メイン多いのに回ってる理由は私にもわからん
憧れは人に勇気を与える。
勇気はその者に奇跡の光を与える。
人々は皆それが素晴らしいことだと考える。
だが現実は違った。
憧れても何も変わらない。
奇跡だけでは意味が無い。
オレ達の人生はそうだった。いくら憧れても、奇跡が起きても、その希望はあの手この手で潰えていった。
昔は無邪気だった。それは誰だってそうだと思う。
オレの創作意欲、物心は、1本のクレヨンから始まった。それからカラーペン、鉛筆、デジタルというようにオレの握るペンは変わっていった。
そうやって描いたものは、特別賞を取ることもあった。取ってすぐは嬉しかった、でも次第にその『特別』がオレを周りから隔絶するようにしていった。
隔絶されていく中で、オレはアマネとカグラに出会った。同じ特別な事情を持って隔絶されていった、オレの唯一無二の親友だ。
でも、オレは薄情者だった。
周りと隔絶されるのが息苦しかった。元気に伸び伸びと生きてるやつらが羨ましかった。子どもの段階で感じてはいけない重みに、オレは屈してしまった。
2人が何度も押し潰されそうになっても耐えている、それなのに、オレは。
中学に上がってからは、地獄だった。
アマネは夜の街に出て、カグラは周りからのいじめが苛烈になっていっていた。
オレはそんな2人のよそで笑っていた。
笑顔を作っていた。
それがみんなにとって『特別』じゃない、普通の姿だから。
もちろんほとんど勉強せずにテストで満点を取るようなオレがただ普通になれるわけは無い。だから普通の人が憧れる普通の極致を目指した。
それは、上手くいってしまった。
あの頃のオレは、チャラついていたという表現が正しいのか、それとも何か別の表し方があるのかはわからない。でも、きっと今とずっと昔のオレからすれば許容し難い姿だったのはわかる。
ただただ、あの頃のオレ達はドン底にいた。そう思っていた。
本当の奈落に地面はないとも知らずに。
高校時代は暗黒だった。
中学より落ちぶれることはないと勝手に自負してた。オレは母と弟の死を誤魔化すのに必死だった。
元より中学の頃からのやつがいるのは変わらない、自分を取り繕うのは規定事項だった。その目的が変わっただけ。
でも、それとは同時にオレの心は確かにすり減っていった。何かに縋りたかった。そんな相手はいなかった。
カグラが目覚めたあとも、オレはどうすればいいかわからず足踏みしているだけだった。
そんな燻らせた思いも腐っていた高校3年のある日。1年遅れで入学してきたカグラが急に話しかけてきた。
「よっ、先輩!」
「…………なに」
「うわ元気無っ、もしかしてクロートガス欠?」
「…………かなぁ」
「ふわふわしてるし受け答えラグいよ? ファ〇コンじゃないんだから」
「あれはセーブデータが飛びやすいってだけでラグいのとはまた違うから」
「急に元気になるじゃん」
取り繕いはするが根っこの部分は変わっていないと心の底では思っている。高校に通ってはいるけど一応プロのクリエイターとしてイラストやら曲やらを売ったりしているのだ。月収12万。超ブラック。
「…………で、なんなの」
「情緒安定しないな。いやね、ちょっとクロートをあるゲームにお誘いしたいなぁと思いまして」
「…………あるゲーム?」
「そう。クロートなら絶対ハマるしリフレッシュできるかもよ?」
「…………できればいいけど」
「わぁ、全く興味無さそうでカグラちゃん泣いちゃう」
愚痴を漏らしながらカグラが取り出したのは、何かのデバイスらしき三角形の物体と、人型のプラモデル。
「…………ガンプラ?」
「イグザクトリー! ガンプラバトルネクサスオンライン、略してGBN! やってみない!?」
「GBN…………」
聞いたことはある。オレが昔から趣味として作っていたガンプラを使ったバーチャルゲームだ。実機を使う都合上ダメージが直接反映されるGPDとは違い、ガンプラバトルはしたいけど自分の機体を壊したくない層も取り込んでひとつの社会現象にまでなっているんだとか。
「それ、ウーンドウォート?」
「ん? いや、なんかヘイズルIIとかそんな名前だった気がするけど?」
「いや、ウーンドウォートは全ての機体の雛形になる機体で、各部ユニットを接続して全ての機体の代替品になる。さらには本体すらもオプションとしての機能を有していてウーンドウォート自体を複数使った機体も存在してるほど。そのヘイズルIIは2種類あって元々あるヘイズルという機体の四肢をウーンドウォートに接続したものと換装したブースターユニットにコンポジットシールドブースターを2基接続したウーンドウォートのバリエーション。その機体は後者の方でウーンドウォート本体も含めネット販売限定の超絶貴重品。カグラどうやって手に入れたの」
「オタク君さぁ、もうちょっと噛み砕いて話せない?」
「オタク君は主観がオタクだから噛み砕いたところで理解できない」
「いやわかってんじゃん……」
オレの長文語りを軽くいなし、カグラが自分の持っているデバイス、ダイバーギアをオレに手渡した。
「それクロート用ね。放課後、横浜ベースで待っとるぜ! それじゃ!」
「う、うん…………」
なにがなにやらこんがらがったまま、カグラは去っていった。
GBN、ガンプラを使ったバーチャルゲームか…………。
(アマネも、誘ったらやってくれるかな)
その時のオレは、なんとなくそういうことを思っていた。でもあいつは「やったこともないゲームを勧めるな」って言いそうだったから、まずは試しに……お試しでやってみることにした。
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オレは単純な人間だった。
GBN、宇宙にまで手を伸ばすことができる広大なオープンワールドに感覚のフィードバックによる現実と同じような感覚。ファンタジーな世界からSFな世界まで千差万別なディメンション。そして、自分のガンプラとその設定がその通りに反映される画期的なシステム。
そりゃ社会現象になる、そう思いながらオレはミッションを軽々とこなしていった。
「これでランクA……ちょろいな」
「死にかけのお前どこいったぁ!? 始めて1週間でメンタル回復しすぎだろ!」
1週間でAランクに到達した要因は2つある。
1つ、難易度はあまり考えず経験値の振りがいいミッションを厳選して受注したこと。音ゲーにおいても結構無理な難易度から微調整してやるのがオレのスタイルだったため。
2つ、オレのプレイスタイルがGBNのバトルシステムと相性が良かったこと。
ということで、バンバン辻斬りするわ高難度ミッションを受けるわでとても初心者とは思えないルートを以て今の段階に辿り着いた。ちなみにカグラはまだランクD。
「バンシィの装備、オリジナルのとか持たせてみようかな」
「聞いてないし…………カスミって昔からそんな感じだよね。やり始めたらなんか一気に突き進んでいってさ」
「うん。1週間で6段階駆け上がったのは自分でもビックリしてる」
「ま、それだけハマってくれたならあたしも万々歳よ! これからもどんどん行こうぜ!」
「…………ああ!」
オレは力強く返事した。
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「──っていうのがオレがGBNを始めたきっかけだ」
「1週間でAランク!?」
「私は1ヶ月かけてようやくBなのに凄すぎるのです……!?」
暇だったので、コネコレイメイビリーヴに自分の昔話をしていた。無論冒頭は胃が痛くならないようカット、概要だけ話しといた。
「ランクFなのに推奨ランクCとかBとかのミッションぽんぽんやるしあたしも巻き込まれたからそりゃあもう地獄だったよ……」
「ご愁傷さまなのです」
「まぁアノマロは3日でSいってたけど」
「どうやったらそんなスパンでランク上げられんの…………」
「私は1年かけてようやく今の地位に漕ぎ着けたのに……」と呟くレイメイ。そんなのオレが知りたいし、1年でランクSSはGBNじゃ中々な方だぞ。
話し込んでいると、フォースネストの入口のドアが突然開かれる。
「お、噂をすれば」
アノマロカリスが来たっぽい。開かれた先には、黒いコートを始め全身真っ黒な衣類に真っ白な髪を1本に束ねている中性的な顔付きの男が立っていた。
「…………誰?」
「若きスピードスターランキング17位のアノマロカリスさんですが」
「いや完全に別人なのです!?」
「リアルに寄せたんだよ。本当にハロかと思ってたのか」
見たところ容姿はリアルにそっくり。それにしてもこいつの見た目GBNでも遜色ないってどんだけ厨二極まってんだよ。
「リアルでもそんなファンキーな格好してんの……?」
「うるせぇなぁ。それよりお客様だ、もてなせ」
「もてなせったっていきなり言われましても────おわぁっ!?」
アノマロの背後から銀色のボールが飛んでいき、悪態を吐いていたカグラに突撃していった。カグラは辛うじて受け止めるも、驚きを隠せない様子。
「妹だ。バトランダムやるっつったら食い付いてきたからゲストでログインさせた」
「妹いたのです!?」
「お前はさっきから驚きすぎだ情緒どうにかしろ」
銀色のボールはよく見るとネコミミの生えたアノマロの前のダイバールックみたいな容姿で、目は赤ではなく青になっている。なんかニチアサで見たことあるぞこのバリエ。
「えへへ、カグラさんとこっちでも会えるなんて嬉しいです!」
「イチカちゃ…………あ、ダイバーネームは?」
「サモネです。 ”SUMMER ONE”で、サモネ」
「そ、そか。ネコミミかわいい…………」
「スモネになら──」
「無粋なこと言うなカスミ」
「はい。」
「すぐ引っ込んだのです…………」
だってシスコンとメンヘラが怖すぎるもん。
「…………、えっと……」
「あなたがELダイバーの、ビリーヴさん?」
「は、はいっ」
さっきから気まずそうにしていたビリーヴにイチカちゃん、改めてサモネちゃんから近づいていった。コミュ力つおい。
「私はサモネって言います。一緒に戦えるのはまだしばらくかかりそうだけど、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願い……します」
球体を傾けてお辞儀をするサモネちゃんに倣ってビリーヴもまたお辞儀をする。これ、単に人見知りとかじゃなくて普通に無から新キャラが生えてきてびっくりしてるだけだな。
「にしてもアノマロ先輩、白髪ポニテにチンピラ気質に妹持ちしかも職業探偵って盛りすぎじゃないのです……?」
「だよねだよね、胸やけするよねー……」
「聞こえてんぞテメーら」
「おーこわ」
「なぁこれずっとこのテンションなの? ワンチャンチャンプとぶち当たるかもしれねぇってのに?」
「そのときは悪い夢だと思ってベストを尽くしますよ」
「半ば諦めてるね、これ……」
全会一致の諦めに対し、流石のサモネちゃんも苦笑い。
「さて、対策のしようがないチャンプの話はともかくとしてポジションの確認するぞ」
「お兄ちゃん、チャンピオンさんってそんなに強いの?」
「合法チートって評価が過小評価になるレベルで強い」
「わー、ピンと来ないくらい強いのはわかったよ」
ホワイトボードにペンを走らせる……ことはなく、ウィンドウ内の図形を動かして確認を取る。サモネちゃんへの説明も含めて。
「前衛は安定した攻撃力を持ってるスカルライダーとシルヴィーツヴァイ、指示がない限りは思いっきり暴れて構わん」
「了解」
「りょ」
「それ以外のオレを含めた3機は即席で組んだ作戦の実行を行う。特にコネコのオールマイトストライクは出来ることが多いからよく動くぞ、覚悟しておけ」
「はいなのです!」
「はいはーい、質問。コネコちゃんの逆であたしのバイカスタムちゃん大分出来ること限られてるけどそこどうするの?」
「これから考えます」
「え、まさかのノープラン……?」
だってしゃーねぇだろランダムなんだから。と言ったところで言い訳にしかならないので話題を変える。
「とここまでが共通の戦法。ここからは相手に対応するため柔軟に作戦を練る。ということで何個か作戦持ってきた」
「え!? ら、ランダムなんじゃ……」
「よく聞いてくれたサモネちゃん。そう、このバトランダムミッションの醍醐味は対戦相手、引いてはレギュレーションまでが直前までわからないところにある。勝利条件も人数も不明。だがオレ達はこのシステムの”穴”を狙う」
「穴…………?」
「あー、内部値だろ。単純に考えて」
「内部値……なのです?」
「内部値っていうのはシステムが振り分ける確率を数字で分けたものだ。ソシャゲでいうピックアップの排出率とか」
「うっ頭が…………」
突然カグラが頭を抱えて苦しみ出す。どうせ推し引こうとして爆死したクチなので無視。
「だ、大丈夫ですかカグラさん!?」
「大丈夫、古傷が傷んだだけ、3万消えたこととか気にしてないから……」
「3万…………!?」
「話を戻して……、その内部値はGBNにも当然ある。無きゃバトランダムとか作れないからな」
「弱いフォースほど強いフォースに当たりづらい……って認識で合ってる?」
「That's Right, レイメイ」
「え、なんて?」
「オレ達は個々人としてはSランク以上を3人抱える強豪だが、フォースとしては真ん中レベル。つまり経験値ラッシュを終えて停滞してる連中との当たる確率が1番高い」
「つまり…………真ん中のフォースに対応できる作戦の骨組みだけを作って、相手が決まったら調整するみたいな感じ?」
「ビリレメコンビは感が良くて助かる。大体そういう感じで行こうと思ってる」
「なるほど、合理的ですね…………」
「対策されやすいとも言う」
「もうカグラさん、そんなこと言わないでくださいよ」
「いいだろサモネ、一応事実だ」
「えぇ……」
「さて、その骨組みの作戦になるんだが──」
アラーム音が鳴り響き、バトランダムミッションの画面が空中に現れる。どうやら時間らしい。
「あ、話し込みすぎた!」
「アノマロが寝坊するから〜」
「あ? 俺は眠りの小五郎じゃねぇんだよ」
「言い合いはストップなのです! それよりも対戦相手の方が大事!」
「大人組めちゃくちゃ論破されとる…………」
自分達のフォース名と『VS』で区切られた大量の文字列がスロットのように回転する。さぁ、相手はどうなるか…………!
『Enemy forth:BUILD DiVERS』
「ッ…………!?」
「ビルドダイバーズ、なのです……!?」
フォース:ビルドダイバーズ。
それは、オレが最も会いたくない相手。
「……………………あ、小文字の方?」
ではなかった。
全くお騒がせなフォース名だ。いや、こっちにもできれば会いたくなかったけど。
「どちらにせよ……」
「気が抜けない相手だね……!」
「………………」
随分対策しづらいフォースとぶち当たったな…………。
「……まぁ、いいか。よし、改めて作戦を考えよう」
「おおー!!」
「なのです!! ……そういえばカスミさん、ビルドダイバーズに対してなんかビクッとしてましたけど、なんかあったのです?」
「うぐっ。………………ここでは話したくないから、作戦決めてから2人きりで話したい」
「わかったのです」
あれからもう3年の月日が経ってる。時の流れは恐ろしい。
あれはオレが、有志連合として戦っていた時の話。
オレの、封じ込めたい黒歴史の話だ。
次回、泥に塗れた白犬が見る景色とは…………
クロートの過去編、かなり濃密なので次回丸々使うと思います
chapter.2完結!この段階で一番好きなキャラクターは?
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レイメイ/紅月ミナ
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ビリーヴ
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コネコ/小南ネコ
-
カスミ/霧雨クロート
-
カグラ
-
アノマロカリス