ガンダムビルドダイバーズ:BR   作:レイメイミナ

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初期のBRちょっと見返したんですけどシルヴィーのツインピストル表記ブレすげぇな…………


第48話「夜明けのリバイバル」feet.R

 戦いの後、改めてアノマロと話をするために戦術試験区域に降り立った。とは言っても、私の意見は尊重されず、彼の意見が優先されることになるのだが。

 私は負けた。決定的な敗北を目にしてしまった。ガンビットの攻撃も避けられ、接近戦でも勝てず、それでも頑張って粘って、そして負けた。認めざるを得ない完璧な敗北だった。

 

「…………ほらよ、コーヒー」

「……コーヒー嫌い」

「……、はぁ、わったよ」

 

 アノマロは取り出した黒い液体が入っている2つのマグカップの内1つを仕舞い込み、代わりに黄色い液体の入ったマグカップを取り出して私に差し出した。恐らくりんごジュースだろうか。

 

「お前ってあれだな。滅茶苦茶口軽いな」

「うっさい。…………言わないでよ」

 

 雪崩のように言葉が出てきて、いらないことまで言ってしまうのは昔からの癖だ。お陰で昔から友達が出来なかったし、出来たとしてもすぐに離れていった。

 

「にしても、最初っから生意気な奴だとは思ってたがまさか不登校だったとはな」

「何か身に覚えでもあるの。まさかお前もとか、そういうのは冗談だけにしてよ」

「つまんねぇプライドしてんなお前。ちげーよ。俺は昔から人の感情や感性、性格に敏感だった。今はこんなんだがよちよちやってた頃は本ばっか読んでる根暗でな、クソみたいなあいつらのご機嫌ばっかり伺ってた」

「……お前の両親ってなんだったんだよ」

「ただのエリート設計士とエリートナース。相手高望みしてたら偶然捕まったとかいうゴミコンビだよ。子供ながら強制されるのはストレスだったんで色々反抗したら見限られて、そうじゃなかった俺の妹……サモネを気にかけるようになった」

 

 合間合間でコーヒーを飲みながら綴られる彼の過去。皮肉めいた口調で誤魔化しているが、その心の闇が垣間見えるようだ。

 ”俺達にとっちゃありふれた話なんだよ”…………という言葉は、本当なのだろう。

 

「それって、所謂ネグレストとかいうやつ?」

「俗っぽく言やそうなる」

「…………なんか、気の毒としか言えない」

「いいんだよ。こんなの、実感がない方がいい」

 

 アノマロは自嘲するように笑う。私はリラックスするためにりんごジュースを口に含んだ。擬似的ながら、りんご特有の甘い酸味が口の中に広がっていくのを感じる。

 

「………………いつだったか、そんなのもう忘れちまったがな。どっかのタイミングで気付いたんだよ。”家族が欲しい”って、日々を笑っていられる家族が、俺には必要なんだって」

「家族、か」

「ずっと僻んでいた。両親の献身的なサポートによって好きなことができたカスミ、父に影響されて教師を志すほどに親密なカグラ、俺には手にすることが許されなかった光だ。俺はあの2人がいるのに、ずっと孤独だった」

「アノマロ…………」

「だから、事故ってサモネの記憶が吹っ飛んだ時は心ん中ではしゃぎ回っちまった」

「……、え?」

 

 突然衝撃的な言葉が飛んできて、一瞬聞き流してしまった。

 サモネの記憶が、飛んだ……?

 

「タイヤとあの2人毎記憶が吹っ飛んで、あいつらの築き上げた全てがぶっ壊された。いい気味だったよ。ま、犠牲は大きかったが」

「サモネも、記憶を失ってたんだ……」

「気にするようなことじゃない。目覚めて5年経ってる。もう一般人と同レベルで生きていけてるし、大学にも通ってる」

「大学…………」

 

 大きな学校と書いて、大学。その中身や構造は大きく違っていても、私が忌み嫌うコミュニティであることに変わりはなかった。

 

「まさか、サモネは学校行ったから普通に暮らしていけるようになったとか言わないよね」

「言うに決まってんだろ。教養のあると無しじゃあ雲泥の差だ」

「………………」

「学校ってのは敢えて人生にあまり役立たない知識も与えてる。切る知識と切らない知識を分けさせた方がやりやすいだろ?」

「専門家みたいなこと言いやがって」

「だな。適当に言った。まぁどうせカグラも同じこと言うだろ」

 

 投げやりに言う。それらしいことを言われると一瞬信じてしまうからやめてほしい。

 でもそんな思いは叶わず、かといって伝える気にもならず、私は自分の気持ちを吐露する。

 

「…………学校って、なんなんだろうね。ただ将来に役立つ勉強をするためだけの場所なはずなのに、なんで人間関係なんかで悩まなくちゃいけないんだろ」

「ンなもん、どこもかしこもあらゆる場所で”コミュニケーション”とやらを求めるからだろ。ガキの頃からイタズラ好きでそれを隠して、見ているようで見ていない親は全く気付かないから、何してもしてもいいんだって勘違いする。だからいじめだどうこうだってことが騒ぎにならない」

「……偏差値、学歴、スクールカースト、そんなもののために自分を殺さなくちゃいけないなら、私は学校になんか行かない。そんなところに行っても、ビリーヴは例え得しても損の方が大きいよ」

「………………。一応、心配はしてんだな」

「するに決まってるでしょ。だってビリーヴは──」

 

 言いかけて、ようやく気付いた。

 

 そうだ、ビリーヴは人間じゃなくて、ELダイバー。

 周りとは一線を画す全くもって未知の生命体。

 彼女は、クラスにいるあいつらとも、GBNの普通のダイバー達とも、ましてや私とも違う存在だ。ビリーヴのような存在が学校で、生徒として、共に学ぶ。それを、あいつらはどう思うだろうか。

 少なくとも、私とカグラは大丈夫だ。とっくに彼女を受け入れて、一個人として接していける。でも、あいつらはその限りじゃない。

 露骨に扱いを変える。それはまだいい。でも、それがどちらに向くのか。きっと理解を示そうと頑張る人もいるし、無関心の人だっている。

 あいつみたいに、小馬鹿にするやつもいるだろう。みんなからすればビリーヴはアニメみたいな超高性能AIを搭載した人型ロボットに見える。私もビリーヴと出会う前のELダイバーの印象は、自然に出現する自律した人工知能ぐらいの認識でしかなかったから、みんながそう思ってしまうのは想像に難くない。

 ふと、ビリーヴの記憶が消える前のことを思い出す。

 

 まだ、頼れるお姉さんを演じていた頃。まだビリーヴのことをちゃん付けで呼んでいた頃。まだ私達が、結ばれる前の出来事。

 そうだ、ビリーヴは学校に行きたがっていた。行きたがると思っていた。だってあの子は知識欲から生まれたELダイバーなのだから。知識を箱詰めにしたような場所には絶対に興味を示すと思っていたから。

 

「…………ビリーヴは?」

「ビリーヴは……………………私と同じで、みんなとは、違うから。髪は真っ白で、お人形さんみたいに綺麗というか、身体はお人形さんだし。こんなに、ちっちゃくてさ、」

 

 私は手でビリーヴのモビルドールのサイズを表す。

 

「なんというか、うん、言いたくないよ? こんなこと恋人に対して言いたくない、でも、でも…………ビリーヴは、どうしようもなく”異質”なんだよ」

「……異質、ね」

「私はビリーヴのことを愛している。みんなも……お前はわかんないけど、ビリーヴのことちゃんと仲間として思ってくれてる」

「俺だって仲間意識はそれなりにあるぞ」

「うるさい黙って。とにかく、ビリーヴをあの空間にいる人達がみんな受け入れてくれるかわからない。ちょっとノリが悪いだけの私ですらいじめられたのに、ビリーヴが楽しく過ごせる保障がない。怖いんだよ、ビリーヴの心に、思い出に、良くないものが溜まるのが」

「………………」

「あんな奴ら、私のシルヴィーでぺしゃんって潰してやりたい。でもそんなことはビリーヴも、シルヴィーも望んでない。だから乗り越えなくちゃいけない。わかってる。わかってるよ。でも進むのが怖いの。幸せが壊れて欲しくないの。ビリーヴに辛い思いして欲しくないの。私が学校に行きたくないのと同じくらい、ビリーヴを学校に行かせたくないんだよ…………!」

 

 ぽたり、りんごジュースに水滴が落ちる。いつの間にか私は涙を流していた。

 アノマロはただ黙って、私の話を聞いていた。そして、その口を開く。

 

「ま、それでいいがな。お前は一応義務教育を終えてるし、ELダイバーにもそんなものはない。全てはお前らの自由意志だ。俺達は部外者、とやかく言うほど図々しくは無い」

 

 淡々と、事務的に放たれた言葉は、私の言葉を肯定も否定もしてくれない。こいつの本音はさっき見えたはずなのに、全く底が見えない。私は、そんな彼に少しばかりの恐怖を覚えた。

 

「だから、それをちゃんと本人に伝えろ。とだけは言っておく」

「は?」

 

 突然、誰かの足音が聞こえた。

 まさか、と思って音がした方に顔を向けると、そこにいたのはやはりビリーヴで、そのすぐ後ろにはカグラもいた。

 

「ビリーヴ……」

「……レイメイ」

 

 無意識に名前を呼び合う。とはいっても、そんなアホなことで笑うような空気ではない。

 

(まさか、アノマロが2人を…………?)

 

 カグラがアノマロに向かって「こっち来い」と手で伝える。アノマロは何も言わずに立ち上がって、マグカップのコーヒーを飲み干した。

 私も慌ててりんごジュースを全部飲み込んで、アノマロが歩き出す前にマグカップを返す。

 

「どうも」

 

 アノマロは一言お礼を言ってからマグカップを消し、カグラの元まで歩き出す。そして、入れ替わりのように歩き出したビリーヴ肩をそっと叩いた。

 

「……今のリアルだったらセクハラだぞ」

「うっせ。リアルじゃねぇからいいだろ」

 

 一連の動きに対してカグラが苦言を呈す。2人の雰囲気はさながら義兄妹のようだ。

 ……さて、そんなことはいい。目の前にいる気まずそうなビリーヴに顔を向ける。

 

「レイメイ、学校のこと、カグラから聞いた」

「…………うん。だろうね」

 

 そんなことだろうとは思っていた。思っていたけれど、やっぱり複雑な思いはある。

 

「レイメイ、わたし…………学校、行ってみたい」

「……そっか。ビリーヴが言うなら──」

「でも、レイメイが嫌なら行かない」

「え……?」

 

 予想通りの言葉の後に、予想外の言葉が飛んできた。

 

「わたし、レイメイのこと大好きだから、レイメイに無理して欲しくない。わたしのためだって、我慢して欲しくない。レイメイは、どうしようもなくわたしの前でただ本心から来る笑顔でいて欲しいの」

「ビリーヴ…………」

「でもそれと同じくらい、学校に行きたい。色んなことを学びたい。それで、日々のことを話し合って、笑い合って、そういう、GBNとはまた違う幸せな生活を送ってみたいの」

 

 ビリーヴの瞳からは羨望をひしひしと感じられて、私から見ればそれはとても輝いているように見えた。

 だからこそ、余計に辛い。

 こんな表情が、苦しみに耐えるような顔になるかもしれないのが、たまらなく辛い。

 

「…………ビリーヴ。学校はね、楽しいことだけじゃないよ」

「うん」

「学ぶだけじゃない。たくさんの人がいて、みんなが全く違う考えを持っていて、だからそういうわだかまりみたいなものが、誰かを引き裂くことだってあるんだよ」

「うん。カグラに聞いた、レイメイが学校で辛い目に遭って、それで学校に行かなくなったって」

「…………私は、ビリーヴに私みたいな目に遭って欲しくない! だってビリーヴは学校にこんなに希望を見出してるのに、それを潰したくない! これは勝手なわがままだけど! ビリーヴにとって、学校は、ずっと手の届かない憧れであって欲しい…………! だから、あんなところに行かないでよっ……!」

 

 大粒の涙を流しながら、輪郭が曖昧になっていくビリーヴに叫ぶ。私の思いを、辛い気持ちを、私の醜いエゴを。

 多分顔はぐしゃぐしゃで、見れたようなものじゃない。ビリーヴだけだったらまだよかったけど、後ろには私達をそっと見守るアノマロとカグラがいる。

 

「…………レイメイ」

「っ…………?」

「泣いちゃうくらい、なんだよね。それくらい、わたしのことが好きで、嫌な思いして欲しくないんだよね」

「ッ……、うん」

「すごく、嬉しい。レイメイがわたしを愛してくれてるのがわかって、すっごく嬉しい」

 

 ビリーヴが1歩踏み出して、私の手を握る。

 

「だから、胸が苦しい。これからビリーヴを裏切るみたいなこと、言いたくない。でも、抑えられない。学校に行きたくて、行きたくて、だから、ちょっとだけ……ずるい子になるね」

「え…………?」

 

 そっと、抱き締められる。そして、ちょっと苦しいくらい力を強くさせられて、ビリーヴの顔が私の首元に近付く。

 息が当たって、じんわりと暖かくなる。抱き締め返したいのに、驚きのあまり呆然とした身体が言うことを聞いてくれない。

 

「一緒に、学校行こうよ。レイメイ」

「………………やだ」

「辛くてもがんばる。みんなと、仲良くなるよ」

「それが、嫌なの。辛くなっちゃだめで、みんなと仲良くなるのもだめ、ずっとずっと、私だけのビリーヴでいてよ」

「わたしは生涯ずっとレイメイだけのものだよ。だってわたしの体はレイメイのガンプラで、わたしはレイメイの恋人で、わたしの心はレイメイのものだよ。だからレイメイと一緒に行きたい」

「やだよぉ……、ビリーヴ、行かないでよっ…………私は、私はここでいいのに……」

「レイメイ、大好き。大好きだよ。レイメイのこと愛してる。言い聞かせてるんじゃないよ。本当だよ。学校がどんなに辛い場所でも、レイメイと一緒なら大丈夫だと思えるから、レイメイのこと、”信じてる”から、一緒に行こうって思うんだよ」

「ッ………………!」

 

 ビリーヴの言葉が突き刺さる。

 突き刺さったものは私の中に溶けて、私を形作るものの中心にじわじわと染み込んでいく。

 私の心が、ビリーヴに絆されていく。

 さっきまで、学校に行って欲しくないって思ってたのに。

 ”信じてる”って、たったそれだけで、一緒に行きたいと思えちゃう。

 

 本当に、ずるい子だよ。ビリーヴは。

 

「……………………うん。一緒に、頑張ろう」

「っ…………!」

 

 見事に絆されてしまった私の言葉を聞いて、ビリーヴが驚いた顔で私を見る。

 でも、その顔はすぐに笑顔になって、私に微笑みかけてきた。

 

「ありがとう。レイメイ」

「…………私こそ、かも」

 

 もう行かないと思ってた。

 でもビリーヴは、何も知らないのに手探りで進んでいって、私にないものを与えてくれる。

 私は、久しぶりにあの制服に袖を通そうと思った。

 




それは、愛しているから。
ちゃんとシリアスなのにアノマロカグそっちのけでイチャイチャし出すビリレメはさぁ……
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