セントラル・ディメンションで、いつものようにレイメイを待つ。この前はかなり遅い時間に来てあんまり構ってくれなかったから、今日はその分めいっぱい甘えるつもりだ。
「あ、い、う、え、お…………」
前は待ってる間は周りの言葉に耳を傾けたりしていたけど、今は一生懸命に文字の勉強をしている。ごじゅうおんとかひらがなカタカナとか、覚えることが沢山で大変だ。でも、それだけ多くのことを知れるから頑張れる。
ひらがなを一通り書いたところで、人混みの中から大きくて三角形の耳の人がこっちに来ているのが見えた。あの人は確か…………。
「おーい! ビリーヴせんぱーい!」
「ん? えーっと……」
確か、わたしと”フレンド”のコネコ。だったはず。せんぱいって、何?
「コネコ……だっけ。おはよう」
「おはようなのです! あれ、もうお昼時なような……」
「人と会ったらおはよう、じゃないの?」
「今の時間帯は”こんにちは”なのですよ」
へぇ、そうなんだ。また新しいことを知った。
「それで、どうしたの?」
「たまたま見かけたので来たのです。何してるのです?」
「文字の勉強」
「え…………?」
わたしが練習用ボードをコネコに見せたら、いきなり固まってあ然としていた。
……あれ、もしかして普通のダイバーさんは文字が使えるのが当たり前だから、こうやって勉強しているのは変なのだろうか。だからコネコは固まってるのかな。
「な、なんか深い事情が…………?」
「……? 事情って?」
「い、いえ! こういうのは関わり過ぎると良くないのです…………」
ふーん、変なの。
コネコと喋っていたら今度は馴染みのある赤い髪がこちらにやって来た。レイメイだ。
「お、勉強とは精が出るねぇ」
「レイメイ、こんにちは!」
「こんにちはー…………って、ビリーヴに教えたっけ?」
「あ、私が教えたのです」
「コネコ? 2人が先に合流してたかー、なんか悔しい」
レイメイがこちらにやって来ると、コネコがレイメイの方に近づき、手で口元を隠しながら小さく話しかけた。何を言ってるのかは聞き取れなかった。
「あの、ビリーヴ先輩ってどうして文字の勉強とかやってるのです?」
「あー、言ってなかったか。ELダイバーなんだよあの子」
「そうだったのです!?」
「そう。それで読み書きもままならない状態だったから教えてるわけ」
「へぇー……」
コネコが表情をコロコロ変えてレイメイの言葉に大きく反応している。なんだろう、わたしの知らないことを教えてるのかな。
それは、やだな。背中にびりびりしたものが走っていく感覚がする。
気付けば、レイメイの裾を掴んでいた。
「ん?」
「……え。わたし、なんで掴んだの?」
知りたい。
「あらあら〜、コソコソ話してる私たちを見て”嫉妬”、しちゃってるのです〜?」
「え、そうなの?」
「わ、わかんない。でも……レイメイがわたしの知らないこと、誰かに教えてるのは、やだって……思ったの」
「あぁ〜、うん。嫉妬だねそれ。心配しなくてもビリーヴが勉強してる理由を言っただけだから大丈夫。あっちがなんかコソコソ話しかけてきただけだよ」
「先輩、ビリーヴ先輩のことになると私の扱いがぞんざいになるのです……」
コネコが頬を膨らませながらそう言った。それはごめんね。
「で、レイメイ先輩が来たのでようやく本題なのです!」
「本題?」
「あ、例のやつ?」
何も知らないままのわたしに対して2人は知ってるみたいで、やっぱりわたしの知らないことを2人が知っていたみたいだった。嫉妬だ、嫉妬。
「例のやつって、なに?」
「ひっ、ビリーヴ先輩顔が怖いのです!」
なんだか顔が強ばってたみたいらしく、思わずコネコを睨みつけてしまった。そんなわたしにレイメイが横から頭を撫でてくれた。暖かい。
「もー世話の焼ける子だなー」
「嬉しそうなのです…………。本題というのはこの前先輩と一緒に作ったガンプラのお披露目なのです!」
「ガンプラ?」
そういえば、コネコのガンプラは知らなかったな。でもコネコはレイメイから”初心者”って呼ばれていて、どこか気を使ってるような対応をしていたし、レイメイのシルヴィーほどすごいものではないだろう。
コネコのガンプラを見るために、外の市街地エリアへと移動する。コネコが”うぃんどう”を操作すると、コネコの姿が消え、それに入れ替わるように白いガンプラが現れた。
「ぱんぱかぱーん! なのです!」
「おぉー!」
「かっこいい!」
「見るのです! 本体の塗装は赤青を反転させ、また違うヒロイックな印象へ! オールマイトストライカーは敢えてネイビーとイエローを用いた軍用機のようなカラーリングにし、ガンダムという作品の特徴を強くアピール! これぞ私の最強ガンプラ、『オールマイトストライク』なのです!!」
コネコの説明の通り、本体は赤と白を基調とし、背中の背負いもの、コネコがオールマイトストライカーと言ったそれはくすんだパープルと発色のいいイエローでメリハリのついた印象になっている。シルヴィーみたいな白黒のシンプルなカラーリングも良かったけど、このカラーリングもまた違うかっこよさがある。
「へぇ、コネコいいセンスじゃん!」
「えっへんなのです!」
「うん、シルヴィーは小さい身体にすごいパワーが秘められてるって感じだったけど、この子は力が溢れ出てくる感じ!」
端的に、わたしの感性で説明するとそのような印象だった。なんだかとても良い、そういう感じだ。ガンプラとあまり触れていないわたしはこういうふんわりとした感想しか出せないけど、このガンプラが良いものだというのは確かにわかる。
ガンプラを眺めていると、そこから降りてくるようにコネコが現れた。
「ふふふふふ、早速このオールマイトストライクでスカッとするミッションをするのです!」
「なんでも出来るがコンセプトなんだし、色々試せる連戦ミッションとかやってみたら?」
「連戦ミッション?」
「複数の段階に分けて敵が補充されていって、全部の段階で倒し切ったらクリア。ヴァルガのやつはミッション関係無くフリーバトルの乱戦状態だったけど、あれが段階的に来る感じかな」
「へぇー」
わたしに説明しながら、レイメイがうぃんどうを操作している。恐らくミッションというものの中から良いものを探しているのだろう。
「お、良いの発見。STARGAZER本編の追体験式のミッション。ガンダムゲーにありがちなやつだね」
「面白そうなのです!」
コネコが気に入ったようなので、そのミッションをすることになった。わたしはガンプラがないので未参加。レイメイも、「Sランの私がいたらヌルゲーになっちゃうでしょ?」と言って参加はしなかった。
ということで、場外でコネコの活躍を観戦することにした。
『Mission start』
「さぁ、どんどん来いなのです!」
最初にやって来たのはヴァルガの時に見た緑色で丸いガンプラに似たガンプラ。よくわからないのでややこしい表現しかできない。
「最初はモビルジン、SEED初期から長きに渡って使われるいわゆる雑魚だね」
「余裕、なのです!」
コネコは手持ちのビームライフル(というらしい)を使ってビームを撃ち、モビルジンを瞬く間に倒していった。
「第1WAVEクリア! この程度ならチョロイのです〜」
「油断するなよー! このミッションの推奨ランクはコネコより2つ上のDなんだからー!」
ミッションには推奨ランクというものがあるらしく、推奨ランクによって難易度が異なる。いわゆる目印というか、基準といったものだ。
コネコのランクは始めたてのFらしいけど、ガンプラの出来を見越してレイメイが推奨ランクDのミッションを受けさせたらしい。その時はコネコがぶつぶつ言っていたけどレイメイはあってないようなものと言っていた。
続いて複数現れたのはまだ見たこともない四足のガンプラ。
「バクゥハウンド! でもこれじゃあ私を、倒せないっ! のですっ!!」
コネコのストライクに突っ込んでくるバクゥハウンドを潜り抜き、背中の羽根が折り畳まれたかと思えばそれを抜き取り、大きな剣となったそれを持って突撃、一気に2体のバクゥハウンドを一刀両断。じゃなくて、二刀両断。
「確かにこれなら! ランクなんてあってないようなものなのです!」
「背中注意!」
「了解なのです!」
勢いそのままに次々とバクゥハウンドを斬っていき、背後に回ったバクゥハウンドも、腕部のビーム砲で迎撃。そして一太刀で撃破。ここまでの顛末はとても鮮やかなものだった。
「第3WAVE入る前に休憩だよー」
「はいなのです!」
「コネコ、すっごくかっこよかった!」
「えへへ〜、それほどでもなのです〜」
わたしが素直な感想を述べるとコネコの顔が緩み、いかにも嬉しいのを隠しきれてない様子で後頭部を掻いている。これは照れてるのだ。前に教わったことがある。
「にしても敵、脱初心者っぽそうなDランクにしては棒立ちばっかなのです」
「そりゃ動く前に倒しちゃったからね。あのライフル、私のと同じで連射性高いタイプでしょ」
「はいなのです! 戦いは数だよ兄貴! なのです!」
「それ数に負けた人の台詞じゃん」
コネコが「先輩はいっつも一言余計なのですー!」と言っている間に、わたしは彼女のガンプラ、ストライクの前に立っていた。
ELダイバーは、ガンプラの”声”が聞ける。レイメイにそう教えて貰ってから、ずっと試してみたかった。
どうやって聞くかなんてわからない。そもそもわたしは、ガンプラが話をしているところなんて見たことがない。でも、触ってみればもしかしたら…………。
「………………っ」
聞こえ、た?
この響くような感覚、間違いなく”声”だとわかる。だけど、これを声と形容するにはあまりにも不完全だった。
まるで声を出せないのに必死に出そうと頑張っている、そんな感じだ。少し酔ってしまうけど、悪い感じではない。
「…………そうなんだ。よかったね」
簡潔にまとめると、コネコは周りに縛られて生きてきたけど、このGBNではそれを気にせず楽しんでいることが嬉しい、とのことだ。まだその意味や真意を理解するにはわたしの知識が足りないけど、この子はきっと、コネコに感謝している。作ってくれてありがとうって、言っている。そんな気がする。
にしても、ストライクのおかげでガンプラは作るものだということが知れた。もしかしたら、わたしも作れたりするのかな。そしたらレイメイと肩を並べて、ちょっと怖いヴァルガの人達とも戦えたりするのかな。それはなんだか、良い気がする。とても、すごく。
「ビリーヴせんぱーい、どうしたのですー?」
「あっ。コネコ、レイメイ。お話はいいの?」
「いいよいいよ。コネコが突っかかってきただけだし」
「シャー!」
「はいはい。それで、もしかしてストライクの声聞いたの?」
「うん」
「え、ELダイバーってそんなこともできるのです!?」
「結構有名な話だよ。知らなかったの?」
「うぐぐ……知らなかったのです…………」
「この子、嬉しいって言ってる。作ってくれてありがとうって、楽しんでくれてありがとうって」
「っ……! そうなのです……?」
「うん。そうだよ」
「そっか…………そうなんだ」
わたしの言葉を聞くと同時に、コネコの大きな耳が揺れる。さっきの照れたような表情と違い、どこか遠くを見るような目でその口を綻ばせている。暖かい眼差しだ。
けどそこにレイメイが一石を投じた。
「ふーん、おりゃっ」
レイメイがストライクに近づいて、軽い蹴りをお見舞いした。
「え、ちょ。私のストライクに何するのです!?」
「嫉妬しちゃった〜。この私を差し置いてビリーヴを盗ろうとはこの泥棒猫め!」
「あー!!」
ついでと言わんばかりにもう一撃蹴りを入れる。嫉妬ってそんな感じなのもあるんだ……。
満足したのかすぐに退き、かと思えばすぐわたしに抱き着いてきた。悪い気はしないけど、ちょっと苦しい。
「だきー」
「わっ」
「ビリーヴちゃんは私が生涯かけて面倒見るからね!」
「え、あ、うん」
近くで大声を出されるとちょっと響く。幸いにもレイメイの声は透き通るようで不快感はなかったけど、これがもしあの髪が立ち上がった(モヒカンと言うらしい)人だと思ったらちょっと…………来るものがある。
この様子を見ているコネコが「薄い本が厚くなるのです……!」と言っているけど、うすい、ほん? とはなんだろう。
「レイメイ、うすいほんって何?」
「ビリーヴちゃんはまだ知らなくていいんだよ」
「そうなの?」
「うん。ビリーヴちゃんにはちょっと刺激が強いというか……その、なんていうか…………えっちなのはいけないと思います」
またよくわからない言葉が出てきた。レイメイが知らなくていい、というのなら知らないままでいよう。まだ、ということは、いつかは知れるんだろうし。
「さ! もうすぐ第3WAVEだよ! 用意してコネコ!」
「あ、はいなのです! 第3WAVEだろうがお構いなくやってやるのです〜!」
そう意気込みながらストライクに乗り込んでいく。ここまで順調だったし、きっと最後も大丈夫なはず。
「さぁ、最後の敵をご拝見なのです……」
レイメイと一緒に安全な地帯に向かってからコネコの方を見ると、コネコに周りには青、緑、そして黒いガンプラがそれぞれ立ちはだかっていた。そのうち黒いガンプラは、コネコのストライクによく似ている。
「ストライクノワール、ブルデュエル、ヴェルデバスター! 再生産された前期GAT-Xシリーズの強化型が勢揃いなのです!」
「ブルデュエルはさっき犬やっちゃったから手強いな……。それにノワールはある意味、コネコのオールマイトにとってはライバル的存在」
コネコが戦闘態勢に入ると同時に、レイメイが状況を冷静に分析している。
「とはいえ点取り屋はノワールただ1人、デュエルはタンク! バスターは砲台! それさえわかれば、後は優先順位を付けるだけなのですっ!!」
コネコも軽い分析をこなしたあと、大剣を持って一目散に黒いガンプラ、ノワールへと突っ込みをかけた。しかし…………。
「なっ、避けられたのです!? うわぁっ!」
力任せのひと振りは容易く避けられ、その隙を狙って緑のガンプラ、バスターがげいげき。ストライクは体制を崩すもなんとか持ち堪えた。だけどその背後には既に、青いガンプラ、デュエルが待ち構えていた。
「そんなところに!? ぐっ、舐めるな! なのです!」
デュエルの腕から放たれたビームを、コネコは咄嗟にシールドで防いだ。
「三位一体、こいつら連携してるわけか……!」
「これまでとは格が違うのです……! でも、この子の”声”に答えるためにも……! 負ける訳には、いかないのです!!」
そう強く宣言し、再び大剣を構えるストライク。その目には、触れなくてもわかる確かな”想い”があった。
鮮血に染まる悲劇のガンダム。立ち向かうは、赤き全能の名を冠した機体。
次回から急展開かも