犬走椛side
「1つ問おう、お前にとって天狗とはなんだ?」
この質問をしたのは莉乃、貴女だけだ。
初めて彼女に会ったのは山道から外れた森の中だ。
「何者だ?ここを天狗の領域と知ってここに入ったのか?」
天狗の長、天魔様に会うために山を登っていた彼女は最初、人間に擬態をしていた。
私はその事を知らずに毎回追い返していた。
『その時は懲りない人間だ』と思っていた。
そして何度も何度も懲りずに山を登ってくる彼女を私は次こそ力ずくで追い返そうと決めた。
そして次の日、彼女は山を登ってやって来た。
「やあ、また君かい?ボクはそろそろ山頂に行きたいんだけど」
「何度も言ってきたがもう限界だ。お前が天狗の領域に懲りずに入ってくるのならば...」
そして少々間を空けて続けた。
「私達天狗も黙っちゃいない。此方も仕事だ」
「へぇ、そうかい...。だけど、こっちも止まれないんだよ」
彼女は一瞬目を見開くとニヤリと笑みを浮かべながら引き返す気はないと答えた。
そしてそこからは殺し合いだった。
正直、最初は人間相手に手こずるなんて思っていなかった。
だが、彼女は人間を装った
白狼の剣を彼女の首に当てて勝利宣言をした時だった。
彼女はものすごいスピードで白狼の剣を腐食させたのだ。
一級の大妖怪でもこんなことは出来ないだろう。
じゃあなぜ彼女はそんなことが出来る?
それを聞いても彼女はニコニコしてはぐらかすだけだった。
そして鋭くした爪を私の首筋に当てて問った。いや、威圧した。
「1つ問おう、お前にとって天狗とはなんだ?」
天狗とは烏天狗や白狼天狗、大天狗様や天魔様も含めて天狗と指す。
ならば天狗とは私にとって何だ。
「...分からない」
分からなかった。白狼天狗だけなら家族、烏天狗なら気に食わない上司。大天狗様は私が会うことの出来ない、白狼天狗を道具として扱うゴミ、天魔様は雲の上の存在。
「...そう」
その答えに彼女は満足したのか分からないが目を閉じ爪をしまった。
「おーい!莉乃さん!」
「射命丸殿!離れてください!」
「貴女が武器を納めなさい!椛!」
私は其処で漸く知った。
彼女が八雲の式鬼で天魔様の客人だと言うことを。
その後、私が罰せられる事はなかった。
莉乃さんが文さんを説得し何も天魔様に報告しなかったそうだ。
あの時天魔様や大天狗様に報告されていれば、私はその時点で死んでいたかもしれない。
それで、それだけの事で罰せられていたかもしれない。
その報告してくれなかった事だけで私は救われたのだ。
それからも彼女と山道で会い、話すことが多くなった。
私が莉乃と話す時には大体文さんが間に入って邪魔をしてきたっけ...。
その光景はもう二度と戻ってこない。
だが、それでも...
彼女を助けたい。