ダンジョンで料理人が有名なのは間違っていますか?   作:混沌の魔法使い

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メニュー20 カワサキさん豊穣の女主人にヘ行く その2

 

メニュー20 カワサキさん豊穣の女主人にヘ行く その2

 

豊穣の女主人の店員シル・フローヴァ……神威を押さえ込み人間へと擬態しているフレイヤは厨房で料理をしているカワサキをジッと見つめていた。

 

(見えない、見えているのに、見えない……)

 

私の目は人間の魂の色を見る事が出来る。ひまわりのように鮮やかな黄色でありながら、氷獄のように冷たい青色をしている。朗らかさと冷酷さが入り混じった複雑な魂の色……だがその魂が消えたり、現れたりする。常に魂が変わり続けているカワサキに私は興味を……抱かなかった。

 

(触れてはいけない物ね)

 

直感で感じた。この男に触れてはいけない、触れれば最後自分が破滅すると分かっている相手に触れるほど私は馬鹿ではない。

 

(以前の私なら違ったかもしれないけどね)

 

今こうしてただの街娘シル・フローヴァとしていれるようにお膳立てしてくれたミアやヘルン、オッタルにこれ以上迷惑は掛けられないと苦笑する。ロキと協力してゼウスとヘラに戦争遊戯を仕掛け敗北し、ロキと共に孤立する事になった。眷属達には数え切れないほどの迷惑を掛けたし、今ではやっと少し名声も回復して来たがそれはオッタルの頑張りのお蔭だ。そして何よりも疲弊し、精神を病み始めていた私に代わってフレイヤを演じるから、人間として普通に過ごしてくださいといってくれたヘルンと受け入れる場所を作ってくれたミアには本当に感謝しているし、シルを演じる事で私は私らしさを取り戻す事が出来たと思っている。

 

「まずはちゃちゃっと1品、酒に合うといえばこれだ」

 

「中々手際が良いじゃないか」

 

「酒を飲むのに良いつまみは必要だろ? 味噌と醤油で味付け、みりんとごま油で香り付け」

 

乱切りにした茄子と豚肉だけを調味料で絡めて炒めただけの簡単な料理だ。だがそれなのにその香りは食欲を強く刺激した。

 

「豚肉と茄子と味噌炒めだ。まずは試食だ。ささ、やってくれ、良いよな?」

 

「配っておいて良いも何も無いだろ?」

 

やれやれと肩を竦めるミアも小皿を受け取り、料理を渡された冒険者達もそれを受け取り、私達もそれを受け取って頬張った。

 

「うまっ! なんだこれ! めちゃくちゃうめえッ!!」

 

「んで酒にも合う! くうう……うめえッ!!」

 

「お、美味しいニャー」

 

「確かに凄く美味しいですね。これ」

 

食材を炒めただけ、それなのに信じられない旨味と深みがあった。ワインは合わないだろうけど、酒が欲しくなる味だ。

 

「さてと次だが、次は魚を使うけど良いか?」

 

「かまわないよ、うちにある物は何でも使ってくれて良い」

 

それにあのミアが厨房に入れたという事に別の意味で興味がある。

 

「どんな料理を作るかニャー?」

 

「分かりません、分かりませんけど……多分美味しいと思いますよ。豚汁も美味しかったですし」

 

アーニャと話をしているとルノアが話に入ってきた。

 

「そんなに美味しかった? ミア母さんの料理の方が美味しいと思うけど」

 

「ミア母さんの料理は勿論美味しいニャーッ! でもカワサキの料理はなんか違うと言うか、なんというか。まぁとにかく美味しいニャ!」

 

「ええ、上手く説明出来ないんですけど、美味しいんですよ」

 

ヘルンに負担を掛けているのは分かっている。だけど街娘のシル・フローヴァとして過ごせる時間は私に取っては美の女神フレイヤでいるよりも素晴しいものになりつつあるのだった……。

 

 

 

カワサキの後ろに立って包丁捌きを見ていたのだが、ビールを大ジョッキで1杯飲んでいるとは思えないほどに鮮やかな手並みで魚を切り開いていく。

 

「変わった捌き方だね?」

 

あたし達の魚の捌き方は腹を開いて内臓を取り出す物だが、カワサキは中骨のところで身を切り分け3枚に卸していた。

 

「3枚卸しだ。俺の方では一般的なやり方だ」

 

「なるほどねえ……食べやすそうで良いじゃないか」

 

中骨を取り除いているので大きな骨はないし、1匹で2つ身が準備できるのは実に良いと思うとカワサキの料理を見ているとカワサキは引き出しから毛抜きを取り出して身に刺さったままの骨を抜き始める。

 

「そこの骨まで抜くのかい?」

 

「そっちの方が食べやすいだろ? 俺は子供でも大人でも食べやすい料理を作る事にしてるんだ」

 

「その図体して細かい事に拘るねぇ」

 

性分でなと笑い骨を抜いていくカワサキを見てあたしは正直感心していた。食べる相手の事を第一に考えるその調理は実に丁寧で、それでいて早い。

 

(知識が半端じゃないね)

 

見た目は20代後半くらいだが、料理への知識が半端ではない。あたしと同等かそれ以上の知識をカワサキは持っているようだ。

 

「値段設定は任せる」

 

「悪いね、臨時給金くらいは出すよ」

 

極東の料理人が料理をしているということで興味津々という様子の酔っ払い共を見て、カワサキが次の魚を捌き出している間にシルとルノアを呼ぶ。

 

「特別メニューで立て看板を書いてきておくれ」

 

「分かりました。行こう、シル」

 

「はい、今行きますね」

 

ルノアと連れ立って出て行くシル……いや、アホ女神を見て小さく溜息を吐いた。ゼウスとヘラに戦争遊戯を仕掛けて失脚したフレイヤは目に見えて落ち込んでいて、そして精神的にも病んでいた。そんなアホ女神を見てられなかったオッタルとヘルンに頼まれて人間に扮したフレイヤの面倒を見ることになったけど……。

 

(オラリオに迷惑を掛けてるのは分かるけど、まぁ良い傾向かね)

 

闇派閥の台頭を許す事になったのはロキとアホ娘のせいだが、それでも団長としてはフレイヤに肩入れしがちになってしまう訳だ。

 

「ここで味噌を使うんだが、これを使うぞ」

 

「まさか……稀少な極東の酒を使うのかい?」

 

極東酒は神々にも人気だが尋常じゃなく高い。それを料理に使うというカワサキに正気かと思うが、カワサキは鍋の中に酒を少量入れ、水、砂糖、味噌を加えて味噌と砂糖を溶かしながら加熱し始める。

 

「マジで極東酒を料理に使ってるニャー……」

 

「使って良いとはいいましたけどそこまでしますかね?」

 

極東酒の高さを知っているアーニャ達は不満そうな視線をカワサキに向けるが、カワサキはそれを一切気にせず汁が沸騰し味噌と砂糖が溶けたらそこに捌いていた魚の切り身を入れて蓋をする。

 

「良し、これでOK。味噌煮の完成だ」

 

「それだけなのかい? いや、それだけとは言えない位手間をかけていると思うけど」

 

「食べれば分かる。味が馴染むまで少し待ってくれ」

 

ソースを作り、それで魚を煮るだけ……いたってシンプル、いやシンプルすぎる料理……そう思ったのだが……。

 

「こりゃ美味い。魚の臭みもないし、甘くて辛い……独特な味だが、美味い」

 

「だろ?」

 

とても簡単な料理だ。それなのに思わず呻いてしまうほどの美味さがあった。

 

(これはなんだい……? 美味い、味噌? それとも酒? 分からない、分からないけど美味い)

 

ワイン煮などはあたしも作るが、極東酒を使うのは今までに無かった。極東酒と味噌の組み合わせなのか、魚の臭みも無く、何よりも旨味が塩焼きとフライにするよりもずっと強かった。

 

「うめえ! 酒もう1本!」

 

「兄ちゃん、料理上手いなあ! 俺は魚は好きじゃねぇけど、この味は好きだぜ!!」

 

酔っ払い共も味噌煮に舌鼓を打ち、普段の倍以上に酒を注文してくれてる。

 

「あたしに雇われる気はないかい?」

 

素直に欲しいと思った。料理の知識もそうだが、この人間性が気に入った。うちの店は基本的に女だが、例外的に雇っても良いとまで思えたのでスカウトしたが……。

 

「気持ちは嬉しいが、今は止めとく。ダイダロス通りの孤児共にまだ教えてやらなきゃならん事があるんでね」

 

「そうかい、それは残念だ。気が向いたらいつでも来ておくれ」

 

今はと言っていたのでいつかはチャンスがあると思っていつでも尋ねて来てくれと言うと新しい客が入ってきた。

 

「ミア。飯を頼む」

 

「オッタル……それはかまやしないが、もう少し血を拭ってから来な」

 

また1人で深層までダンジョンアタックをしていたであろうオッタルが店の中に入ってきたが、まだ少し血が残っているオッタルに向かってあたしは濡れ布巾を投げ渡す。

 

「すまない……」

 

「かまやしないよ、ちゃんと身体を拭いてから来な」

 

シッシとオッタルを追い出し、オッタルのための食事の準備をしようとするとカワサキが待ってくれとあたしに声を掛けてきた。

 

「俺にやらせてくれないか?」

 

「あいつは大食いだよ?」

 

「身体を見りゃ分かるさ。ああいう奴にピッタリなメニューを知ってるんだ。俺にやらせてくれよ、醤油を使う料理だからミアも気になるだろ?」

 

「そういうことなら良いよ。見せておくれ」

 

味噌を使った料理は見た。次は醤油で大食漢のオッタルにピッタリなメニューと聞いて、あたしはカワサキにオッタルの料理を任せ、他の注文の品を作り始めるのだった……。

 

 

 

何時ものように深層までソロでダンジョンアタックをし、ミアの所に顔を出して夕飯を食う。ザルド達がオラリオを出てからずっと俺が続けている俺の毎日の鍛錬だ。階層主をソロで何体も倒し、深層に辿り着いたら帰還する。流石に「今は」ソロで深層を冒険する事は出来ないが、いつかはソロで深層を進めるようになる事が今の目標だ。

 

「よう、お疲れさん」

 

「……お前は確かカワサキだったか?」

 

「おう。市場であーっとデメテルだったけか? あいつと一緒に会ったよな。オッタル」

 

気軽い感じで声を掛けてくるカワサキに少し驚いたが、頷くとカワサキはニッと笑った。

 

「とっておきの飯を出してやるからな。楽しみにしていてくれ」

 

ミアが厨房に入れている……それだけカワサキは腕のいい料理人のようだ。水を飲んで料理が出来るのを待ちながら厨房に少し視線を向ける。

 

(……カツレツか)

 

豚肉に衣をつけて揚げた料理であるカツレツを準備しているのを見て、これは期待出来るなと笑みを浮かべる。肉は美味いし、強い肉体を作るのに必要不可欠だ。サクサクの衣とジューシーな肉汁は飯のおかずとして申し分ない。

 

「これな、俺が良く使う調味料だ。お湯に溶かしたりするだけで十分に美味いスープになる」

 

「へえ、それは珍しいね。何の粉末なんだい?」

 

「魚を干して作る鰹節と昆布と小魚と茸だ。これをよく乾燥させてからすり潰して作る、俺は結構これを使うんだ」

 

極東の調味料を使うのか、珍しいなと思って見ているとカワサキはその調味料を鍋の中にいれ、極東酒と砂糖と少量の黒いソースを加えて煮て、その間にカツレツを揚げる。

 

「ちょっと舐めてみるか?」

 

「ああ、そうさせてもらおうか」

 

ミアが鍋の中のソースを舐めて目を見開いた。

 

「驚いたね、凄い旨味じゃないか」

 

「だろ? 気に入ったら分けるぞ? まだある」

 

「貰うよ。これを上手く使うのは難しいと思うけど、良い味だ」

 

ミアと料理談義をしているカワサキは瓶2つほどミアに渡していた。ミアがこれほど絶賛するとは珍しい事だと本当に驚かされる。

 

「よし揚がった」

 

やっとカツレツが食えると思った俺の目の前でカワサキはカツレツを切るとソースの入っている鍋の中に全部カツレツを入れた。

 

「何!? カツレツを煮るのか!?」

 

「ああ。これは煮るのがポイントだ」

 

サクサクのカツレツを何故煮るのだと困惑する。周りの客もミアも驚く中、カワサキは何度もカツレツをひっくり返し味を良く馴染ませると溶いた卵を鍋の中に回し入れ、暫くすると山盛りの米の上に乗せて俺に差し出してきた。

 

「お待ちどうさま。カツ丼だ。俺の地元じゃ米と肉と卵で戦う男の飯の定番と言えばこれだ」

 

甘辛い食欲を誘う香りと、卵の鮮やかな黄色、しかも半熟の卵が煮られたカツレツと米に絡んでいる。見たことも無く、聞いたこともない料理だが見ただけで美味いと分かる。

 

「米と一緒にがっと食ってくれ、それが1番美味い」

 

「……分かった。ありがたく頂こう」

 

フォークを手にして煮られた事でソースをたっぷりと吸ったカツレツを頬張り……俺は丼を片手で持ち上げ、フォークで米を勢い良く掻き込んだ。

 

(なんだこれは……なんだこれは……)

 

たっぷりとソースを吸った衣は甘辛く、そして肉汁の旨味もたっぷりと吸っている。噛み締めると甘みと肉汁が口の中一杯に広がり、そのソースが絡んだ米と半熟卵も思わず呻いてしまうほどに美味い。カツレツだけでは味が濃く、米だけでは味が薄い、だがその全てが混ざると何倍にも美味くなる。

 

「美味いッ! これは美味いぞッ!」

 

食べているのに腹が減ってくる。行儀が悪いと分かってるが、音を立ててガツガツと頬張っていると俺を見ていたカワサキが信じられない言葉を呟いた。

 

「おう、ザルドとマキシムもうめえって言ってたぜ」

 

「そうか、ザル……何っ!? お前はザルドとマキシムに会ったのか!? どこでだッ!?」

 

手にしていた丼をそのままに何処で会ったのかとカワサキに問いかける。客やミア達が絶句しているのが分かるが、俺にはそれ所ではなかった。近くにいるのなら俺は挑みに行きたいと、俺が目指すべき頂に何処まで追いついたのか俺は知りたかった。

 

「3~4年前か、ありゃどこだったっけか……そこまでは忘れたが世界の各地に封印されてる危険なモンスターの調査をしてるとかなんとかであちこち旅をしてるんだとさ、マキシムが……レベル10で、ザルドが9とか言ってたけど、俺は冒険者じゃないからそれが凄いのか凄くないのか全然分からなくてよぉ。そのまま暫く3人で行動してたんだわ。そん時に突っかかってきたオッタルとかいうガキがいるって聞いてたけど、俺が思ってるのより全然でかくて最初分からなかったぜ」

 

……レベル10とレベル9……マキシムとザルドはそこまで高みにいるのか……そうか、そうか……。

 

「感謝する。俺の目標はまだ遙かに遠いと分かった、よりいっそう精進できる」

 

俺もレベルアップしたが目指すべき頂はまだ遠い、それが分かり闘志が燃え上がるのを感じる。

 

「まだ挑みたいって気概があるのか?」

 

「あるに決まっている。俺はあいつらに勝つ」

 

絶対に勝つ、勝ってみせる。7年の間に追いついたのか、それとも更に突き放されているのかも分からなかったが、目指すべき頂の高さがわかったのはありがたい話だった。

 

「美味かった。カツ丼だったか、絶品だったぞ」

 

「喜んでくれて何より、んじゃあミア。俺はそろそろ帰るわ」

 

「あいよ、またいつでも来ておくれ、臨時で雇うよ」

 

ミアからヴァリスの入った小袋を受け取ったカワサキは思い出したように俺に視線を向けてきた。

 

「まあ頑張れ、気が向いたらダイダロス通りにでも顔を出してくれよ」

 

「炊き出しか? 確かにお前の炊き出しは……」

 

カワサキの炊き出しは評判だから顔を出すのも悪くないと思ったのだが、エプロンを脱いでミアにレシピを渡して帰り支度をしているカワサキの続く言葉に俺は言葉を失った。

 

「俺はマキシムとザルドから1本取ったこともあるからよ。少なくとも今のお前よりは強いぜ、オッタル。んじゃなあ~」

 

なんでもないように告げられた言葉だが俺にとっては信じられない、いや信じたくない言葉であり、7年前からずっと続けている深層までのソロマラソンを初めてやめる必要があると思った。

 

「冗談とは思えないね」

 

「ミアもそう思うか?」

 

「思う。料理人だけどあいつ自身かなり強いと思うよ。ま、精々揉んで貰って来な」

 

バンっと背中を叩かれ店を出る。少なくとも今オラリオで俺と真っ向から勝負できる相手はいない、だからひたすらにソロマラソンをしていた。

 

「幸運か」

 

ザルドとマキシムを知っていて、そして俺よりも強いと豪語するカワサキに久しぶりに対等な相手と模擬戦が出来ると思うと、込み上げて来る笑みを俺は抑える事が出来ないのだった……。

 

 

メニュー21 アストレアファミリアへの差し入れ へ続く

 

 




次回は前半はオッタルとカワサキさん。後半はアストレアファミリアとの話を書いて見たいと思います。後は個人的にオッタルみたいなのにはカツ丼が似合うと思ったのでカツ丼を食べてもらいましたが猪人だから共食いじゃない? とかいう突っ込みはなしでお願いします。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

なお

カワサキさんのザルド達より強い発言ですが、身体能力はザルド達が上ですが、対人スキルがカンストしてる分ザルド達がカワサキさんの動きに慣れるまではカワサキさんが強いってなっております。

オラリオにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがいるのは

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