ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー1 串焼き 

ぽきゅぽきゅぽきゅっと間抜けな音とは裏腹に必死の表情でコックスーツを纏った黄色いふくよかな異形が赤い絨毯の敷き詰められた通路を疾走する。

 

「ちくしょうめッ! 足が遅すぎるッ!!」

 

そしてそのどこか愛らしい姿から発せられるのは低い成人男性の声だ。短い足を必死に動かして走っている黄色異形……それはDMMO-RPG「ユグドラシル」のアバターの1つで最弱と呼ばれるクックマンであり、そんな最弱のキャラをアバターに選んだ貧民層の料理人「川崎雄二」は必死にアバターを操りながら現実のヘッドセットに映る時計の時刻に顔を歪める。

 

「くそがぁッ!! こんな日に金持ち共の道楽に巻き込まれるとか冗談じゃねぇッ! このままじゃモモンガさんに顔向けできねえぞッ!?」

 

今日はユグドラシルの最終日であり、朝からゲームをプレイする筈が富裕層の嫌がらせとも言える命令でパーティの料理人に抜擢され、そのまま富裕層の料理人と対決させられ、勝利した川崎はすぐに帰宅し、ログインしたが時間は既に11時50分を過ぎており、どう考えてもカワサキが所属するギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のGMであるモモンガと話をする時間は無かった。

 

「せめて一声ッ!!」

 

ギルド武器のスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが広間に無いことからモモンガが玉座の間にいると考えた川崎は必死に玉座の間に向かっていたのだが無常にも時間は11時59分52秒に差し掛かろうとしていた。

 

「ま、間に合え……あっ!?」

 

せめて顔だけでもとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させようとした川崎は焦りすぎてアバターの操作をしくじってしまった。走っている勢いのまま豪快にすっころんだその時不運にも装備したままで忘れていた転移のアイテム、そしてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが同調し、ナザリックの通路に現れた虹色の落とし穴の中にカワサキの姿は飲み込まれてしまった。

正史ならば転移に失敗しつつも、ナザリック、そしてモモンガが転移した世界に転移する事に成功したカワサキだが、使い捨ての転移アイテム、そしてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが暴発した事でカワサキはとある外史の世界へと落ちて行ってしまう。そこは迷宮と迷宮を探索する冒険者、そして神が地上へと降り立った世界へとクックマンの姿のままカワサキは旅立ってしまうのだった……。

 

 

~ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?~

 

 

「うわっぷ!? な、なんだ!?」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使おうとした瞬間にこけてしまい、しかもその上装備したままの強制転移対策のアイテムまで落とし、俺は目の前に現れた虹色の落とし穴に落ちてしまった。地面に叩き付けられた衝撃と口の中に広がる苦味に俺は一瞬混乱したが、口の中の苦味のお蔭で正気を取り戻す事になった。

 

「苦い……だと?」

 

DMMOで味や臭いに関する物は法律で禁止されている、味なんて感じるはずが無い。俺の気のせいだと思い、草をちぎり、頬張る。青臭い臭いとエグミと苦味……そして土の味が口の中一杯に広がる。

 

「ぺっぺっ!マジかよ……味を感じるだと……!? しかもここはどこだッ!?」

 

最終日が変わった?いや、そうだとしても味を感じるのはどう言う事だ。コンソールも出ない、GMコールも出来ない……そして顔を上げれば青々とした木々と美しい星空に浮かぶ月の姿が目の前に広がっている。

 

「嘘だろ……?」

 

リアルではもう見れない大自然が目の前にある。しかも周囲を見渡せばクックマンのスキルのお蔭か見たことのない木の根元にある茸や、生っている果実の詳細まで分かる。

 

「……これは……ある」

 

肩から提げている鞄からフライパンと包丁を取り出す。クックマンの専用の武器と防具だ。攻撃力と防御力は皆無だが、作った料理のバフや追加効果の効果を倍増させる効果がある。

 

「……出来るか?」

 

装備していたバッグがあるのを確認し、今度はアイテムボックスを開くイメージをしながら、虚空に手を伸ばす。俺の手が黒い穴の中に吸い込まれ、黒い穴から手を引き出すと、取り出そうと思っていた食材や調味料が手の中に握られている。

 

「……どうなってるかはまるで判らんが……とりあえず、飯でも作るか……」

 

混乱しきっているからこそ、飯を作ろう。俺は料理人だ、料理さえすれば落ち着ける。ここがどこで、ログアウトも出来ない、味も感じる、匂いもあるという謎は確かに気になる、気になるのだが……

 

「こんな食材…リアルじゃ絶対手に入らん」

 

料理人として素晴らしい食材を目の前にして、料理をしないなんて選択肢はありえない。これが夢だとしても、それで良い。料理人は料理をしてこそだ。とは言え、パーティでそれなりに物を食べており、腹の中が重いので適当に取り出した下位ドロップのモンスターの肉と調味料を見て何を作るか考えていると満月の柔らかな光が木々の間から降り注いでいるのに気がついた。

 

「酒飲めなかったし……串焼きでも作るか」

 

美しい満月を見ながら月見酒なんて洒落ているんじゃなかろうか? と自分が今どこにいるかとか、ゲームのアップデートの結果だとか、荒唐無稽だが異世界転移したとか、恥をかかされたと考えた富裕層によって危ない薬を打ち込まれたとか、俺の天敵とも言えるキチガイサイコパスクソ女に何かされたとか……考えられる事は山ほどあるが頬を撫でる風と、木々のざわめきは俺には本物にしか見えず、そして美しい月とリアルでは手に出来ない食材が目の前にあると言う興奮に細かい事はどうでも良いやと考え、月見酒のつまみを作り始める事にする。とは言っても早朝から夜遅くまで調理していたので凝った料理も、長い仕込みもやりたくない。料理はしたいが面倒な料理はしたくないと我が侭な事を考えているが、たまにはそういう日もあると言うことだ。

 

「よっと」

 

脂身も殆ど無い赤身肉、それを食べやすい大きさに切り分けたら調味料の入ってる箱からスパイスミックスの瓶を取り出す。

 

「ガーリックとオニオン、それとイタリアンスパイスミックスと……岩塩で良いか」

 

漬け込んだり、ローリエを使ったりするともっと味に深みが出るが今日はさっさと作り、満月と串焼きを肴に酒を一杯やりたいという気持ちが強いので串に刺した牛肉にガーリックオニオンとイタリアンスパイスミックス、そして岩塩を振り掛けたら焚き火の周りに串ごと突き刺す。

 

「ざっついなあッ!!」

 

こんなの料理って言って良いもんか? と笑いながら直火で串焼きを焼いていると夜風で身体が冷えてくるのを感じる。

 

「スープも作るか、うん」

 

鍋の中に無限の水差しの水を入れて、コンソメキューブを投下、そして牛串にも使った牛肉の残りを鍋の中にぶち込んで、イタリアンスパイスミックスを2度、3度と適当に振ったら焚き火の近くに腰掛け、アイテムボックスの中に手を突っ込んで金属製の缶ビールを取り出すが……。

 

「んだよ、興醒めだ」

 

ビールが冷えてないなんてありえないと別の鍋を取り出して、その中に無限の水差しの水を入れて、氷をぶち込み、その中にビールの缶を沈める。牛串の焼き具合とスープの具合を確認しながら冷えた頃合だと氷水の中に手を突っ込んで缶ビールを取り出しプルタブをあける。さっきは寒かったが、焚き火の近くで身体が温まっている事もありビールを一気に流し込む。良く冷えた麦の苦味と炭酸の刺激が喉を通りすぎる。

 

「くはああッ!! 良いねぇ。もうこれ現実だろ、いや、死に掛けの夢でも良いわ」

 

この味と冷たさはどう考えても現実にしか思えない、ならばあれやこれやと考えるのではなくこの信じられない現実を楽しもうと2本目のビールを取り出そうとし、その手を止めた。

 

「これは……ちっ、しょうがねえなあ」

 

近くに生命体反応があるのを感知し、アイテムが警告音を鳴らす。それに僅かに興醒めだと思いながらも人間に会えれば何か分かるかもしれないとその生命体反応の元へと歩き出す。

 

「おい、お前そんな所で頭を抱えてどうした?」

 

茂みの手前でバンダナを巻いた青年が頭を抱えているのを見てそう声を掛けると、青年が顔を上げる。

 

「うおッ!?も、モンスター!?」

 

「いや、俺はモンスターじゃねえよ。クックマンのカワサキつうもんだ」

 

紅い瞳の青年が身構えるのを見て手を左右に振りながら俺はそう返事を返した。この青年――「アルト・クラネル」との出会いが俺の迷宮都市オラリオでの波乱万丈な日々の幕開けとなるのだった……。

 

 

 

遠くに見える明かりから遠ざかるように額にバンダナを巻いた赤目の青年は頬を摩りながら深い溜息を吐いた。

 

「おーいちち……ちぇーっ、ちょっと覗いただけなのによ……ここまでするか?ふつー」

 

男の名はアルト・クラネル。迷宮都市オラリオで2強と言われるファミリアの1つゼウスファミリアに所属する……サポーターであるが、冒険者のサポートする立場にありながら敵前逃亡は日常茶飯事、その上スケベとゼウスファミリアの問題児なのだが底抜けの優しさがあり、数多のトラブルに巻き込まれてもどこか憎めない……それがアルト・クラネルという青年だった。

 

「囮にしたゼウスのじっさまには悪いが絶景だったなあ」

 

女風呂をファミリアの主神であるゼウスと共に覗きに行ったアルトは一瞬だけ見えた桃源郷の光景を思い出し女性冒険者からの攻撃にさらされ凄まじい痛みを全身に感じていても、覗きに行った価値はあったと笑みを浮かべたが、大きく音を立てる腹の虫にがっくりと肩を落とした。

 

「あー腹減ったぁ……でもなあ」

 

流石に覗きをしてすぐオラリオに戻れば食事どころではないと空きっ腹を抱えて森の中を歩いていた俺は、鼻腔を擽る香りに足を止めた。

 

「……こんな所で野営……もしかして闇派閥か」

 

食欲をそそる香りと音がするが、オラリオの手前で野営するのは普通ではない……闇派閥の一員と鉢合わせたのか? もしそうならば遠目でもいいから確認し折檻を受ける覚悟でオラリオに戻る必要があるか? と葛藤したのだが……その葛藤が良くなかった、いや、後の事を考えればここで迷った事が正解だったのだと俺は思う。

 

「おい、お前そんな所で頭を抱えてどうした?」

 

「うおッ!?も、モンスター!?」

 

目の前のどこか愛嬌のある黄色い異形に思わずモンスターと叫び、思わず身構えるがコックスーツを来た黄色い異形は手を左右に振った。

 

「いや、俺はモンスターじゃねえよ。クックマンのカワサキっつうもんだ」

 

饒舌に言葉を返され、俺は毒気を抜かれた気持ちになった。モンスターは喋らない、だから目の前のこの黄色い異形はモンスターではない、信じられないが俺の頭にある存在が脳裏を過ぎった。

 

「亜人……か? 見たことねぇ種族だが……モンスターじゃねえよな?」

 

エルフ、ドワーフ、獣人、アマゾネス、パルゥムと言うよりかはモンスターに近い黄色い丸っこい姿でモンスターではない、かつて居たというモンスターに近い姿をした亜人種の生き残りかと思いながらも、そんな存在は確認されていないけど…と、俺は警戒しながらカワサキへ問いかけた。

 

「まぁそんなもんだ、んでお前はこんな所で何してる?」

 

「いや、それはこっちの……ぐぐうう……腹……減ったなあ」

 

何してると問いかけて来るカワサキにこっちのセリフと言おうとしたところで大きな腹の音がし、俺は空腹のあまり膝をついた。

 

「なんだ、お前腹空いてるのか? なら丁度飯が出来た所だが1人で食うのもなんだ、一緒に食うか?」

 

ここでまさかの一緒に飯を食わないか? という言葉に俺の中からカワサキに抱いていた警戒心は消え去った。

 

「良いのか! お前良い奴だな! 俺、アルト・クラネル。よろしくな、カワサキ! ところで、肉ある?」

 

「ああ、あるぞ。勿論酒もある」

 

飯を分けてくれるなら悪人ではない、しかも酒があるとなれば俺の返事は決まっていた。

 

「酒もあるのか! よっし、行こうッ! すぐ行こうッ!! 野営してるのはこっちか?」

 

「ああ、行こう。アルト」

 

「おう! いやあ助かったぜえ、ちょいとへまをして帰りにくくてなあッ! 飯ご馳走になるぜッ!!」

「いいぞ、腹が減ってるのは良くない。人間飯を食えば生きていける、生きたければ飯を食わなきゃなッ!!」

 

女風呂覗きで地獄を見たが、まさかこんな出会いがあるなんてと驚きながらカワサキが野営している場所に向かい、俺は驚きと興奮に目を見開いた。

 

「うっほおおッ! すっげえッ! 何だお前、マジの料理人かよ!?」

 

焚き火の上に掛けられた湯気を出す鍋に焚き火の周りに突き立っているでかい肉が刺さった串、それにどうやって準備したのかは分からないが氷水の中に沈められている酒瓶と金属製の缶に尻が冷えないように敷かれているシートと想像以上に完璧な野営の準備が出来ていたのだ。

 

「ああ、こんななりだが料理人だ。さ、食おうぜ」

 

「おう! いやあっ! マジで助かったぜ、じゃさっそく……「こら」いっつ!? なにすんだよ、ここまで来てお預けはないだろ」

 

その短い手でどうやって料理したんだ? と言いたくなったが、それを口にして機嫌を損ねる訳には行かないと喉元まで込み上げて来た言葉をグッと飲み込み、焚き火の近くに座り串焼きに手を伸ばすとカワサキに手を叩き落とされたので、思わずカワサキを睨みつける。

 

「いただきますだ。食べられることに、そして死んだ動物に感謝を忘れるな」

 

「お、おう? い、いただきます?」

 

食事前のお祈りを忘れた事に怒っている様子のカワサキに驚きながらカワサキの真似をして、手を合わせていただきますと口にする。

 

「食ってくれ、熱いから気をつけてくれよ」

 

地面に突き刺さっている串を俺も手に取るが、ずっしりと重い串の重みに思わず笑みを浮かべ、大口を開けて塊肉に齧り付いた。

 

「うっ! うっめえええッ!! なんだ、これなんだこれッ!?」

 

見た目にはただの串焼き。味付けも塩胡椒とスパイスだけとシンプルな物だ。だが空腹を差し引いても、この串焼きはとんでもなく美味かった。

 

(なんだこれ!? なんだこれッ!?)

 

スパイスを振りかけて焼いただけに見えるが、そのスパイスが俺の知る物よりも段違いに美味かった。複雑な旨みに食欲を誘う香りに左手だけではなく、右手にも串焼きを持って勢いよく交互に串焼きに齧り付いた。

 

「美味い、これめちゃくちゃ美味いなッ!!」

 

程よい弾力と噛み千切ると口の中に溢れる肉汁。そして塩味の強い大粒の塩に、鼻を擽る香辛料の香り――そのどれもが食欲に直撃しどんどん食欲が湧いてくる。

 

「いい食いっぷりだな。ほれ、スープもあるぞ」

 

下品な食べ方だと思うがカワサキは俺の食いっぷりを気に入ったのか湯気を出す暖かいスープを差し出してくれた。

 

「ありがひょッ!! んぐ……おおおおッ!! こっちもうめえッ!!」

 

飲んだ事の無い味の深みのあるスープ――具材はすこしぱさついた牛肉だけだが……多分この牛肉はスープのベースに使った残りなのだろう。噛み締めると肉汁とスープが口の中に溢れ思わず笑みが零れる。

 

「ん、良い焼き具合だ。美味い美味い」

 

カワサキも串焼きを地面から引き抜いてそれを頬張り、その仕上がりに満足そうな表情を浮かべる。

 

「めちゃくちゃ美味いッ!! あんた料理上手だなッ!! ザルドの料理も美味いが、あんたの料理もめちゃくちゃ美味いぜッ!」

 

ゼウスファミリアのレベル7の冒険者のザルドは暴食のスキルを持つのでなんでも食えるが美味い物を食いたいと思うのは人の常。かなりの美食家で自分も料理をし、偶に振舞ってくれるがカワサキの料理はザルドの料理にも引けを取らない味だった。

 

「ははッ! 褒めても酒とパンくらいしか出ないぞ?」

 

「十分だッ!! でも酒も欲しいッ!」

 

焼きたての肉、温かいスープにふわふわのパン。簡単ではあるが、温かい料理に舌鼓を打ちながらも酒が欲しいというとカワサキは嫌な顔をせずに氷水の中につけてある金属製の缶を取り出した。

 

「ほれ」

 

「サンキューッ!! お? これどうやって飲むんだ?」

 

受け取った金属製の缶の開け方が分からずカワサキにどう開けるのかと尋ねる。

 

「こうやって、こうだ」

 

「お、そっかそっか、よっと」

 

カワサキがあけたのを真似して蓋を開けると小気味良い音と共に泡が吹き出てくるのでそれを口で迎えに行く。

 

「お、おおおッ!! エールかッ!!」

 

苦味のある味にエールだと分かるが、俺の知ってるエールよりも味がずっと良い。

 

「似たようなもんだ。ほれ、乾杯」

 

「かんぱーいッ!!」

 

ガツンと缶をぶつけ合い、良く冷えたビールと焼きたての串焼きに温かいスープ……美味い料理と酒に舌鼓を打ち、カワサキと俺は自然とそのまま酒盛りへと突入し……。

 

「「んぐんぐッ!! かああああッ!!」」

 

カワサキの地元の強い酒の瓶をそれぞれ持った俺とカワサキは酒瓶に直接口をつけ、豪快にそれを飲みながら大きく息を吐いた

 

「「水だこれッ!! あっははははははッ!!!」」

 

完全に酔いの回った俺とカワサキは訳の分からない事を喋りながら、酒と料理を頬張りくだらないことで笑いあうのだった……。

 

 

 

 

執務室の机の上の山積みの書類に老人ではあるが筋骨隆々の髭を生やした男――「ゼウス」は深い溜息を吐いた。

 

「重過ぎるじゃろ……ペナルティ……」

 

ちょいと出来心で女風呂を覗いただけでとんでもないペナルティを課せられた。これで女風呂を覗けたのならば良いが、それも無しでこの書類の山は正直納得いかん。

 

「おのれアルトめ、ワシを見捨てていきおってからに」

 

自分から誘っておいて見つかればワシを見捨てて逃げたアルトを怨みながらも、ファミリアの……ひいては家族の1人ということで憎めず書類に手を伸ばした時執務室の扉が蹴り開かれ、顔を真っ赤にしたアルトとフード姿の何者かが部屋に転がり込んできた。

 

「じっさま! ゼウスのじっ様ッ!! 見てくれッ! ひっく! 料理人、料理人を拾って来たぞッ!! あははははッ!!」

 

とんでもない酒気を放ちながら笑うアルトは自分の隣のフードの人物のフードを剥ぎ取った。

 

「なっ!?」

 

そこにいたのは人間ではなかった。黄色く、丸い、辛うじて人型と分かるその者は随分と昔にモンスターと勘違いされ、狩りつくされた亜人種の生き残りだった。

 

「おーう! あんたがゼウスさんかあッ! 俺はなぁ、カワサキって言うんだッ!! まぁまぁお近づきの印だ、さぁ~飲んでくれッ!!」

 

ドンと音を立てて机の上に置かれた酒瓶にワシは更に目を見開いた。凄まじい神気を秘めた黄金の酒……オラリオで見ることが無いと思っていた天上の酒がそこにあった。

 

「あーずりいぞッ! 俺そんな酒飲んでねぇッ!」

 

「黄金の蜂蜜酒だッ! こいつは効くぜえ、アルトッ!!」

 

「お、黄金の蜂蜜酒じゃとッ!?」

 

神々でも滅多に飲めない酒が巨大な酒瓶である。それを見たワシはごくりと唾を飲み込み、机の上の書類を腕で机の下に落とした。

 

「ワシにもくれッ!!」

 

「おーッ! 飲んでくれ飲んでくれ! あんたへの土産さッ!!」

 

杯に酒が注がれ机の上に置かれる。美しく澄んだ小金の色の酒――それは黄金の蜂蜜酒は黄金の蜂蜜酒でも、超がつく極上の一品だった。

 

「肉ー、肉くれーッ!!」

 

「おう、食え食えーッ!!」

 

虚空からどんどん料理が出て来る。酒のつまみに最適な肉の串焼きや、干し肉の山が机の上に山積みにされる。

 

「ゼウスのじっさま、乾杯、乾杯ッ!!」

 

「いえーッ!!」

 

「お、おうッ! 乾杯ッ!!」

 

3人で黄金の蜂蜜酒が並々と注がれた杯を打ち合わせ、杯の中身を口にする。口に入れた瞬間に身体の中で弾ける神気、そして身体が若返るような感覚と全身に力が漲ってくる。

 

(やはり本物ッ! こいつ何者じゃ)

 

この亜人が何者かは分からない、だが人間に敵意が無く愛想が良い、それに今もアルトと肩を組んで酒を飲んでるその姿はとうてい悪意を隠しているようには見えなかった。

 

「じっ様! 飲めよ! こんな良い酒今しか飲めねえぞッ!!」

 

「遠慮なんてしなくて良いからじゃんじゃん飲んでくれよッ!!」

 

酔っ払い特有の大声にやれやれと肩を竦める。だがワシもこんな極上の酒を前に小難しい話に、こんな酒を手土産としてくれたカワサキを警戒しているのも馬鹿らしく思えてきた。

 

「おう、飲むぞッ! つまみもくれッ!!」

 

全然終わらない書類に待っているであろうヘラの折檻と考えれば考えるほどに気落ちする事しか無く、ワシもカワサキとアルトの中に混ざり黄金の蜂蜜酒と机の上のつまみに舌鼓を打ち、美味い酒と美味いつまみに酒がどんどん進む。

 

「はーい! アルト腹踊りしますッ!! へいへいッ!!」

 

「「ぶわっはははははッ!!!!」」

 

完全に酔い腹にへたくそな絵を書いて踊りだすアルトに爆笑し……。

 

「じゃあ次俺、ヘッドスピンするわッ!!」

 

「「おはははははッ!? なんだそれッ!?」」

 

「うっぷ……吐く」

 

「「馬鹿でえッ!!!」」

 

中華鍋の上に逆立ちし高速回転し、回転が止まると吐きそうだと言ってへたり込むカワサキにアルトと揃って爆笑する。

 

「神気でイケメンになるぞッ!!」

 

「イケメンはしねぇッ!!」

 

「ぐっほ!?」

 

「ははははッ!!」

 

一瞬だけ若返るとアルトに顔面に肘打ちされ、痛みにもんどりうって倒れ、カワサキはそんなワシを見て爆笑すると言う地獄絵図。

 

「「「酒ッ!! 飲まずにはいられないッ!!」」」

 

宴会芸で更に酒を飲むスピードがあがり、執務室の床に空の酒瓶が転がる頃にはワシらは3人揃って酔い潰れていた……。

 

「「「頭いてえ……」」」

 

執務室の固い床で眠った事でバキバキの身体と二日酔い特有の頭痛に3人揃って顔を歪めるのだった……。

 

 

 

メニュー2 モーニングセットへ続く

 

 




正規連載のダンまち編です。以前投稿した分に大分肉付けして見ましたがどうでしたでしょうか? 楽しんでいただけたのならば幸いです。原作前のダンまち編は10話ほど、その後に暗黒期、原作と話を進めていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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