ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

106 / 108
メニュー47 カルボナーラ

 

メニュー47 カルボナーラ

 

お昼時が過ぎ客足が一時遠退いたので、今の内に僕もお昼ご飯にしようと思い、屋台の木箱に腰を下ろす。普段なら冷めたか油でべたべたのじゃが丸くんだが、今日はベル君の作ってくれたお弁当があるので鞄から取り出す。

 

「おお。サンドイッチだ」

 

バスケットの中身はサンドイッチが5つも入っていた。ちょっと多いかな? と思いながらもベル君が作ってくれたので頑張って食べようと思い、サンドイッチに手を伸ばす。

 

「え。これ……」

 

最初に手に取ったサンドイッチの中身は卵を潰したソースが挟まれたものだ。だけどこれはダイダロス通りの子供達の店でしか販売されていない。真似して作っても彼らほど美味しく作れない上に卵を大量に消費するので、売れない物を作るだけでは真似するメリットがないからだ。

 

「はむ……美味しい」

 

朝ごはんの時もそうだったが、ベル君の料理の腕は相当な物だ。お弁当ということで時間が経っているのでパンが水分を吸っていると思ったのだけど、パンは冷えてはいるがまだふわふわとしている。

 

(マスタード……ううん、ちょっと違うかな?)

 

鼻にツンと来る刺激からマスタードとは違うと感じた。その刺激と潰した卵のソースのまろやかさが凄くマッチしている。

 

「あ、そうだそうだ」

 

水筒にスープが入っていると聞いていたので、水筒を取り出してコップにスープを入れる。

 

「んー♪ 良い匂い」

 

クリームシチューとは違う別のスープだけど、これも美味しい。具材が入っていないのに野菜と肉の旨味を感じるコクのあるスープを飲みながら1つ目のサンドイッチを食べ終え、2つ目のサンドイッチに手を伸ばす。

 

「お、これはハムとチーズだ」

 

薄切りのハムとチーズのサンドイッチ。これもシンプルな物だけど、ハムが焼かれているのでカリカリの食感と薄切りのチーズが実に良く合う。出来れば熱々で食べたかったが、これはこれで美味しい。

 

「お疲れ様。今日は大分売れたみたいだね」

 

「はい! 今日は良い位置が取れたから」

 

オーナーのおばちゃんが関心関心と笑いながら僕の手元を見て驚いた表情を浮かべる。

 

「今日はお弁当を買ってきたのかい?」

 

「あ。違うんだ。僕のファミリアに眷属が入ってくれて、その子が作ってくれたんだ」

 

「眷属が入ったのかい! おめでとう。良かったね!」

 

僕が神様と分かっていても雇ってくれているおばちゃんは自分の事のように喜んでくれた。

 

「だけどその子に無茶をさせたら駄目だよ。多分1人しか入団してないんだから怪我とかしないように見ておくんだよ」

 

勿論無理をさせるつもりはない。大事な僕の眷属――零細なんて言葉で片付けられないほどに酷い有様の僕のファミリアに入ってくれたベル君に無理をさせるつもりは微塵もない。

 

「今日の給料は少し色をつけておいて上げるよ。その眷属の子とご飯でも食べて仲良くなるんだよ?」

 

「大丈夫! 僕とベル君は仲良しだから」

 

「ベル? もしかしてあのダイダロス通りの子供に混じって料理を作っていた子かい?」

 

「そうだよ?」

 

あ。これツナサンドだ。これもダイダロス通りじゃないと食べれないレアのサンドイッチなんだよねーと思いながら齧ろうとするとおばちゃんに肩を掴まれた。

 

「え? え。おばちゃんも食べたいのかな?」

 

「違うよ! ヘスティアちゃん。絶対にその子を逃がしたら駄目だよ。どこのファミリアも欲しい欲しいって言ってた子だ。特にエルフの連中が目の色を変えてた。引抜とかされないようにするんだよ、良いねッ!」

 

見た事ないくらい真剣な表情のおばちゃんに僕は分かったと返事をするのがやっとだった。

 

「……アルバイト先のおばちゃんに言われたんだけど、そんなにベル君って注目されてた?」

 

「急に尋ねて来てなんでそう爆弾を落とすのよあんたは」

 

アルバイト帰りにヘファイストスに眷属が出来た事、そして正式にファミリアを持つ事が出来た事を伝えに言ったのだけど、ベル君の事を話すとヘファイストスは深い溜息を吐いた。

 

「え? そんなに注目されてる?」

 

「めちゃくちゃにね。とにかくあたしが言えるのは引き抜きに気をつける事、あと見限られないようにね。1年の間は改宗出来ない決まりだけど、ギルド長のフェルズが相当気に掛けてるみたいだから特例とかあり得るからね」

 

だからあんたもしっかりしなさいと釘を刺され、僕はトボトボと教会へと帰る事になった。

 

(浮かれてた……)

 

初めての眷属、僕を慕ってくれているベル君に浮かれていた。ヘファイストスの言う通り、もっとしっかりしないとと頬を叩き、気合を入れて教会の扉を開ける。

 

「おかえりなさい神様。お風呂の準備がしてあるのでまずお風呂に入ってきてください、あと着替えは自分で用意してくださいね。その間にご飯の準備をしておきますから」

 

その間にご飯の準備をしていますからと言われて、あれよあれよと風呂場の方に押し込まれる。全然使ってなかった浴室は綺麗に掃除されていたし、教会の内部もかなり綺麗に掃除されていた。しっかりとしようと気合をいれたけど……。

 

「これは別の意味で気合を入れないと駄目かもしれない……」

 

僕は自分で言うのもなんだがぐうたらな性格だ。だらけて良いならだらけていたい。そんな僕にあれやこれやと世話をしてくれるベル君は甘えたくなって堕落してしまいそうで……。

 

「駄目駄目! しっかりしないとッ!」

 

ベル君が引き抜かれるのも、見限られるのも駄目! しっかりしないとと自分に言い聞かせるように浴室の扉を開ける。

 

「……まめすぎない?」

 

お風呂に花が浮いていて花の香りが充満している浴室に僕は駄目にされてしまうかもしれないと少し恐怖するのだった……。

 

 

 

「あのそんなに心配を掛けていたでしょうか?」

 

教会の居住区の掃除を終えた所でカワサキさんが訪ねて来た。カワサキさんはオラリオでは有名なので基本的に僕に危険が及ばなければ接触するつもりはないと聞いていた。だからこうして訪ねて来たのは何か心配させたのだろうかと思い、不安に思っているとカワサキさんに頭を撫で回された。

 

「わわっ!?」

 

「俺はそんなに過保護じゃねえよ。ただまぁあれだ、ファミリアが決まったから祝いの品を持って来ただけだ」

 

そう言ってカワサキさんは虚空から取り出した鞄を机の上に置いた。かなりの重量だったのか、机がミシリと音を立てる。

 

「これは?」

 

「醤油とか味噌の調味料とお前が村で使ってた調理器具だ」

 

「本当ですか!? ありがとうございます」

 

「ファミリアが決まったら元々届けるつもりだったからな。まぁ無理せず頑張れよ」

 

本当にカワサキさんは調味料を渡すだけだったのか、すぐに帰ってしまった。だけど欲しいと思っていた調味料や調理器具が手に入ったのは正直嬉しかった。

 

「ただいまー」

 

何を作るかなと考えていると神様の声が聞こえて来たので、キッチンから出て出迎えに向かう。

 

「おかえりなさい神様。お風呂の準備がしてあるのでまずお風呂に入ってきてください、あと着替えは自分で用意してくださいね。その間にご飯の準備をしておきますから」

 

「え、あ。うん! ありがとうベル君」

 

「大丈夫ですよ。それじゃあ神様。ごゆっくり」

 

神様もアルバイトで疲れているだろうからお風呂で疲れを取ってくださいねと言って、お風呂に向かって貰った。その間に僕は夕食の準備を始める。

 

「安くて助かるなー」

 

鶏胸肉は市場で買える肉の中ではかなり安く、2枚で580ヴァリスなのでほかの肉の半分くらいだ。買ってきた鶏胸肉を1枚使う事にし、残りの1枚は魔石で使える冷蔵庫に入れ、代わりにトマトとチーズを取り出す。

 

「決まりっと」

 

鶏胸肉を半分に切って、分厚い部分に切れ込みを入れて、食べやすさと味が染み込みやすくしてから塩胡椒を振ってしっかりともみ込み、取り出したトマトは縦に6等分に切る。

 

「これが簡単で美味しいんだよね」

 

オリーブオイルを引いたフライパンをしっかりと加熱し、鶏胸肉の皮の面を下にして焼き始める。この時はあんまり触らず、鶏皮にしっかり焼き目が付くまで焼いてから引っくり返し反対側もしっかりと焼き上げる。

 

「トマトとチーズっと」

 

トマトを先に乗せ、その上にチーズを乗せて蓋をしてチーズが溶けるまでしっかりと焼けば完成だ。

 

「これで保存っと……これで良いのかな?」

 

カワサキさんが出発の前に教えてくれた保存という魔法。これで状態を維持出来るらしいけど……上手く行ったかな? と不安に思いながらもカワサキさんが教えてくれたのだから間違いはない筈だと信じる。

 

「人参人参っと」

 

1日1回は人参を食べないと調子が出ないので、人参でサラダも作る事にする。皮を剥いてから縦に薄切りにしてボウルの中に入れて塩を入れ、しんなりするまで寝かせる。

 

「これでマヨネーズだけで美味しいんだよね」

 

人参に塩とマヨネーズを和えるだけでこれが中々に美味しいサラダになる。スープは朝作ったベジタブルブロスのクリームシチューがあるからスープも良し。だけどこれだと僕には少し足りないのでここにパスタを加えようと思う。

 

「燻製肉とチーズと卵、それと牛乳っと良しッ!」

 

材料を確認してから調理に入る。燻製肉は細長く棒状に切り、ボウルに割りいれた卵に摩り下ろしたチーズをたっぷりと入れて良くかき混ぜる。

 

「よいしょっと」

 

鍋の中にたっぷり沸かしたお湯に塩を加えてから、フライパンにオリーブオイルを入れて加熱し始めてからパスタを入れる。十分にオリーブオイルが温まった所でパスタ少し早めに鍋から取り出す。茹でた予熱でパスタには火が通るし、ここから炒めるので芯が少し残るくらいで丁度良い。

 

「良し、急ごう」

 

ここからは時間との勝負だ。パスタに予熱が入りすぎる前にソースを作る必要があるからだ。加熱していたフライパンに燻製肉を入れて炒め、良い具合に焼き色がついたらパスタの茹で汁とバター、そして牛乳を加える。燻製肉とパスタの茹で汁の塩気で味は十分につくので牛乳が沸騰寸前まで温まったらパスタを加え、火を止めてから卵とチーズを混ぜたソースを加えて良く混ぜ合わせる。

 

「うん。上手に出来た」

 

仕上げに黒胡椒を振ったカルボナーラを見て我ながら良い出来だと納得する。

 

「ベル君。お風呂でたよー」

 

「神様。丁度ご飯も出来ました。少し早いですけど夕ご飯にしましょうか?」

 

やっぱり誰かのためにご飯を作るのは良いなと嬉しそうに笑う神様を見て、僕は心からそう思うのだった……。

 

 

 

机の上に並べられた料理を見て僕は目を輝かせた。クリームシチューに、鶏肉の上にチーズを乗せて焼いた物に、人参のサラダ、それにソースに絡められたパスタと柔らかそうな白パン――今まででは到底考えられなかった食事だ。

 

「凄いねベル君! こんなに料理が出来たんだ」

 

「先生に色々と教えてもらいましたから、神様のお口に合えば良いんですけど」

 

「ベル君が作ってくれたんだ。美味しいに決まってるよ」

 

誰かが一緒にいて、一緒に食べてくれる。これほど嬉しい事はない。2人でいただきますと言ってからナイフとフォークを手にとる。

 

(やっぱりこれかな)

 

目の前のチーズが乗せられている鶏肉にフォークを入れる。チーズの下にトマトが乗せられていたのか鮮やかな赤色が見える。

 

「美味しいッ! ベル君これ美味しいよッ!」

 

「お口に合って良かったです」

 

さっぱりとしている鶏肉に、トマトの酸味と甘みとチーズの塩気が凄く良く合ってる。それに肉を食べているのにさっぱりしているっていうのが凄く面白かった。

 

「パンに挟んでも美味しいですよ?」

 

「そんなの絶対に美味しいやつだよベル君! んんー美味しいッ!」

 

ふわふわのパンに鶏肉とチーズと卵、それに人参サラダを挟んで不味い訳がない。パンの甘みが加わるので余計に鶏肉とチーズの塩気、それに人参のシャキシャキとした食感が加えればこんなの美味しいに決まってる。

 

「ところでベル君。このパスタは何かな? 僕見たことないんだけど」

 

「カルボナーラです。卵と牛乳とチーズのソースのパスタです」

 

「へー卵と牛乳とチーズの……どれどれ」

 

フォークでパスタを巻き取って口へと運び、僕は驚き目を見開いた。

 

(え、これ僕の知ってるパスタと全然違うんだけど!?)

 

モチモチとしていて食感が良い。僕の知ってるパスタはもっとふにゃふにゃだったし、こんなに歯応えが良くなかった。それにこの卵と牛乳とチーズのソース。これがまた良かった濃厚でクリーミーで、食べている満足感が凄い。

 

「これ凄く美味しいね! 僕初めて食べるよ!」

 

「喜んで貰えて良かったです! あ、パンまだありますよ? 食べますか?」

 

「勿論貰うよ!」

 

このカルボナーラも絶対パンに挟んで美味しいやつだし、シチューにつけても美味しいに決まってる。普段の固いパンと、油でべちゃべちゃになったじゃが丸くんをもそもそと1人で食べていただけだから、余計に美味しく思える。

 

「ベル君。シチューおかわり良いかな?」

 

「勿論良いですよ。沢山食べてくださいね」

 

にこにこと笑うベル君に1人じゃないっていうのは良いなぁと心からそう思った。

 

「ご馳走様でした」

 

「はい、お粗末様でした」

 

お腹一杯に食べたのは本当に久しぶりだ。それに美味しいだけではなく、とても心が満たされた。

 

「あ、そうだ。神様」

 

「何かな? ベル君」

 

「髪紐ボロボロでしたよね? これ新しい髪紐買ってきたんです。良かったらどうぞ」

 

リボンでラッピングされた箱が差し出され、僕は驚きながらそれを受け取った。

 

「開けて良いかな?」

 

「勿論。あ、でも僕プレゼントとか初めてなので気に入らないかもしれないですけど……」

 

不安そうなベル君を見ながらあけた箱の中身は鐘のついた髪紐だった。

 

「鐘が好きなんです。お母さんの魔法は鐘の音がして、その鐘の音色がとても好きなんです」

 

母親の魔法で、自分の好きな物を模したアクセサリーがついた髪紐を選んでくれたというのがとても嬉しかった。

 

「ありがとうベル君。大事にするよ」

 

初めて出来た眷族、そしてその眷族から貰ったプレゼント、何もない僕だけど、それでも敬って大事にしてくれるベル君に報いれるように僕も頑張ろう。心から僕はそう思うのだった……。

 

「僕はソファーで良いですーッ!」

 

「駄目だよ。そんな所で寝たら身体壊すよ! このベッドは大きいから一緒で大丈夫だよ!」

 

「駄目です! そんな事してるって知られたら僕はお母さんとお婆ちゃんに殺されます!」

 

「それなら僕が庇ってあげるから大丈夫! それに明日も忙しいんだろう? ちゃんと休まないと駄目だよ」

 

「本当ですね? 約束ですよ神様」

 

「勿論僕が守るから大丈夫だよ。ベル君」

 

「……それならお願いします」

 

「おいでおいで」

 

寝る前に1悶着あったけど、今日も僕はベル君と一緒のベッドで眠り、信じられないくらい快眠するのだった……。

 

 

メニュー48 卵うどん へ続く

 

 

 




次回は同時刻で別視点、カワサキさんとフェルズの視点での話を書いてみようと思います。メインはベル君ですが、やっぱりカワサキさんの話も欲しいですからね。フェルズとカワサキさんがどんな話をするのか、ウォーシャドウの下りも合わせて書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。