ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
下拵え 迷宮都市の白兎 その4
ギルド長と吟味した探索系ファミリアの見学とベル君のファミリア決めは第2段階に入ったんだけど……。その第1歩で躓いてしまった。
「すまないが、エイナ。彼をファミリアに入れるのは少々難しい、恩恵なしでレベル2冒険者を下されてしまっては指導などしようがない」
「すまんの、エイナ殿。ベルはワシらでは手に余る。他のファミリアを見繕ってくれんか?」
魔法使いとエルフが多いモージファミリア、ドワーフが多いマグニファミリアの双方の団長がベル君は手に余ると見学を途中で止めてくれないかと言い出してしまった。ギルドナイトでも手に余るベル君を指導でき、人格面も優れたファミリアとなると中々難しい。
「何かすいません。エイナさん」
「ううん。大丈夫よ、ギルド長も想定していたことだしね。さ、次行きましょうか」
ベル君にそうは言ったが、やはりベル君は相当な規格外と改めて実感する。モージ・マグニファミリアも決して評価の低いファミリアでは無いが中堅レベルだ。ベル君みたいな規格外を指導したり団員として迎え入れるのは良いも悪いも影響が大きすぎると判断したのか断られている。
「次は規模としては大きくないけど、武神タケミカヅチが主神のファミリアよ。ベル君には向いてるファミリアかもしれないわ」
零細ファミリアだが、団員の能力は高く武芸百般のタケミカヅチファミリアならばっと一抹の期待を抱き、ベル君をタケミカヅチファミリアへと案内する。
「おお、エイナか! 仕事を回してくれて感謝する!」
「いえ。こちらこそ無理なお願いを聞いていただき感謝します。神タケミカヅチ」
「構わん! 金がないから仕事なら何でも歓迎だ! それで俺に面倒を……」
大声で笑っていたタケミカヅチでしたが、私の後ろのベル君を見てその目を細めた。
「……彼か?」
「そうです、ベル・クラネルと言います。彼を貴方のファミリア「すまんが、この話は断る」なっ!? ど、どうしてですか!?」
見学に入る前に断ると言われどうしてとタケミカヅチに尋ねる。するとタケミカヅチは残念そうに、本当に残念そうな表情をしているのに気付いた。
「後2年……いや、1年後に出会いたかった。今彼を俺のファミリアに入れてしまうとファミリア自体が瓦解してしまう。カシマ達がレベル2になったばかりの今迎え入れる訳にはいかんのだ。彼は鍛えられすぎている……彼を迎え入れてしまうと俺の眷属達の心が折れてしまうかもしれん。俺としては手元で鍛え上げたいが……すまん、今は無理だ」
武神として迎え入れたいが、今の眷属のために無理だと頭を下げるタケミカヅチに無理強いをすることも出来なかった。
「そうですか、ありがとうございます」
「もし1年後に彼のファミリアが決まっていなければまた声をかけて欲しい」
武神だからこそ、正確にベル君の能力が分ってしまったのだろう。本当に申し訳無さそうにいうタケミカヅチに搾り出すようにありがとうございますと告げる。
「すまないな、ベル・クラネル。今の俺ではお前を育てる事はできん、許してくれ」
「あ、いえ。大丈夫です、先生にもファミリアを決めるのは難しいだろうって言われてましたから」
流石のベル君も3件連続お断り、しかも本命候補だったタケミカヅチファミリアは見学も出来ず終わってしまった。
「エイナさん。ファミリアを決めるのは難しいんですね」
「そうね、先輩とかの相性もあるし、ファミリアを決めるのは中々難しい傾向にあるわね」
ファミリア決めは冒険者に取っては運命を決めると言ってもいい。だから皆悩むのだが、ベル君の場合は基礎能力が高すぎるというのが問題だ。
「とりあえず1回ギルドに戻りましょうか? 今日も勉強になるけど良い?」
「はい! 大丈夫です」
元気良く返事をしてくれるベル君だが、ベル君が無理して明るく振舞っていないかとベル君を心配しつつ、私はギルドを出て3時間でベル君を連れてギルドへと帰る事になった。
「そうか、タケミカヅチでも駄目か……となると残るはガネーシャファミリアだが……」
「ガネーシャファミリアはかなり特殊な形態のファミリアですからね」
モンスターテイマーが多いガネーシャファミリアには特殊な役割が期待されているファミリアだ。探索系ではあるが、求められる役割はモンスターテイマーであり、ベル君がガネーシャファミリアに入団するのはかなり難しいだろう。それに憲兵としての役割もあるのでベル君にはそういう厳しい対応は出来そうにないのでそういう面でも相性は良くないだろう。
「デュオニソスファミリアはどうでしょう? フィルヴィス氏も評判はいいですし、神デュオニソスも善神ですが……」
「駄目だ。あそこにベル・クラネルは行かせない」
「しかし「駄目だと言えば駄目だ。良いな?」……分りました」
理由も無く駄目だというギルド長になんでと思いながらも、詳しく説明してくれない、私が知らない理由があるのだと受け入れる。
「しかしそうなるとベル君が入団するファミリアの候補はもう殆どないと思いますが……」
ロキファミリアはかなり評判が良くなっているが、ベート氏とフィン氏達三首領で派閥が割れている。
フレイアファミリアは基本的に新規入団員お断りだし、変態なアポロンファミリアは論外だ。
個人的にはデュオニソスファミリアはかなり有力株だったが、無碍も無く却下されてしまった。
「もう少し考える。エイナには苦労をかけるがもう少し面倒を見てやってくれ」
「分りました」
ベル君は好感が持てる子だ。だから彼が酷い目に合うと分かりきっているファミリアに入るのは止めたいと思う。だからギルド長の頼みを了承したけど、私は心のどこかで今のオラリオでベル君に合うファミリアなんかないのではないかと思わずにはいられないのだった……。
エイナが出て行った後に奥の扉が開く音がし、私は溜息を吐きながら振り返った。
「カワサキ。お前はもう少し手加減をしろ」
「俺に言うなよフェルズ。アルフィアとザルドもだし、マキシムとセラスもだ」
「お前らは馬鹿ばっかりか?」
レベル10を越えた冒険者達が本気で育てたベルは余りにも強すぎる。並のファミリアでは驕らせる事になるだろうし、上位のファミリアではベルを主力して育成するという方針にはいかない可能性が高い。
「ソーマの所はどうだ?」
「ソーマの所は今は完全な生産系だ。ミアハの所はダンジョンで採集はするが、基本的に生産系だし、デメテルファミリアは悪くないが……基本的に女性だからな。私はヘラに殺されたくはない」
分ると言いながら笑ったカワサキは机の上に苺のタルトを置いた。
「ご機嫌取りか?」
「疲労で疲れてるお前を労おうと思っただけだ。正直なベルのファミリアは難しいと俺も思ってるしな」
カワサキが切ってくれたタルトをフォークで小さく切って頬張る。サクサクのタルト生地の香ばしい風味のクリームと濃厚なカスタードクリーム、そして酸味の強い苺が甘さを引き締め、その味わいを際立たせてくれている。
「ベルはオラリオでは目立ちすぎる」
「だろうな」
あれほど素直で純粋で、そして優しくて強いベルは余りにもオラリオで目立ちすぎる。享楽主義の神に目をつけられ、玩具にされる未来が容易に想像出来てしまう。
「別の方法がないわけでは無いが……ベルにとって茨の道になってしまう」
「別の道? 何かあるのか?」
「あると言えばあるが、ギルド長としては出来ればやりたくない手段だ」
ベルに合うファミリアは恐らく今のオラリオにはない。となれば方法は1つしかない……だがそれは余りにも厳しい茨の道だ。
「聞かせてくれ、何を考えてるんだフェルズ」
「……ベルを団長にして、1からファミリアを作る。1人だけベルと極めて相性が良い女神を知ってる、ぐーたらだが、神の中でも随一の人格者だ」
ベル自身が団長になり、主神と共に1からファミリアを作る。正直に言って正気の沙汰じゃないが、オラリオにベルに合うファミリアが無ければ自分で作るしかない。
「良いんじゃないか? 俺は良いと思う」
「正気か? ありえない選択肢だぞ」
まさかカワサキが良いというとは思っていなかったので思わず正気かと尋ねるが、カワサキは楽しそうに笑って紅茶を口にする。
「自分の道を自分で考えて作る。苦労して、失敗して、それでも諦めず前に進む。それが出来ればベルは何処でもやっていける、仮に冒険者を辞めたとしてもな」
「お前は優しいのか厳しいのか分からんな」
冒険者として大成しなかったときに役立つ経験になると考えているのは分るが、余りにも厳しい選択だ。団員を集めるのも苦労するだろうし、最初は免除するがある程度ファミリアが安定すればギルドにヴァリスを収める義務も発生する。14歳の子供がやるには余りも厳しすぎる。
「それでもベルが本気ならやるだろ。それでベルと相性の良い女神って誰なんだ?」
カワサキが何故か乗り気だ。私は止められると思っていたので少し待っててくれと言って立ち上がり、執務室の机から1枚の書類を取り出す。
「暖炉と家庭の秩序を守る女神ヘスティアだ。女神の中でも随一の人格者なんだが、どうも本人が「良いじゃないか、へスティア。ヘラがヘスティアがオラリオにいてくれたら安心してベルを任せられるのにとぼやいていたぞ」……ヘラが? 本当か?」
女神を宛がうとヘラが激怒すると思っていたが、ヘラがヘスティアを信用しているのなら良い。
「分った。確かヘファイストスのファミリアにいるはずだから話を聞いてみよう」
「頼む。ベルが気に入るかは分らんが、そう悪い事にはならないだろう」
ヘラとヘラファミリアがネックだったが、ヘラがヘスティアなら任せられると言っているのなら一安心だ。ヘスティアとベルの顔合わせをして、ギルドが仲介してヘスティアファミリアの設立を認める方向で行こうと動いていたのだが……。
「ギルド長。ヘスティア様がファミリアの発足に来てます……団長がベル君だそうですけど……どうしましょう」
私が動く前にヘスティアとベルが出会い、ファミリアの設立の為にギルドにやってくるとは夢にも思っていないのだった……。
ベルがお婆ちゃんの所でお世話になって今日で10日とちょっと、ファミリアを見つけたら出て行くと言う話でしたが、中々入団するファミリアが決まらないらしいです。集団面接を受けないのだからそれは当然だと思っていたのですが……。
「……は?」
「あ、すいません。ちょっと勢いがつきすぎちゃって、カインさん大丈夫ですか?」
形式上とはいえおばあちゃんのファミリアの団長――LV3のカインを簡単に投げ飛ばした姿にはリリだけではなく皆が絶句した。
「カワサキの弟子とはいえ、そんな所まで似なくて良いよ! この馬鹿ッ!」
「うひいっ!? な、何か不味いでしょうか……ペニアさん」
ベルはおどおどしているが、これはとんでもない事だ。ベルに恩恵はない、恩恵がないのにレベル3のカインを投げ飛ばした。これはハッキリ言って異常事態だ。
「誰も見てないよな?」
「はい、軽い組手のつもりでしたし、見てないですよ。カイン」
胡坐をかいたカインは深い溜息を吐いて、ベルに視線を向けた。
「ベル。お前のファミリアが決まらないのお前が強すぎるからか?」
「性格的に合わないって言うのもあると思いますけど……」
ベルの性格的に合わないファミリアは多いだろうが、ファミリアが決まらないのは純粋にベルが強すぎる線が出てきた。
「お婆ちゃん。ベルのファミリアは見つかると思いますか?」
「厳しいねぇ……どっかのファミリアに入るのはかなり難しいと思うよ、それに新しくファミリアを設立するとしても……」
「碌な神様がいないですからね」
人格者と呼ばれる神様は既にファミリアを持ち眷族がいる。ベルが入れば輪が乱れるでしょうし……ファミリアの中でロキファミリアのように不和が生まれるのはよろしくない。
「ベル。お前どうしてもファミリア決まらなかったら婆ちゃんの所に入れ、良いな?」
「え? いやでも「い・い・な!」……は、はい。分りました」
カインもベルの異常に気付き、お婆ちゃんに目配せしてからペニアファミリアに入団しろと念押しする。
「良いんですか? お婆ちゃん」
「かまやしないよ。面倒ごとは今に始まったことじゃないからねぇ」
最悪の場合の受け皿もなんとかなりましたし、仮にベルのファミリアが決まらなくてもこれで一安心ですね。
「ベルー。お弁当を売りに行くからてつだってー」
「ベルがいると売り上げがよくなるからね!」
「分りました。今準備しますね!」
「待ちなさい! リリも行きますからね! 3人だけで行っては駄目ですよ!」
ベルがいると売り上げは確かに良くなりますが、ベルをお持ち帰りしようとあの手・この手で声をかけてくる危険人物も多いので、勝手に行動しないように釘を刺す。
(だけど、この感じは嫌いじゃないんですよね)
ソーマ様の所はお酒作りばかりで匂いが苦手なのでこうしてお婆ちゃんの所に顔を出すのはいつもの事ですが、アイズに似て天然でボケボケしてるベルの面倒を見るのは悪くないんですよねと心の中で呟き、リリは荷物を準備してベル達と一緒に市場にお弁当を売りに歩き出すのでした。このままベルのファミリアが決まらず、お婆ちゃんの所にいるのも悪くない……そう思っていたのですが……。
「は? 団長ベルが?」
「はい!」
「神様は?」
「ちょっとグーたらですけど優しい人ですよ?」
「他の眷属は?」
「いませんし、街外れの教会で2人で暮らしてます。後神様はアルバイトしてます」
「騙されてます、ベルそれ騙されてますよ!?」
「そんな事ないと思いますけど、あ、でも寝ぼけた振りして毛布に引っ張り込もうとするのはちょっと困りますかね」
「「「「アウトーッ!!!!!」」」」
ベルが変態な女神に捕まったと確信し、私達のアウトという叫びがダイダロス通りに響き渡ることになるとは夢にも思っていないのでした……。
下拵え 迷宮都市の白兎 その5へ続く
リリ達に紐女神様はアウト判定ですね。眷属がベルだけ、女神がアルバイトしている、毛布に引っ張り込もうとするで3アウトですね。
でもオラリオの神ではベル君と1番相性がいいのがヘスティア様なのでこれはしょうがないですね。次回はカワサキさん視点をメインにして、最後にベルとヘスティア様のエンカウント、その6でファミリア結成で行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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