ぬらりひょんは異世界でも百鬼夜行を作る様です 作:雑食で節操なし
とある森の中、女が走っている。
少しでも早くオーガたちが大規模な群を作っている事をギルドに伝えなければいけない、その焦燥感が胸の内を占める。
女は冒険者であった、始まりはとある村からの依頼だった。
ある村との連絡がつかないという内容だった。
定期的に交流を図っている村からの使者が一向にやて来ないという内容であり、何かあったのではないかと心配で様子を探って欲しいという依頼。
ギルドはその依頼を最低ランクの一つ上のDランクに設定した、村の確認をして何もなければ連絡事項を伝えるだけの簡単なクエストだったからだ。
そしてその依頼を受けたのが彼女だったという訳だ。
そんな彼女が見たものはオーガを中心にオークやゴブリン、ビックボアにワイルドウルフ等のモンスターが群れを形成している光景だった。
異常事態である、通常モンスターたちは同種族で群れを作る、だが他種族とは基本的に群れを作る事は無い。
だが現実に今彼女の目の前には少なくとも四つの種族からなる群れが形成されている。
(まさかこんな事態になってる何て、この事を早くギルド長に知らせないと)
そう思いこの場を離れようとした彼女の目にある一団を捉えた。
その一団は二組に分けられ、一方はボロボロの身体で服を着せられておらず足を縛られていて。
もう一方も服を着ていないが比較的にきれいな身体をしているが、ボロボロの格好をしていた者たちと比べてより厳重に手足を縛られている。
更に詳しく見てみるとボロボロの格好をしている方は男性だけで、厳重に縛られているのは女性だと分かる。
ゴブリンやオークにオーガが他種族のメスと交尾をして種を増やすのは割りと知られた話である。
そして男性の方は食料として捕らえているのだという事も分かってしまった。
その為に男と女を分けているのだということは直ぐに理解した。
理解したところであの大群を前に彼女一人では何も出来る事も無く。
直ぐに援軍を連れてくる事を心の中で誓い手のひらを力強い握り締め必ず味方を連れて戻って来る事を誓いこの場を離れる事にした。
そんな彼女の耳に轟音が響いた、慌ててこの方向に目をやる、するとそこには3メートル弱の身長に全身を赤毛で覆われ、手足を刺付きの装甲に覆われた熊がそこに居た。
「ぐわっはははっ!まさか仲間に入って直ぐにこんなカチコミをする事になるとはなぁ!」
そう言いながら四足歩行で駆けながらもモンスターたちを轢殺や圧殺していく巨大で人語を話す熊。
「なんだ鬼熊、今さら怖じ気づいたのか」
「バカ野郎デュラン!お前こそ片手で戦えんのか?なんなら守ってやろうか」
鬼熊と呼ばれた熊と軽口を交わしているデュランと呼ばれた者も明らかに人間ではないと一目見て分かった、首から上が無かったからだ。
おそらくデュラハンと呼ばれる高位のアンデッドモンスターなのだろう。
重装備を身に付け頭を小脇に抱え、身の丈程もある大剣を振り回し周りにいるモンスターを斬殺している。
他にも大小様々なモンスターたちが元々いたモンスターたちを攻撃していく。
(強い、それに圧倒的に。
見たところ後から来た集団は十人も居ない、なのに戦いになっていない。
それだけあの集団の個の力が圧倒的に上なんだ)
既にそれは戦いと呼ばれるものでは無かった。
蹂躙と呼ぶのが相応しいだろう。
この事を早くギルド長に報告しようとその場を離れようとした彼女の首筋にナイフが添えられているのに気づく。
「動くな、少しでも怪しい動きをしたら容赦なく殺す」
(いつの間に?!全く気付かなかった!)
「……よし、そのまま両手を上に上げて私が言う通りに動け」
ここは従うしかないと考え大人しく指示に従う、横目で戦況を確認するとあらかたのモンスターは倒され残すはリーダーであるオーガ一人となっている。
そのオーガと対峙する様に出てきたのは一見するとタダの男だった。
東方の着物である着流しを身に付け、長い髪を結ったその姿遠目からだと女と見間違える程華奢だ、その姿は他のモンスターの様に威圧感も無ければ何かしらの力を感じる事も無い。
ともすれば他のモンスターたちの方が強そうであった。
オーガと一対一で対峙する男、怒号を上げ巨大な棍棒を振り下ろすオーガ。
衝撃、轟音土煙が上がるが直ぐに風により晴れる、そしてそこには小さなクレーターと無傷で立つ男。
(外した?あの至近距離で?)
外し様がないそんな距離、だが現実に何事も無かったかの様に佇む男。
その直後ズルリと肩から脇にかけて切り裂かれて滑り落ちる。
(なんだ何が起きた!?あの男は動いていない!それは間違えない。
なのにあのオーガは斬られていた!何が起きたんだ!!?)
そのままその集団まで連れていかれる。
そこには戦いを終えた集団が各々に談笑をしていた。
捕らえられていた男女も枷を外され服も着ているが、睨みを効かせて自由にするつもりは無いようだ。
「おう影、なんじゃその女は」
「先ほどあそこの草影から我らを覗いていたから連れてきた次第」
「ほーお、お前さん何者じゃ」
影と呼ばれた者を見るとそこに居たのは黒く深い闇を思わせる影、影なのに顔のパーツの輪郭が分かるという不思議な存在がそこに居た。
そう問われれば少し困る、このまま本当の事を話して良いのか、もしも話して敵対されないか。
少し考えておもむろに口を開く。
「私は冒険者ギルド所属のアイリーン。
そこの村人たちと連絡が取れなくなったと依頼が来て探していたところ、先ほど貴方たちが倒したオーガたちに捕まったと知ってその事でギルドに救援を伝えるつもりだった。
がその必要も無いだろう、因みに貴方たちの事を報告しても?」
彼女は正直に伝える事にした。
もしもこれでウソがバレて敵対されれば少なくない被害を被る事になる。
それならばウソをつかず正直に接した方がマシだと判断したからだ。
「そうかそうか、まあワシ等も面倒後とは避けたいからな。
それにダメと言っても伝えるんじゃろう」
「そうか、それは助かる。
それで彼らたちはどうするつもりなのか教えてくれないか?
一応依頼を受けた身としては身の安全を保証してくれると嬉しいのだが」
もしも、彼らがあのオーガたちから村人を横取りして、食べるつもりで群れに攻撃を仕掛けたのならアイリーンに守る術など無い。
オーガたちの群れでもギルドに所属する冒険者を総動員して当たる案件なのに、その群れを少数で撃破したこの集団相手に一人では立ち向かい勝つ術などアイリーンは持ち合わせてはいないからだ。
ふむっ、と呟き顎に手をやると村人たちを一瞥して口を開く。
「お前さんたちの中でリーダーば誰じゃ」
村人たちの中から一人の男がおずおずと手を上げながら前に進み出てくる。
男を一瞥してニヤリと笑う男。
「お前さんたちはワシ等に命の恩があるのは分かっとるよな」
「そ、それは、モッ、モモ、モチロン…です」
「よしよし、今ワシ等は一戦を終えて腹が空いとる。
そこでじゃ」
そこで一つ区切る、ゴクリと唾を飲み込む村人たちのリーダーとこの後の事を考え泣き出す者も出てきた。
「お前さんたち料理は出来るか?」
へっ?と言うどこか間が抜けた声が聞こえて来た。
それから数時間後、男たちの前には大量の料理が並び宴会と言うべき光景がそこにはあった。
男たちも村人もアイリーンまでもが好きに飲み食いし村から略奪された酒を飲み、笑い声を上げる。
鬼熊と呼ばれていた熊は料理の味に感動し、両手に肉を持ち貪る様に食べ。
デュランと呼ばれたデュラハンは頭を足の間に置き、マナー良く食事をしている。
先ほどまで囚われの身だった村人たちも生きていた事を感謝しながら食事を楽しんでいた。
そんな中モンスターたちのリーダーであるあの男を捜していたアイリーンは木の枝の上で酒を飲む男に気がついた。
「こんな所にいたのか、……貴方はあの中に加わらないで良いのか?」
「なんじゃアイリーンか、別に構わんじゃろう。
それより早めにあやつ等を元の村に連れて行く事じゃな。
いつまでも此処に居るわけには行かんじゃろ」
「それは承知している、明日の早朝には此処を出てギルドに着いたら護衛たちを連れて戻って来る。
それまでは彼らを守ってくれ」
そう言い頭を下げるアイリーン、パチパチと目を瞬かせる男にうろんな目を向けるアイリーン。
「なんだ、何がそんなにおかしい」
「イヤ何、随分とワシ等の事を信頼しとると思ってな」
「そんな事か、お前たちはあの村人たちに極力被害が行かない様に立ち回っていたからな。
それにあんなに宴会をしているんだ信頼位するさ」
そうかと呟きグイッと酒を煽る。
ふと一つ伝え忘れていた事に男は気がついた。
「そう言えばまだ名乗って無かったな、ワシの名前はぬらりひょん。
夜を統べる者、魑魅魍魎の主、魔物の総大将。ぬらりひょんじゃ」
それがアイリーンとぬらりひょんと名乗る存在との出会いだった。