ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー13 極辛麻婆豆腐

 

メニュー13 極辛麻婆豆腐

 

私は……いや私だけではなく、マキシムやザルド、セラスも目の前に広がる信じられない光景に言葉を失った。

 

「相変わらず美しいな、我が愛は」

 

「も、もう……ッ! 貴方ったら」

 

爺とヘラがイチャイチャしている……信じられないほどにイチャイチャしている。

 

「俺の目は腐ってしまったのか?」

 

「ザルド、俺の目にも同じ物が見えている」

 

「馬鹿な……何があったというんだ……ッ!?」

 

爺が髭を剃り、髪を整えているだけでも信じられないというのにヘラへの愛を囁いている。幻覚かそれとも幻かと目を擦るが目の前の光景は変わらず、それ所か爺がヘラを抱き上げて花畑で回っている。楽しそうなヘラの笑い声と見たことのない笑顔に頭が痛くなってきた。

 

「な、何が起こっている……?」

 

「天変地異の前触れか……?」

 

爺とヘラは決して仲の悪い夫婦ではない事は知っている。神であり、長い年月を夫婦だったからか互いが一緒にいて当たり前という認識であり、爺はどれだけ浮気や覗きをしてもヘラが愛想を尽かすことが無い事を知っていて、ヘラもまた自分の凄まじい独占欲を自覚しており、どれだけ自分が嫉妬し、爺に攻撃を加えても爺が自分に愛想を尽かすことが無い事を知っている。神特有の長い年月を生きて暇を持て余しているからこその刺激のような部分がいるとヘラはかつて私に語っていたことがあったが……もしかすると以前は爺とヘラは見ているだけで胸焼けしそうな馬鹿夫婦だったのだろうか。

 

「おばあちゃんとおじいちゃんなかよし!」

 

「そうねーベル、お爺様とお婆様は本当に仲良しねー?」

 

「ねー?」

 

メーテリアとベルはこの異常事態を前にしても何時も通り。爺とヘラの異常行動を前にして癒される光景だが……爺とヘラに何があったのかとザルド達と首を傾げていると川釣りに言っていた愚弟が帰ってきて、今も回転している爺とヘラを見るなり手にしていた魚籠と釣竿を投げ捨てて私達の方へと走り出した。

 

「カワサキーッ! ゼウスのじい様で実験するって言っていたがお前何をしたーッ!?」

 

聞き捨てならないセリフを叫び、カワサキの為の新居に駆け込む。

 

「カワサキが実験? その結果があれか?」

 

「……あいつ何をしたんだ?」

 

「分からぬ。分からぬが……多分あれじゃ、ヘラが頼んだ可能性が高い」

 

「それは……そうかもしれないが、神の人格を変える様な真似をカワサキが出来るのか……やりそうだな」

 

出来るのか? と一瞬疑問に思ったがカワサキならやりかねないし、出来ると思ってしまった。

 

「何ってあれだろ。ほら、昨日アルトとヘラが言っていたオラリオを何とかする為の料理を食わせただけだが?」

 

「おかしくないか!? 異常だろ!?」

 

花畑の中でヘラに膝枕されている爺とそんな爺の頭を撫でているヘラを見る。愚弟と同じ意見と言うのは遺憾ではあるが……。

 

「爺にカワサキが何をしたのか聞くべきではないだろうか? もし知らずに食べてしまったらと思うと正直私は怖い」

 

そう言いながら爺とヘラに視線を向ける。

 

「良い天気ですね、貴方」

 

「うむ、太陽も美しく、花もまた美しい。我が愛の美しさには劣るがな」

 

「も、もうッ! 貴方ったら」

 

「ははははは」

 

あれは本当に爺とヘラか? 顔だけそっくりな別人じゃないかと思うほどに性格が変わってしまっている爺を見る。ザルド達を見るとザルド達も深刻な顔をしていた。

 

「聞いておこうと俺は思う」

 

「賛成」

 

「反対する理由が無いな」

 

「よし、では行こう」

 

カワサキが爺に何を食わしてああなったのか、自衛の意味も込めてカワサキに尋ねに行ったのだが……。

 

「目があッ! 香りだけで目が痛いッ! 鼻がぁッ!!」

 

「ええ、大袈裟だろ。これは食い物だぞ? お、アルフィアも食べてみるか? 美味いぞ」

 

真っ赤でボコボコと煮立ってる何かを勧めてくるカワサキに聞くまでも無く、あれが原因だと私達は一瞬で悟るのだった……。

 

 

 

 

ゼウスの爺さんとヘラが居なくなった事で抑止力が無くなり、好き勝手している邪神とその眷属を何とかする手段として俺が閃いたのは激辛料理をぶち込む事だった。別にこれは悪ふざけや嫌がらせなどではなく、ユグドラシル時代のゲームの法則に乗っ取っての考えだ。ユグドラシルは種族レベルや職業レベルで自由度が半端無かったが、逆を言えばビルドに合わないスキルや職業を取ってしまい、本来必要なスキルや種族レベルを獲得出来ないという現象が多々あった。それの改善策の1つが○○を殺す香辛料シリーズだ。この○○だが、実は全てユグドラシルの種族の名前を冠した香辛料であり、その香辛料を使って料理を作ればその種族レベルに応じての確率で種族レベルを下げることが出来るのだ。

 

「まぁ俺達には殆ど効果が無かったけどな」

 

その道を極めすぎているアインズ・ウール・ゴウンのギルメンでは失敗続きで種族レベルを下げれたのは殆どいなかったが、副次効果としてある効果がある事が判明した。それは種族、職業レベルによるステータスの成長補正の変更だ。例えばやまいこが選んだネフィリムは特定のステータスが上がりにくいが、それ以外のステータスは爆発的に伸びるなどの特性があるが、それを特定のステータスが爆発的に伸び、それ以外のステータスも平均的に伸びるといった風に種族、職業によるステータス補正を変化させる事が出来たのだ。これを上手く使えば邪神の考え方を変えることが出来るのではないか? と考えたのだ。そしてステータス補正の変更は香辛料を使えば使うほどに成功率が増すつまり……辛ければ辛いほど成功すると俺は考えた。殺しても死なないほどにタフなゼウスの爺さんなら実験台に申し分なく、ゼウスの爺さんの浮気癖や、覗き癖を無くせる可能性があると説明すればヘラも承諾してくれたので、これで何の心配も無く実験が出来る。

 

「まずはっと」

 

中華鍋にごま油を入れて、そこに殺すシリーズの鷹の爪を輪切りにした物と山椒を加えるのだが……。

 

「まぁ適当にやってみるか」

 

神を殺す香辛料と言うのは流石に無いので、天使を殺す香辛料などのカルマ値が善よりの職業や種族に効果のある香辛料を大量に使う事にする。そこにおろしにんにくとおろし生姜を加えて全体を良く混ぜ合わせる。

 

「ごほっ! 流石に痛いか、マスクしよう」

 

香辛料を使いすぎて目と鼻が痛いのでゴーグルとマスクを付けて弱火で焦がさないように丁寧にじっくりと炒める。

 

「こんなもんだな、次っと」

 

程よく炒める事が出来たら若干甘みのあるマイルドな辛さの赤味噌の甜麺醤、甜麺醤に似ているが唐辛子が入っていてかなり刺激と辛さが強い豆板醤、そして赤味噌を加え、味噌が焦げやすいので焦がさないように気を使って匂いが立ってくるまで丁寧に炒める。

 

「おっし、こんなもんだな」

 

味噌の香りがしてきたら豚挽き肉とネギを加え、味噌と絡めながら豚肉の炒め色が変わったら鶏がら出汁を加えて焦がさないように時々鍋を混ぜながら煮詰める。その間に沸騰したお湯の中に賽の目に切った豆腐を入れ湯通しする。豆腐が入った事でお湯が冷め、再び沸騰してきたら豆腐を鍋から取り出して水気を切ったら、肉味噌の中に豆腐を入れる。この時すぐに肉味噌の中に入れないと豆腐がくっついて崩れやすくなるので湯通ししたらすぐに肉味噌の中に入れるのが大事なポイントだ。

 

「頃合だな」

 

豆腐を肉味噌で煮て肉味噌がグツグツとしてきたら火を止めて水溶き片栗粉を加える。この時に力任せに混ぜると豆腐が崩れてしまうのでお玉の裏で押すようにして優しく混ぜる。肉味噌に良い具合にトロミがついたら火をつけて仕上げにラー油を入れて軽く煮詰めたら完成だ。

 

「ヘラ、出来たぞ」

 

「ようやくか、さ、貴方。ご飯ですよ」

 

「無理じゃって!? そんなの食べたらワシは死ぬッ!!」

 

丸太に縛られて逃げられない状態のゼウスの爺さんが食べたら死ぬ、食べたら死ぬと叫んでいる。

 

「大丈夫だ。ゼウスの爺さんにアレルギーはない、これを食べても死なないさ」

 

「味覚が死ぬと思うんじゃけど!? ヘラ勘弁してくれッ!!」

 

まぁ味覚は死ぬかもしれないが、生命活動っていう意味で死ぬことはない筈だ。

 

「貴方、あーん」

 

「むーむーッ!!」

 

ヘラがスプーンで麻婆豆腐を掬い、ゼウスの爺さんの口へ運ぼうとするがゼウスの爺さんは最後の抵抗と言わんばかりに口を閉じる。

 

「仕方が無い、カワサキ。向こうを向け」

 

「……オーケー。向こうと言わず出て行くよ」

 

ヘラの雰囲気からここに残るべきではないというのが分かり、むーむーと叫んでいるゼウスの爺さんを無視して部屋の外へでる。

 

『ぶっほ!? 『はい、あーん』がぼおッ!? あごがががが』

 

「まぁ夫婦だし、俺にゃぁ関係ない。後は性格ガチャが上手く行くかどうかだなあ」

 

ただあの爆発したみたいな音は鼻血が噴出した音だろうから、後で掃除するのが面倒だなと思ったのだ。

 

 

「んで、その結果があれだ。もう立って良い? それか正座は良いんだけど石だけでもどけて欲しいんだけど」

 

性格が変わるかもしれない料理の段階でアルフィアとセラスに正座と言われたので正座をして、膝の上に石を乗せられていた。そろそろ足が痺れて来たし、膝も痛いので石をどけるか立って良いかと尋ねる。

 

「なんて恐ろしい物を作るんだ……ッ」

 

「ゼウスのエロ爺がヘラ大好きになるなんて……ッ」

 

「聞いてる? ねえ? 俺の話2人とも聞いてる?」

 

俺の麻婆豆腐の作り出した惨状に畏れ慄いているアルフィアとセラスは俺の問いかけに返事を返してくれず、俺はいつまで石抱きして正座していれば良いのだろうかとザルドとマキシムに視線を向けたのだが、ザルド達は薄情にも俺に視線を合わしてくれることはないのだった……。

 

 

 

 

結婚した当時のように私に愛を囁いてくれるあの人との逢瀬を楽しみ、自分でもあり得ないくらい充実した気持ちでカワサキに感謝を告げる為にカワサキの家に足を踏み入れたのだが……黄色い亜人の姿で後で手を縛られ石抱きしてるカワサキとその回りでうつ伏せで倒れているアルフィア達という惨劇に頭痛を覚えた。

 

「何をしている?」

 

「アルフィアとセラスがゼウスの爺さんに起きてる事を知って正座しろって言うから、正座したら石を乗せられた。アルフィア達は厨房のドアを開けて料理の余波で全員気絶したから逃げようにも逃げれんし、指輪もつけてないから叫んで助けを求める訳にも行かないからどうしようかと……助けてもらえるととてもありがたい」

 

「私の依頼通りの事をしてくれたからな、すぐにどけよう」

 

あの人の浮気癖が無くなり、私への愛を囁いてくれる。正しく私の依頼通りなのでカワサキの手を縛っている縄を切るとカワサキは自分で石を退かして立ち上がった。

 

「あーいたた、しかしまぁ。香辛料が効いた料理ってこの世界じゃあんまり知られてないのか?」

 

「カレーとかくらいだと思いますよ。確か」

 

香辛料自体が中々入手が難しいのもあってあまり香辛料の効いた料理というのは聞かない。デメテルファミリアのような食料生産を行なっているファミリアなら香辛料も製造しているが、基本的に自分達のファミリアが関係してる店にしか卸さないので広く流通はしていない。

 

「ふーん、そんなもんか。んで、どうだろうか? これで邪神の性格を皆変えてしまうっていう計画は」

 

「悪くないと思いますね。ただ作った残り香だけで気絶する人間がでるのは問題ですが……」

 

刺激のある香りと言えば聞こえは良いが、目や鼻に激痛が走るのは些か問題があるが、あの人を昔の性格に戻してくれたこの麻婆豆腐という料理は今オラリオに屯している神という名の害虫駆除に使えるとは思う。

 

「ただあの性格になるまでに5~6回食べさせましたからね」

 

「ランダム性があるのが欠点だな、だが元の性格が悪すぎるならそれより悪くなる事はないだろ」

 

確かにそういう考えもありますね……ならあの害虫と寄生虫に麻婆豆腐を食べさせるのは良い考えだ。嫌がらせにもなるし、料理なのでガネーシャファミリアやアストレアファミリアに咎められる事も無い。

 

「だがそうなると7年過ぎても全く成長していない連中はどうするか」

 

私とあの人を追放しようとして返り討ちにあった挙句、仮初の最強という張子の虎。7年も経てばレベル7・8くらいにランクアップするかと思えばそれすらもない。唯一あのビッチ神の所の眷属のオッタルだけがたゆまぬ研鑽でレベル8に最も近いレベル7と言われているらしいが、それですらザルドやアルフィアの足元にも届いていないと言うのだから全く持って頭がいたい。

 

「ダンジョンなど無くともアルフィア達はレベルアップしているというのに」

 

黒龍と戦い生き残ったというのが偉業扱いだったのか私とあの人のファミリアの眷属は全員レベルアップしている。最もレベルアップに適したオラリオにいるというのにこの体たらく……闇派閥の抑止力にすらなれないというのも納得だ。

 

「それなんだが、俺にとても良い考えがあるんだが」

 

「ほう? 何を考えたのです?」

 

「レベルアップのシステムは偉業と経験値(エクセリア)を溜める事で出来るんだろ?」

 

「ええ、それに恩恵(ファルナ)によって冒険者はレベルアップします」

 

ほかにも色々とルールはあるが、恩恵・経験値・偉業の3つでレベルアップの法則だ。

 

「経験値が増えてない分だけでペナルティを与える料理を作るのはどうだろうか? 味は普通に美味くなるが」

 

ペナルティ、確かに7年もレベルアップしていない事を考えれば経験値が全く増えていないのは間違いない。それだけのペナルティならばかなり重い物になるだろうが……。

 

「ちなみにそのペナルティはどうなる?」

 

「太るとか禿げるとかどうよ?」

 

「採用」

 

どう考えたってあの馬鹿共に大ダメージを与える事の出来るペナルティであり、私は迷う事無くカワサキにGOサインを出すのだった……。

 

 

下拵え 悪神の誘い へ続く

 

 




激辛麻婆豆腐で性格チェンジ、そして経験値が増えてないほど禿げる、太る呪いが付与されたスイーツ類によるテロを目論むカワサキとヘラ。これでオラリオの暗黒期も僅かに改善する事でしょう。次回は悪神の誘いという訳でエレボスを交えて見たいと思います。そこからは暗黒期(?)編に突入ですかね。麻婆豆腐と食べたら剥げたり、太ったりするスイーツを手にカワサキさんがオラリオを跳ね回る予定ですのでどんな展開になるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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  • 間違っていない

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