ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー19 カワサキさん豊穣の女主人にヘ行く その1

 

メニュー19 カワサキさん豊穣の女主人にヘ行く その1

 

俺は目の前で出かける準備をしているカワサキに思わず本気かと問いかけた。

 

「本気だぞ? 招待されたんだ。出掛けるのは当然だろ?」

 

「だとしてもだ。豊穣の女主人はフレイヤの手が掛かっているんだぞ?」

 

豊穣の女主人の店主のミアは元フレイヤファミリアの団長だ。それに従業員の多くも後ろめたい事がある者が多い上に、エレボスとフェルズに直談判し冒険者を休業している者もいる……闇派閥ほどでは無いが、カワサキが行くには些かリスクがあり過ぎる場所だ。

 

「話を聞く限りだとミアだったか? あいつも俺と同じ考えみたいだし、連日で暴れまわると疑われる可能性があるからな。1度間隔を開けるのはありだろ?」

 

「それは……そうだが……」

 

夜の度に菓子やマーボーを持ってオラリオを疾走するカワサキは冒険者にもギルドにも、ファミリアにも目を付けられている。ギルドは事情を知っているので形式上だが、カワサキを狙うものは大勢いるので1度間を空けるのは名案だとは思うが……。

 

「よりによって豊穣の女主人に行くことはないだろう? 飯が食いたいなら良い店を俺も知っているぞ?」

 

豊穣の女主人で無ければ俺もいけば良いと言えるが、豊穣の女主人は駄目だ。あそこには神である俺でも得体の知れない給仕がいるし、カワサキと亜人の姿のカワサキを繋げて考えている者もいるかもしれない、狭い店内に誘い込まれる可能性がある以上やはり賛成は出来ない。

 

「ミアはゼウスの爺さんとヘラを探して1人でやってきて、ずっと頭を下げ続けていた。そういう面では信用出来る相手だと俺は思う」

 

「何? そうなのか」

 

「ああ。最初は門前払いだったが、何度も尋ねてくるんでゼウスの爺さん達が折れて、二言三言話して帰って行ったぞ」

 

フレイヤ達の暴走を止めれなかった事を謝罪しに来るような相手だ。怪しいと思っていても直接手を出して来る事はないと俺は考えているというカワサキに俺はもう何を言っても無駄だと分かり、深い溜息を吐いた。

 

「……余り深入りするなよ?」

 

「分かってる、オラリオの料理人のレベルを見て、二言三言話したら帰るよ」

 

外套を羽織り、帽子を被って家を出ようとしたカワサキが思い出したように足を止めて振り返った。

 

「ソーマファミリアだったか? アリーゼに聞いたんだが、闇派閥予備軍らしいな。明後日潰しに行くからな」

 

「ソーマファミリアは主神のソーマが酒造りに没頭していて団員の暴走を許しているが闇派閥と言う訳ではないぞ?」

 

「関係ないな、俺がむかついたから潰す。それだけだ、文句あるか?」

 

カワサキにはカワサキの決めたルールがあり、そのルールをソーマが破り、カワサキの怒りを買った。完全に目が据わっているカワサキを見て俺は溜息を吐いた。

 

「お前に任せる。ソーマファミリアを正常化出来るのならば、他のファミリアも調べておく」

 

「おう、頼んだ」

 

ソーマファミリアのように主神が主神として活動できていないファミリアはかなりの数がある。その中でも危険な、闇派閥予備軍を調べておくというとカワサキは手を振りながら今度こそ家を出て行った。

 

「切り札ではあるが、俺には御せるとは思えんな。いや、ゼウス達でも無理か」

 

カワサキは温厚であり、善人と言える。だがその胸に秘めた苛烈さはどんな者でも制御できる者ではない、文字通りの鬼札ではあるが、カワサキの怒りを買えばその力は俺自身にも向けられると改めて実感した。

 

「俺は俺のやるべき事をやるか」

 

とにかく今俺がやるべき事は闇派閥予備軍のピックアップ、そして団員の暴走によってファミリアを追い出されているであろう主神の居場所を特定するために俺は闇夜のオラリオへ一歩踏み出すのだった……。

 

 

 

 

 

エレボスには止められたがオラリオでも評判だという豊穣の女主人には俺も興味があった。そこにシルとアーニャの誘いがあったので渡りに船と豊穣の女主人へ来たが……。

 

「中々良い面構えの店だな」

 

見た感じは大衆食堂という感じの酒場だ。だがその店の前に立てばその店がどんなもんかと言うのは大体予想が付く、そして俺の勘ではこの店は当りだと一目で分かった。

 

「いらっしゃいませ……思ったよりも早かったですねカワサキさん」

 

店の中に入るとシルが俺を見て驚いたような表情を浮かべながらそう尋ねてくる。

 

「時間をずらしたつもりではあるんだがな……人気店というのを甘く見ていたな」

 

大分時間はずらしたつもりだったんだが……まだ豊穣の女主人は随分と賑わっていた。

 

「こちらへどうぞー」

 

シルに案内された席はカウンター席の外れで、他の客からは見えにくい位置だった。

 

(まぁそうなるか)

 

話をしようと言われているんだから他の客の邪魔にならない場所に案内されるのは当然の事だ。机の上のメニュー表を開き、何を注文するかと目を通す。

 

「豆の塩茹でと野菜スティック。それとビール」

 

「すぐにご用意しますね」

 

そう笑って厨房に引っ込むシルの姿を見送り店内を少し観察する。

 

(なるほどなぁ、全員只者ではないと)

 

店員は皆美人だが気配や足運びが一般人のそれではない、武術を納めているわけではないだろうが十分に戦う術を身につけているのが良く分かる。エレボスが余りお勧め出来ないと言った理由が良く分かるという物だ。

 

「はい、お待たせしました」

 

「どうも、次は芋のフライと唐揚げと魚の塩焼き、後は……ミートボールパスタ」

 

「あ、は、はい。分かりました」

 

続けて注文を頼んで運ばれて来た豆の塩茹でに視線を向ける。

 

(皮は剥いてるのか、枝豆とは違うんだな。野菜スティックはタルタルソースっぽいのと、肉味噌……か?)

 

豆は剥かれていて小皿の中、野菜スティックはタルタルソースっぽいのと肉味噌っぽいの……見た感じは普通のおつまみと言った所か。

 

「……んーむ」

 

枝豆のつもりだったので皮を剥かれた豆というのは想像していなかった。塩は確かに効いているが、これじゃない感がある。豆自体は枝豆とソラマメの中間くらいで食べ応えはあるんだが、やっぱり何か違うなと思いながら今度は野菜スティックをタルタルっぽいソースにつけて齧る。

 

(酸味は強めで甘い……クリームチーズか)

 

タルタルと思ったがどうもこのソースはクリームチーズで作った物のようだ。やや酸味と甘みがあり新鮮な野菜の瑞々しい食感とはかなり合っている。肉味噌っぽいのは味噌も醤油もないので完全に見た目だけで、味の感じは甘辛い甜麺醤に似た感じだ。

 

(食材は美味いが調味料はそこまでって感じか)

 

とりあえず食べてみた感じを分析していると次の料理が運ばれてくる。見た目は俺の知る料理と殆ど同じだが……芋のフライはまんまフライドポテトだし、鳥の唐揚げもおかしい所はない、魚は少し小さいがこれも普通の塩焼き、ミートボールパスタもケチャップでは無いが、ミートソースに煮たソースで絡められていて普通にミートパスタって感じだ。

 

(味付けは岩塩か……うん、美味い)

 

岩塩のまろやかな塩味は普通の塩と違って味に丸みを与えてくれる。それに鶏肉は大き目のぶつ切りで食いでもバッチリで、漬け込みの段階でにんにくを使っているのかガツンっとした旨みがある。

 

(ただ醤油が欲しいかな)

 

十分に美味いのだが、醤油が欲しくなる味だ。特に唐揚げはにんにくが効いているので、余計に醤油が欲しいなと思ってしまうが、味としては十分に美味いし、ビールに良く合う味だと思う。

 

(塩焼きは少し魚臭いな……これは鮮度の問題だな)

 

この世界の特有の魚なので俺の知っている魚とは全然違うが、見た目的には鯵に似ているが、鯵ほど旨味も深みもない……。

 

(川魚みたいだな、陸封か?)

 

鯵に似ているがこの淡白な感じは川魚に似ている。多分海が土砂とかで陸封された種類だと思う、やや臭みはあるのは鮮度と食べている物の影響だろうか。

 

「美味い」

 

ミートパスタは文句なしで美味い。このミートソースが素晴しい仕上がりだと思う。

 

(ローリエと……赤ワイン……それと何かの茸の微塵切り……後は……この世界特有のソースか)

 

オリーブオイルににんにくと玉葱の香りを移して、そこから挽肉と微塵切りにした茸を加えて炒めて赤ワインか……このがっつりとした旨味を受け止めるのはやや太めのパスタ……食べているうちに何を使っているのか、どんな味付けをしているのかを考えてしまうのは職業病だなと苦笑し、ビールを飲んで大きく息を吐いた。確かに美味い、この料理人は良い腕をしている。色んな国を見てレストランを回ったが、正直これほど美味い料理は無かったと断言出来る。

 

「どうだい? うちの料理は美味いだろ?」

 

俺の手が止まった所で大柄な女性がうちの料理は美味いだろうと自慢げに訪ねてくる。その声には当然ながら聞き覚えがあった何度もゼウスの爺さん達を尋ねてきた冒険者の声だ。

 

「美味い、確かに美味い。良い腕をしてるな、ミアだったっけか? あんたの努力が分かる味だ」

 

「はっははっ! そりゃそうさ。でもあんたも良い手をしてるよ、料理に命を掛けてる人間の手だ」

 

互いに笑い合うが、俺とミアの間で温度が下がったのは誰の目から見ても明らかであり、賑やかだった店内が一瞬で静まり返るのだった……。

 

 

 

号外で見たとおりの黒髪、黒目の男の手を見てあたしは確信した。この男もまた料理に命を賭けた男の手であると。

 

(多分というか確実に黒……なんだけど)

 

店に入ってきた時の歩き方の癖は昨日店から見た黄色い亜人の物に似ているし、身体に染み付いている調味料の香りからもほぼ同一人物だと確信した。

 

(だけどそれを公表してどうなる?)

 

ダイダロス通りの改革や、孤児や引退せざるを得なかった冒険者に新しい道を示しているカワサキが居なくなった後の事、そしてカワサキの手を見れば最初に考えていたゼウス・ヘラファミリアとの繋がりがあるのかどうかと尋ねるという考えはどこかに行ってしまっていた。

 

(かなり問題は起こしてるが……それ以上に益を出してる。ここは黙るが吉かねぇ)

 

オラリオの冒険者に刺激を与え、そして救われない者を助けている事を考えれば問題は起こしているが、悪意を持ってるわけではないと判断し、あたしは口を閉じることを決めた。

 

「良い腕をしている。噂通りだ、豊穣の女主人は料理が美味いと聞いていて気にはなっていたんだ」

 

「それならもっと早く来ればよかっただろ?」

 

「まぁそれはそうなんだけどな、俺は俺でやりたいことがあったんでね」

 

「ダイダロス通りの炊き出しかい? うちの店員も冒険者も慣れない味だけど美味いって絶賛していたよ」

 

慣れない味っていうのが何なのかはあたしには分からなかったが、ダイダロス通りに住んでる連中全員に振舞えるだけの量を用意しているって言うのには驚いたものだ。

 

「無償でやってるんだろ? なんでまたそんな事をしてるのさ」

 

「飯を食うのは生きる事だからだ。それに子供が腹空かせているのを見るのは忍びない」

 

「だから無償で炊き出しをやって、子供に色々と教えているのかい?」

 

学校のようなものまでこの男はやっているらしい、それに市場の顔役と交渉して子供が作ったパンも販売していると聞く、それだけの知恵と行動力があれば他にもできる事はある筈だ。

 

「俺がやりたいからやってるんだ。それに子は宝って言うだろ? だからあのガキ達が盗みとかしないようにしてやりたいのさ、俺の自己満足だけどな」

 

自己満足……確かにそのとおりだろう、カワサキのやっている事は素晴しい事だと言えるがその行いを偽善という奴は絶対いるし、カワサキに害をなそうとする奴もいるだろう。それを分かってもなお、カワサキは自分がやりたいからと、少しでも子供の助けになりたいのだとその志は素晴しいとあたしもそう思う。

 

「でもそれは偽善って言われるよ」

 

「だろうな。でもそれで良いんだよ、俺は。やらない善よりやる偽善。俺がこうする事でひもじい思いをする奴が減る、それで良いじゃないか」

 

善人なんだろうね、底抜けの善人だ。少なくともやろうと思っても、普通はやらない。

 

(どこかおかしいんだろうね)

 

善人である事が良い事ではない。その行いが正しいとしても、その思いが素晴しく、高潔であったとしても……それが全てに受け入れられるわけじゃない。善人が馬鹿を見る事だってあるだろう、でもそれすらを覚悟してカワサキは炊き出しを行っている。

 

「あんた良い男だね」

 

「どーも、でもあんたも良い女だと思うぜ? ガキ共が言ってた。ミアって人に飯を分けてもらったってな」

 

「捨てるもんを分けただけさ、あたしにはあんたみたいな真似は出来ないよ」

 

面倒を見てる連中がいるからカワサキのようにはあたしにはできない、あたしには守るべきものがあり、それを守るのがあたしの最優先だからだ。でももしもアーニャ達がおらず、十分な資金があればあたしもカワサキと同じことをしていたかもしれないと思う。

 

「それであんたが持ってる珍しい調味料ってなんなんだい?」

 

「ああ。これだ、醤油と味噌」

 

カワサキが自分の鞄から小瓶と小さな入れ物を取り出してカウンターの上に乗せた。

 

「確かに見たことが無いもんだね、これは極東の物なのかい?」

 

「ああ。こっちのほうだと珍しいかも知れんな。俺の料理の味の決め手なんだ、味見してみるか? そのまま舐めるにはちときついが」

 

「させてもらうよ。興味があるんでね」

 

極東の調味料はまずオラリオでは手に入らないのでどんな味がするのか素直に興味がある。醤油を手の甲に出して舐めてみると豊潤な香りと独特の塩辛さが口の中に広がった。

 

「確かに独特な味だね。でも良い味だよ」

 

煮たり焼いた物に塗ったり、かけたりすればそれだけで味にグッと深みの出る調味料だ。

 

「今度はこっちを……なんだいこれは?」

 

「味噌だ。豆を加工して作る調味料だ。そのままなら野菜をつけて食うのがお勧めだ」

 

野菜につけてね、サラダに使うように切っておいた野菜があったので、それを1つ取り味噌をつけて頬張る。

 

「……なるほどね、確かに癖がある。癖があるけど……美味いよ」

 

オラリオでは馴染みのない調味料であり、味に癖があるのも事実だ。だけど確かに美味い調味料だ。

 

「あんた一杯しか飲んでないだろ? ちょいとこれでなんか作って見せてくれないかい?」

 

食べに来た相手に頼む事ではないというのは分かっているが、それでもあたしはこの醤油と味噌でどんな料理が出来るのかというのが気になってしょうがなかった。カワサキは一瞬驚いた表情を浮かべ、残っているビールを飲み干して口を袖口で拭う。

 

「おいおい、良いのか? 俺はあんたの店の従業員じゃないぜ?」

 

「かまやしないよ、料理人としてこの調味料に興味があるんだ。頼むよ」

 

これでどんな料理が作れるのか気になってしょうがないので、無理を承知でカワサキに頼む。それに口では嫌そうにしつつも、顔が喜悦に染まっているのを見て、カワサキが乗り気と言うのは一目で分かった。

 

「エプロンとバンダナを貸してくれ、このまま厨房に入るのはマナー違反だろ?」

 

「よっしッ! ルノア! エプロンとバンダナを持って来ておくれ!」

 

「え、あ……は、はい!!」

 

ルノアにエプロンとバンダナを持ってくるように頼む。普段のあたしなら絶対に厨房に入れたりしないが極東の調味料でどんな料理が出来るのか、そしてこの料理人の手をしている男がどんな料理を作るのかという好奇心をあたしは抑える事が出来なかった。

 

「ミア母さん。持って来たよ」

 

「良し良し、ほら! カワサキッ! 早くこっちに入ってきな」

 

「あいあいっと」

 

エプロンとバンダナをカワサキに押し付け、あたしはカワサキをカウンターの中へと招き入れた。

 

「何を作るんだい?」

 

「簡単なもんだよ。酒飲んでるし、まぁそれでも味は保障するけどな」

 

エプロンを身につけ、バンダナを巻いた瞬間に気配と目付きが変わったカワサキを見て、あたしは理解した。

 

(やりたいからやるっていうのもあながち嘘じゃなさそうだね)

 

料理をしていることとそれを振舞う事がカワサキにとっての全てであり、口では面倒そうにしてながらも目が爛々と輝いているカワサキを見てあたしはそう感じると共に、どんな料理が出てくるのか胸を躍らせるのだった……。

 

 

 

メニュー20 カワサキさん豊穣の女主人にヘ行く その2へ続く

 

 




今回は少し無理な流れだと思いますがミア母さんが醤油と味噌に興味を持ったのでこうなったという事でご理解していただけると嬉しいです。次回は醤油と味噌を使って料理を作ろうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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