ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
ギルメンズ・リポート その5
賊に荒らされた朝廷の宝物殿で俺は深い深い溜息を吐いていた。目の前の惨状について溜息を吐いているわけではない、では何に絶望して溜息を吐いているのかと言えば……。
(極東ってなんだよ、日本だろ!? しかも朝廷とか、貴族とかなんだよ! ふざけんなよッ!?)
死んだと思ったら異世界でした。そんなありえない現実に直面した事による絶望の溜息だった。
「源。早急に何がなくなっているのか、そして何が残っているのかを全て帳面にしたためよ。そして可能な限り賊の手掛かりを集めよ、良
いな?」
「御意」
着物に黒い帽子を被っている神経質そうな男の指示に頷き、荒れに荒らされている宝物殿の中を歩いて回る。アイテムは僅かには残っているが、その多くは価値のない、あるいは代用が効きそうな物ばかりだ。本当に貴重な物は何一つとして残されていない。
(朝廷の宝の神具もないと……これは内部に手引きをした……って何真面目に仕事してんだよ、俺)
この身体に引っ張られてたのか、真面目に仕事をしているの気付き止め止めと心の中で呟き、残されている道具を拾い集める。
(俺は朝廷でアイテムの管理を任されていた中級役人の藤山源……万年レベル1止まりの駄目貴族……ねえ?)
神が居て、恩恵とかいうシステムがあって、レベルがある……ゲームかよって心の中で呟き渡された目録と照らし合わしながら道具の確認をしているとチリッと首筋に静電気が走った。
(誰かいる? 嘘だろ? 事件から1年経ってないのに再犯……かよ)
額に嫌な汗が流れる。この身体はともかく俺に戦闘なんて出来る訳が……いや頑張れば出来るか? あのゲームのユグドラシルみたいな動きが出来れば……。
「動かないでね? あんまり手荒なマネはしたくないっていうか」
首筋にチクリとした感覚、そして耳元で聞こえた声に俺は目を見開いた。
「おい、弐式か!?」
「……その声まさか……源次郎!?」
首筋から刃物の気配が消えると同時に振り返ると黒尽くめで手にナイフを持っている弐式……いや轟剣の姿があった。
「お前轟剣? いや、弐式だよな?」
「そうそう! うわー朝廷にギルメンが居たのか! めっちゃ嬉しい! 色々と聞きたいんだけど」
「どうした? 何を騒いでおる?」
隠れろと呟き咄嗟に弐式を突き飛ばして宝物殿の入り口に向き直る。
「失礼を、こちらの品が崩れ落ちてまいりまして」
「そうか。それなら良いが……魔が差して持ち帰ろうとするなよ?」
ギロリと睨まれ分っておりますと一礼し、監視役の男が姿を消してから振り返る。
「騒ぎすぎだ。馬鹿」
「ごめん。テンション上がってた」
小声で謝る弐式。だが気持ちは分かる、ユグドラシルを引退してから会う事がなかったギルメンに会えたのだ。嬉しく思うのは当然……だが今は状況が悪い。
「朝廷で盗みがあって厳戒態勢だ。後日また話そう。犯人に鉢合わせても不味いしよ」
「あ。それ犯人カワサキさんだよ。俺と建やんで見た」
「はぁ!? え、カワサキまでいんのか? どうなってるんだそっちは」
俺達の中では常識人よりのカワサキが盗んだと聞いて思わず声を上げ咄嗟に手で口を塞ぎどういうことか? と尋ねる。
「カワサキさんはいない。魔法のスクロールを持ってて、帰還の巻物だったから多分拠点……オラリオの方にいると思う。んで、俺の方は建やんと、TSしてるエロ巫女狐メイドのホワイトブリムさんと、モンスターの群れに混じってる発狂したへろへろさんがいる」
「ごめん、理解できねえ」
武人建御雷がいるのは良いが、TSしてるエロ巫女狐メイドとか、発狂したヘロヘロとか、余りにも情報が酷すぎて脳が理解を拒んでいた。
「とりあえず、今の俺達の目的は極東脱出。その前にヘロヘロさんもなんとか正気に戻そうと思ってる。源次郎は朝廷でいたいなら「馬鹿いえ、俺も出るぞ。こんな所に何時までもいられるか」だよね! とりあえずこれ建やん達と話あって調べることを纏めたメモ。もし出来
たらでいいから調べておいて欲しいな、じゃあ警備がすごいから1度戻るよ。今度また連絡する」
その言葉と共に弐式の気配は完全に消えた。だが手の中に残っている弐式のメモがさっきのやりとりが現実だったと俺に教えてくれる。
「さっさとやるか」
こんな何の意味もない宝物殿の調査なんてやりたくもない、さっさと道具の整理を終えてまた閑職の書類整理に戻りたい。誰にも監視されることなく、誰に怒鳴られる事もなく……そこにいてもいない者として扱われる。だがそれで良いのだ、藤山源はいやかもしれんが、源次郎である俺にはそれが良いのだ。
(また皆と馬鹿をやれる。地位なんかいらねえ、俺はそれがいいッ)
地震か、違法工事でくずれてきた壁に押し潰された記憶は鮮明に残っている。あの痛みと苦しみ、崩れた建物から侵入してきた者達が俺の部屋の私物を盗んでいく、助けてくれと叫んでも誰も助けてくれない絶望の中で俺は死んだ。多分弐式に会えなかったら俺は生きてるのに、死んだように生きていただろう。だが……弐式に会えた、そしてギルメンがいるかもしれない。あの楽しかった日々がまた始まるかもしれない……その希望が俺の空っぽの胸に火を灯した。
「やってやる。また皆に会うために、俺はやるぞッ」
宝物殿を片付け、渡された朝廷の内部事情を調べ、極東を脱出してギルメンを探す。余りにも荒唐無稽、成功するとは限らないし、また再会できるとも限らない。だがこのアーコロジーと同じか、それ以上に酷い極東にいるくらいならば一縷の望みに掛けた方がよっぽど堅実的だ。俺は胸の中に灯った火に突き動かされるようにさっきまでとは違う、きびきびとした動きで宝物殿の整理を再開するのだった。
「マジで!? 源次郎朝廷にいんの!?」
「まじまじ! 色々と調べてくれるって約束してくれたし、これで極東脱出に一歩前進だよ」
「本当だね! いやあ、嬉しいなあ」
「「また女口調になってるし、きゃはって感じになってるぞ?」」
「うあああああッ!! なんでだよおッ! 気を抜くとすぐ女口調になるのなんでぇ!?」
源次郎がギルメンとの再会を夢見ている頃、ホワイトブリムは気を抜いたら女口調になる上にぶりっ子をする己に絶叫していたりするのだった……。
オラリオから遠く離れた砂漠地帯で1人のエルフが熱心に何かを調べていた。美しい金髪が砂で汚れようと、その衣服が砂に塗れようとそんな事はどうでも良いと言わんばかりに砂漠の中に足を向ける男性のエルフを呼びに来たであろうエルフの少女は砂漠の風で帽子が飛ばされないように抑えながら声を上げた。
「せんせーい! ブループラネットせんせーい!! そろそろ逃げましょうよ~ッ!! 風がおかしいですし、絶対危ないですよ~」
ブループラネット……到底人とは思えない名前だったが、その呼び声に砂漠の調査をしていたエルフは足を止めた。
「いやあ、この砂漠が普通じゃないから気になって気になって……でも確かにやばそうだね、そろそろ撤退しようか」
「だから何回も言ってるじゃないですかッ! ここは毒の砂漠なんですから他の砂漠みたいに緑化は無理ですって」
「分ってる。今行く」
毒の砂漠――ブループラネットと呼ばれたエルフが調べていた砂漠は灰で出来た砂漠であり、とあるモンスターが死んだ際に砕け散った魔石で出来た砂漠だった。
「あけみ君には助けられてるよ。じゃないと俺は毒で死んでいたかもしれない」
「ならそろそろ調査を切り上げましょうよ。多分結果は変わらないでしょう?」
エルフの少女をブループラネットはあけみと呼んだ。ここまで言えば分かるだろうが、エルフの男性はアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの1人のブループラネット、そしてやまいこの妹のあけみはエルフへと転生を果していた。
「この砂漠はまだ生きてる。これ以上の調査は危険と判断し、踏み入るべからず。これで良いかな?」
「そんな所でしょうね。じゃあさっさと逃げましょうか!」
「そうだね。ちょっと長居しすぎた」
生き物の気配はないのにあちこちから向けられる殺気や敵意――流石にこれ以上は本当に危険だと判断したあけみが懐から取り出した巻物を広げると2人の姿は砂漠から完全に消え去っていた。
「「「……」」」
灰の中から2人を見つめていた何かの気配もまた2人の姿が消え、暫くの間は砂漠に留まっていたが、戻ってくる気配が無い事を理解すると姿なき何者かの気配は灰の中へ溶けるように消えた。
「次の調査なんですけど、1回オラリオへ行きませんか?」
「ん? それは構わないけどどうしてだい?」
灰の砂漠から遠く離れた拠点で私はブループラネットさんにそう切り出した。本当はもう少しブループラネットさんの調査に付き合いながらあの人の痕跡を探すつもりだったんだけど、国から送られてきた手紙に意外なヒントがあったのだ。
「オラリオでおねショタが流行って一部のエルフがおかしくなってるらしいんですよ」
「どういうこと?」
それは私も同じだ。そもそも中世に近い世界観でおねショタなんていう概念がある事事体がまずおかしい。そもそもおねショタというジャンルで既に定着しているという事を考えれば間違いなくオラリオにはブループラネットさんのギルメンがいるはずだ。
「おねショタを知って他のギルメンも来ると思いますし、情報収集に最適だと思うんですよ」
「おねショタで情報収集とか嫌なんだけど」
「でも情報が手に入るのは間違いないですよ! 私はお姉ちゃんとカワサキさんの情報が欲しい、ブループラネットさんはギルメンの情報が欲しい。今まで何度も我侭に付き合ったじゃないですか、今度は私の番ですよ」
ブループラネットさんの頼みで遺跡や、ジャングル、海や雪山にまで付き添ったのだ。なら今度は私の我侭に付き合ってもらっても良いじゃないかと言うとブループラネットさんはそれもそうだなと小さく呟き了承してくれた。
「なら1度行ってみようかオラリオに」
「やった! じゃあこの調査記録を提出してオラリオに向かいましょう。さ、早く早く!!」
ブループラネットさんの了承を得た私はその背中を押して歩き出す。目的地は私達に調査を依頼したシャルザードの王都のギルド、その後はオラリオへ向かっての長い旅になるだろうが……私の足取りは軽かった。
(お姉ちゃんとカワサキさんの手掛かりを手に入れる大チャンス! このチャンスは絶対に逃がさないわ)
大好きなお姉ちゃんと大好きなお兄さんだったカワサキさん。その2人の結婚は凄く喜ばしいことだったのにカワサキさんは失踪するし、お姉ちゃんは暗くなってしまうし、終いには上層部のお嬢様に狙われて海に落ちて死んだとまでの噂まで流れた頃にはお姉ちゃんはテロリストになってるし、本当に私の前の人生は最悪だった。だけど……こうしてエルフに転生して、お姉ちゃん達の事を思い出した今私には一点の迷いも、曇りもない。私は私の目的に向かって走っていける……。
(今世はお姉ちゃんもカワサキさんも手に入れるッ!)
大好きなお姉ちゃんと大好きなカワサキさん。エルフに転生して血縁関係が無くなったからお姉ちゃんも手に入る、この世界では一夫多妻も珍しくないのでお姉ちゃんとカワサキさんが結婚して、私も結婚して2人とも手に入れることが出来る。
「私の人生薔薇色ねッ!!」
「あけみ君は元気だなあ……まぁ俺も自然に溢れているこの世界に転生出来て人生薔薇色だけどな!!」
「「ははははははッ!!!」」
カワサキとやまいこの2人を手に入れて見せると決意を燃やすあけみ、そして自然に溢れたこの世界を謳歌しているブループラネット。
オラリオにいるエルフとは別ベクトルでやばいエルフ2人が人知れずオラリオへと旅立っていくのだった……。
記憶を取り戻してカワサキを探しているギルメン達がいる中――すでにカワサキに再会していたのにそれに気付いて居なかったギルメンもいる。巨大な馬車の前の焚き火を囲んでいる獣人2人とエルフ1人と人間が1人。全員20代くらいの若々しさと力強さに満ちた男4人だが、その4人の顔色は恐ろしいほどに青かった。
「なぁ……俺らカワサキさんを何回も乗せてたよな?」
「……うん。というか何回もご飯作ってもらってたね」
「ははは……だよなあ。すっげえ、美味かったよなあ……」
「うんうん。それに一緒に旅をして楽しかったよねぇ」
4人の間に嫌な沈黙が広がり、4人は同時に頭を抱えた。
「なんで誰も思いださねえんだよ!? 俺ら4人もいてよッ!?」
「知らないよ!? 僕の所為じゃないしッ!?」
「なんでカレーライスとか食べて気付かないかなあッ!!!」
「何回も一緒に旅してたのに、なんでカワサキさんが姿を消してから思い出すかなぁッ!!!」
世界各地を旅しながら芸を披露して生計を立てている4人組み。実際に何度もカワサキと旅をして、馬鹿をして笑い合っていたのだがその時は全然思いだせず、今になって思い出したことを嘆く馬鹿4人。
「と、とにかくだ! カワサキさんは放浪癖がある! 旅を続けていれば絶対にいつか会えるはずだ!」
そう言って握り拳を作る狼の獣人に転生したチグリス・ユーフラテス。
「だ、だね! それに案外何処かの村で炊き出しとかしてるかも知れないしね! 旅をしてればいつか会えるよ!」
4人の旅での家計を管理しつつ、滞在している間は子供達に読み書きを教えているエルフに転生したスーラータン。
「それもあるけどさ、旅をしている間に見たこともない美味い飯を食べたって話を聞いたらそれも手掛かりになるぜ!」
カワサキの事だからどこかで飯を作って振舞っている筈だからと観客に情報を聞いてみようと笑うのは前世と同じ人間に転生したテンパランス。
「カワサキさんは珍しい調味料とかも好きだから流通網を辿っていけば会えるかも!」
そして最後の1人の猫の獣人に転生したウィッシュⅢが前向きな意見を出し、4人は次の町を目指して旅を再開したのだが……。
「ああ、その人なら2週間前くらいに来てたね」
「1ヶ月くらい前に炊き出ししてくれたよ!」
「そういえば4日前くらいかなあ。優しくて料理が上手な黒髪の人が居たよ」
「「「「何だよぉおもおおおッ!!! またかよぉおぉぉおおおおッ!!!」」」」
神出鬼没のカワサキの足取りは恐ろしいほどに早く、いつもニアミスするチグリス・ユーフラテス達の絶叫が今日もこの世界のどこかで響き渡っていたりする……。
予定をちょっと変更して他のギルメンズ+αにしてみました。次回のギルメンズリポートでは、今度こそ前回の続きから書くのでどうなるのか楽しみにしていてください。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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