「にゃ〜」
「にゃ〜、なのです」
「にゃにゃにゃ〜?」
「にゃにゃにゃ〜、なのです?」
「…………何してんだこいつら」
フォースに入って数日、わたし達は新しく知り合った3人と仲良く暮らしていた。アノマロカリスが来た時は「ホントにGBNに住んでるんだな」なんて言ってきて、わたしの存在が異質なんだと思ったけど、特に仲違いなどはなく。
わたしはカグラやカスミに色んなことを教わっていた。ガンプラの事とか、お絵描きとか、恋? というものも教えてもらった。それで気付いたことがある。
私は、レイメイに”恋”をしているかもしれない。
恋というのは、気付けばその人のことを考えていて、なのにその人に会ったら妙に緊張したり、しなかったり。そして何よりもその人に対して個人的な、「欲しい」という欲を持っていること、らしい。カグラ曰く。
わたしは確かに気付けばレイメイのことばかり考えてるし、会う時は身だしなみを揃えたりして妙にそわそわすることがある。それに、もしレイメイが自分のモノになるなら、嬉しい……そんな気がする。
「おやおやビリーヴちゃん、恋する乙女の顔だね?」
「ひゃうっ」
なんて考えていたらコネコと遊んでいたカグラが急にわたしに話しかけてきた。
「さては〜、レイメイちゃんのことだな?」
「え、と。そ、そう……なのかな」
「わかるよレイメイちゃんかわいいもんね。それに優しい。さ、恋のお悩み相談はお姉さんに任せな?」
「…………うん」
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「お忙しい中来て下さり、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず」
大人は嫌いだ。
上の立場の人間にへりくだると思えば、子供には一生懸命威張る。私のこと、わかった気になってものを言う。こいつらもそうだ。
責任という言葉が軽薄な、こういう大人が大嫌いだ。
「アカツキさん、学校には行けそうですか?」
「…………」
そんなわけないだろ。そう言ってやりたいけど、圧迫した空気感に言葉が押し潰されて上手く出てこない。
「……そうですか。では、クラスの皆にどうしてもらえば行けそうですか?」
「…………、どうしてもらうかどうかじゃないです」
「ふむ、どういうことですか?」
「私はアイツらが嫌いです。嫌いなヤツと一緒の空間で勉強したところで捗るわけが無い。それだけです」
自分なりに言い切ったつもりだ。アイツらは嫌いだし、あんな空間とはおさらばしたいのが本音だ。かと言って転校したところで、そこで新しい嫌いなヤツが生まれて、またこうなる。つくづく私は集団行動に向かないと思う。
「なるほど……。でしたらもう他の高校に移った方が……」
「私もそう言っているんですけどね、この子がどうせ変わらないって諦めてしまってて……」
「…………」
環境が変わればいいって言う話じゃない。”私自身”が学校という場所に不向きなのだ。とはいえ、学校に行かなくていい通信制の高校に行こうとしても、家には私立校に行けるほどのお金はない。
いつの間にか母と生徒指導の先生は2人で世間話を始めていた。恐らく気まずい空気を転換するためのものだろう。
…………もう嫌だ。
そう思ってすぐ、私は立ち上がって駆け足で自室に戻った。2人の制止の声なんて聞かず。
そして戻ってから流れるように家庭用の筐体を机に置き、更にその上にシルヴィーを乗せる。諸々の設定を済ましてGBNへダイブ。こんな世界より、私はGBNの方が居心地がいいんだ。
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私だけの場所、だったけど最近はそうでも無い場所。モビルスーツドック。
何か考え事したい時は大抵ここに来る。シルヴィーと話なんて出来ないけど、この子が私を守ってくれる気がするから。
「はぁ、何も解決してないじゃん……」
そうだ、これではただ逃げただけ。
ELダイバーはきっと、リアルで悩む事は無いんだろうな。四六時中GBNにいて、色んなところに行って、それでずっと楽しく暮らす。いいなぁ、私もELダイバーとして生まれれば良かったのに。
「かといって、自殺して来世ワンチャンは嫌だし」
死んだら後戻りは出来ない、それが生命あるものとして絶対の原則。ガンダムでだって、死ぬ時は死ぬんだ。
「シルヴィー、私どうすればいいんだろ」
聞こえてくるのは排気管の音だけ。そりゃそうだ、ガンプラの声を聞けるのはそれこそELダイバーだけ────。
「『ここにいていい』って、言ってるよ」
「っ……!?」
ビリーヴ、なんでここに。
そう言う前にビリーヴの言葉が遮った。
「レイメイ、ちょっといい?」
「え、うん。いいけど……」
ビリーヴの傍に寄ると、手を引かれてそのまま、抱き締められた。
「わっ!? ど、どうしたのビリーヴ──」
「こうしたら気分が良くなるって、カグラから聞いたの」
「そ、そっか」
周りには誰もいない。ここには私達2人だけ。
あぁ、暖かいな。電子生命体だから肉体なんて無いはずなのに。
「レイメイ、言って。リアルであったこと全部」
「え…………?」
「わたし知りたい。リアルのいいところも、嫌なところも、全部。全部知って、レイメイと同じになりたい」
「私と、おなじ……?」
「うん。同じ」
なんなんだ、なんなんだ。一体。私が少し目を離した隙に、ビリーヴに一体何があったって言うんだ。
私が教えていないことを、いや。教えたことからビリーヴが自分で考え出した、私の知らないビリーヴの想いが、胸に突き刺さるようだ。痛いとかじゃなくて、程良く気持ちいい感覚。
これは、一体。
「同じになりたいって思って、気付いたの。レイメイが好きなんだって。レイメイしか知らないけど、それでいいの。レイメイが1番。レイメイがいてくれればそれでいい。それが、恋なんだって……!」
「え…………?」
「レイメイ、わたしと、"永遠"を誓ってくれませんか」
…………ああ、そうか。
きっとビリーヴの中で私は、他の何よりも大きい、彼女にとって唯一無二の存在になっていたんだ。
そしてそれは、逆もまた然り。私にとっても、ビリーヴはかけがえのない存在になっていた。
互いが互いを求め、欲する、それが「愛」。私は、いや私たちは、その愛を紡ぐための恋心を持っていたんだ。
「……ビリーヴ、私も──、っ……?」
待って、おかしい。
恋なんて教えてない。嬉しさで舞い上がったけど、そんなの、教えたことなんてない。
そりゃそうだ。私みたいな芋臭い女、恋愛事情なんて存在しなかった。それに周りにそういう人も居なかったからそんなこと教える機会はない。じゃあ、なんで恋なんて知っているんだ?
…………腹立つ。恋は、その人にとってとても大事なものだ。
それを教えるのが私じゃなくて、他の誰か? 許さない。
恋心を自覚した私は止まらなかった。恋を知ってしまった以上、私が教えることなんて出来ない。でも、もしもビリーヴが「愛」を知らないなら、どうだ。今の私なら、相思相愛の関係である私たちなら、教えてあげられる。愛を、その心に、身体に、魂に。
「……。ねぇビリーヴ」
「……? どうしたの、レイメ──んっ!?」
乱暴に噛み付くように、私の口でビリーヴの唇を覆った。
「──はっ、恋とか誰に教えてもらったの? ねぇ」
「んん、……え? えっと……カグラから教えてもらったよ?」
「そっか。カグラが」
あの女、後で痛い目見てもらう。
まぁそれはいい。今はビリーヴに恋が実ること、愛を育むことの意味を、
「レイメイ、怒ってる?」
「怒ってるよ。恋することは大事だからね。それを私が教えられなかったなんて、悔しいから」
「じゃあ……恋のこともっと、深くまで、レイメイが教えて?」
「っ…………、その煽り文句もカグラから教えてもらったの?」
「え、違うんんっ!!」
ビリーヴの言葉を遮るように再び唇を重ねる。もっと深く、その口内を蹂躙するように。
基本的にGBNでは"そういう"行為やスカートを覗いたり胸を過度に触ったりなどのセクハラ行為は不可能だ。しかし、近年行おうとしている海外展開に向けてのアップデートで、キスなどある程度のことは許容されるようになった。国によってはキスすることが普通だったりするからだ。だから、これは運営の許容範囲内だ。
「ん、はっ…………」
「れい、めい……っ」
ビリーヴの口内に自分の舌を入れ、全体をぐるりと1周する。上顎の辺りでビリーヴの肩がビクリと跳ねたので左手で肩をそっと添えてあげる。右手は腰の方に置き、支えて逃げられないようにする。
「ま、まって……んっ」
「やだ……っ……」
「んん、あっ…………」
きっとビリーヴには未だ経験したことの無い快感が全身を襲ってることだろう。右手に体重がかかって自力で立てなくなっており、こっちの腕にしがみついているビリーヴの両手も震えて力が込められていない。
そんなビリーヴの可愛さを見て、もっといじめたくなる。さっきわかりやすい反応を見せてくれた上顎の部分を、重点的に責め立てる。
「んんっ!?」
さっきよりあからさまに身体が震えた。どうやらここが弱いらしい。もっとつついてみると完全にへたりこんで離れてしまいそうになったので、後頭部の方を左手で支える。対するビリーヴの手は完全に力が抜けきってしまい、重力に沿ってだらんと下げられてしまっている。
「んあっ、はぁ……れいめい…………」
「んっ、んん……ビリーヴ……」
息継ぎの合間に名前を呼び合って、愛を確かめ合う。そう、これは愛を深める行為だ。決して私の独占欲が暴走してるとかではなく。
ふと顔が見たくなって、顔を離す。私とビリーヴの唇は、さっきまで情熱的に重なっていた証拠と言わんばかりに艶やかになっていて、繋がっていたのを惜しむように銀の糸がかけられ、そして落ちた。
「はぁ、はぁ……」
「ん、ビリーヴ…………」
ビリーヴのその顔は、私がさっきまで自分のことばかり考えてしまったが故に惚気けていて、酸欠からか、恥ずかしさからかその頬は真っ赤に染まっていた。
最初は可愛いというか、愛くるしさが勝った。でも段々と、血がスーッと下に落ちていくような、身のよじれるような罪悪感でいっぱいになった。
「れい、めい…………」
「っ……、ごめんっ!」
「え、レイメイ!?」
確かに感じた興奮と、それを否定する罪悪感が心でせめぎ合い、何かもうめちゃくちゃになって、その場から逃げ出した。ビリーヴを置いて。
──出来るわけないのに、馬鹿みたいだ。
────────────────────
さっきまで起きていたことが嘘のように静まり返っているその場所で、わたしはただ力無くしゃがみ込むだけ。
あの感覚、あの感触、そしてあの暖かさ。忘れることなんて出来ない。わたしは、完全にアレの虜になっていた。
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宛もなく逃げ出して、そのままどこに向かうわけでもなく、私はもう何処かわからないような廊下を歩いていた。ビリーヴは追ってきてはいない。それに誰もいない。
……そう思っていたら、目の前に突然、金髪の青年が現れた。
「待てよ」
「……カスミ」
「正解」
そいつはカスミだった。私を遮るように堂々と前に立つその姿は、まるでこの先は1歩も通さないと言わんばかりだ。
「一応フォース仲間なんだし、心配ぐらいはさせてくれよ」
「うるさい、関係ない」
「…………ビリーヴとなんかあったな」
「っ……!」
こいつ、なんで気付いた? しばらく経ったから唇なんてとうに乾いてるし、何よりこいつが私たちのことを知り得るはずがない。
「な、なんで」
「お前が喜怒哀楽働かせるのがビリーヴ相手ぐらいだからだ。お前、オレ達には結構淡白に接するからな」
「なっ……」
そんな、そういうレベルで気付かれてたなんて。
「それで、話す気は?」
「…………、あると思う?」
「そうか」
その返事と共にカスミは何か操作を行い、私の方に向けた。
それは、フリーバトルの参加承諾の画面だった。
「は……?」
「同じSラン同士だ、文句無いだろ。オレが勝てば話してもらう。お前が勝てばお好きにどうぞ」
「っ……、何が狙い?」
「狙いとか別に、ただお前を心配して相談相手になってあげようって思っただけだよ」
「そう…………。いいよね、"恵まれてる"人間はさ。そうやって上から同情できる余裕があるんだから」
私はそのまま『YES』をタッチする。
いいだろう、そっちがその気ならこっちだってやってやる。丁度ヴァルガでの決着もついてなかったことだし、リベンジマッチと行こうじゃないか。
機体はビリーヴがいるドックの方にあるけど、転送すれば問題無い。
「よし…………、"決闘はモビルスーツの性能のみで決まらず、"」
「……"操縦者の技のみで決まらず、"」
「「"ただ、結果だけが真実"!」」
……フィックス・リリース、だ。
下手でも施しは要らない、恵まれてる奴なんかに負けたくない。