ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか? 作:混沌の魔法使い
メニュー48 卵うどん
オラリオに戻って来たカワサキは拠点をここと定めずにあちこちを渡り歩いていた。顔馴染みのペニアやデメテル、ミアハやディアンケヒトの所などを見て回っていたとは聞いていた。だが実際はどうやら少し違っていたようだ。
「なに? お前のアイテムで見失ったやつらの反応がある?」
「おう。7年前にこれでマーキングして一網打尽にするつもりだったんだが見失ってな。それの反応があるんだがすぐに消えるんだ。それを確かめる為にあちこち見て回ってたんだが、やっぱりおかしいんだよ」
カワサキの魔道具の性能は段違いだ。そんなカワサキが見失うのは確かに異常事態だ。
「もしかしてオラリオにはギルドが把握してない隠し通路とかあるんじゃないのか?」
「……ありえなくはないな」
既に死去しているがダンジョンに深い興味を持っていたダイダロスという人物の話を聞いた事がある。既にその血脈は途絶えているはずだが……確かに怪しい。
「カワサキの世界の神に似たような奴がいるのか?」
「似たような神じゃなくて人間だな。様々な発明に秀でた人間でな、迷宮を作った職人がいた。名をダイダロスという、その男の存在を知ってるからもしやと思ったんだ」
同じ人物の名前に辿り着いていた。勿論根拠は証拠は無いが、カワサキの世界で迷宮を作った人間がいるとなれば、この世界でも人間がダンジョンを作りうる可能性が浮上してくる。
「いや、もう作られているのか?」
「可能性は十分にあるだろう。だから俺の魔道具で追跡出来ないのかもしれない」
私の作った賢者の石……その罪で私が人の姿を失ったように、同じ様にダンジョンを作る事に呪われた物がいるかもしれない。
「一応エレボスに話は聞いてみる。だが7年前に捕まえきれなかった闇派閥の人員のこともある、警戒はしておいて損はないだろう。まだ怪しい動きは……あるのか?」
カワサキの問いかけに私はベルから預かっていた首輪を机の上に置いた。
「1階層に出現しない筈のモンスターがこの首輪をしていたそうだ。動きも変だったらしく、この首輪で操作していたかもしれない。カワサキの魔法で鑑定してくれないか?」
私の方でも解析しているが、カワサキとの意見のすり合わせを行なうためにカワサキにも鑑定してくれと頼む。
「ふむ……隷属の首輪(試作)。低位のモンスターを支配する物とあるな」
「やはりか……」
結果はやはり私と同じ物だった。製作過程などは不明だがモンスターを支配する能力を持つ魔道具がこうして目の前に存在している――それは7年間沈黙を保っていた闇派閥が再び動き出した証拠とも思える。
「これを見つけたベルには暫くダンジョンに潜るのは控えるように伝えてある」
「それが妥当だな。それと一部のファミリアに警戒を頼むと良いだろう。試作とある以上完成品もあるだろうからな。モンスターは無尽蔵にダンジョンにいる、それらを戦力にされると厄介だ」
「分かっている。駆け出し冒険者もそうだが、彼らを育てているベテランに死なれても困る。ベルだけではなく、ほかのファミリアにもダンジョンに入るのは暫く控えてもらうように通達する」
中層や下層のモンスターを上層に連れて来られれば始まるのは大虐殺だ。駆け出し冒険者を守りながら戦って勝てとは無理難題が過ぎる。対策やギルドナイトの配置が出来るまではダンジョンへの入場を制限するのが1番安全だ。勿論反発はあるだろうが、死人を出すよりかはずっとましだ。闇派閥の再度の進行を防ぐ為にも一刻も早くこの首輪の製造元を探し出す必要がある……が、その前にやらなければならない事がある。カワサキがいないこの7年の間に私も様々な知識を知る事が出来た。
「カワサキ。私は神々の原罪を知った」
「……そうか。それを知ってどう思った?」
「怒りだな。恥知らずの恩知らず共と罵りたい気持ちで一杯だった」
ウラノスを除けば最初に降臨した神は殆どいない。だから神々の原罪を知る者は神の中でも少数だ。だがだとしても神が犯した罪は消える事無く迷宮の奥に存在し続けている。
「だがそうだとしても、その問題を解決するのは今すぐは無理だ。余りにも時間が経ち過ぎている」
「それも分かっている。だからこそだ」
元々神々が約定を守っていればよかった、それを破ったからこそのダンジョンであり3大クエストだ。いうならば神々の尻拭いをさせられているわけだ。なんとも恥知らずな事だと憤ったのは記憶に新しいが、カワサキにその事を伝えたのは別の用件があったからだ。
「カワサキ。明日私と共にダンジョンに潜ってくれないか? 力を借りたい」
「そりゃ構わないが、俺は戦闘はそこまで強くないぞ?」
「それで構わない。お前に会って欲しい者達がいるんだ。人語を喋る人に友好的なモンスター達だ。彼らは独自の技術体系や文化を持っていてな。隷属の首輪を使われるのは不味いんだ」
彼らの技術や知識が闇派閥に流れるのはなんとしても阻止しなければならない、だからカワサキにも異端児を紹介しようと思ったのだが……。
「あれか、ゼノスとかいう連中か? 確かアルフィアとかザルドがそんな話をしていたのは俺も覚えてるぞ」
ゼウスファミリアとヘラファミリアと親交の深いカワサキは既に異端児の事を知っていた。
「そうか、それなら話は早い。明日にもでもダンジョンに同行して欲しい、頼めるか? 出来れば彼らを守る為の知識も貸して欲しい」
「任せろ、アイテムは山ほどある。ゼノスの集落を要塞並に強化してやるぜ」
「そこまで……いや、それでも良いかもしれないな、明日よろしく頼む」
私の頼みにカワサキは2つ返事で了承してくれただけではなく、異端児の集落を守る為に力も貸してくれることまで約束してくれた。
「さてと、そろそろ良い時間だな。夕飯食うだろ?」
「良いのか? 迷惑ではないか?」
「気にするなよ。それに大した手間でもないしな。何かリクエストがあれば聞くぞ?」
「いや何でも良い、任せるよ」
了解と返事を返し、執務室を出て行くカワサキを見送った私は夕食を食べるために執務室の後片付けを始めるのだった……。
フェルズとの話で分かったが、やはりまだ闇派閥はオラリオで暗躍していたようだ。
「しかし、ダイダロス……か」
ギリシャ神話のダイダロスの事は知っていたが、まさかオラリオでも迷宮を作っているかもしれない相手が出てくるとは思っていなかった。
(同じ名前の別人って訳じゃないのか、俺はうろ覚えだしな)
色々とブループラネットさんに聞いた覚えはあるが、完全に覚えているわけではない。ただ世界や年代が違っていても同じ名前を持つ者が似たような事をするって事は覚えておいた方が良いかもしれないと手帳に赤い字でメモをしておく、手帳は定期的に見返すのでこれで変わりに忘れていても思い出せるわけだ。
(モンスターの隷属も不味いな)
どこまでかは分からないがモンスターを戦力として使われるのは非常に不味い。アリーゼ達を虐殺したモンスターの事を考えれば、可能ならば早い段階で隷属の首輪を作っている職人を探し出して抹殺したい所だ。
「……いや、待てよ? やつらもいるか?」
ディース姉妹。本気で戦ったが仕留めきれなかった双子――戦いの中でどす黒い執着させ感じさせる目で俺を見てきた姉妹を思い出した。闇派閥が暗躍しているのならば、間違いなく奴らもいる。俺のアイテムでも捕捉仕切れない隠し通路を使ってくるかもしれないことを考えると奇襲などへの対策も必要になってくる。
「やれやれ問題は山積みだな。さてとフェルズも待っているし、さっさと飯を作るか」
フェルズの顔色があんまり良くなかった。心労と疲労で身体が弱っていると思い夕食はうどんにする事にした。
「まぁ手早く簡単な所でな」
片手鍋に作っておいた鰹出汁を入れ、濃口醤油、みりん、料理酒。みりんは香りが強いので気持ち少なめにしておくのが丁度いい。これで出汁は丁度良いが、厨房に入ってくる隙間風に少し身を震わせる。
「夜は流石に冷えるな」
ただのうどんでは寒いと思いしょうがを摩り下ろしてつゆに加えることにする。
「どうせしょうがを使うなら餡かけうどんだな」
しょうがを使うなら餡かけうどんが1番美味い。片栗粉を水で溶いて水溶き片栗粉を作る。
「……疲れてるようだしな」
アイテムボックスから黄金の卵を取り出して、それを茶碗の中に割りいれ切るように解きほぐし、HP自動回復とMP自動回復の2種のリジェネを掛ける。黄金の卵は魔法の触媒として非常に優秀なので低位のリジェネでも中位、下手をすれば上位の効果が得れるので今のフェルズには丁度良いはずだ。
「後はうどんをゆでてっと」
別の鍋でうどんを茹で、つゆを温めたら、水溶き片栗粉をだまにならないようにかき混ぜながらつゆの中に加え良くかき混ぜる。
「よし。仕上げだ」
うどんが茹で上がり、それを丼に移した所で料理の仕上げに入る。黄金の卵を沸騰したままのつゆの中にいれ、卵が固まる前に火を止めて素早くかき混ぜる。たったこれだけだが、これで卵がきめ細かく仕上がるのだ。
「完璧」
完成したかき玉あんかけをうどんの上に注いで仕上げに葱を散らす。黄金の卵がつゆの中で光る完璧な仕上がりのかき玉うどんに1人満足し、2人分のうどんを持って俺はギルドの厨房を後にするのだった……。
甘辛い香り――オラリオでは豊穣の女主人とミアハファミリア、そしてダイダロス通りの孤児達の店でしか食べられない醤油の香りに私は顔を上げた。
「もう出来たのか」
「寒いしな、ちゃっちゃと作れるうどんにしたんだ。フェルズも腹空いてると思ったしな」
正直言ってカワサキの気遣いはありがたかった。空腹か空腹じゃないかと言われれば空腹だったし、何よりも頭を使い続けていたので疲労もある。
「机の上は片付けてある。そっちで食べよう」
応接間にカワサキを通し、2人で向き合って座った……のだが。
「カワサキ。何故卵が光ってる?」
「黄金の卵だから光だろ?」
黄金の卵――そうか、黄金の卵か……。
「は? 黄金の卵?」
「栄養価が高いし、魔法の触媒にも良いんだぜ? フェルズには丁度良いだろ?」
「食べて大丈夫なのか? なにかこう副作用とかは?」
「ベルに7年くらい食わしてるけど問題ないぞ?」
ベルの化物レベルはそれが原因かと思ったが、折角作ってもらったのに文句を言うのは失礼だ。
「変なことを聞いたなすまん。飯にしよう」
「おう。うどんが伸びる前に食おうぜ」
2人で手を合わせていただきますと一礼してから箸を手にする。
(しかし良い香りだ。しょうがも少し使ってるんだな)
甘辛い香りの中に混じっているしょうがの香り。これから寒くなってくるのでしょうがが使われているのかなりありがたい。
「ふーふー……」
スプーンを手にしまずはうどんのスープを口にするが、スープにはトロミがついていて、そのトロミのおかげなのかスープはかなり熱かったが、その熱さが冷えてきた夜には丁度いい。
「美味い。優しい味だ」
醤油だけではない、ふんわりとしたどこか優しい味がする。思わずほうっと溜息が出る程に優しい味だ」
「出汁を温めて味付けしただけだぞ?」
「そのだけがオラリオでは貴重なんだよ」
カワサキの料理はとても美味い。カワサキにとっては片手間でも、その味はオラリオでは金貨を払っても良いレベルだ。そういうもんかねとぼやきながらうどんを啜っているカワサキの真似をして私もうどんを啜る。
「はふっ! あふっ!」
熱い、熱いのだが、美味い。トロミについたスープがうどんに良く絡んでいて、モチモチとしてコシのあるうどんと濃厚な卵の味が口の中一杯に広がる。
「美味い。本当に美味しいよ」
「喜んでもらえて何よりだ」
決して派手ではないし、凝った料理でもない。だがその分カワサキの優しさを感じる味だ。少し暗い執務室に私とカワサキのうどんを啜る音だけが響く時間は不思議だが、そう悪いものではなかった。
「ご馳走様でした。本当に美味しかったよ、ありがとう」
「お粗末様でした」
空腹だったのもありあっというまに食べ終わった。しょうがのおかげか、腹から身体が温まっているようだ。
「明日の早朝またギルドに来てくれるか? 私はそう長くギルドを空けられない。カワサキに迷惑を掛けるが良いだろうか?」
「別に暇してるから問題ないが、態々帰る事も無いだろう」
カワサキはそう言うと私の指に嵌められている維持する指輪を指差した。
「さっきも言ったが俺は暇なんでな。書類整理くらいなら手伝ってやるぞ」
「良いのか?」
「それを言うなら俺のほうだな。俺がギルドの重要な書類を見ても良いのかっていう心配はあるが、そっちは大丈夫か?」
「問題ない。カワサキにも現在のオラリオの状況を知って欲しいからな。言い方は悪いが共犯者になってくれ」
同じ秘密を共有すればカワサキはオラリオに根付いてくれるのではないか? そんな浅ましい考えを抱きながら、冗談のつもりだったのだが……。
「そうだな。7年フェルズにばっかり押し付けたしな。オラリオでいる間でよければ共犯者になろうかね」
「い、良いのか? こんなの罰ゲームだぞ?」
馬鹿をする神々に、暴走するファミリアの制御に、今回のモンスターを支配する首輪。オラリオを良くしようと思ってギルド長なんてやっているのが馬鹿馬鹿しいとさえ思えるほどに問題が押し寄せてくる。自分で言っておいてなんだが、もっと良く考えろと言いたくなる。
「その罰ゲームを押し付けた1人だからな。少しでも負担を軽くできるようには手伝うさ」
「そうか、じゃあ頼む。正直私1人では手一杯でな」
私でなければ処理出来ない事案も多く、手伝いを頼む事も難しいので書類が山になっていた。
「任せろ。これでも書類整理はそれなりに得意だ」
「それは頼もしいな。よろしく頼む」
書類整理と色気も何もないが、カワサキと2人きりで、邪魔者もないとなればただの作業でもそう悪いものには思えなかった。
「どれ、何か飲み物を入れてこよう。何がいい? コーヒーか? 紅茶か?」
「紅茶で頼む。コーヒーは飲み飽きた」
それに意外という訳ではないが、カワサキはかなり気が利く性質で、私の事を気遣いながら書類整理をしつつも、適度に息抜きを提案してくれるので普段よりもずっと楽で楽しい気分で作業を進めることが出来るのだった……。
メニュー49 ジャガ丸くんの屋台でアルバイト へ続く
フェルズのコミュが少し進みました。メニュー50はフェルズとカワサキで、異端児の所に行ってもらおうと思います。次回はヘスティア様とベル君でジャガ丸くんの屋台でアルバイトということでベル君のジャガ丸くんアレンジを書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは
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間違っている
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間違っていない