリオルとかのセンチネル系列、いや太刀にメイスで、それに曲線に直線だからつまり鉄血のバルバトスを改造した機体になる…………」
「改造元なんか漁ってどうする」
「単純な知的好奇心4、過去から似たような機体を探すが6」
「なるほど」
カスミがとある紙を取り出す。その紙には、白と赤、青を基調としたガンプラが印刷されていた。
「まず角だ。鬼みたいな丸くて曲がってるタイプってことだろ?」
「うん。あとなんかギザギザしてた」
「洋風にありがちなアレか……。それでフェイスが牙のようになっていると」
「うん」
質問の内容からどんどんとそのシルエットを当てはめ、紙に描き足していく。カスミは絵を描く仕事をしているらしいから、なんだか得意げだ。
「武器はどういう風にマウントされてる?」
「メイスは背中で背負ってた感じ。こう、横に」
背中の方に手を回して腕のジェスチャーでなんとか伝える。カスミには伝わったようで、わたしが記憶している通りにメイスを描き足した。
「それで、刀は腰に2本」
「ふむふむ、こういう感じか」
「なんか武士然とした姿だな」
「モチーフだと思う」
「日本における悪魔の役割は鬼が担ってる、さしずめ鬼武者ってとこか」
「鬼武者…………」
その名前の響きにしっくり来た気がする。鬼武者、それがわたしの記憶を奪った悪魔の正体。
一度会って話がしたい。願わくば、わたしの記憶を………………。
「ま、俺達の用件はこんなもんでいいだろ。相談ってなんだよ、ビリーヴ」
「そうだった。2人に相談したいことがあったんだった」
話が突然切られ、わたしの話に移り変わる。いや、ずっとわたしの話だったけど。
「ん? あー、そんな話だったね」
「お前も忘れてんじゃねーよ」
「……2人は、恋愛についてどう思う?」
わたしの一言から、世界が止まったように感じた。
いやそうじゃなくて、ただ2人がぽかんとフリーズしているだけだった。
「…………アノマロ」
「いやカスミだろ」
「いやお前だろ! 大学時代に取った心理学の単位はどうした!」
「恋愛講座じゃねーんだよ!! つかお前の方がいいだろラブコメ主人公みたいなツラしやがって!」
「ラブコメ主人公みたいなツラ!?」
フリーズしたかと思えば今度は言い争いを始めた。多分どっちもぱっとした答えを持ってないから解答権を投げつけ合ってるんだと思う。
「2人ともその辺にして。わたしはどっちかじゃなくて2人に聞いてるんだよ」
「0歳に説教された…………」
「生後2ヶ月に正論言われた…………」
「2人とも何にショック受けてるの」
「「年の功だよ!!」」
この2人仲良いなぁ。
「じゃあ……オレからで」
「はよしろ童貞」
「黙れ童貞被れ。恋愛なー、どう言えばいいのかさっぱりわからん。つかこれカグラのが適任だろ」
「早くして」
「はい……。なんというか、いないよりいる方がいい。いたら安心する。そんな感じに思うのが恋愛なんじゃないか?」
「ハイハイ童貞の理想論」
「お前ほんとに黙ってくんない?」
「オタク君ピキピキで草」
「よし殺す」
いたら安心……確かに、レイメイといるとそんな感じ。
でも、それと同時になんだか体が熱くなって落ち着かない。これは、どういうことなんだろう。
「てかアノマロ、そこまで言うならお前はさぞかし現実的な恋愛観持ってんだろうな?」
「当然。友情と愛情の線引きなんざ簡単にも程がある」
「線引き?」
「ああ。その人の裸を想像して夜が激しくなったらそれはもう恋愛でいいだろ」
「身も蓋もねぇなぁ!!?」
夜が、激しく…………?
ちょっとよくわからない。どういうこと?
「お前さぁもっと言い方というか別の例えあるだろ! なんかこう…………あるだろ!?」
「出てきてねぇじゃねぇか。つかもうそれでいいだろこちとら妹が散々カグラ連想してやってる声聞きながら仕事してんだぞ」
「お前ん家の性事情とか知らんわ! ほら見ろビリーヴピンと来てねぇじゃねぇかよ!」
裸を想像すると、夜が激しくなるのが恋愛。アノマロカリスはそう言ってる。
レイメイの、裸。裸って、服とか着てない状態だよね。レイメイの、レイメイの…………、
レイメイ、の……………………!!
「ッ〜………………!!」
「………………あれ?」
「……用も済んだし帰るか」
「おいちょっと待て見捨てんなおい!」
な、に、これ……?
レイメイと一緒にいるときと、同じ感覚。全身が熱くなって、ぶわって、きゅんって、なる感じ…………どういう、こと……!?
「これが、恋愛…………これが、”好き”ってこと………………!?」
「…………とりあえず、そっとしておくか……」
────────────────────
「ところでなんだが、なんでそんなこと聞いたんだよ」
わたしを支配していた熱がようやく抜けてきた頃、カスミが待ってましたと言わんばかりに問いかけてきた。
「あー……、その、わかんなくなってきたから。レイメイとの、距離が」
「距離? 2人は一応復縁しただろ」
「うん。そうなんだけど…………ち、近付かれると熱くなるっていうか、胸の辺りが苦しくなるっていうか……!」
「はあ…………」
「なんか、おかしいの。レイメイのこと考えるだけでふんわりってしちゃうの……。どうしてなんだろう…………」
カスミは呆れたような顔をして、
「キスとかプロポーズじみたこと言っといてよくもまぁそんなゲロ甘なことを…………。要するに、記憶を失ってからもっかい好きになったわけだろ?」
「そう、なるのかな」
「そうとしか思えねぇよ。まぁとにかくなぞるようにやってみるしかない、レイメイとは要相談ってところだ」
「…………、上手く、話せるかな」
「そこからかよ!」
「だ、だって! その、緊張? しちゃって言葉が上手く出なくて…………それでレイメイにいつも心配されちゃうし……」
(めんどくせぇ…………!)
明らかに恥ずかしいという顔をしているだろうわたしと、それに対して面倒だと言いたげな顔をしているカスミ。多分、少しだけレアな絵面だったと思う。
「…………ん? こんな時にレイメイから連絡?『シルヴィーの作業始めたいからそろそろビリーヴ返して』って、ビリーヴからログインしたんだが…………」
「れ、レイメイから……?」
「絶好の機会じゃねぇか。行ってこいよ」
「ふえぇ!?」
「はぁ、そうやって足踏みしてるといつまでも現状は打開できねぇぞ。逆に言えば時間はたっぷりあるんだ、じっくり話し合ってこい」
そう言うカスミの言葉は妙に重みがあって、なんとなくだけど頷く他なかった。
メニューを操作して、ログアウトボタンに手をつける。
……………………や、やっぱり緊張する……!!
(はよしろ)
わかってるよ! 行かないといけないって、でも〜!!
「ッ…………、い、いってくる」
「おう、いってら」
「…………が、がんばるっ!」
「ああ、その意気込みだ」
「………………そ、それじゃあ!!」
「早く行けよッ!!」
「うひゃあっ!!?」
あ。
押しちゃった………………!!
突撃隣の想い人!!
カザミさんは割と自分自身もそういう経験してることに早く気付け
chapter.2完結!この段階で一番好きなキャラクターは?
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レイメイ/紅月ミナ
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ビリーヴ
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コネコ/小南ネコ
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カスミ/霧雨クロート
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カグラ
-
アノマロカリス