ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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オバロ版の読みきりのダンまち版を加筆修正しております。
ロキ達の顔に張り紙とか、黒歴史要素を付け加えて見ました。


下拵え さらば迷宮都市

下拵え さらば迷宮都市

 

男神と女神が黒龍討伐に失敗し、3日経った。たった3日と思うかもしれないが、状況は私の想像を遥かに上回るレベルで悪化していた。

 

「神ウラノス。想像以上に事体は悪化しているぞ、どこもかしこもゼウス・ヘラファミリアへの罵詈雑言ばかりだ」

 

最強と最狂ならば黒龍を倒せると期待していた。だが現実は残酷でゼウス・ヘラファミリアは敗北した。考えうる限りの備えをし、最高の装備を整えた上で黒龍へ挑み敗北……いや、敗北したというのは正しくないか。正確には相打ち、死者0で、黒龍との戦闘記録を持ち帰ることが出来たと考えれば間違いなく人類側の勝利なのだが……その情報はいつの間に恐ろしいほどに捻じ曲げられてしまっていた。

 

「誰が情報を操作している? 愚者よ」

 

黒龍も瀕死の重傷を負い逃亡した。痛み分け、あるいは相打ちに近い状態だったはずなのに、何故敗北した、死傷者多数という話ばかりが出回っているのか、その調査結果はどうだと愚者へと問いかける。

 

「闇派閥……と言えればよかったのだが……ロキとフレイヤの私兵共だ」

 

「……そうか、このタイミングで動いたか、天界のトリックスターは」

 

男神と女神のファミリアが壊滅すればロキ・フレイヤファミリアがオラリオの最強となる。男神と女神の失脚を虎視眈々と狙っているのは知っていたが、このタイミングで動いたかと思わず溜息を吐いた。

 

「ロキ、フレイヤファミリアで闇派閥を抑えれると思うか?」

 

「……無理だな。今はオラリオにいないオシリスファミリアの末端構成員にも勝てないだろう」

 

オシリスファミリア。男神と女神に真っ向から戦いを挑んだ唯一のファミリアであり、敗北しオラリオを追放されているがその末端構成員のレベルは4・5揃い、そして団長のメルティ・ザーラはレベル7。ロキファミリアの3首領であるフィン、ガレス、リヴェリアもレベル5止まりであり、どう考えても男神と女神のファミリアは愚か、闇派閥の団員にすら劣っているというのに……。

 

「神アストレアとその団員がなんとか噂を揉み消そうとしていますが、状況は芳しくない」

 

「だろうな、扇動はトリックスターの得意とする所、女神アストレアとは相性が悪い」

 

神同士を争わせ、戦争を起させたロキは策謀に秀でている。正義を司り、堅物のアストレアとは相性が余りにも悪すぎる。

 

「ロイマンは」

 

「……神ロキとフレイヤに肩入れしている」

 

「……そう……か」

 

1000年の間最強を誇ったゼウス・ヘラファミリアを面白くないと思っている神は大勢いるだろう。期待していた者は失敗した事に落胆し、陰口を叩くだろう……本来ならば中立を保たなければギルド長であるロイマンですらも女神フレイヤに肩入れしているのはあまりも不味い。

 

「今回の神会は荒れるな」

 

「間違いない、神ウラノス。貴方は出ないのか?」

 

「……出た所で私の言葉に耳を傾ける神はおるまい。オラリオの住人も、神も、自分達で最悪の結末を選ぼうとしている。ならば自分達の決断がどんな結果を齎すか、その身を持って知ってもらうしかあるまい……」

 

 

 

ワシのファミリアの前を囲む冒険者達とその前に立つ赤毛の神――ロキの姿を見てワシは深い溜息を吐いた。

 

「嵌められたわい、今頃ヘラの所はフレイヤでも乗り込んでおるかの……」

 

元々ワシとヘラを面白く思っていない神は多くいる事はワシも把握していた。黒龍討伐で弱った所を叩きに来る……これは想定内であったが、ここまで動きが早いのは異常だ。

 

(ワシとヘラとウラノスを省いた状態で臨時神会でも招集したかの?)

 

オラリオの神全てがワシとヘラを邪魔者扱いしている訳では無いが、大多数はワシとヘラを嫌っているのは間違いの無い事実だ。本来の予定日と違う日時に神会を開き結託したとしてもおかしくはない。

 

「ゼウスのじっ様、どうするんだよ。戦うのか?」

 

窓の外を見たアルトがどうするかと問いかけてくるが、ワシは即座に返事を返せなかった。

 

(死亡者はおらんが、それでも負傷者ばかり……こんなくだらない戦いで眷族を死なせる訳にはいかん)

 

カワサキのおかげで幸運にも死者はいない。だが死んだ者がいないというだけで意識不明の重態の眷属は山ほどいるし、手足を失った者もいる……それらを踏まえた上でもワシは決断できなんだ。

 

「……万全ならばそれも選択肢に入るがの……見積もりが甘かったわい、後数日あれば状況も変わったんじゃがな」

 

カワサキのお蔭でザルドはレベルアップし、他の団員も多くがレベルアップを果している。そしてカワサキの料理によってステイタスが上昇しているのでレベルアップをしていないとしても、それに匹敵するステイタスを得ている。それはヘラのファミリアの所も同じであり、カワサキを拾う前と比べれば段違いにワシとヘラのファミリアの戦力は上昇したと言える……のだが。

 

(それでも黒龍とは相打ちがやっとじゃった)

 

カワサキが貸し与えてくれたアイテムの中には死に至るダメージを軽減するアイテムもあった。カワサキはそれをそうと説明せずワシとヘラの眷属全員に持たせていた。そのとんでもなく希少なアイテムが眷属達の命を救ってくれ、アルトの奴に託していた魔道具がカワサキを黒龍との戦いの場へと呼び寄せ、全員を転移で回収してくれた。カワサキには返せぬほどの恩が出来てしまったが、それを返す術がワシとヘラにはない。

 

「ゼウス。入るぞ」

 

ワシの了承を得ずに包帯で片腕を吊ったマキシムが部屋の中に入ってきて、窓の外を見て顔を歪める。

 

「ここで動くか、力も無く、挑む勇気も無いロキファミリアの団員らしいな、オッタルとは雲泥の差だ」

 

「あーあのガキか、ザルドにも団長にも、女帝にも、アルフィアにもボコボコにされてんのに良く折れないよな」

 

フレイヤファミリアのオッタルはファミリア唯一のレベル6であり、そして何度も何度もザルドやマキシムに挑み、敗れ、それでもその都度に立ち上がり挑んできたガッツのある男だった。そんなオッタルと比べれば勇者と呼ばれるフィンや、重傑と言われるガレスなど完全に名前負けだ。とは言え、今のワシらの状態ではそのフィン達にすら勝てない有様で失笑してしまう。

 

「逃げるかの? マキシム」

 

この状態で無理に戦って眷属を死なせるのならばワシは逃げる。ヘラも恐らく同じ決断をするはずだと思いそう提案するがマキシムは深く溜め息を吐いた。

 

「逃げるにしても、追っ手で間違いなく死者は出るぞ。ゼウス」

 

「マキシム……そうじゃな。ロキがこうして乗り出したんじゃ……見逃してはくれまい」

 

戦えないのなら逃げるとしてもロキとロキファミリア、そしてロキファミリアに賛同したほかのファミリアの団員がいる以上逃げるとしても間違い無く追っ手は来る。誰かを殿として残すのも数の差で無駄死にするとしか思えない。

 

「じゃあどうするんだよッ! このまま攻め込まれて全員死ぬのかッ!?」

 

ワシとマキシムの話を聞いていたアルトがどうするんだと声を荒げるが、そんなのワシも知りたい。無数のファミリアに囲まれ、負傷者を大勢抱えているワシらに打てる手は悲しいが殆どない。

 

(ロキらしいといえばロキらしいが、落ちてるものを拾って最強を名乗って満足とはな)

 

ファミリア同士の抗争は決して珍しくない、だが幾らなんでも3大クエストの1つに失敗した直後に攻め込んでくるのは余りにも非道だ。ワシとヘラをオラリオから追放して形だけの最強でも欲しいかと思わず呆れたその時だった。凄まじい轟音が響き、ロキ達が攻め込んで来たかと思った次の瞬間凄まじい怒号がワシの部屋の窓を揺らした。

 

「万全な状態では勝てないと、ゼウスファミリアが傷ついた時に攻め込んでくるとは恥を知れッ!!」

 

窓を揺らす激しい怒声……それがカワサキの声であると気付いたワシとアルトは慌てて窓の外を見た。

 

「あいつなにやってんだッ!?」

 

「まだ会合は終わってないんじゃぞッ!?」

 

神同士の会合の場である神会でカワサキを紹介するつもりだったワシは勿論アルトも声を上げる。ロキファミリアの前に仁王立ちするカワサキはモンスターとして処分される、そう思った次の瞬間ロキファミリアの団員達が声も上げることも出来ずに宙を舞い地面に叩き付けられた。

 

「「「は?」」」

 

ワシ達の困惑する声が部屋の中に響き、カワサキが怒号を上げながら冒険者の群れへと突撃する姿をワシ達は呆然とした様子で見つめる事しか出来ないのだった……。

 

 

 

 

ゼウスの爺さんにもヘラにも言われた通り俺は積極的にオラリオに関わるつもりは無かった。この街の情勢やあり方に口を挟むつもりはないし、この世界の常識も知らないから口を挟むつもりは無かった。ただ、ほんの少し、仲良くなった奴に手を貸すくらいは良いだろうと思ってアルト達にアイテムを提供し、そして料理を振るまった。それは何時もの俺と変わらない、普段通りの行動だ。ゼウスの爺さん達が俺を神会で紹介してくれた後にこの世界でどう過ごすかなんて事を考えていたのも事実だが……事情が変わった。

 

「どこでも群れないと動けない奴はいるもんだな」

 

黒龍討伐に失敗したゼウスの爺さんのファミリアを囲む大勢の冒険者達。それはナザリックに襲撃を仕掛けてきた1500人の討伐隊を俺に思い出させた。

 

「神ゼウスッ! 黒龍討伐の失敗の責を受けてもらうでッ! 戦争遊戯やッ!」

 

真っ向から挑みもせず、そして負傷者が多数いるゼウスの爺さんのファミリアに戦争を仕掛けると叫んだ糸目の女を見て、俺は窓を開け放ち窓から飛び出し、片膝を地面について着地し立ち上がると同時に怒りのままに声を上げた。

 

「万全な状態では勝てないと、ゼウスファミリアが傷ついた時に攻め込んでくるとは恥を知れッ!!」

 

真っ向から挑めば勝てないから相手が弱った所を叩き、戦いは数と言わんばかりに人員を集めてきた。余りにも卑怯、余りにも非道、俺はゼウス・ヘラファミリアしか行き来していなかったが、こんなにも民度が低いとは思っていなかった。

 

(誰もうろたえないか)

 

正論を聞いても表情1つ変えない、それは自分達の行いが正しいと信じているからだ。その顔を見て俺は躊躇う必要も迷う理由もないと理解し、拳を握り締めた。

 

「恥もなんもないなあ、相手が弱ってる所をたたく……戦いの基本やろ?」

 

冒険者の前に立つ赤毛で糸目の女がニヤニヤと笑いながら声を掛けてくる。自分が圧倒的に上、負ける訳が無いと傲慢に思っている俺が大嫌いな権力者と同じ雰囲気を持つ女の言葉に俺は頷いた。

 

「なるほど、それが返答で良い訳だな? 引くつもりはないと……」

 

「当たり前やろ? それにあんたモンスターやろ? ならあんたも討伐せんとなあッ!!」

 

俺の言葉に糸目の女が目を開きながらそう叫び、女の回りの冒険者達が駆け出してくると同時に俺も同時に走り出し、向かって来た冒険者に向かって躊躇う事無く腕を振るった。確かにクックマンは戦闘に適した種族ではない、いや、そもそも戦闘すると言う考え自体が希薄な種族で、レベル100であっても戦闘になればレベル50くらいのステータスしか発揮出来ない。だがそれでも戦えないわけではないのだ、それになによりも俺はリアルでは数え切れないほどに喧嘩してきた。つまり何が言いたいかと言うとステータスが低下しても、リアルで培った戦闘経験は何一つ無駄になっていないという事だ。突進と同時に振り上げたアッパーによって巻き起こされた風圧で宙を待った冒険者達が受身も取れず頭、あるいは背中から落ちるのを見て俺は呆れて物も言えなかった。

 

(これが冒険者……こんなもんか)

 

ザルドやマキシムクラスを想定していたのに拍子抜けだった。確かに強いのだろうが……技術が無い、恩恵とステイタスに物を言わせた言うならば暴力にしか思えなかった。

 

(これなら全然問題ないな、120人のチンピラと喧嘩した時と大差ない)

 

全員が全員そうではないだろうが、この程度ならば問題ない十分戦える。

 

「俺が嫌いな物を教えてやろう、1つ道理外れ、1つ多勢で少数を取り囲む奴ら、1つ無能の癖に上に立ちたがる奴、そして……食い物を粗末にする奴……は今は関係ないか、それと良い事を教えてやろう。これは俺の友人が言っていたんだがな」

 

俺の怒気に威圧されて後ずさる糸目の女と数合わせで来たであろう冒険者が後ずさるのを追いながら、受身も取れず地面に叩き付けられた団員の頭を踏みつけ少しだけ体重を掛ける。

 

「が、がああああッ!?」

 

痛みで暴れ、俺の足を退かそうとする冒険者の頭に更に圧力を掛けると手足を出鱈目に振り回し暴れるが、それでも俺の足はその冒険者の頭から1ミリも動く事は無かった。

 

「や、止めろっ! もう「黙れよ、お前ら攻め込んできたんだろう? なら返り討ちにあってもそれはしかるべきだ。そして俺の友人は言った。殺して良いのは殺される覚悟がある奴だけ……覚悟は出来てるか? 卑怯者共、俺は出来ている」

 

金髪の子供にしか見えない奴が止めるよう叫ぶ。だが俺はその子供を睨みつけながらかつてのウルベルトの言葉をそのまま告げた。あいつは誇り高い悪だった。悪を成す事で正義を成そうとした。相手を殺す事を覚悟し、そして自分が殺されることも覚悟していた。だがオラリオの冒険者はどうだ? 自分が傷つけるのは良くても、傷つけられる事にまるで覚悟が出来ていないようにしか思えないのだ。

 

「ん?」

 

俺に向かって光る何かが迫ってくる。それに気付いたが、少しばかり反応が遅れた。光る何か……恐らく魔法が俺の目の前に着弾する。

 

「やったッ!」

 

「これなら!」

 

「気を緩めるな! 警戒を「そこのエルフ、正解だな。ちゃんと当ったのも確認しないで喜ぶとか馬鹿か? それともこいつが嫌いだったか?」

 

俺が踏みつけていた冒険者を盾にした事で俺は全くの無傷だった。足元にこんなでかい盾があるのに使わない馬鹿は居ないと言うわけだ。

 

「負傷者を盾にッ」

 

「そこまでするか!?」

 

俺が仲間を傷つけたとして周りの冒険者が怒鳴るが、俺からすればどの口で言っているとしか言えなかった。

 

「何言ってるんだ? 助けもしないで攻撃して来たのはそっちだろ? それに敵をどうして俺が気遣わないといけないんだ。こんだけでかい盾があるんだ。使わない馬鹿はいないだろ」

 

瀕死で痙攣してる盾にした冒険者の口に一応ポーションを捻じ込んでから投げ付ける。

 

(ここで殺してゼウスの爺さん達に迷惑をかけるわけには行かないしな)

 

ここで俺が殺してしまえばゼウスの爺さんとヘラに迷惑を掛けるので殺しはしない、殺しはしないが……。

 

「安心しろ、殺しはしない。殺しはしないさ、お前達の同類と思われたら迷惑だからな」

 

「モンスター風情がッ!」

 

激昂した冒険者の1人が剣で切りかかってくるのを袖から出したフライ返しで受け止めようとし……。

 

「なんだ安物使ってんな」

 

「は? え……がぼッ!?」

 

フライ返しに冒険者が手にしていた剣は切裂かれ、俺の後ろに落ちる。そして自分の剣が壊れた事に呆然としている冒険者の顔面に拳を叩きこんで殴り飛ばし、地面に手を当ててそのまましゃがみ込みながらスキルを発動させる。

 

「中華鍋シールドッ!!」

 

降り注いできた魔法や矢を中華鍋を盾にして防ぎ、中華鍋の陰からフライパンをもって飛び出す。

 

「そこのお前が司令官だなッ! 沈めッ!」

 

エルフの魔法使いの指揮を取っている同じエルフであろう緑色の髪をしたエルフに狙いを定め、フライパンを突き出す。柄が高速で伸びたフライパンをハンマーのように使い、緑色のエルフの頭を殴りつけてそのまま意識を奪う。

 

「リヴェリアッ!?」

 

「「「リヴェリア様!?」」」

 

凄まじい打撃音と共に呻き声も上げれず倒れたエルフの名を周りの冒険者が叫ぶ。それで俺が今昏倒させたエルフがリヴェリアという名前だと知ったが、それに興味は無く振り返りながら両手に装備したお玉で振り下ろされた斧を受け止める。

 

「なんだ、あんたみたいのもいるんだな」

 

軽い、余りにも軽い、手にしている武器は確かに重い。だが中身がない、迷っている、あるいはこの戦いに疑問を抱いているのであろうドワーフの胴にお玉を回転させトンファーのように叩き込む。

 

「ぐっ!! くっ!?」

 

吹っ飛んだドワーフは空中で回転して足から地面に着地するが、追撃に投げ付けたお玉ブーメランが後頭部に命中し、ドワーフは顔面から倒れ込み気絶……した振りをする。

 

「ガレス!」

 

「ガレスさん!?」

 

気絶した振りをしてるのも気付かない様子の冒険者へ向かって走り、手にしたフライパンで殴りつけて昏倒させる。

 

「己よくもリヴェリア様を!」

 

「許さんぞモンスター!」

 

……ちょっと計算違いだな、あの司令官を沈めればエルフは沈黙すると思ったのが何人かは怒りの表情で編隊を組んで魔法を乱射してくる。それを中華鍋で防ぎながらどうするか考え、フライパンとお玉を手に中華鍋の影から飛び出す。

 

「秘儀死者の目覚めッ!!!」

 

クックマンの力で全力でフライパンにお玉を何度も何度も叩きつける。

 

「「「~~~~ッ!?!?」」」

 

この金きり音は冒険者は勿論耳がいいエルフや獣人が耐えれるわけが無く、次々と白目を剥いてダウンする。そんな中1人が倒れていく冒険者を踏み台にして突撃してきた。

 

「とんだ化物だな、君はッ!」

 

槍を片手に突っ込んできた金髪の子供の一撃を回避し、そのままその首に手を伸ばしてチョークスリーパーへ移行する。

 

「ッ!? っ!?!?」

 

「とっとと落ちな、ガキ」

 

暴れてチョークスリーパーを外そうとするガキだが、完全に決めたのに逃がすつもりは無く力を込めて一気に意識を刈り取り、締め落とした子供を投げ捨て、再び地面に手を当てて中華鍋を召喚し、魔法を防ぐと同時に中華鍋を両手に持って腰を落として回転する。

 

「中華鍋ハンマーッ!!!」

 

俺を軸にして高速回転しながら中華鍋を叩きつける、骨の砕ける音と呻き声と共に冒険者達は吹っ飛ばされ、周囲の建造物に叩きつけられ、その場に崩れ落ちる。

 

「な、なんなんや、お前はッ!!」

 

「俺か? 俺は料理人だッ! 馬鹿野郎ッ!!」

 

「お、お前のような料理人がいるか!?」

 

「悪いな、ここにいるッ!!」

 

「ぎゃあッ!?」

 

完全に浮き足立っている冒険者は本来の強さを発揮出来ていない、立て直す前に沈黙させる為に俺は右手にフライパン、左手に中華鍋を持って冒険者の中へ突撃した。

 

「……嘘や、それか悪い夢や」

 

「悪いな。現実だ、アホ女。次はお前だ」

 

不意打ちと、司令官を失ったことで浮き足立っている冒険者を倒すのはそう難しくなかった。向こうにとっての想定外が続き、立て直せなかったのが俺が勝てた理由で、完全に冷静さを保っていられたら少し危なかったなと思いながら、最後に残った糸目の前に立つ。

 

「神殺しは重罪やぞ!?」

 

「はぁ……言っただろ? 殺して良いのは殺す覚悟がある奴だけだ。俺はチャンスはやった、引き返すかどうかと、それでもお前は闘いを選んだ……なら責任を取れッ!!」

 

言うに事欠いて神殺しは重罪だと叫ぶ糸目の女に向かって握りこんだ拳を突き出す。

 

「ひ、ひいああああッ!!!」

 

情けない悲鳴をあげる女の顔の横に拳を突き立て、恐怖心が限界を超えた女はほへっと言う間抜けな声を上げてその場に崩れ落ちた。

 

「ゼウスッ!! 追放なんかされるんじゃなくて堂々とオラリオを出て行ってやろうぜッ!! このままヘラとヘラファミリアの団員を迎えに行って俺達から出て行こうぜッ!! 堂々と真正面からよッ!!」

 

ゼウスの爺さんとヘラが必要ないと言うのならば出て行ってやればいい、その後どうなろうと知った事ではない、自分たちで追い出したのだ。それで何が起きても自分達の責任だ、そして悔いればいいのだと思いながらゼウスファミリアに向かって俺は叫ぶのだった。

 

 

 

 

ロキファミリアの冒険者達とロキの思惑に乗った神の眷属を全て倒したカワサキがオラリオを出て行こうと叫んだ。俺はゼウスに視線を向けるとゼウスは肩を震わせ、何かを耐えるような素振りを見せた後に大声で笑い出した。

 

「はは……はははははッ!!! そうじゃなッ!! ワシらが必要ないというのなら出て行ってやるかッ!! マキシム、ザルドッ! 馬車を準備せいッ! オラリオを出るぞッ!!」

 

黒龍討伐失敗の責だ何だの言って理由をつけてロキたちは攻撃を仕掛けてきた。瀕死の俺達を追放し勝利する事で箔をつけようとしているのならば、わざわざその思惑に乗ってやる馬鹿はいない。

 

「「「おうッ!!」」」

 

ゼウスの号令で俺達を含めて動ける団員は動けない団員達に肩を貸し、馬車の中に団員達を寝かせ、装備やアイテムも次々と馬車の中へ積み込む。

 

「アルトの奴はどうした? あいつが1番元気だろ」

 

1番元気なアルトの姿が見えず、何をしてるのかと探すとカワサキの所にいた。

 

「お前めちゃくちゃ強いじゃねえかよ!?」

 

「適当に暴れただけだ、それよりアルト。こいつ吊るすぞ」

 

「……ロキを?」

 

「そうだ。出来るなら全員吊るしてやりたいけどな。そこまでロープないし、もっとロープあるなら持って来てくれよ。邪魔する連中全員吊るしてやろうぜ」

 

「はははっ!! 良いなそれ! よし、やろうぜッ!! おーい、ロキ吊るすぞ! 手伝える奴は手伝ってくれ」

 

襲撃してきた連中を吊るすと聞いて悪戯好きな連中がロープを持って飛び出して行き、カワサキとアルトと共に縛り上げてどんどん吊るしていく……。

 

「これで良し」

 

その中にはゼウスもいて、やたら達筆で「無乳」「若作りショタ爺」とか書いた紙を貼り付けているのを見て俺も作業を中断し、ガレスの額に「ミノ」と書いた張り紙を張る事にした。なおリヴェリアやエルフの大半には行き遅れ、年増、同性愛などの張り紙がされていた。

 

「よーし、出発するぞ!」

 

「「「おうッ!!」」

 

全員ボロボロだが、そこに悲壮感は無く、笑いながら俺達はロキと、ロキに賛同した冒険者達を吊るし上げ、用意した馬車に乗り込んだ。

 

「さぁ、ヘラファミリアに行くぞ!」

 

大通りを悠然と進むゼウスファミリアのエンブレムと旗が掲げられた馬車をロキの甘言にのった冒険者や神達は信じられないと言う様子で見つめていた。

 

「はは、いい気味だぜ」

 

「顔を出すなアルト。お前は弱いんだからな」

 

「わーってるッ!」

 

負傷者も多くいるのだ。見た目よりも余裕は無いが、それでも余裕を演じながらヘラファミリアへと向かうと、ヘラファミリアの周辺にフレイヤファミリアの団員が倒れているのが見えた。疲弊していてもヘラファミリアの団員は強い、フレイヤファミリアの団員に負けるわけが無いのだ……。

 

「住民が殆どいないな? どういうことだと思う? マキシム」

 

だが今のオラリオの街にいるのは殆どが冒険者ばかりで住民の姿が無い、その事に気付いたカワサキがマキシムに問いかける。

 

「恐らくだが……住民がいればゼウス達を追い出そうとするロキとロキに賛同した神々と対立する。それを避ける為にどこかに集められているのだろう」

 

「あーじゃあギルドのロイマンか。はっ、あのクソエルフらしいな」

 

マキシムの予想は当っており、ロキとフレイヤがゼウス・ヘラファミリアに攻撃を仕掛ける時間帯は黒竜討伐失敗についての発表があるとし、殆どの住民がギルドやバベルへと向かっており、今残っている住民がいるとすれば病気や、動けない老人、ダイダロス通りの住民という状態で、今のオラリオはゴーストタウンに近い状態だった。

 

「じゃあ、なんだ。ロキに賛同してない神やファミリアは?」

 

「そっちは多分神会を理由にして集められているな、今頃ロキとフレイヤがいないことに気付いて神会を中止しようとしているんじゃないか?」

 

ロキとフレイヤに賛同しないであろうアストレアやガネーシャと言った善良な神々もまた神会を理由に集められていた。

 

「つまりあれだな。カワサキがいないと俺達は死んでいたと」

 

「間違いないな。感謝してるぞ、カワサキ」

 

「感謝されるほどの事でもねぇけど、礼は受け取っておくぜ、ザルド」

 

カワサキのポーションが無ければ動ける段階に回復しておらず、襲撃を仕掛けてきたロキファミリアによって全滅していたのが容易に想像できるので、本当にカワサキには助けられたなと思っていると馬車の外から大声が響いてきた。

 

「マキシムッ! ザルドッ!! 勝負だ! 俺と勝負しろッ!! 勝ち逃げなど許すものかッ!! 俺と戦えッ!!」

 

聞き慣れたクソガキの声がした。遠巻きで見ている者が多い中、俺と団長を名指しした馬鹿に俺は喉を鳴らしながら立ち上がった。

 

「団長。ケリをつけてくる」

 

「ああ、あの馬鹿の高い壁になってやれ」

 

団長の言葉を背に受けて俺は馬車から降りて、勝負しろと叫んだクソガキ……オッタルを睨みつけた。

 

「ザルド……勝負だ」

 

「良いぜ、相手をしてやるよ。クソガキ」

 

ヘラファミリアの面子と戦いボロボロで今にも倒れそうなのに、立ち向かってくるオッタルに俺は笑みを浮かべ、手にしていた大剣を振りかざし、無造作に振り下ろした。

 

「が……ぁ」

 

ボロボロのオッタルは一合も俺と打ち合えなかった。手にしていた剣を砕かれ、鮮血を撒き散らしながらオッタルは仰向けに倒れた。そもそもヘラファミリアに突貫した後に俺と戦おうと言うのが土台無理な話だ。まぁそんな状態で俺と団長と戦おうとしたそのガッツは買うけどな。

 

「く……そ……行くな……行くな……俺はまだ……勝って……」

 

行くなというオッタルの前にカワサキから貰っていたポーションの瓶をおいた。

 

「悔しかったらもっと強くなるんだな、クソガキ。今のお前じゃ弱すぎて遊びにもならねえよ」

 

悔しそうに顔を歪めるオッタルに笑みを浮かべ再び馬車へ乗り込んだ。

 

「なんだ、骨のある奴もいるな」

 

「ああ。俺達に何度も挑んで来たガッツのある馬鹿だ。所属してるファミリアが悪すぎたな」

 

「あの色ボケの所だからな、だがあいつの越えるべき壁として最後の仕事はしたな」

 

これであのクソガキが奮起するのか、折れるのか、まぁとにかくでかい壁として立ち塞がる事は出来ただろう。

 

「ヘラよ! 我が愛する妻よッ! 迎えに来た、オラリオはワシらをいらぬと言うッ! ならばワシらはオラリオを出ようぞッ!!」

 

そんな事を考えていると大声でヘラを呼ぶゼウスの声がする。気になって馬車から顔を出すとヘラがドレスの裾を押さえて飛び降り、それをゼウスが抱きとめている姿が見えた。

 

「迎えに来るのが遅いぞ、ゼウス」

 

「はっははっ! すまんすまんッ! ワシらの邪魔をする連中を片っ端から吊るして来たのだ、見てみるがいい」

 

抱き止めたヘラを隣に降ろしゼウスが振り返り、両手を広げる。そこにはありとあらゆるファミリアの団長、あるいは主神が簀巻きになって吊るされていた。それを見たヘラは心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「もっとやれば良い物を」

 

「お前を迎えに行くのを最優先としたのだ。さぁ、行こう! このままオラリオを出て旅行にでも行こうぞ」

 

「ふふ、それも良いな。我が眷属達よ! 馬車へ乗れッ! 行くぞッ!」

 

ヘラの号令でヘラファミリアの生き残りも負傷者達に肩を貸し、ゼウスの用意した馬車へと乗り込み、ヘラファミリアのエンブレムを馬車へと掲げる。大通りを進む馬車を止めるものはいない。ロキ・フレイヤファミリアを一蹴し、堂々と大通りを通りオラリオを出て行くゼウス・ヘラファミリアは黒龍の討伐にこそ失敗したが、その力は今だ健在であるという事を示した。堂々と大通りを進み、ゼウスファミリアとヘラファミリアはオラリオを出て行く、それはロキとフレイヤの望んだ結果ではあるがロキとフレイヤが勝利して齎された結果ではない。ゼウス、ヘラファミリアがいなくなればロキ、フレイヤファミリアはオラリオの最上級ファミリアへと至る。だがオラリオの住人は知っている、本当の最強のファミリアはどこなのか全員が知っている。ロキとフレイヤが手にしたのは仮初の最強という張子の虎の称号なのだった……。

 

ゼウスとヘラファミリアがオラリオを出て7年後、とある田舎の農村で……。

 

「おじさん、だあれ?」

 

「よお、坊主。お前さんのお母さんに会いに来たんだ」

 

白髪に紅目の少年と、鋭い目付きの黒髪の男が出会い、その少年に大きな影響を与える事となるのだった……。

 

 

 

メニュー11 お好み焼き へ続く

 

 




はい、えーっとまずはすいません。ロキとフレイヤ、そしてその団員も嫌いではないのですが……ここだけはどうしてもアンチ気味となりました。カワサキさんの俺ツエーを描きたいわけではなく、これほどカワサキさんが暴れるのはこれが最初で最後かつ、アンチも恐らくこれで最初で最後となると思いますのでご了承願います。
後次回は7年後、エレボスがアルフィア達に会いに来る少し前からはじめたいと思います。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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