ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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下拵え 黄色い悪魔現る

 

下拵え 黄色い悪魔現る

 

人化の指輪を外してクックマンの姿に戻り、屈伸をしたり、腕を伸ばしたりして体の感覚をしっかりと馴染ませる。

 

「良いかカワサキ。探索系ファミリアと生産系ファミリアを間違えるなよ?」

 

3回目のエレボスからの警告に俺は肩を竦めた。

 

「分かってるって。生産系ファミリアはオラリオでの物資などに関係してるからレベルが低いんだろ? 何度も聞いたから覚えてるよ」

 

「じゃあ生産系ファミリアの名前は?」

 

エレボスの問いかけに俺は少し硬直し、エレボスに言われていたファミリアの名前を思い出す。

 

「ディアンケヒトとミアハとデメテル」

 

「俺の教えた半分以下も覚えてないだろッ!? 本当に大丈夫か?」

 

「それは正直スマンとしか言い様が無いが、1時間にも満たない時間で覚えろって言うのも無理な話だろ?」

 

太陽が落ちてから尋ねて来て、そこから詰め込みで覚えたがやはり無理があると言うものだ。

 

「はぁ……それはすまん。俺も調べ物があったからな、とりあえず武装してる連中を重点的に狙えばいい、標的は基本的に闇派閥だ」

 

「そっちは問題ない、ちゃんと覚えた。タナトス、ルドラ、アパテー、アレクトだ」

 

「良し、それで良い。そいつらが特に凶悪なファミリアだ。タナトスファミリアのヴァレッタ・グレーデ、アレクトファミリアのディース姉妹は特に凶悪だから気をつけろ」

 

「OK、こっちは似顔絵も覚えてるから心配ない」

 

似顔絵が用意されていたのでしっかりと覚える事が出来たのでヴァレッタとディース姉妹に関しては問題はない。

 

「それと俺の眷属のヴィトーもやばいからな。気をつけてくれ」

 

「……お前の眷属もなのか?」

 

「ああ……あいつは様々な物を認識出来ない障害を患っている。それに本人の言動と考えが合致してない」

 

その言葉で大体理解出来たが人格破綻者に近いのかもしれないな、狂人の類と言うのは分かった。

 

「気をつけておく、んじゃあ行ってくるぜ」

 

「ああ、気をつけてな」

 

エレボスに見送られて仮の住居を後にして星と月の光に照らされたオラリオに降り立った。

 

「や、やめて……こ、来ないで」

 

「そうやって嫌がられるのはそそるねぇ」

 

「へっへ……大丈夫だぜ、良くしてやるからなあ」

 

風に乗って聞こえてくる脅えた女性の声と下卑た男の声を聞き、俺は早速アイテムボックスから麻婆豆腐を取り出して両手に持ち、闇夜に紛れて走り出すのだった……。

 

「……大丈夫か?」

 

カワサキを送り出したエレボスは当然と言えば当然だが、カワサキの事を心配していた。見た目がモンスターであり、発見されれば追いまわされることになるだろう、それに闇派閥にカチコミを掛けるというのもリスクの高い行動だ。手段を問わない闇派閥のほうがレベルの高い冒険者が多く、対人に特化している。カワサキの強さをザルド達から聞いていたが、それでもエレボスはカワサキの身を案じていたのだが……。

 

「あ、あぎゃああああッ!?」

 

「か、からっ!? げぶッ! ごばああああッ!?」

 

「い、いだいッ! く、くほとのどぎゃああああッ!?」

 

「はっはははははははッ!! 喰らえ、香辛料の芸術と暴力をッ!!!」

 

麻婆豆腐をぶち込まれたであろう闇派閥の悲鳴とカワサキの高笑いが響いて来て、エレボスは考えるのをやめた……。

 

 

 

 

街中に響く悲鳴に闇派閥の強襲かとファミリアを飛び出した私の目の前に黄色い影が降り立った。その姿を忘れることなど出来るわけもない、7年前にロキとフィンを止める事が出来ず実行されてしまったゼウスファミリア襲撃の際に私達を全滅させたモンスターの姿だったからだ。

 

「お、お前は!?」

 

「あん? ああ、なんだ。お前あんときの……となるとここがロキファミリアか、探してたから丁度良いな」

 

ロキファミリアを探していたと言う言葉に咄嗟に杖を振るうが、それは片手1本で受け止められ私の手から奪い取られてしまった。

 

「止めとけよ、魔法使いが肉弾戦の距離に入られたら終わりだぜ?」

 

杖を投げ捨てられ、咄嗟に腰に差していたナイフを抜いて構える。

 

「襲撃だッ! ホームへの進入を許すなッ!!」

 

私の声にホームの中が一気に慌しくなるが、本音を言えば7年前ですら勝てなかったこのモンスターを相手に勝てるわけが無いと戦う前から心が折れ掛けていた。2年ほど前からやっとロキファミリアにも正規の団員が入る事があったが、それも1年の間に1人か2人だ。そもそもが7年前の襲撃事件で名声も地位も失った規模が大きいだけのファミリアに進んで入ろうとする団員がいるわけも無く、仮入団で一定の期間を過ごせば皆別のファミリアに移籍してしまう……それでも団員の育成をしないわけには行かず、フェルズとウラノスの厳しい面談を受けながらもファミリアを維持する為に頑張るしかなかった。

 

「私は7年前ロキとフィンを止めれなかった。今でもあの時ロキとフィンを止めれなかった事を悔いない日はない」

 

「へえ、あーあんとき殴りつけて動かなくなったから気絶したと思ったんだけどな」

 

「生憎だが意識はあったさ。とは言え殴られた衝撃で脳震盪を起していて指1本動かせなかったがな」

 

襲撃を止める事が出来無かったが、私達が優勢になれば交渉に持ち込もうと思い同行していたが、結局何も出来ず、私を崇拝するエルフに連れられて戦線を離脱する事になってしまったがな。

 

「ま、お前の都合は俺にはどうでもいいんだが、あのアホ女神に俺は用があってな。そこを通してくれ」

 

ロキに用があると言ったモンスターの前に私は立ち塞がった。

 

「やっとここまで建てなおしたんだ。ファミリアを潰される訳には行かない」

 

主神を失うという事は恩恵を失い、ファミリアが壊滅することを意味する。それを許すわけには行かない、私には守るべきものがあり、それを守る為には勝てないと分かりながらもこのモンスターに挑む以外の選択は無かった。

 

「悲壮感を出してるとこ悪いが、お前達のファミリアが力を失ったのは自業自得つうんだよ」

 

一瞬で間合いを詰めてきたモンスターに駄目元で振るったナイフを簡単に受け止められ、力が込められた事でナイフが手から零れる。

 

「まぁ、そんなに心配すんなや。別にお前達のファミリアを潰す気はないからよ、まぁレベルアップできてないみたいだし、其れ相応のペナルティは受けてもらうけどな」

 

「な、何を……むぐっ!?」

 

口の中に何かを捻じ込まれ、一瞬毒かと思ったが口の中に広がったのは味わった事のない甘みと強烈な眠気だった。

 

「な……なにをし……た?」

 

「さてね。あとで仲間にでも聞いてみると良い。7年もレベルアップしなかった事を悔いるんだな」

 

モンスターの言葉を聞きながら私は冷たい道へ倒れ込み、完全に意識を失うまでの僅かな時間で怒号と悲鳴、それだけが私の耳に響き続けるのだった……。

 

 

 

 

ホームに響く怒号にうちはついに闇派閥に狙われたかと最後の時を覚悟した。7年前のゼウス・ヘラの追放を狙っての戦争遊戯は今思えば間違いであったと思う。だがあの時はあれが最善だと思ったんや、いや、最強を欲しいままにしてるゼウスとヘラが羨ましくて、妬ましくてしょうがなかったんや。  確実に勝てる勝負を挑み、そしてその結果が1体のモンスターに殲滅され、ウラノスとフェルズからの余りに重い枷と莫大な罰金。 そして新規入団の団員を認めないという数多のペナルティだった。 だがそれだけではない、うちとフレイヤを仲間と考えてくれる神はおらず、そしてオラリオの住人に嫌悪される眷属達にうちの間違いを思い知らされた。 仮初の最強の称号の変わりに得たのは余りに重い罪科だった。7年掛けてやっと少しずつ信用を取り返し始めたが、それが今消し去られようとしている……。

 

「どうすればいいんや」

 

とは言え執務室にいる以上脱出も困難であり、そしてここまで突破された段階でフィン達も無力化されたことを意味しており……。

 

「詰みか……」

 

完全な詰みになっていると気付き、溜息を吐いた時執務室の扉が開かれ、入ってきた者にうちは息を呑んだ。

 

「よう、アホ女。久しぶりだな」

 

7年前にうちとフレイヤに協力したファミリアの団員全てを打ちのめしたモンスターがうちの前に立っていて、ひゅっという声が漏れた。

 

「そんなに脅えることはないだろ? 俺は別にお前を殺しにきた訳じゃない、ただ事実を伝えに来た。それだけだ」

 

「じ、じじつ?」

 

鸚鵡返しに尋ねると黄色いモンスターは頷き、うちに指を2本向けてきた。

 

「レベルアップとまでは言わないが、経験値を得ていない冒険者にはそれ相応のペナルティを負って貰う。これは経験値を集めない限りは消え去らないペナルティだ」

 

「う、うちの眷属に何したんやッ!」

 

それ相応のペナルティと聞いて思わず声を荒げるが黄色いモンスターはそれに何の反応も示さなかった。

 

「殺しはしていないし、毒や呪いを掛けた訳じゃない。まぁある意味男と女にとっちゃあ最悪の呪いではあるが、体に害はない」

 

「だから何をしたんやッ! 事と次第によっちゃあ送還されてもええッ! お前と戦うでッ!」

 

下界にいる限り無能な神である、それが神が下界に下りる条件だからだ。だがそれでも眷属に何かあったのならば親として守る義務がある。

 

「それだけ啖呵を切れるなら、7年前になんであんな阿呆な真似をしたんだか……まぁ良い。教えてやる、経験値が増えない限り、男は禿げちらかし、女は際限なく体重が増えるペナルティを課した」

 

「は?」

 

「殺す気はないし害を与えるつもりもない、だが良い嫌がらせだろ? それと2つ目だが、もう少し本気になれよ。『7年も経ってレベルアップしてないとか無能が』『ワシらを追い落とそうとした気概を見せて奮起しろ』……だ、そうだ」

 

「そ、それは!? あんたを送り込んだのはゼウス達なんか!?」

 

「いや、オラリオに来たのは俺の意思だ。そもそもゼウスの爺さん達とはもう何年も会ってない訳だが……まぁ良い、ちゃんと伝えたぞ。俺はお前みたいな女は嫌いなんだ、これ以上話すつもりも問答するつもりもないがお前にもペナルティを背負ってもらうとしよう」

 

そう言って黄色いモンスターは小さな菓子を取り出したのを見て、思わず後ずさった。

 

「経験値が増えれば肥満は解除される。では経験値を得られない神はどうなると思う?」

 

にちゃあ…と音が聞こえてきそうな笑みを浮かべる黄色いモンスターから逃げようにも、モンスターが出入り口を押さえているので逃げる事も出来ない。

 

「普通に太る?」

 

「YESであり、NO。これ1つで10キロ増える、そして10個お見舞いする、OK?」

 

「駄目に決まってるやろ!?」

 

1個で10キロ、それが10個で100キロなんて冗談ではない。

 

「なんだ我侭だな」

 

「我侭ちゃうわ! 乙女や……もがッ!?」

 

文句を言った瞬間に弾かれたお菓子が口の中に飛び込み反射的に咀嚼してしまった。めちゃくちゃ美味かった、美味かったが……。

 

「まず10キロお見舞いな」

 

「あああああ~ッ!!」

 

10キロ増えたと言われ嘘だと思ったが不変である筈の神の肉体が変化していた。

 

「話し合いの余地は」

 

「ない、ではダイエット地獄へご案内しよう」

 

「イヤやあああッ!!!」

 

なんとか暴れ回り、食べさせられないように抵抗するが、それでも追加で3個は食べてしまった40キロ増えたという現実に絶望する。

 

「ちっ、もう少しお見舞いしてやりたかったが、時間を掛けすぎたか。さらばだッ!」

 

外から響いて来る怒号が執務室の窓をぶち破って外へ飛び出して行く黄色いモンスターを追うが、その姿は闇夜の中へと既に消えていた。

 

「男は禿げて、女は太るってどんな嫌がらせやッ!?」

 

執務室を飛び出たうちは頭頂部が光っているフィンの姿を見て絶句し、オラリオ中に響く悲鳴にハッとなった。

 

「ま、まさかあ!?」

 

男は禿げる、女は太る何かをあの黄色いモンスターがばら撒いていると気付いたうちは動ける団員を探したのだが……。

 

「なんちゅう地獄絵図や……」

 

少し丸々としている女性団員や髪が抜け落ちている男性団員の姿にうちは言葉を失うのだった……あと翌朝40キロ増えてぶよぶよになっていた自分に絶望してホーム内での必死のダイエットを始める事になるのだが、元の体重に戻ったのは○ヵ月後だった……。

 

目に付いた闇派閥の団員殆どに麻婆豆腐をぶち込み、レベルアップをしていない探索系のファミリアに禿と肥満が付与されたマカロンを文字通りシュートし続けていたカワサキは太陽が昇るころにエレボスの待つ拠点に戻って来た。

 

「かなりやってきたぜ。エレボス」

 

「少しやりすぎじゃないか?」

 

「そうかぁ? でもゼウスの爺さんとヘラの所の連中が襲撃してくるよりマシじゃないか?」

 

「……それと比べると判断に悩むな」

 

オラリオ中に撒き散らされている号外、それには男を禿にし、女を太らせる何かをばら撒く黄色いモンスター出没とでかでかと書かれていた。

 

「……まぁなんとかなるだろ。ザルドとアルフィアより弱い相手に捕まるわけないからな」

 

「カワサキ。お前結構考えているように見えて何も考えて無いだろ?」

 

「俺はいつだって行き当たりばったりだ。そこで出来る限りの最善をするだけだよ」

 

オラリオに危機感を与えるという目的の第一段階は成功したが、これでは次は難しいかとエレボスは考えていたのだが……。

 

「しゃっ! おらああッ!!!」

 

「追え! 追うんだッ!!」

 

「なんなんだあいつはああッ!!!」

 

ある夜は中華鍋をボードにしてオラリオ中を駆け回り、壁を利用して反対側に飛びながら指で弾いたマカロンを口へとシュートするという曲芸を披露しながら、次々とオラリオ中の冒険者に禿と肥満の呪いを付与して回るカワサキ。

 

「はっはははははは! 喰らえ香辛料の芸術をッ!!」

 

「あがああああッ!?」

 

「クソ来るな来るな来るなアアアアアアああぼおぼおおおッ!!!」

 

「はっはーッ! たんと召し上がれッ!!」

 

そしてまたある夜は両手に麻婆豆腐を持ち、信じられない速度で闇夜を疾走するカワサキの姿を捕捉できる者は誰1人として存在せず、麻婆豆腐を流し込まれた神や眷属は意識を完全に失いオラリオのあちこちで倒れているという地獄絵図となっていた。

 

「俺が食わせた菓子は経験値を取得しなければ女は太る、男は禿げるという効果が付与された物だ。 そしてこれは経験値を獲得するまで解除される事はない。飯を食おうが、食わなかろうが、経験値を得るまでは決して体重は落ちないし、抜けた髪も元には戻らないッ!!」

 

「「「は、はぁあああああ!?!?」」」

 

スイーツを口に押し込まれた女の冒険者達は悲鳴を上げながら腹を摘んで絶望し、男は指の間にはさまる大量の髪の毛に絶叫した。

 

「冒険者たる者が冒険しないなど恥を知れ! 元の自分に戻りたければ精々経験値を取得し、研鑽を怠らない事だ! ではまた会おう!!」

 

そして翌日から必死の表情でダンジョンに潜る冒険者の姿が多数目撃され、その中にはリヴェリアやガレス、そしてフレイヤファミリアの炎金の四戦士や白妖の魔杖の姿も見られるのだった……。

 

 

メニュー18 豚汁へ続く

 

 




というわけでオラリオで大暴れしているカワサキさんでした。カワサキさんの存在はオラリオのトラウマとなりましたね。中華鍋をスケーボーみたいにして疾走するカワサキさんとマーボーを両手に持って走るカワサキさんの姿は夜見ればトラウマ不可避ですね。次回は料理回で炊き出しと言えばこれの豚汁で行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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