ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー15 おにぎり

メニュー15 おにぎり

 

エレボスが随分と米を気に入っていたようなのでおにぎりを弁当として持っていくことにした。それに昼前についたとしてもオラリオには入れるのは夕暮れ、ヘタをすると夜になると聞いたので腹持ちの良い方が良いと思ったのもあるし、もう1つ俺に思惑があるというのもある。

 

「俺達と同じでオラリオに入れるのを待ってる奴にも配るのか?」

 

「欲しいって言われたらな。顔は売っておいて損はない、違うか?」

 

ミネラルウォーターで洗った米を蒸らしている間にこんなに作るのか? と尋ねてきたエレボスにそう返事を返す。

 

「流石に店までは出せないぞ?」

 

「出すつもりはねえよ、今はな。俺がやりたいのは炊き出しだ。その為に料理人って言うのを印象付けたい」

 

アルトがダイダロス通りの孤児を随分と気にかけていたこともあってなと付け加える。

 

「孤児……か。闇派閥の連中が孤児を利用してるから深入りすると危ないぞ?」

 

「そういうのは慣れてるから問題ないさ、蒸らしも終わったし、すぐにおにぎりを準備する。エレンは出発の準備を頼むぜ」

 

「分かった。だが孤児に深入りするなよ? これはお前を心配しての事だからな」

 

「分かってる、心配してくれてありがとう」

 

孤児に深入りするなともう1度俺に忠告し、厨房を出ようとするエレボスの背中に心配してくれてありがとうと声を掛ける。エレボスは振り返らなかったが、右手を上げて軽く手を振ってくれた。

 

「あいつが悪神とか絶対なんか間違ってるな」

 

絶対エレボスは悪神なんて柄じゃないよなと思いながら釜の蓋を開ける。

 

「良し、完璧」

 

米が立った完璧な仕上がりに1人頷き、米を炊いたのと同じミネラルウォーターに手を浸してから塩一つまみ……と言っても手がぬれているので指先にも塩がしっかりとついている。それを両手に良く馴染ませて米を潰さないように、掬いあげるように米を手の上に乗せる。この時に米が多すぎても駄目なので手の平をくぼませて、その内側に収まるくらいを目安だと俺は思っている。

 

「気をつけてと」

 

指先で米の真ん中を窪ませるのだが、この時も米を潰してしまわないように細心の注意を払う。そして窪ませた所に解した鮭を乗せるのだが、この時に米全体に入れるのではなく、窪ませた所だけで入れるように注意する。

 

「米の味も台無しになるからな」

 

折角米と水に塩に拘っておにぎりを作っているのだ。米の味もしっかりと楽しめるように中の具材は入れすぎないようにするのがポイントである。

 

「ほっと」

 

そしてもう片方の手で同じ位の米を取り、具材を乗せている米の上に被せるようにし上下の米を馴染ませるように回転させて境目が良く馴染んだら力を軽く込めて△型に握る。だが握るといっても力を入れすぎず、そしてきっちり三角になるように握るでもなく、僅かに丸みを帯びた三角になるように握れば完成だ。

 

「よーし、どんどん行こう」

 

ツナマヨに鮭に漬物と中の具材は沢山あるのでどんどん握っていこう。余ったら余ったで保存すれば問題ないのだからと思い俺は釜の中の米全てをおにぎりにし、海苔はしっとりよりもパリの方が好きなので海苔に保存を掛けてしっとりとならないようにして、完成したおにぎりを全てバスケットに入れて厨房を出る。

 

「悪い、待たせた」

 

既に準備を終えていたエレボスにすまないと頭を下げる。

 

「気にするな。それにオラリオで何か騒動が起きていたら街中に入るのも時間が掛かるからな、飯を作っておいて貰えるのはありがたい。

では行くか」

 

エレボスの言葉に頷きグリーンシークレットハウスをアイテムボックスの中に格納し、俺とエレボスはオラリオへ向けて歩き出すのだった……。

 

 

予定通り昼前に俺とカワサキはオラリオに来る事が出来たのだが、闇派閥のテロという想定外の出来事があって俺とカワサキだけではなく、商品を運んできた商人やその護衛の冒険者達や、オラリオが危険だと知り冒険者を辞めるように説得に来たであろう夫婦……様々な者達が閉じられた門の前で4時間近く立ち往生を余儀なくされていた。

 

「お願いします、通してください。4時間も馬車の中に商品を入れていたら全部駄目になっちゃいますって」

 

「そうですよ、肉や魚も運んで来ているんですから本当勘弁してくださいって」

 

ガネーシャファミリアの団員に門を開けてくれと商人達が頼み込むが、団員達は申し訳無さそうに首を左右に振る。

 

「申し訳ありませんが中から許可が出るまでは開ける事が出来ません」

 

「駄目になった商品に関してはギルドのほうで賠償金が出ます。こちらの紙に納品先と名前を記載してください」

 

どれほど頼み込んでも駄目だとわかり、商人達は団員から紙を受け取り、トボトボと馬車へと戻ってくる。

 

「商人にとっては辛いな、やれやれ俺を運んでくれた爺さんは大丈夫かね」

 

「お前はお前で何をしてる?」

 

そんな商人を見ながら摘んできた野草をナイフで切り分けているカワサキに何をしていると尋ねた俺は絶対に悪くない。

 

「何って昼飯の準備だが?」

 

この状況で平然と昼食の準備をしているカワサキは本当にマイペースが過ぎる。そんな事を考えながらカワサキの手元を見て、俺は眉を顰めた。

 

「カワサキ。その野草は不味いぞ」

 

オラリオの周辺で良く生えている野草で、毒は無いがその代り美味くも無い。むしろまずい部類の野草だとカワサキに教えるが、カワサキはからからと笑った。

 

「そりゃお前が調理の仕方を知らないからだよ。まぁ見てろ、美味くしてやるからさ」

 

自信満々でカワサキは野草をどんどん切り分けて積み上げる。鞄から四角い箱のようなものを取り出し、その中心に紅い石をはめ込み、その上に水を張った鍋を乗せる。

 

「それは竈か?」

 

「おう、持ち運び式のもんでな。この魔法石を嵌めこむことで使えるんだ。あんまり火力は強くないんだが、十分使えるだろ?」

 

十分使えるところではない、火を起こさず料理が出来るというのは革命的だ。

 

「あのすいません、その持ち運びの竃はどちらでお買いになられたのでしょうか?」

 

「これか? これは俺の自作だが?」

 

「なんと……あの、これは数を作れたりしませんかね?」

 

「んー出来るは出来ると思うが……後にしてくれないか? 今飯を作ってるところだからよ」

 

「それは失礼しました。私カインと申します、後で詳しくお話を聞かせてください」

 

カワサキの自作と聞いて商人の1人が飛びついてきたのを見て、思わず溜息を吐いた。

 

「面倒な事になるぞ、利権だけは気をつけろよ」

 

「分かってる分かってる。って、良し、こんなもんだな」

 

茹でた野草を鍋から取り出しているカワサキにこいつ絶対分かってないなと確信し、カインという商人との話し合いの場には俺もいるべきだなと思いながらカワサキが敷いてくれていたシートから尻を上げる。

 

「もう少しで出来るぞ?」

 

「すぐ戻る」

 

もうすぐ出来ると言うカワサキに背を向けてガネーシャファミリアの団員の元へ足を向ける。

 

「あ、エレンじゃないですか、いないと思ったら何をしてたんです?」

 

「ちょっと友人に頼まれてな、オラリオに来たいと言っていた奴を連れてきていたんだ。ところで……中の問題はタナトスファミリアか?」

 

俺の問いかけに門番をしていたガネーシャファミリアは俺に向かって手招きする。

 

(はい、また孤児や子を失った親の自爆テロです)

 

(……そう……か。すまない、ありがとう)

 

闇派閥の多くは冥界や死者に関係する神がいる。それらの神は甘言を口にするのだ、自分に協力すれば死んだ子や親に会わせてやると……だが地上にいて神の力(アルカナム)の使用を禁じられ、わずかばかりの権能を使えるだけの神にそのような真似は出来ない。それでも肉親を失った者はその甘言に縋る、縋ってしまう……悲劇の連鎖はいつまで立っても止まらないのだ。

 

(これを見ても何とも思わないのだな、ロキ、フレイヤ)

 

形上は最強であり、オラリオの2大派閥であるロキとフレイヤにもこの問題は伝わっている筈だ。表向きはパトロールなどをしているが、それでも自爆テロは減る所か増える一方……それはロキ達が舐められているという事に他ならない。

 

(オラリオの住人は愚かな選択をしたものだ)

 

ゼウスとヘラを追放する選択をしたのは当時のオラリオの住人の大半だ。それはロキが手回しし、ゼウスとヘラがいなくとも自分達がオラリオを守れるとアピールしていたからだ。ギルドのロイマンも原因ではあるが、正式発表を待たず、ロキとロイマンの私兵の流した黒龍に敗北し、勢力を失ったゼウス達という情報を鵜呑みにし彼らを見限り、ロキとフレイヤの言葉を信じた結果がこれ……自業自得と言えばそこまでだが……それに巻き込まれる子供達が可哀想だ。

 

「エレン」

 

「おっと、すまないな」

 

名を呼ばれ、カワサキに視線を向けるとおにぎりが投げられた。それを受け取り、カワサキの隣に再び腰掛ける。

 

「おにぎりだけじゃなくて卵スープとおひたしもあるぞ」

 

「多すぎないか?」

 

山積みされているおにぎりは到底2人で食べれる量ではなかった。それを指摘するとカワサキはおひたしを頬張って誤魔化し、俺も苦笑しながらおにぎりを頬張る。

 

「……美味いな、これ」

 

口の中でほろりと解ける米、甘さと塩辛さが絶妙で到底米を三角に固めただけの味とは思えず、もう1口、今度はさっきよりも大きく頬張ると中の具材が口の中に広がった。

 

「……んん? なんだこれは」

 

魚の脂と酸味と甘みのある風味が口の中に広がった。米と良く合う味なのだが、これが何か皆目見当が付かなかった。

 

「ツナマヨ。美味くないか?」

 

「……美味い、美味いが……うん。なるほど、ツナマヨというのか…悪くない」

 

全知全能であり、知らない物は無いと思っていたが……そんな俺でも知らない味があるんだなと驚き、カワサキが用意してくれたスープを口に運ぼうとしたその時だった。

 

「お兄さん、それ売り物? いくらで売ってくれる?」

 

にこにこと笑いながら1人の少女――ガネーシャファミリアのレベル3冒険者象神の詩(ヴィヤーサ)の2つ名を持つアーディ・ヴァルマの姿に俺は思わずおにぎりを噴き出す。

 

「おいおい、大丈夫か? エレン」

 

「大丈夫です?」

 

心配してくれているのは分かるが、違うそうじゃないと言いたかったのだが、咽ている俺は返事を返す事が出来ず、そのまま暫く咳き込んでいて、カワサキとアーディに背中を摩られ違うそうじゃないと心の底から思ったのだが、俺の思いが2人に通じる事はないのだった……。

 

 

 

オラリオの周辺のパトロールを終えて一休みしようと思った所で団員から門の所で料理をしてる人が居ると聞き、見に行ったらオラリオでは珍しい黒髪黒目の目付きの悪いお兄さんが地面に座り込んで鍋をかき回していた。

 

(うわ、あれがあったら絶対便利ッ!)

 

炎を使わずに料理が出来る何かを使っているのを見て、あれがあったら遠征とか絶対便利だろうなと思いながら料理をしているお兄さんの方に足を向けると、お兄さんの前には白い何かが三角に固められた者が大量に並べられていて、お兄さんの隣では財布をスられたと良くガネーシャファミリアに尋ねに来ているエレンの姿もあった。

 

「お兄さん、それ売り物? いくらで売ってくれる?」

 

私がそう尋ねるとエレンが噴き出し、噎せる。

 

「おいおい、大丈夫か? エレン」

 

「大丈夫です?」

 

「げほっ!? ごほっ!?」

 

激しく咳き込むエレンの背中をお兄さんと一緒に摩っていると段々落ち着いてきたのか、もう大丈夫だとか細い声でエレンが言うので再びお兄さんに視線を向けると使い捨て出来る紙のコップをお兄さんが差し出しているので、腰のポーチからサイフを取り出そうと右手を後ろに回すとお兄さんは手を左右に振った。

 

「金はいらねえよ。タダだ」

 

「え? いやいや、悪いよ」

 

ただというお兄さんに悪いと言うがお兄さんは目つきの悪い顔で良い笑顔を浮かべるという器用な事をしながら私の手に紙コップを握らせてきた。

 

「あ、あったかい……っじゃなくて!? これいくらです?」

 

陽は出ているが寒い時期なので思わずほっとしてしまったが、違うと叫んで財布を取り出す。

 

「だからタダだって、こんだけ寒いのに外で待ってるのは誰だって辛い。そうだろ?」

 

「そ、それはそうだけど……でも」

 

「それにだ。俺はオラリオで店でも開けないかと思って下見に来たんだ。店を開いた時の為の先行投資って事で受け取ってくれよ」

 

「う……そ、それじゃあ遠慮なく」

 

どうやってもお金を受け取ってくれる雰囲気では無かったので紙コップを受け取ると白い湯気が目の前に広がる。

 

「熱いから気をつけろよ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

熱いから気をつけろと言われて息を吹きかけて、良く冷ましてコップを傾けてスープを口にする。馴染みの無い香りと濃厚な旨み、そして冷えた身体を温めてくれるスープに思わず溜息を吐いた。

 

「どうだ? 口に合うか?」

 

「凄く美味しいです! これ何のスープなんですか?」

 

「鶏がらで取った出汁に味付けして卵を落とした簡単なもんさ。手抜きも良い所だ」

 

「いやいや、そんな事無いですよ。凄くお……あ……」

 

手抜きと笑うお兄さんに凄く美味しいですと言おうとした所でお腹が大きく音を立てて、思わず赤面しあっと呟いた。

 

「ははははッ! 腹は素直だな。ほら、これも食え。野郎が握ったもんだから嫌かもしれんが腹は膨れるぞ?」

 

「い、いただきます……」

 

バスケットの中に詰められた黒い何かが巻かれた白い塊を手にする。

 

「これは?」

 

「おにぎりだ。知らないか? おにぎり」

 

「知らないですね……なんです?」

 

「米を握ったもんだ、黒いのは海苔。まあ食べれば分かるだろうよ」

 

食べれば分かる、確かにその通りだと思いおにぎりと頬張るとパリっと言う小気味良い音と共に口の中に米が入ってくる。

 

「ッ! これも美味しいです!」

 

「そうかそうか、良かった良かった」

 

海苔という奴の香りは独特だったけど、米は良く噛むと甘いし、良い塩を使っているのか塩辛いだけではなく、ほのかな甘みもある。

 

「中に焼き魚が入ってるッ!」

 

「鮭を焼いたもんだが、美味いか?」

 

「美味しいです!」

 

本当に美味しかったので地面に座ってゆっくり食べようとするとお兄さんは布を差し出してくれた。

 

「直に座ったら冷えるだろ? これの上に座れよ」

 

「ありがとうございます!」

 

なんて良い人なんだと思いながら渡された布を地面に広げ、その上に腰を下ろし私はバスケットの中一杯のおにぎりに手を伸ばす。

 

「僕も貰っても良い??」

 

「ほら。坊主、くいな」

 

「ありがとうおじさん!」

 

「おじさんって言う年じゃねえんだけどなあ……まぁ良いか」

 

「お前さん、ワシにもくれんか?」

 

「勿論だ。卵スープは熱いから気をつけろよ、爺さん」

 

「ありがとうありがとう」

 

私が美味しい美味しいと言うので、オラリオの中に入れず立ち往生していた人達が次々とお兄さんの所に集まり一気に賑やかになってきた。

 

「うんうん、やっぱりご飯は賑やかなのが良いね!」

 

「分かる分かる。やっぱり、辛気臭い顔して食う飯より、笑顔で食う飯だよな」

 

「だよねー」

 

「……なんでお前らは平然と意気投合してるんだ?」

 

エレンが呆れた顔をしてるのを見て、私はハッとした。エレンは何故自己紹介をしないのかと言っているのだと分かり、食べようとしていたおにぎりを1度おろしてお兄さんに視線を向けた。

 

「私、アーディ。アーディ・ヴァルマって言います。お兄さんは?」

 

「俺か? 俺はカワサキだ。事情があって名はない、カワサキと呼んでくれればそれで良い」

 

知られたくない過去がある人はオラリオには沢山いるので深く問いかけることはせず、私は空になった紙コップをカワサキさんに差し出した。

 

「卵スープおかわりください! カワサキさん」

 

「はいはいっとエレンは?」

 

「……俺も貰おうか」

 

「疲れてます?」

 

「ああ、お前達のせいでな」

 

私とカワサキさんのせいで疲れていると言うエレンに私とカワサキさんは揃って首を傾げた。これが私アーディ・ヴァルマとカワサキさんの最初の出会いなのでした。

 

 

「ベール君♪ 前に助けてあげた時に御礼をしてくれるって言ったよね?」

 

「アーディさん。はい! 僕で出来る事だったらですけど」

 

「うんうん、じゃあね~私カワサキさんの事知りたいなー?」

 

「……それは無理です」

 

「何で?」

 

「僕の命に関わるので!ごめんなさいッ!!」

 

「待ってって! 別に悪用しようって訳じゃ無いから教えてよ!?」

 

「無理です嫌です死んでしまいますッ!!」

 

逃げるベルとそんなベルを追いかけるアーディがこれから7年後のオラリオで度々見られる光景となる。

 

 

下拵え 医神再会/愚者の驚き/カワサキさん炊き出しの準備をするへ続く

 

 




という訳でアーディさん生存ルートに入ります。1番使いやすいといいますか、考えてる流れのところでアーディさんが巻き込まれた自爆テロが私の考えてる話の流れにあうのでそこから入ろうと思います。その前にミアハとか、フェルズさんとかに再会する事になりますが、暗黒期で暴れるカワサキさんの下準備スタートと言う事で、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

  • 間違っている
  • 間違っていない

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