すいやせんっしたァ!!
「相談したいことがあります」
「……? …………どうしたんですか?」
駅前の喫茶店にて。あたしとのデートで浮かれているのか、少し浮ついた雰囲気でパスタを頬張っていたイチカちゃんにそう話しかける。
(あぁ〜かわいすぎるんじゃ〜!!!)
「オフに仕事の話するもんじゃないとは思うんだけどね? ちょっとうちのクラスの不登校な子について悩んでまして……」
「不登校……ですか? 私高校行かずに大学入ったからあんまり力になれないと思うんですけど…………」
そりゃ当然、何せイチカちゃんには中学以前の記憶がない。つまり誰しもが経験するような30人程度の子どもを詰めた箱のような空間での暮らしを知らないのだ。でも、外からの意見が欲しかったので、今問いかけた次第。
「大丈夫。イチカちゃんは普通に受け答えしてくれればいいよ。わかんなければわかんないでいいし」
「はあ……、カグラさんがそれでいいなら。それで、不登校の子ってどんな子なんですか?」
「レイメイちゃん」
「え?」
「レイメイちゃん改め
「…………レイメイさんって、いわゆるフォースメンバーで…………。も、もしかして、自分の教え子とGBNやってるんですか!?」
「あの子は知らないけどね。まぁ名前一緒で容姿もクリソツなんだから気づいて欲しいとは思いまーす」
「えぇ…………?」
イチカちゃんは明らかに困惑している様子で、パスタを食べる手が完全に止まっていた。
「こほん、まぁでもフォースになったのはマジで偶然なんだよね。アカウントは特定してたけど」
「さらっととんでもないことを……」
「それでですよ。フォースメンバーっていう面でGBNの紅月ちゃんを監視というか見守ってたわけだけど、このままだと色々と危ない」
「危ない、ですか?」
「そう。このままだと紅月ちゃんがとんでもないクソコテ思想に目覚めてしまいそうなんだよ……!」
「こ、こて…………?」
あんまり理解していない様子でイチカちゃんが聞き返す。ごめんだけど、話進めたいから内容からどうにか察していただきたい。
「担任であるあたしとしてはね、紅月ちゃんにはどうしても学校に来るようになって欲しいわけ。で、自分を理解してくれる相手……あ、ビリーヴちゃんのことね。そういう存在を得た紅月ちゃんはもしかしたらプラスの方向に行ってくれるかもって算段でさ、クロートにモビルドール作らせたりなんなりで頑張ったんだけど、結果としては学業復帰どころか心はどんどんGBNに引き寄せられた挙句マスダイバーとかいう連中のせいで正義感が暴走気味っていうか、それを止めて欲しい相手が乗っかっちゃってるっていうか……」
「と、とりあえずなんか不味いってことはわかりました。つまり今の紅月さんは少し過激な思想に囚われがちで見過ごせないってことですよね?」
「さすがイチカちゃんは話がわかる!」
さっき流しちゃったクソコテの意味もなんとか理解してくれてるっぽいので、このまま話を続けよう。
「そういうわけで、問題は紅月ちゃんの傾向にあると思うんだよ。あたしが思うに、紅月ちゃんはリアルではなくGBNに居場所を見出してそれを手放そうとしない、つまり縄張り意識ってやつが強い。加えてビリーヴちゃんへの想い。きっとビリーヴちゃんの為になることならなんだってやるだろうね」
「縄張り意識が強く、恋人には絶対服従……ということはないけど基本的には従ってくれる。私たちでは紅月さんをどうにもすることができないけど、逆を言えばビリーヴさんさえ説得すれば芋づる式で紅月さんの考えも変えられる」
「うん。それにビリーヴちゃんはものわかりがいいからね、それにあの子も紅月ちゃんの為になることならなんだってする一途な女の子。きっと協力してくれる」
「それで、カグラさんは紅月さんをどうしたいんですか?」
疑問に持つようにイチカちゃんが問いかけてくる。
イチカちゃんと恋人になれて本当によかった。あたしみたいに盲目的になることもなく、かといってドライな関係になるわけでもなく、ちゃんと一人の人間としてあたしのことを好きでいてくれる。そういうところが大好きだ。
「…………単純に、学校に来て、進路のお話して、それでこれからの巡りゆく社会の荒波に耐えられる立派な大人になって欲しい。だから縄張り意識なんて子供じみた考えは捨てて欲しいんだよ。ちょっとアレだけど」
困ったように微笑みかけると、イチカちゃんは微笑みを返してから口を開く。
「カグラさんは、ちゃんと教え子のためになることを考えて実行させられる、いい人ですね」
「っ……、な、なにさ? 褒めたってここ奢るくらいしかできないよ?」
「奢ってくれるんですか?」
「わ、兄譲りのいい性格が出てるなぁ」
こりゃ1本取られた。
「…………彼女は、紅月ちゃんは変わらなくちゃいけない。幼虫みたいに自由気ままにあちこちを駆け回る子供から、サナギのように自分の殻に籠る思春期、そして大人の成虫になって、最初はぎこちなくても飛び方をどんどん覚えていく。人の成長するプロセスはこんなもの。高校生はそのサナギから出る前準備みたいなものだよ。羽化してからは手探りで働くもよし、飛び方を大学で教わるのもよし、決めるのを手伝うのも教師の仕事。でも紅月ちゃんはその選択肢を考えず、サナギに籠ったままでいる」
「ビリーヴさんは、紅月さんの羽化を助ける最後のキーということですね」
「そうなるね。でも、そのビリーヴちゃんも現段階での巣立ちは厳しそう」
「じゃあどうすれば……」
「そりゃあ、自立させるしかないよ」
「でもどうやって……」
あたしは席を立ち、得意げな顔を作って答える。
「ビリーヴちゃんを、学校に通わせる」
「え…………!?」
「ただ、問題がひとつある。それはビリーヴちゃん自身が現状に満足してしまっているところ」
「えっと、確かビリーヴさんって知識欲から生まれたELダイバー……なんですよね?」
「
「先行した考え方…………つまり親が自分にとっての全てだという幼児に似たあれということですか。確かにそれを曲げるのは難しいですね」
「そそ。だからどうしようかなって」
「なるほど。カグラさんがどこでつまずいているのかはわかりました」
意図返しというように、イチカちゃんも得意げな顔で胸元に手を当て、(周りの迷惑にならない程度に)高らかに宣言した。
「任せてください。この名探偵イチカが必ずやその悩みを解決してみせます!」
「お、おぉ…………。じゃあ頼りにしちゃおっかな」
「まぁ、見習いなので何すればいいかわかんないんですけど……」
期待が秒で裏切られてしまった。
でもあたしのために見栄張っちゃうのすげぇ可愛い。結婚したい。
「と、とにかく! 問題はビリーヴさんの興味を学校に向かせて、紅月さんの不登校の原因を解決させること! そう決まってるならあとは行動あるのみ! 学校の良さをじゃんじゃんプレゼンしていきましょう!」
「…………ふふっ、だね」
ビリーヴちゃんの興味を学校に抱かせて、紅月ちゃんの不登校の原因……いじめをどうにかすれば、紅月ちゃんはきっと復学できるはず。それにELダイバーを学校に通わせるのはきっとELダイバーを毛嫌いしているスタル共マスダイバーにとって大きな打撃になるし、奴らの立場を弱くする手立てにもなる。そしてビリーヴちゃんは溢れんばかりの知識欲を満たせる上これまで通り毎日ずっと紅月ちゃんの傍にいれて超ハッピー。これぞまさしく一石三鳥。
と思っていたところ、突然あたし達に誰かが声を掛けてきた。
「面白そうな話じゃねぇか。首突っ込ませろ」
「ん………………え!?」
「お兄ちゃん!?」
そこに立っていたのはイチカちゃんの兄、アマネだった。
「首突っ込むったって、何すんのお前……」
「ちょうどビリーヴとレイメイに会わせたいやつがいたんだ。どうせだし一石四鳥にしようと思ってな」
「会わせたい人って、どんな人なの?」
「あぁ。ちょっとばかし癖のある死人みたいな女だよ」
そう口にするアマネの顔は、我が理を得たりという様子で自信に満ちていた。
────────────────────
「──高校、ですか」
『決まってねぇならどうだと思ってな』
放課後の日が落ちようとしている時間、突然鳴り響いた着信音の先は、最近やけにお節介な探偵さんだった。
「なんなんですか。脅して、家に来て、謝罪して今度は進路相談って、いい加減鬱陶しいです」
『俺もそう思うくらいマスダイバー共が鬱陶しいんだ。この前なんかフォース戦の最中に来たからな』
「嫌味ですか?」
『どうとでも』
「はぁ…………普通の公立高校みたいなら、まぁ調べておきます」
私の偏差値は丁度真ん中より少し上、背伸びすれば高いレベルの高校に行けるかもしれなくて、普通レベルの高校なら余裕で行ける程度のものだった。だから、特別高くない限りは志望校に入れておく価値ぐらいはある。
『あぁそれと、お前くらいには伝えとこうと思ったことがあるんだよ』
「今度はなんですか?」
『”第4次有志連合戦”、そこでマスダイバーと改めて決着を付けることになった。他言無用、寝返るなら今の内だぞ?』
「そんなつもりありませんよ」
だって私はマスダイバーである以上、バルを汚してしまった以上、断罪されなければならないから。
『そうか。決戦は聖夜、12月24日。連合に勝利のクリスマスプレゼントだってよ。テメーらからしちゃたまったもんじゃねぇがな』
「わかりました。じゃあ、これで──」
『あぁそうだもう1つ話があるんだった』
…………本当に鬱陶しいし、しつこいな、この人。
『来週の金曜、俺が言った高校の前にまで来て欲しい。会わせたい奴がいるんだよ』
「会って何になるんですか? 親戚でもないのに無駄に関わろうとするのはやめてください」
『俺は終わらせたいだけだ。人間の心底にある全ての歪みを』
「それが鬱陶しいって言ってるんですよ!」
つい、声を粗げてしまう。母がいなくてよかった。
「今の私はもう、マスダイバーとしてしか生きられない! もうどうしようも無い問題に首突っ込んで何がしたいんですか!? 馬鹿なんですか!!」
『罵りたきゃ罵ればいい。そんな意地の悪い言葉で止まるようなタマじゃねぇからな。俺の見る限りお前はまだ”救える”。俺みたいな末期とは違う』
「は……?」
『じゃあな』
プツリと電話が切れ、無機質な電子音だけが部屋に木霊する。
私は受話器を元に戻し、何を掴もうとしていたのかも忘れてしまった手を見て呟いた。
「ほんと、なんなんですか…………」
────────────────────
電話を切ってから一息吐き、前に向き直す。視線の先にいるのは、最近獅子奮迅の撃墜王、レイメイ。
「……待たせといて遅刻とか酷くない?」
「悪いな。用事が長引いた」
「そういうことにしといてあげるけど……」
レイメイは露骨に不機嫌で、見るからに何か嫌なことがあったという様子だった。差し詰め嫌いな奴にあったとか、地雷を踏まれたとか、そんなところか。
「なんかあったのか」
「リアルの話。関係ないでしょ」
「そうだな、俺には全く関係のない話だ」
冗談混じりに言うとレイメイは顔を顰めて俺を睨む。やっぱ馬鹿馬鹿しいくらいに面倒だなこの女。
「…………水無月カグラ」
「ッ…………!」
「やっぱ覚えていたのは名字だけか。カグラ泣くなこりゃ」
「……カグラって、え、まさか…………?」
カグラのリアルネームを口にすると、レイメイはわかりやすく動揺した。まるで知らない人間から突然自分の知っている名前を聞かされたように。いや、実際そうか。
「フォースの内部からお前を観察してた。ビリーヴとの対話に好意的だったのも、それがお前のメンタル回復及び社会復帰に貢献すると踏んだからだ」
「は、な、なにそれ。自分の教え子とゲームとかありえないから──」
「だがお前は数々のイベントを乗り越えて寧ろ尖った方向に舵を切ってしまった。だから強硬策に出ることを決意したんだよ」
「強硬策…………?」
レイメイは動揺のあまり頭が働いていないらしく、俺の言葉をオウムのように繰り返した。
「曰く、ビリーヴをお前の高校の生徒として迎え入れるそうだ。まぁ一教員にそんな真似できねぇだろうから、教育委員会と要相談だがな」
「ビリーヴが、学校に…………!?」
「最終決定権はビリーヴにある。まだ言っちゃいねぇがあいつのことだし乗るだろうな」
「ッ…………!」
俺の推測にレイメイが反応する。
「…………駄目」
「っ……?」
「それは、駄目、だから。わた、しが…………私が、行かなくてもいいくらいビリーヴを幸せにしてみせるから、だからそんなところに行かせる必要なんか──!」
「テメーが行きたくねぇだけだろ」
「っ……!?」
図星、すぐさま睨み付けられた。こいつがメデューサだったら俺はとっくに石になっている。
「ELダイバーは後見人の許可と同行がない限り日の元を歩けない。つまり、ビリーヴが学校に通うこととお前が学校に通うことはイコールで繋がれている。お前はただそれが嫌で行かなくてもいい理由をでっち上げてるだけだろ?」
「ち、ちが」
「違うんだったらなんだよ」
「………………」
レイメイは黙り込んでしまう。これがクロートならどうせ言いすぎたと謝罪フェーズに入るが、俺はそんな生易しい人間になれる人生は送っていない。
「ま、そんなに行きたくないんだったら1番手っ取り早く決めさせてやるがな」
「…………は?」
フリーバトルの挑戦状を、レイメイ自身に叩き付ける。
「これで勝ってみろ。そしたらこの話は全て白紙、泣き目を見るのはカグラだけになる」
「…………何がしたいの、お前」
ふと、さっきのあいつと同じ言葉を投げかけられる。
………………そんなの、決まってるだろ。
「知りたいんだったらまずは受諾しろ。話は俺を下してからだ」
「…………わかったよ」
フリーバトルの申請は受諾される。
各自、機体を取りに行くため格納庫へと歩き出した。
次回はエース対エース、レイメイの激情が爆発!
ちょっと閲覧注意かもしれない!