一閃。
互いの剣が交わり、綺麗な火花が散る。
二閃。
力は拮抗し、その場を1歩も譲らない。
ガンダムシルヴィーツヴァイ。ビーム主体のGN系とGUND-ARMの組み合わせだから、私の機体とは相性が悪いと思っていた。実際、この前戦った時は私が優位に立てていた。
でも違った。
彼女は、ビームソードを形成するライフルに、実体剣のソードビットを接続することでその弱点を補った。そして私の太刀は、相手側の高い”技量”で抑えられている。存外、厄介な相手だった。
振り被る剣は相手の剣によって防がれ、本体には届かない。でも、相手側の剣もこちらの太刀で防ぐ。
「はぁ、はぁ…………!」
「ふぅ…………!」
一進一退の攻防、全くもって、戦況に大きい変化は無い。だが、確実に削っていっている。そして私も、相応に削られている。
やはり、この人なら。
この妖精になら、私を殺すことができる。
「…………はぁっ!!」
両手の太刀を構え、再びテイルブレードと共に接近する。テイルブレードはガンビットと、太刀は相手の大剣と激突する。
1歩下がって、2歩進む。何度も何度も、ヒットアンドアウェイで。
「ッ!?」
「…………!」
太刀が、大剣が、お互いの武器が宙を舞う。
気を取られてる暇は無い。
すぐに拳で殴り掛かる。相手もその手で受け止め、反撃してくる。顔面に諸に喰らい、姿勢を崩すが、すぐに持ち直して、腕で機体を支えながら両脚部で頭部に蹴りを喰らわせる。
だが相手も一枚岩じゃない。サブアームでバルの脚を掴まれ、彼方へと投げられる。要塞の引力に引き寄せられながら地面へと叩きつけられ、機体に大きくダメージを受けた。
「……諦めるなら、これ以上はやらないで済むけど?」
「何、言ってるんですか……、止めるわけない…………!」
「そっか…………ビリーヴが来るまで待つつもりだったけど、本人がそのつもりなら……!」
ビリーヴ………………あの、ELダイバーのことだ。そういえば、彼女とガンプラバトルをしようという約束をしていた。この前は、シルヴィーツヴァイに一緒に乗っていたはず。だけど、今は1人だけ。
本当に、自分でガンプラを作ったのだろうか。だとしたら、一度見てみたい。
でも、それは叶わない。
立ち上がり、見上げた先にいたブラック・ネオジオングを見て、そう悟った。
「ネオジオング……!」
スタルは、本気だ。
本気でGBNを潰そうとしている。何万人もの規模のマスダイバーと、フェイクデカール。そしてあれだけの巨体を持つネオジオングが使うフェイクデカールは、絶大な負荷をGBNに与える。バックアップも、修正パッチも間に合うわけない。
ブラック・ネオジオングから発せられた黒い波動が、宙域全体に伝播する。その瞬間、シルヴィーツヴァイのシェルユニットから光が消え、その機能を停止する。
あれはネオジオングのパイロットの願いを叶える力と、ブレイクブーストの合わせ技で、敵陣営の機体全てにデメリットを課しマスダイバー側を有利にするための技。あれによって、ほとんどの機体は機能不全も同然の状態に追いやられているはず。
「…………」
シルヴィーツヴァイは動かない。アンチドートとトライアルシステムの複合によって、機体は完全に停止している。
今なら倒せる。でも、私はそれを眺めているだけで、その場を一歩も動かない。
予想の通り、スタルから通信が入る。
『どうした。早くその機体を破壊しろ』
「………………」
『ヒカリ!』
「……できません」
『なんだと?』
「できません! こんなやり方で倒しても、意味が無い。これは私の追い求めているガンプラバトルじゃない!」
『違う、この世界そのものがガンプラバトルではないッ!!』
「それでも!! この人達にとっては、そうなんです……! 私が毎日夢見、憧れていたものと同じ…………ガンプラバトルなんです!! 私には彼ら、彼女らの想いを無げには……できない!」
ガンダムシルヴィーツヴァイは、GBNが生まれ、ここまで成長してから制作されたガンプラだ。ここがスタルの言う偽物であるなら、私が長年、手を加え続けてきたこのデモニックバルバトスと互角に渡り合えるはずがない。しかもこちらにフェイクデカールがあってこれだから、素の状態で戦ったらとうとうわからない。
そんなものを作るには、尋常ではないほどの強い想いが必要だ。執念とも呼べるような、そんな熱情が。それをガンプラ……ただ一点に注ぐことのできる人が、その人が認めるこの世界が、偽物なわけがない。
今気付いた。私は、私はこの世界のガンプラバトルを楽しんでいる。
だから、それを否定する人を、許せない。
「だから、やめてください!! これ以上誰かの『好き』を、否定しないでください……!!」
これが今の私の、全力の抵抗。
こんな言葉でどうにかなるわけがない。それでも、私は今、ここで、スタルを拒絶した。してやった。
『……くだらない。連中に毒されたな? その程度で我らの怒りの炎を絶やそうなど…………!!』
「…………」
『もういい。貴様諸共始末してくれる』
「ッ……!?」
不味い。
ここでやられたら、彼女との……ビリーヴとの約束が果たせない。
彼の力でエイハブウェーブが乱され、ナノラミネートアーマーの恩恵がなくなった状態では、ビームを受けたらどうなるかわからない。幸い太刀には対ビームコーティングを施しているが、それでも防げるかどうか。
………………いや、無理だ。例え防いでも、あんなものに敵う訳がない。きっとビリーヴも、彼によって…………。
「ごちゃごちゃ、うるさい…………」
「え……?」
声がした方に目を向けると、覚束無い動きでシルヴィーツヴァイが立ち上がろうとしていた。
「聞こえ、ないじゃん……黙っててよ…………」
「で、でも……そんな状態じゃ立ち向かえるわけ──」
「黙っててって、言ったでしょ! 私は、信じてるから……あの子のこと、だから…………」
シルヴィーツヴァイは……いや、彼女は、どこかもわからない場所に向かって手をかざす。
「お願い、ビリーヴ………………助けて」
────────────────────
目を開ける。
辺りを見渡しても、何もわからない。何かが混濁しているような、そんな場所。
「わたし、やられちゃったのかな……」
もしかしたらわたしは気を失っているうちにやられて、塵となって消えてしまったのかもしれない。
いや、だとしたらわたしがここにいるわけない。だから、違う。レイメイとは、また会える。
「…………、……?」
ふと、目の前に光があることに気付く。
その光は、空中をふわふわとさまよっていて、落ち着きがない。
手を伸ばそうとすると、その光は向こう側に飛んでいく。
「あ、待って!」
追いかける。でも、全く追いつかない。
走って走って、どこまで行っているのかもわからない。そんな中で、ようやくその光に触れた。
その瞬間、目の前が光り輝く。
あんまりにも眩しくて目を瞑り、その光がなくなってから目を開けると、そこは見たことのある風景だった。
「…………ここ、レイメイのお家……?」
今はわたしの家でもある場所。そこにいるのは、どこかレイメイに似た女の子と、レイメイの面影を感じる男性。
『おとーさん! 何作ってるの?』
『お前には内緒だ。完成したら見せてやるからな』
『えー? なんで?』
『完成したら教えてやるよ』
男性はそう言って、女の子の頭に手を置いた。
「あの人、レイメイのお父さん…………?」
なんとなくそんな気がした。
手に持っているのは、ガンプラを作る時に使う色々な工具。レイメイが持っているものもあれば、そうでないものも机に置かれている。
突然、風景が変化する。今度は見たことない場所だ。
1つ道で分かれていて、右にも左にも均等に椅子が並べられている。全てに人が座っているわけではないけど、その人達は全員黒い服を着ていて、何だか悲哀に満ちた雰囲気だ。
そして中央には、レイメイと、レイメイのお母さんが箱のようなものを見つめていた。
『うぅ、貴方…………』
『おとーさん! おとーさん!』
2人とも、泣いていた。
見たことがない表情だった。わたしも悲しい気分になってくる。
「…………、この人は……」
2人が見ている箱の向こう側。
たくさんの花が置かれている壁の中央には、とある男性の写真が飾られていた。
その顔は、何度か見たことがある。
レイメイの、お父さんの顔だ。
また風景が変わる。今度もまた、見たことのない場所だ。
均等というには不揃いな机と椅子が、ずらりと並んでいる。でもさっきと違って、周りは和気藹々とした空気に包まれている。
ただ1人を除いて。
「レイメイ…………」
ここは多分、学校だ。
周りは同じ服を着た人がたくさんいて、どの人もレイメイと同じくらいの歳に見える。
机には本が何冊か置かれていて、落書きのようなものや、数字が羅列されているものが書き込まれていた。
そしてその教室の片隅で、レイメイは何をするでもなく、ただ縮こまっていた。
近付いてみても、レイメイは気付かない。ただ、周りの誰にも気付かれないように、ガンプラを持ってきていた。それは写真で見た、ガンダムルブリスだった。
ここが学校であると気付くのと同時に、これはレイメイの過去の記憶であることわかった。どうしてそんなものを見ているかわからないけど、虚ろな目をしているレイメイに、ただひたすらに胸が苦しくなる。
手を伸ばそうとして、また風景が変わる。
今度はよく見知った場所、レイメイの部屋。
レイメイは座って、とある何かを見ていた。
「……お父さんの、ばか…………」
見ていたものは、バースデーカード。机には、シルヴィーの元になった機体……ガンダムサバーニャが飾られていた。
…………そうか。そうだったんだ。
シルヴィーは、レイメイのお父さんが誕生日プレゼントにくれた、形見だったんだ。
「ねぇ」
丸まっている背中に声をかける。すると、レイメイは肩をビクリと震わせた。
レイメイが振り返ってこちらを見る。今にも泣きそうな表情に、胸が締め付けられるような気持ちになる。
「……誰?」
伺うような、控えめな声。まるでわたしのことを知らないみたい。
実際そうだ。この頃のレイメイは、きっとわたしのことを知らない。わたしは、きっと生まれてすらいない。
だから、わたしは話しかけた。
この頃のレイメイを、レイメイから教えてはもらっている。でも、自分の目で見たかった。知りたかった。
だからきっと、シルヴィーが応えてくれた。わたしと、
「わたしはビリーヴ。あなたのことを、教えてほしいな」
再び手を差し伸べる。今度は風景が変わったりなんかしない。わたしの手を見つめているだけのレイメイは、ただの記憶じゃない。
「…………私は──」
レイメイがわたしの手を取る。その瞬間、辺りはさっきのように光に包まれる。
──助けて。
声が聞こえる。レイメイの声だ。
──助けよう。
うん。わかってるよ、ネクサス。
──助けるよ。
ありがとう、シルヴィー。
「…………行こう、ネクサス。みんなが待ってる」
ネクサスのシェルユニットが白く輝く。視界に映っているのはさっきまで見ていた幻影じゃない、GBNのコンソールと、今わたし達が戦っている宙域だ。
「え、目覚め? 目覚めた?」
「あ、カスミ」
すぐそばにカスミのビビッドガンダム・ゼロがいた。どうやらわたしが眠ってる間、守ってくれていたらしい。
「ありがとね」
「あ、はい……。じゃなくて、はよレイメイんとこ行ってやれ。さっきの波動……どう考えてもシルヴィー特攻だぞ」
「わかってる。でも、無事だよ」
「は? なんでわかる?」
「聞こえるから。シルヴィーの声が」
「はぁ…………。もうなんでもありだな」
カスミは納得したのか、諦めたのかわからないような態度で後退した。
なにはともあれ、まずはガンビット。散らばっているガンビット全部をキャッチして、この場所まで連れ戻す。続いて、ライフルのグリップを展開して、ガンビット達を全てライフルに接続、ガンビットライフルにする。
でも、撃ち出すのはビームじゃない。コンソールを弄って、『アンチドート』を選択。チャージしてから、上空に高く打ち上げる。
「…………お願い、届いて!」
ガンビットを分離して、ネクサスの周囲を囲む。そして、球体状のデータストームを、宙域全体にまで広げる。
データストームは波動のように広がり、あっという間に一帯を覆った。
「データストーム!? 中継器も無しにこれとか、デタラメすぎんだろ……!」
そこかしこから聞こえてくる悲鳴が聞こえてこない。きっとアンチドートがちゃんと作動して、フェイクデカールが発動しなくなったんだと思う。
通信が入る。その相手はゲームマスターさんだ。
『ありがとう、ビリーヴ。君の協力によって、気休め程度だがフェイクデカールを無効化することができた。後の問題は我々に任せて、好きに戦って欲しい』
「……はい」
返事はその1回だけ。通信が途切れる。
あとは、スタルを倒して、ヒカリと戦うだけ。
シルヴィーは、レイメイはもうヒカリと戦っている。
「待っててね、レイメイ。すぐに終わらせるから!」
わたしはネオジオングを目指して、全速力で向かった。
次回、ついに目覚めたビリーヴがスタルと激突!
ここに来て父親の形見という激重設定が生まれたガンダムシルヴィーさん、なんと関節以外ほぼ別物レベルにまで改造されています。お父さん天国で泣いてそう