ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 迷宮都市の白兎 その3

下拵え 迷宮都市の白兎 その3

 

何時ものようにギルドで受付をしているとミィシャが心配そうな表情をして私に近寄って来た。

 

「ねえ、エイナが担当してるあの子……大丈夫そう? 指導員達にも結構厳しく指導されているみたいだけど、やっぱり集団面接まで待っ

たほうが良いんじゃない?」

 

ミィシャだけではなく、ローズさん達も顔はこっちに向けていないけど聞き耳を立てているのが分る。

 

「ギルド長は集団面接には参加させないって」

 

「え!? な、なんでどうして!?」

 

今のオラリオでは個人でファミリアを探すのはありえない事だ。だからなんでとミィシャが声を荒げる。

 

「……正直に言ってベル君は集団面接に出すには優秀すぎるの、それこそ取り合い所か奪い合いになるわ。これ見て」

 

ベル君の試験結果をミィシャに見せるとローズさん達も覗き込んできた。

 

「これは……総合評価S-……こんなの初めて見ましたね」

 

「たまげたね。こんなの逸材なんてレベルじゃない、すぐにでも頭角を出すよ」

 

大体入団前の試験では良くてBクラス。だがベル君はそれを遥かに上回る成績をマークしている。

 

「でも武器の扱いは苦手なんだね」

 

「体格の問題で苦手みたいよ。でも徒手空拳のレベルは桁違いよ」

 

「でも評価を見る限りでは探索系かサポーター向きのようですね?」

 

「うん。多分そっちなら大成すると思うけど……だからこそギルド長は個人で話を進めることにするって」

 

苦手でも武器の知識は持っているし、サバイバルの技術に、マッピング技術、応急処置や薬草の知識も深い。後機転も効き、本好きなのも相まって応用力が尋常じゃ無く高い。正直サポーターならどこのファミリアでも欲しくなる逸材だ。

 

「なるほどギルド長の判断も正しいですね」

 

「ああ、これは集団面接なんてさせられないね」

 

余りにもベル君が突出している。今までの定例を崩す事になるが、見学してもらいそこでベル君自身に決めてもらうのが良いだろう。

 

「おはようございます!」

 

そんな話をしているとベル君が何時ものように元気よく挨拶しながらギルドに入ってきた。

 

「おはようベル君。今日も元気ね」

 

「はい! 挨拶は元気よくです! あ、エイナさん。また資料室借りていいですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。はい、鍵」

 

他の冒険者では見向きもしない資料室。だけどベル君は違い見学先が決まるまで資料室で様々なダンジョンの資料やモンスターについて調べている。

 

「ありがとうございます! あ、これよろしかったら皆さんでどうぞ」

 

鍵と交換でベル君が小さな入れ物を私に差し出してきた。

 

「クッキーね、買ってきたの? 気にしなくていいのにサポートするのはギルド職員の務めよ?」

 

クッキーを差し入れで買ってきてくれたと思い。気にしなくて良いって言ったんだけど、ベル君はいいえと首を振った。

 

「いえ、焼いてきました」

 

「「「「え?」」」」

 

焼いて来た……? ベル君がクッキーを? その言葉に思わず目が点になる。売り物になるレベルのクッキーだと一目で分かる。実際に私も買ってきたと勘違いするくらい綺麗なクッキーだった。

 

「お菓子作り得意なんです。それじゃあ資料室借りますね」

 

軽い足取りでギルドの資料室で向かっていくベル君を見送り、手元のクッキーを見る。

 

「これをあの子が」

 

「いや、普通に売り物に見えるが?」

 

「見た目だけっていうのもありますしね」

 

蓋を開けてクッキーを1つ取る。ミィシャ達も1つずつクッキーを取り頬張る。サクっとした軽い歯応えとバターの風味、そして甘すぎない優しい甘さが口一杯に広がる。

 

「エイナ。悪い事は言わない、彼は探索系ではなく生産系にするべきだ」

 

「私もそう思う。こんな美味いもん作れるのに探索系なんて馬鹿げてる」

 

「わ、私もそう思うかなー」

 

料理が好きと言っていたけど、想像以上の味に驚いた。皆のいう通りベル君は生産系の方がいいと思うんだけど……。

 

「駄目なの、ベル君は頑なに探索系を希望してるから。私とギルド長で言っても駄目だったの」

 

「それはまた随分と頑固だな」

 

「何かあるのでしょうか……?」

 

「勿体無いなー」

 

料理の才能があるのになんでそこまで探索系に拘るのだろうか……1回その理由も聞いて見たほうが良いかも知れない、ベル君のためにもそうしたほうが良いと私は思うのだった……。

 

 

 

ギルドの資料室は情報の宝庫だった。様々なモンスターの特徴を収めた図鑑や、ダンジョンのマッピングと変化の記録。危険なモンスターや特異個体の情報など……カワサキさんのいう戦いとは始まる前に終わってなければならない。勿論それは究極の形で今の僕には出来ないが、事前にモンスターの情報を得ている事である程度心構えが出来る。

 

「ウォーシャドウ、オーク、キラーアント。ここら辺は危ないかな……」

 

結局僕はザルドおじさんやマキシムおじさんの指導を受け、ギリギリショートソードが使えるくらいだった。恩恵があれば変わる可能性はあるが、現状の僕に使える武器と言えばナイフなどの小さい刃物とスリングショット、それと棍くらいだ。自分に出来る事を考えれば現状相性が悪いのが呟いたモンスターだ。

 

「鋭い爪と160cmくらいので人型……懐を取れれば……いや、駄目かな?」

 

1対1なら問題ないと思うけど複数出現の可能性が高いとなれば恩恵を得て、ある程度ステイタスが上昇するまでは逃げしかないだろう。

 

「力負けするからオークもちょっと危ないかな……」

 

天然武器を使うオークは連携する事もあると記載があるので油断できる相手ではない。それに連携となれば……。

 

「インプもキラーアントも危ないかな」

 

群れで行動するキラーアント、そして小柄で臆病だからこそ危険なインプも決して油断できる相手ではない。

 

「んー胡椒球とか作っておくと安心かなあ……」

 

手札は多ければ多いほど良いとはいうが、欲張って動きが重くなるのは本末転倒だ。となるといざって時に逃走に使える胡椒玉や目潰しに使える煙玉なんかも道具屋で買っておいて……。

 

「後は刃物はいいから棍棒が欲しいかな……」

 

槍は苦手だけど、刃物のついてない棍棒の扱いは大分教えてもらったし、ナイフはアルフィア母さんがくれたのがある。武器の面は問題はないと思うけど……。

 

「まずは慎重に「うん、それがいいと思うわよ。ベル君」うひゃっ!? え、エイナさん?」

 

独り言に返事があったので思わず上擦った声が出てしまう。そんな僕を見ながらエイナさんはくすくすと笑いながら僕の見ていた本に視線を向ける。

 

「勉強するのは関心だけど……この本はまだ早いわね」

 

「あはは……僕もそう思いますけど勉強はしておきたくて、すいません」

 

僕が謝るとエイナさんは椅子を引いて僕の正面に腰掛けた。

 

「ベル君。私は冒険者は冒険しちゃ駄目だと思ってるわ。これは良く矛盾してるって言われるけど、ベル君はどう思う?」

 

「そうですね……保険もなしに進んでは駄目だと思いますよ」

 

僕の言葉にエイナさんはその目を輝かせる。

 

「そう。そこよ、冒険者は冒険する物って言って無策で進む。これが冒険者の負傷率を増やしている要因よ。恩恵を得て、経験値を得て、ステイタスが上昇した駆け出しが引っかかる罠なの」

 

「気が大きくなるって奴ですね。先生とおじさん達にこっぴどく言われているのでそこはエイナさんと同意です。常に保険と余力を残して安全第一です」

 

「こうやって調べているのもその一環?」

 

「はい! 先生にそう教えてもらいましたし、お母さんにも心配させたくないので怪我とかはしないようにしたいと思います」

 

「でも冒険者になるのはお母さんを心配させてしまうんじゃ?」

 

お母さんに心配させたくないと笑うと、エイナさんはに冒険者になった事で心配させてしまうのでは? と尋ねられた。

 

「実際村の皆は反対していました。僕は冒険者に向いていないと……だけどそれでも僕は冒険者になりたかったんです」

 

性格的に向いていないのは僕も薄々分ってる。探索系ではなく生産系のファミリアが向いているのもわかる。

 

「それはなんで?」

 

「エイナさんは知ってますよね? 僕の両親はゼウスファミリアとヘラファミリアだった……て。僕は知ってるんです。家族が、大切な人達が黒龍との戦いで深いトラウマを負った事を、僕はそれを何とかしたいんです。出来る出来ないじゃなくて僕がやりたいから僕は冒険者になりたいんです」

 

大事な家族の為に大切な家族に笑っていて欲しいから僕は冒険者になる。それが僕がオラリオに来た理由であり、探索系を望む理由です。僕はエイナさんの目を見てはっきりとした口調でそう告げるのだった……。

 

 

 

ただの憧れで冒険者になりたいという子供は沢山見てきた。そういう子は大体勉強会で心折れて、冒険者になりたいと言わなくなる。それだけ冒険者になると言う事は、ダンジョンに潜るという事は危険なのだ。だからベル君にも諦めて欲しかった。生産系になると言って欲しかった。だけど……違ってた。

 

(ベル君はちゃんと現実を見てた)

 

憧れだけではなく、ちゃんと現実を見て、そして大事な家族のために冒険者になりたいというベル君を止めるのは出来ないと分かってしまった。

 

「そっか。じゃあ私も頑張らないと」

 

「エイナさんもですか?」

 

「そ、ベル君の夢が叶うようなファミリアを見つけないとね」

 

「ありがとうございます! エイナさん」

 

「任せておいて、ギルド長と頑張るから」

 

ベル君の想いを聞いてしまえば今まで以上に頑張らないと思う。ベル君はちゃんと現実を見てそれでも尚冒険者になろうとしている。憧れだけではない、その決意を聞いてしまえばもう私はベル君に探索系は止めた方がいいなんて言えなくなってしまった。

 

「あ、そうだ。エイナさん、今日はお弁当を作ってきたんですよ。エイナさんにも色々とご迷惑を掛けているのでエイナさんの分も作ってきたのでよろしければどうぞ」

 

ベル君はニコニコと笑いながら鞄から弁当箱を取り出して私に差し出してきた。

 

「ありがとう貰うわ。飲み物はこっちで用意するわね、お茶でいいかしら?」

 

「はい! ありがとうございます」

 

ベル君がお弁当を用意してくれたので私はお茶を用意しようと思い一度席を立ち、ティーポットを準備して資料室に戻る。

 

「凄いわねベル君。これベル君が作ったの?」

 

「はい! 料理好きなんですよ」

 

市場でお弁当を販売しているペニアファミリアで仕事の手伝いをしているのは知っていたけど、差し出されたお弁当のクオリティの高さに驚かされる。

 

「これが卵サンドで、こっちは卵とチーズ。これは腸詰で、こっちはハムサンド。それとサラダは僕の好きな人参サラダです。お口に合えば良いのですが」

 

「ううん。すっごく美味しそう。凄いねベル君」

 

正直私より料理が上手かもと驚きながらもベル君に笑いかけ、2人でいただきますと挨拶してからサンドイッチに手を伸ばす。

 

「ん、この卵ソースにチーズが入ってるの美味しいわ」

 

ふわふわのパンにペニアファミリアの名物の卵のソースのサンドイッチは私も出勤前に良く買いに行くくらいお気に入りだけど、チーズ入りは初めてで、チーズの濃厚な風味が卵のソースをより美味しくしていた。

 

「でもこの卵のソース。普段より美味しく感じるけど、チーズのおかげかな?」

 

「あ。それはちょっと違います。卵を茹でた後に白身と黄身を分けて、そこから作っているんで食感がいいんです」

 

普段の卵ソースとの違いはそこなのねと驚きながら1つ目のサンドイッチを食べ終え、今度は普通の卵サンドを頬張り、ちょっとピリっとした味に驚き目を開いた。

 

「これ、マスタード?」

 

「はい! マヨネーズとマスタードを混ぜてあります。ちょっとピリッとして美味しいですよね?」

 

「うん。これ凄く美味しいわ」

 

マスタードの刺激とマヨネーズのまろやかさ、そして卵の濃厚な旨味が甘みの強いパンと良く合っている。

 

(……でもちょっと複雑ね)

 

別に料理が出来ないわけではないけど、ベル君は私よりも遥かに料理が上手い。オラリオでは一般的な腸詰も全く別物になっている。サンドイッチに挟まれた腸詰は皮がパリッとしているだけではなく、肉汁も普通の腸詰よりもずっとたっぷりだった。

 

「この腸詰は普通に売ってる奴かしら?」

 

「はい、市場で買えるやつですよ」

 

「……どうしてこんなにパリっとしているのかしら?」

 

「あ。それはですね。少なめの水で茹でて、水が蒸発したら転がしながら焼くんですよ。そうするとパリっと仕上がります」

 

簡単に入手出来る食材も簡単な一手間で美味しく仕上げている。

 

「どうかしましたか?」

 

「ベル君。貴方兎みたいって言われない?」

 

「え!? なんで分るんですかエイナさん。村の人に兎みたいってよく言われるんですよ」

 

恥ずかしいなと笑うベル君に視線を向ける。白い髪と赤い目、そしてもくもくと、だが満面の笑みで人参を食べているその姿は兎を連想させとても愛らしい。少女に見えなくもない整った容姿に柔らかい口調――基本的に高圧的な態度な男が多いオラリオではベル君はとても目立つだろう。

 

「どうかしました? あ、もしかしてお口に合いませんでした?」

 

「ううん、そんな事ないよ。とっても美味しいわ」

 

「そうですか、良かったです。もしかしたらエイナさんに断られるかと思って簡単に作りましたけど、今度はもっと頑張って作ってきますね」

 

「え?」

 

これで簡単なの……? ベル君の料理の技術は私が考えているよりずっと上なのかもしれないと気付き、もう少し女子力の向上をしたほうが良いんじゃないかと少し心配になった。

 

「あ、でもギルドの食堂とかありますよね……迷惑ですか?」

 

「ううん。全然! 嬉しいわよベル君」

 

断るべきだったのに不安そうに尋ねてくるベル君に嬉しいと返事をした。してしまった……それが原因で半年後に……。

 

「おはようございます! これお弁当と、これ差し入れです。今日もお仕事頑張ってくださいね! 行こ、リリ、ヴェルフ」

 

凄い目付きをしてるリリルカさんと、同情の視線を向けてくるヴェルフさん。そして良く分ってないベル君が置いていった弁当と差し入れの茶菓子。そしてそれを見ているミィシャや、ダンジョンに行く手続きをしにきた冒険者達の視線が物理的に刺さっているような気がする。いや間違いなく呪い的な何かが向けられてる。そもそも市場でお弁当を販売していた時からベル君は女性冒険者に目を付けられていた。それがヘスティアファミリアの団長になった事で接点が少なくなり、そしてその接点が少なくなったベル君が私にお弁当を届けている――邪推されても仕方ない状況だが、私は無実だと叫びたい。

 

「ねぇ。エイナ」

 

「違うから」

 

「でも」

 

「違うから、本当に何もして無いからッ!」

 

「そうだよね、うん。大丈夫だよ、私は信じるよ?」

 

「なんで疑問系なの!? 本当に何もしてないのよ!?」

 

私がベル君に手を出したという噂が実しやかに語られ、毎朝お弁当を届けてくれるベル君によってその噂は最早消す事が出来ないほどにオラリオに広がってしまった。

 

「じゃあお弁当を断れば」

 

「無理よ。もうね、この味に慣れてしまったから……」

 

「あの子のお弁当も差し入れも美味しいモンね……」

 

「うん……」

 

胃袋を掴まれてしまった私にはベル君のお弁当を断る事が出来ず、ベル君に手を出したという噂と、たまに同じハーフエルフやエルフから取材と称してベル君とはどんな関係なのかと聞かれる事に辟易する事になってしまう。そしてその理由の半分くらいはベル君が原因で……。

 

「エイナさんが付きっ切りで勉強を教えてくれたから何とか団長としてやる事が出来ていると思います」

 

「付きっ切りで勉強(意味深)ッ!?」

 

「厳しいけど優しくて凄く分りやすかったです」

 

「厳しくて優しい(意味深)ッ!?」

 

「何か驚く所ありましたか? それと鼻血大丈夫でしょうか?」

 

「天使かよ(大丈夫です)」

 

「本当に大丈夫です? 僕の村のお姉さんみたいになってますけど……気分が悪いとかないですか?」

 

「みっ!?」

 

「あわわわ! なんか気絶しちゃったんですけど!?」

 

何時ごろかオラリオに増え始めた年下の少年や、少女に酷く執着するエルフの増加。そして他意無く私を褒めるベル君によって私は今日もありもしない噂に尾ひれが付き、頭を悩ませると共に……。

 

「ちょ、ちょっとこっちにきてくれないかな?」

 

「はい? どうかしましたか?」

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだからね?」

 

「まぁ、少しだけなら」

 

「ベル君! こっち! そっちに行ったら駄目ッ!」

 

「ベル! そういう誘いに乗ったら駄目って言いましたよね!?」

 

ベル君を連れ去ろうとする変態の増加に、リリルカさんと共に目を光らせることになるのだった……。

 

 

 

 

下拵え 迷宮都市の白兎 その4へ続く

 

 




他のハーフエルフやエルフにあいつヤリやがったっと思われているエイナさんに合掌。リューさんをオネショタ沼に落とした呪物は多分オラリオのほかのエルフにも伝染しているようです。下拵えの白兎はその6くらいまでの予定で、6の最後でヘスティア様に出会って眷属になり本編スタートの予定ですので、これからも応援よろしくお願いします

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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