拝啓母さん、俺はもう限界です。   作:胡椒こしょこしょ

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~うっかりやられて前歯損傷~って感じの話


俺らで入れる遺跡ダンジョン

シアとハジリマの街を出て、45分程度。

目の前には広がるのは、古ぼけた遺跡。

どこか粗い感じの、何を表しているのか分からない彫刻が施された柱と固く閉ざされた両開きの金属の扉。

そしてそんな石素材の壁を這うように蔦やコケが生い茂っている。

 

「どぉですかぁせんぱい~?ここが依頼の場所ですけど~?」

 

「...なんていうか、石室みたいだな。」

 

「石室だったら、アンデッド系の魔物が多いでしょうから私の魔法が出ずっぱりって感じになりそうですねぇ~...アンデッドとか、プリーストの方じゃなければ炎属性の魔法じゃないと倒せないですからねぇ?斬るだけだとキリがないですからぁ~。」

 

「...ちゃんと勉強してるんだな、偉いぞ。」

 

こちらを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべるシア。

あからさまに魔法を使えない俺に対しての茶化しを真面目に受け取ることなく、彼女の知識を褒めた。

昔やったお古の魔物図鑑も読み込んでいるようで何よりだ...もしかしたら、俺のやった本じゃなくて彼女の実際の経験から培った知識かもしれないが。

そうであったとしても、世話した後輩が冒険者として成長しているのは嬉しいことだ。

 

「あっ....当たり前ですっ!な、なんなんですか急に先輩風急に吹かせてッ!ふ、...フンッ!そんな態度取るのなら常日頃やれって話ですよ!俺が育てたみたいな顔して力を誇示するように私の肩を引き寄せれば良いって前言いましたよね!?そっちがその気なら、やれば良いじゃないですかっ!こっちはせんぱい相手であればまっっったく問題ないですが!?」

 

「お前は一体何を言ってるんだ....扉、開けるぞ。」

 

なんで怒ってんだろう....。

なんだか急に血相変えて畳みかけて来て怖いので、サラッと流しつつ遺跡の扉の方へと向かう。

表面に緑青が付いているから、この扉は銅製か。

扉の左右に手を付けて、ゆっくりと開いていく。

こういうのも、俺が出来ることの一つである。

力は...まぁ、俺の方が強いからな。

 

扉を開くと、開いた隙間から差し込んだ陽光で一筋の光が暗い遺跡内部を照らす。

すると、その光を反射するかのように二つ並んだ点がピクリと動く。

それは何個もあって、ちょこちょこと不規則に光に反応するかのように動いた。

 

俺が扉を開くたびに入ってくる光が増えていって、次第にその光の点の主が露わになる。

 

「ヂ....ヂヂッ.....」

 

「ヂュー...ヂ―!」

 

暗がりの中で灰色のぼさぼさとした汚らしい毛の塊が声を口々に鳴らす。

一つの場所に集まる様は背筋に鳥肌を立たせ、その鳴き声には怖気が走る。

ずんぐりむっくりした身体に飛び出した前歯。

その魔物の姿を俺は知っていた。

 

「ケイヴラット....」

 

「ヂヂッ....ヂュー!」

 

俺が声を発した瞬間、ラットが一斉にこっちを見た。

二つ並びの光の点が何体もこちらを睨みつける。

ヤバイ....この感じ、来るっ!

 

「ヂュワァァァ!!!」

 

刹那、その中の一体が突然の侵入者である俺に対して牙を剥く。

ずんぐりとした身体では想像も出来ないような跳躍力でこちらへと飛んでくる。

咄嗟に剣を腰から抜いて構える。

飛んでくるなら、迎え撃つのみ....!

 

そう思うも束の間。

背後から赤い光が自分の顔の横を横切る。

散る火花。

それは俺の頬をチリチリと少し焼いた。

 

「あっつ....!」

 

思わず声が漏れる。

そんな俺を他所に背後から飛んできた火の玉は俺目掛けて飛んできていたネズミに当たると向かいの壁にまで押し込んでいって炸裂。

壁の奥から焦げ臭い匂いがする。

 

背後を振り返れば、細剣を引き抜いて構えているシア。

こちらに突き出した手には赤い魔法陣が輝いている。

炎魔法か。

 

「お前....。」

 

「せんぱいに非難めいた目で見られるの、やぶさかじゃないですけどぉ....今は横、避けてた方が良いですよ?」

 

「言われなくてもっ....!」

 

俺に対して微笑みかけるシア。

正直言いたい事が色々あったが、今言ってもどうしようもない。

俺は黙って横に飛び退く。

こういうことは、まぁ....コイツと一緒に居る時は慣れていた。

 

「赤く輝く、真紅の炎。目の前の不浄を塵一つ残さず焼き払え....<炎塊(フレア)>。」

 

俺が射線から退くと、暗がり目掛けて詠唱を行う。

彼女が言葉を吐くごとに魔法陣が肥大化していき、遂には彼女の爪先から頭までの大きさへと広がる。

最早彼女は手を翳すことを辞めて、まるで杖を用いるかのように剣を横に構えて切っ先に手を添える。

そして、それを魔法陣に翳したままその魔法の名を口にした。

 

瞬間、大きな炎の塊が遺跡の内部目掛けて飛んでいく。

そして直後に炎の輝きで遺跡内部が照らし出された。

 

遺跡内部には何もなく、次の部屋に進む為であろう入口の金属扉と同種の物がある。

それ以外はコケやカビ、キノコが生えた壁内。

そしてなによりも....炎に包まれて悶え苦しむケイヴラットの姿があった。

 

それは一言で言えば地獄絵図。

まるでこの遺跡の一室自体がオーブンにでもなったのではないかと言わんばかりの惨状である。

されど、魔法による炎。

直ぐに立ち消えて、遺跡内部には暗闇が戻る。

 

「ふふん、どうですかぁ?やっっぱり、後輩ちゃんが居てくれると便利ですよねぇ~?『シアぁ~ずっと一緒に居てぇ~~』って泣きついてくれても構いませんよぉ?明文化してくれた方がぁ、私もやる気が出ますから。..あぁっ、頬っぺた熱かったですねぇ....よしよし....。」

 

そう言って俺を立ちあがらせた後、チリチリする頬を撫でる。

そんなことされたら必然的に顔が近づく。

....コイツ、顔良いな。

こんな近さで頬を撫でられるなんて経験あるわけなく、一瞬ドキッとしてしまう。

ただ、それを悟られると絶対揶揄われるので目線を逸らした。

 

「そうは言われても....今の魔法、なくても俺...対処できたぞ。」

 

「けれど、せんぱいもネズミの魔物にまみれて戦いたいわけじゃないんでしょう?」

 

「それは....そうだな。....まぁ、ありがとう。」

 

ケイヴラット然り、ネズミ型の魔物の怖いところは疫病だ。

ネズミ型の魔物は大体が体内に面倒な病気を持って居ることが多く、牙を受けたり体液を浴びてしまったりすると途端に感染するリスクが上がる。

病気にもよるが肌にブツブツと水泡が出来たと思ったら皮膚が剥離したり、呼吸がしにくくなったりと碌な事がないのであまり接近戦をしたい相手ではない。

...まぁ、なんだ。

釈然とはしないが助かったのは事実だ。

礼は言っておこう。

 

「そうです、何事も素直が一番ですよぉ?まっ、この分じゃせっかく新調した所悪いですけどその剣の出番はなさそうですしぃ、その剣仕舞ってお手々でも繋ぎますぅ?そっちの方が安全かもですねぇ~。」

 

「...流石に剣を仕舞うのは油断が過ぎる。やめとくよ。」

 

まぁ確かに遺跡内部に居るのがケイヴラットのような魔物ばかりなら魔法が使えて制圧力に長けているシアだけで事足りるだろう。

それに、彼女の場合は魔法職は魔法職でも魔法戦士。

接近戦もこなせる。

 

....とはいえここが遺跡であるのは事実だ。

何が起きるか分からない以上は、シアだけを頼りにするような事はいざという時に危機的状況に招きかねないからな。

俺自身も動けるようにしておくべきだろう。

 

「それじゃランタンを用意する、ちょっと待ってろ....。」

 

「せんぱい、何言ってるんですか?私達が一緒に行くとなるとやっぱりこれですよ。<照らせ>....ほら、明るくなりましたよ?せんぱいが暗がりで怖がらないように照らすのは私の役目ですから。ほら、ランタンなんかよりも優しい光だと思いませんかぁ?...そんな不意に消えるかもしれないような物に頼らないでください。良いですね?」

 

「お、おぉ....ありがとう。」

 

手を翳して大きなボール大の白い光の球をしたり顔で出すシア。

いつもこんな感じで二人で洞窟などに行くときは率先して照らしてくれる。

微々たる物とはいえ一応魔力を消費する魔法。

いつも使わせて悪いなと思って用意したんだが....、こうまで言われるならそれに甘えることにしよう。

 

にしても....。

遺跡内部へと足を踏み入れると、辺りには黒くなったネズミの死骸や黒く焦げた床があるだけでこの部屋自体にめぼしい物はない。

よく見れば壁に少し穴が空いてて、ぽっかり見えた土肌にまで暗い影が続いている。

...ここから侵入した臭いな。

だとしたら、このケーヴラットたちもこの遺跡に元々居た魔物ではないのだろう。

 

「この遺跡、依頼書の推定等級には何等級って書いてあった。」

 

「えっ~とぉ、...銀等級って書いてありますね。」

 

銀等級。

金以上の遺跡には及ばないが、一応売れそうだったりと価値が認められてるという点で当たりの部類だろう。

ただ、どうにもこの感じ....最初の部屋の時点で何もなくて後に広がる部屋も数少ないことや外からケーヴラットが入り込んでいること。

そのことも踏まえると、銅等級くらいが妥当じゃないかと思えてならなかった。

 

「...その遺跡の情報元である探り屋が誰かとか分かるか?」

 

「そうですねぇ~....『byチッチ&デイル』って書いてあります。」

 

「....彼らかぁ。」

 

遺跡探査の依頼は他の依頼とは少し違った形式を取っている。

まず『探り屋』という...まぁ分かりやすく言えば情報屋が遺跡を探して、ある程度価値を付ける為にも危険が及ばない程度に遺跡の構造などを調べる。

そうしてまとめた情報を冒険者ギルドに売って、ギルドがその情報を元にランク付けして冒険者に依頼として張り出されるのである。

 

それ故に探り屋によって遺跡の情報の出来に差異があったりするのだ。

だからこそ、探り屋によっては好評悪評問わず冒険者の間で有名になる人間は居る者である。

それは今回の遺跡の情報を探ったというチッチとデイルがまさにそれなのだ。

 

チッチとデイルは小柄な獣使い(ビーストテイマー)の少女と大柄な拳闘家(グラップラー)の男の二人組の探り屋である。

デイルの方はまぁ...そもそも力仕事&用心棒担当でそこまで探り業自体に関わっているわけでもないし、彼自身温厚で常識的な感性を持った人間である。

問題はチッチの方だ。

 

自己中心的で気まぐれ、金銭に対しての執着が凄い。

それ故に遺跡を見つける頻度は多い物の、情報のクオリティにムラがあって仕事が雑な時がたまにある。

丁寧な時は丁寧なのだが、雑な時は結構酷い。

洞窟内に間欠泉があるにも関わらず、明記しなかったりしたらしい。

まぁ、言うならば名前を見て避ける程ではないけれどお金第一って感じだからあまり良い噂は聞かない探り屋である。

 

「...なぁ、今度から一緒に依頼を選ばないか?だから前もってパーティ誘うとかしてくれ....。」

 

「....ま、まぁ?別に私はそれでも構いませんけど??ただ、まだ一フロアを見ただけなのにあたかも私が失敗したみたいに言われるのはちょっと癪ですねっ!後輩ちゃんが失敗したと思ったら、ここぞとばかりに遠回しな圧を掛けてくるの素敵です。惚れちゃいそうですよホント。」

 

「別に圧を掛けてるつもりはないんだが....はぁ、取り敢えず先を進むか。」

 

シアは隣で腕を組んで顔を背ける。

そして、再度こちらへと顔を向けるとムッとした様子でジト目でこちらを見てくる。

こちらとしては提案したつもりで圧を掛けてるつもりはないし、なんなら真っ直ぐ皮肉飛ばしてる分シアの方がよっぽどだと思うんだが...。

そんなジト目から逃れるように、溜息を吐きながら扉に手を掛けた。

 

 

結局は2つ目の部屋も3つの部屋も特にめぼしい物はない。

結局外から入ってきたケイヴラット以外に魔物には出くわしていない。

特筆するべきことと言えば、段々とまるで人が居た痕跡が見て取れることだ。

 

二つ目の部屋ではぼろ布が背もたれに掛けられた椅子と地面に描かれた魔法陣。

そして、三つ目の部屋では埃被った長机。

いつもポーションを買ってく錬金術師の家で見たのと類似した器具がところどころ砕けたり割れたりしているものの並べられていた。

 

「...見たことない字だなぁ。」

 

そう呟きながら床に投げたのか飛散した小瓶に張り付けられた文字を見る。

....うん、読めない。

まぁ別に読めることに期待しちゃいない。

遺跡の中では昔の記録を残す為か知らないが昔の言語で書かれた物があったりすることも稀にある。

そういう言語は発音の仕方が分からなかったり、読み方の規則性が分かっていない場合も多い。

まぁ、ある程度分かっている物もあることを考えると読める人間が居たりする学者や魔法職の連中は凄いなぁと思う。

 

「...なぁ、お前これ読めたりするか?」

 

「えぇ~、私古代語とかそういうのは疎い方なんですけどねぇ~....ん~...なんていうか形代魔法、あー...せんぱいに分かりやすく言うとゴーレムとかを作って使役する魔法を使う時の表意文字に似ていますね。」

 

「となると...この遺跡は昔の魔法職が使っていた工房跡ってことになるのかな....、いや決めつけてかかるのは早いだろうけど。」

 

それにこんな洞窟に居を構えている辺り、その魔法職の人間もなんていうかまともな人物とは思えない。

決めつけるわけにはいかないが、これまでの情報から察するにその線が高いだろう。

 

そう思いながら立ち上がって割れていない空の小瓶を持つと、その割れた小瓶の地点にまで戻る。

そこには元々割れた小瓶の中に入っていたであろうキラキラとした粒のような物がある。

...多分見る感じ、魔法とかに使う触媒用の鉱物だろう。

まぁ安価ではあるが、これも一応魔法職の人間に売れる。

小瓶にかき集める。

一応、毒性のある鉱物の可能性もあるのでハンカチを使って集める。

 

「...まぁ、なんにせよ売る物があるのは良かったな。昔の魔法職の工房跡の報告も出来るなら来た意味はあった。」

 

「...なんですか?私に気を遣っているんですか?...そういうのいらないです。言いたいことあるなら、はっきり言ったら良いじゃん...『時間返せー』とか『この苦労とどう釣り合わせるつもりだ?』とか。」

 

「そんなこと言うわけないだろ?遺跡探査はギルドが出した依頼なんだ。時間使うのも俺達冒険者の仕事の一つさ。...だろ?」

 

「...それもそうですねっ、せんぱい。」

 

流石に思った以上に何もなくて罪悪感を感じたのかシアが俯いて表情を曇らせる。

確かに突然相談も無しに依頼選んで連れて来られたシアも問題はあるっちゃあるが、どちらかと言えばこれは依頼が悪かったという奴だろう。

この内部の感じじゃ、銅等級以下が妥当。

つまり、情報屋の落ち度だ。

シアはあんま悪くない。

寧ろ帰ったらチッチに苦情を言ってもいいいかもしれないな。

 

それに確かになんか揶揄われたりがないからしおらしい方が扱いやすくはあるものの、ここまで沈んだシアのことを見過ごせるはずがない。

なので、フォローを入れる。

するとシアは顔を上げて、俺の目を見つめて笑顔を見せた。

...良い顔だ。

 

「まっ、もしかしたら次の部屋になんかあるかもだ。行くぞ、シア!」

 

「はぁ~い!....せんぱい、ありがとうございます。」

 

「お、おう....。まぁなんだ...こういうのは誰にでもあることだからな。だから気にすんな。」

 

元気よく返事をすると、急にシアがこちらに微笑みながらお礼を言ってきた。

なんだか...こうも真っ直ぐに言われると、少し照れくさい。

 

「あぁ~~~!せんぱい、顔真っ赤ぁ~!ふふっ、かわい~い~!」

 

「....やっぱ、お前もうちょっと凹んでてくんない?」

 

「せんぱいが励ましてくれちゃったんで無理でぇ~~す!後輩ちゃん元気いっぱいですよっ!残念でしたね?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべるシア。

....さっきまでしおらしかった様子を見ていたせいでぬかった。

コイツの前で下手なところ見せるとこうして弄られるんだよなぁ....。

元気なのは良い所だが、考え物でもあるな。

溜息を吐きながら、また次の扉を開ける。

 

「....門?」

 

その部屋だけ、他とは雰囲気が違っていた。

さっきまで増えていた人が過去に居た痕跡。

それが一切なくなり、壁に書かれた変なマークと床に描かれた魔法陣。

そして壁の隅にかかった蜘蛛の巣だけが部屋にはあった。

 

「なんか急に物々しくなりましたねぇ~。というか、あんな門みたいな扉があるとは依頼では書いてなかったんですけど。」

 

「...探り屋の奴やったなこれ。」

 

遺跡の構造把握は出来る限り行うのは探り屋としての最低限だろう。

けれど目の前に更に扉のような物があるという事は、この遺跡の情報集めは雑にやっていた奴なのだろう。

これまでの道のりで何も脅威がなく俺達自身もそこそこ冒険者としてやってるからやれやれって感じで済んでるが、もし新人がこの間に魔物などと戦闘して踏破間近と思ったらもう一部屋あったなんて不測の事態が起きたらと考えると心穏やかではいられない。

....これ、絶対帰ったら探り屋に抗議しよ。

 

なにはともあれ、ここで立ち止まっていたら始まらない。

門のような扉に近づきながら周りのマークを見回す。

なんか右には太陽みたいなマークの真ん中には線を通したかのようなデザインのマーク。

そして左手の壁には...なんか丸に細かい線が集まって<chrome_find class="find_in_page find_selected">いて</chrome_find>一本だけ丸に刺さっているかのようなマークがあった。

....左の壁に描かれた丸にも大きく猪目が書かれてるな。

ここでも猪目....やっぱ凄いんだな、ナギザイの技術.....。

 

門の左右にも何やら記号のような物が書かれている。

...なんか男子の便所と女子の便所のどちらであるかを示すマークに似ているな。

まぁ、多分似ているだけでそういう意味ではないんだろうけど。

ただこのよく分からない記号群の中で唯一人を表しているらしいことは分かった。

 

「....この門、魔法仕掛けですね。」

 

「じゃあ開けられないか?」

 

「せんぱい、後輩ちゃんを誰だと思ってるんですかぁ~?...と言いたいところですけど、これ結構誰でも解けちゃいそうな施錠術式ですね。多分魔法職であれば下級職であったとしても少しの心得さえあれば誰でも解除できる感じの奴ですよ、コレ。...この感じだとこの先も大したものがないか、それかここの持ち主であった人間の技能が大層低かったかですねぇ~。」

 

「そうか....。」

 

どちらにせよ、この先に重要な物はなさそうだ。

とはいえ、先を見ないで帰るわけにはいかない。

 

「それじゃ、開けてくれるか?」

 

「りょーかいですっ!まっ、ちょちょいとやっちゃうんで見てて下さいよ。」

 

そう言うと門に手を翳して何かを呟くシア。

手首に現れる白色の魔法陣。

それを横で見ていると、シアが言ったように結構解除するのに簡単だったようですぐに俺の方へと顔を向けた。

 

「ほら、解除できましたよ。」

 

そう口にした瞬間、不意に部屋に描かれた記号が全て桃色の光を帯びる。

光はぼんやりと暗がりを淡く照らし出していた。

 

「っ....!なんだ....!?」

 

咄嗟に身構える。

それは隣のシアも同じようで、剣を持つ力に手を込めて周りを見回していた。

されど、何も起きる気配はない。

...ただ、ゆっくりと術式を解除した扉が開いていく。

 

「せんぱい....!」

 

「....俺の後ろに。」

 

短くシアに後ろに付いているように言うと、盾を構える。

こんな仕掛けがあるんだ、もしかしたら向こうには何かあるかもしれない。

警戒を最大限まで高める。

 

そして扉が完全に開く。

 

中はより一層強い桃色の光で照らされている。

そして、もっとも目を惹くのは....扉の開いた先。

椅子に座って俯いて眠っているのかのように目を閉じている一人の少女。

特筆するのなら、その着ている物がなんというか見たことのないような...黒い身体に張り付いて体のラインが出まくっているかのような....正直目に毒な物だということだ。

 

「なっ.....!?女.....!!?」

 

「......。」

 

驚きの声を上げる中で、隣ではシアが絶句している。

なんで....こんな遺跡に人が?

しかもこんな珍妙で恰好で.....。

戸惑っていると、急に足に痛みが走る。

横を見れば、さっきまで後ろに居たシアが並び立ってグリグリと左足を踏んでいた。

 

「っ痛.....!シア、何すんだよ!」

 

「べっつにぃ~~~~?ただ仮にも遺跡の中、よく分からない状況なのに女の子が出てきたらそれをずっと見ちゃうんですね?ふ~~~ん、せんぱいそういう人なんですか。見損ないました、先輩酷いです。早急に見るのを辞めてください。」

 

「そんなつもりねーし!それに無茶言うなよ....あの人自体が謎なのにそれを見なかったら状況の把握も出来ないだろ?」

 

「どーだか。ただの言い訳じゃないことを願いたいですけどねぇ?」

 

...なんか機嫌悪くなってる。

同じ女性として不快に思ったのか?

...そんな神経質な奴ではなかったと思うんだけどなぁ。

 

見た目的には....整った顔立ちだ。

まるで作られたかのような生気を感じさせない人形のような怜悧な可憐さ。

肌も真っ白で、やんごとなき身であると言われても頷けるような感じ。

身体のラインも...まぁ締まるところは締まってて出るところは出ている。

なんだこれ....サキュバスか?

いや、でも翼も角も尻尾もない.....。

 

....ダメだ、見ていても何も分からない。

取り敢えず本当に人かどうか...生きてるかどうかを確認しよう。

それで状況も少しは推測できるはずだ。

 

そう思って一歩部屋の中に踏み出す。

すると、シアもそれに従い一歩前に踏み出す。

相変わらずの怪訝な目線をこちらに向けている。

勘弁してくれよ.....。

 

踏み出した一歩が5フロア目の床に付いたその瞬間。

 

「.....部屋内b..解 ho 確認。起 do。」

 

「....っ!」

 

少女は椅子からゆっくりと立ち上がった。

なんだか途切れ途切れに聞こえるが喋ったぞ!?

となると、相手は生きている人間か.....?

 

「おかえりなs..ss...psy ませ、『創造主』様。ore no 楽園計画...試作ダンジョン、『人形窟』。スク水ブ LONDO JK型...リerror...り、りり...リエ..La...です。」

 

「すくみず...じぇいけー....?なんだ...何を言ってんだあの人....。」

 

「せんぱい...何か、おかしいですよ。...人っていうか、あれじゃ...。」

 

所々発声がおかしい上に、聞いたこともないような言葉を口にする少女。

その不気味さをシアも感じていたのか、裾を引っ張られる。

そうしている間にも、彼女はゆっくりと首を上げて遂に目が合う。

 

「今回 いかがいたしましょう?私としては main te ナンスを提案致しま が、望みであれば『遊戯』をお申し two け......。」

 

そうしてこちらを視界に納めると、彼女の瞳孔があり得ない速度で収縮。

そして閉口する。

されど閉口したにも関わらず、けたたましい音と共に先ほどとは違ってとんでもない早口で意味が分からないノイズのような言葉が彼女から発せられる。

そして浮かび上がるように徐々に彼女の身体に何か線のような物が浮かび上がる。

 

聞き取れない言葉であろう何かと鳴り響く爆音に動揺する。

すると、ぐいっと裾を引っ張られて無理やりシアの方へと顔を向けさせられる。

 

「せんぱい、アレ...人じゃないですっ!この魔力の感じ....、ゴーレムですよ!!」

 

アレが....ゴーレム?

シアの言葉を聞いて、更に困惑する。

ゴーレムと言えばサイズの大きい小さいは知らないが、結構大きめの人のような四肢がある土くれみたいな見た目をしているイメージがあったからだ。

それにゴーレムを使う魔法職の人間は誰も彼もゴーレムの傍に居る。

そうしないと命令魔法の精度が悪くなって、精密性が下がるかららしい。

 

ただ、ここにはそんな術者らしき人間は居ない。

目の前の少女がゴーレムを使ってくるならまだしも少女自身がゴーレムだなんて....。

あんな人間に近い姿のゴーレムなんて見たことない....。

俺が魔法職じゃなくて魔法に疎いだけであるのか?

そんなことを考えていると、不意に視界の端で何かが動いているのが見えた。

 

咄嗟にそちらへと視線を向ける。

すると、...ゴーレム女からまるで触手が触腕を伸ばして攻撃してくるようにこちらへと握りしめた拳が伸びる。

関節から腕がまるで蛇腹のような機構で、やわらかそうに見えた肌とは対照的な人でない無機物であることを物語っていた。

 

凄い勢いで飛んできている....が、こちらに向かってではない。

寧ろ、俺の左隣に着弾するだろう。

....ん、左隣。

左隣....それじゃ、この拳は....!

 

「っ......!!」

 

「きゃ....っ!ちょっ、せんぱ....何突き飛ばして.....!?」

 

シアが驚きながらも抗議の声を上げる。

しかし、その続きは俺の耳には届かない。

代わりに、頭の中で鈍い音が響いた。

 

 

 

 

せんぱいが、目の前で飛んだ。

私を突き飛ばして。

最初は、目の前で起きていること....あんな精巧に人を模したゴーレムの存在などで事態が飲み込めなかった。

でも、せんぱいのそんな姿を見て状況がやっと飲み込めたのだ。

 

せんぱいが...殴り飛ばされた。

私を庇って...。

 

地面に転がる先輩。

呻きながらも、ゆっくりと上体を起こす。

やっぱりせんぱいは凄い。

一度倒れても、必ず立ち上がる...戦士の在り方としては模範にすべきだと思う。

 

そんな誇らしい気持ちも、一瞬胸を掠めただけで次の瞬間にはまた冷たい感情が胸を占めた。

 

「かぁっ...は、歯が.....。」

 

口を抑えながらも起き上がり、まるで掌に何かがあるかのように確認するせんぱい。

それに伴い、私にはせんぱいの口が今どうなっているかを確認出来た。

流れる血液...そして、へし折れた上の前歯。

 

それは、見ていてとても痛ましい姿だった。

 

目線だけをこちらへと向ける。

まるでゴーレムが指示されたタスクを終えた時のようにただ茫然と何もすることなくこちらを眺める女。

...アイツが、せんぱいを殴った。

せんぱいの....顔を、殴った。

せんぱいの顔に...傷を付けた。

 

「先細り...尖り、線と化せ....<先鋭化(エッジ)>、補うは堅牢...<硬化(ハード)>、足取り軽く風のように...<疾風(ゲイル)>」

 

目の前の人形を完膚なきまでに粉々にしてやる。

せんぱいの顔に傷を付けるなんて....許せるわけがない。

心の中では怒りが燃えている。

けれど口では、冷静に自身への強化魔法を付与していた。

 

確実に、アレは『殺す』。

....せんぱいにそう言ったらゴーレムなんだから壊すだろって言われそうだ。

けれど、私の心情的には間違いじゃない。

 

即座に立ちあがって、奴目掛けて立ち上がる。

身体が軽い....当然だ、<疾風>を掛けて素早く動けるようにしている。

 

人形は、こちらへと視線を向けると左拳を構える。

伸ばせ...伸ばして来い。

 

伸びた.....っ!

 

こちらへと拳が放たれるのを視界に納める。

その瞬間、一際強く足を踏み出した。

上体を低くして、まるで潜り抜けるかのように拳を避ける。

 

構える剣。

剣にも強化を掛けていて、切れ味も剣の強度も向上している。

これで斬れない道理はないはず。

これでも斬れなかったら、氷魔法を使う。

 

ゴーレムは必ず核と呼ばれる魔力付与体を体内に埋め込まれている。

一応ゴーレムと同じ感じの魔力の帯び方、巡り方をしているのならいくら見たことのないような類であったとしてもその原則から外れていないだろう。

だからこそ、そこを突けばこの木偶人形は動きを止める。

 

せんぱいには悪いが.....これは、私がやらないといけない。

せんぱいに庇わせてしまって、あんな傷を負わせた。

顔を殴らせることを許してしまった。

それは、偏に私の責任だ。

 

せんぱいが女を見ているのが凄く....すごっーく!!嫌だったし、それに加えて事態の急変からその場での優先順位を間違えた。

せんぱいに情報を教えるより前に、相手が何をするか注視してその後にせんぱいに情報を共有する。

私がしたことはただ、魔法に疎いせんぱいに思考させるようなことを言って混乱させた挙句に私自身も注意散漫になった。

情けない....。

 

確かに反応が可愛らしいあまり、せんぱいに意地悪を言ったり揶揄ってしまうこともある。

けれど、ここだけは私の超えてはいけない一線だった。

せんぱいの役に立てなきゃ....守れなきゃ、力になれなきゃ意味がない。

 

だから、ここでコイツは.....!

 

擦れ違いざまに、伸びている蛇腹の部分を斬る。

...問題なく切断できた。

後ろでガシャンガシャーンと勢いよく何か固い物が転がるような音とバキッと器を割った時のような音がする。

 

そのまま止まることなく駆け出す。

左側は腕を切られて、滑らかな切断面が見えている。

ここから回り込めば、相手も対応が遅れるはず。

 

目論見通り、攻撃は来ない。

こちらに右腕を向けるよりも速く...速くっ!

 

足をひたすら動かして、遂には奴の背後へ。

腕を切った感じは問題なく切断できた。

なら突きも行けるはずだ。

 

狙うのは、まずは胸。

ゴーレムは全体に魔力を行き渡らせる必要がある以上は人で言う心臓の位置に魔力付与体を埋め込む必要がある。

そこがダメなら頭に入ってる可能性があるので頭を切り落として体に魔力が流れないようにして頭をその後に入念に砕いてやる....。

 

「っ...はぁぁあああっ!!」

 

胸に、細剣を突き立てる。

魔法で強化した甲斐もあって、ズブズブと剣が中へと入り込む。

が、腕を切った時と似たような感触。

これは....外れか!

なら、相手が向き直る前に二の突きを....!

 

「...っ、は...?」

 

そう意気込んだ瞬間、目の前の女ゴーレムが首だけぐるりと回してこちらを見る。

人では確実に出来ない動き。

けれど、そんな動き自体...精密に命令しないと可能じゃないはず....!

 

ガパッと目の前で口が開く。

暗い口内の中、朱い光がチラッと見える。

これは.....。

 

「魔石....っ!」

 

杖などに使われる魔石。

何か...魔法を使う気....っ!?

集まっている魔力的に大したもの規模の魔法ではなさそうだ。

ただ、ここで手傷を負って向き直られるとまずい。

咄嗟に飛び退く。

 

「...っ、範囲魔法!?」

 

されど、その瞬間女ゴーレムの足元に魔法陣が現れる。

ピンク色の光を放つ魔法陣。

距離を離すこと自体は出来た物の、爪先がまだ魔法陣の範囲内に入ってしまう。

 

「<交換(エクスチェンジ)>」

 

その瞬間、女ゴーレムと私の身体が光の粒で包まれる。

光で目が眩んでる間、確かに体に纏っていた感触が変わったのだ。

着こんでいた鎧の感触などから一変、ぴったりと張り付く今までにない感覚。

それでいて、纏っていたはずの重さが一気に消えた。

何が...何が起きて......。

 

光が晴れる。

その瞬間、見えたのは少し軽装な私の鎧。

それを私は後ろから見ている。

....目の前の憎き女ゴーレムが私の着ている鎧を着ていた。。

 

 

なぜ、自分の鎧を...女ゴーレムが着ているのか。

そう思って視線を下げて自らを鑑みる。

そこにあるのは紺色のよく分からない素材の装備を身に着けている自分。

これは....女ゴーレムが着ていた物!

奴の魔法の効果で....装備が、交換されているっ!

 

身に着けている服....服?がどのような性能かは分からない。

けれど、明らかに防御面では着ていた装備とはくらべものにならないくらい低いだろう。

 

女ゴーレムは足を人の人間では考えられない程に真横に上げる。

そして凄い勢い軸足を中心に腰が回転する。

凄い速さで足が私の腹目掛けて飛んでくる。

 

私が履いていたブーツを履いた奴の蹴り。

拳でもろに受けたせんぱいの上の前歯が折れた。

そう考えれば、こんな装甲もないような半ば剥き出しと同じ様な装備を来た私の腹にそんな一撃が入ればどうなるか。

 

息を飲む。

女ゴーレムの足はこれまた長い。

飛び退いた状態....ギリギリ避けられるかどうか....。

もし受けてしまえば...暫く、動けなくなるかもしれない。

そうなったら....そうなってしまったら......。

 

痛みが来ないことを宙で祈る。

されど祈りは虚しくブーツの踵の軌道は腹を捉えようとしていた。

 

....そのはずだった。

まるで不思議な力でも働いたように踵の起動が後ろにズレて腹ギリギリを掠る。

前を見れば、なぜズレたのか。

それがすぐにわかる。

それと同時に、先ほどまで嵐のように荒れ狂った心中に暖かい日差しが差したような...そんな気持ちになった。

 

「....目の前でギリ届かず、手品見せられた時はビビったが...肝心な所で間に合ってよかった。」

 

せんぱいの顔。

いつの間にかこちらまで来ていたせんぱいが、女ゴーレムの肩に右手を置いて蹴りが私に当たらないように自分の方へと引き寄せる。

 

「接触 反 No ぉ.....っ!」

 

女ゴーレムの首がぐるりと回る。

そしてせんぱいの方へと目線を向ける。

その瞬間、せんぱいは目を一瞬細めると肩から手を離すと左手で力一杯ゴーレムの顔面に裏拳をぶつける。

バキャっと砕ける音と共にパラパラと散る硬そうな白い艶のある破片。

女ゴーレムは横に殴り飛ばされて壁に激突した。

 

「せんぱ....い....。」

 

「っぅ~~~~!籠手越しなのに手がジンジンする.....どんっだけ硬いんだよアイツの顔!」

 

せんぱいは左手を抑えながら、吐き捨てるように言う。

相変わらず口からは血がさっきほどではないが垂れてきている。

それでも、せんぱいは私が危ない時に駆けつけてくれた...助けてくれたのだ。

こういう所だ。

こういう所が私は.....。

 

「シア.....。」

 

「えっ..ちょっ、せんぱっ....っっ!!!!」

 

せんぱいに、急に抱きしめられた。

えっ...ちょっ、えっ...えぇっ....!?

な、なんで急に...せんぱいそんなこと出来る人じゃないのに.....。

し、しかもこんな時になんて......。

いや、嫌じゃない!寧ろいつもやって欲しい.....

 

夜とかにせんぱいに子供みたいに甘えられたり、逆に今より悪いせんぱいに面倒見た後輩であることを良いことに肩を組まれて抱き寄せられながら胸を掴まれてそのまま商売女と行くような安宿に、雑な感じで連れていかれるような妄想をしたことがある。

でも、...これはそれらとは違うじゃん。

強引に引き寄せられたのに、優しく真正面から抱き留められるなんて...なんだか、恋人...みたいで。

む、無理...!

こ、心の準備が出来ていないっ!

 

顔がみるみる熱くなるのを感じる。

顔を見られるのが恥ずかしくて逸らす。

 

すると、その直後に何か金属を強く叩く音が響く。

ビクンと身体が跳ねて、我に返る。

せんぱいに抱きしめられながら周りを見回すと、その状況を理解できた。

 

壁に激突した女ゴーレム。

顔面は肌のように見えていた部分は陶器のような材質だったのか、せんぱいに殴られた左目の部分を中心にバキバキに割れて陥没している。

口を閉じる為の機構が損傷したのか口が開き、口内の魔石は割れて光を失っていた。

 

そんな女ゴーレムが腕を伸ばして再度せんぱいを攻撃していたのだ。

けれど、そんな攻撃をいとも簡単に盾で先輩は防ぐ。

盾は内側から拳のカタチに凹む。

されど、完全に防いだことに変わりはなかった。

 

「...舐めるなよ。さっきのは不意打ちだっただけで、見ていさえすればお前の攻撃を防ぐなど造作もない。...まぁ人形相手に言った所で無駄なんだろうけど。」

 

せんぱいは女ゴーレムを睨みながらも自嘲する。

私はそんなせんぱいを腕の中で見上げていた。

 

やばっ....超カッコいい....。

 

なんなんですか貴方。

これ以上、後輩ちゃんをときめかせて何か得でもあるんですか?

もう私、自分でもわかるくらいぽわぽわしちゃってますよ?

そんなことしちゃって取り返しつかなくなりますよ?

既にせんぱいのせいでイライラしちゃいけない場所がイライラしてるんですからねっ!

あ~、ムズつくっ......❤

 

「シア...ゴーレムってどうやったら倒せるんだ?」

 

「へ...はえっ!?...あ、ご、ゴーレムはですねぇ...中に動力核があるのでそれを破壊してしまえば機能が停止します。」

 

「それがどこにあるかとかはわかるのか?」

 

せんぱいの言葉。

いつもであれば他の誰かに取られないように我先にと答える。

けれど、今は咄嗟に答えることが出来なかった。

結局、大きな口をきいたくせに助けられて...。

 

「...体の中心部に動力がありがちです。だから胸を刺しました。....でも、止まりませんでした。」

 

「...そっか。でも、それが分かればやりようはあるな。」

 

私の言葉を聞いて、せんぱいは笑顔を浮かべる。

そして私を腕の中から離すと強く剣を握りしめた。

 

「せんぱい.....。」

 

「要するに真ん中のどこかにあるんだろ。それなら真正面から真っ二つにしちまえば良い。任せとけって!...っと言いたいところなんだが、さっきならまだしも今はお前の装備着ちまってる...か。」

 

そしてこちらに笑みを見せるも、すぐに困ったような表情になっている。

せんぱいの足を引っ張ってしまっている。

それに剣は人形の背中に突き刺さったまま、こんな防御力もなさそうな装備では加勢も出来ない。

そんな状況が情けなくて目を合わせられない。

私は....せんぱいの力になりたくて、魔法戦士になったのに。

この依頼だって私が....。

 

「....そんな顔すんなって。これからアレぶっ倒すには、お前が必要不可欠なんだから。」

 

「わ、私が.....」

 

「あぁ、今から俺はアレを倒す。とはいってもアレの硬さを考えると今のままじゃ刃が通らない。...だからこそ、お前にはあの...剣の鋭さを増す魔法と耐久を上げる魔法を全力で俺に掛けてくれ。俺に魔法は使えない....お前にしか出来ないことだ。....いけるな?」

 

「私の魔法.....、っ当たり前です!そのために、魔法戦士やってるんですから!」

 

私はせんぱいの目を見返して、そう答える。

せんぱいがこちらに心遣いしてくれてるのが分かる。

凹んでる私に、私にしか出来ないことを提示してくれている。

....それも、コンプレックスを感じているであろう上級職関連の...それも魔法で。

だったらいつまでもうじうじして、せんぱいの心遣いに答えないわけにはいかない。

 

「良い返事だ。....まぁ真っ二つに斬ることが出来たら、そん時はぁ...お前の装備、俺が弁償する。」

 

「...だったら、その時は一緒に買いに行ってくださいよ。あの装備、デザイン丁度飽きて来てたところなんですよねぇ~....今度から選ぶなら一緒に、でしょ?」

 

「....それ、クエストの話じゃね?まぁ...いいか。魔法、頼む。」

 

怪訝そうな表情をしながらも、こちらから視線を外して人形に相対する。

どさくさに紛れて言ってみたらうまく行っちゃった....。

それって実質デートってことじゃん。

そう考えるとまたもぽわぽわと脳内を靄が覆いそうになるが、気を取り直す。

その為にも、この状況を打破しなければならない。

自分のやれること、せんぱいが私にしかできないと言ったことをやらないと。

 

「先細り尖り、線と化せ....<先鋭化(エッジ)>、補うは堅牢...<硬化(ハード)>....。」

 

せんぱいの背中に両手を当てて、魔法を唱える。

自分に付与するわけでなく、それでいて今は剣を失っている。

それ故に魔法をせんぱいに付与するには触れなくてはいけなかった。

衣類や鎧越しでも、感じるこの背中の感じ。

とても頼りになる....せんぱいの、大きな背中。

 

未だに立ちあがろうとして、左足にヒビが入っているのかもたつく人形。

されど、そんな中でもこちらに右拳を飛ばしてくる。

けれど、せんぱいはそんな拳の一撃も盾でなんなく防いでいた。

何度も、何度も...寸分の狂いなく盾で防ぎ続ける。

 

「いけますっ、せんぱいっ!」

 

「了解っ!」

 

一瞬こちらに目線を向けて、快活に微笑むせんぱい。

そして、すぐに盾を構えながら走り出す。

再度拳はせんぱいへと発射される。

 

「っ...フッ......!」

 

そんな拳の軌道を盾で弾くことで左斜め上に逸らす。

そして、伸びた拳と腕を繋ぐ蛇腹の機構へと剣を滑り込ませる。

サクッと刃は蛇腹へと食い込むと、そのまませんぱいが振るままに斬り飛ばされた。

 

魔法は問題なくせんぱいに付与出来た。

それが分かってホッとする。

 

「対象...接近、Chu.......。」

 

「どうやら、....やれることがもうないみたいだなぁっ!!」

 

声を上げるせんぱい。

そんなせんぱいを前に口を開くが、魔石は反応しない。

先ほどせんぱいに砕かれた。

 

逃げようにもふらついて、バランスを取るので精一杯な人形。

そんな人形を盾で激突して、壁に押し付けた。

再度勢いよく壁に激突して、また何か砕けた音が響く。

そして、盾を手放すとせんぱいは剣を両手で持った。

そのまま剣を真っ向から振り下ろす。

 

脳天から真っ直ぐに斬りこまれていく剣。

それは首を通って胸、腹へと遷移していく。

私の装備すらも真っ直ぐに斬られてダメになっていく。

魔法で剣の性能を上げているとはいえ、中々の切れ味だ。

 

「っ....その程度でっ!」

 

されどゴーレムなだけあって、頭から腹まで現在進行形で刃が移動していてもなんら表情も変えることなく寧ろ苦し紛れに蹴りをせんぱいの腹へと当てる。

一瞬苦しげな声をあげるも、流石せんぱい。

怯むことがない。

 

そして腹から下腹部へと剣が滑っていくと急に動きを止めた。

 

「...感じが違う!ここだぁぁぁああ!!!!」

 

声を上げると、剣を引き抜いてそのまま下腹部にブスリと刺す。

その瞬間、ビクンとゴーレムが痙攣した。

 

「Coreに異...常....問題、Saw...索...Ch......。」

 

ビクビクと身体が揺れるゴーレム。

そのまま項垂れると、ゴーレムの身体に浮かび上がっていた紋様は消える。

そしてそこにあるのは物言わぬ人形とダメになった私の装備だけだった。

 

 

 

「ふ~~~ん、要するにここは放棄された昔の錬金術師の工房ってワケか。うへぇ...不気味だなぁ。」

 

ゴーレムが停止して、部屋を照らしていたピンク色の光が消える。

そんな闇の中を私の魔法の光で照らされながら、壁のかなり上の方に打ち付けられた作り掛けの人形に気づいて顔を顰めるせんぱい。

 

「つーことは、コイツは所謂『遺物』ということになるのか。でもまぁ壊れてるといえ、こんな精巧に人間を模したゴーレムが見つかったのは収穫だったな。そんな技術を持っていた人間の工房だったのならギルドに言えば確実にもっと調査が入るだろうし、報奨金とかも出るかも。...シア?どうした?」

 

せんぱいは周りを見回したり、さっき破壊したゴーレムの腕を取って動かしたりしながらそう語り掛けてくる。

されど、答えられない私に対して首を傾げながら視線を向けてきた。

せんぱいの瞳が私を捉える。

いつもだったら嬉しいことが、今では怖いと感じてしまう。

 

それでも、言わなくてはいけない。

これは私を庇って前歯を折られるという負傷して....いや、そもそも探り屋に不安があるこの依頼に連れてきてしまった私の、却って足を引っ張りかねなかった私が言うべきことなのだ。

 

「...せんぱい、前歯...。」

 

「ん?あぁ、心配してんのか?大丈夫大丈夫!今度診せに行ってくるよ。ほれ、折れた前歯もってけばくっつけてくれるだろ。」

 

せんぱいは前歯の欠けた笑顔を見せながら、ポケットに手を突っ込んで折れた二本の歯を見せる。

けれど、私はゆっくりと首を横に振った。

 

「私を庇ったせいで....、それに依頼だってダメな物を選んで...戦いも結局せんぱいに任せてしまって、本当にごめん...なさい。私いつもせんぱいに色々言ってるのに....ハハッ、こんなんじゃ目も当てられませんよね?なんにも出来ないんなら、出しゃばるなって話ですよ....ホント.....。」

 

乾いた笑みが口から漏れる。

せんぱいと目が合わせられなくて視線を落とす。

あぁ....やっぱりダメだ。

 

こうして改めて口にすると、やっぱり合わせる顔がない。

そう思っていると、不意に頭に暖かさを感じた。

顔を上げると、せんぱいが....あのせんぱいが私の頭を撫でていた。

 

「そんな風に自分の事言うことないだろ?そもそも、庇ったのだって俺は盾持ち前衛なわけで前に出張って相手の攻撃を引き受けるのが仕事なわけだし、依頼の話だってさっき済んだ話だ。それに何よりもお前の魔法があったからこそ俺の刃がアイツの身体を斬ることが出来たんだろ?何も出来てないどころか、シア....お前ありきの作戦じゃん。」

 

「それは....でも、私は.....!」

 

「はぁ~~~~、分かった分かった。それなら....コラ!反省しろよ!」

 

私は自分を許せない。

そう言おうとすると、せんぱいはハァ~と溜息を吐く。

そして手を挙げるとそのまま、私の頭にポコッと全然力の籠ってないチョップを喰らわせた。

え.....?

 

「そんなに許せないなら俺が代わりに叱ってやる。....これでも、俺....お前の先輩なんだろ?だったらこれで終わりだ。ちゃんと叱ったんだからな!」

 

....なんなんですか、本当。

なんで、貴方はいつも....私の心を搔き乱すんですか?

あざといって言うか、なんていうか....。

そんなこと、今されたら....。

 

「まぁ、なんだ....自分でも頼りに見えないのは分かってるけどさ。お前が言うように、俺はお前の先輩わけだし?たまには俺には良い所見せさせたって感じで....おわっ!し、シア!?な、なにを.....。」

 

「せんぱい....せんぱいせんぱいせんぱいっ.....!」

 

まるで弓を引き絞って放たれた矢のように。

胸の奥で駆り立てる衝動のまま、私はせんぱいの懐に飛び込んだ。

ビクンと驚いて飛び退きそうになる身体をしっかりと自分の腕の中に抱きしめる。

自然と腕に力が籠ってしまう。

 

鎧越しでも分かる、この匂いと暖かさ。

汗ばんでいるだけあって、匂いは確かに感じられる。

腕の中にせんぱいが居る....。

こんなこと、こういう時じゃないと出来なかっただろう。

 

「これで....よく分かりましたよね?私、まだ未熟なんです....だから、せんぱい....私のこと、ずっと見ててくださいね?私のせんぱいは、貴方だけなんですから。」

 

「えっ....あ、お....おう。そう...だな...うん。」

 

見上げると、目と目が合う。

揺れる瞳。

しかしそれをずっと見つめることは叶わず逸らされる。

そして私の両肩に手を置くとゆっくりと私を引き剥がした。

 

....はぁ、相変わらず身持ちが硬いっていうかなんていうか。

ふつー、こういう時って狙いに行きません?

それが面倒見てきた女の子だったなら特に。

...まぁせんぱいにそんなことは出来ないだろうし、そういう誠実?な所がせんぱいの良い所なワケですけど。

 

「とにかく!...報告の為に必要な情報は集まったわけだ。だったらここに居る必要もない。だから帰るぞ...と言いたいところだが、その恰好のままで往来を歩くわけにいかないか。」

 

せんぱいは距離を離した私の恰好に目をやると、少し頬を赤くして目を逸らす。

...へぇ~、なるほどぉ~?

まぁ、確かにこの服ピッチリ張り付いてますし、それに紺単色なだけあって体のラインが自分でもよくわかる。

硬い人形ならまだしも、後輩ちゃんのやわっこい身体じゃせんぱいには少し刺激が強すぎましたかねぇ~?

 

「え~~?なんですかぁその目ぇ?せっかくカッコいいなぁ~って思ったのに少し幻滅ですぅ~。やんっやんっ❤いやらしい目で見ないでくださぁ~い❤」

 

「お前なぁ....はぁ~~、まぁそっちの方がさっきよりもらしくて俺好きだぞ。ほれ、これ貸してやる。」

 

そう言ってせんぱいは着ていた外套をこちらに渡してくる。

どうやらそれを羽織って今着てる薄手のよく分からない装備を隠せと言いたいようである。

受け取って抱き寄せると、強くせんぱいの匂いを感じる。

安心する匂い、それでいて私を熱くする匂い。

 

袖を通して身に纏うと、あたかも全身をせんぱいに包まれているようだった。

燻っていた火が風に煽られて勢いづくように火照る身体とムズつきを抑えると先輩の顔を真っ直ぐと見つめた。

 

「...ふふ、ありがとうございます。お礼として今度またこの装備...せんぱいに見せてあげますね?」

 

「いらない!...ほら、着たんだったら減らず口叩いてないでさっさと帰るぞ。」

 

「えぇ~!?せんぱいのさっきの目つき的に好きなのかと思ったのにぃ~!人間素直が一番ですよっ!せんぱいっ!!」

 

「うるさい....。」

 

先を急ぐせんぱい。

そんなせんぱいに追いつこうと早足で駆け出した。

通り過ぎていく部屋は、さっきまでと違って伽藍洞なことが分かっている分味気なく今日を遡っているかよう。

まよこに並び立つ。

横眼で見ると、せんぱいの横顔が見えた。

私は...この位置が、好き。

 

 

 

 

 

 

あの大変な依頼からようやくハジリマに帰ってきた。

思い返せば普通の依頼よりも色々あったものだ。

昔の魔法使いの放棄した女ゴーレムが現れたかと思えば、前歯を折られた。

 

...まぁ、それ以上に俺の記憶に新しいのは急に抱き着いて来て私には必要~とかシアが言ってきた時だ。

多分シア的には、不安を感じていた分年長者である俺に頼ってくれたんだと思う。

それは偏に嬉しい物だ。

....ただ、その時の目が...どこか前見た、俺が恐れて冒険者を辞めるか考えた一因の洞のような瞳だったことを別にすれば。

 

シアに悪気などない。

だからこそ、如何ともしがたいのだが。

 

そう言えばシアで思い出したが、あのシアが着ていた装備。

さっき知り合いの鑑定士に見せに行ったらどうにも<スクミズ>という名前の装備だということが分かった。

なんでも<水中姿勢>など水の中で活かされるエンチャばかりついた装備だったとか。

なぜ昔の魔法使いはそんな水中用の装備とかいうニッチな需要の装備を人形に着させていたのか.....。

そもそも装備をなぜあんな防御力が低そうな....それでいて、ある意味エッチに見えるように作ったのかよく分からない。

 

そしてそんな装備に身を包み、その上から俺の外套を羽織って見えないようにしている当の本人のシアはと言えば....。

 

「だからぁ!!せんぱいがぁ傷ついたのは偏に貴方達の仕事の雑さが原因の一つでもありますよねぇ!?そこら辺責任取ってもらいたいんですけどぉ探り屋さん!!!?」

 

「知らねぇっつてんだろぉ!!そもそも、冒険者なんだから多少の負傷は覚悟の上だろうがっっ!そんなのっ、あたしらの管轄外だっつーの!!!!」

 

ギルドの中の酒場。

そこでシアが満面の笑みで...それでいて青筋を立てて尋常じゃないような圧を出しながら、一人の少女を詰めている。

そして灰がかった髪の目つきの悪い小柄な少女は巨漢の膝の上に座りながらそんなシアの圧に負けずとも劣らない剣幕で跳ね除けようとしていた。

 

彼女の名前はチッチ・デ・チュッチュ。

今回の依頼の探り屋である。

そして彼女が鎮座している膝の主がデイル・ブリンガーだ。

 

ギルドに依頼の報告をした後、偶然酒場で飲んでいる所を発見したのだ。

俺自身も、彼らには今回思う所があったので一言文句を言いに行こうとした。

...まぁ、今ではシアを宥める役になってしまっているわけだが。

口ぶり的に俺の為に怒ってくれてるようだが、どうにも他の人が自分のことで烈火のごとく怒ると却って自分が冷静になってしまうな。

 

「し、シア.....まぁ、そこら辺で....ほら、他の人も居るわけだし...。」

 

「せんぱいは少し黙ってて。こればっかりは、譲れません。」

 

ばっさりと切られてしまった。

取り付く島がない。

それほどまでにチッチに対してイラついてたのだろうか?

....まぁ、自分で選んだ依頼だったからか。

 

「チュチュ....お前、また雑にやってたのか。なら....今回は.....。」

 

「はぁ?うっせぇーよ。誰のおかげで飯食えてると思ってんだよ。...あのね、デイル。良いんだよこういう手合いは。あたしたちは冒険者に舐められたら終わりなのっ!こんな、歯が折れた程度でピーピー言う軟弱男とそれの同伴女なんてめんどくせー奴、シッシッってやっときゃ良ーの!」

 

あの...俺何も言ってないんだけど。

なぜだかピーピー言ってることにされてる....。

 

「...誰が軟弱ですって。...もっぺん言ってみろよクソチビ。....そのケイヴラットみたいな汚い色の頭髪、ここらで眺められる中で一番透明度の高い氷像にしてあげましょうかぁ....?」

 

「おわっ!びっくりしたぁ....。」

 

チッチの言葉を聞いて、一瞬眉根をひくつかせた後にシアはテーブルを辛抱しきれないと言った様子で思いっきり叩いた。

周りの視線が集まるのを、ペコペコとなんでもないと言外に示す。

 

ここまで怒っているシア...俺には見たことがない。

まぁ、でもデイルの膝の上でぐでんとだらしのない体勢でヘラヘラ笑いながら口の悪いことを言われたらそうもなる...のか?

いや、それにしては滅茶苦茶怒ってるけど.....。

 

「うひゃ~~~~~~!こっわーい!これ脅し、脅しだよデイルっ!こわいぃ~怖いよぉ~デイルぅ~!デイルは用心棒だろぉ~?あたしのこと、守ってくれるんでしょ?だったらぁ~今が出番だよ!こいつらクレーマーからか弱いチッチちゃんを守ってぇ~こっから叩きだしてぇ~!」

 

猫撫で声でデイルに抱き着くチッチ。

しかし、そんな彼女を見下ろしながらデイルは口を開く。

 

「...いや、今回はこちらの落ち度だ。チュチュ、謝ろう。」

 

「え”っ.....?」

 

チッチは言葉に詰まる。

そんな彼女を見つめながらデイルは話を続けた。

 

「第5の部屋がある....そしてそれを示さなかった。それでいて、その第5の部屋の扉は魔法を用いられた扉だった。...だったら探り屋として.....」

 

「な、なんでだよぉ....ど、どうして、あたしに、そんなことっ...言うんだよぉ...!もしか、してあたし以外の良いビーストテイマー見つけてたの.....?そ、そんなぁ!嘘だよね....で、デイルはあたしのこと好きだもん。だからこうして守ってくれるんでしょ...ねっ?ねぇぇ~~~っ??」

 

「...俺が組むのは後にも前にもお前だけだ。新しいビーストテイマーを見つけたなんて言っていない。どうしてそうなる.....。」

 

デイルが滅茶苦茶困った表情をしている。

大変だな....デイル。

 

「だったら....だったらぁっ!で、デイル...デイルはぁ!あたしのことぉ、無条件で守らないといけないのっ!!今回はお前が悪いとか、そんなの要らないっ!いらないいらないっ!!びええぇぇっぇえええぇっ!!ヴゥエエェエエエエエエエ!!!」

 

子供みたいな体躯をしているとはいえ、女性が汚い泣き声上げてギャン泣きしながら抱き着いて顔を一人の男の服に擦りつけていた。

すげぇな、なんだこれ。

俺達は一体何を見せられているんだろう.....。

 

シアは隣でそんな様子を見ながら、机を指で神経質に突きながらもチッっと舌打ちをしている。

それでいて、デイルはもう困惑の極みのような表情で必死にチッチの頭を撫でていた。

そして俺はすることも見つからず、それでいてこの雰囲気に耐え兼ねてキョロキョロと周りを見回すのみ。

 

なんだこのカオスかつ、重い空気.....。

はやく...速く終わってくれ....。

そう思っていると、デイルがこちらを見て口を開いた。

 

「本当に...今回は、すまなかった。チュチュはこの調子だ、偶にこうなるんだ。持病の発作と俺は思ってるんだが....まぁいい。何か、賠償があるなら俺の方から払う。喋っていても感じていた、そんな痛ましい状態になるのは俺たちのせいでもあるのだろう?だったら....ここは一つ、俺の頭一つで手打ちにしては...くれないか?」

 

真面目な顔で頭を下げるデイル。

黙りこくるシアを見てると、シアと目が合った。

 

「...せんぱい、どうします?」

 

「え、俺....?」

 

「当たり前じゃないですか。私、せんぱいが良いっていうならもうどうでもいいんで。怒る理由もなくなりますしね。」

 

そ、そうなんだ...。

あんだけ烈火のごとく怒っていたのに、結構冷めるの早いんだな....。

....シアのこと、怒らせないようにしよう。

そう心に決めつつも、俺はデイルに対して口を開いた。

 

「じゃあ、そういうことに...しときましょうか。というか、口ぶりはアレだけどチッチさんが言っていたように、俺も冒険者ですから。負傷することは覚悟の上っていうか...だから賠償とかは別に.....。」

 

「ダメですよ、せんぱい。優しいのはせんぱいの美徳ですけど、こういうのは残る形で償いを受け取るべきです。それがけじめって物ですから。特にせんぱいは受け取るべきなんです。えぇ、せんぱいは。」

 

シアが口を挟んで来た。

えぇ.....俺が許せば後はどうでも良いんじゃなかったのか.....。

戸惑う俺を他所にもっともだと言わんばかりにうんうんと頷いているデイル。

 

「じゃあ....デイルさんが言ってる感じで、頼みます。」

 

「あぁ。今度その歯の治療のお金を伝えてくれ。必ず賠償する。」

 

そうデイルが言うと、話は終わりだと言わんばかりにシアが席を立つ。

そして俺もそんなシアに追従するように慌てて席を立ってギルドを出た。

 

 

 

「大変ですねぇ、デイルさん。あんなガキみたいな女と一緒に居ないといけないなんて。」

 

「まぁ....探り屋やるならビーストテイマーと組むのが一番良いからな。それに慣れてそうだったし、案外相性はいいのかもしれないぞ?常識人のデイルさんにあのチッチで。」

 

ギルドを出て夜の街道を歩いているとシアが呟く。

チッチはビーストテイマー故に探り屋としての技量は高いがモラルがない。

だからこそ、モラルの高い人間に世話をされているのは理にかなっているのかもしれないな。

そう考えていると、不意にシアが俺の少し先を行って足を止めて振り返る。

 

「その点、せんぱいってぇ恵まれてますよね~。こぉ~んな可愛くって物わかりの良い後輩ちゃんが傍に居て!ほら、せんぱいの大好きな<スクミズ>シアちゃんですよ~~?あの遺跡行って良かったですねぇ~~自分の好みの見た目の装備、後輩ちゃんに着てもらえるんですから!」

 

「おまっ、ここ街道!やめとけ!!!」

 

両手で外套を開いて、まるで裏路地の露出狂もかくとやと言わんばかりにスクミズを見せるシア。

汗で蒸れたのかムワッと湿気が立ち込めて、どこかアブノーマルな雰囲気を醸し出している。

されど、さすがにここは街道。

角度次第で道行く人に見えてしまう恐れがある。

そう思って慌てて外套を閉めようと手を突き出した。

 

「はーい、ぱっくーん!後輩ちゃんに食べられちゃいましたぁ~!なんだかこれ、食虫植物みたいですねぇ?」

 

「んんっ!!?!?!??」

 

そのまま俺が突き出した手を彼女の言う食虫植物のように両手で外套を閉めて中に取り込むシア。

ぐいと手が押されて装備自体の変な感触と共に彼女自身の身体の柔らかさと熱が伝わってくる。

ちょっ....な、なにを急に.....!

 

「あれれ~みるみる赤くなってる~~!もしかしてぇ、せんぱいこんな風に真正面から女の子に触ったこと...ないんですかぁ?それも、往・来・で❤...それじゃあ、私がせんぱいのはじめて頂いちゃったことになりますねぇ~?」

 

「か、揶揄うな!...今日は、疲れてる。」

 

「疲れてるなら、猶更癒しになると思うんですけど....あっ、『後輩ちゃんがスケベすぎて真面目に冒険できないよぉ~❤たちゅけてぇ~ママぁ~❤』って感じのせんぱいには刺激が強すぎましたかねぇ?まぁ頭下げたら触らせてあげなくもないですよぉ~?そんな下らないことで故郷に帰ってパン生地揉んでるくらいなら頭下げて本人揉んだ方が健全でしょうし?まぁ?相手は年下の女の子なんですけどぉ~ぷっ、フフフフッ!」

 

「だからぁ...揶揄うなって.....。」

 

そう言いながらシアの外套の中から手を引き抜く。

コイツ、調子出てきた途端すぐこれだよ....。

それにまさか昨日酒場で俺が誤魔化しのつもりで絞り出した言葉をまだ覚えているとか.....。

やっぱ、昨日のは完璧なミスだったな...取り返しのつかないレベルの。

 

「じゃあそういうわけで、今度装備買うの付き合ってもらいますよ?せんぱいの手で真っ二つになっちゃったんですから!」

 

「あぁ....歯の治療してからならいくらでも付き合ってやる。」

 

「絶対ですよ?言質取りましたからね??」

 

「あぁ、絶対絶対。じゃ、またな。」

 

食いつくように聞いてくるシアを流しつつ、手を振る。

するとシアも笑顔でこちらに手を振り返した。

 

今日は疲れた....が、悪く無い一日だった。

ただ、それはそれとして早くに前歯の治療に行かないとな。

これじゃ、染みて酒どころか水を飲むのも一苦労だ。

 

それにしたって最後の食いつきと言い、必死だったな。

やっぱ一式揃えるとなると、金を出してもらいたくなるものなのだろうか。

...まぁ不可抗力とはいえ俺がぶった切ったわけだし、一応せんぱいだからな。

奢るのもやぶさかではない。

 

...あっ。

シアのことを考えてて、思い出した。

外套....返してもらってない。

 

「....今度、返してもらうか。」

 

そう呟くと、夜が深まり辺りが冷え切る前に宿に帰りつこうと俺は走り出した。




『やっぱ人形じゃ虚しいわ、一番エッチなのは生まれ育った背景がある人間だわ』by名も無き魔導士(未解読)

<スクミズ>...水中装備....。
はて、なんでそんな物が.....?
その目的は...一体.....?(すっとぼけ)

まぁこの世界における宗教とかはいずれ本編で出てきて説明することになりますが、一つ言えることとしてはこの世界における主神的な存在は『この世界に由来を持って生まれてきた生き物全て』に基本的な加護を付与しています。
つまりは、もし外からなんか来ても基本的な加護がないのでラックもなければ伸びしろもないとかいう状態ですぐ死ぬことになるでしょうってことです。

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