ご了承のほどを
「なーに見てんの?」
話してきたのは彼女からだった。新シーズンだからか浮かれているような、そんなやけに高い声を私は鬱陶しく感じていた。
「…………」
「ちょっとー、無視って酷くない? なに見てんのって聞いてるんですけど」
「……ガンプラ。」
まさか食い付いてくるとは思わなかったので観念したように言うと、相手は途端に興味を無くしたように声のトーンを下げた。
「ガンプラ? なにそれ」
「プラモデル。これ以上に説明いる?」
「はー? そんなのより服買った方が楽しいでしょー?」
「興味無い」
「………………」
事はその次の日から始まった。
確かにあの時、私は態度が悪く無愛想で、人付き合いというものの中で悪手を取っていたかもしれない。あの後、少し素っ気なさすぎたと軽く謝るつもりだった。
それなのに、あいつらは。
(…………、あれ。上履きがない……?)
いくら感じが悪かったと言って、ここまでされる謂れはなかった。
その後も続く陰湿な嫌がらせと陰口、そして心が削れていく私を嘲笑うあいつら。それは間違いなくいじめと呼んで他ならないものだ。
学校はクソだ。そう思ったのは、中学以来2度目のことだった。
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一閃、二閃、確かめるような斬撃がお互いの間でぶつかり合う。
フィールドは、『水星の魔女』シリーズに登場する、オーソドックスな岩石地帯をベースとした第16戦術試験区域。
シルヴィーツヴァイのビームソードとスカルライダーのビームザンバー。出力は圧倒的にこちらが上だが、ことパワーにおいてはそうではないらしい。
再び斬り合い、ジリジリと散る火花に照らされるスカルライダーを見つめる。ツインアイを覆うバイザーは緑に光っているままで、まだHADESを使う気配はない。
(こいつの言ったことが本当なら、そもそもなんでこいつが……?)
さっき、カグラの正体が私の所属していたクラスの担任であったことを直ではないが伝えられた。だったら、なぜそのカグラではなくアノマロカリスが出しゃばるのだろうか。
「どうしたッ!」
「くッ…………!」
しまった、考え込みすぎて余所見していた。パワーの差で負け、後ろに仰け反る。その空いた隙を逃さずに入れられる蹴りをすんでで避けて後退、飛び去ってからガンビットを展開する。
「チッ……」
僅かに舌打ちが聞こえた。合計22門からなる波状のビーム攻撃をアノマロはシールドで耐え忍び、時にはビーム刃で受け止めながら地面を滑走する。恐らく必要分近付いてからエネルギーを蓄えた状態で私に取り付くためだろう。
だが甘い。ソードビットとクロービット、その両方をライフルに接続したヘラクレスバスターキャノンをスカルライダーの足元に向けて撃つ。
「ッ…………、照射……!?」
「遅い!!」
エネルギーを絞り照射、そのまま砲身ごとビームをスカルライダーにずらす。アノマロはピストルを仕舞い、左腕への被弾覚悟で旋回し回避、私は砲身が耐え切れなくなる前に照射を止めた。
大きなダメージは無いけど一応、五体不満足。利はこっちにある。
「…………やってくれるな」
「弱いね。それでもランカー?」
「身の程を知れ、糞餓鬼」
思ったより煽りが効くタイプか。これは意外だ。
ヘラクレスバスターソードを展開して、スカルライダーに突貫する。私じゃ流石にこの距離は当てられない。
スカルライダーは、自分に向かってくるのを一瞥し、サブアームに繋がれている大剣を引き抜いた。
「嘘っ、バランスおかしいだろ!?」
迎え撃つため、アノマロは大剣を居合の構えのようにして突き進む。まさか失った片腕のバランスを、あれで補うつもり!?
「ッッ、オラァッ!!」
「クソッ!!」
上へと飛び上がり、私が下になって鍔迫り合いを起こす。片腕分のパワーなのに簡単に引き剥がせない、これがカスミの最高傑作、スカルライダーの力。
(…………でも!)
ビットオンフォーム、ガンビット全てに備え付けられるGNコンデンサーを全て直結したこの形態は並の重MSをも凌ぐ力を持ってる。そのパワーを活かしてなんとか弾き飛ばした。
「よし──」
着地した一瞬の隙。
目の前にあったのは、赤々と光るビームの刃。それは間違いなくスカルライダーのビームサーベルだった。
咄嗟に後退する。
「ッッ!?────え?」
飛んでくるビームサーベルを止めたのは、4基のクロービットのGNフィールド。でも、私はそんな操作をした覚えはない。
「シル、ヴィー…………?」
となると、もうシルヴィーツヴァイのAIが勝手に機体を動かしたとしか考えられない。でも、そんな高度なAIなはずが無い。これはただのちょっとしたレア報酬で、どうせだからシルヴィーに搭載しただけ。自主的に防御行動に出るほどの知能は持っていないはず。
だったら、なんで。
「お留守だぞ」
「なッ、しまっ──!」
投げたビームサーベルに遅れてスカルライダーがこちらに突っ込んでくる。私は咄嗟にビームソードで受け止め、もう一方をライフルに変形して銃口を向ける。するとアノマロは飛び上がって再び上から斬りかかって来る。
(不味いこの体勢からじゃ……!)
この体勢じゃ上からの攻撃に対応出来ない。だが、またもガンビットが動いてGNフィールドでビームザンバーをせき止めた。
(やっぱりこいつ、勝手に動いてる……!?)
自動操縦は切ってるはずなのに。
疑問は尽きないが、今はこいつをどうにかするのを優先した方がいい。私はスカルライダーから距離を取って、相手の動向を伺った。
「……学校にはビビり散らす癖に、今のには怯まず対応するんだな」
「五月蝿い」
「まぁ逃げ回るのは変わんねぇが」
「黙れ」
「にしてもソロでもどうにかなるんだなそれ。お前のことだしビリーヴ無しじゃ何も出来ねぇかと──」
「黙れッ!!」
ガンビットを展開し、全18基の砲門を全てスカルライダーへと向ける。
……うるさい。あいつの言葉を聞くと嫌になる。煽るし、ムカつくし、妙に的を得ていて気味が悪い。でも1番気分が悪くなるのは、こいつの言葉に頷きざるを得ないことだ。
こんなやつ、蜂の巣にでもなってしまえ。
「………………ッ、こいつッ!!」
まず1射、これはビームザンバーで容易く弾かれる。分散し、一方は正面に陣取り、もう一方は相手の動きに合わせて変幻自在に動かす。
相手は真っ直ぐ突っ込んでくるから、私はかち合わないように空中に浮かび上がる。GN粒子を使う機体は、ここで圧倒的に優位が取れる。
「反吐が出る。現実も、この世界も、どっちに転んでもロクなことがなくて、私はただ私の居場所を守りたいだけなのに正論が暴力みたいに向かってきて、みんなが当たり前みたいな顔してるのが気に食わなくて、ならもういっそ全部壊れろとか思っちゃって、でも、ビリーヴがいるから、ビリーヴのおかげで守りたいと思えるんだ。私からビリーヴを奪うな。現実は嫌いだ。お前みたいなやつがいるから嫌いだ。みんな嫌いだ。大嫌いだ。私が好きなのはガンプラと、ビリーヴだけだ!!!」
私の言葉はガンビットが届けていく。それをあいつは受け取らない。全部避けて、避けて、避けて、これが大人だって思い知らせてくる。自分の都合の悪いことには蓋をして、その癖に自分達は苦労してるみたいな顔して、だから父を殺したやつは豚箱に入らずに終わった。高齢だったから、ナビが無能だったから、屁理屈こねて、おかげで助かって、ただ大切な私の家族が1人不幸な事故で亡くなっただけで終わった。
ふざけんな。
父の残滓をなぞるみたいに始めたガンプラは、私を作る大きな要素で、父が私に与えてくれた最後の何かだった。それを、それをあいつらは否定した。気味悪がった。私の父を否定した。なのに反撃すらも許さずに安全圏から石を投げて面白がって、まるでただの畜生だった。願うなら殺してやりたかった。父のお下がりのボールペンを、その首に突き刺してやりたかった。でもそんなことをしたら私は豚箱行きだ。あのクソジジイが免れたのに、私が入るのは死んでも御免だった。だから私は逃げた。
「…………きっしょ。同情でもして欲しいなら素直にカウンセリングでも受けるんだな」
「それをするのも大人だろ!! 人間だろ!! 私はもう誰も信じれない! お前も、コネコも、カスミも、カグラも!! でもビリーヴだけは心の底から信じられるんだ! だって、だって…………!!」
ビリーヴが生まれて最初に出会ったのは、私だから。ビリーヴは、私とシルヴィーから始まったから。だから、私はビリーヴを信じられるし、ビリーヴは私を信じてくれる。ビリーヴは、私が与えたもので生きている。私で生きている。それがいい。私以外の何かがビリーヴを構成するようなことは、あっちゃいけない。
「だから、ビリーヴをあんな所には行かせない! 私を否定したあの場所に行って欲しくない! ビリーヴが私を否定するなんてこと許しちゃいけない!! だから私は──」
「うるっせェなァッッ!!!」
「ッ……!!?」
突然スカルライダーがビームザンバーを投げ付ける。ガンビットが追い付かないから、慌ててビームソードで弾き飛ばした。
「ただの糞餓鬼の我儘をよくもまぁペラペラと! うぜぇんだよ、そうやって何時までも被害者面してんのは!!」
「被害者面じゃない! 私は私を否定したヤツらが嫌いなだけだ!!」
「ねちっこいんだよクソが!! ダラダラ文句垂れる癖にやってる事はただのゲーム! VRに入り浸ってバーチャル彼女によしよしされてるだけだろうが!!」
「ばっ、バーチャ……!?」
「テメーの言葉遊びにも飽き飽きだ。ただ単にお前は現実が上手くいかねぇってキレてるだけだろ? ンな悩みありふれてんだよ。そんな事で泣き寝入りして恥ずかしくねぇのかお前は?」
「そ、それとこれとは話が違っ──!」
「あぁそうだ別物だ! だがお前は見習わなきゃいけない。やさぐれる俺といじめを受けるカグラ、その狭間でカースト上位とかいう混沌の中で生きなきゃいけなかったカスミを! 両親に愛されず、愛を求めてしまう自分を見ないフリして、人生を復讐に費やした俺を! 自分を愛してくれるたった1人の恋人を失ったカグラを! 間違った道を突き進んで、後戻り出来ずに子供ながら断罪を望むヒカリを!! お前の悩みなんざ俺達からしちゃありふれてんだよ!!」
ヒカリ、って、あの鬼武者を操ってたマスダイバー……?
なんで、なんでそいつが出てくるんだよ。なんで、そんなやつを引き合いに出すんだよ。
「言ってやるよレイメイ。…………苦しんでいるのはお前だけじゃない。お前だけが特別だと思うな」
「っ……! …………ッ、お前ェッッ!!!」
こいつはこの期に及んで、1番言っちゃいけないことを言った。許さない。絶対に許さない。
私はスカルライダーに対し接近戦を仕掛ける。ビームソードは受け止められるが、さっきの通りこいつとシルヴィーでは出力の差は歴然、容易く弾いてもう一方の剣を素早く振るう。
「倒す! 潰す! ぶち殺すッ!! 機体諸共、顔面蒼白にしてやるッ!!」
「やってみろ糞餓鬼ッ!」
何度も何度も剣を振るい、その度に弾かれる。隙を縫うように剣を通すと、待ち構えていたかのように対応される。
(隙を狙う攻撃を、誘発してる!?)
この期に及んで舐めたことしやがって!
ガンビットで横を固め、相手の動きを制限する。
「っ……」
(取った!)
それなのに、あいつは曲芸染みた動きでビームを全て避け切ってしまった。
「はっ…………!?」
「遊ばれてた自覚をするんだなッ!!」
「っ、ぐああッ!!」
避け切った体勢からそのまま蹴りを入れられ、レッドゾーンに入るレベルのダメージと共に吹き飛ばされる。1度地面に衝突してから不時着するが、その直後にとてつもない衝撃が走る。
『HADES』
「ッッ!!? 目が──!」
聞こえる呻き声と、一瞬見えた赤い瞳。アノマロはずっと温存していたHADESをここで使用し、跳ね上がった出力でシルヴィーの頭部をぶん殴った。
当たり所が悪く、シルヴィーツヴァイの視界は直ぐ様ノイズまみれに。そして追い討ちで再び蹴りを入れられる。
「気色悪ぃんだよ、お前の心は。俺と同じで、何かに執着しているのに、俺とは方向がまるで違う。まるで幸せを知ってるかのような、それを奪われたみたいな、そんな態度が気に食わない。お前は、お前の存在自体が俺の意味を殺す!」
微かに見えるスカルライダーの熱源反応、接続しているガンビットのセンサーを元に相手を捉え、執念のままに突き進む。
「黙れよ! 私のことも、ビリーヴのことも何も知らない癖に……! 知ってるみたいな口聞いてんじゃねぇッ!!!」
「ハッ、確かにテメーの事情もテメーの感情の意味も知らねぇ。だがな、これだけは俺の中でハッキリしてる」
「は…………?」
「お前は、昔の正義の怒りとやらに燃える俺そっくりだ。それは自分を空虚にするものだ。そんなもん、捨てちまえ」
「空虚…………?」
コントローラーを握る手が少し緩む。
「俺は、二度と俺のような人間を作らない。カスミみたいな思いをさせない、カグラ……イチカみたいな人生を、歩ませない…………! これは俺の矜持だ。生きる意味だ。俺の全てで、復讐で、贖罪だ!」
私の刃がスカルライダーの脚を、脇腹に当たる。だが、それと同時にシルヴィーツヴァイが切り裂かれる。
「なっ…………!?」
「幸せを掴むことを諦めない分、俺よりはマシだ。だからその幸せすらも壊す今のお前を、ぶっ殺す」
去り際に聞こえたのは、複雑な殺害予告。そこから先は爆発のせいで、声を発していたかもわからない。
少なくとも、私の心に大きく残る戦いだったことに、間違いはなかった。
『Battle ended』
『Winner:Anomalocaris』
次回、過去と今を捨て、レイメイは未来へと羽ばたけるのか。
文字じゃ伝わり切らないこの2人の激ヤバ操縦テクニック