ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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幕話 その2

幕話

 

昨日の臨時神会の場で私がギルド長に就任する事が発表された。ウラノスの本気具合を示し、ギルド長はギルドのトップではなく、あくまで役職として、真のトップはウラノスであるというのをこれでもかと示す事が出来たのは良いが、それで問題が解決したかと言うとそんな事は無く、問題はいまだ山積みだ。

 

「市民からの突き上げはどうだ?」

 

「酷い物だ。ロイマンとロイマンの私兵を出せばその瞬間に殺されるぞ」

 

ゼウスとヘラについてギルドからの公式発表があると聞いてバベルとギルドに集まっている間にゼウスとヘラはオラリオを出てしまい、その襲撃に関与していたファミリアと主神はほぼ全てが屋根から吊るされていた事で誰が原因かというのを市民達は知ってしまっている。

 

「公式発表はしたのか?」

 

「今の段階で出来る段階の事はした。だがそれでこの火が消えるとは思えんな」

 

ファミリアと関係のない市民達はゼウスとヘラがいればオラリオは安全だと思っていた。そのゼウスとヘラがいなくなり、闇派閥の脅威に脅える市民達の怒りはゼウスとヘラがオラリオを出た原因であるロキに向けられている。

 

「美神はそれほどではないのか?」

 

「オッタルが真っ向から勝負を挑んだのを見ていた者がいる。オッタルのお蔭でフレイヤはロキほどは責められてはいないっという所だな」

 

とは言えそれも微々たる物でロキの口車に乗った者は市民は勿論ファミリア、主神同士の間でも爪弾き者になりつつある。

 

「明日の臨時神会だが、私にある考えがある」

 

「何をするつもりだ?」

 

「今のギルドには武力が無い、武力が無いギルドは抑止力になりえない。ギルド抱えの冒険者を徴兵する」

 

「……荒れるぞ、愚者よ」

 

「それでもだ。それでも必要だと私は提案する」

 

今までのギルドとは違うと言う証明であり、ギルドにも抑止力としての機能を持たせる為に必要不可欠だと私は考えている。

 

「仮にだ。仮入団から本入団になる時、そしてギルドの内情調査の際に私ならなんとでもなる。だが他のギルド職員ならどうだ? 冒険者に囲まれ、問題があるのに問題があると報告出来ないような事態になる方が問題ではないか?」

 

「……一理ある。が、ギルドの兵はどうする?」

 

「探索系ファミリアの指南役をやっている半ば引退している冒険者に声を掛けてみようと思っている。ロイマンの私兵と異なり人格面、戦闘面に優れた者達が必要だ。すぐには集まらないと思うがそれでもギルドを抑止力にするのならば必要だ」

 

繰り返し必要だと言うとウラノスは迷う素振りを見せたが頷いた。

 

「良かろう。許可する、今日の神会での議題にする」

 

「感謝するウラノス」

 

仕事が多すぎると文句も言いたくなるが、それでもギルド長に就任したのだからギルドの正常化の為に動くのは当然だ。

 

「しかしこうも臨時神会が多いと祈祷は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫では無いがやらざるをえん。まずは男神達を失ったオラリオをどうするかが全てだ」

 

ダンジョンのモンスターを押さえ込む祈祷すら中断しなければならない程の今のオラリオの状況は悪い。ゼウスとヘラを失った穴は私とウラノスが考えているよりも遥かに大きかった。

 

「では行くとしよう。怒号が飛び交う神会にな」

 

「……気が重くなるな」

 

神会の場は毎回怒号の嵐、自分達は悪くないと叫ぶ神に、ロキとフレイヤに唆されたと言う者達ばかりで酷く醜い状況だが、それでも今は神会を開催し、オラリオを正常化する為に舵きりする必要があるのだ。私とウラノスは溜息を吐きながらギルドからバベルへ向かい、やはりというか、やっぱり怒号の嵐となったことに胃痛を覚えながらロキとフレイヤ達に課す罰金、そしてギルドお抱えの冒険者についての話を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

机の上に置かれているギルドの新長のフェルズのサインが書かれた羊皮紙に書かれた請求金額を見て、うちは深い深い溜息を吐きながら、その羊皮紙をリヴェリアとガレスにも回す。

 

「だからやめておけと言ったんじゃ。馬鹿が」

 

「私とガレスの意見を完全に封殺して、フィンと勝手に盛り上がった結果がこれか」

 

ゼウスとヘラに戦争遊戯を仕掛けることに最後まで反対していたリヴェリアとガレスの言葉にうちは呻く事しか出来んかった。賠償金として請求された金額はファミリアの総資産の7割と暴利に等しいが、それでも払わない訳には行かへん。ゼウスとヘラに破れ、叩き伏せられたうち達のせいでオラリオはこれから大変な事になる。その責任を追及されての金額や……払わないとあかんと分かっていても、どうしてもむかっ腹が立つ。

 

「でも、あの黄色い亜人がおらんかったら……」

 

黄色の亜人に壊滅させられたのであって、あれがいなければと思ったが、ガレスたちの意見は違うよう。

 

「最強と暴喰が健在だったんじゃぞ? 勝てるわけがなかろう」

 

「私も同意見だ。止め切れなかった私達も同罪だが、強行したロキとフィンが悪い」

 

最悪の場合に仲裁に入る為に同行していたリヴェリアとガレスも一蹴され、協力してくれていたうちの眷属達も全員がほぼ一撃で叩き伏せられた。余りにもあの亜人は強すぎた。やけどそれよりも黒竜はなお強い。

 

「……フィンは?」

 

「部屋に閉じ篭って出てこんわッ! 責任すら果たそうともせんッ! ミアやオッタルと比べてなんと情け無いことかッ!」

 

ガレスの言う事も最もや。しかし小人族の復興を願っていたフィンは今回の事で小人族の面汚しと呼ばれるようになってもうた。自身のせいで小人族の権威を更に落としたことにフィンは自責の念で塞ぎ込んどるらしい。

 

「勝てると……思ったんやけどなぁ……」

 

勝てると思ったのだ。黒竜にも、ゼウス達にも勝てるとそう思っていた。だがそれが慢心であり、眷属達も深く傷つけた事にどうしてあんな事をしてしまったのかと後悔してもやってしまった事はもう戻らない、市民からも、他のファミリアからも、神からも爪弾きにあいながら少しずつ名誉挽回していくしかないのだが……元通りになるまでにどれほど時間が掛かるのか、それを想像するだけで、その間に眷属達が傷付き続けることにうちはなんちゅう事をしてしまったんやと深く深く後悔するのだった……。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、皆。私のせいで……」

 

「反省しな、アホ娘。ったく、ヘラに負けた事でオラリオをでて伴侶探しを出来ないから戦争遊戯を仕掛けたとか馬鹿なのかい?」

 

「ミアッ!」

 

「甘やかすから悪いんだよ! この馬鹿共ッ! あたしは前も言った通りこのファミリアを抜ける。暫くは旅にでも出るさ」

 

「ミア……」

 

「なんだい、アホ娘」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝るくらいなら最初からやんじゃないよッ! あたしゃこんな阿呆な事はするなって最初から言ったろうッ!」

 

ミアは最後までフレイヤを怒鳴り、戦いの野を出て行った。だがミアの背中を睨む者も、恨む者もいなかった……。

 

「最後まで団長に迷惑を……」

 

「……行き先は」

 

「間違いなく……」

 

「ヘラとゼウス……」

 

「謝りに行くのか……」

 

フレイヤファミリアの全員が分かっている。今回の襲撃に関与したファミリアの団員達は脱退も改宗も出来ず、オラリオから出ることも許されない、そんな中でミアだけが特例として脱退と改宗を認められた。それは襲撃の前に既に団長の地位を剥奪され、ファミリアに幽閉されていたからだ。ミアはもうフレイヤファミリアに関わらなくても良い、それなのに憎まれ役を買って出てくれたことに団員全てが感謝していた。

 

「オッタルは?」

 

「ダンジョンだ。1人でひたすら修練を積んでいる」

 

「そうか、なら俺達もこんな所で留まっている場合ではないな、フレイヤ様を頼むぞ」

 

「俺達は落ちるまで落ちた」

 

「なら後は這い上がるまで」

 

「待っていてくださいフレイヤ様」

 

「必ず失った名誉を取り戻して見せます」

 

ロキファミリアと異なりフレイヤファミリアはまず行動に出る事でファミリアの復興へと動き出し、これがロキファミリアとフレイヤファミリアの明暗を分けることになるのだった……。

 

 

 

雲1つない快晴、草原には爽やかな風が吹き、実に良いピクニック日和だ。ピクニックはしてないが、それでも自然の中にいると気分が和らいでくる。

 

「……何故こうなるんだ?」

 

「分からん」

 

「分かりません?」

 

「え? 私達の女子力低すぎ……?」

 

簡単な料理を教えて欲しいと頼んできたメーテリアに料理を教えている内にアルフィア達も加わって来たのだが、誰もが誰もまともに料理が出来ていない。

 

「やれやれ、我が団員ながら情けないな」

 

「セラスは料理上手だったんだな」

 

「嗜みだ。そして花嫁修業でもある、ヘラの指示でな」

 

なるほどなあ……ヘラはゼウスの爺さんが問題ばっかりを起こすので怒りがちだが、割りとまともというか子煩悩な所がある。冒険者を引退した後の事も考えて料理を学ぶようにと言うのも良く分かるのだが……。

 

「問題が多すぎるぜ、ヘラ」

 

「……すまぬ」

 

包丁すらまともにもてない(まともに持たなければ使える)。腹を下すなら焼きすぎれば良いとでも言わんばかりの蛮族が多すぎた……。

 

「だから無理だって言いましたよね、カワサキさん」

 

「ここまで問題児しかいないと思って無かったんだよ。雫」

 

女所帯でここまで料理が駄目とか想像なんて出来るわけが無い、というか下手をするとゼウスの爺さんの所の方が料理出来るかもしれないってレベルでヘラファミリアの面子の料理センスは壊滅的だった。

 

「とりあえずまずは簡単なサンドイッチから始めるか」

 

切る、塗る、挟むなら問題なく出来るだろうと思いサンドイッチを作り始めたのだが……。

 

「何故焦げるんだ?」

 

「「「さぁ?」」」

 

火を使ってないのに焦げているサンドイッチを練成する料理音痴共に流石の俺もこのレベルの料理音痴をどうすれば料理を作れるように出来るのかはいくら考えても分からなかった。

 

「戦える者は馬車に乗れ! 緊急事態だッ!」

 

「なんだ、どうしたザルド!?」

 

「草原の獣人の村の近くに馬鹿でかいモンスターが出やがった! 討伐に出るぞッ!」

 

ザルドの言葉にアルフィア達は馬車に乗り込み、轟音を立てて走り出す馬車を見送った俺達は山積みの焦げたサンドイッチの事を思い出した。

 

「どうするよ、これ?」

 

「どうしましょうか……」

 

戦闘の轟音が風に乗って響いて来る中、この何故か焼いていないのに焦げているという謎のサンドイッチの山をどうするかと頭を悩ませ……。

 

「勿体無いけどパン粉にして揚げ物にするか?」

 

「と言うかそれくらいしかないですよね。なんでこんなに焦げてるんですかね」

 

「分からない、謎過ぎる……」

 

勿体無いがそれしかないかと俺達はこげたサンドイッチに手を伸ばし、持ち上げた瞬間に風化したサンドイッチに全員絶句した。

 

「なぁ、あいつらこれで料理出来るとか言ってたのか? これ料理じゃないと思うんだが」

 

「こ、ここまで酷くは無かったはずなんですけどね……」

 

「すまない、私が無理難題を頼んでしまったのだ。本当にすまない」

 

触ることも出来ない物体Xを練成したアルフィア達に絶句している俺達にヘラが本当に申し訳ないと謝罪してくるが、こんなの誰も想像出来なかったわけで、誰もヘラを責める事無く、この風化してしまうサンドイッチの後片付けを俺達は無言で始めるのだった……。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない

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