拝啓母さん、俺はもう限界です。   作:胡椒こしょこしょ

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捻り出すのに3か月近く掛かっちゃった....。
田舎生まれのこんがり日焼けロリ巨乳しか勝たん!


理想の聖女?残念、腹黒色ボケ病み聖女でした!

夜。

辺りは暗く、名も知らぬ虫の音やホーホーと梟らしき鳴き声が外から微かに耳に入ってきますわ。

今頃、この教会のシスターを取り纏める役目であるマザーはそのご老体を休めている頃かしら。

そんな夜の教会の廊下を抜けて、テラスへと出る。

 

向かう先は共同農場。

こんな夜中まで農作業に励んでいるであろう、この街に来て最短で『聖女』へと至った彼女に報告を致しますわ。

はしたないと分かっていながら走っているのは、こう...彼女に個人的に頼まれているお願いごとで早急に伝えるべき事柄があったから。

 

農場の柵まで辿り着くと、彼女の特徴的な後ろ姿が見えます。

分け目から右が白っぽい銀髪、左が黒髪となっている髪を二房の三つ編みに結っている。

そんな頭からは彼女が牛角族(ミノターニャ)であることを示す二本の乳牛に似た角が生えている。

そして耳はエルフのように長く、されどエルフとは違って耳裏に透明な細かい産毛が生えて白っぽく見えますわ。

 

そんな彼女、マリア・グリュー・ホルスタイは作業に集中しててわたくしが柵の戸を開いて農場に入ってきたことには気づいていないご様子。

だから息を切らしながらすぐ後ろまで歩み寄って名前を呼んだ。

 

「はぁ...はぁ...マリアさん....マリアさん!」

 

「...あぁ、メイベルちゃん。視察終わったんだ。お疲れ様~☆...息を切らしてどうしたの?もしかして....フレイマ教の方で何かあった?」

 

わたくしの姿を確認すると、彼女は立ち上がって人好きのする笑顔を浮かべて振り返る。

子供らしくわたくしよりも背が低いにも関わらず、恵まれたプロポーション。

ミノターニャの方は種族的特徴として発育が良いというのは聞いたことがありますけれど、いくら何でもって感じですわ。

対してわたくしを見れば年上で彼女よりも...下手したら成人男性の平均超えるくらいの背丈なのにおしりも小さくて、胸もすとんと下を見れば足元が見える程....。

はぁ~~~~~。

 

「いえ、そちらの方では何もありませんでしたわ。まぁ、いつもの事と言えばいつもの事なのですが。」

 

「それもそうだね!...はぁ~そもそもイシュナー様の悪口言ったり変な噂立てるくらいしかどうせ出来ないんだからさぁ~。...それにわたし達の教えとずっと仲が悪いから、だーれも悪口なんか信じないのに...。なんでそんな無駄なことするんだろ...うーん、フレイマの人たちの考えてることはよくわっかんないや☆」

 

「無駄って...貴方、偶に毒を吐きますわよね....。」

 

「ふふふ、だって事実でしょ?そもそもさぁ~...なんでフレイマ教の寺院が街の中心部にあるのかなぁ?原初の始祖神の妻であるイシュナー様の教会こそ街の中心部にあるべきじゃんねぇ?」

 

「炎の女神フレイマは窯の守護神でもありますから....鍛冶屋街の近くに立っているからこそ中心部。イシュナー様は豊穣と慈愛の女神であらせられるので農地などが近い郊外に建っている...それだけの違いだとわたくしは考えておりますわ。」

 

「ふ~~~ん、まっメイベルちゃんがそう言うのなら、そうかもね~~~?」

 

笑顔を浮かべている物の、どこか...取り繕われたようなそんな薄ら寒さを感じる笑顔。

彼女は偶にこういう顔をしますわ。

そして....彼女のそういう所を怖いと思ってしまいますの....。

 

「まっ、フレイマ教の事なんか今はいいやっ!どーせ今日も何もなかったんでしょ?それじゃ考えたって無駄無駄~。で、それならなんでメイベルちゃんはそこまで急いでわたしの元に来たのかな?」

 

「...まぁ、貴女に頼まれていたハンスさんのことで.....。」

 

「あ、せん....ハンスさんのことかぁ~!そ、そうだね...それでメイベルちゃんはわたしに早く伝えようとしてくれたんだ。えへへっ、ありがとっ!それで、は....ハンスさん、今日どんな感じだったかな....?」

 

わたくしが彼の名前を出すと、途端に彼女はモジモジして聞いてきます。

顔も赤いし....。

もうそれだけで、彼女が彼にどういう感情を寄せているのか余程鈍くない限りは一目瞭然ですわ。

 

わたくしが彼女に個人的に頼まれたこと。

それはハンス・シュタールという方の様子の監視をいつもの視察のついでとして行う事ですわ。

彼女からはなるべく空いた時間で構わないからと言われてはいるのですけれどね。

 

正直言えば、仕事が増えますわ。

けれど、なんでわたくしが彼女の個人的お願いをなるべく果たそうとしているのか。

それは....まぁ、やる気になったからという他ありませんわね。

 

...実は今では別にそんなことはどうでもいいとは思いますが、彼女が来た当初...わたくしは彼女に嫉妬の感情を覚えていましたわ。

テルセム村という片田舎の村から出て来たばかりの年下の少女。

そんな子が来たばっかりなのにも関わらず、わたくしを差し置いてその信仰と技術を認められて『聖女』になったのですから。

それでいて、温和で分け隔てなく人に笑顔を振りまく様はまさに理想の聖女。

そりゃ心穏やかでは居られませんわ。

 

なぜ、そこまで早い段階で習熟してくのか。

これが才能の差という物かと、ジェラシーを感じたものですわ。

けれど、ある日彼女にハンスさんの監視をお願いされたことがきっかけで彼女への見る目が変わりましたわ。

 

えぇ、そりゃ変わるに決まってますわ。

だって、なんでそこまでその男の人を監視して欲しいのか尋ねたら小一時間、...小一時間ですわよ!?

彼と出会った時から、好きになったこと....その他諸々の彼女の大きすぎる愛をゆっくりとした口調で聞かされたのですから!

あれは、一種のトランス状態になっていたと言っても過言ではないですわね。

恋は盲目と言いますが、わたくしも恋したらあんなになるのかしら....だとしたら、恋とはかくも恐ろしいものですわね。

 

まぁ、でもその話を聞いてわたくしは彼女が『聖女』になったことに納得致しましたの。

なぜそこまで習熟が早いのか...それは偏に「愛」故にという奴ですわ。

我々が信仰している慈愛と豊穣の女神イシュナー様も死して冥府へと堕ちても尚、夫である始祖神の下へと帰らんと険しき道を昇って行って、天上へと再臨なされたのですから。

その愛の大きさ、それこそがある種のイシュナー様へと倣う....我らが教義の体現とも言っても良い。

 

であれば、もう納得するしかないでしょう?

それならば、その思いを応援するのもやぶさかではありませんわ。

寧ろ、素敵なことではありませんの。

こちらもそこまで至れた理由が分かれば、嫉妬の気持ちも晴れる物。

寧ろ、それを知ることで今まで嫉妬の念を持ちつつも当たり障りのないように対応していた間柄から、一歩友人らしいと思える関係になれたのです。

同じ教会に所属する同志として、これほどに良いことはないでしょう。

 

まっ、そんなわけでわたくしは彼女の個人的お願いに関してやる気なのですわ。

しかし、やる気ではある...あるけれど、正直今回の報告をすることにあまり気乗りしませんわ。

それは彼女の愛が大きいことを鑑みると、おのずと気が進まなくなりますの。

 

「いえ、それはそうなのですが....その、貴女に伝えるべきかどうかっていう感じの報告で....。」

 

「...え~~、それじゃ頼んだ意味がないじゃ~~ん!意地悪やめてよねメイベルちゃん。」

 

あからさまに不服だと言わんばかりに頬を膨らませるマリアさん。

まぁ確かにおっしゃる通りなのですが....。

....あぁぁ!もう良いですわ!

彼女が知りたいと言っているのだから教えてやればいいのですわ!

それで、後の事は知りませんの!

少なくとも、目の前の彼女が動揺してもわたくしは何も落ち度はありませんので!!

ただ約束を守って報告しただけですわ!!

 

「その、ハンスさん...今日多分依頼帰りなのか分かりませんが、上の前歯が二本折れていまして....負傷なさっているご様子でしたわ。」

 

「....え..マジ?せんせぇの歯が、折れた.....?」

 

少しだけ目を見開くと、少し俯くマリアさん。

....わたくしとか他の方に隠しているつもりなのでしょうけど、あの方の事...せんせぇって呼んでいらっしゃいますのよね....。

 

....なんでしょう、この感じ。

夜に不意に起きてしまってトイレへと向かう際に、両親の寝室の前でお母様がお父様をぼくちゃん呼びしてたのを扉越しに聞いた時以来の気まずさですわ。

 

「...んもぉ~!暫く会ってないなとか思ってたら....なんでそんなことになるのかなぁ..。...こうしちゃ居られない、治してあげなきゃだよね?....でも、今から押しかけても迷惑になっちゃうか....。だったら明日の朝にでも....寝泊まりしている所くらいは分かるし......。」

 

ブツブツと呟きながらも彼の身を案じるマリアさん。

絶対こうなるって分かってるから話したくなかったんですわ....。

この状態のマリアさんは暫く時間を置かないと誰の話も聞かないでしょうし.....。

ていうか、さらっと言ってますけれど人の滞在している場所が分かるとか正直ドン引きですわ。

どうやって調べたんですの.....いや、まずどんだけ好きなんですのこの方。

 

まぁ、でもこういう時や聖女になってからではありますが彼女が非番の時などに彼女のこんな姿を見れるようになってからわたしの中で彼女の見方が変わりましたわ。

彼女....聖女らしく振舞う彼女となんだか怖い彼女...それとは別に恋する乙女としての顔がある。

それなら、まぁ....まだ怖くないかなって思いますの。

 

....内面と外面。

わたくしだって嫉妬していたのを隠していたからお互い様で人の事をとやかく言えるような人間ではありませんもの。

今はこの怖いながらも、なんだかいじらしい恋心と盲目さ故の相手する際のめんどくささを持った愉快な友人の様子を窺うことに致しましょう。

農作業の道具の片付けも忘れて一人でてんやわんやあたふたしている彼女を眺めながら、やっぱり見ている分には面白いなとつくづく思いましたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこの街には居ないあの人....『先輩』のことを考えて今でも何とも言えない気分になる時はある。

けれど、それでも前と比べればまだましだった。

俺があの人のことを振り切れたのは、偏にこのままじゃダメだと強く意識させられたからに他ならない。

 

自分の無力さを痛感させられた。

そして自分が強くなかったから先輩に連れて行ってもらえなかった、上級職だったなら連れて行ってもらえたのかも....だからこそ強くならなくてはいけないのだと言い訳のような思考に陥り、ひたすら自身のキャパシティなど考えずに依頼を受けた。

遠方、近郊...同じ地点で同時に複数の依頼をこなすなど。

そんな風に荒んで、冒険者稼業に逃げ込むように没頭していた。

 

そんなわけでテルセム村に周辺の魔物の生息調査と牧場の方で偶に放牧している家畜が魔物に襲われる事案があってその解決という二つの依頼の為に訪れたのだ。

そこで数日厄介になった牧場、そこの牧場主の娘さん。

 

明るく可愛らしい女の子で、性格も外向的で人懐っこい。

知的好奇心も結構あるみたいで、牧場の手伝いや家に居る時...ご飯の時など村に滞在している間結構都市のことや冒険の時のことを聞かれたものだ。

それで色々街のことについて教えていたら、俺の事を先生って呼んできてなんだか懐かれたものだ。

 

それに毎日牧場仕事を手伝いながらプリーストとして教会に通っていたり、依頼終わりの俺に駆け寄ってきて治療してくれたり。

それでいて胸を張って誇らしげに自分が神父様たちに才能があるって言われたって教えて来たりと打ち解けた関係の子だ。

 

そんな子相手にだ。

テルセム村における全ての依頼を終えて、村の人たちが宴会を開いてくれていつも以上にお酒を飲まされてしまったあの日。

 

なぜだか、俺に宛がわれた部屋で待っていた彼女。

そんな彼女に俺は酔っていたとはいえ甘えてしまっていた。

『先輩』のことなどあまり話したくはない自分の話を、いつの間にか溢していた。

彼女の相槌や言葉に促されるようにして。

そんな、俺に対して彼女は..えーと、なんて言ってか忘れたが....腕を開いた。

 

『そうだ!そういう気分が落ち込む時は、ギュ~~~~ってすると良いんだって!ママが言ってたよ!』

 

そんな姿に、ある日の先輩の姿が重なって俺は....。

彼女に言われるがままに、俺はヨタヨタと彼女の胸に縋りついた。

年下の少女に、頭を撫でられながら微睡みに沈んでいく。

 

酔っぱらった俺に対しての労りか、それともその話を聞いて慰めのつもりでやったのか。

意識がぼんやりとした俺は覚えていない。

けれど、そもそも密室で血も繋がらない男女が眠りを共にするなんてあまり良くない事だろう。

それも、彼女のような子供が。

大人の自分から、きっぱりと断るべきだ。

たとえ村の人や彼女の父親にそのくらいまで一杯飲まされていたとしても、彼女の厚意であったとしても....絶対にそうすべきだった。

 

それがなんだ、そんな彼女の言葉に為されるがままで。

挙句にその行動を取った理由が、その手を広げてる様にある日の共に居た頃の先輩を想起したからだって?

最低だ....最低すぎる.....。

 

朝、小鳥が晴天の空を讃えるような囀りをしているのを隣で俺の頭を抱き寄せながら眠る彼女を横目に聞きながら顔を真っ青にしたものだ。

知らない仲でもない年下の少女にあんな、幼子みたいな甘え方をしたことへの情けなさとそうするに至った理由に先輩が絡んだ事実。

 

このままじゃダメだ。

今までは先輩との別れから強く成ろうと依頼に身を砕いてきたが、それではいけない。

早くあの時の事は振り切って、心機一転しなければ。

そもそも、元々は....先輩など関係なく、冒険者になる為に故郷から出たのだから。

そんな風に、自分の芯とこれからの課題を再認識させられた瞬間だった。

 

今、なぜそんなことを思い出しているのか。

そんなのは、他でもない.....。

 

「おっはよ、せんせっ!せんせぇさ、怪我したんだって?ふふーん、マリアちゃんが治しに来てあげたよー☆」

 

今宿屋の俺の部屋の前でニコニコと笑顔を浮かべながら仁王立ちしているこの少女こそが、その俺にとっては変わるきっかけとなったものの思い出したくはないあの日の当事者の少女、つまりは俺からすれば弱みを握られているような....そんな逆らい難い相手なのである。

 

マリア・グリュー・ホルスタイ。

テルセム村から共に出て行って、慈愛と豊穣の女神イシュナーを信仰するイシュナー教において最短で『聖女』にまで至った少女だ。

....なんか、シアもそうだけど俺の周りには凄い子しか居ないな...。

なんとも複雑な気分だ。

 

分け目から左右で白銀と黒で分かれた珍しい...といっても彼女の母親も同じ髪色で人と交わった牛角族(ミノターニャ)の中では別に珍しい髪色ではないらしいが、そんな髪を二房に結っている。

そんな頭から左右に均等伸びる乳牛のような二本の角。

翡翠色の双眸は朗らかに緩み、なんとも親しみ深い印象を与える。

エルフのように長く、それでいて透明で微かに産毛の生えた耳に日に焼けた小麦色の肌。

そしてなによりも目を惹くのは、黒い法衣を引き裂かんほどに内側からミチミチと自己主張をする胸の膨らみだった。

 

まぁ、そんなことは今はどうでもいい。

なんで俺の寝泊まりしている宿の場所知っているのとか、なんで部屋まで知っているのかとか色々と言いたい事は沢山ある。

しかし、一番聞きたい事は....。

 

「えっと...なんで、そのこと知ってるんだ?」

 

昨日病院に行くには時間が遅すぎたと述べたように帰った頃にはほとんど夜の帳も降りきっていた。

だからこそ、街に帰ってすぐに宿まで戻って前歯がないことで苦心しながらも夕食を食べてそのまま部屋に戻って寝たのだ。

その間にシアを除けば人とは話していない。

 

要するに、俺の前歯が折れていることを知っているのは俺の注文を受けた宿の人か、俺の前歯がへし折れる瞬間を見たシアだけなのだ。

目の前の聖女サマは猶更知る由もない。

 

「わたし聖女だし?ただそこに居るだけで色々とこの街の情報が集まる的な?具体的に言えば、わたしの知り合いがふと帰っている時にを見てそっからかな~。ほら、結構前にせんせぇが教会に来た時に紹介した人....って言っても覚えてないか~。」

 

「いや、覚えてるよ。....ほら、あの...なんか格式ばった感じの喋り方のシスターだろ?」

 

「...ふ~~~~~ん、そんなことは覚えてるんだ。」

 

「なんだよ....。」

 

マリアは笑顔をひっこめるとぶー垂れたような表情で目を薄めて訝し気な目線を向けながら、腕を組む。

組んだ腕に衣服を内側から破こうとしているのかと思えるほどの大きさの胸が乗る。

一瞬、そちらに視線を向けそうになったが逸らす。

いけないことだが、悲しいことに目が引き寄せられてしまうのは男のサガだ....。

 

それになんだろう。

どことなく言葉尻に棘を感じる。

 

「べっつにぃ~?それなら、わたしにもっと会いに来てくれても良いじゃんね~って。でも、そうだよね!せんせぇにとってみれば、わたしを村からここに連れ出した時点で終わりって感じだもんね!凄いね~、せんせ。」

 

「いや、俺は...ほら聖女になってから色々と忙しいんじゃないかなって思って...そちらはそちらで人間関係とかあるだろうし......。」

 

聖女となると、シスターに対して指示を出したりするらしいし、儀式を執り仕切る立場になる。

それに彼女は彼女で教会の方で人間関係を構成しているだろう。

前に行ったときは他のシスターたちに頼りにされていたし...言うなれば理想の聖女って言われても良いくらいの振舞いだった。

だったら、頻繁にあそこに訪れるのは色々と迷惑になって良くないんじゃないだろうかと思ったわけである。

 

「んもぉ~、わたしはそーいうこと言ってないんだけどなぁ~?」

 

あからさまに不満だと言わんばかりに頬を膨らませるマリア。

そして、次の瞬間に訪れるのは後ろに尻もちつきそうになるくらいの衝撃と重み、そして腰元に感じる暖かな柔らかさ。

どうやら抱き着かれたようだ。

さっきまで寝起きで診療所に行くかと思いながら目を擦っていたくらいだ、咄嗟の事で反応できなかった。

っていうか、背丈の差の関係で胸が腰に...極めてまずい所に当たっている...っ。

 

「....村からの仲なのは、せんせぇくらいだもん。会えなかったら....寂しいじゃん。せんせぇのバカ....。」

 

「...ごめんな。」

 

神妙な様子で、俺を上目遣いで見つめてくるマリア。

...確かに、彼女はまだ子供だ。

自分から行きたいと言ったとはいえ、故郷から離れて寂しくならないわけがない。

それは、実家飛び出した俺ですらそうだったんだから両親と納得の上でこの街に来た彼女は猶更だろう。

 

俺には故郷に繋がりのある人なんて周りに居なかったから考えもつかなかったが、マリアからすれば俺に連れだって来たのだからこの街における唯一の故郷からの顔見知りは俺だ。

それは、頭に入れておかないといけないことだったな。

 

「そーそー!せんせぇは反省すべきなんだよ?だ・か・ら...頭撫でて?そうじゃないと、...この宿の廊下で、泣いちゃうよ?」

 

「それは...困るな。」

 

猫が懐いた時のように俺に顔を擦りつけるマリアを見て、つい笑ってしまう。

言われるがままに頭を撫でる。

村に居た頃、牛角族(ミノターニャ)の間では労いの意味を持つと言われて『ん!ん!』と促されていた日が懐かしいな。

 

なんというか、多分今...甘えられているんだろうな。

俺自身、故郷で家を飛び出す前は小さい子の相手をする時も普通にあった。

だからなんていうか....こう、妹が出来るってこういうことなんだろうなって思う。

シアとは違う年下って感じがするな、うん。

あっちはなんていうか見守りたくなる感じっていうか。

 

....『先輩』からすれば、俺はどういう感じだったんだろうな。

一瞬そんなことを考えながらも、すぐにその思考を振り切る。

居ない人について考えても、しょうがない。

 

まぁ正直年下がどうこうとか偉そうなこと言ってられないんだけどな。

なんせ....俺は年下のこの子に酔っぱらって甘えちゃったわけだし。

 

「....うん、すっきりした。もういいよせんせっ。それじゃ、...わたしに歯ぁ見せて?...ほら、あーん。」

 

「ほがっ....!...あーーー。」

 

パッと俺から離れると、彼女は俺に手招きする。

言われるがままに、彼女に顔を寄せるといきなり口に手を突っ込まれた。

口の端を引っ張られ、今度は上に引っ張られる。

集中して俺の口内を見つめるマリア。

その視線は、彼女が『聖女』というプリースト...ひいては治療者としてプロであることを感じさせた。

...感じさせていたのだが、彼女の表情が朗らかに崩れた。

 

「フフッ....ごめんね?なんだかおかしくって....。まぁでもよかった。...綺麗に歯、折れてくれててさ。くっつけるんだったらコレ結構簡単だよ?それで、折れた方の歯は持ってんの?」

 

「そりゃぁ、まぁ....。」

 

「決まりだねっ!そんじゃ治したげるから、...その服、着替えて?わたしらの教会にゴーだよっ!ゴーゴー♪ゴーゴー♪♪」

 

なんとも楽しそうにピョンピョン跳ねるマリア。

その跳ねる動作と同時に、ポヨンポヨンと法衣越しに胸が弾み暴れる。

小柄なのも相まって、言い方悪いがその部分が際立って目立つ。

寝起きじゃないならまだしも、こちらはさっき意識が覚醒したばかりだ。

正直今すぐ跳ぶのを辞めて欲しい....。

 

「なんだよそれ。」

 

「あれ?...なんか暗かったからさ、元気になるかなっ~~て。...嫌だった?」

 

「いや、嫌ではないけど....。」

 

そもそも暗いって言うか、朝イチ寝起きでそのテンションには流石についていけないよ....。

呆れ混じりに溜息をついたまま、部屋へと入ろうとする。

....あれ、そもそもなんで俺マリアと教会に行くことになっているんだ?

俺別に行くなんて一言も言ってないような....。

 

それに、確かにイシュナー教は偶に街の中心部に行くのは距離がある郊外の農業従事者などを対象として診察の受付も行っていたりする。

その対象には一応冒険者も入ってたりするけど、でも今日って....確か患者を受け付けていない曜日じゃなかったけ?

 

思考が一瞬止まる俺。

そんな俺を尻目にマリアは俺の腕に抱き着くとそのまま一緒に部屋の中へと....。

って、ちょっと待て!!

 

「え...あの、何部屋に入ろうとしてるんだ?」

 

「....え?せんせぇどうしたの??」

 

まるで俺がおかしいことを言ったかのように上目遣いでキョトンと首を傾げるマリア。

...いや、俺何もおかしくないよな?

 

「どうしたのっていうか...いや、ほら...俺着替えるわけだしさ。」

 

「あー、アハハ!大丈夫大丈夫!わたし、全然気にしないよ?寧ろ目の前で着替えてくれて良いかもね~?」

 

「いや、俺は気にするんだよっ!!」

 

なんとか部屋の外で待っててもらおうとマリアを説得したが、えー!部屋の外で待ちたくなーい!横暴だー!と駄々を捏ねて聞き入れてもらえず。

まさかクローゼットの中で、それも鎧に着替える羽目になるとは思わなかった。

正直滅茶苦茶大変だった....。

 

 

 

中心街から東へと十分。

郊外にあたる場所に位置するのは白亜の壁と月桂樹の冠を被った長い角のようなシンボルが特徴の宗教施設。

慈愛と豊穣の女神イシュナーを祀る教会、『月桂教会』。

 

そんな教会の母屋。

礼拝堂などの信者向けのスペースとは異なり、この教会で務めに励むシスターなどの関係者が生活を行う為のスペースである。

そんな立ち並ぶ部屋の中の一つ、『医務室』に今俺は居た。

医務室の中はそこそこ広くて2つのシングルサイズのベッドと薬品棚と本棚、そして一つの机と二つの椅子があった。

案の定、今日は患者を受け入れてる日ではなかった。

 

ここに来るまでに、シスターの子と出くわすことも多かったがその時もマリアはいつもの明るさに加えてどこか敬語を使っているからか上品な聖女らしい所作で彼女らに挨拶をしていた。

しっかりしてるというか、なんというか....。

 

「畑の手入れもやっているのか...そりゃそんな風に日に焼けるはずだな。遠目に見てではあるけど、結構良い感じだったな。マリアは農業も出来るんだな。」

 

「まぁね、やってることは牧場の時と大差ないんだけど。....牧場の方が牛さんたちの気持ちが分かるからやりやすいんだけどさ、でもほらわたし昔から才能あるってカンジじゃん?だからそこら辺平気かな~?...でも、それはそれとして毎日力仕事で大変なんだよね~。...あ~あ、どこかに褒めてくれるせんせぇは居ないかなぁ~?」

 

「あ~...そうだな。大変だったな。」

 

「そう!大変だったの!!えへへ~.....。」

 

促されるままに頭を撫でると、彼女は目を細めている。

....もしかしたら、今日はこんな感じで普段の教会生活での苦労などの愚痴をこうやって聞かされることになるのかもしれない。

...まぁ、それはそれで悪くはないだろう。

怪我を治してもらう立場なんだ、そのくらい甘んじて受け入れよう。

 

それに、農業については多分勉強したんだろうし頑張っているのも事実だろう。

確か彼女の家の牧場が大きくなったのは、曾祖母の代からミノターニャの血が入っていて牛などの家畜の気持ちがなんとなく分かるから、おいしいミルクや肉を作ることが出来ているからだって村に居た頃マリアが言っていたっけ?

そう考えると、農業の方は植物を相手取るんだから勝手が違うはずだ。

その小麦色の肌も、所謂努力の証ってことか。

 

...いや、そもそもマリアは村に居た頃から牧場の手伝いしていたわけだし、日焼けしてたのは会った頃からだな。

とはいえハジリマに来てもそういう仕事をしている辺り、豊穣の女神を崇める教えの聖女らしいと言えるだろう。

...そういうのがなければマリアも段々と日焼けがなくなっていたんだろうか?

...どんな感じになるのか、少しだけ興味のある自分が居た。

 

「ん~、撫でるのはもういいやっ。それじゃ、薬作るから待ってて?」

 

「あぁ、頼む。」

 

ひとしきり撫でられると、彼女は席を立つとこちらにウインクしてから後ろの棚を物色し始める。

そして薬品棚から小瓶や乳鉢、薬草の束のような物などを取り出していった。

 

俺にはその薬草とかの違いすら分からないが、彼女にはそれ一つ一つ見るだけでどんな効き目があるのか分かるのだろう。

いや~、才能があると村で言われていたのは知っていたが....まさかここまでとは驚きだ。

回復などの後方支援の花形ジョブである『プリースト』。

そんなプリーストの中でも技術と信仰が高い人物が上級ジョブである『聖女』になれるのである。

 

「ふん....ふっ......はぁ~...薬作るの、この工程がマジ一番疲れちゃうんだよね~。」

 

乳鉢に緑と黄色の粉のような物を入れて、そこに小瓶に入った透明な液体を注ぐ。

そしてマリアは力んでいるからか息を漏らして、その乳鉢の中の混合物をゆっくりと押し込むようにして乳棒で練っていく。

するとみるみるうちに乳鉢の中に黄緑色の液体が出来上がった。

 

「は~い、かんせぇ~!ラカスの髄薬にコバトソウの粉末とクダミドの粉末を合わせた薬だよ。これを患部に塗って、さっき渡してくれた折れた方の歯をくっつけて奇跡を掛ければ前歯はすっかり元通り☆ラカスは古くから骨接ぎでよく使われる物でコバトソウは鎮痛効果、クダミドは殺菌効果を持ってるんだ....って、アハハ...それはいっか!」

 

「よ、よく勉強してるんだな...。ふ~....よしっ!心の準備は出来た!いつでもいける!」

 

なんか薬の表面がコポ...コポ....と時たま泡立っているのが見えるし...匂いもあまりよろしくない。

それに髄薬ってことは...髄液使ってんのか?

彼女は事前に不安を抱かないように説明してくれたのかもしれないが、ぶっちゃけ知りたくなかった...。

けれど、まぁ....マリアが言うのなら薬効は確かなんだろう。

せっかく作ってくれたんだ...良薬は口に苦しと言う、この程度の見た目で狼狽えてはいられない!

 

「ちょっとせんせぇ~顔青ざめてるじゃーん!あはっ....かわいい~。...確かに見た目悪いけど、効き目は保証するよ?それに、舌にも触れないからだいじょーぶだって!」

 

...恥ずかしいことに、どうやらバレていたようだ。

というか、舌に触れないから大丈夫ってことは舌に触れるとまずいってことだよな....?

....いや、これ以上考えるのは辞めよう。

 

「そんじゃ塗ってくよ....はい、あ~~~~ん。」

 

向かいの席に着いた彼女に促されるまま、俺は恐る恐る口を開ける。

すると彼女は筆のような物を取り出して、そのまま薬を浸すと折れた前歯跡に薬を塗り付け始める。

 

「あだっ.....!」

 

「あ~薬が染みて痛いねぇ。....でも、だいじょーぶ!歯をくっつけて奇跡を掛ければ、痛みもすぐになくなるかんね~。ちょっとの我慢...我慢だよ~。できるかな~~~~?」

 

なんだか子供に言い聞かせるような口調で楽しそうに言ってくるマリア。

塗りつけられた薬は傷口に触れてジンジンと痛む。

けれど...そう言われると我慢出来た。

まぁ、痛くて手を握りしめているわけだが。

 

「ふふっ、ギュ~~~って手ぇ握りしめてる....。はい、がんばりましたね~~~じゃ次は歯、くっつけるね。くれぐれも、動かないでよ~~~?」

 

マリアは冗談めかした口調で今度はピンセットで折れた方の保管してた歯を患部へと宛がう。

元は自分の歯だけあるというか、薬が糊のような役割をしているのかぴったりとくっつく。

そして机にピンセットを置くと、マリアは距離を取って両手を翳した。

 

「繫ぎ接ぎ嗣ぐ...嗚呼、大地孕みし偉大な母(マグナマータ)よ。シュルヴ=イシュナガラブ...我が主、豊かなイシュナーよ...この哀れな傷負いし子羊へ恵みを。命に刻まれしあるべき姿へと癒し給え....『治癒(キュラーレ)』」

 

さっきとは打って変わって教会で聖女らしく振舞っている時のように格式高くそう唱えると、魔法とは異なり手に金色の『法印』が出現させる。

その法印はイシュナー教のシンボルである月桂樹の冠を被った長い角のような意匠が見える。

多分、イシュナー教の奇跡を用いたんだろう。

 

法印からは金色の粒子がゆっくりと俺の口内へと入っていき、微かに鼻孔を乾いた穀物っぽい匂いが刺激する。

そして段々と患部である上前歯の方にじんわりと温かみを感じた。

さっきまで微かに感じていた薬の染みる痛みなどはまるでその温かさに上塗りされたかのようにまるで感じない。

 

「ん、これで処置は終わりっ!...どう?痛みとかない?」

 

「あぁ、まったくない。...凄い、流石だなマリア。朝から水飲んだりモノ食べたりしたら痛んでうんざりしてたんだ、本当に助かるよ。」

 

マリアは手を翳すのを辞めて、椅子にまた座る。

上前歯の上を下でなぞると、まるで折れる前に戻ったかのような感触。

痛みもまったくない。

今の数十秒で完全に治ったってわけか。

流石は聖女だな....。

 

「そう?よかったじゃん。ところでさ、せんせぇ...もしかして最近お耳掃除、出来てないカンジ?」

 

「え?....あ、あぁ...確かに最近忙しかったし出来てなかったかも.....」

 

急に猫撫で声で俺に耳掃除をしているのか尋ねてくるマリア。

考えてみれば、最近していなかったな。

正直、耳なんて普段見えるわけでもなければいつも意識しているような場所でもない。

なんか痒くなったら綿棒で適当にクリクリ~とするくらいで...。

 

『ハンス君、お耳痒いの?ほら...おいで?お姉さんがお耳掻き掻きしてあげるよ。』

 

....あの人が居た時は、その限りではなかったが。

なんていうか...今考えると、こう....中々のことをやっていたものだな。

うん、あの人の包容力というのを思い知らされる。

複雑な気分になっている俺を尻目に、マリアは椅子から立ち上がる。

 

「やっぱり....すんすんっ.....。」

 

「ちょっ...ま、マリア!?」

 

マリアは歩み寄ってきたと思えば、急に両手で俺の頭を抑えた後に耳元まで顔を近づける。

牧場の手伝いをやっていたり、畑を仕事をしていただけあって割と力が強いな...。

近い顔に、かかる吐息。

ぞわぞわとした、甘いくすぐったさが背筋を走って思わず顔を伏せる。

 

「~~~~っ、くっさ❤くちゃ~~い...❤....歯を見てた時、微かに垢の匂いがしたんだよねぇ~?だからチラッと耳を見たら、めちゃ垢が溜まってんじゃん!ってなってぇ~...こ・れ・は、流石に見逃せないよね~~?」

 

「え....っ!?臭い....マジか!?うっわ...マジか....。」

 

熱い吐息の籠った艶っぽい声に一瞬ドキッとしたが、すぐ後にマリアの発言から冷や水を掛けられたような気分になる。

マジか....おわぁ、マジかぁ....。

一応、よく戦闘とかで動いた後は銭湯は必ず行ってるし、なんなら宿とか選ぶ時も小さくても良いので風呂に当たる機能がある宿を出来る限り選ぶようにしている。

冒険者をやる上で、異性同性問わず人と関りを持たざるを得ない以上はそこら辺の清潔さとかは気を配っていたつもりだ。

 

だからこそ、余計にショックだった。

耳なんて他人が見る所でも、気にされるわけでもないから大丈夫かと思ったんだけど...うわ、マジかぁ~....。

 

「あー、アハハ...あんま落ち込まないで?わたし鼻結構良いからさ。ていうか寧ろ丁度良いってカンジ?わたし....この前、高そうな耳かき棒もらってさ。...だから、それ試させてくんない?普段、他のシスターの子たちの耳かきしてあげてるから腕前は確かだよ~?これがお礼ってことで...どう?せんせっ?」

 

「お礼....?」

 

マリアはなんだか格式ばった感じの黒い長方形の箱を棚から出して見せてくる。

対して俺はマリアの言葉に思わず首を傾げてしまう。

耳掻きって礼っていうか寧ろ逆じゃないか....礼にならなくない?

耳の中を掃除してもらうんだから更に返さないといけない礼が増える気が....。

 

「ん~~、なんか問題?だってわたしさっき頑張ったじゃん!....お礼、ダメかな?」

 

「いや、ダメってわけじゃなくってさ.....その、耳掻き...とか結局してもらう形になって俺には得しかないし...お礼にならないんじゃないかなって。それこそ金銭とか物品とか別の物の方がまだソレっぽいっていうか。だから本当にそれで良いのかなって....。」

 

首を傾げて上目遣いでこちらを見つめるマリアに思っていたことをそのまま口に出す。

正直、俺自身ここに来たのもなんだか押し切られたような形で釈然としない。

けれど、まぁ....押し掛けてきた形になるが俺を心配して来てくれて、それでいて本来は診察をやってない日に教会で処置をしてくれたんだ。

教会の聖職者としてのオフィシャルな奉仕活動ではなく、マリア個人の心遣いなのだ。

だったら、正直お金を払うくらいは報酬としては普通だ。

 

「あー...わたしさ、そういう見返りが欲しいんじゃないんだよね~。お金とかあんまキョーミないし?ていうかそもそもお礼を受け取る側のわたしが、耳掻きをお礼にしたいって言ってんじゃん。それなのに、自分はお礼にならないと思うから、別のお礼の方が良いんじゃね?っていうのは....せんせぇ、ちょっとおかしくない?」

 

ニコニコと人好きのする笑顔を崩さないマリア。

しかしその笑顔はいつもの感じじゃなくてどこか圧を感じるし、言葉に棘を感じる。

まぁ、彼女の言っていることはごもっともだ。

相手側の要求に別の物が良いんじゃないかって言うのは厚意の押し付けだな。

 

「...じゃあ....。そ、それならお願いしよう....かな。お礼...だからな?」

 

「ウンウン!わかってくれてよかったぁ~。そんじゃ.....。」

 

俺は首を縦に振る。

すると、口元に微かに笑みを浮かべて彼女はベッドの方に腰掛けると自分の白く艶のある太ももを小さく叩いた。

え....?

 

「こっち来てよ。膝枕するからさ。」

 

「別に、俺が椅子に座ったままでも出来るんじゃないか....?」

 

正直膝枕は気が引けると言うか、避けたい。

それは、まぁ....村でのあの時のことを思い出してしまうのもそうだが、なによりも彼女の背丈や身体付きを考慮するとまず間違いなく彼女の胸と密着するのが目に見えて分かるからである。

っていうか、寧ろあの感じじゃ胸と太ももで挟まれるな。

さながら教会に行く道すがら見かけた屋台のサンドウィッチのように。

...俺、なに言ってんだ。

ダメだ...、突然のことばっかりで気が動転してる....自分でも分かる....。

 

それに...昨日の怪我とかもそうだが、最近そっちの処理が出来ていない。

加えて朝起きたばかりでここに居るのである。

だから、俺は動じないと自信を持つことが出来なかった。

妹のような感じの年下の子だと言った手前情けないことこの上ないが、男の俺としては死活問題だ。

こんなことがきっかけでマリアと気まずい空気感になりたくない。

 

そんな俺の気持ちなど露知らず、彼女は子供っぽく頬を膨らませてジト目を向けてくる。

 

「あー、んもぉぉぉ!それじゃあ、わたしが耳かきしづらいじゃん!いつもとは違う耳掻き棒を使うから、慣れた姿勢でやるのが一番だって!わたし、なんか間違ってる??」

 

「間違ってはないけど....いや、でも....。」

 

確かにそう言われるとぐうの音も出ない。

ただ俺からしてみると『はい、そうですか』と頷けるほど簡単な話ではない。

いや鼓膜とかの関係上、慣れた姿勢が良いというのならその通りにするべきだし...そもそもやってもらう側が注文を付けるのもおかしな話だろう。

けどなぁ.....。

 

マリアに煮え切れない態度を取ってしまう。

するとマリアは俯いたかと思えば、少し顔を上げて俺を見つめる。

その表情はどこか不安げで...それでいて悲しそうな表情をしていた。

 

「そんなに嫌なの?...わたしの膝枕。だったらしょうがないけど....ちょっとだけ、悲しい..かな。」

 

「....分かった。マリアがやりやすいなら、その方が良いもんな。」

 

俺は立ち上がって彼女の元へと向かう。

口元に笑みを浮かべている物の、その瞳はなんとも悲しそうに伏せられる。

幼気な風貌に雨の日に取り残された子犬のような表情。

そんなのを見て、断れる人間なんて居ない。

それは俺も例外じゃなかった。

 

 

 

頭が、彼女の太ももに沈む。

すべすべときめ細やかで、それでいてどこか良い匂いがする。

俺は今、マリアの膝に自分の頭を横の状態で乗っけていた。

目は閉じている。

視界の端に入る肌色を見ないようにする為に。

 

「ん、そんじゃ耳の中見てくから。ふにゃ~って力抜いてよね、せんせっ❤」

 

俺が人肌の温もりを頬で感じていると、パコッと箱の開く音がする。

そしてその直後に聞こえるカチャカチャと金属の小物がぶつかり合うような音。

多分、箱の中から耳かき棒を取り出しているのだろう。

金属製なんだな....普段そんなの使ったことがないから、耳掻きされたらどんな感じか想像もつかない。

 

急にマリアに耳を見せている方の頭の上に少し重く、ほんのりと温もりを帯びた柔らかい何かが乗っかってくる。

なんか甘い匂いがする。

頭の芯からポワッと熱を帯びるような感じ。

 

マズイ。

本当にマズイ。

上と下、両方の頬で柔らかさを感じる。

多分耳の中を見ようとしてマリアは少し前のめりになったのだろう。

その際にマリアの小柄な体躯が故に、太ももと『アレ』で俺の頭を挟み込む形になったんだと思う。

 

懸念した以上のことが、今起きている。

これがサンドウィッチの呪いって奴なんだろうか?

お前...俺が買わなかったことを恨んでるのか....?

今度鶏肉に粒マスタードとレタス挟んだ奴買うから....許してくれよ!

 

敢えて思考を与太話のように下らない、今の状況と関係ない方向へと脱線させる。

意識してもし隆起したら最後、気づかれた時点で終わるかもしれないからだ。

もし露見したら....あぁ、考えたくもないな。

 

「う~~~~ん、ん~~~~~?影になって見にくっ....おっぱいが邪魔で見えづらいなぁ....。」

 

言った....。

こっちが必死に言語化しないようにしてたのに、よりにもよって本人が言っちゃった。

その言葉を聞いて、どうしても頭の上に乗っかって存在を主張する胸に意識が向いてしまう。

 

ダメだ!もっと別の...別に意識をやらないと.....っ!

えーと...えーと....サンドウィッチってホントは別の名前だけど生み出した人が連れていた助手の少年を胸で挟んでおぶりながら売っていたことを揶揄する目的でそれになぞらえて付けられた仇名みたいな物で、それが元々の名前よりも広まって定着したんだってな。

....いや、結局胸の話だな

しっかりしろ俺.....っ!!

 

「ねぇ、せんせぇ?もっと横とか、向ける?」

 

「あ、あぁ...!こ、こんな感じか?」

 

「ん、そうそうそんな感じ!これでよく見えるよ....わぁぁ、これすっご....!」

 

言われた通り少しだけ身体ごと首を横にずらす。

頭の上と下で太ももと胸が擦れるが、気にしないように努める。

すると左耳を少しだけ引っ張られる。

そして穴を広げて奥を見たマリアは小さく驚きの声を上げる。

 

「どうしたんだ....?」

 

「耳垢がめっちゃヤバイって。ホントやってなかったんだね~?このまま放置したら、多分...耳の穴が完全に塞がってたんじゃないかなぁ?」

 

「え!?そんなに....!?」

 

胸と太ももの感触から意識を逸らす為にした質問であったが、驚きの事実に俺も声を上げてしまう。

耳の穴塞がる程って...それってもうちょっと放置したら音が聞こえなくなってた可能性もあるってことだよな。

もし、それが探索中や戦闘中とかだったら....考えたくないな....。

生存にも関わる程のヘマを犯していたかもしれない。

 

「もっと取って見ないと詳しくは分からないんだけどね?けど、傷や出血...炎症の類はなさそ。本当は、耳垢は自然に出ていく物で耳掃除は極論必要ないんだけど、耳の穴を塞ぐほど溜まってるなら取らないとマズイからさ。自分から排出する作用が弱い人....もしかしたら、せんせぇってソレかもね。」

 

「なるほどなぁ...。」

 

知らなかった...そんなこと。

自分にそんな体質があるかもしれない。

そんなこと思いもよらなかった。

なんていうか、耳の中を見せてよかったなと思った。

やっぱりプロだ、マリアは。

 

「それじゃ取ってくから。動かないでね~....?」

 

「あ、あぁ....んっ。」

 

返事をすると、何か耳の中に一本硬い芯が入るような感覚に声を詰まらせる。

耳かき棒だ。

その棒の存在を自覚すると共に、コツッコツッと耳の中で何かつつくような音が響く。

さくっ..コツコツ....という音。

そして次の瞬間にはカリッ....カリカリッ.....カリリっと優しく耳内部の壁がなぞらえ、弱弱しく引っ掻かれた。

 

「んっ...んんっ...ふっ....。」

 

気持ちよくて息が漏れる。

自分でやった時とは比べ物にならない。

多分自分でやる際にはどうするつもりか分かるが、人にやってもらう時は完全に耳の中を委ねる形になる。

その不意の感触を気持ちいいと感じるのかもしれない。

....それと、単純にマリアが上手いのだろう。

 

「ちょっとせんせぇ....声、出ちゃってんじゃん...❤あはっ、恥ずかしいんだぁ~~❤」

 

「っ..ふっ...ごめ...んっ....!」

 

「あー、いいよいいよ無理に喋らなくて。んじゃ、そろそろ引っこ抜くからね~~~?」

 

息を漏らす俺を見てか、微かに頭上で笑うマリア。

恥ずかしさを覚えるも、すぐに聞こえてくるみしみしっと耳の中で耳垢が剥がれようとする音に意識を持ってかれる。

そのままぱりっ、ぱりぱりっという音の後にスッーと耳の中から耳かき棒が引き抜かれた。

 

「わぁ...おっきぃ~!すぅ~~~~~っ....んっ、やっば❤やっぱり...耳垢が、匂いの原因だね。近くで嗅いだら...っ、は~~~~....鼻につんと来て...ほんとくっせぇ~...❤」

 

「そうっ....か...。」

 

耳元でぽそぽそと艶めいて熱っぽい声で彼女は呟く。

それだけでも胸が驚いたかのように跳ねるというのに、なんていうか彼女の言葉遣いが一部悪くなっていた。

幼げな容貌で、聖女。

聖女らしくない嘲るような言葉遣いを聞くとなんだか聞いてはいけない物を聞いているような....そんな気分になる。

 

「アレ~~~?どしたのせんせぇ?なんかぶるぶるしてる~!プフッ...子牛さんみたいで、めちゃ可愛いけどぉ~...危ないから、耳掻きしてる時はやめてね?」

 

「わ、悪い....。」

 

真面目なトーンで注意されて、思わず謝る。

その後は、マリアは無言でただひたすら耳かき棒が耳の中を耳の中を掃除していく。

ゆっくり確かに耳垢を掻き出したかと思えば、弱弱しくそれでいてカリカリと小刻みに早く耳かき棒を動かして耳垢をこそぎ落とそうとする。

ず...ずずっ....と耳の穴の中から引き揚げようとしてる物が耳壁に擦れる音。

そしてズポッと抜ける....多分マリアが言っていた奥の大きな耳垢が抜けたのだろう。

 

気持ちいい。

どうやら人間は慣れる生き物なのは確かなようで、太ももと胸に挟まれた状況も慣れて何も感じなくなっていく。

耳かきの気持ちよさに加えて密着していることで体温が伝えられて凄い心地よい温かさを感じる。

それでいて、マリアの方から伝わってくる規則的な呼吸。

まるでベッドに眠っている時のような安心感。

 

今感じている温かみに身体全体が馴染んでいくかのような感覚と共にゆっくりと意識が溶けていく....。

それになんだか頭上からなんだか甘い感じの良い匂いがして...熱を帯びていて頭の芯がついに溶けだしたかのように気持ちよくて...。

あぁ....そりゃ、起き抜けでここに連れて来られたからな。

それも二度寝しようと思って、出来なかったし....。

 

「あ~...せんせぇ、おねむなカンジ?...いいよ♪痛い痛いのさっき治ったばかりだもんね~。...まどろみに身を委ねて?そしたらわたしが...右も左も、全部綺麗にしたげる....❤」

 

マリアはまるで慈母のように優しい声で眠ることを許可すると、俺の頭をゆっくりと撫でる。

なんだか、その声は優しいながらにどことなく微かな喜色を帯びているようにも聞こえた。

...頭の中が熱くて、考えが定まらないけど...俺は、これじゃダメだって思って....。

 

堕ちていく意識の中、何もかもがすぐに睡魔に呑まれて掻き消える。

心地よさに抗うことも出来ずに、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

教会と、ママとパパの牧場を行き来する日々。

そんな日々に、なんだか飽き飽きしてくれた頃に、その人はわたしの住むテルセム村に訪れた。

 

『マリア、村の周りの調査と近くの牧場の牛を襲ってる魔物の退治の為に来てくれたハンス・シュタールさんだ。彼も一時ではあるがここで暮らすことになったから。こんな田舎のあまり大した報酬も二つも依頼を受けてくださった方よ、失礼のないようにね。』

 

『そんな!恐縮ですよ。...どうも、ハジリマから来ましたハンス・シュタールです。これから依頼が達成するまでキミの御両親に部屋を借りることになってて...色々顔を合わせることもあると思うから、よろしくね。』

 

装備に身を包んで背中に盾、腰に鞘に納められた剣を持った男の人。

その人は都会の男の人らしくなんだか...良い感じの顔付きで、しかも冒険者。

身体もがっちりしてる。

少し垂れた目尻や柔らかな言葉遣いからなんだか優しそうだなって感じた。

 

正直、....わたしからしてみれば、渡りに船だった。

だってそうじゃん。

神父様とかの分かる人から、わたしにはそのお兄さんが居た場所であるハジリマ。

冒険者の街と呼ばれる都市でもやっていける程の才能があるって言われたんだよ?

 

それでも、都市に一人で出すのはパパが猛反対してママにそれに同調するから都市に行く目途は立たないし...これでも、ママとパパのこと好きだから悲しませることはしたくない。

けれど、せっかくわたしには才能があるっていうのに....それを発揮することなくこんな片田舎の街で生涯を終える。

そんなの、...絶対嫌じゃない?

 

大体の自分と同じくらいの若い子もそうやって都市に集まっているわけらしいし、なんとかしてわたしも都市に行きたいな~って思ってた。

だからお兄さんが訪れたことはわたしにとって好機だったんだ。

ここでお兄さんに好いてもらえば、もしかしたらその道が開けるかもしれない。

 

ほら、わたし...自分で言うのもなんだけどママに似て美人さんだし?

だからさ、そんな子が懐いてくれて『ふえぇぇ~ん、離れたくないよ~おにいさ~ん...一緒に連れてって~』って言ったら、自分の傍に居させたくなって都市に連れてってくれるんじゃない?

 

そしたら言いにくい説得の所もせんせぇがやってくれて、それでいてママやパパがわたしを一人で都市に出すことを心配していることの解決策にもなるし!

それにせんせぇが依頼を受けてここに来たんだから、依頼達成出来ればママやパパだってお兄さんのこと断りづらいでしょ~~。

 

幸い、見た目は別に悪く無いし....それに優しそう!

だから一緒に居ても、不快感はないんじゃないかな~~~~?

連れて行ってもらったら上手いこと好印象をもらえたら色々都市での生活で面倒臭いこととかお兄さんにお世話をしてもらいながら、この才能を振るうだけのそんな毎日が訪れるかも!

 

そんな打算を心の中で組立てながら、わたしはこちらに微笑みかけるお兄さん....今のわたしの呼び方で言えばせんせぇに満面の笑みを浮かべた。

 

『はい、よろしくおねがいしますねっ!!!お兄さんっっ!!!!』

 

 

それから、お兄さんとの暮らしが始まった。

依頼の為に外に出ている時もあるものの、基本はわたしの家に帰ってくる。

ただ、部屋をもらったのに何もせずにご飯を食べるのは気が引けるとかいう、そもそも貴方はこの牧場の牛を襲ってる魔物の退治にも来たんだからそれだけでお釣りが来るでしょって思う程のお人好しなこと言いながら牧場の手伝いをしてくれた。

まぁ、ようするにわたしとお兄さんは一緒に作業する時間が多いってことだね!

 

それに、わたし自身夜とかによく話しかけたりしてるから案外お兄さんと仲良くなるのは早かった。

自ずと、お兄さんに色々都市の話も聞けたんだよねそーいう時に。

 

『そうなんだぁ~すごいね....!ふふっ、なんだか...お兄さんに都市のこととか、冒険の話とか..色々教えてもらっちゃってるなぁ....お兄さんはまるで、わたしの先生だね!』

 

『そんな大したことじゃ.....』

 

『だからさっ、お兄さんのこと...せんせぇ、って呼んでも良いかな?ねぇ...ダメ?ダメかなぁ~....?』

 

そうやって甘えた声で言うと、せんせぇはたじたじになりながらも了承してくれたんだ~。

はい、仇名を付ける事で距離感縮める作戦成功~!

正直、せんせぇは色々と頼み事する時やミノターニャの習慣とかであることないこと吹き込む時に上目遣いでいっぱい頼むと大体は流されてくれるんだよね~。

も~、せんせぇって押しに弱すぎ~。

ま、わたしからしてみれば好都合だったんだけど。

 

そ・れ・に~...せんせぇってすぐにフイッって目を逸らすけど....偶に、わたしの胸見ちゃってる時あるんだよね~。

それに作業でしゃがんだりしたら、お尻とかチラ見してるし~?

もしかして、バレてないって思ってるのかなぁ~...バレッバレなのに...❤

わざと揺らしてみたり、しゃがんでみた時も同じ感じだったら流石に確信しちゃうよ~~。

 

面白いって思うし、それになによりしめた!って思うよね。

だってさ、それってせんせぇ...わたしのこと満更でもないってことじゃん!

この状態を維持しつつ、年下らしく甘えて行けばわたしの立てた算段通りに行くでしょ!

ぶっちゃけ、せんせぇって...チョッッッロ!

は~~~い、せんせぇありがと~~~~☆これからせんせぇに都市連れてってもらうから覚悟してね~~~~♪

 

『おはよマリア、朝から精が出るな。前は牧草ロールを二つ両腕に抱えて....あれ?前は、一人じゃ持てないよ~って言ってなかったか?』

 

『ア”ッ”ッ”!?せ、せんせぇ...!?あ、アハハ...おはよう!いつもより早いお目覚めだね~...えーと、これは..あのっ、えー...そう!その時は調子悪くて、一人じゃ持てなかったんだー!アハハ....。』

 

『そうだったんだ。...それにしても朝から偉いな。それ、俺も持つよ。』

 

『あ...っ、うん...ありがと.....えへへ....。』

 

連れてっ......。

 

『たかだか調査で傷つくって来ちゃうなんて....森が入り組んでいたとはいえ、恥ずかしいな。悪いな、手当してもらって。』

 

『ううん!頑張ってるせんせぇの力になれるなんて、わたしも嬉しいよ!...はい、終わり!』

 

『もう痛くない....凄いな、ありがとうマリア。』

 

『あっ...せんせぇ...っ。』

 

『あれ...こういう時って牛角族(ミノターニャ)では頭を撫でるんじゃなかったっけ?俺...何か間違えたか....?』

 

『あ...う、ううん!なぁ~んにも間違えてないよ!わたしが教えたこと、覚えててくれたんだねせんせぇ!うんうん、私達の種族の文化...これからも色々知っていって欲しいな!』

 

連れっ.....。

 

 

...はい。

悪ぶったけど白状しちゃうとさ....この時点で、ガチ恋しちゃってるよね。

ていうか、そもそも出会った頃の時点でいっぱい自分から話しかけて行ったりとか良い印象持ってもらおうと思ってる時点で多少なりとも好きになっちゃってるよね。

身体チラチラ見られてもあんま嫌な気しなくて自分から揺らしちゃってるし?

なんなら仇名付けたり、嘘の習慣教えて頭撫でてもらおうとしてる時点で言い逃れ出来ないよね?

 

でもさ、わたし...誰に言い訳するでもないけどしょうがないって思うな。

だってわたしが幾ら才能溢れる前途有望な美少女だったとしても、農村にずっと居た田舎娘だよ?

それが都市から来た悪くない...正直好みの顔付きの優しそうで身体付きがっしりとした冒険者の男の人に興味惹かれないわけないじゃんねぇ?

確かにせんせぇを利用する感じの打算を抱いていたのは事実だけど、それはそれとしてポッ~ってなっても致し方ないよ、ウンウン....。

 

....ま、結局ママにはバレちゃってたんだけどね。

なんでも牛角族(ミノターニャ)はなんでも好きな人の前ではその人を惹きつけようとする匂いっていうの?そういうの出すんだって。

まぁそりゃ一つ屋根ってことはママやパパが居るわけでせんせぇと話せばそりゃミノターニャのママには分かるよね~。

パパがミノターニャじゃなくて良かったよ~....。

 

けど、そのおかげでママはなんかわたしが都市に行くことを応援してくれるようになったんだ。

なんでもママもパパを追いかけたからって....。

わたしの才能じゃなくて、この気持ちがきっかけになるなんて複雑な気分。

けど、真夜中に『こ、こら...こっちはあの子のことを考えて...やめっ、胸を使えばなんでも言う通りにすると...ひぎぃっ!』って多分ママがパパを説得してる声が微かに聞こえてくるし、都市に行けるならそれでもいっか!ってカンジかな。

...それに、この依頼が終わっちゃたらせんせぇ...都市に帰っちゃうだろうしね。

 

けれど、一つ...気がかりなことはあった。

それはせんせぇが度々ウチの放牧している牛を襲った魔物を退治した時の事。

どうにも多くの魔物と戦ったらしくて、家に傷だらけのせんせぇが帰ってくる。

遠目から見ても結構傷が目立つ。

...それもそのはず、後から分かったけど一人で魔物の群れを駆除したらしい。

 

『せんせぇ....!大丈夫....っ!!?』

 

丁度ミサも終えて家に帰って牧場の手伝いをしてた頃合い、それを一旦ほっぽらかしてせんせぇの元へと駆け寄る。

声は聞こえている筈。

けれど、わたしの方へと視線を向けずにボッーと手を見つめている。

まるで遠くを見つめるように。

 

「せんせぇっっ!!!!」

 

「っ...、ご、ごめん...ボッーとしてた....あ、ちょっと待ってくれ....ほら、俺血で汚れてるから....。」

 

「なに言ってんの!!?傷の手当しなきゃでしょ!!!」

 

取り繕うような笑顔で見当違いの事を言われて、思わず大きな声を出しちゃった。

せんせぇの手を取って無理やりへと家へと歩いていく。

べちゃりとした血の感触。

そのほとんどが返り血だとしても、わたしを不安にさせるには十分だった。

 

だって、その顔は依頼を出す前のパパやママが浮かべていたのに似ていて...どこか思い詰めたような表情だったから。

 

 

そんな中、ついにある日せんせぇが村の周りの魔物の分布状況の調査を終えてがこの村で受けていた依頼を全部完遂させたらしく、せんせぇへの感謝の気持ちから村の皆が宴会を開いた。

 

まぁ、宴会で騒ぐのは...わたしも嫌いじゃないけどお酒も飲めないし、せんせぇには村の大人とかが話しかけるから話せない。

それに、わたしにはわたしで別の目的があるのでママの助けもあって先に宴会を抜けて家に帰る。

 

そして、せんせぇの部屋でせんせぇの帰りを待つ。

せんせぇが調査をやっている間に、ママがパパの説得を終えたこと。

....それに、お酒が入ってるから今のタイミングで連れて行って!って言ったら軽くうんって言ってくれる...言質取れるんじゃないかなっていう打算もあるけどね~。

 

そう思って待っていると、扉が開く。

そして入ってきたのは顔を赤くして、どこかニコニコと笑顔のままフラフラとした歩みのせんせぇ。

せんせぇのそんな顔、初めて見た。

 

なんだかすごく酔っぱらっている。

まぁ村の人、それも結構飲む人に飲まされていたから仕方ないんだろうけど。

 

『あれ...なんで、俺の部屋にマリアが居るんだ....?』

 

『え!?そ、それは...ここはわたしとママとパパの家なんだから居て当然じゃん!』

 

『...?それもそうだなっ!』

 

や、やったぁ!チョロさに磨きがかかってるーーーーー!!!!

正直、内心ガッツポーズした。

隣に座るように言ったら、わたしの隣に座っちゃうし...も~~~チョロ過ぎ~~~!

そんなんじゃ、今まで都市の方で一人でどうしてたのか...悪い女の人に騙されちゃいそうで心配だよ~~~!

でも、こんなにちょろいならすぐ言質取れそうだしぃ?

ま、もしそんなことあってもこれからわたしは守ってあげるからね~☆

 

まずはパパから都市に行っても良いって許可が出た。

せんせぇの反応はあんまり釈然としない。

ま、そりゃそうか。

だってせんせぇはわたしが都市に行きたがっているのは知ってるけど、せんせぇに引っ付いて行くつもりなのは知らないもんね?

ま、これからわからされることになるから時間の問題なんだけどっ♪

 

そんなこと考えたら、あることに気づく。

せんせぇは今酔っぱらっている。

そして部屋の中にはわたしとせんせぇの二人きり。

そして宴の方は、主賓であるせんせぇが居なくても終わる気配はなくて家にはそもそもわたしとせんせぇ以外は居ない。

そしてせんせぇは酔っぱらっていて、隣に居て身体のほんのりとした熱気が伝わってくる。

 

....もしかして、わたし....事と次第によっては大人に...なっちゃうかも....?

そう考えると、まるで沸騰したかのように頬が熱くなる。

...でも、それも悪くないかな?って思っちゃう自分も居る。

 

そんなこと考えたら、照れちゃって口が勝手に動いちゃう。

せんせぇもなんだかちょっといつもよりも陽気だからか、話が弾む。

その甲斐もあって、せんせぇがあまり話さないせんせぇ自身のことを話してくれた。

 

せんせぇもわたしのいるテルセム村みたいな田舎の出身だってこと。

家を飛び出してハジリマへと行ったこと。

そこで冒険者を始めたこと。

冒険者になりたいって思ったきっかけは、小さな頃から冒険譚とかを本で読んでいたからだって。

 

そんな楽しい会話の中、わたしは聞いてしまった。

不意にした質問。

家を飛び出して都市で一人で大丈夫だったの?困らなかった?って。

 

 

そして、わたしは知った。

せんせぇがハジリマに来てすぐに、自分の面倒を見てくれる年上の女の人...せんせぇが言うには『先輩』って人が居たこと。

色々とお世話になった...って言っても!?なんかホームシックになってるとか言って添い寝したりとか!!?耳かきしてもらったりとかなんだか怪しい感じの人みたいだけど、居たらしいよッ!!

 

『ぇ...あ.....。』

 

なんだか頭がガンガンする。

その人のことを語るせんせぇの顔がどこか遠くを見ていて...それでいて楽しそうで。

なんだか、その人のこと...好きなんだって分かったから。

それでも、認めたくなくて...わたしはつい聞いたんだ。

 

『その先輩って人が、街でせんせぇの帰りを待ってるんですか?』って。

 

わたしからしてみれば、ハジリマに一緒について行っていないのならまだわたしにも希望があるかも。

居るんだったらやっぱりここでなんとかそういう雰囲気に持っていけたら良いなって、その程度。

けど、その質問を聞いたせんせぇは...前に不意に見せた辛そうなあの表情を浮かべた。

 

....その女の人は、元々自分の兄の冒険者生命を奪ったドラゴンの情報を得る為に冒険者が多く集まってギルドも大きいハジリマに居たこと。

それでいて、その情報を得るまでの間にせんせぇに冒険者としての基本を教えたりと世話を焼いていたこと。

そして....ドラゴンの討伐依頼が出るや否や連れていって欲しいと頼んだせんせぇに足手纏いになるから、もうハジリマには戻らないかもとか言ってせんせぇを置いて行ってしまったってこと。

 

『俺じゃさぁ、力不足だってことは分かってんだよなぁ....でも、俺は連れて行ってほしかったんだ....先輩....。』

 

ハハッと乾いた笑みを浮かべながらも少し俯くせんせぇ。

そんなせんせぇの隣で、わたしの胸はなんともドロドロとした...今まで感じたことのない感情が渦巻いていた。

 

なに...それ。

それってさ、要するにせんせぇ...時間潰しに使われたってことじゃん。

新人の、それも家から飛び出して心細いせんせぇに付け込んで先輩ぶって良い気持ちになってただけじゃないの?

それに行動だって添い寝とか...耳かきとか、世話っていうかまるで気を持たせる行動じゃんねぇ?

それってさ、意図的じゃない?

自分より年下の男の子、弄んでて遊んでたんだよ...きっと、その性悪女は。

 

力不足だったから、二度とそんなことにならないように強くなりたくて...冒険者として成長したくていっぱい依頼受けてるらしいし、それであんな風に傷ついて今はこんな顔しちゃって.....。

全部...全部、その女のせいじゃん。

 

思い出すのは、イシュナー教の説話で出てきた悪い女神。

愛し合う夫婦だったイシュナー様と始祖神様の間を、イシュナー様から生まれた子供の癖に生れ落ちた時点で炎を纏ってイシュナー様の産道を焼いて冥府へと堕として引き裂いた。

そして、イシュナー様が居ない間に始祖神の妻になった炎の神フレイマ....。

イシュナー様が愛の力で冥府を昇り、天上の始祖神様の元に戻っても始祖神の隣に居続けた厚顔無恥の女神。

そのクソ女が、その女神に似てるなって凄い思った。

 

わたしだったら、そんな思いさせない。

その女は、せんせぇを捨てた癖に今も尚せんせぇの心にしつこい汚れみたいにへばりついて悲しませてる...追い詰めてる。

....でもさ、もうソイツ...居ないんだよね?

後に残るのは傷心のせんせぇだけ。

傷心中の、付け入る隙一杯のせんせぇ一人....❤

 

 

.......えへへ。

 

 

『せんせぇ...そんなこと、ないよ?一緒に居たいって思うことは間違いなんかじゃない。...あたしだったら、そんなことしないのになぁ~。そんな思い、させないのに....。』 

 

『そうだ!そういう気分が落ち込む時は、ギュ~~~~ってすると良いんだって!ママが言ってたよ!』

 

『寂しい時は、添い寝してもらうと気分がほっこりするんだ~☆』

 

『わたしはまだ子供だよね?だったらただの添い寝じゃんねぇ!子供と一緒に添い寝。普通は子供が寂しくなってするものを、大人のせんせぇが寂しくなってする。それでも良いんだよ...?いつも、せんせぇに甘えちゃってるから...持ちつ持たれつって奴ぅ?』

 

口から言葉が衝いて出た。

そして、あたしはせんせぇに対して腕を広げた。

正直、心臓バクバクだ。

でも普段だったらせんせぇは断ってそうなこの行為も、酔っぱらっちゃってるからせんせぇは言われるがままにわたしの胸に飛び込んできた!

えへへ....なんだか、懐いて擦り寄ってくる子牛さんみたい.....かわいい....。

 

なんだか...せんせぇの熱と鼓動も伝わってきて、わたしも変な気持ちになっちゃう。

 

せんせぇ、わたしの胸...好きでしょ?嫌いじゃないでしょ?

お尻だって、...だってチラチラ見てたもん...❤

 

だから.....そんな居なくなった女の記憶なんかわたしの胸ですり潰してあげる...。

えいっ...えいっ!ぎゅ~~~~~、出てけ!出てけっ!!!

この人はわたしのっ!わたしのだっ!!わたしのにする!!!!

どーせ、もう居ないんだからさっさと心の中からも消えろよっ!そこはわたしの物にするんだからッ!!

 

なんだかのぼせあがっちゃって、この時のわたし...最初の目的のせんせぇから言質を取ることも忘れちゃってた。

 

ギュ~~っと抱きしめる力を強くすると、胸の中でふもぅ...って変な声上げてせんせぇはわたしの背中に腕を回した。

なんだ...せんせぇもあまえんぼうじゃん!

えへへっ、だったらやっぱり一人にさせられないし...一緒に都市まで行かないとね!

もう、一人にはさせないよ....えへへ....❤

 

『せん...ぱい....。』

 

....は?

 

『ふぎゅぅぅ.....』

 

あ、ごめんねせんせっ!

つい腕の力強めちゃった...。

でも、せんせぇが悪いんだよ?

今、抱きしめてるのは...せんせぇが頬ずりしているのはわたしなのに。

それなのに、他のそんなせんせぇ捨てて居なくなったような女の名前なんか呼んで.....。

 

『その名前言うと辛くなっちゃうでしょ?だ・か・ら、わたしの名前を呼ぶんだよ?呼んで、ねっ?呼んでよ。』

 

『マリ...ア.....?』

 

『よしよし...せんせぇは良い子だねぇ.....,子牛さんみたいに声を伸ばせばもっと楽になるよ~。』

 

『マリ..ア....?マリアぁ.....。』

 

えへっ...えへへっ...えへへへへ...❤

こっちの方が良いね...っ。

じゃ....このまま寝ちゃおっかな。

 

流石に寝込みを襲ったりはしないよ?

わたしだって女の子だから、せんせぇから来てほしいし...。

それに、せんせぇを傷つけたいわけじゃないから。

今の弱ってるせんせぇに、そんな最低なことしないから。

わたしは、その女と違って...せんせぇを守るよ。

 

でもさ朝、起きて隣にわたしが居たらせんせぇ...どんな顔するんだろ....。

それは気になる。

ふふっ、楽しみ~.....。

 

わたしは胸で両側から潰れながらも眠り続けるせんせぇの顔を焼き付けるように見つめてから、目を閉じた。

 

 

そして、そんなせんせぇの寝顔が今あの時よりも綺麗な状態でわたしの膝の上にある。

規則的な寝息を立てて、上下する胸。

耳かきは既に両耳終わっていて起こしても良い頃合いなんだけど....まぁ、お礼代わりなんだからこのくらい良いよね?

ジ~~~~~ッとせんせぇの顔を見つめた。

 

あ、顔を横にしてたからよだれが少し垂れてる。

え、えへへ....も~、ダメでしょ?

袖で拭ってあげるね?

 

こうしていると、牛舎の牛さんの世話をしているような気分になる。

なんだか既に懐かしい。

今やってる農作業も悪く無いけど、わたしはやっぱり家畜を相手にする牧場の方が好きだな。

 

こうしてハジリマにせんせぇに連れて来てもらってせんせぇについていくのは目的の一つではあるものの、兼ねてから考えていた才能を活かす...って奴?

それも別に捨てたわけじゃない。

その為にいっぱい勉強したし、いっぱい祈ったらまさか『聖女』にまでなれるだなんて流石に思わなかったな~。

才能があるって言われて自分もそれを信じてたけど、まさかここまでだなんて....自分の才能が怖いねっ☆

 

けど、そのおかげでこの医務室を管轄するような立場にも立てたし?

こうしてせんせぇ連れ込んで、医療行為として役得に預かれているのは自分の才能と努力のお陰なんだよね。

それにしても....押し切られてここに連れて来られるだなんて、相変わらずせんせぇはチョロチョロさんなんだねぇ~?

 

よだれを拭き取ると、せんせぇの口は閉じて一瞬微かにモゴモゴと動く。

スッと通った綺麗な鼻筋に、細やかな睫毛に飾られて閉ざされた双眸。

そしてモゴモゴと動いたことでフニフニと微かに揺れる唇。

 

なんだか少しだけ乾燥してるなっとか....そんなことが頭に過る程にわたしはせんせぇの唇に釘付けになる。

昔、せんせぇと添い寝した時に感じていた変な気持ち。

今の私にはそれが何なのか分かる。

わたし...今、せんせぇ前にしてメスになっちゃってるんだ.....。

 

よくよく考えてみたら、ママだって家でパパ相手にそういう感じになってる時あったからもっと早くに気づけても良い物だと思うけど...流石に親のそういう所をずっと見たいって思う子供は居ないからしょうがないよねっ!

そもそも私達ミノターニャって好きな人前にして、その人惹きつける匂いを出す種族なんだしそれと比べると不思議でもなんでもない。

 

要するに~~~、せんせぇ?

わたしぃはぁ、せんせぇでエッチな妄想してばっ~~~かの聖女失格美少女でぇ~~~ッす❤❤

せんせぇが気を遣ってるような、そんな女の子じゃないんですよ~~~~~?

 

まぁ?聖女って認められる条件は強い信仰心と深い治療の知識だし?

だからわたしがせんせぇのことで頭いっぱいでも、やることやってるんだから問題ないじゃんね。

っていうわけで、そろそろわたしも....本格的に、役得って奴を味わいたいなっ♪

 

「ん~?それにしても....せんせぇが言う通り、耳掻きだけじゃやっぱりお礼としては足りないなぁ~?」

 

せんせぇの顔を見つめる。

正直、ずっと我慢していた。

朝に宿の部屋の前に押し掛けて、寝起きのせんせぇを見た時から考えていた。

油断していたせんせぇの唇を無理やり奪ったらどうなっちゃうんだろうって。

わたし....悪い子だよね、せんせ。

でもさ、今わたし....めちゃ胸が高鳴ってる。

つい、笑みを浮かべちゃう....。

 

「ね、せんせぇ...だから、わたしに...せんせぇの唇、お礼としてくれない?わたしも...その、はじめて...お返しにあげるから...ね?良い?良いでしょ....返事、ないね。」

 

返事がないのは当たり前だ。

だってせんせぇ寝てるし。

でもさ、そうやって寝てるせんせぇも悪いよ。

こうしてさ、女の子の中には好きな人が拒否できない時を見計らってる女の子も居るんだから。

一つ勉強になったね!

....まぁ、チューした時にせんせぇが起きてないから勉強になったも何もないけどねっ!!

 

せんせぇ...初めてかな?

初めてだったらいいな....いや、でもあの『先輩』とかいうよく分かんないのがわたしがまだせんせぇに出会ってない時に一緒に居たんだよね....。

会ったことないけど話聞いた限り、思わせぶりの卑しい女だから....わかんないな。

うえぇぇ....なんだか胸糞悪くなってきた....。

ふふ....わたしの中でははじめてってことにしちゃお!

 

顔を近づける。

せんせぇの寝息がふっとかかる。

確実に寝てる。

 

このままもっと近づければいづれ、せんせぇの唇とわたしの唇が合わさる。

柔らかい感触が来る。

...っ、やばぁ~~~...顔、あっっつぃ......。

えへっ、えへへ、えへへへへへへ~~~♪

 

後少し、あと少し近づければ唇がつく。

待ちわびていた瞬間が、とうとうやってくる。

甘く桃色の妄想で茹だった頭はそのまま昇天して、きっと天上のイシュナー様にまで届くほどの幸福が待っている。

 

.....そのはずだった。

 

 

「マリアさん大変ですわぁぁっ!!中心部の方でわたくしたちの所のシスターとフレイマ教のシスターが揉めているらしく....て......」

 

「なっ....!?メイベルちゃん.....?!」

 

勢いよく医務室の扉が開く。

そして聞き覚えのある声が部屋の中を響く。

その声にさっと背中が冷たくなって、顔を咄嗟に上げる。

そこに居るのは普段一緒にシスターとして業務を行い、わたしが頼んだせんせぇの監視もやってくれてる友人のメイベルちゃんが呆然とした様子で立っていた。

 

メイベル・シュトーレン....なんでよりにもよってこのタイミングで.....っっ!!!!

 

「あ...あの...お、おほほ....そのっ...わたくし、そのお邪魔...でしたわね...」

 

「...んん、ん~...んあ...あれ、耳掻き...もう終わったのか.....?」

 

「あ....せんせぇ....。」

 

しどろもどろになるメイベルちゃん。

大きな扉が開く音とメイベルちゃんの大きな声、そしてわたしが大きく身動きをしたことで膝の上でゆっくりとせんせぇが目を開いた。

嘘でしょ...マジで言ってんの?

 

「...あー、いや、これはその...っ!いや....お礼って感じでその耳かきしてもらって...その前に歯を治療してもらってまして....。」

 

せんせぇはメイベルちゃんを視界に捉えると、顔を青くした後に急いで起き上がる。

そしてあたふたしながら愛想笑いを浮かべつつ、弁明している。

年下の、しかもこの教会の聖女である子に膝枕してもらっていた所を見られたことで誤解されると思ったんだろう。

 

その一方で、わたしはただメイベルちゃんを見つめる。

正直、...これはないでしょ。

...はぁ~、メイベルちゃんさぁ。

そういう所じゃないの?

そうやっていつも色々とタイミングが悪いから、いつまで立ってもプリーストなんじゃない?

いや、...口には出さないけどさぁ~。

 

「は、ははぁ~!そうだったんですのね!!それはそれとして、わたくしまだマザーに報告していなかったことを思い出しましたわ!!それではお邪魔致しました....。」

 

「メイベルちゃん。」

 

「は、はひっ....!」

 

メイベルちゃんを呼び止めるとなんだか青い顔してる。

ふふっ、おかしいね...呼び止めただけなのに。

なんだか呼び止められたマズイことでも、あるのかなぁ~....?

 

「後でわたしとお話し、しよっか☆」

 

「...わかりましたわ。」

 

「ふふ~忘れないでね?メイベルちゃん、あわてんぼうだもん~!扉を開ける前に、ノック...し忘れるとかさ...ね?」

 

「そ、そうですわね...覚えておきますわ。そ、それではまた....。」

 

よしっ、これで夜にはメイベルちゃんとお話しだね。

ほら...そもそもわたしが居ると思ってこの部屋に来たんでしょ?

だったら、まずは部屋に入る前にノックするべきだと思うんだよね~。

そこら辺の注意も込で...色々お話ししないとねっ。

 

「あれって....確かこの前ここに来た時の格式ばった喋り方の....。」

 

「そーそー、メイベルちゃん。仕事熱心な友達なんだけど...いまいち要領が悪い所があってね~。」

 

「そうなのか...にしたってなんか顔を青くしてたな。それに、...マリアもなんかさっきちょっと感じ違ったし。...なんかあったのか?」

 

せんせぇは心配の目線をわたしに送ってくる。

....少なくともわたしがせんせぇが寝てる間を良いことにチューしようとしたなんて言えない。

どうしよう...。

あっ...、よくよく考えたらこうなったのって無神経にノックしないで入ってきたメイベルちゃんもそうだけど...元を糾せばわたしたちの教えに突っかかってるフレイマ教の連中が悪いよね?

うん、それならそういう感じで説明すればいっか!

 

「えーと...中心部の方で、イシュナー教のシスターとフレイマ教...わたしたちの教えと仲の悪い宗教のシスターの間で諍いが起きてね...アハハ...困っちゃうよ~。」

 

「そうか...大変だな。...それなら、俺も邪魔にならない内に帰った方が良いかな....?」

 

「え”っ”っ”!?ま、まだそこまで大事になってるわけじゃないから....気にしないで、ねっ?」

 

え....もう帰っちゃうの?

せっかく久しぶりに会えたのに.....。

裾を咄嗟に掴んだわたしを見つめてくれる。

 

「耳...ありがとうな、なんかすっきりして...うん、痒い感じもない。それで...なんだ、多分いつもあの宿を使ってると思うから...なんか困ったこととか話したい事とかあったら手紙なり、直接来るなりしてくれて良いから。...今日みたいに突然部屋の前に立たれると、心臓に悪い。」

 

「えへへ~凄いビックリしてたもんねぇ~?」

 

「そりゃぁ、まぁな....。」

 

せんせぇはなんだか照れくさそうに頬を掻く。

部屋に来てくれても良いって....そんなこと、わたしみたいな子に言っちゃダメだよ~~♪

せんせぇからそう言ってくれて凄く...凄く嬉しい....。

 

でも、わたしはイシュナー教の慈愛深い聖女だし?

愛って言うのは与えられるだけじゃなくて、与える物じゃんね?

だから、わたしからも...約束...結ばなきゃ!

今回みたいに知らない内に怪我をしてるかもしれないなんて、耐えられないもん!

 

「けど、せんせぇもヒーラーが必要になったら言ってね?わたし、せんせぇと一緒ならどこでも行くよ?これでも聖女なんだから!正直~、最近教会での仕事って他の子で間に合ってるからわたし、少し暇なんだよね~。」

 

「そっか、だったら頼らせてもらう。」

 

せんせぇは笑顔をわたしに向けて、頭を撫でてくれた。

せんせぇに話したいと思ったら家に来ても良いって言われたし、冒険にまで一緒に連れて行ってくれるかも。

それでいて、この笑顔となでなで。

チュー出来なかったのは残念だけどさ、取り敢えず今日の所はこれだけでも十分満足かな~♪

 

この後フレイマとの諍いの調停といった面倒臭いことが待っているにも関わらず、せんせぇの笑顔に照らされてわたしの胸中は幸せでいっぱいだった。




ミノターニャの特徴
・身体的特徴としては頭辺りに二本左右対称に角が生え方が個人差あるものの生えており、耳は耳裏に薄いながら毛の生えた長い耳(エルフは毛が生えていない)。
・その女の子はみんな胸が大きい傾向がある。
・胸の辺りを中心に甘い匂いがする。(本当は好きな人を前にときめいたら顔が赤らむように、性を自認した頃から惚れた雄相手に対して出す求愛フェロモン)
・ちなみにミノターニャは今でも居るが、みんなほとんど北方の雪原地帯か南方のサバンナのようなステップ気候の所で暮らしてる
・その人たちは純血に近い為、水牛などの野生のウシっぽい角が生える。
・人と交わる度に家畜種の牛のような角の子供が生える可能性が増える。
なんだこのエチエチ種族は...たまげたなぁ...。

今回は腹黒聖女を考える上で、凄い苦労しました。
それだけで3か月間、ホントに費やしましたからね!?
ただ、なんていうか遂に出てきた亜人種のヒロインって感じで他の3人のヒロインと被らない良いヒロインになったんじゃないかなって思います。
え?ヒロイン巨乳しか居ないって?
....はい。

一応この物語は主人公とその周りの3人が主軸なので、結構本編で日の目を見ないフレーバーテキスト的な設定が多くなります。
今回の宗教とかはモロそれです。
なので、活動報告に一応世界観として慈愛と豊穣の女神イシュナーとフレイマ周りの設定を書いておきましたので少しでも目を通していただけると幸いです。
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