ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え ユグドラシルアイテム/老神・愚者驚愕する
ヘラファミリアの修練場に俺達はやって来ていた。本来ならば男子禁制のヘラファミリアだが、黒竜討伐の為に特別にヘラから許可されたと聞いているが、本音を言えば女傑揃いのヘラファミリアに来るのはご免被りたかったが、そうも言ってられないので我慢してヘラファミリアの修練場に来た俺達は信じられないものを見ることになる。
「うん、これはいいぞ。使いやすい、それに不壊属性が基本っというのがますます良いッ!」
女帝が嬉々とした表情で漆黒の刀身を持つ剣を振り回している。そんな女帝の後ではカワサキが虚空からどんどんアイテムを取り出していた。
「壊れはしないが、手入れはしないと普通に駄目になるぞ?」
「分かっている。龍殺しの剣と聞いていたので不壊属性が無いと思っていたんだ」
「俺達の武具は不壊属性が基本だ。お、ザルド達も来たか、こっち来いこっち」
俺達に気付いたカワサキが手招きするのでカワサキの近くに向かって気付いた。これでもかとアイテムが山積みになっている。
「えっとまずはアルト、ほい。これやる」
「なんだ? 鞄?」
「無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)という。500キロまで物が入る優れものだ」
「マジで!?」
あっさりと投げ渡された鞄だが、それだけでサポーターの常識が変わる代物だった。
「あともう1つ面白い機能があってな。ほい」
「剣? これをどうすれば良いんだ?」
「形をしっかりと覚えたら鞄の中に入れてくれ」
「お、おう? これで良いか?」
「良し、じゃあその剣の形を思い出してくれ」
何をやってるんだ? と思っていると鞄の中に入れた剣が何時の間にかアルトに握られていた。
「え、ええ!? なんだこれ!?」
「ショートカットという、鞄の中に入れたアイテムをしっかりと覚えておけば、その道具を思い出せば鞄からすぐ出せる。便利だろ?」
便利なんて言うレベルじゃないアイテムに俺達は絶句した。カワサキが天上の道具を持っているのは知っていたが、冒険にも活用でき、これほど便利な道具を持っているとは想像もしていなかった。
「とりあえずヘラファミリアに3つ渡したから、マキシム達にもあと2つ渡すな」
「あ、ああ……ありがとう」
団長も声が引き攣っているが、当然だ。この鞄の存在がオラリオに知られれば、それだけで大騒動になる代物だからだ。どれだけ入れても重さは代わらず、500キロまで入る。荷物を運ぶにも、そしてモンスターを倒して得たドロップアイテムを回収するにしろ役立つ。サポーターなら欲してならない素晴しい魔道具だ。
「後これ、無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)無限って付いてるけど内容量に限りがある水入れだ。でも、時間で中身は回復するし、これ1個で井戸1つ分くらいの水は出せるから」
とんでもない魔道具をぽんぽんと渡さないで欲しいのだが……便利なので受け取っておく。ダンジョンでは飲み水は貴重だ、それにモンスターの返り血を洗ったり、武器を洗ったりと水はこれでもかと使うのでこの無限の水差しも非常にありがたいアイテムだ、
「んで……まずはこれ、ドラゴン殺しが付与された突撃槍だ。ちっと重いがまぁ男だから誰か使えるだろ?」
「まさかこれ全部黒竜対策の武具か!?」
山積みされている道具全てが魔道具、そして黒竜対策なのかと尋ねるとカワサキはまさかと言って笑った。
「そ、そうだよな、全部「全部攻撃に全振りしてどうするよ? あっちのほうは逃げたり移動する用の道具だぜ?」……違う、違うんだ。俺の言いたい事はそうじゃないんだ」
心の底から訳が分からないと言う様子のカワサキに頭痛を覚えた。だが善意でやってくれているので怒れるわけも、いらないと言えるわけもない。
「槍か……剣はないのか?」
「あるぞマキシム。片手剣と両手持ちどっちがいい?」
「見てから決めるとしよう」
団長も平然とカワサキに装備を頼んでいるのを見て、俺も馬鹿らしくなってきた。
「大剣が良い、切れ味は二の次でいいからでかくて頑丈なやつを頼む」
「切れ味も頑丈さも最高のもんがあるぜ、これだ」
カワサキが地面においている武器を持ち上げて柄を俺に向けて差し出してくる。
「変わった形の剣だな?」
「竜破壊の剣という。とある伝説のドラゴンスレイヤーが使った剣だ」
持ち手から剣先に向かって幅広になっていく、巨大な大剣を両手で持って持ち上げる。
「思ったよりも軽いな。それにこれも不壊属性なんだろ?」
「勿論。修練場に集まれって言った意味がわかるだろ?」
「ああ。分かる」
団長に女帝と模擬戦の相手には事欠かない、選んだ武器が実際に使えるかどうか試すのに丁度良い。
「団長。一手頼むぜ」
「ああ、来い、ザルド」
互いにカワサキが貸し出してくれた武器を手にアイテムが置いてある場所から離れ俺と団長は模擬戦をはじめるのだった……。
俺達の後で団長やザルド、そしてヘラファミリアの女帝達がドンパチしている中でカワサキはマイペースに俺達に道具の説明をしていた。
「これは生命拒否の繭(アンティ・ライフ・コクーン)のスクロールだ。これは稀少品で4つしかないからな、使い所を間違えないでくれよ?」
差し出されたのはオラリオでは良く見る羊皮紙を丸めた物だが……。
「あ、あん? なんだって?」
「アンティ・ライフ・コクーンよ、馬鹿。それでカワサキさん、これは一体?」
稀少品と言われてもそれがどう稀少品なのか分からず、詳しい説明をカワサキに求める。
「魔力を通して広げてくれれば魔法が発動する。一定時間だが生きている者と、その攻撃を通さないドーム状のバリアを作る魔法だ」
「とんでもねえ代物だな……」
「確かに……稀少品って言うのも納得だわ」
これを使えば確実に攻撃を防げる。その間に治療や体勢を立て直す事が出来る事を考えれば、魔力を使うだけで良い事を考えればとんでもないアイテムだ。
「消える時は点滅を始めるからそれを目安にして次の行動に移ってくれればいい、んで次はこれ魔法最強化(マキシマイズマジック)・魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)が付与された大治癒(ヒール)のスクロールだ。これは沢山ある」
「魔法最強化? 効果範囲拡大? どういう意味なんだ?」
大体予想はつくが、勝手な思い込みだと怖いのでどういう効果が期待出来るのかと尋ねる。
「腕が千切れて、内臓が出ていてもそれが近くにあれば治る程度の回復魔法だ」
「「「それは程度とは言わないッ!!」」」
どう考えても奇跡レベルの魔法を発動出来るスクロールをぽんぽんと出さないで欲しい。いやでもそれだけ黒竜をカワサキが警戒してる証拠であり、俺達が生き残れるように考えてくれていると前向きに……。
「これは疲労除去のポーション。疲労や精神的疲弊を回復出来るポーションだが体力は回復しないから気をつけてくれよ?」
前向きに……。
「適当に攻撃魔法を詰め込んだワンド。赤は炎、黄色は電撃、緑は風、青は氷な。とりあえずそれなりの威力はあると思うし、数回は使えるから支援にはなるだろう」
前向きに……。
「あ、そうだそうだ。これこれ、流れ星の指輪(シューティングスター)。3回だけどんな願いもかなえてくれる指輪だけど……持って行くか?」
「「「止めろぉッ!! これ以上常識を壊さないでくれッ!!」」」
「お、おう……?」
カワサキは善意だとしても俺達の理解を超えるアイテムをそう渡さないでくれと思わず悲鳴を上げたが、本当にそのとおりなので勘弁して欲しい。
「じゃあ後はそんなに大したことのないアイテムを……」
この後カワサキが大した事ないと言って俺達に譲渡してくれたアイテムは飛行(フライ)と言うと空を飛べる魔法が発動する首飾り、ブレスの威力を軽減してくれるポーション、身体能力を一定時間最大まで強化してくれるポーション……とカワサキは大した事が無いと言ったが、オラリオでは何億ヴァリスで取引されるようなアイテムばかりで俺達は死んだ目でカワサキによる使い方の説明にただただ頷き続けるのだった……。
オラリオのギルドの奥深くにある祈祷場で2Mはある長身の老人……いや、老神は眉の間を揉み解しながら手にしていた羊皮紙を机の上においた。
「フェルズよ、これは真か?」
「ああ。全て事実だ、ウラノス。信じがたい事ではあるが……な」
ローブに身を包み、フードをすっぽりと被った愚者は自身も信じられないという様子で返事を返す。ギルドの主神ウラノス、そしてその腹心の愚者でさえも予想もしなかった事が立て続けに起きていた。
「暴喰と静寂のレベルアップ、それに静寂とその妹を蝕んでいた病の治癒……男神と女神の眷属の尋常じゃないステータスの上昇か……」
「オラリオでは神ゼウスか、神ヘラの元にとんでもないレアスキルの眷属が出来たという噂で持ちきりだぞ?」
確かにとんでもないレアスキルを持つ眷族ができ、その眷属によってと言うのは考えられるが……。
「無いな、それはないと断言出来る」
「ウラノス。その根拠は?」
「黒竜討伐は強制クエストだ。そんな能力を持つ眷属がいるのならば男神と女神のファミリアと比べれば格落ちになるがロキとフレイヤにも情報を共有するからだ」
三大クエストの2つを制覇したと言え、黒竜討伐には不安が残る。そんな眷属が居るのならば、間違いなく少しでも成功率を上げる為にその眷族の情報を公開するはずだ。
「何か後ろめたい事でもしているのか?」
「男神ならばありえるが……まぁ良い。ロイマンには口を出すなと伝えておいてくれ」
黒竜討伐前にいらん騒動を起こしたくない、有能ではあるが欲深いロイマンに余計な事をするなと伝えるようにフェルズに命じ背もたれに背中を預けた。
「……何が起きている」
何かがこのオラリオで起きている。暴喰のレベルアップで考えられる偉業とすればべヒーモスの毒の克服、そして静寂は病の克服だが、医神達があれほど奮闘しても治せなかった物がここ数日で治るとは思えない。そしてレベルアップしていないのにレベルアップ相当のステイタスが上がっている眷族にも謎が残る。
「何を手にした男神、女神よ」
オラリオの常識を全て覆す鬼札を間違いなく男神達は手に入れた。それが良い存在なのか、それとも悪い存在なのか? それは分からんが……。
「随分と早かったな、フェルズよ。もうロイマンとは話はついたのか?」
「いや違うウラノスよ。ロイマンの元へ行く前に神ゼウスに会った。そしてこれが彼からの手紙だ」
「男神から?」
あの女以外興味ないと言わんばかりの男神がいったい何のと思いながら愚者が預かって来た手紙を取り出して目を通す。
「……フェルズよ。どうも男神達はとんでもない物を手にしたようだ」
これが事実ならばオラリオの常識は全て過去の物になる。そして全てのファミリアがそれを欲するだろう……それほどまでに恐ろしい鬼札を男神達は手にしたのだ。
「ウラノスがそこまで言うとは……一体どんなレアスキルが「違う、男神達が手にしたのは眷属ではない、そして彼等が手にしたのはそんな甘いものではない」……なっ!?」
これが眷属でレアスキルならばまだ手のうち用はある。だが男神達が手にしたのは紛れもなくオラリオに混乱をもたらす者でもあった。
「滅んだ世界の神がこの世界に迷い込んでいるそうだ。それを男神が保護している」
「……そんな事がありえるのか? ウラノスよ」
「分からない、だが見定める必要がありそうだ」
その者が善性なのか、それとも悪性なのか……男神達は保護してると言っているが監視状態なのか、それとも本当に保護しているのか……? 何もかもが分からない。だから……。
「フェルズよ、すまないが返事を伝えてくれ、明日時間を作ると」
「……分かった。すぐに戻る」
フェルズの姿が再び消え、私はダンジョンへ捧げる祈祷を再開した。
「異世界から迷い込んだ神……か」
異世界から来た神とは一体どんなものなのだろうなと男神のような神なのか、それとも女なのか……善神なのか、それとも悪神なのか、それを見極めなければ……ウラノスが葛藤している頃、カワサキはと言うと……。
「ほい、アルフィア。これだ」
「すまない、助かる」
「良いさ良いさ、大事な場所なんだろ? 守りたいって思うのは当然さ」
アルフィアの頼みでアルフィアにあるユグドラシルのアイテムを譲渡していた。
「これを設置すれば敵意ある者を自動的に攻撃してくれるのだな?」
「ああ。カウンターアイテムつう代物さ。拠点を守る為に使うんだ」
「ありがたい、私とメーテリアが大事にしていた教会があるんだが、私が入り浸ってるのは知られていてな。嫌がらせをしてくるゴミ共が多すぎるんだ」
「そういうこともあるわな。出入り口に1つ、それと屋上に1つ設置すれば良い。基本的には結界で守るんだが、破壊工作をすれば自動的に反撃してくれる」
「ありがとうカワサキ。早速設置してこよう」
「おう、気をつけてな」
アルフィアに100%の善意で拠点防衛用のアイテムを譲渡していたのだが、後にこれがオラリオで騒動を起こす事になる。だが……それは一種の因果応報なので態々語るまでもないだろう……。
メニュー10 クレープシュゼットへ続く
神がやってくると聞いて緩キャラなのに声が渋いカワサキさんが来たウラノスとフェルズは驚いていいと思うんですよ。
そしてゼウス・ヘラファミリアに善意でユグドラシルのアイテムを提供し、常識を破壊するカワサキさんと中々騒動を起こしてくれたと思っております。次回はウラノスとフェルズの2人と顔なじみになっておこうという話ですので、ちょっとスイーツ等を提供してみたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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